口腔衛生学会雑誌
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67 巻, 4 号
平成29年10月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
論説
  • 五月女 さき子, 船原 まどか, 川下 由美子, 梅田 正博
    2017 年 67 巻 4 号 p. 262-269
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

     周術期口腔機能管理はがん手術,放射線治療,化学療法など医科疾患治療時の合併症予防を目的として行われる,新しい形の歯科医療である.周術期口腔機能管理は口腔ケアだけではなく,口腔感染源の治療や除去も含んでおり,全身疾患や口腔外科,補綴も含めた歯科治療に対する理解が求められる.疾病予防を専門とする予防歯科医は周術期口腔機能管理に積極的に関わっていくべきであり,それにより予防歯科学の将来の発展につながると思われる.しかしエビデンスに基づいた口腔管理方法は確立していない.長崎大学病院では2012年より周術期口腔機能管理を行っている.今回,当大学の周術期口腔機能管理の取り組みについて紹介するとともに,われわれが行っている多施設共同研究についても述べる.

原著
  • 相田 潤, 深井 穫博, 古田 美智子, 佐藤 遊洋, 嶋﨑 義浩, 安藤 雄一, 宮﨑 秀夫, 神原 正樹
    2017 年 67 巻 4 号 p. 270-275
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

     健康格差の要因の一つに医療受診の格差がある.また歯科受診に現在歯数の関連が報告されている.日本の歯科の定期健診の格差に現在歯数を考慮し広い世代で調べた報告はみられない.そこで定期健診受診の有無について社会経済学的要因と現在歯数の点から,8020推進財団の2015年調査データによる横断研究で検討した.調査は郵送法の質問紙調査で,層化2段無作為抽出により全国の市町村から抽出された20-79歳の5,000人の内,2,465人(有効回収率49.3%)から回答が得られている.用いる変数に欠損値の存在しない2,161人のデータを用いた.性別,年齢,主観的経済状態,現在歯数と,定期健診受診の有無との関連をポアソン回帰分析で検討しprevalence ratio(PR)を算出した.回答者の平均年齢は52.4±15.5歳で性別は男性1,008人,女性1,153人であった.34.9%の者が過去に定期健診を受診した経験を有していた.経済状態が中の上以上の者で39.7%,中の者で36.4%,中の下以下の者で28.5%が定期健診の受診をしていた.多変量ポアソン回帰分析の結果,女性,高齢者(60-79歳)で受診が有意に多く,経済状態が悪い者,現在歯数が少ない者で有意に受診が少なかった.経済状態が中の上以上の者と比較した中の下以下の者の定期健診の受診のPR は0.74(95%信頼区間=0.62; 0.88)であった.定期健診の受診に健康格差が存在することが明らかになった.経済的状況に左右されずに定期健診が受けられるような施策が必要であると考えられる.

  • 富永 一道, 濱野 強, 土﨑 しのぶ, 安藤 雄一
    2017 年 67 巻 4 号 p. 276-283
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

     近年,口腔保健と認知症に関する研究成果が報告されている.そうした中で本研究の目的は,咀嚼の客観的評価(グミ15秒咀嚼検査値)が低いのに,「何でも嚙める」と思っている高齢者の認知機能が,そうでない者に比べて低下している可能性について検討することである.この目的を検討するため,主観的評価(嚙める/嚙めない)と客観的評価(嚙める;グミ15秒値12分割以上/嚙めない;12分割未満)の組み合わせで構成される「咀嚼の複合指標」(4カテゴリ)を新たに考案した.また現在歯数とグミ15秒値は正の相関関係にあることから,現在歯数(嚙める;20歯以上/嚙めない;20歯未満)を客観的評価の代理変数と考え分析に使用した.島根大学医学部が開発した認知機能低下スクリーニングツールCADi(Cognitive Assessment for Dementia, iPad version)を使用して「咀嚼の複合指標」の各カテゴリの認知機能を調べた.その結果,地域在住高齢者371名(男性142名,女性229名,平均年齢71.2±2.9歳)のうち,24名(6.5%)に認知機能低下が疑われた.また,認知機能低下の疑いの有無を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,(主観;嚙める&客観;嚙めない)は(主観;嚙める&客観;嚙める)に比べて6.65倍,(主観;嚙める&現在歯数;嚙めない)は(主観;嚙める&現在歯数;嚙める)に比べて10.29倍認知機能低下が疑われる者が多かった.基本属性と認知機能低下関連項目を投入してもこの傾向に変化なく本研究の目的が達せられた.

  • 長田 斎, 椎名 惠子, 安藤 雄一
    2017 年 67 巻 4 号 p. 284-291
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

     本研究は2012年に東京都杉並区が実施した調査結果を活用し,杉並区の80歳区民全体の現在歯保有状況を推定することを目的とした.郵送法による質問紙調査により2,265名から現在歯数の回答を得た(回答率;60.4%).回答者の一人平均現在歯数は16.43±10.53,20歯以上所有者率は47.4%で,性別による差は認められなかった.個人情報の利用同意が得られた者(1,846名)と無回答または不同意の者(1,880名)の要介護認定状況(自立と要支援・要介護の2区分),介護保険料所得段階別(4区分)の分布の比較から,回答者は比較的健康で所得の高い層に偏っている傾向が認められた.このため要介護認定状況別,介護保険料段階別の一人平均現在歯数,20歯以上所有者率を80歳区民全体の分布に応じて外挿し,全体の一人平均現在歯数,20歯以上所有者率を推計した.その結果,男女合計の推計値は,要介護認定状況からは16.5歯,47.7%,介護保険料段階からは16.5 歯,47.1%と回答者の分析結果とほぼ同じ値であった.また274名の希望者が受診した歯科診療所における口腔診査結果との比較では,一人平均現在歯数は口腔診査結果のほうが0.5歯低いが,20歯以上所有者率は0.4ポイント高い値であった.以上から本研究の分析結果は,2012年時点における80歳杉並区民の約半数が8020を達成していたことを支持するものであった.

報告
  • 小野 幸絵, 小松﨑 明, 田中 聖至, 小松﨑 豊
    2017 年 67 巻 4 号 p. 292-297
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/10
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,保健所政令市および特別区における1歳6か月児歯科健康診査実施方法の現状とO2型判定結果との関連を検討することである.

     調査対象は全国の保健所政令市および特別区の94市区であり,1歳6か月児歯科健康診査の実施方法を郵送法による質問紙調査で2015年11月20日から12月28日の期間に調査し,68市区から回答を得た(回答率72.3%).また,う蝕罹患型O2型割合は,厚生労働省から発表された資料から算定した.

     その結果,健診の実施方法は,保健センター方式が66市区(97.1%)と大部分で,そのうち,医科健診との合同実施は43市区(63.2%),歯科単独方式が21市区(30.9%)であった.

     罹患型O2型の判定方法に関しては,問診でハイリスク判定が1項目でもあればO2型としている市区は23市区(33.8%),歯垢付着と問診項目とを総合的に判断しているとの回答は19市区(27.9%)であった.O2型割合は,最小1.1%~最大95.8%と市区間で大きな差が認められた.

     O2型割合とう蝕経験状況,1歳6か月児歯科健康診査受診率との間で相関分析を実施したが,O2型割合とう蝕経験状況との間に相関は認められなかった.

     O2型割合と健診実施方法,O2型の判定方法との関連を検討した結果,関連が認められたのは,健診実施の方法(p < 0.01)とO2型の判定方法(p <0.05)の2項目であった.

     妊婦歯科健康診査を実施していた市区は56市区(82.4%)で,1歳6か月児と3歳児以外の年齢の幼児に,歯科健康診査を実施していた市区は51市区(75.0%)であった.

     これらの結果から,O2型の判定方法は市区により大きな差が認められ,その差は健診の実施方法やO2型の判定基準と関連していることが示唆された.

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