口腔衛生学会雑誌
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49 巻, 1 号
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原著
  • 岡崎 好秀, 中村 由貴子, 東 知宏, 宮城 淳, 田中 浩二, 久米 美佳, 大町 耕市, 下野 勉
    1999 年 49 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    幼稚園児(5,6歳)94人を対象として,齲蝕活動性試験Cariostat® (三金工業)・Dentocult-SM® Strip mutans (Orion Diagnostica)・Dentocult-LB® (Orion Diasnostica)と口腔内状態の関連性について調査した。1 : Cariostatは,全員から採取可能であった。しかしDentocult-SM Strip mutans・Dentocult-LBは,85名(90.4%)しか採取できなかった。2 : 幼稚園児の齲蝕有病者率75.3%1人平均d歯数4.04歯,平均df歯数6.55歯,CSI 13.9であった。3 : Carinstat®とDentocult-LB®は,d歯数,df歯数,CSIの各齲蝕指数との関係において高度の相関が認められた(p<0.001)。4 : Dentocult-SM® Strip mutansは,d歯数,df歯数と高度の相関性が認められた(p<0.01)。5 : すべての試験方法において,健全群と未処置群,処置終了群と未処置群の間に有意差が認められた(p<0.05)。6 : Cariostat®はスクリーニング基準を1.5/2.0間にしたとき,敏感度0.703,特異度0.857となった。Dentocult-SM® Strip mutansでは2/3間で敏感度0.359,特異度0.900であったDentocult-LB®では103/104間で,敏感度0.625,特異度0.85となった。Cariostat®とDentocult-LB®は齲蝕指数と同程度の相関が認められたが,Dentocult-SM® Strip mutansの相関はやや低かった。
  • 安藤 雄一
    1999 年 49 巻 1 号 p. 9-20
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    今後の歯科医療のあり方についての基礎資料を得ることを目的に,わが国におけるう蝕治療のニーズ量について過去の推移を分析し,将来予測を行った。ニーズ量は,厚生省歯科疾患実態調査と人口データから推計した各年齢階級における未処置歯数に処置歯数の1/10を加えた値の総和とし,まず過去36年間の推移について分析した。次に,現在歯数の将来予測値を新たに算出し,人口と歯科医師数に関する既存の将来予測データを用いて,2029年におけるニーズ量の将来予測値を算出した。この際,現在歯数の増加について5段階,う蝕の有病状況については12段階の条件設定を行い,各条件による予測値の差異を検討した。分析の結果,ニーズ量は1975年をピークに減少傾向にあり,歯科医師一人あたりに換算したニーズ量は1993年では1957年の37%に減少していた。年齢階級別にニーズ量の推移をみると,若年者の減少傾向と高齢者の増加傾向が顕著であった。2029年におけるニーズ量の予測値は,う蝕有病状況と現在歯数の変化によって大きく影響されることが示された。過去の推移を考慮すると,今後,現在歯数が増加し未処置歯数が減少する可能性が高いと考えられることから,ニーズ量は減少する可能性が高いと考察した。また,年齢構成についてみると,高齢者の占める割合が現在よりも増加し,現在歯数の増加傾向が大きいほどその傾向が強まることが予測された。
  • 宮田 一, 星 秋夫, 佐藤 勉, 丹羽 源男
    1999 年 49 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    歯科医師に推奨すべき健康管理を確立するための基礎的データを収集する目的で,歯科医師の死亡構造の特徴について検討した。対象集団は,1975年から1996年までの22年間に某歯科大学同窓会に所属した男性歯科医師9,026名(死亡者1,550名)であり,SMRを算出して日本人男性と比較を行い,以下の結果を得た。1.観察期間における死因は心疾患(29.8%)が最も多く,次に悪性新生物(27.8%),脳血管疾患(13.6%),肺炎・気管支炎(9.9%)であり,これら死亡割合の合計は全体の80%以上に達した。2.歯科医師の平均死亡年齢は72.8±12.1歳(27〜101歳)であるが,近年になるに従って有意に増加した。3.総死因における歯科医師のSMRは日本人男性よりも有意に低価であった。4.主要死因のSMRについてみると,悪性新生物,および脳血管疾患は歯科医師で有意に低価であった。しかし,心疾患のSMRはいずれの年次においても歯科医師が有意に高値を示した。また,肺炎・気管支炎は歯科医師で有意に低値を示したが,最近4年間と55〜69歳の年齢層では高値を示した。以上から歯科医師は日本人男性よりも良好な健康状態にあることが示唆された。
  • 染谷 美子
    1999 年 49 巻 1 号 p. 30-39
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    髄腔内圧に由来する象牙質内教移動が生理的な調節因子として根面の脱灰を抑制することを前報で報告した。しかし,再石灰化を含む総合的な齲蝕プロセスにおける役割は不明である。本研究では,象牙質内液移動が根面の再石灰化にどのような影響を与えるかを知る目的でin vitroでの検討を試みた。根面を脱灰したヒト歯根試料の髄腔内に髄腔内液基準のミネラル溶液(0.65 mM CaCl2, 0.94mM KH2P04,20mM HEPES,pH=7)を満たし,髄腔内圧を20,30または40mmHgに調節して8日間作用させた。共焦点レーザー顕微鏡による観察から,蛍光色素を添加した象牙質内液は数分以内に根面に到達することが確認された。一方,外部溶液の再石灰化への影響を確認するため,同様に脱灰を行った試料を唾液基準ミネラル溶液(1.5mM CaCl2, 0.9mM KH2PO4,20mMHEPES,pH=7,0または2ppmF-),あるいは髄腔内液基準ミネラル溶液に8日間浸漬した。齲蝕病巣は偏光顕微鏡により観察し,またミネラル濃度分布はマイクロラジオグラフィと画像定量法(CAV)により評価した。脱灰深度ldとミネラル喪失量ΔZの値は髄腔内圧の上昇とともに減少した。40mmHg群は20mmHg群と比較してldは約55%低く,有意差が認められた(p<0.01)。さらに,40mmHg群とフツ素濃度2ppm唾液基準のミネラル溶液群の間でミネラル指標に統計学的に差がなく,再石灰化かほぼ同程度であることが確認された。本研究から,象牙質内液移動は生体防御機構として,根面齲蝕の再石灰化,特に病巣底部のミネラル回復の促進に重要な役割を果たす可能性が示唆された。
  • 森谷 俊樹
    1999 年 49 巻 1 号 p. 40-54
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    本研究では外部溶液のCa/Pモル比(以下,Ca/P比)が人工初期齲蝕の再石灰化に与える影響を検討した。ウシ下顎切歯よりエナメル質ブロックを切り出し,唇面を浸潤状態で研磨して平滑な新鮮エナメル質面を露出させた。その試料を6wt%カルボキシメチルセルロース含有0.1M乳酸ゲル(pH5)にて37℃で3週間浸漬して人工初期齲蝕を形成した。これらは7群に分けられた(12試料/群)。このうち1群は脱灰で処理を終了し,別の1群はCaおよびPを含まない再石灰化液(20mM HEPES, 130mM KCl, pH7)に37℃で8日間浸漬した。他の5群はKH2P04濃度を2.24, 1.28, 0.90, 0.69, 0.56mMに変化させることによってCa/P比を0.67, 1.17, 1.67, 2.17,2.67に調節した再石灰化液(20mM HEPES, 1.5mM CaCl2, 130mM KCl, pH7)に37℃で8日間浸漬した。再石灰化した病巣部の耐酸性を評価するために,試料は6wt%カルボキシメチルセルロース含有0.1M乳酸ゲル(pH5)に37℃で2日間浸漬した。脱灰,再石灰化,耐酸性試験後の病巣部の状態がTransversal Microradiography(TMR)によって,さらに脱灰,再石灰化後の病巣部の状態がX線回折法およびフーリエ変換赤外分光法によって分析された。TMRによる分析の結果,再石灰化によってミネラル獲得量(ΔM, vol%・μm)はCa/P比の低い溶液ほど多く,また再石灰化した病巣部はCa/P比の低い溶液ほど耐酸性を有していた。X線回折パターンより脱灰および再石灰化後の物質はhydroxyapatite (HAp)であった。X線回折強度を定量分析した結果,Ca/P比が1.67の群にてHApの生成・成長が多かった。脱灰および再石灰化後の赤外吸収スペクトルより,病巣表層部はcarbonate含有HApより構成されていた。X線回折法とフーリエ変換赤外分先決による定性分析の結果より,病巣部にはHApが生成・成長している。そしてTMRとX線回折法による定量分析の結果より,異なるCa/P比の再石灰化液では,再石灰化によって生成・成長したHApの生成率に違いがあると考えられる。
  • 于 宏〓, 飯島 洋一, 川崎 浩二
    1999 年 49 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    本研究は脱灰と再石灰化期間のバランスがヒト・エナメル質の酸抵抗性にどのような影響を与えるかをin vitroで検討した。ヒト・小臼歯エナメル質ブロック60個を脱灰液に(3.0mM Ca, 1.8 mM P, 1% CMC, pH : 4.5)浸漬した後,3.0ppmフッ素を含む再石灰化液(3.0mM Ca, 1.8mMP, 1% CMC, pH : 7.0)に1〜6日間浸漬した。脱灰と再石灰化の期間の比1 : 3, 1 : 6, 3:1, 6:1に設定した(D1R3, D1R6, D3R1, D6R1;Dは脱灰,Rは再石灰化,数値は脱灰または再石灰化の日数を示す)。酸抵抗性試験は再石灰化エナメル質を0.1M(pH : 4.5)乳酸溶液に1, 2, 3日浅漬し,原子吸光光度計から溶出Ca量,228型ダブルビーム分光光度計からP量,フッ素電極からF量ならびにマイクロラジオグラフから喪失ミネラル分布をそれぞれ測定して評価した。溶出Ca量は酸抵抗性試験の期間の長さに比例して直線的に増加した。酸抵抗性試験1日目と2日目では2つのタイプの溶解性が認められた。再石灰化期間が長いD1R3, D1R6は短いD3R1, D6R1に比較して溶出Ca量は少なく,有意差が認められた(p<0.05)。ただし,酸抵抗性試験3日目ではD1R3とD6R1との間には溶出Ca量には有意差がなかった。再石灰化期間の最も長いD1R6はフッ素獲得量が最大(約4,000ppm)であり,他の群より有意に高い値であった(p<0.01)。 ART3日後にはlaminationの形成がすべての群に認められた。マイクロラジオグラフの写真とミネラル分布から,長い再石灰化期間のグループはARTの1,2日ともに喪失ミネラルは著しく少なく,表層下脱灰病変は形成されなかった。しかしながら,短い再石灰化期間のグループは明らかな表層下脱灰病変を形成した。本研究よりエナメル質がイオンとの反応によって酸抵抗性を獲得するためには,低フッ素濃度であってもフッ素が常に存在し,3日間以上の再石灰化期間が必要であることがわかった。laminationの形成そのものは,十分な量のフッ素が関与しなければ酸抵抗性がないことが示された。 Ca/Pの比,フッ素濃度の分折からは酸抵抗性の本態はpartially fluoridated hydroxyapatite Ca10(P04)6(OH, F)と考えられた。
  • 林田 秀明, 高木 興氏
    1999 年 49 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    A. actinomycetemcomitans 5菌株の染色体DNAを鋳型DNAとして,ISAa1読み枠の配列をもとに作成したプライマーを用いて得られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の増幅産物から,挿入配列ISAa1どの部分塩基配列を決定した。ATCC 29522株,FDC Y4株,SUNY aB67株のPCR産物から得られた配列は,FDC Y4株染色体DNAからクローニングされたISAa1の読み枠領域の配列と一致した。NCTC 9710株のPCR産物から,2種類の塩基配列が得られた。1つは,ATCC 29522株,FDC Y4株,SUNYaB67株のPCR産物からの塩基配列と同様に,FDC Y4株染色体DNAからクローニングされたISAa1どの読み枠領域の配列と一致した。他の1つは,FDC Y4株染色体DNAからクローニングされたISAa1の読み枠領域の配列中に連続した12塩基の挿入された配列であった。OMZ 534のPCR産物から,連続した12塩基の挿入と塩基の異なるサイトのある配列が得られた。本研究で,われわれは,5菌株間のISAa1の部分塩基配列および推定アミノ酸配列に遺伝的多様度のあることを明らかにした。
  • 吉岡 昌美, 増田 かなめ, 日野出 大輔, 林 祐行, 中村 亮
    1999 年 49 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    Porhyromonas gingivalis菌体に対するポリクローナル抗体(pAb-P.g.)と同菌の産生するトリプシン様酵素の1つであるPase-Cに対するモノクローナル抗体(mAb-PC)とを作製し,歯周炎患者の歯肉溝滲出液中のPase-C, P. gingivalis量をこれらの抗体を用いたELISA法により調べた。その結果,50検体のPase-C量とP. gingivalis量の間に有意な相関を認めなかったが,プロービング時に出血(BOP)を認めなかったサンプルだけで解析したところ,両者の間に有意な相関を認めた。そこで,BOPの程度でサンプルを群分けし,各々のPase-C量,P. gingivalis量を調べた。Pase-C量はBOPの程度が進むに従い増加する傾向を認めたが,P. gingivalis量は群間にそのような傾向を認めなかった。BOP は炎症の活動度をある程度反映するものと考えられることから,mAb-PCを用いて歯肉溝滲出液中のPase-C量を測定する方法が,歯周炎の詳細な診断に利用できる可能性が示唆された。
  • 岡田 康子
    1999 年 49 巻 1 号 p. 79-92
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    Abiotrophia属(いわゆるnutritionally variant streptococci ; NVS)はヒトの口腔常在菌であり,感染性心内談炎の原因ともなる。本研究では,健常人の口腔や心内膜炎患者の病巣あるいは血液から分離されたAbiotrophia 25株について,ラット心内膜炎誘発能と細胞外マトリックス(ECM)およびその構成タンパク成分に対する結合性との関連性を検討した。血清型1のA. defectivaおよび血清型2-5と3のA. adiacenは高い心内膜炎誘発能を示し,一方,血清型4と6のA. adiacensおよびGemella-like NVSは概して低い心内膜炎誘発能を示した。心内膜炎誘発能とECM,特にフィブロネクチン(FN)結合能との間には有意な正の相関が認められた。血清型1のA. defectivaと血清型2-5と3のA. adiacensにおいて口腔由来菌株と心内膜炎由来株は,ほぼ同等の心内膜炎誘発能およびFN結合能を有していた。高い心内膜炎誘発能やFN結合性を示したA. adiacens ATCC49175株の超音波抽出物から,FN受容体と考えられるタンパク質を分離した。本物質は由来菌株のみならず,同種の異菌株,さらに異種・異属の菌株の示すFN結合能をも阻害した。
  • 佐藤 豊, 安井 利一
    1999 年 49 巻 1 号 p. 93-103
    発行日: 1999/01/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    埼玉県下の障害者施設に入所している心身障害者161名を対象に,口腔内状況および歯口清掃における自発性,自立性について調査を実施した.その結果,平成5年度歯科疾患実態調査結果と比較して,現在歯についてはすべての年齢群で少ない傾向が認められ,特に内部障害を重複する群では顕著であった.歯周疾患罹患状況についても同様に精神発達遅滞のみの群と比較して,内部障害を重複する群では歯周ポケットの深化等がより多くの頻度で認められた.歯口清掃における自発性および自立性については男性より女性で強く認められ,また男性では自発性および自立性との間に有意差が認められた.重複障害を有する精神発達遅滞者の場合,特に内部障害を有する人をターゲットに,また男性においてより強い歯科疾患予防対策,歯口清掃指導および介助が必要であると考えられた.
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