本研究の目的は,高齢者における咀嚼能力が総エネルギー摂取量,栄養素摂取量および食品群別摂取量にどのような影響を与えているかを検討することである.対象者は,口腔診査,食物摂取状況調査,アンケート,血液検査に協力の得られた新潟市内在住の70歳,512人(男性265人,女性247人)である.咀嚼能力については「山本式咀嚼能率判定の変法」を,栄養摂取状況については「半定量的食物摂取頻度調査法」を使用し評価した.咀嚼能力の低い者の割合は,男女それぞれ48%および60%であった.平均総エネルギー摂取量は,男女それぞれ1,706.3kcal(SD=350.8)および1,474.9kcal(SD=252.3)であった.咀嚼能力と総エネルギー摂取量,栄養素摂取量および食品群別摂取量との関連を評価した結果,男性の対象者において咀嚼能力の低い群では,総エネルギー摂取量,緑黄色野菜群およびそのほかの野菜・果物群の摂取量が有意に少なくなっていた(p<0.01,p<0.05,p<0.05).野菜・果物群の摂取量の低下は,抗酸化物質であるビタミン類の摂取量減少につながると考えられることから,男性において咀嚼能力の低下は,心血管系疾患や食道,胃などの消化器系の疾患のリスクファクターとなる可能性が考えられる.以上の結果から,70歳の健常男性では,咀嚼能力は総エネルギー摂取量および栄養バランスに影響を及ぼすことが示唆された.
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