口腔衛生学会雑誌
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49 巻, 3 号
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原著
  • 岸 光男, 相澤 文恵, 安藤 歩, 今井 奨, 西沢 俊樹, 米満 正美
    1999 年 49 巻 3 号 p. 252-261
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    ミュータンスレンサ球菌培養試験を代用糖の齲蝕誘発性評価方法として用いる際の基礎的検討のため,ミュータンスレンサ球菌を静置培養,GasPak Systemおよび嫌気グローブボックスで培養し,培養時の嫌気条件の違いが齲蝕誘発性の指標となるpH,菌体量,非水溶性グルカン合成量に及ぼす影響を調べた。スクロース,ソルビトール,キシロシルフルクトシド,マルチトール,キシリトールを基質としてStreptococcus mutans MT 8148とStreptococcu sobrinus SL-1をそれぞれの方法で培養し,培養時間0,5,7,9,12,23時間におけるpH,菌体量,非水溶性グルカン合成量の測定結果を分散分析と多重比較法により分析した。その結果,同じ糖質と菌株の組合せでも培養時の嫌気条件により測定結果には差違が生じた。pH,菌体量については両菌株とも嫌気性の高い培養条件ほどその低下量,増加量が大きかった。一方,非水溶性グルカン合成量については菌株によって嫌気性による差違の生じ方が異なっており,S.Mutansでは嫌気性の高い条件ほど非水溶性グルカン合成量が多かったがS.sobrinusではGasPak Systemでの培養でもっとも合成量が多かった。しかし,適切な培養時間で評価することにより,それら糖質の各測定項目を指標とした齲蝕誘発性順位は培養時の嫌気条件の違いにかかわらず同等に評価され,そのような方法を採ることにより,培養時の嫌気条件への厳密な留意がなくとも,ミュータンスレンサ球菌培養試験による糖質の齲蝕誘発性評価は可能であると考えられた。
  • 深井 穫博, 中村 修一, 小川 孝雄, 徳永 一充, 矢野 裕子
    1999 年 49 巻 3 号 p. 262-269
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    著者らは,1989年からネパール王国ラリトプール郡テチョー村において継続的に国際歯科保健医療協力を行っている。この村ではここ数年,都市化に伴う小児の砂糖摂取とう蝕の増加がみられる。そこで,1994年12月から4年間,小児のう蝕予防を目的に,学校でのフッ化物洗口法を実施した。フッ化物洗口法実施の対象は現在,村の7校の学童667名である。方法は0.2%フッ化ナトリウム溶液を用いた週1回洗口法である。採用した実施プログラムは,年間を通して薬剤の調整管理,学校での実施,およびその評価を現地の人が主体的に行う住民参加型プロジェクトである。すなわち,薬剤の管理およびフッ化物洗口液の調整は村内の1ヵ所で行い,1ヵ月分のフッ化物洗口液を配布する。各学校では,毎週同一の曜日に実施する。実施にかかわる担当者の研修は年1回著者らが行った。あわせて事後評価のために,年1回現地スタッフおよび著者らで評価会を開催した。また,現地スタッフは年間3回実施状況についてファクシミリで著者らに報告した。その結果,年間を通したフッ化物洗ロプログラムは,4年間継続して実施された。フッ化物洗口法3年間実施後のう蝕罹患状況では,3年間実施した1校の8〜10歳児でDMFT0.6,DMF者率33.3%であった。それに対して,未実施校3校から抽出した学童では各々0.9,および40.7%であったが,いずれも有意な差はみられなかった。以上の結果から,途上国におけるフッ化物洗口プログラムは,学校保健の育成に効果的であり,住民参加型のプロジェクトとしてネパールのほかの村にも応用でき,地域の施策化につながるものと考えられる。
  • 三谷 寧, 小松崎 明, 末高 武彦
    1999 年 49 巻 3 号 p. 270-285
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    独自に開発した咀嚼機能評価システムを用い,咬合接触面積,歯冠相当部体積,咬合面間空隙量を指標として,ブリッジ装着者の咀嚼機能回復の評価を試みた。被験者15名に対して,ブリッジ装着前〜装着後5ヵ月の間に咬頭嵌合位での咬合採得,質問紙調査を実施し,下記のような結論を得た。1.咬合接触面積の相関分析より,全顎のレンジ0.2mm(装着時と装着後1〜2週の間,相関係数0.41)など,低い相関係数を示す領域が示され,これら領域の変動からブリッジ装着時以降の経過を評価できる。2.ブリッジ装着時における咬合接触面積の平均値は,装着前に比べ全顎ではレンジ1.6mmでは84.1mm^2,同補綴側では93.3mm^2増加し,薄層部を除く各レンジともに装着前,装着時の平均値間に有意な差が認められ,ブリッジ装着による咀嚼能回復について評価できた。3.ブリッジ装着後については,全顎で増加率が1〜2週間後で4.5%,1ヵ月後5.5%,2ヵ月後8.7%,3ヵ月後15.7%,4ヵ月後18.0%と,馴化と考えられる継続的増加が観察でき,装着後3〜4ヵ月でピークを形成していた。今回の被験者については,馴化が装着後3〜4ヵ月で完了すると判断でき,このことから咀嚼機能回復の評価が可能である。4.歯冠相当部体積は,全顎のブリッジ装着時の平均値が装着前に比べて54.6mm^3の増加を示し,装着後も継続した増加が認められ,咀嚼機能回復の評価が可能である。5.ブリッジ装着後の臼歯部左右バランスの回復状況については,補綴側の咬合接触面積が,装着時に対照側とほぼ同値に回復し,装着時以降では±10%以内に変動が安定しており,左右バランスの回復について評価できた。6.食品摂取状況との関連については,ブリッジ装着後も継続して噛みにくい食品があった群(5名)では,噛みにくい食品がなかった群(10名)に比較して3指標とも低い値を示し,その差は有意なものではなかったが,全顎のレンジ1.6mmの咬合接触面積で約60mm^2,歯冠相当部体積で約20mm^3, 咬合面間空隙量で約45mm^3となっており,この点で主観的な食品摂取状況の評価と,各指標による評価が一致した。以上のことから,3指標を用いて,ブリッジ装着および装着後の馴化の過程が観察でき,一口腔を単位とする咀嚼機能回復の評価が実施できた。
  • 岡崎 好秀, 東 知宏, 田中 浩二, 久米 美佳, 壷内 智郎, 宮城 淳, 松村 誠士, 下野 勉
    1999 年 49 巻 3 号 p. 286-293
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    3歳児歯科健診に訪れた小児389名を対象として,3歳時のdf歯数およびカリオスタット ® 値と小学1年時(7歳)から中学1年時(12歳)までの齲蝕罹患状態との関係について調査した。さらに,3歳時で齲蝕のないものにおいて,カリオスタット値と永久歯の齲蝕罹患状態についても検討した。1.3歳時のdf歯数およびカリオスタット値は,小学1年生から中学1年生までの齲蝕罹患状態と高度の相関関係が認められた(p<0.001)。2.3歳時のカリオスタット値をlow-risk群(1.5以下)とhigh-risk群(2.0以上)に群分けしたところ,両群間で小学1年生から中学1年生までの齲蝕罹患者率とDF歯数に有意な差が認められた(p<0.01)。3.3歳時に齲蝕のないもののカリオスタット値と,小学2年生から中学1年生までのDF歯数との間に,相関関係が認められた(p<0.05)。4.3歳時に齲蝕のないもののうち,カリオスタット値をlow-risk群とhigh-risk群に群分けしたところ, high-risk群はいずれの年齢でも高い齲蝕罹患状態を示していた。以上によりカリオスタット検査は,長期間にわたり齲蝕増加を予測する可能性が示唆された。
  • 三畑 光代, 戸田 真司, 小宮山 まり子, 串田 守, 宋 文群, 荒川 浩久, 内村 登, 飯塚 喜一
    1999 年 49 巻 3 号 p. 294-303
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    飲料水には微量ミネラル元素であるフッ素が含まれている。日本の水道法の水質基準によれば,フッ素は0.8ppmを超えてはならないと規定されているが,低濃度フッ素飲料水にう蝕予防的価値はない。そこで,全国より集めた飲料水サンプルのフッ素濃度を測定した。本大学の学生に,帰省地の飲料水を採取し,必要事項を質問票に記入したうえで持参するように依頼した。フッ素イオン電極にてサンプル中のフッ素濃度を測定した。それとともに,水道統計資料から浄水場における飲料水のフッ素濃度を調べた。370サンプルの飲料水のうち,数のうえでは上水道が圧倒的に多く,次に井戸水,簡易水道という順であった。全サンプルの平均フッ素濃度は0.076ppmであり,最高値は上水道の0.55ppmで,最低価はすべての種類のサンプルにおいてみられた0.01ppm未満であった。さらに,昭和59年から平成8年度までの水道統計資料によれば,全国の浄水場における水道水平均フッ素濃度は徐々に低下する傾向を示し,平成8年度の平均で0.093ppmであった。以上のことより,ヒトが歯の健康のために飲料水から摂取するフッ素は不足していることは明らかである。今後は食品から摂取するフッ素量を考慮しながら,フッ化物の全身応用の実施を検討するべきである。
  • 川崎 浩二, 高木 興氏, Joop ARENDS
    1999 年 49 巻 3 号 p. 304-309
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,象牙質再石灰化に対するレーザー照射ならびに酸性フッ素リン酸溶液(APF)の影響を検討することである。研磨によってセメント質を除去したヒト・小臼歯歯根を人工的に脱灰し,APF処置の有無,レーザー照射の有無によって4グループに分けた。すべてのグループは2ppmフッ素を含む再石灰化溶液(20mM HEPES,1.5mM Ca,0.9mM P,pH=7.0)に2週間浸潰された。再石灰化の評価はマイクロラジオグラフィーを用い,ミネラル分布を定量的に評価した。結果は1)APF処置を受けない条件でのレーザー照射は対照と比較した場合,表層の過剰再石灰化であるhyper-remineralizationを抑制しLesion depthの回復も有意に大きかった。2)APF処置は再石灰化を有意に促進すると同時にhyper-remineralizationを抑制した。3)APF処置群ではその再石灰化促進効果が大きいためにレーザー照射の効果は認められなかった。
  • 中村 譲治, 筒井 昭仁, 堀口 逸子, 鶴本 明久
    1999 年 49 巻 3 号 p. 310-317
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    歯周疾患は感染症であるとともにさまざまな要因が絡んだ生活習慣病でもある。著者らは,企業における健康づくり型歯科保健事業の試みとしてプリシード・プロシードモデルを構成概念の枠組みとして採用し,歯周疾患にまつわる諸要因を総合的に評価することができる診断プログラムを開発した。診断プログラムは,有機的に関連している複数の尺度から構成される質問紙となっている。今回は,それらの尺度のなかの疫学診断に相当する歯周疾患自己評価尺度について,診療室内で信頼性と判別的妥当性の検討を行った。診療所を訪れた成人患者258名を対象に,年齢と性別および歯周疾患に問する自覚症状6項目からなる質問紙による調査と,全歯牙4点法によるCPIの測定を行った。質問紙の歯周疾患自覚症状6項目について,クロンバッハのα係数を求めた。CPIの結果を外的基準として,質問紙の歯周疾患に対する判別的妥当性を評価した。解析は歯周疾患の有無を目的変数に,自覚症状に性別を加えた7項目を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行い,質問紙の歯周疾患有無に関する的中精度を求めた結果,クロンバッハのα係数は0.71であり,適中精度は20歳以上群と25歳以上群では71%,30歳以上群で75%,35歳以上群で77%,40歳以上群で80%,45歳以上群で82%であった。結論として,開発した歯周疾患自己評価尺度は,集団の歯周疾患の有病状況の把握に有用であると考えられた。
  • 森下 真行, 高江洲 義矩, 宮武 光吉, 新庄 文明, 藤岡 道治
    1999 年 49 巻 3 号 p. 318-323
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    在宅寝たきり老人や各種老人施設の入所者に対する口腔ケアの提供が重要視され,訪問口腔衛生指導や訪問治療が実施されている。しかし,現状では要望がある人,治療可能な人のみに限られており,口腔ケアを必要としているすべての人が必要な口腔ケアを受けているとはいい難い。そこで,口腔ケアおよびその支援体制の実態を把握し,今後の口腔ケア提供に必要なマンパワーや設備,制度などについて検討する目的で,全国の郡市区歯科医師会,市区町村,訪問看護ステーション,在宅介護支援センターを対象とし,郵送配布・郵送回収によるアンケート調査を行った。訪問看護ステーション,在宅介護支援センターでは,市区町村の訪問指導に比較して訪問時に実際に要介護者の清掃を行っている場合が多いことが示された。郡市区歯科医師会では,訪問歯科診療の実施について,57.1%が会として取り組んでいた。市区町村の人口別に在宅訪問診療の状況について検討したところ,人口が多いところでは歯科医師会として取り組んでおり,少ないところでは地域の開業医が個別に対応している場合が多かった。口腔ケアの必要性について「必要であり,積極的に関与すべき」と答えたところは,訪問看護ステーションでは80.8%であり,口腔ケアヘの関与の意向は高いと考えられた。またそのために必要な条件整備として,「看護婦の口腔ケア技術の習得」が52.1%,「訪問に応じる歯科医師の確保」が60.0%,「歯科医師や歯科衛生士との連携」が52.6%であった。一方,在宅介護支援センターでは口腔ケアについて「必要であり,積極的に関与すべき」と答えたところは53.3%であり,「必要とは思うが,技術的に限界がある」と答えたところが32.0%であった。今回の調査から,歯科医師会や市区町村の口腔ケアに対する取り組みでは,会員数や自治体の人口規模により課題や捉え方が異なっており,支援体制について地域格差が大きい実情が明らかとなった。訪問看護ステーションや在宅介護支援センターにおいて,口腔ケアの必要性が高まっていることが推察されたことから,今後はさまざまな職種の専門家や地方自治体がどのように連携していくかについて,検討する必要性がうかがわれた。
  • 葭原 明弘, 佐久間 汐子, 宮崎 秀夫
    1999 年 49 巻 3 号 p. 324-328
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,小学生の第一大臼歯の,特に褐色窩溝についてう蝕発生リスクを把握することを目的に行われた。I村の小学1〜6年生633人を対象とした。う蝕予防活動として一般保健指導に加え,保育園の4,5歳児から施設ベースでのフッ化物洗口を経験している。第1次診査として定期学校歯科健診において要観察歯を検出した後,第2次診査として歯科医療機関で褐色窩溝とSticky Fissureを分類した。分析にあたっては,第2次診査により検出された褐色窩溝,86歯の6ヵ月間のう蝕進行率を算出し,第2次診査受診者の健全歯,168歯におけるう蝕進行率との比較により,相対危険度を求めた。また,第2次診査受診者を対象に6ヵ月間のう蝕進行に影響を与える要因をロジスティック回帰分析により検討した。その際,6ヵ月間のう蝕進行の有無を従属変数に,ベースライン時点の学年,褐色窩溝歯数,Sticky Fissure歯数およびDMF歯数を独立変数にした。その結果,健全歯からう蝕に進行したのは,168歯中2歯で1.2%であり,褐色窩溝からう蝕に進行したのは,86歯中6歯で7.0%であった。両者のう蝕進行率の差は統計学的に有意であり(p=0.02,Fisherの直接確立計算法),健全歯に対する褐色突溝のう蝕進行における相対危険度は5.86であった。ロジスティック回帰分析によると,う蝕の進行に対して,DMF歯数のみが統計学的に有意であった(オッズ比:2.38,p=0.02)。褐色高溝に間しては個人のう蝕活動性に対する影響の小さいことが示唆された。また,褐色窩溝から9割以上はう蝕に進行しないことに加え,同一地区を対象にした調査より褐色窩溝はSticky Fissureよりう蝕進行率は低いことが推察された。したがって,要観察歯については褐色窩溝とSticky Fissureを区別してう蝕予防手段を講じる必要があり,そのためには,学校と歯科医療機関を連携させる新たなシステムを検討しなければならないと考察した。
  • 西田 康文, 八木 稔, 小林 秀人, 八木 文子
    1999 年 49 巻 3 号 p. 329-340
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    プリシード/プロシードモデルを用いて,新潟県の人口約1万人の自治体における地域ベースの乳歯う蝕予防プログラムに対する評価を行った。調査の対象期間は,1990年度から1993年度までとした。対象児は生後10カ月から3歳までの幼児357名であった。歯科医師によるう蝕診査の再現性は良好であった。2%酸性フッ化物ゲルと歯ブラシ法によるフッ化物歯面塗布を2ヵ月に1度行った。幼児を対象にフッ化物応用を予防手段とするプログラムを施行する場合,その保護者へのフッ化物に関する正しい知識の提供,関係者のAttitude,プログラムヘの近接性,および簡便な予防手段の導入が重要であることが確認された(プロセス評価)。フッ化物歯面塗布という具体的な予防手段にアクセスできることが,プログラムヘの参加率を増加させた。参加率は,当初50〜70%であったが,その後75〜100%まで上昇した(影響評価)。乳歯う蝕の有病率は,1990年度には80.5%であったが,年度を追うごとに低下し1993年度には48.5%となった。同様に平均dmf歯数は,1990年度には6.26であったが,1993年度には2.04まで下がった。また,プログラムヘの参加回数が多いほど,う蝕予防効果が大きくなる傾向にあることが示された(結果評価)。よって,当プログラムは地域ベースの乳歯う蝕予防プログラムの1つとして実施する価値があるものと評価した。
  • 筒井 昭仁, 中村 寿和, 堀口 逸子, 中村 清徳, 沼口 千佳, 西本 美恵子, 中村 譲治
    1999 年 49 巻 3 号 p. 341-347
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    社会人の歯科的問題の程度を企業の生産性および経済面から把握することを目的とした。福岡市に本社を置く電力供給に関連する大型電気機械を製造する企業の工場部門の全従業員421名を対象とした。年齢は20〜65歳に分布していた。質問紙の配布留置法により過去1年間の歯科的問題に関連した1日休,半日休,遅刻・早退,作業効率の低下の情報を収集した。これらの情報から労働損失時間を算出し,さらに金額にも換算することを試みた。質問紙回収率は96%であった。工場全体で歯科的問題に関連する労働損失経験者は22%で,全損失時間は年間1,154時間,日数換算で144日であった。1人平均労働損失時間は年間2.85時間であった。この労働損失は生産高ベースで約1,200万円,生産コストベースで約800万円,人件費ベースで約400万円の損失と算定された。一企業を単位に歯科的問題に関連した欠勤や生産性の低下を把握,収集したとき社会・経済的損失は多大であることがわかった。DMFTやCPIなどの客観的指標にあわせてこれらの情報を明らかにすることは,労使双方に強いインパクトを与えるものであり,産業歯科保健活動の導入,展開に寄与するものであると考える。
  • 柘植 紳平
    1999 年 49 巻 3 号 p. 348-364
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    COの基準作成の基礎的研究として,児童の第一大臼歯599歯の咬合面を撮影した。その写真より,小窩裂溝部を白濁の有無,着色の有無,着色の範囲,歯垢付着の有無の4つの基準で分類し,年齢的推移を追跡した。その結果と結論は次のようであった。1.白濁は6歳で80%以上に認められ,8歳まで横ばいで推移し,9歳より減少した。2.着色は6歳で26.0〜42.0%に認められ,年齢とともに増加した。3.着色は,上下顎とも6歳では薄茶色が大部分を占めたが,8歳以降,黒褐色,黒色の割合が増加し,11歳では黒色の割合が最も多くなった。4.着色の範囲は,11歳で上顎では三分の一着色,下顎では三分の二着色の割合が最も多くなった。5.歯垢付着は,6歳で最も高率であったが,9歳までに急減した。6.歯垢付着の有無と白濁の有無とでは,上下顎いずれの年齢においても関係が認められなかった。以上から,第一大臼歯の咬合面では,小学校低学年(6〜8歳)で高頻度にみられる白濁と歯垢付着が,小学校高学年(9〜11歳)では黒い着色の増加へと変化する。う蝕の進行ではなく,再石灰化の結果であろうと考えられ,この時期においては修復を急がず,予防管理を重視することが大切であると結論される。
  • 外山 敦史
    1999 年 49 巻 3 号 p. 365-383
    発行日: 1999/07/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    愛知県O小学校では1988年よりフッ化物洗口(450ppmF)を導入している。フッ化物洗口開始前64名(F洗口前群),開始後55名(F洗口後群)の児童を対象に,フッ化物洗口開始前後における各種う蝕活動性試験のスクリーニング効率の変化をみるために本調査を行った。う蝕活動性試験・評価法はエナメル質生検法,カリオスタット®歯垢沈着度と間食調査で,う蝕増量指数として上顎中切歯,上下顎第一大臼歯の全6歯のRID Indexを用い,これらをオッズ比およびスクリーニング手法を用いて分析した。RID Indexの2年生から6年生にかけての増加は,F洗口後群のほうが低値であった。う蝕活動性試験を比較すると,下顎第一大臼歯エナメル質生検法では,F洗口前群においては有用なスクリーニング効率を示していたが,F洗口後群においては有意性を示さなかった。一方,上顎中切歯エナメル質生検法では,両群とも有用なスクリーニング効率を示していた。間食因子は前後群間に大きな違いはなく,回数よりも点数のほうが重要な因子であった。カリオスタット®もF洗口前後群間に違いはなかった。歯垢沈着度はF洗口後群では有意なオッズ比は得られなかった。上顎中切歯エナメル質生検法,カリオスタット®,間食因子はフッ化物洗口開始前後とも有用なスクリーニング効率を示したが,下顎第一大臼歯のエナメル質生検法と歯垢沈着度はフッ化物洗目下でスクリーニング効率が低下する結果であった。
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