口腔衛生学会雑誌
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24 巻, 4 号
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  • 天野 文枝
    1974 年 24 巻 4 号 p. 267-285
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    唾液上清中には, 口腔細菌をふくむところの唾液沈渣の, 呼吸および乳酸発酵を促進する物質がふくまれており, Hartlesらは, これを“Metabolic factor”と名づけた。このものの活性測定は, 唾液沈渣を用い, 主としてWarburg検圧計による呼吸および生成した乳酸を, CO2-bicarbonate緩衝系で, CO2量として測定する方法が用いられてきた。しかし, この方法は, 操作が煩雑であるなどの欠点をもっているので, 多数試料に用いるには不適当である。
    本研究は, これらの欠点を除いたbioassay法の開発を目的として行なわれたものである。唾液上清材料は, Sephadexゲル濾過によって分画した各フラクションの, 唾液沈渣に対する乳酸発酵促進効果を, Warburg検圧計によって測定し, その高活性を示すフラクションを合したもの, すなわち, “Metabolic factor”としての活性を示したものが用いられた。
    まづ, Streptococcus3種, Lactobacillus4種を用いて, 発育におよぼす影響を検討し, Str. lactisが著しい活性を示したので, 本菌を唾液沈渣に代換し得るindicatorとして用い, 濁度法, 酸度滴定法ならびに, とくに, 寒天平板を用いたpulp-disk法による検定法の諸条件を検討した。
    その結果, pulp-disk法は, 培養時間の短縮, 多数試料を任意の時期まで安定に保存して測定を行ない得る点で, 他の方法より優れており, 多くの試料についてのroutine assayとして適当である可能性が認められた。
  • 歯質耐酸性測定法シリーズIII
    長島 〓
    1974 年 24 巻 4 号 p. 286-314
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    本研究は, 竹内・川崎らの開発した生体歯牙の歯質耐酸性測定のための, いわゆる, Agar plate法を中心とする基礎的問題, とくに, 研摩清掃条件が測定値におよぼす影響を検討するとともに, 歯面からのリン溶出量をAgar plate法の場合よりも増加させた低pH条件による測定方法の開発を目的として行なわれた。
    歯面の研摩清掃条件として, ポリシングブラシ単独の場合と, これに, 浮石末, ジルコニウムシリケート, 炭酸カルシウム基剤またはリン酸水素カルシウム基剤の磨歯剤のいずれかを併用する場合の, 歯面研削の有無および程度を, マイクロビッカースかたさ試験機を利用して測定した。また, ヒト抜去上顎中切歯唇面について, 上記各種研摩清掃を, 連続するAgar plate貼付け (pH4.0, 3分間) の間にはさんだ場合の, リンおよびカルシウム溶出量におよぼす影響を検討するとともに, その一部について, 歯面の形態の変化を電子顕微鏡的に観察した。
    その結果, ジルコニウムシリケートは3~5μ, 浮石末は2~3μ程度歯面を研削すること, 両者は研摩清掃直後のAgar plate貼付けにおける, リンまたはカルシウム溶出量を著しく増加させ, 測定歯面に質的変化を与えると認められたことから, Agar plate法の術式を, 歯面の研摩清掃には炭酸カルシウム基剤の磨歯剤を用い, また, Agar plateの貼付けを3分間ずつ2回行ない, 2回目の試料について溶出リン量を定量するよう改めた。
    さらに, 野外試験の成績から, pH4.0のAgar plate法よりも, リン溶出量を増加させる方向に測定方法を改良することが望まれたので, 乾式不織布を直径6mmに打ち抜き, pH2.5の乳酸・乳酸ナトリウム緩衝液0.05mlを添加して, 歯面に3分間貼付け, 溶出するリン量を定量することを骨子とする, いわゆる不織布法を開発した。本法は, 簡易で精度の高い, 野外研究にも適した方法と認められた。
  • デキストラナーゼおよびリゾチームの協同効果
    井上 昌一, 古賀 敏比古, 森岡 俊夫
    1974 年 24 巻 4 号 p. 315-321
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    既報の如く, Streptococcus mutansm BHT株の形成する人工歯苔をStreptomycs globisporus 1829株由来の溶菌酵素で処理すると, 構成菌体は歯苔内のin situにおいて溶解されるが, 網目状構造物が歯面に残存する。本研究は, この網目状溶解残存物を種々の酵素を用いて処理したのち走査型電子顕微鏡を用いて観察し, 同物質の歯面からの除去の方法を探索するとともに, 残存物質の本態を知る手懸りを得ることを目的とした。
    溶菌酵素処理後に残存する網目状構造物をデキストラナーゼAD-17によって処理すると, 細糸および糸状物の形成する細かな網目構造は殆んど消失し, 輪郭の明確となった短い膜様帯状物の形成する断続的で粗な網目構造のみが残存した。同時に歯面に付着残存している非溶解菌体の数は減少した。一方上記人工歯苔に溶菌酵素と卵白リゾチームとを同時に作用させると, 細糸および糸状物より成る一層の比較的密な網目構造が残存し, 膜様帯状物および非溶解菌体は殆んど認められなくなった。更にこれら3酵素の同時および継続併用によつて人工歯苔は殆んど完全に歯面より除去された。デキストラナーゼP, トリプシンおよび核酸分解酵素は無処理および溶菌酵素処理歯苔の構築に対しても何の影響も与えなかった。
    以上の結果をもとに, 溶菌酵素との併用によってデキストラナーゼAD-17および卵白リゾチームが示す歯苔除去作用の機作ならびに溶菌酵素処理後に認められる網目状溶解残存物を形成する物質の本態について考察した。
  • 古賀 敏比古, 井上 昌一, 寿 武一郎, 森岡 俊夫
    1974 年 24 巻 4 号 p. 322-331
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    Streptomyces gloebisporus 1829株由来の溶菌酵素に対する病原性歯苔細菌10株の蔗糖培養菌体の示す感受性について検討し, 各菌株の形成した人工歯苔を溶菌酵素処理して生じた変化を走査電子顕微鏡を用いて観察した。
    5%蔗糖加Brain Heart Infusionブロース中で培養して得られた菌体の本酵素に対する感受性を菌体浮遊液の濁度の減少を指標として検討した結果, 高位から順にStreptococcus mutans BHT株>Lactobacillus casei ATCC 4646株>Streptococcus sanguis ATCC 10557株>Actinomyces viscosusT6株》S. mutans AHT株≒IB株≒P4株≒B14株≒Streptococcus salivarius HHT株》S. mutans K1R株であった。蔗糖培養菌体はそれぞれのグルコース培養菌体に比べて低い感受性を示した。
    各被験菌株を上記培地中で37℃4日間静置培養すると入のエナメル質小片上に菌付着物が粘着・形成された。この人工歯苔形成能の最も強いものはK1R株, 最も弱いものはBHT株, S. sanguisを除く連鎖球菌の各菌株はこの中間の形成能を示した。尚, S. sanguis, L. caseiおよびA. viscosusの歯苔形成能は極めて弱く, 個々の菌体が歯表面に散在・付着したにすぎなかった。
    これらの人工歯苔を溶菌酵素で処理すると菌体は歯苔内のin situにおいて溶解され, 細胞は固有の形態を失い不定形集塊から膜様帯状物を経て細糸状物質となり, これらが絡み合った網目状 (BHTおよびHHT株) ないしは蜂巣状窩洞またはスポンヂ様窩洞 (その他のS. mutansの各株) を示す溶解残存像が認められた。このような変化の強弱はそれぞれの菌株の示す溶菌酵素に対する感受性に大略対応した。
  • 貴志 淳
    1974 年 24 巻 4 号 p. 332-363
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    歯周疾患の予防あるいは治療に, 日常の習慣として使われている歯磨剤および歯ブラシを用い, 歯周疾患の予防・治療に効果があると思われる3薬物をそれぞれの歯磨剤中に添加し, その3歯磨剤の効果について比較・検討した。
    研究対象ならびに研究方法としては, 健康な成人女子を選び, その中の20名にはTranexamic acid (Trans-4-aminomethyl cyclohexane carboxylic acid) を, 19名にStearylglycyrrhetinate, また20名にはα-amylaseをそれぞれ添加した歯磨剤を1ヵ月間, 連続使用させた。そして, 7日間おきに5回, 歯周組織の健康診断を行ない, 自覚的ならびに他覚的症状の変化を観察した。
    その結果, 歯肉炎症の軽減, 歯肉の出血, 歯肉腫脹の消退および歯牙動揺感の消失にはTranexamic acid添加歯磨剤が, 口臭の除去および口腔内不快感の消失には, Stearylglycyrrhetinate添加歯磨剤が, ともに特長ある効果を示した。しかしα-amylase添加歯磨剤は前記の2歯磨剤に比較して, 特長ある効果を認めなかった。
    以上の結果からみて, Tranexamic acidは歯肉疾患予防歯磨剤として, またStearylglycyrrhetinateは口臭除去歯磨剤として, それぞれの効果を期待できるものである。
  • 大杉 利幸, 柴田 治雄, 井上 昌一, 森岡 俊夫
    1974 年 24 巻 4 号 p. 365-372
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    Straptomyces globisporus1829株由来の溶菌酵素は齲蝕原性連鎖球菌をはじめとしてその他の歯苔細菌に対して広く強い溶菌活性を有することは既に報告した。本研究においてはStreptococcus mutansを接種したハムスターの歯苔の形成ならびに齲蝕の発生を本酵素が抑制しうるかどうかについて検討した。
    ストレプトマイシン (1mg/ml) 耐性のS. mutans AHT-RまたはK1-R株を口腔内に接種した平均体重47~51gのgolden hamster (NIH strain) を齲蝕誘発性飼料#2000またはこれに0.025または0.1% (重量比) の割合に溶菌酵素を添加した飼料で飼育した。AHT-R株では34日間, K1-R株では30日間飼育したのち実験を終了し, 上下顎臼歯部の歯苔の形成量, 齲蝕の発生ならびに歯槽骨の吸収の程度について, それぞれ評価した。
    AHT-RまたはK1-R株を接種したハムスターを飼料#2000で飼育すると, 臼歯周囲に多量の歯苔が形成され同時に著明な齲蝕ならびに歯槽骨吸収が生じた。各臼歯の齲蝕感受性はM1<M2<M3の順で高かった。尚両菌株を接種していない対照群では歯苔形成ならびに齲蝕および歯槽骨吸収の発生は殆ど認められなかった。0.1%の割合で飼料に添加した溶菌酵素は, 両菌株による齲蝕の発生を統計学的に有意の差をもって抑制し, 同時に歯槽骨吸収ならびに付着歯苔量をも著明に減少させた。
  • 米満 正美
    1974 年 24 巻 4 号 p. 373-385
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    Calculus Splintを夜間だけ1週間装着した場合のCalculus Splint下の菌相の変化を調べた。
    Urease活性能をもつStr. salivariusが有意に減少し, 歯周疾患の病原菌と目されるGranular Organism (A. viscosus) が有意に増加した。
    また沈着物の乾燥重量は有意に減少した。う蝕原性菌であるStr. mutansは装着前後ともViable Countできなかった。従ってCalculus Splintの下で解糖細菌層が増えても, 歯垢中にStr. mutansは定着せず, う蝕に罹患する心配は先ずないものと思われる。
    10% Glucose溶液で含嗽させて経時的にStr. mutansのTotal streptococcusに対する比率を調べたところ, 3〓3/3〓3の唇舌側平滑面ではStr. mutansは稀にしか検出できず, 含嗽による著明な変化は認められなかったが, 臼歯部小窩裂溝では, 含嗽後5~15分でその比率は最高に達し, 30分で急激に減少し, 60分では元に戻る傾向を示した。
  • 歯質耐酸性測定法シリーズV
    川崎 徹, 竹内 光春, 天野 文枝
    1974 年 24 巻 4 号 p. 386-390
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    歯質耐酸性を生検法によって測定する場合に, その前に摂取した食品やフッ化第一スズ添加磨歯剤 (SnF2磨歯剤) の使用の測定値に及ぼす影響を研究した。
    biopsyの方法は, 竹内・川崎により開発された, いわゆるAgar plate法で, pHは4.0であり, 事前研摩は炭酸カルシウム基剤の磨歯剤を用いた。測定部位は上顎中切歯唇面である。
    成人8人について, 測定直前に摂取した水あめ, キャラメルは危険率1%で, みかんは同5%で, 摂取直前の測定値に比べ有意にリン溶出量の増加が認められた。しかし, この影響はやがて回復すると推定されたので, biopsyは, 食事直後は避け, 食前, 食間に行なえば差支えないものと考えられた。
    次に, 小学校第5学年児童の6人 (A群), 34人 (B群) について, 調製して間もないSnF2磨歯剤 (Fとして1,000ppm) 使用の影響を検討した。
    SnF2磨歯剤3分間使用直後の値 (A群) は, 使用直前の値に比べ危険率5%で有意にリン溶出量の低下が認められた。
    毎日1回3分間, 3日間, SnF2磨歯剤を使用し, 第4回目に測定した値 (B群) は, 使用前の値に比べ, 危険率1%で有意にリン溶出量が減少した。
    SnF2磨歯剤は, 現実に使用されるまでには日時の経過にともないFイオンの活性が低下してくることがあり得るにしても, biopsyの値の解釈のさいには, フッ化物添加磨歯剤の使用の有無を考慮しておくべきと考えられた。
  • Ethylenediamine tetraacetic acid (EDTA) による崩壊過程
    白石 立夫
    1974 年 24 巻 4 号 p. 391-402
    発行日: 1974年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    著者らの研究グループが計画している歯質崩壊実験の一環として, 酸性域でのEDTAによるエナメル質の崩壊過程を連続的に観察した。実験方法は, 石井, 吉田, の考案したsandwich methodに準じたが, その概要は, 次の通りである。約30μの平行薄切片を, スライドおよびカバーグラス間に, エナメル質表面のみ露出させた状態で, 接着剤 (Polyvinylmethylether) を用いて接着し, このエナメル質表面に, 脱灰液を作用させ, 生ずる変化を顕微鏡下で連続的に観察するものである。脱灰液としては, 0.01M EDTA 2Na溶液 (pH4.8) を用い, 流通速度は約1mm/5minである。生づる変化過程を位相差顕微鏡で観察し, 且つ記録は16m/m自動微速度撮影装置でおこなった。一方, エナメル質内層における崩壊patternを有機酸脱灰の場合と比較するために, 1/10N酢酸酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.0) を用いて前記と同様脱灰した。両者ともに脱灰後の切片についてcontact-法により, microradiogramを撮影した。結果の要約は次の通りである。
    1) エナメル表層における, attack-entryとしては, 1~2μ幅の小細管, Retzuis線末端および一部の小欠損部をあげることができる。これは, 既に報告した酢酸脱灰の場合と同じである。
    2) 崩壊の広がり方は, 酢酸脱灰に比べるとかなり急速である。
    3) 崩壊の程度も, 酢酸脱灰に比べると遙かに強い。そのためprismless layer, 又はRetzius線等は, 崩壊patternに, ほとんど影響を及ぼさない。且つ歯質の再石灰化機構をもかなり損傷することが推測された。
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