口腔衛生学会雑誌
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55 巻, 5 号
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原著
  • 瀧口 徹, 深井 穫博, 青山 旬, 安藤 雄一, 高江洲 義矩
    2005 年 55 巻 5 号 p. 524-536
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    わが国における戦後の歯科医師需給施策は, 1960年代後半から70年代にかけて歯科大学(歯学部)の急増策で始まったが, 1980年後半から一転して抑制策に転じた.しかし入学定員の20%削減, 国家試験の改善だけでは十分に功を奏さないことが明らかである.そこで本研究においては, 1982年から2002年までの20年間の人口10万人当たりの歯科医師数(歯科医師10万比)の都道府県較差に着目して, 増減の源である歯科大学(歯学部)の設置主体と社会経済的および地理的特性のかかわりを明らかにすることを目的とした.要因分析にはGLIM法: 一般化線形モデル法を用い, 将来予測は回帰式の外挿法によった.さらにこれらの結果に基づき, 歯科医師需給調整施策について検討した.20年間の歯科医師10万比の推移は, 全都道府県で相関係数が0.96以上で明確な直線的増加傾向を示し, かつ地域較差は縮減していない.GLIM分析で国公立大の存在がその都道府県の歯科医師10万比の急増に最も関連が強く, 国公立大は設置都道府県に対して新規参入歯科医師への強い吸引力を示した.しかし, 近隣都道府県への波及効果は予想に反して有意ではなかった.また供給過剰の閾値を歯科医師10万比80人とすると, 20年後に5割強の都道府県が供給過剰になると予測され, 需給対策には既存の全国的施策に加えて歯科医師臨床研修地の分散化が有効と考えられた.
  • 山本 龍生, 江國 大輔, 山中 玲子, 坂本 友紀, 林 浩範, 渡邊 達夫
    2005 年 55 巻 5 号 p. 537-542
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    ラットの歯周炎に対する, グリチルリチン酸ジカリウム, クレイツイオン^[○!R]ハイパワー, クレイツイオン^[○!R]ナンバーワンを配合した歯磨剤の効果, および歯磨剤と機械的刺激を併用したときの効果を検討した.ラット40匹の両側上顎第一臼歯口蓋側歯肉溝に細菌由来のリポポリサッカライドとプロテアーゼを4週間塗布し, 歯周炎を惹起した.その後, それらに加えて4種類の歯磨剤(対照歯磨剤, グリチルリチン酸ジカリウム配合歯磨剤, グリチルリチン酸ジカリウムおよびクレイツイオン^[○!R]ハイパワー配合歯磨剤, グリチルリチン酸ジカリウムおよびクレイツイオン^[○!R]ナンバーワン配合歯磨剤)を4週間塗布し, 対照歯磨剤群以外のラットの左側第一臼歯口蓋側歯肉を電動歯ブラシで1日1回機械的に刺激した.屠殺後, 歯肉のヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し, 組織学的に比較検討した.その結果, グリチルリチン酸ジカリウムにクレイツイオン^[○!R]ハイパワーまたはクレイツイオン^[○!R]ナンバーワンを配合した歯磨剤は, それぞれ結合組織中または接合上皮内の好中球を有意に減少させた.また, グリチルリチン酸ジカリウム配合歯磨剤塗布に歯肉への機械的刺激を加えると, グリチルリチン酸ジカリウムにクレイツイオン^[○!R]ハイパワーまたはクレイツイオン^[○!R]ナンバーワンを配合した歯磨剤と同程度の結合組織中または接合上皮内の好中球を減少させる効果が得られた.
  • 埴岡 隆, 松尾 忠行, 新保 秀樹, 松瀬 亮一
    2005 年 55 巻 5 号 p. 543-551
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    職場で歯肉溝滲出液(GCF)を採取し, 炎症性物質の数値を健康行動の変容に役立てることをリスクスクリーニング検査の視点から検討した.事業所の従業員921名の口腔の1カ所から, ろ紙を用いてGCFを採取し, 検査センターで, ヘモグロビン(Hb), α1-アンチトリプシン(AT), ラクトフェリン(LF), IgAを一括して定量した.ロジスティック回帰分析により, 検査値と二値化した口腔の健康状況およびライフスタイルとの関連性を調べた.すべての検査項目は, 現在歯数と有意に負の相関を示し, Hb, AT, LFは個人の歯周組織の状態(CPI)と正の相関性を示した.AT, LFは歯科に関連するよい健康習慣の総数と負の相関性を示し, AT, LF, IgAは個人の歯垢付着度と正の相関性を示した.Hbは喫煙と負の相関性を示したが, 喫煙者でHb高値者が少なかったことから, Hb検査結果の説明への注意が必要であることが示唆された.GCF検査値は, 口腔の健康状況および口腔のライフスタイルと関連があることが示され, 口腔の1カ所から採取されたGCFの炎症性物質の値は, 口腔の健康状況と口腔健康習慣と関連づけることができた.口腔以外のライフスタイルとの関連が説明できるGCF検査法の開発研究が必要である.
  • 吉岡 昌美, 本那 智昭, 福井 誠, 横山 正明, 田部 慎一, 玉谷 香奈子, 横山 希実, 増田 かなめ, 日野出 大輔, 中村 亮
    2005 年 55 巻 5 号 p. 552-558
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    徳島県の山間部に位置するK村では, 平成5年度より村内の保育園, 幼稚園, 小中学校において週5回のフッ化物洗口と年度2回の歯科健康診断を実施している.本研究では, フッ化物洗口を開始してからの児童生徒のう蝕有病状況の経年的変化をまとめ, 特に, 小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況について詳しく調べた.さらには, 小学校1年生での乳歯う蝕の状況, 歯の萌出状況と6年生での永久歯う蝕経験との間の関連性について調べた.以上の結果, フッ化物洗口開始後のう蝕有病状況の経年的変化において, 永久歯う蝕は小学校低学年で早期に減少傾向が現れ, 次いで高学年, 中学生へと移行していることがわかった.小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況から, 第一大臼歯のう蝕有病率が大幅に抑制されたことが, 全体のう歯数低下につながっていることが示唆された.一方, フッ化物洗口開始後も小学校1年生での乳歯未処置う歯の本数や乳歯の現在歯数が小学校6年生でのDMFTと有意に関連することがわかった.このことは, 就学前からのフッ化物洗口は第一大臼歯のう蝕罹患を抑制するのに効果的なう蝕予防施策であるが, さらに永久歯う蝕の抑制効果を期待するためには, 乳歯う蝕を指標としたう蝕リスクの高い幼児への介入が必要であることが示唆された.
  • 石川 健太郎, 大岡 貴史, 弘中 祥司, 内海 明美, 村田 尚道, 向井 美惠
    2005 年 55 巻 5 号 p. 559-566
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    平成9年度より特別養護老人ホームにて行っている摂食・嚥下指導に関して, より効果的な指導方法や支援方法の確立を目的に平成10年度から平成14年度までの5年間の指導対象者について, 入所時調査表およびADL評価より, 食事自立状況と口腔内状態の実態について検討を行った.対象者は男性36人, 女性105人, 計141人で, 平均年齢79.4±9.0歳であった.対象者の139人は基礎疾患を有しており, 脳血管障害が最も多かった.ADLにおける自立の割合は, 食事が最も多く, 次いで口腔清掃, 移動であった.対象者の現在歯数は平均5.9±7.5本であった.対象者の96.5%は咬合支持域の回復に義歯を必要としており, 義歯の所有率は60.1%であった.基礎疾患の有無による食事自立度について, 認知症・精神疾患を有する者は, 自立の割合が有意に低く(p<0.05), 脳血管疾患では有意な差は認められなかった.対象者は安定した顎位の獲得のみならず, 咀嚼機能の回復のため義歯使用の必要があると推察された.今後は摂食・嚥下障害を有する要介護高齢者の歯科治療の受容や, 施設入所者における義歯の使用について検討が必要であると考えられた.
  • 佐久間 汐子, 清田 義和, 中林 智美, 高徳 幸男, 石上 和男, 宮崎 秀夫
    2005 年 55 巻 5 号 p. 567-573
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    新潟県三島町では, 1歳児を対象に3歳まで6カ月ごとのフッ化物歯面塗布(F塗布)とフッ化物配合歯磨剤(F歯磨剤)の配布による家庭内応用を組み合わせたう蝕予防事業を実施した.本研究は, 本事業の有効性, F塗布とF歯磨剤の受け入れやすさの比較, F歯磨剤の付加的効果について評価することを目的とした.対象児は, 当該町の1990年度〜1998年度の3歳児健康診査, 1997年度〜2001年度就学児健康診査の受診児である.う蝕有病者率は有意に低下し, 3歳児では事業開始前の42〜47%から17%に, 就学児では同様に73%から51%に低下した.また, 就学児を個人別に分類すると, 事業参加群の1.54本に対し, ほかの2群は3本以上であった.受け入れやすさについては, F塗布の定期受療児の割合83.6%に対し, F歯磨剤を1日1回使用した幼児の割合は55.2%であった.F塗布の定期受療児でF歯磨剤の「1日1回使用」群と「使用せず」群との3歳児および就学児の有病者率の比較は, 就学児で有意差が認められた.さらに, 就学児のdf歯数を目的変数とする段階式重回帰分析で, 有意な説明変数は「1〜3歳までF歯磨剤を使用せず」のみであった.以上より, F歯磨剤の付加的効果が示唆された.乳歯う蝕予防対策としては, 受け入れやすさを考慮すると, 6カ月ごとのF塗布を基本にF歯磨剤の使用を付随する形で指導することが望ましいと考えられる.
  • 藤好 未陶
    2005 年 55 巻 5 号 p. 574-585
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    歯肉炎の予防・改善教育を通して, 学校歯科保健教育の効果と教育手法および児童の心理学的背景要因との関連性を検討することを目的とした.福岡市某小学校5年生81名を2群に分け, 健康教育の手法をもとに考案した指導重視型プログラムと援助重視型プログラムを, 同一期間にそれぞれ実施した.教育効果は教育前後の歯肉炎症の程度およびブラッシングに関連する知識, 意識と行動の変化から評価した.児童の心理学的背景要因としてセルフエスティームと自己管理スキルを検討した.中等度以上の歯肉炎症を有する者の割合は教育前後で指導重視群, 援助重視群ともに減少し(p<0.001), 改善は8カ月後も維持されていた(p<0.01).ブラッシング行動関連項目のうち指導重視群で3項目, 援助重視群で5項目に改善がみられた.各授業後に行った学習過程を反映させるためのふりかえりシートの記述内容は, 両群に有意差がみられた.セルフエスティームおよび自己管理スキルと関連があったブラッシング行動関連項目は, 教育前がそれぞれ2項目と8項目, 教育後は6項目と7項目であった.両プログラムはともに歯肉炎の改善と維持に効果的であったことから, 現場の状況に応じて選択して利用できると考えられる.また, ブラッシング行動関連項目は自己管理スキルとより強い関連性が示唆されたことから, 今後は教育の受け手側の自己管理スキルにも配慮した教育プログラムの開発が期待される.
  • 南郷 里奈
    2005 年 55 巻 5 号 p. 586-599
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    今後の歯科医療の方向を探るための基礎資料を得る目的で, 歯科受診状況および診療内容の推移について診療報酬額を中心に分析を行った.歯科疾患の有病者率に比べて有訴者率や通院者率は低く, 自覚症状がなければ受診行動には結びつきにくいと推察された.受診状況をみると, う蝕や歯髄炎などが減少して歯周疾患が増加していた.患者の大半が治療目的で受診しており, 歯科健診を目的とした受診は総数の1%に満たなかった.ただし, 約2割の者は過去1年間に健診を受けた経験があった.診療報酬額は, 1990年代後半から, 修復・補綴がほぼ横ばい, 処置・手術や検査・画像診断などが減少傾向にあったが, 指導管理料は, 保健指導や予防管理に重点を置いた近年の診療報酬改定を反映し, 顕著な伸びを示していた.回帰モデルを用いた分析の結果, 指導管理料は, 前年の診療報酬総額よりも前年の指導管理料の影響を強く受けて着実に増加してきたことが示された.療養の給付を主たる対象とする現行の医療保険制度において, 診療報酬改定を通じて予防的診療行為の増加が誘導されてきたことから, こうした政策が定期受診による口腔保健の向上を促進する可能性が示唆された.また, 歯科疾患の有病者率と有訴者率には依然格差があり, 歯科を受診した患者に対しては通院の機会を捉えて定期歯科健診を勧め, 自覚症状のない人々に対してはさまざまな機会に早期の歯科受診を促すことが必要と考えられた.
  • 坂本 友紀, 多田 徹, 鳩本 清美, 山本 龍生, 渡邊 達夫
    2005 年 55 巻 5 号 p. 600-607
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    岡山県の平成14年度の3歳児う蝕有病者率は32.3%であったが, ほぼ同じコホートと思われる平成12年度の1歳6カ月児健診のう蝕有病者率は3.3%であった.3歳児のう蝕有病者率を抑制するには, 1歳6カ月から3歳までの間に, 実効性のある歯科保健事業を実施する必要がある.本研究は, これまで市町村で実施されてきた歯科保健事業の評価を目的とした.調査対象は, 岡山県内の78市町村である(平成13年度3歳児健診受診者15,379名および14年度受診者15,135名).出生前後から3歳までに市町村で実施された歯科保健事業と3歳児健診のう蝕有病者率との関係を, 事業実施地域と非実施地域で比較した.また, 事業実施によるう蝕有病者数のオッズ比を算出した.すべてのデータは岡山県の報告書をもとにした.いずれの調査年度においても, フッ化物歯面塗布の実施地域は非実施地域よりもう蝕有病者率が低く, オッズ比は0.75から0.84の間を示した.しかし, う蝕活動性試験の実施地域は非実施地域よりもう蝕有病者率が高く, オッズ比は1.07から1.14の間であった.歯科保健指導やむし歯ゼロ者の表彰は, う蝕有病者率の抑制と有意な関連が認められなかった.また, 平成11年度に歯科保健計画を策定していた地域は平成13年度, 14年度のう蝕有病者率が高かった.う蝕抑制のために歯科保健事業を実施する場合, フッ化物の利用を優先的検討課題とする必要性が示唆された.
報告
  • 木本 一成, 安藤 雄一, 晴佐久 悟, 田浦 勝彦, 小林 清吾, 荒川 浩久, 磯崎 篤則, 境 脩
    2005 年 55 巻 5 号 p. 608-615
    発行日: 2005/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    NPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議では, 2004年3月末日現在の集団応用でのフッ化物洗口実施状況を調査した.その結果, 全国での実施率は低く, 保育所・幼稚園では全国総施設数の6.5%, 小学校, 中学校ではそれぞれ全国学校総数の5.6%, 1.9%であった.いずれの施設でも全国実施施設総数の約50%を1割程度の道府県数で占め, 都道府県別のフッ化物洗口普及状況に較差がみられた.また, 洗口回数は保育所・幼稚園では週5回が, 小学校, 中学校, 養護学校などでは週1回が多かった.使用する洗口液のフッ化物濃度は, 年齢が上がるにつれて900ppmFを用いる割合が高かった.それに伴い, 使用する洗口剤はフッ化ナトリウムを用いる割合が高かった.経費の負担者・団体は, 保育所・幼稚園, 小学校, 中学校では行政や教育委員会による支援が最も多かった(すべての施設合計で83.3%).なお, 洗口実施人数の多い道府県では, 保育所・幼稚園, 小学校, 中学校のいずれも行政や教育委員会の負担が中心であった.多くの都道府県の「健康日本21の地方計画」にフッ化物応用が組み込まれていないこと, 具体的なフッ化物洗口に関する目標値が掲げられていないこと, 実際のフッ化物洗口実施状況に都道府県間の較差が明らかであったことから, 早急に厚生労働省の「フッ化物洗口ガイドライン」の周知が徹底され, 公衆衛生施策としてのフッ化物洗口が展開されるべきである.
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