口腔衛生学会雑誌
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66 巻, 1 号
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総説
  • 小島 美樹
    2016 年 66 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     歯周病と動脈硬化についてはその関連性の探索が進んでいるが,う蝕と動脈硬化との関連についてはこれまでにほとんど検討されていない.本レビューでは,成人う蝕と動脈硬化およびそのリスクとの関連エビデンスについて,最近の研究知見を中心に概説する.う蝕と動脈硬化病変との関連は明らかではなかった.う蝕と共通する動脈硬化の生活習慣リスクである飲酒や糖質摂取とう蝕との関連についての報告は少なく,能動喫煙とう蝕については因果関係が示唆されていた.日本人中年男性を対象とした疫学研究では,未処置歯と動脈硬化の代謝性リスクの集積であるメタボリックシンドロームとの関連が,生活習慣や歯周状態・歯の喪失の交絡を考慮して明らかにされていた.う蝕と動脈硬化の関連メカニズムは不明であるが,主要なう蝕細菌であるStreptococcus mutans感染の動脈硬化への関与が示唆されていた.動脈硬化のリスクであるメタボリックシンドロームの有病率は依然として高く,その対策は喫緊の課題である.成人う蝕対策をより進めることで動脈硬化の減少につながることが期待される.しかし,う蝕と動脈硬化リスクとの因果関係についての科学的根拠はいまだ不十分である.今後,生物学的妥当性の更なる検証と縦断的疫学研究の実施が必要である.
原著
  • 濃野 要, 山賀 孝之, 金子 昇, 宮崎 秀夫
    2016 年 66 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     舌苔には多くの細菌が存在するため,口臭や誤嚥性肺炎の原因となる.舌苔は主にタンパク質から構成されることから,本試験は,システインプロテアーゼであるパパインを含有したゲルが機械的舌苔除去に及ぼす影響について検討することを目的とした.
     対象は23〜53歳の男性13名,女性7名である.被験者を無作為に2群に割り付け,両群とも被験試料およびプラセボを用いた実験に参加する交差研究とした.試験日に,2.5gのゲルを舌清掃直前に対象者の舌背に塗布し,1分間保持させた.その後,同一験者が舌ブラシにて100〜150gの荷重範囲で舌清掃を行った.舌清掃後,水道水20mlにて10秒間含嗽させた.舌苔面積および舌苔厚さ評価のために舌清掃前後においてデジタルカメラによる舌写真撮影を行った.なお,洗い流し期間は14日間とした.舌写真の評価は3名の熟練した被験者の情報をもたない歯科医師がソフトウェア上にて視覚的に評価した.2群間の比較にはWilcoxonの符号順位検定を用いた.
     舌苔面積はパパイン含有ゲルを用いたテスト群において,舌清掃後に有意(p<0.05)に減少した.また,舌清掃前後における舌苔残留率は,プラセボ群に比べてテスト群が有意(p<0.05)に低かった.舌苔厚さは両群とも有意(p<0.05)に減少した.以上より,舌清掃補助剤としてのパパイン含有ゲルは舌苔除去に併用効果があることが示唆された.
  • 木林 美由紀
    2016 年 66 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     本研究は,咀嚼力向上を目的とした食育支援プログラムの咀嚼力と握力の向上に対する有効性を検討した.
     研究の参加に同意が得られた公立高等学校普通科に在籍する高校生を対象とし,食育支援プログラム実施群と非実施群とに無作為に割り振った.食育支援プログラム開始前に歯科衛生士による保健指導を両群ともに実施し,さらに実施群には液体蒟蒻を応用した噛み応えのある豆乳・おからドーナツ(けっこうかみごたえあるドーナツ®,株式会社白帆タンパク製)を1日1個7日間よく噛むことを意識して食べることとした.両群とも開始前と終了時に,咀嚼力と左右の平均握力を測定した.直接的咀嚼力はチューインガムを用いて溶出糖量を測定し,間接的咀嚼力はデンタルプレスケール® 50HタイプRを用いて咬合力表示面積,平均圧,最大圧,咬合力を測定し,プログラム前後の変化を検討した.
     その結果,実施群33名(男子17名,女子16名)のプログラム前後の溶出糖量は,女子は53.7±9.4%から58.4±5.5%に,咬合力表示面積と咬合力は男女ともそれぞれ有意に向上し,男子の平均握力は39.8±7.1kgから42.2±7.7kg,女子は22.9±3.9kgから24.7±3.4kgとそれぞれ終了時のほうが有意に向上した.非実施群37名(男子17名,女子20名)の男子の溶出糖量は60.0±5.1%から57.9±5.6%と前後で有意に低下し,平均握力は男女とも有意な変化は認められなかった.
     したがって,本研究で実施した食育支援プログラムは,高校生の咀嚼力および握力の向上に有効であると示唆された.
報告
  • 斎藤 俊夫, 北川 純, 中久木 一乘
    2016 年 66 巻 1 号 p. 20-27
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     タバコの煙は喫煙者のみならず周囲の受動喫煙者にもさまざまな疾患を引き起こす.口腔保健を向上させていくためにも,タバコ問題を考えていくことは重要である.タバコに関する社会的背景が変化する中で,多くの歯科医師が所属し,指導的立場にある歯学系学会のタバコ問題への取り組み方は,歯科領域の分野での指標となる.
     そこで,2014年4月に日本歯科医学会とその21の専門分科会および21の認定分科会の合計43学会に,タバコ問題に関する質問用紙を送り,100%の回答を得た.
     学会の会議会場,学術集会会場はともに禁煙率は約80%だった.そのロビーの禁煙率は約60%であった.学会の会議および学術集会のロビーを含めてすべての会場が禁煙の学会は53.5%であった.
     専門の学会事務局を持つ学会は27.9%で,そこでは事務局室内,ロビーともすべて禁煙であった.一方,学会事務請負会社に委託している学会は60.5%で,そこでは事務局室内禁煙は88.5%,ロビー禁煙は57.7%であった.
     所属学会員の喫煙率を調査済みの学会は1学会のみであった.喫煙に関する宣言文を社会に出したのは21.4%,社会的働きかけをした学会が7.1%であった.
     同様に行った2004年の調査結果と比較すると,それぞれのロビーにおいて有意に禁煙率が上昇しているが,まだ完全禁煙には遠いものだった.
     これらの結果から,歯学系学会のタバコ問題への理解度は上がっているが,すべての施設の禁煙や学会員の喫煙率調査など更なる取り組みが必要と思われた.
  • 河本 幸子, 水谷 慎介, 森田 学
    2016 年 66 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     岡山市内の介護老人福祉施設・介護老人保健施設での定期的な歯科検診の実施率を把握することを目的に,全57施設を対象に,郵送による調査を行った.回収率は,100%であった.「入所者への定期的な歯科検診を行っていますか」との問いに,「はい」と答えたのは16施設(28.1%)で,そのうち歯科検診の頻度は,「1年に1回」が9施設(56.3%),「半年に1回」が4施設(25.0%)であった.「いいえ」と答えた41施設に対して,定期的な歯科検診を実施していない理由をたずねたところ,17施設(41.5%)が「必要時に協力歯科医院へ受診している」とし,定期的な歯科検診の必要性を認識していないと思われた.入所者全員を対象とした歯科検診を定期的に実施するには,「人的・金銭的な課題がある」と答えていた施設もあった.
資料
  • 劉 安, 古田 美智子, 竹内 研時, 山下 喜久
    2016 年 66 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2016/01/30
    公開日: 2018/04/13
    ジャーナル フリー
     う蝕は多要因性疾患であり,その発症には生活習慣,口腔保健行動,社会経済要因が関与し,個人の要因だけでなく環境要因も関係する.環境や社会経済状況が異なる国では,う蝕経験は異なることが予想される.本研究では,地域相関研究によって,日本と中国の児童におけるう蝕経験と社会経済状況の関係について検討した.
     う蝕経験は,日本の2005年歯科疾患実態調査および2006年学校保健統計調査,中国の第三次全国口腔健康流行病学調査報告(2005年)の全国調査データから,都道府県単位および省単位で5歳児・12歳児の一人平均の未処置歯数と処置歯数を用いて評価した.社会経済状況は,日本は内閣府の県民計算から2006年一人あたりの県民所得のデータを用い,中国は国家統計局のデータから2006年の一人あたりの年間総収入を省単位で評価した.統計解析として,日本と中国で,未処置歯数,処置歯数と社会経済状況の相関係数を12歳児のデータで求めた.
     5歳児と12歳児で処置歯数は中国に比べ日本のほうが多かった.日本では,未処置歯数,処置歯数と社会経済状況の関係は負の相関であったのに対し,中国では正の相関を示した.つまり,日本では,社会経済状況が良い地域では児童の未処置歯数や処置歯数が少ないが,中国では未処置歯数や処置歯数が多かった.児童のう蝕経験と地域の社会経済状況の関係は国によって異なることが示唆された.
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