口腔衛生学会雑誌
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47 巻, 2 号
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原著
  • 岸本 悦央, 尾形 和彦, 河原 研二
    1997 年 47 巻 2 号 p. 132-138
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    歯周疾患や齲蝕により,オーバーデンチャーの維持歯は抜歯にいたるケースが多い。維持歯の形態によってはブラッシングしにくいことがあるため,本研究ではブラッシングしやすさとその形態との関連について検討した。シミュレータは歯ブラシの毛束の長軸方向,およびその直角方向の力を測定する装置1,および維持歯(歯模型)の長軸方向およびその直角方向の力を測定する装置2からなる。測定装置の基本構造はストレン・ゲージを貼った片もち梁である。装置2では歯模型を交換でき,歯模型は0.5,1.0,1.5および2.0mmの高さのものそれぞれに0°,10°,20°,30°,および40°の傾斜をつけた20種からなる。実験1では一定荷重をかけた機械的装置を用い,実験2では10人の被験者(22〜45歳,平均34歳)にブラッシングさせ実験を行った。刷掃しやすさの評価は実験1および実験2から歯模型の高さが増加するほど,また側面の傾斜が少ないほど加わる力は増加した(実験2,p<0.05)。実験結果から,維持歯の高さは少なくとも1.5 mm以上で,歯肉付近の立ち上がりが直角かそれに近いほうがブラッシングしやすいことが示唆された。
  • 川村 誠, 皆川 芳弘, 川村 彰子, 宇山 徹, 牧嶋 孝生, 岩本 義史
    1997 年 47 巻 2 号 p. 139-150
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    コンピュータ歯科問診システム「デンタルチェツカー^[○!R](K.K.カイテツク,東京)」(Ver.1)は,60項目からなる質問紙の回答をもとに「知識」,「態度」,「行動」,「環境」,「意欲」,「症状」の6領域について個人の歯科保健行動をコンピュータで診断する問診システムである。本研究では,成人77,440人の知識・態度・行動などに関する回答を集計し,以下の結論を得た。1.永久歯の萌出本数を知らない者68.8‰フッ化物配合歯磨剤が歯周病予防に有効であると回答した者が49.2%を占めた。2.歯周病に不安感を抱く(90.9%)と同時に,入れ歯になるのも仕方がない(53.3%)と諦めている者が多かった。3.歯ブラシと歯磨剤による歯磨き習慣は定着しているものの,デンタルフロスの常時使用者はきわめて少なかった(2.2%)。4.歯科疾患の自覚症状では,歯肉出血(72.9%)や食片圧入(70.6%)を自覚している者の割合が高く,歯の動揺(21.8%)を自覚する割合は低かった。一方,多忙なため歯科を受診できないと答えた者が半数近くいた(44.9%)。5.質の高い歯科治療を求める(53.8%)一方で,定期的に歯科健診を受けていると答えた者は4.7%に過ぎなかった。以上の結果から,今後,成人に対して(1)正確な口腔保健知識の普及,(2)歯科保健行動変容のための健康教育,(3)効果的な清掃補助用具の普及,等の内容を重点的に行っていく必要があると推察された。
  • 河村 誠, 笹原 妃佐子, 岩本 義史
    1997 年 47 巻 2 号 p. 151-157
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    喪失歯数に関する患者の主観的評価の妥当性を検討する目的で,一般歯科医院に来院した40歳以上の患者145名(男性74名,女性71名)に質問紙調査と口腔診査を実施した。その結果,以下の点が明らかになった。1. 喪失歯数(実際の喪失歯数)と患者の年齢との間に正の相関関係が認められた(r=0.397,n=145 ; p<0.001)。しかし,喪失歯数は個人間のバラツキが大きく,患者の年齢から喪失歯数を推定することは困難であった。2. 自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の関係は,2次回帰式で表現するのが適当と考えられた(R=0.832, n=137 ; p<0.001)。また,喪失歯数が中程度の者では,実際よりも喪失した歯の数を少なめに報告していた。3. 40歳代の患者に比べ,60歳以降の患者では喪失歯数を実際より少なめに報告する傾向が強かった(p<0.01)が,性差はみられなかった。以上のことから,自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の間には,ある程度違いはあるものの,患者の報告から喪失歯数を推定することの妥当性が確認された。また,このような患者のセルフチェックは8020運動を推進する上で有用であることが示唆された。
  • 森田 学, 西川 真理子, 石川 昭, 木村 年秀, 渡邊 達夫
    1997 年 47 巻 2 号 p. 158-163
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    つまようじ法とフロッシングを併用したバス法の2種類の刷掃法について,歯肉炎に対するマッサージ効果を比較した。実験的歯肉炎を有する24名の男子学生を対象とした。各被験者の上下顎を左右に2分割した。それぞれランダムに,一方をつまようじ法で刷掃する部位,残りの2分の1顎をバス法で磨き,かつデンタルフロスで清掃する部位とした。以降,歯科医師が毎日1回,21日間,染色された歯垢が完全に取り除かれるまで,被験者の口腔内を清掃した。刷掃方法の割付を知らされていない歯科医師が,歯周ポケットの深さ(PD)とプロービング時の出血(BOP)を診査した。また,上顎第1小臼歯の頬側近心歯間乳頭と頬側中央部の遊離歯肉の上皮の角化程度を,パパニコロ染色法により判定した。その結果, 1. 21日後には,つまようじ法で刷掃した部位のBOP値が,バス法とデンタルフロスで清掃した部位の値よりも有意に低かった。2. つまようじ法で刷掃した歯間乳頭部のみ,ベースラインと比較して,21日後には角化細胞数の割合が有意に増加した。3. 歯垢が完全に除去されるまでに要した時間では,つまようじ法の場合は,バス法とデンタルフロスを併用した場合の約70%であった。以上の結果から,つまようじ法はデンタルフロスを併用したバス法と比較して,短時間で,より有効なマッサージ効果を得られる可能性が示唆された。
  • 吉森 和宏, 森本 基
    1997 年 47 巻 2 号 p. 164-168
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    歯科衛生士の業務の改善に資することを目的として,常勤の歯科衛生士が勤務している25市町村を調査対象に,平成7年度に実施した母親学級に対して,地域特性の把握,活動目標の設定,事業計画の立案と予算,事業の実施,データ処理,事業の評価のそれぞれの項目について,実施の有無およびその内容,歯科衛生士のかかわりの有無およびその内容を調査したところ,結果は次のとおりであった。母親学級における地域特性の把握から事業の評価までそれぞれ実施した市町村は,歯科衛生士がすべてかかわっていた。
  • 川崎 浩二, 田口 円裕, 飯島 洋一, 高木 興氏
    1997 年 47 巻 2 号 p. 169-178
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    長崎県ならびに山形県において平成5年から平成7年に歯科疾患実態調査および質問紙法による調査を実施した。平成5年度厚生省歯科疾患実態調査の結果と比較して長崎県,山形県では乳歯・永久歯齲蝕が多く,永久歯現在歯数は50歳以降で長崎県が山形県よりも有意に低かった。また同一県内でも離島(長崎)や山間部(山形)ではその他の地区よりも永久歯現在歯数が低い傾向が認められた。山形県における就学前乳幼児の昼間の養育者の約3割は祖父母であった。就学前乳幼児の齲蝕予防には歯磨きを行うと回答した親が86〜94%と多く,定期健診,フッ化物応用と答えた者は比較的少なかった。歯周治療の説明を歯科医から十分受けたと答えた者は26〜36%であり,インフォームドコンセントが不十分であった。今後の歯科医院とのかかわりについて,治療以外にも予防管理や歯科相談を希望する者が20〜38%いた。
  • 荒川 浩久, 黒羽 加寿美, 岩瀬 寧, 下井戸 さよ, 三畑 光代, 戸田 真司, 串田 守, 飯塚 喜一, 可児 瑞夫
    1997 年 47 巻 2 号 p. 179-191
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    フッ化物歯面塗布法は,歯科医師または歯科衛生士が実施する優れたう蝕予防手段の1つである。しかし,以前から汎用されてきた塗布用トレーが人手困難になったり,母子保健事業の市町村への権限移譲に伴い,保健所におけるフッ化物塗布事業も影響を受けることが予想される。これらの点を背景に,フッ化物塗布事業の実施状況や問題点を明らかにすることを目的に,全国の保健所を対象に質問紙調査を実施した。これらの結果は,今後の歯科公衆衛生におけるフッ化物歯面塗布事業の方向性を検討するための大切な資料になろう。1993年の1月中旬に,946ヵ所の保健所に質問紙を郵送し,2ヵ月後までに記入して返送してもらった。回収率は77.6%であった。全体では,現在フッ化物塗布事業を実施している所が43.7‰過去に実施していた所が3.2‰まったく実施していない所が53.0%であった。現在実施している所で使用している塗布剤はリン酸酸性フッ化物溶液が59.0%と最も多く,次にフッ化ナトリウム溶液が30.7‰リン酸酸性フッ化物ゲルは24.2%と少なかった。塗布法は綿球法が78.2%と最も多く,次にイオン導入法が30.5‰トレー法7.8%,歯ブラシ法が4.9%であった。塗布事業について積極的にPR活動を行っていたり,フッ化物応用に関する保健指導を実施している所の方が実施していない所よりも,実施人数,実施年数ともに多いという結果が示された。以前実施していた所が中止した理由は,歯科専門職の配置がなくなった(22.7%),時間的に余裕がない(18.2%),歯科医師会に委託した(18.2%),フッ化物応用以外のう蝕予防法に転換した(13.6%),予算措置のため(9.1%),市町村で実施を始めた(9.1%),予防効果が確認できなかった(9.1%)であった。まだ実施したことがない理由としては,設備,人員,時間的余裕がない(39.2%),事業としての予算措置がない(20.9%),市町村で実施しているから(21.2%),歯科医師会で実施しているから(8.0%),反対運動があるから(6.4%),保健教育や保健指導に重点を置いているから(6.1%),予防効果を確信していないから(5.5%)であった。
  • 竹木 幸恵, 福田 雅臣, 丹羽 源男
    1997 年 47 巻 2 号 p. 192-203
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    う蝕予防を実践する際の重要な項目として,食事内容の改善があげられる.その場合,ショ糖摂取状況を把握することはう蝕の発生リスクを評価するうえで貴重な情報となる.このための方法としてアンケート調査が用いられてきたが,客観性に乏しい.そこでアンケートにかわるショ糖摂取状況の評価法として,唾液中の細菌の産生するショ糖分解酵素であるシュークラーゼに着目した.本研究では,唾液中シュークラーゼ活性の測定によるショ糖摂取状況の客観的評価を目的とし,男性65名,女性107名を対象に唾液中シュークラーゼ活性の測定条件の確立,およびショ糖摂取状況との関連性について検討し,以下の結果を得た. 1. 唾液中シュークラーゼ活性の測定条件として,全唾液1mlあたりショ糖100mgを添加し,37℃にて90分間のインキュベートが適切であった. 2. 採取直後および4℃にて24時間保存後の唾液中のシュークラーゼ活性を比較したところ,両者のシュークラーゼ活性に有意な差はみられないことから,保存唾液による測定も可能であった. 3. 唾液中シュークラーゼ活性は,各種食品のうちショ糖含有で,日頃習慣的に摂取される食品の摂取頻度と有意な相関が認められた. 4. 唾液中シュークラーゼ活性は,因子分析により細菌性因子および宿主性因子から独立した食餌性因子として抽出された.以上の結果から,唾液中シュークラーゼ活性はショ糖摂取頻度を反映しており,う蝕活動性試験として応用可能であることが示唆された.
  • 木村 恵子, 長田 斉, 矢澤 正人, 小松崎 理香, 青山 旬, 和田 聖一, 伊谷 公男
    1997 年 47 巻 2 号 p. 204-212
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    東京都における1歳6ヵ月児歯科健康診査の乳歯齲蝕罹患分類におけるO_1,O_2型(以下,O_1,O_2型)の判定基準について区市町村に対し質問紙による実態調査を行った。また,各区市町村のO_1,O_2型の判定状況,1歳6ヵ月児歯科健康診査の乳歯齲蝕罹患分類におけるO_2,型(以下O_2型)者率と1歳6ヵ月児歯科健康診査(以下,1歳6ヵ月児健診)および3歳児歯科健康診査(以下,3歳児健診)の齲蝕有病者率の差との関係について検討した。次いで,1歳6ヵ月見健診でO_1,O_2型と判定された東京都S区N保健所・北海道I保健所の平成7年度3歳児健診受診者を資料とし,新たなO_1,O_2型の判定基準を1歳6ヵ月から3歳までの齲蝕罹患に関与するリスク要因によって判定することを目的に「就寝時の授乳の習慣」・「甘味の摂取頻度]・「歯みがき状況」を要因と選定して相対危険度による検討を加えた。その結果, 1. 44区市町村(80.0%)から回答を得,そのうち19区市町村(43.2%)が国の示す1歳6ヵ月児歯科健康診査要領以外の独自の判定基準を持っていた。2. 平成5年度O_2型者率が80%以上の区市町村数は22(40.0%)であった。 3. O_2型者率と1歳6ヵ月児健診および3歳児健診の齲蝕有病者率の差との関係には有意な相関は認められなかった。 4. 齲蝕罹患に関与するリスク要因の相対危険度による検討では『甘いお菓子をほぼ毎日食べる習慣』・『就寝時の授乳の習慣』についてはN・I両保健所とも3歳時点での齲蝕有病状況に統計学的に有意な差が認められた。 5. 『甘い飲み物をほぼ毎日飲む習慣』もほぼこれに準じる成績であった。 6. 「歯みがき状況」を示す『保護者による歯みかき習慣』と『プラークスコア』はリスクとして認められなかった。以上の検討から,新たなO_1O_2型の判定基準としては「甘味の摂取頻度」・「就寝時の授乳の習慣」を要因としてとらえ,『甘いお菓子をほぼ毎日食べる習慣がある』・『甘い飲み物をほぼ毎日飲む習慣がある』・『就寝時の授乳の習慣がある』の3項目に1項目以上該当する者をO_2型と判定するのが適当ではないかと考えられた。
  • 松本 大輔, 河野 英司, 広瀬 弥奈, 五十嵐 清治, 市田 篤郎, 中垣 晴男
    1997 年 47 巻 2 号 p. 213-217
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    幼若永久歯の萌出後成熟の過程におけるエナメル質表層フッ素濃度の経時的変化を明らかにするためには,萌出後成熟に関与する各種の因子(唾液や食物の流れ,プラーク付着,wearなど)が一様に作用する,という条件を満たす歯面が必要になる。そこでわれわれは,歯周病により抜歯されたヒト抜去下顎中切歯15歯を用い,唇面切縁側の近心部と遠心部におけるエナメル質表層フッ素濃度をマイクロサンプリング法により測定し,比較検討した。その結果下顎中切歯唇面近心部と遠心部では,ともに表層ほど高く内層へ向かうほど低くなるフッ素の濃度勾配が認められた。また1.0〜20.0μmのすべての深さにおいて,エナメル質フッ素濃度に近遠心的な有意差は認められなかった。このことから,下顎中切歯唇面では,歯の萌出後成熟に関与する環境因子の影響に近遠心差がないことが示唆された。
  • 渡辺 猛, 中村 宗達
    1997 年 47 巻 2 号 p. 218-227
    発行日: 1997/04/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    市町村の歯科保健対策が,乳歯う蝕の減少ならびに幼児と保護者の歯科保健知識や歯科保健行動の改善に,地域特性を越えて寄与しているか否かを把握することを目的とした。静岡県における市町村別の3歳児乳歯う蝕有病状況や4・5歳児とその保護者の歯科保健知識・行動に関する情報を目的変数とし,地域特性ならびに歯科保健対策に関する情報を説明変数として重回帰分析変数増加法にて解析を加えた。乳歯う蝕の有病状況は地域特性によって良く説明され,市町村の歯科保健対策(歯科医師や歯科衛生士の市町村等への配置,歯科保健検討会議の開催,歯科保健計画の策定,母子歯科保健事業の評価,妊婦歯科保健事業・1歳6ヵ月児健康診査における歯科医師や歯科衛生士による集団指導・乳幼児歯科管理事業・フッ化物歯面塗布の実施)の影響を受けている様子は確認できなかった。一方,幼児と保護者の歯科保健知識・行動は地域特性と歯科保健対策によって良く説明され,歯科保健対策の中では妊婦歯科保健事業とフッ化物歯面塗布の影響を受けている可能性が示唆された。以上の結果より,市町村の歯科保健対策が,幼児と保護者の歯科保健知識・行動の改善に地域特性を越えて寄与している可能性はあるものの,乳歯う蝕の減少に寄与している様子はうかがえなかった。
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