口腔衛生学会雑誌
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66 巻, 3 号
平成28年4月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 相田 潤, 小林 清吾, 荒川 浩久, 八木 稔, 磯崎 篤則, 井下 英二, 晴佐久 悟, 川村 和章, 眞木 吉信
    2016 年 66 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     フッ化物配合歯磨剤は成人や高齢者にも,う蝕予防効果をもたらす.近年,一部の基礎研究の結果をもとに,フッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになる可能性が指摘されている.しかし,実際の人の口腔内やそれに近い状況での検証はない.本レビューではフッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになるか評価することを目的とした.疫学研究および6つの観点から基礎研究を文献データベースより収集した.疫学研究は存在しなかった.基礎研究の結果から,1)pHが4.7以下の酸性の場合,フッ化物配合歯磨剤によりチタンが侵襲されうるが,中性,アルカリ性,または弱酸性のフッ化物配合歯磨剤を利用する場合,侵襲の可能性は極めて低い,2)歯磨剤を利用しないブラッシングでもチタン表面が侵襲されていた.歯磨剤を利用するブラッシングでフッ化物の有無による侵襲の程度に差はない,3)チタン表面の侵襲の有無で,細菌の付着に差はなかった.フッ化物の利用により細菌の付着が抑制された報告も存在した,4)実際の口腔内では唾液の希釈作用でフッ化物濃度は低下するため侵襲の可能性は低い,5)フッ化物配合歯磨剤の利用により細菌の酸産生能が抑制されるため,チタンが侵襲されるpHにはなりにくくなる,6)酸性の飲食物によるpHの低下は短時間で回復したことがわかった.これらからフッ化物配合歯磨剤の利用を中止する利益はなく,中止によるう蝕リスクの増加が懸念される.
原著
  • 玉木 直文, 松尾 亮, 水野 昭彦, 正木 文浩, 中川 徹, 鈴木 雅博, 福井 誠, 谷口 隆司, 三宅 達郎, 伊藤 博夫
    2016 年 66 巻 3 号 p. 316-321
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     糖尿病や腎機能と歯周病との関連についての研究は数多く行われてきたが,これらの疾患のバイオマーカーと歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーとの関連についての研究は少ない.本研究では,歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーと糖尿病・腎機能マーカーとの関連性について検討を行うことを目的とした.
     市民健診参加者と糖尿病治療の患者を対象とした.対象者の歯肉溝液を採取し,アンチトリプシンとラクトフェリン濃度を測定した.また,糖尿病コントロール指標として糖化ヘモグロビン(HbA1c),腎機能マーカーとしてクレアチニンと推算糸給体濾過量(eGFR)を測定し,これらを従属変数とした重回帰分析を用いて,それぞれの関連性を検討した.
     その結果,炎症関連歯肉溝バイオマーカーと血清のすべての検査項目において,年齢・性別調整後の平均値は市民健診受診者と糖尿病患者の間で統計学的な有意差があった(p<0.001).また,糖尿病などに強く関連する交絡因子である年齢や性別などの調整後でも,歯肉溝中の炎症関連バイオマーカーは糖尿病・腎機能マーカーとも関連することが認められた.本研究の結果から,客観的に評価された歯肉溝バイオマーカーと糖尿病や腎機能マーカーとの間には有意な関連があることが示され,医科−歯科連携における健診ツールとして,歯肉溝液中のバイオマーカーの測定の有用性が示唆された.
  • 坂本 治美, 日野出 大輔, 武川 香織, 真杉 幸江, 高橋 侑子, 十川 悠香, 森山 聡美, 土井 登紀子, 中江 弘美, 横山 正明 ...
    2016 年 66 巻 3 号 p. 322-327
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     近年,妊娠期の歯周病予防は周産期の重要な課題とされているが,日本における歯周病と低体重児出産や早産との関連性を示す報告は少ない.本研究の目的は観察研究により妊娠期の歯周状態と低体重児出産との関連性について調査することである.徳島大学病院の妊婦歯科健康診査受診者190名のうち,年齢バイアスの考慮から対象年齢を25~34歳とし,出産時の状況が確認できない者,多胎妊娠および喫煙中の者を除外した85名について,歯周状態と妊娠期の生活習慣や口腔保健に関する知識および低体重児出産との関連性について分析を行った.その結果,口腔内に気になる症状があると答えた者は61名(71.8%),CPI=3(4 mm以上の歯周ポケットを有する)の者は29名(34.1%),CPI=4の者は0名であった.また,対象者をCPI=3の群と,CPI=0, 1, 2の群とに分けてχ2 検定を行った結果,低体重児出産の項目,およびアンケート調査では,「歯周病に関する知識」,「食べ物の好みの変化」の項目について有意な関連性が認められた.さらに,ロジスティック回帰分析の結果,低体重児出産との有意な関連項目としてCPI=3(OR=6.62,95%CI=1.32–33.36,p=0.02)および口腔内の気になる症状(OR=5.67,95%CI=1.17–27.49,p=0.03)が認められた.以上の結果より,わが国においても,妊婦の歯周状態が低体重児出産のリスクとして関連することが確認できた.本研究結果は,歯科医療従事者による妊婦への歯科保健指導の際の要点として重要であると考えられる.
  • ─歯科用色彩計による評価─
    山田 季恵, 犬飼 順子, 柳原 保, 向井 正視
    2016 年 66 巻 3 号 p. 328-337
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,セルフケアによる歯面色素沈着の阻止効果の検討を目的として,各種歯磨剤を併用したブラッシングが,外来性色素沈着に伴う歯面の色調変化に及ぼす影響を,牛歯エナメル質試料と歯科用色差計を用いて調べた.試料を研磨後,ウーロン茶,人工唾液,ムチンを混合した溶液に14日間浸漬して色素沈着を誘引し,この間1日2回,研磨剤(無水ケイ酸A)と清掃補助剤(無水ピロリン酸ナトリウム)配合の美白用歯磨剤,研磨剤を配合した低研磨性歯磨剤,または研磨剤無配合歯磨剤を使用する,および歯磨剤を使用しない4条件で,歯ブラシ試験機を用いてブラッシングした.1日1回ブラッシング前に,L*値(明度),a*値(赤み),b*値(黄み)を測定し,これらの値からC*値(彩度)とΔE*ab値(色差)を算出した.その結果,すべてのブラッシングの条件とブラッシングをしないコントロールにおいて,経日的にL値は低下し,a*値,b*値,C*値,ΔE*ab値は増加した.美白用歯磨剤の使用は,コントロール,歯磨剤の未使用または研磨剤無配合歯磨剤の使用に比較して,b*値,C*値,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.また,低研磨性歯磨剤の使用は,コントロールまたは歯磨剤の未使用に比較して,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.一方,低研磨性歯磨剤の使用と美白用歯磨剤の使用との間には,すべての色調指標に有意差は認められなかった.以上の結果から,研磨剤や清掃補助剤を配合した歯磨剤を使用したセルフケアで歯面の色素沈着は阻止されるが,その効果は歯面の色調を維持するには十分でない可能性が示唆された.
資料
  • 石川 裕子, 米澤 大輔, 葭原 明弘, 齊藤 一誠, 早崎 治明
    2016 年 66 巻 3 号 p. 338-343
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,知的障害者施設における利用者に対して,在所期間から知的障害者の口腔および支援の状態について検討することである.歯科診療室が併設されている「N知的障害者総合援護施設」利用者77名を対象とし,利用者の口腔内状態および口腔管理の支援状態を調査した.
     その結果,利用者の平均年齢は47.0 ± 12.7歳(無回答2名),在所期間は0~9年が24名,10~19年が41名,20年以上が12名であった.在所期間10~19年では,0 ~9年より障害支援区分の重い人が多く統計的に有意な差があった.口腔内状態は,未処置歯所有率が在所期間20年以上で8.3%と低く有意な差がみられた.施設には歯科の設備があるにも関わらず,在所期間0~9年および10~19年で未処置歯所有率が高く,今後,フッ化物塗布などのう蝕予防の実施が必要と考えられた.食事形態,食事時間については在所期間別で有意な差はみられなかった.嚥下および歯磨き支援については,支援必要者と不要者では在所期間別で有意な差があり,在所期間が長くなると支援の必要者の割合が多く,支援の必要性が高いと考えられた.また,現在,特に嚥下検査を行っていないことから,今後,専門医による検査を在所期間に関係なく全員に実施するとともに,食事介助の見直しが必要と考えられた.
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