口腔衛生学会雑誌
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53 巻, 2 号
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論説
  • 渡邊 貢次, 鈴木 千春
    2003 年 53 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    1872年の「学制」の制定は,積極的に欧米文化・教育の導入をすすめ,従来の日本型文化・教育に大きな影響を与えた.学校衛生もこの流れのなかに含まれ,医学的学校衛生から教育的学校衛生へと変遷していった.学校衛生教育は明治維新政策にのり,どちらかというと官主導あるいは官と一体で進められてきており,医学者・教育行政者により明治中期から大正期に広く展開されていくようになったが,学校歯科衛生教育についていえば遅れがちであった.その理由の1つとしては,歯科領域は教育的医療であるという歯学関係者の思い入れとは別に,教育行政的に学校健康教育にかかわる諸課題であるとの認識が,熟すのが遅れたこともあげられよう.総じていえば,学校歯科保健領域は歯科医界・民間企業が主導となって活発に進められ,その成果が教育現場に浸透してきたといえる.すなわち,歯科衛生教育は大正初期に学校の外部からはじまり,しだいに学校内活動が定着化し,昭和期に入ると,教員や学校組織として本格的に取り組んでいくことがみられるようになった.しかし,学校衛生教育も戦時体制の影響を受け,これまでの学校で培われた健康教育は,身体個性の育成から離れた画一的で国家主義的な側面も現れてきた.
原著
  • 葭原 明弘, 深井 浩一, 両角 祐子, 廣富 敏伸, 宮崎 秀夫
    2003 年 53 巻 2 号 p. 91-97
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    デンタルフロスを日常的に使用することは,歯肉炎予防にとって非常に重要なことある.本調査の目的は,スクールベースでのデンタルフロスを用いた歯肉炎予防プログラムの効果を評価することである.対象者は,10歳児86人であり,そのうち39人を教育群とした.教育群では,歯科衛生士により,上下顎前歯部に対するデンタルフロスの使用方法について指導が行われた.教育群の学童は,調査期間中,毎日給食後,担任教師の監督下でデンタルフロスを使用した.診査は,1人の歯科医師によって上下顎前歯部10ヵ所の歯間乳頭部に対し行われ,評価標として,Papilla bleeding indexの変法およびPlaque indexの変法を用いた.6ヵ月間の変化量を1人平均出血部位数でみると,教育群では,-1.64±2.49なのに対し,非教育群では-0.45±2.68であった.この差は統計学的に有意であった.(p=0.037,t-test).さらに,教育群における18ヵ月の変化量を比較すると,1人平均の出血部位数は,ベースラインの4.67±3.01から18ヵ月後の2.35±2.47に有意に減少していた(p<0.001,t-test).結論として,本調査結果により,デンタルフロスを用いたスクールベースでのプログラムは歯肉炎予防に有効であることが明らかになった.
  • 吉野 浩一, 松久保 隆, 高江洲 義矩
    2003 年 53 巻 2 号 p. 98-102
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    喫煙量と歯の喪失との「量-反応」関係を解析することを目的に,某銀行従業員の男性25〜54歳の737名を4年間追跡調査した.対象者は,調査開始時に親知らずを除くすべての現在歯(28歯)を保有している者とした.解析は10歳間隔で年齢群別に行った.その結果,各年齢群において,喫煙量の増加とともに喪失歯数は増加する傾向を示した.25〜34歳群では,非喫煙者の4年間の平均喪失歯数が0.09歯,10本以内/日の喫煙者は0.07歯,20本以上/日の者は0.26歯であった(p<0.05).20本以上/日の喫煙者の歯を喪失するオッズ比は,非喫煙者の1.42(95%信頼区間0.99〜2.04)であった.本調査結果では,「量-反応」関係は明確には現れなかったが,10本以内/日と20本以上/日の者の間に喪失歯数の差が現れる傾向が示された.
  • 大場 茂, 今井 敏夫
    2003 年 53 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    近年,ハイドロキシアパタイトゾル(HAm)は,未焼結ハイドロキシアパタイト微粒子で構成された新しい生体材料として開発された.先にわれわれは,HAmは骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1のアルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性を培地中の牛胎児血清(FBS)非存在下で抑制するが,FBS存在下では抑制しないことを明らかにした.そこで本研究では,HAmの生体親和性における血清アルブミン(SA)の役割を,MC3T3-E1の細胞表面に局在し,石灰化に関与するALP活性を指標に検討した.HAmはSA含有培地中にて前処理した後,HEPES緩衝液で洗浄した.HAmに吸着したSA量は,処理時間およびSA濃度の増加とともに高くなった.HAmに吸着したSAの最大量は,HAm1mg 当たり約47.6μgであった.さらに,HAmに吸着したSAはわずかに5%しか培地に遊離しなかった.未処理HAmは細胞のALP活性を抑制したが,SAで前処理したHAmはわずかなALP活性の抑制にとどまっていた.これらの結果から,SAはHAmの骨芽細胞に対する親和性を促進している可能性が示唆された.
  • 植松 道夫, 古谷 みゆき, 薄井 司文歩, 川村 和章, 中嶋 恵美子, 荒川 浩久
    2003 年 53 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    平成12年から厚生省の「健康日本21」がスタートし,「歯の健康」の目標の1つとして「学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合を90%以上」があげられた.わが国におけるフッ化物配合歯磨剤の適正な普及啓発の一環として,園児,小学生,中学生,園児の保護者と小学生の保護者を対象に,歯みがき状況やフッ化物配合歯磨剤の利用状況などについての質問紙調査を実施した.フッ化物配合歯磨剤の使用者率は,小学生で63.6%,中学生で55.2%と「健康日本21]の目標値より低く,歯磨剤の選択理由に「フッ素入り」をあげた者も低率であった.また,歯みがき後に多数回の口漱ぎをしているフッ化物配合歯磨剤使用者が多く,フッ化物の効果をより高めるための使用法などの啓発の必要性が示唆された.
  • 阿部 智, 有明 幹子, 品田 佳世子, 川口 陽子
    2003 年 53 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    フッ化物配合歯磨剤の利用状況を把握し,フッ化物配合歯磨剤の普及を図るための基礎資料を得るために本研究を実施した.2000年に東京都内の幼稚園児161名,小学生1,388名,中学生636名,およびその保護者2,144名,計4,329名を対象に質問票調査を行った.その結果,全対象者の96%以上は1日1回以上歯磨きを行っており,平均の歯磨き回数は2回であった.幼稚園児と小学生の約15%は歯磨きするときに歯磨剤を全く使用していなかった.フッ化物配合歯磨剤の利用状況は,常時使用者が幼稚園児48.1%,小学生48.8%,中学生63.7%,保護者65.5%,ときどき使用の者も含めると幼稚園児83.5%,小学生76.0%,中学生76.2%,保護者77.0%,全体では76.9%であった.歯磨剤を使用する主な理由はう蝕予防と歯周疾患の予防であった.歯磨剤を使用しない主な理由は子供では「味が悪い」,「泡立ちがよすぎてよく磨けない」であり,成人では「摩耗すると思う」,「害があると思う」,「歯科医師にいわれて」であった.本調査によって,フッ化物配合歯磨剤の使用者は8年前より増加していること,歯磨剤の使用を勧めない歯科医師がいることが判明した.今後さらにフッ化物配合歯磨剤を普及させていくためには,その効果などに関する情報提供を行い,また歯科専門家に対してもフッ化物配合歯磨剤の使用を勧めるよう働きかけていくことが必要であると考察された.
  • 樋浦 健二, 葭原 明弘, 宮崎 秀夫
    2003 年 53 巻 2 号 p. 130-136
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高齢者における辺縁部および根尖部の歯周組織の状態をX線学的に評価し,骨吸収度や歯の喪失との関連要因について分析することである.対象は,1998年新潟市で実施した調査に参加した70歳600人のうち,有歯顎で,2年間の追跡調査を受けた379人から層別抽出した100人である.パノラマX線撮影をもとに骨吸収度,根尖部の状態を調査した.ベースライン時の現在歯のうち無髄歯は36.9%を占め,そのうち35.6%に根尖病巣が認められた.骨吸収度は,現在歯群別では,1〜9本群,20本以上群でそれぞれ36.4,27.5%であり20本以上群で有意に小さかった.2年間での喪失歯は50本で,ベースライン時での歯髄の状態では,有髄歯から7本,無髄歯から43本であった.ロジスティック回帰分析の結果,2年間での歯の喪失の危険性は,現在歯1〜9本群で20本以上群と比較し33.33倍,骨吸収度50%以上ありで5.11,5.80倍,無髄歯で8.01倍,根尖病巣ありで9.87倍,鉤歯で2.77,2.36倍であることが示された.本調査により,高齢者において20本以上現在歯を有する者は骨吸収が少なく,喪失リスクも小さかった.また,歯髄の保存が喪失リスクの低下につながることが示唆された.
  • 日高 三郎, 松尾 忠行, 大内 紘三
    2003 年 53 巻 2 号 p. 137-144
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    著者らはpHメーターを用いた,ヒト全唾液のリン酸カルシウム沈殿物形成抑制能の測定法(pH低落法)を開発し理論づけを行ってきたが,今回はこれを簡便に行うために,pH指示薬ブロムチモールブルー(BTB)を使用することとし,pH低落法との比較を行った.色調変化で判定するBTB法では,pH差が大きいことが必要だが,NaF無添加でpH変化がpH7.4から6.8(ΔpH=0.6)だったのに対し,250μMのNaF添加では,pHは7.4から6.3(ΔpH=1.1)まで低下し,BTBの青色-黄緑色-黄色にわたる色調変化を観察できた.唾液濃度が2.5,5.0,7.5%(v/v)のとき,250μMのNaF添加条件で,37℃,40分温浴後,色調はそれぞれ黄色,青緑色,青色となった.このことは,唾液によるリン酸カルシウム沈殿物形成抑制能をBTBの色調変化により半定量的に評価できることを示唆している.そこで,実際に10名の被検者の唾液を用いて本法を実施したところ,誘導時間(pH低落法:本文参照)と色見本を用いたpH(BTB法)との間の相関係数(r)は唾液濃度が1.25〜2.50%(v/v)のとき,0.79〜0.86となった.このことは,BTB法で,個人唾液の口腔内リン酸カルシウム沈殿物形成(再石灰化と歯石形成)に対する抑制効果を簡便に評価できることを示唆している.
報告
  • 兼平 孝, 本多 丘人, 川上 智史, 秋野 憲一, 和田 聖一, 佐野 英彦, 森田 学
    2003 年 53 巻 2 号 p. 145-149
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2017/12/15
    ジャーナル フリー
    日本の有珠山が2000年3月31日に噴火した.火山の周辺に住む5,000人以上の住民は安全に避難することができた.大きな避難所では,避難住民のために民間病院が臨時の診療所を直後に開設したが,歯科医療サービスは実施されていなかった.北海道庁の要請により,北海道内の2つの大学歯学部と歯科医師会がそれぞれ歯科医師と歯科スタッフからなる歯科医療チームを編成し,各避難所を巡回した.各避難所で実施した歯科医療サービスとしては,歯科相談や保健指導に加え,義歯の調整,歯痛の緩和,脱離修復物の再着などの応急処置が多かった.神戸の大地震や奥尻島の津波などの災害時の経験に加え,今回の経験から,災害時の際の避難住民の健康管理プログラムには,歯科医療サービスが必要であることが改めて示唆された.
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