歯牙酸蝕症の予防抑制に関する研究は少なく, 局所的立場からの研究が, アルカリ剤の含嗽, 防毒マスク, 弗化物の歯面塗布、抗酸チューイングガム等がある程度である。そのなかで馬場の抗酸チューイングガムを除いては, 資料を示した研究報告はなく, 文献的に抗酸チューイングガムのみが有効ということになる。そこで, 著者らは, 齲蝕予防の目的で使用されている弗化物の歯牙酸蝕症に対する抑制効果がどうであるか, 抜去歯牙を用い若干の基礎的検討を行なった。
実験はBrudevold酸性弗素燐酸溶液の歯面塗布法により, (1) 歯の表面硬さの変化, (2) 歯の厚径の変化と重量の変化, (3) 酸浸漬による歯面の光学顕微鏡的変化について求めた。教室にて開発した引掻き硬さ試験機により, 弗化物塗布前後の表面の硬さを比較し, 実験装置内で酸溶液を歯牙に1時間噴霧し, 1時間水洗し, Replica採取, その後, 水を浸ませたフォームラバー (5g荷重) にて1時間歯面の摩擦, 水洗後再びReplica採取し, 100時間の実験を行なった。
厚径の変化, 重量の変化は10時間の酸噴霧ごとに, 厚径はマイクロメーター, 重量は化学天秤にて求めた。弗化物塗布は, Brudevold第1法, 第2法により, 酸噴霧1時間毎に, 10時間毎に行なった。酸浸漬による歯の表面の変化については, pH4.0のHCl, H
2SO
4, HNO
3について行ない, 1時間浸漬, 1時間水洗を40時間繰り返し, そのつどReplica採取し, 光学顕微鏡下にて, 歯の表面変化を観察した。
成績は, (1) 弗化物塗布 (Brudevold第1法, 第2法) による歯の表面硬さの変化については第1法塗布の場合, 前値平均146.2, 後値平均172.2で差は26.0, 第2法塗布の場合, 前値平均182.6, 後値平均194.2, 差11.6が認められるが, この間に有意な差はなく, 塗布後硬化があるとは考えられない。 (2) 歯の厚径重量の変化は, 時間の経過とともに若干の減少を示したが, すべての実験条件の間には有意な差は認められず, 弗化物が有効であったとは言えなかった。 (3) 酸浸漬による歯の表面変化は, 各酸により若干の進行速度に差異は認めるが, いずれも5時間位から脱灰像が認められ, 弗化物の有効性を証明することはできなかった。
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