口腔衛生学会雑誌
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51 巻, 3 号
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論説
原著
  • 外山 敦史, 森田 一三, 中垣 晴男
    2001 年 51 巻 3 号 p. 210-222
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    インターネツト,World Wide Web(WWW)上にて,歯科に関する自記式質問調査を行った。2,858件の回答が得られ,そのうち2,637体が有効な回答であった。質問票中の15質問項目において,個人属性(年齢,性別,職種,地方,都市郡)による回答傾向の偏りが存在するかどうかを知ることを目的とし,各質問の回答を目的変量,5つの属性を説明変量としたロジスティツク回帰分析を行った。その結果,分析を行った15回帰式中,11回帰式が有意性を示し,また,それぞれの式中において,さまざまな個人属性の偏回帰係数が有意性を示した。これは,有意性の認められた質問項目の回答において,個人属性による回答傾向の偏りが存在していることを示している。特に年齢,性別,職種の属性は,多くの質問項目で有意性が認められ,また,地方属性も4質問項目で有意であった。しかし,都市郡の属性は,有意な係数が認められなかった。今回のインターネツト上での歯科質問調査において,個人属性によって異なる目答傾向を生じることが確認されたことは,その回答傾向はインターネツトユーザー全体に共通するものではなく,ある程度現実の個人属性による回答の偏りを反映した結果である可能性が示唆されるものである。したがって,さまざまな歯科質問調査における有用性があることが確認された。
  • 佐藤 淑郎
    2001 年 51 巻 3 号 p. 223-232
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    女性の加齢に伴う,歯の喪失を明らかにする目的から,最小二乗法による多項式を用い年齢と歯の喪失数の関係をシミュレーションした。その結果,多項式を用いてシミュレーションを実施した場合,誤差の少ない適当なシミュレーション関数を得ることができた。この多項式を微分して求めた歯の喪失レイトから,喪失傾向は調査年代とともにあるいは対象者の年齢とともに変化することが明らかとなった。喪失レイトは,単位時間当たりの喪失量を表す重要な係数であることから,歯の喪失数を予測することができた。すなわち,女性の場合10〜20歳代の喪失率の変化が認められたのは, 1981年と1993年の2回の調査資料のみであった。歯の喪失レイトは,歯科保健管理上,歯科保健の効果判定において,重要かつ有効な係数である。
  • 森田 一三, 外山 敦史, 中垣 晴男
    2001 年 51 巻 3 号 p. 233-240
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    インターネット上における歯科質問調査の再現性の検討を行った。5ヵ月の期間をおいた場合および同一時期にホームページにおいて類似の調査を行い比較した。調査内容は歯科保健行動,治療に対する評価,治療方針,保健行動に対する意識,歯科用品の使用状況を問うものであった。その結果,1回目と5ヵ月後においてでは「舌ブラシの使用(x = 0.883)」,「電動歯ブラシの使用(x = 0.664)」,「定期健診の受診U = 0.644)」の高い再現性を認めた。「歯のマニキュアの使用」を除くすべての項目において5カ月後の再現性は有意に(p<0.05)認められた。また,再現性の低くなる質問内容は「受けた指導に対する行動」,「治療・予防に対する意識」についてたずねるものと考えられた。同一時期の再現性では「歯磨き回数2回以上(x = 0.974)」,「洗口剤の使用U = 0.797)」,「歯間ブラシの使用(x = 0.779)」の再現性が高かった。すべての項目において同一時期の再現性は有意に(p<0.05)認められた。以上より,インターネットを利用した質問調査は,歯科の分野において再現性が高く有用な調査手段の1つとなりえることが確認された。
  • 新谷 裕久, 小澤 亨司, 廣瀬 晃子, 石津 恵津子, 大橋 たみえ, 可児 徳子
    2001 年 51 巻 3 号 p. 241-247
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    この研究は,病院歯科診療室で気候環境因子を用いた重回帰式による気菌管理の実用性を評価するために実施した。気候環境因子(気温,気温,気流,在室人員数,開放窓数,エアコン吹き出し口数,外気温,外気温,外気流)と気菌数(浮遊細菌-SY法,落下細菌-Koch法)を1990年に朝日大学病院の中規模診療室(矯正,小児)で,1991年に大規模診療室(補綴,保存)で測定した。そして重回帰分析により,浮遊細菌教を予測するための重回帰式が導かれた。また,4年後の1994年と1995年に測定された気候環境因子を前に導かれた重回帰式に代人し,式の実用性を評価した。次の事柄を評価した。1.気候環境因子と気菌数の差(t検定)2.重回帰式により得られた浮遊細菌の予測値が利用可能かどうか(R2, R, F)。3.重回帰式による予測値を用いた気菌の管理は実用的であるかどうか(敏感度と特異度)。気菌の許容限界値は0.2 CFU/l とした。結果として次のことが得られた。1.各診療室で4年後の気候環境因子の測定値に違いがみられた。中規模診療室では1994年の浮遊細菌数は少なかったが,大規模診療室では1991年に比べ1995年で落下細菌数の増加がみられた。2.重回帰式による浮遊細菌数の予測は4年後にも有効であった。3.すべての診療室で敏感度は60%以上であり,最も高い陽性反応適中率は70%であった。以上のことから,気候環境因子を使った重回帰式による気菌管理は有効であると考えられた。
  • 安藤 雄一, 高徳 幸男, 峯田 和彦, 神森 秀樹, 根子 淑江, 宮崎 秀夫
    2001 年 51 巻 3 号 p. 248-257
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    成人を対象とした歯科健診は低受診率による選択バイアスが生じやすいことから,1999年度に行われた第4回新潟県歯科疾患実態調査では,従来の歯科健診のみによる方式から,あらかじめ調査対象者全員に質問紙を配布して歯科健診を行う方式に切り替えた。本論文では,歯科健診の受診率と質問紙の回答率,健診受診者と非受診者の特性を比較することにより,新たに採用した調査方式の有用性を評価することを目的とした。調査地区は,新潟県内14保健所に1〜2地区を割り当て,23地区を抽出した。調査対象者は,対象地区内に在住する1歳以上の全住民3,561名とした。歯科健診の受診率は35.3%と低く,年齢・性差が大きかった昿質問紙の回収率は83.2%と高く,年齢・性差は小さかった。質問紙の各項目について健診受診の有無別に比較した結果,自己評価による現在歯数は60〜70歳代で受診者のほうが多かった。これは,歯科健診のみによる従来型の調査方法を採用し,受診率が今回のように低い場合,高齢者の現在歯数が過大評価されることを示唆している。また,歯科健診の受診者は,非受診者に比べて,口腔の自覚症状を有する割合が高く,歯科医院を早めに受療し,歯石除去経験のある割合が高かった。以上より,今回新たに採用した調査方式は,対象集団の実態を正しく示すために有用と考えられた。
  • 吉野 浩一, 松久保 隆, 高圧洲 義矩
    2001 年 51 巻 3 号 p. 258-262
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    本研究は,歯科保健の面から歯の喪失のターゲッにすべき歯種を解析することを目的として,喪失歯の初発部位を調査した。対象は1992年度の職場の健診の受診者(20〜49歳)で欠損歯(第三大臼歯を除Oのない者のうち,1997年度の健診において1歯を喪失していた男性102名,女性45名とした。初発の喪失部位について,男性は,下顎第二大臼歯が15.7‰下顎第一大臼歯が14.7%であった。一方,女性は下顎第一大臼歯が31.1‰上顎第一大臼歯が11.0%であった。女性は男性より下顎第一大臼歯の喪失する割合(31.1%)が有意(p<0.05)に高かった。男性の20〜34歳群は,35〜49歳群より上顎第二小臼歯(13.2%)が,35〜49歳群は,20〜34歳群より下顎第一大臼歯(18.4%)および下顎第二大臼歯(18.4%)の割合が高い傾向であった。
  • 安藤 雄一, 葭原 明弘, 清田 義和, 宮﨑 秀夫
    2001 年 51 巻 3 号 p. 263-274
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    本調査は,地域に在住する成人における歯の喪失の発生率とリスク要因について評価することを目的としている。調査対象は新潟県I町における成人歯科健診受診者で,分析対象はベースライン調査(1997年)を受診した有歯顎者724名のうち,3年後に行われた追跡調査を受診した269(男性128,女性141)名である。ベースライン時の平均年齢は60.6歳(SD = 12.8)であった。歯の喪失の有無に関して,個人単位および歯単位で分析し,ベースライン時における口腔診査と質問紙調査との関連についてロジスティック回帰分析を行った。調査期間中に喪失した歯はベースライン時に口腔内に存在していた歯の4.9%で,喪失が認められた対象者は48%,一人平均年間喪失歯数は0.33本であった。歯の喪失リスクに関するロジスティック回帰分析の結果,個人単位の分析では,現在歯数が10〜27歯・未処置う蝕を保有・口腔の自覚症状がある・過去1年以内に歯科医院を受診・歯間清掃具を使用していない人たちは,歯を喪失しやすいことが示された。一方,歯単位の分析では,智歯,未処置歯,クラウン(単冠)装着歯,ブリッジ支白歯,動揺歯,鈎歯が喪失しやすいことが確認された。
  • 吉野 浩一, 鈴木 啓介, 小山 安徳, 松久保 隆, 高江洲 義矩
    2001 年 51 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    成人の受療行動の解析として,アンケート調査から年齢特性と男女差の比較を行ってその要因を明らかにすることを目的とした。主として銀行業務に従事する25〜64歳までの男性474名と25〜44歳までの女性129名を対象に歯科受療行動について,アンケート調査のなかで「歯の治療を受けないでがまんする」をとりあげて検討した。その結果,年齢差について男性は「歯の治療をしないでがまんする」ことがある者の割合は年齢群が上がるとともに低くなる傾向を示し,55〜64歳群で34.5%であった。がまんする理由として,「忙しくて通院できない」と回答した者の割合は55〜64歳群が低く, 26.3%であった(p<0.05)。一方,女性の年齢差についてみると,35〜44歳群は「がまんする」者の割合が25〜34歳群よりも低い傾向にあった。しかし,がまんする理由として「忙しくて通院できない」と回答した者が25〜34歳群の女性では31.8%であるのに対して,35〜44歳群は66.7%で有意に高かった(p<0.05)。男女差についてみると,25〜34歳群は「歯の治療をしないでがまんする」ことがある者が,男性で52.5‰女性では48.4%であった。がまんする理由として,「忙しくて通院できない」と回答した者が男性は52.8‰女性が31.8%と有意な差(p<0.05)が認められた。以上のことから「忙しくて通院できない」者に対する歯科医療従事者から個別的であり,しかも支援するような有益なアプローチが必要であることが示唆された。
  • 有本 隆文, 安細 敏弘, 竹原 直道
    2001 年 51 巻 3 号 p. 281-292
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    Porphyromonas gingivalisは,グラム陰性嫌気性桿菌であり,一般に糖分解を行わない細菌として知られている。今回P. gingivalis381株におけるピロリン酸依存型ホスホフルクトキナーゼ(PPi-PFK)をコードする遺伝子(PgPFK)のクローニング,塩基配列の決定,および遺伝子発現を行い,その性状解析を行った。PgPFKは1,650bpからなり,550アミノ酸,分子量61,044 Da,等電点5.52,二量体のタンパクであることが明らかとなった。ホモロジー検索の結果,解糖系のkey enzymeであるPFKのうち,62kDa Borrelia burgdorferi PFK (50%),Treponema pallidurn β-subunit(52%),などのPPi-PFKと高い相同性を示した。アミノ酸配列を詳細に比較検討したところ,PPi-PFKに共通して認められるモチーフ(GGDD,TIDXD,MGR)およびbinding sitesのほとんどが保存されていることが明らかとなった。また塩基配列をもとにPFKの分子系統樹を作製したところ,PFKは4群に分類されることが確認され,PgPFKは60〜62 kDaの分子量をもつlong sequence typeに属し,それらはcoherentなclusterを形成していることが明らかとなった。PgPFK遺伝子を組み込んだプラスミド(pET 21 a-PgPFK)を構築し,E. coli BL 21(DE3)株を用いて組み換えPgPFKの発現誘導および精製を行い,得られた精製タンパクの性質を調べた結果,ほかのPPi-PFK同様,fructose 6-phosphate からfructose 1,6-bisphosphateへの反応は可逆的であること,PFK活性はMs^<2+>依存性でありATPやfructose 2,6-bisphosphate等の影響を受けないことが明らかとなった。またRT-PCR分析を行い,PgPFK遺伝子がmRNAレベルで発現していることを確認した。以上の結果からPgPFKが典型的なPPi-PFKに属し,その性質もいままでに報告されているPPi-PFKと非常に類似していることが明らかになった。糖新生系の一酵素であるfructose 1,6-bisphosphataseがP. gingivalisの遺伝子データベース上に検索されないことからPgPFKがその代役を果たしている可能性が考えられる。
  • 南 健太郎, 永井 康彦, 稲葉 大輔, 染谷 美子, 松田 浩一, 米満 正美
    2001 年 51 巻 3 号 p. 293-297
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    フッ素徐放性歯科材料が象牙質初期扇蝕の再石灰化に及ぼす効果をin vitro で検討した。材料には0.1M乳酸ゲル(pH5)により人工初期釧蝕を形成した牛歯歯根象牙質を用いた。脱灰歯面の中央に規格円形高利(直径3mm)を形成し,フッ素徐放性材料であるDyract ® (Dentsply), Fuji lonomer ® Type II (ジーシー)またはFuji II LC (ジーシー)のいずれかを充填した。その後,ミネラル溶液(1.5 mM CaCl2,0.9mMKH2PO4,20mM Hepes, pH 7)に14日間浸漬した。また,高利を形成せず実験歯面にNaFとして2 ppmFを添加したミネラル溶液を作用させた試料を比較のために設定した。処理後,修復物辺縁の象牙質を対象としてTransversal Microradio-eraphy(TMR)によりミネラル濃度分布を評価した。その結果,フッ素徐放性歯科材料を充填した試料の高利辺縁象牙質には,各材料のフッ素徐放量に応じた再石灰化に伴う脱灰深度1dとミネラル喪失量ΔZの明らかな減少が観察され,フッ素徐放性材料は高洞辺縁の歯質保護に有効であることが示唆された。
  • 小澤 雄樹, 千葉 潤子, 松坂 朋典, 坂本 征三郎
    2001 年 51 巻 3 号 p. 298-304
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    齲蝕原因菌のmutans streptococciとヒト白血球抗原(HLA)特性の関係が知られている。そこで,この研究の目的は,ヒトHLAの遺伝子型が齲蝕経験に影響するのか否かを調べるために,齲蝕なし群と齲蝕多発群(DMFT≧10)間のHLAクラスII対立遺伝子型の頻度を比較することであった。HLA-DRB1,-DQA1および-DQB1の各対立遺伝子型を,親戚関係にない日本人100名,年齢18〜28歳の健康な青年において,ポリメラーゼ連鎖反応-シークエンス特異性オリゴヌクレオチドプローベ(PCR-SSOP)を用いて分析した。齲蝕の診査は,WHOの診査基準と方法に従い,歯鏡と掃討を用いて行った。齲蝕経験としてDMFTを用いた。齲蝕なし群と齲蝕多発群の間に,いずれのHLAクラスII対立遺伝子についても有意差はなかった。以上の結果から,日本人青年について調査した本研究では,齲蝕経験とHLAクラスH遺伝子型との関連は認められなかった。
  • 千葉 潤子, 小澤 雄樹, 坂本 征三郎
    2001 年 51 巻 3 号 p. 305-314
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    ヒトの唾液分湯量は種々の全身性疾患により影響されるが,これらの疾患に対する罹患性はヒト白血球抗原(HLA)のクラスII遺伝子の多型により影響されることが知られている。そこで,この研究の目的はHLAの遺伝子型が唾液分泌量に影響するのか否かを調べるために,唾液分泌量とHLA対立遺伝子型の発現頻度との相関を明らかにすることである。HLA-DRB1,HLA-DQA1,HLA-DQB1の各対立遺伝子型を,親戚関係にない日本人105名(男性78名,女性27名),平均年齢20.5歳(18〜28歳)の健康な青年を被験者とし,ポリメラーゼ連鎖反応一シークエンス特異性オリゴヌクレオチドプローベ法(PCR-SSOP)を用いて分析した。パラフィンワックスでの刺激唾液量を測定し,被験者を各々0.7ml/min 以下,0.7〜2.0ml/min,2.0ml/min以上の3群に分類した。0.7ml/min以下群でのHLA-DRB1*0901,HLA-DQA1*0301,HLA-DQB1*0303の対立遺伝子頻度は2.0ml/min以上群のそれらに比較して統計学的に有意に高かった(各々p=0.015,OR=6.33;p=0.0053,pc=0.042,OR=14.17;p=0.0062,OR=7.92)。これに対して,2.0ml/min以上群のHLA-DRB P0802,HLA-DRB1*1302,HLA-DRB1*1501,HLA-DQA1*0102の対立遺伝子頻度は0.7ml/min 以下群に比較して統計学的有意に高かった(各々p=0.04;p=0.04;p=0.04;p=0.0024,pc=0.019,OR=0.06)。以上の結果から,HLAクラスII対立遺伝子,もしくはこれに連鎖している遺伝子が唾液分泌に関与していることが示唆された。
報告
  • 境 脩, 川口 陽子, 平田 幸夫
    2001 年 51 巻 3 号 p. 315-319
    発行日: 2001/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    各大学の予防歯科学・口腔衛生学の教育目標や予防歯科学・口腔衛生学の教育のなかで,フッ化物に関する教育がどのように位置付けられているかを把握することを目的として,日本口腔衛生学会フッ化物検討委員会は,平成10年9月に全国の29歯科大学・歯学部を対象に,フッ化物に関する教育について質問票調査を行った。予防歯科学・口腔衛生学の時間数は,大学により講義・実習ともかなりの差が認められた。また,フッ化物に関する教育も,大学により時間数や内容に関して大きな差が認められた。今回の教育調査により,各大学のフッ化物教育に関する時間数や内容の差異が明らかになったが,各大学での教育は歯科学生の知識や態度にどのような影響を及ぽすのか,さらに検討を行う必要があるだろう。また,他の講座においてもフッ化物の講義が行われていたので,教育は連携して進めていくことが望ましいと思われる。今回,「他の講義内容は知らない」と回答した大学もあったが,フッ化物に関する教育は,予防歯科学・口腔衛生学講座が中心となって,他の講座と調整しながら実施することが理想である。これまで日本においてフッ化物応用の普及が低かったことは,歯科学生への教育が不十分であったと反省せざるをえない。フッ化物応用の普及率を向上させるため効果的に教育を行うには,講義方法,講義形式,実習内容等の工夫を行うことが必要である。また,単にフッ化物に関する知識を与えるだけではなく,実際に臨床や公衆衛生現場でフッ化物を応用できるようになり,人々に対して積極的にフッ化物応用を推進していく姿勢をもつような歯科医師養成が望まれる。このような教育を行うには,どのようなカリキュラムがよいのか,諸外国の例を参考にし,講義や実習との関連性も含めて日本口腔衛生学会は検討していくべきである。学会のなかに教育部会を設置して,教員研修プログラムを企画し,また,国内留学制度を設けて大学間の教育者交流を行っていくことも重要と考えられる。各大学の予防歯科学・口腔衛生学の教育目標や予防歯科学・口腔衛生学の教育のなかで,フッ化物に間する教育がどのように位置付けられているかを調査していくことは,今後必要であると考えられた。
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