齲蝕の発生に糖質が大きく関与していることは, よく知られており, 糖質ならびに食品の齲蝕誘発性を評価する研究は, 数多くなされている。しかしながら, それらの研究では,
in vivoで糖質摂取後のプラークpHの低下を測定し評価する方法が主である。しかしながら, この方法では, 実際に歯質が脱灰する前の必要条件のみの評価にすぎず, 糖質のもつ真の歯質脱灰能は評価できない。そこで本研究は,
in vitroで連続バッチ培養法を用い, 1~2週間培養を行い, 糖質 (Sucrose, Glucose) および各種代用糖 (Sorbitol, Coupling Sugar, Palatinose, Maltitol) のエナメル質脱灰の程度を数量的に把握すること, さらに, 糖質および各種代用糖のエナメル質脱灰能を適切に評価しうる指標を検討することを目的とし実施した。
その結果, 本実験条件下において, 培養1, 2週後でMaltitol群を除いた他の5群については, 表層下脱灰が認められ, 脱灰程度は, 糖質群 (Sucrose群, Glucose群) に比較して, 代用糖群 (Sorbitol群, Coupling Sugar群, Palatinose群) で低い傾向を示した。
さらに, 本実験では, 評価の指標として, Max. (表層部最大ミネラル量), Min. (脱灰部最小ミネラル量), Ld (脱灰の深さ) およびΔZ (ミネラル喪失量) を用いたが, Max. は, 1週間の培養期間では, 糖質群と代用糖群に有意差がみとめられず, 指標の感受性としては低いことが示唆された。Min., Ldは, 糖質群内で有意差が認められなかった以外は, 糖質群と代用糖群に有意差 (p<0.01) が認められた。両指標の感受性は, 同程度であり, Max. に比較して高いと考えられる。ΔZは, 各群間で有意差が認められ, 最も高い感受性であることが示唆された。2週間の培養期間では, Max. は, 糖質群と代用糖群に有意差が認められない場合もあり, 感受性としては低いことが示され, Min., Ld, ΔZは, 各群間で有意差が認められ, 高い感受性であることが示唆された。さらに今回, 参考までに
in vitroで各群の培地中のpHの変化を3時間毎に最長24時間測定した結果, 糖質群はpHの低下がはやく, 代用糖群ではpHの低下が緩やかで, 培地中のpHが, critical pH以下である時間と脱灰の程度に関係があることが考えられた。
本研究の結果より, 本実験条件下において,
1) 糖質および代用糖の齲蝕誘発性をエナメル質脱灰の程度より数量的に把握することができた。さらに,
2) エナメル質脱灰を評価する最適な指標としては, Min., Ld, およびΔZであることが示唆された。
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