口腔衛生学会雑誌
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32 巻, 5 号
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  • 館 正知
    1983 年 32 巻 5 号 p. 434-438
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
  • 郭 敬恵
    1983 年 32 巻 5 号 p. 439-457
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    歯と顎骨の不調和 (tooth todenture base discrepancy) の齲蝕の発生に対する病因性を検討するため, 歯頸部齲蝕をとり上げ, 4つの異なる資料を用いて検討し, 総合的な評価を試みた。
    1. 矯正治療のため早期抜去された若年者の歯の調査では, 歯と顎骨の不調和がある個体の歯頸部に高い頻度の脱灰像が認められ, しかもこれらの脱灰像がエナメル質の初期齲蝕像である可能性が大きいように思われた。2. 歯頸部齲蝕の多発がみられる臨床患者の調査では, 患者のtotal diiserepancy (負の値として表現される) の平均値が一般集団のそれと比べて有意に低いことが確認された。3. 青年期の一般集団の口腔模型の調査では, 歯頸部齲蝕の発生と歯と顎骨の不調和の独立性が棄却され, 両者の間に高い関連があることが知られた。4. 後期縄文時代から現代まで各時代の日本人古人骨および生体についての調査では, 各時代における歯頸部齲蝕の頻度には, 他の齲蝕と共通の推移がみられた。また, 齲蝕の発生要因としては, 縄文時代には, 口腔内環境汚染が主導的な役割を果していると考えられたが, 中世にはdiscrepancyの影響が優位になることが知られた。これに対して, 現代人の歯頸部齲蝕は両者の複合型であるように思われた。
    以上のことから, 歯と顎骨の不調和は歯頸部齲蝕の発生の内部要因の1つであると考えることができるように思われた。
  • 西原 圓一朗
    1983 年 32 巻 5 号 p. 458-463
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    筆者はKoulouridesらの装置4) を改良考案したヒトロ腔内装置を用い, 3%砂糖および3%C-S.Cによる歯垢深部の形態を検索した。その結果, 1) 両甘味剤間で形態的に差異を認める。2) 被検者が変っても1) の差異は同傾向を示す。3) 装置よりメッシュを取除いた方がより直接的な口腔環境の結果をつかみ得る。事等を報告2, 3) している。しかし, 市販のキャンデーやヌガーには70%前後の糖含有量のものがある1)。そこでこの報告は, 70%の糖濃度を用いて, 前報8) と同様の実験を行い6日後の歯苔深部の形態を検索したものである。その結果, 使用した70%砂糖例と70%C-S.C例について次の知見を得た。1) 両例共, 菌体間に多層の無定形の帯を認めるが, 対照として用いた生食水例には認められない。また, この帯は, 辺縁の単位膜様構造と内部の線維様構造のみは上皮器官に類似しているが, 他の多くの上皮としての器官が認められないので, この帯を上皮と同じものとは云えない。したがって, この帯は, 糖作用の影響による出現物と思われる。2) 両例の歯苔に顕著な差異はなく, また両例共, 歯質側の表層下脱灰像は認められなかった。したがって今回の実験範囲においては, 両糖液の歯苔および歯質への影響は, 形態上, 両例共, 顕著な差のないものと思われる。
  • 鶴水 隆, 福田 芳生, 佐藤 誠, 尾崎 文子
    1983 年 32 巻 5 号 p. 464-469
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    Str. mutans mutatienal phase III株は, 動物実験において, う蝕抑制効果のあることが認められた。ハムスターを用いた実験では, 口腔内にmutational phase Iとphase IIIを投与すると, phase Iの増殖が阻害され, その結果phase Iによるう蝕誘発が抑制された。ラットを用いた実験では, ラット由来のStr. mutansより生じたphase III株は, ラットに常在するStr. mutansの増殖を阻害する傾向が認められ, う蝕誘発に対する抑制効果のあることが明らかにされた。しかし, 人由来のStr. mutansより生じたphase III株には, う蝕抑制効果が認められなかった。したがって, Str. mutansとその宿主の間には, 特異性の存在することが示唆された。
  • 杉原 邦夫, 万野 賢児
    1983 年 32 巻 5 号 p. 470-473
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    電気生理学的手法を用いた練歯磨の味覚におよぼす影響の検索を日本歯磨工業会から依頼されたため, 本実験を実施した。
    Sprague-Dawley系雄性ラット22匹を用い, 基本的四味溶液をラット舌に投与した時, 舌からの味情報を伝える鼓索神経に出現する神経反応を生体電気現象用増幅器 (三栄測器, 1243), 多用途積分器 (三栄測器, 1310) およびペン書きオシログラフ (三栄測器, Rectigraph-8S) を介し, 測定記録した。この基本的四味溶液による神経反応への作用から練歯磨の味覚におよぼす影響を検討した。
    基本的四味溶液として, 0.1M塩化ナトリウム, 1.0Mショ糖, 0.05M酒石酸, 0.005M塩酸キニーネを用いた。
    基本的四味溶液を舌に投与した時生じる鼓索神経反応を練歯磨溶液投与後120分間に亘りくり返し測定し, 練歯磨投与前に出現した神経反応と比較した結果, 練歯磨溶液投与後塩酸キニーネ, 塩化ナトリウムおよび酒石酸投与による味覚神経反応は抑制され, 特に塩酸キニーネの神経反応に対する抑制作用は著明で長時間持続したが, これらの抑制作用はいずれも回復性の作用であった。
    ショ糖の神経反応に対して練歯磨溶液は著明な作用をおよぼさなかった。
  • 服部 惇, 石橋 慶次郎, 湊 貞正
    1983 年 32 巻 5 号 p. 474-479
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    口腔由来のstreptococci (BHT, HHT, FA-1, Rc-10, Rc-14: 以上齲蝕原性; およびCHT, Rm-15, Rm-71の各株) をショ糖を含む培地で培養すると, 粘稠な菌体外多糖類を生産した。何れの多糖類もα-1, 6-グルコシド結合を有し, Chaetomium gracileのDextranaseによって分解されてその粘度が低下したが, α-1, 6-結合の量とDextranaseによる被分解性には厳密な相関性は見られなかった。
    齲蝕原性株, および非齲蝕原性のCHT株を用いてステンレスワイヤ上に人工歯垢の形成を試みたところ, 菌体外多糖類の粘度の高い株ほど人工歯垢形成能も高かった。得られた人工歯垢にDextranaseを作用させると, 歯垢は分解されてステンレスワイヤ上から剥離したが, この現象はヒト由来のBHT, HHTおよびCHT株の歯垢において特に効果的に認められた。
  • テトラサイクリン系抗生物質の生産量との関連について
    白戸 勝芳, 島田 義弘
    1983 年 32 巻 5 号 p. 480-488
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    上下顎第一小臼歯の歯冠部におけるテトラサイクリン系抗生物質由来の黄色線と螢光線条の出現を調査するため, 1961~68年に出生した60名の歯列矯正治療患者から得られた, 肉眼的に健全な124第一小臼歯で, 頬舌的に連続未脱灰研磨標本を作製し, 生物顕微鏡 (×20) と螢光顕微鏡 (×13.2) を用いて観察した。又, 線の発現とわが国のテトラサイクリン系抗生物質の国家検定量との関係を調査し, 次の結果を得た。
    1. 象牙質内の黄色線と螢光線条の出現者数は60名中35名 (58.3%), 52名 (86.7%) であった。又, 一人平均出現数はそれぞれ2.22本, 5.92本であった。
    2. エナメル質内の螢光線条の出現者数は60名中20名 (33.3%) であり, 一人平均出現数は0.75本であった。
    3. 被検歯の歯冠石灰化時期は, テトラサイクリン系抗生物質の生産量が約25トンから100トンに急増した時期であった。
    以上の知見より, わが国では, 1960年代後半から1970年代前半に, 石灰化が開始した歯に, かなり高率に黄色線や螢光線条が存在すると推定された。
  • 笠原 香, 近藤 武
    1983 年 32 巻 5 号 p. 489-492
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    現在尿中フッ素の測定は方法の簡便さなどからフッ素電極が多用されているが, 今回微量拡散前処理によるLa-ALC吸光光度法により尿中フッ素濃度を測定し, フッ素イオン電極法による測定値と比較検討した。
    フッ素定量にはLa-ALC法を原理とした水質中フッ素測定用キット“ポナールキット®-F”を用い, これに吸光光度法を併用したところ0.5-4.0μgの測定が可能であった。
    尿中フッ素分離のための微量拡散は放出試薬にHexamethyl disiloxane飽和2.7M過塩素酸, フッ素捕集には0.5M水酸化ナトリウムを用い濾紙に吸着させた。尿へのフッ素添加による回収率試験では2時間の拡散で100%の回収を得た。
    成人の随意尿30検体につき微量拡散法によりフッ素分離後, “ポナールキットF”を用いて尿中フッ素濃度を測定したところ, 0.30±0.15ppm (mean±S.D.) であり, 同一検体をフッ素イオン電極法で直接測定した値とよく一致した結果が得られた。
    微量拡散前処理後“ポナールキットF”を用いた尿中フッ素測定法は, 多数試料の測定に適しており, フッ素イオン電極法と同等な精度を有することが示された。
  • 田浦 勝彦, 島田 義弘
    1983 年 32 巻 5 号 p. 493-503
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    刷掃習慣と食習慣の二因子の齲蝕に及ぼす影響を明らかにするために本研究を行った。1~6歳の仙台市内保育園児1,842名を対象に齲蝕と歯垢付着の診査を行い, これらと質問票 (Fig. 1) から得られた両習慣の成績を統計学的に検討し, 次の結果を得た。
    1. 好ましくない食習慣を有する幼児, 即ち食欲のすくない, 食べものの好き嫌いのひどい, 就寝前の間食摂取および間食の所要時間の長い者は1~6歳に増齢的に増加した (Tables2, 3, 5, 6)。
    2. 好ましくない食習慣を有する幼児の平均deftはその反対群より多く, その間の差はしばしば統計学的有意だった (Tables3~6)。
    3. 刷掃習慣の有無による影響を付加した検討から, 齲蝕有病状況は刷掃習慣よりも食習慣に左右されていると考えた (Tables7~9)。
    4. 良好な食習慣を有する群の上顎前歯部の歯垢付着は, 反対群のそれより少なかった (Tables10, 11)。しかしながら, 刷掃習慣の有無による群別を付加して検討したところ, 歯垢付着は食習慣に関係なく, 刷掃習慣群が非刷掃習慣群より統計学的有意に少なかった (Tables12, 13)。
  • 佐藤 誠, 尾崎 文子, 本間 敏道, 岡田 昭五郎, 鶴水 隆
    1983 年 32 巻 5 号 p. 504-510
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    乳幼児・小児204名, および成人109名の歯垢から不溶性グルカンの産生の少ないS. mutans 9株を分離した。この菌株は既知のS. mutansから人工的な誘発変異によって出現する菌株-著者らのmutational phaseIIIと呼称する株-と細菌学的な性状が類似していた。
    この分離株の一部について, ゴールデンハムスターを用いてう蝕誘発能を検討した結果では, う蝕の発生が認められなかった。
    以上の結果から自然界におけるヒトの歯垢中にもS. mutans mutatinal phase IIIと同様な株が存在することが示唆された。
  • 松久保 隆, 真木 吉信, 佐塚 仁一郎, 波多江 道子, 高江洲 義矩, 竹内 光春
    1983 年 32 巻 5 号 p. 511-523
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は, 個人の齲蝕発病性にかかわる諸因子を, 歯面を単位として, 宿主および環境側からとらえ, それらのバランスによって適切な齲蝕予防方法の組み合わせを実施する, chairsideにおける新しい齲蝕予防プログラムを提示することである。
    本プログラムは, (1) 歯面の齲蝕感受性および歯垢の齲蝕誘発性の判定, (2) 齲蝕予防方針の決定, (3) 対象歯面への齲蝕予防方法の実施, (4) 齲蝕予防方針の再評価からなっている。
    すなわち, 歯面の齲蝕感受性の判定は, 1) 歯面の齲蝕罹患傾向および2) 萌出後歯牙年齢の2つの疫学的パラメーター, 3) フッ化物塗布回数によって行った (Table1, 2, 3)。歯垢の齲蝕誘発能の判定は, 1) 混合唾液中S. mutansレベル, 2) 二色性歯垢顕示剤によって青染される歯垢の付着状態によって行った (Fig. 1)。
    本プログラムに採用した齲蝕予防方法は, Table4に示す7種であり, 上述の各評価方法の判定に従って, Fig. 1に示されているように6種のPlanning Caseに分けられる。次に, Fig. 2に示した順序に従って各齲蝕予防方法が対象歯面に実施される。
    このプログラムを用いて, 2年4カ月経過した症例と, 6カ月経過した症例とについて, 初診時の各所見, 齲蝕予防方針, その後の経過および予防方針の再評価について報告した。
    本プログラムは, 齲蝕発病性の評価に従って, 各患者に適切な齲蝕予防方法が行なわれるので, 患者側への負担は, 従来の保健指導を中心とする予防プログラムにくらべて大きく軽減され, しかもほとんどの患者に顕著な齲蝕予防効果が期待される。
  • 武井 啓一
    1983 年 32 巻 5 号 p. 524-540
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/11/26
    ジャーナル フリー
    ラットの上顎左側臼歯部粘膜を切開して, 萌出前の臼歯を早期に出齦させ, 齲蝕の発生について正常に萌出した右側の臼歯と比較検討した。
    その結果, 以下のような知見が得られた。
    1) 離乳前に早期 (生後13, 15, 17日目) に出齦させた臼歯では, 対照側の臼歯より1匹平均齲蝕発生裂溝数が多かった。また, 出齦させた時期が早い程, 1匹平均齲窩数が多かった。
    2) 齲蝕誘発性食餌 (Diet#2000) を与えはじめてから5日間隔で動物を殺し, 齲蝕発生状態を検討した結果, 実験側の臼歯では, 対照側に比べて早い時期に重症な齲窩が発生した。また, 1匹平均齲蝕発生裂溝数も早期から実験側に多かった。
    3) 早期に出銀させた臼歯には, 市販の粉末普通飼料による30日間の飼育で, 齲窩及び齲蝕裂溝が多数認められた。齲蝕誘発性食餌を与えた群の動物では, 市販の粉末飼料より多くの齲窩, 齲蝕裂溝が認められた。
    4) 種々の実験食餌を与えると, 早期に出齦させた臼歯は, 対照側に比して歯垢の付着量が多い傾向が認められた。これらの歯垢の細菌学的な検討もあわせて行なったが, 期待したほどの結果は得られなかった。この点は更に検討を要ずるものと考えられた。
    5) 組織学的に検討した結果, 正常なpre-eruptive maturationの進行過程は一定であったが, 早期に出眼させた臼歯では, Toluidin blueによるエナメル質の染色部位は様々で, maturationの過程に混乱が生じていると考えられた。
    以上の結果から, pre-eruptive maturationと齲蝕感受性との間に, 密接な関係のあることが示唆された。
  • 偏相関係数を用いた統計的分析による
    栗田 啓子
    1983 年 32 巻 5 号 p. 541-562
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    幼児齲歯の多発, 発症の原因を解明する目的で, 北海道辺地の幼児について, 2541名を対象として, 生活習慣6項鼠を設定し, 齲蝕罹患に及ぼす影響を偏相関係数を用いて分析した。併せて, コーホートを用いた経年的研究および細菌学的検索をも実施して, 次のような結果を得た。
    1. 牛乳摂取によって乳前歯および乳臼歯の齲歯多発は抑制傾向を有意に示していた。
    2. 清涼飲料摂取によって乳前歯, 乳臼歯とも齲歯多発傾向が強くみられ, 乳臼歯齲蝕の重症化にも影響を及ぼすことが明らかにされた。
    3. 甘味菓子類の摂取は, とくに乳前歯の齲歯多発および, 乳臼歯齲蝕の重症化に対して強い影響がみられた。
    4. 齲蝕罹患に対する影響を清涼飲料と甘味菓子類とを比較して検討したが, 全歯および乳前歯の齲歯多発には清涼飲料が有意に関与し, 乳臼歯齲蝕の重症化には甘味菓子類のほうがより強い影響を示していた。
    5. 間食摂取については, 齲歯を多発させる傾向は有意に認められなかった。
    6. 子供自身による刷掃の齲蝕抑制効果は極めて少なかうた。
    7. 母親による刷掃については, 指標に用いた各齲歯数および乳臼歯顔蝕の重症化に対して, 偏相関係数による分析では有意な抑制傾向を認めた。
    8. コーホート分析の結果は, 偏相関係数を用いた分析結果を支持し, 生活習慣の改善によって齲歯の多発および重症化を抑制し得ることを明示した。
    9. 幼児の歯垢中の総レンサ球菌数, Str. mutans菌数について検索した結果, 生活習慣と齲蝕罹患との相関関係を微生物学的検査からも明らかにした。また, 歯垢を材料とした齲蝕活動性試験 (カリオスタット) 48時間値と幼児の生活習慣との関係について検索したが, その結果は各生活習慣の要因の齲歯多発または抑制傾向を明示した。
  • 和田 聖一
    1983 年 32 巻 5 号 p. 563-578
    発行日: 1983年
    公開日: 2010/10/27
    ジャーナル フリー
    離乳期ハムスターの口腔内にS. mutans1089 (serotype d) を接種し, う蝕誘発食Diet2000 (CLEA Co., Japan) を用いて, う蝕発生および進行に影響を与える食餌因子について検索した。これらの因子によって影響される歯垢中の微生物の消長について実験的研究を行なった。
    実験 (I) では, う蝕誘発性食餌を用いて, その中のショ糖の粒度およびショ糖の含有量, 更にはう蝕誘発性食餌に種々の加工操作を加えて物理的形状の異なった食餌を作製して, これらの食餌を離乳期ハムスターに与えることによってう蝕発生およびその進行の程度に与える影響について検索した。実験 (II) では, S. mutansを中心として歯垢内細菌叢の変動を追求し, さらに歯垢内細菌叢の変動を定量的に測定する方法としてATP量を用いて判定した。
    その結果, 次のことが明らかになった。
    1. 粉末のう蝕誘発食中のショ糖粒度は, う蝕の発生および進行に強く影響していた。
    2. う蝕の発生および進行は, う蝕誘発食に加えた, 例えば水を混合して, 混捏する, 固形成型する, 熱処理するような操作によって変化する物理的形状とも強く関連した。また口腔内停滞性の高い食餌群ほど高いう蝕罹患状態を示した。
    3. 熱処理にともなってう蝕誘発食は, その栄養価が低下してう蝕進行に与える影響がみられるが, この栄養価の低下によって生ずるう蝕発症に与える影響は全身に与えるそれと比較して極めて軽度であった。
    4. う蝕の発生および進行は, う蝕誘発食を固形成型処理した場合には, ショ糖含有量に依存していないことが明らかになった。
    5. S. mutansの定常期は, ショ糖存在下においては著明に延長した。
    6. S. mutansは, 実験開始後4週間で, 歯垢細菌叢の80%以上を占めた。
    7. 高度なう蝕の発生および進行を示す群は, 対照群に比較して, 総生菌数, S. mutans数の有意な増加を示していた。
    8. ATP量の測定は, う蝕誘発性を示す歯垢の生細菌の動態の検索に有効であった。
    9. う蝕発症に関する動物実験では, 使用したう蝕誘発食の物理的性状を明らかにする必要がある。
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