本研究は, 竹内・川崎らの開発した生体歯牙の歯質耐酸性測定のための, いわゆる, Agar plate法を中心とする基礎的問題, とくに, 研摩清掃条件が測定値におよぼす影響を検討するとともに, 歯面からのリン溶出量をAgar plate法の場合よりも増加させた低pH条件による測定方法の開発を目的として行なわれた。
歯面の研摩清掃条件として, ポリシングブラシ単独の場合と, これに, 浮石末, ジルコニウムシリケート, 炭酸カルシウム基剤またはリン酸水素カルシウム基剤の磨歯剤のいずれかを併用する場合の, 歯面研削の有無および程度を, マイクロビッカースかたさ試験機を利用して測定した。また, ヒト抜去上顎中切歯唇面について, 上記各種研摩清掃を, 連続するAgar plate貼付け (pH4.0, 3分間) の間にはさんだ場合の, リンおよびカルシウム溶出量におよぼす影響を検討するとともに, その一部について, 歯面の形態の変化を電子顕微鏡的に観察した。
その結果, ジルコニウムシリケートは3~5μ, 浮石末は2~3μ程度歯面を研削すること, 両者は研摩清掃直後のAgar plate貼付けにおける, リンまたはカルシウム溶出量を著しく増加させ, 測定歯面に質的変化を与えると認められたことから, Agar plate法の術式を, 歯面の研摩清掃には炭酸カルシウム基剤の磨歯剤を用い, また, Agar plateの貼付けを3分間ずつ2回行ない, 2回目の試料について溶出リン量を定量するよう改めた。
さらに, 野外試験の成績から, pH4.0のAgar plate法よりも, リン溶出量を増加させる方向に測定方法を改良することが望まれたので, 乾式不織布を直径6mmに打ち抜き, pH2.5の乳酸・乳酸ナトリウム緩衝液0.05mlを添加して, 歯面に3分間貼付け, 溶出するリン量を定量することを骨子とする, いわゆる不織布法を開発した。本法は, 簡易で精度の高い, 野外研究にも適した方法と認められた。
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