口腔衛生学会雑誌
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69 巻, 4 号
令和元年10月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 山田 志麻, 岩﨑 正則, 角田 聡子, 片岡 正太, 酒井 理恵, 濱嵜 朋子, 岡田 圭子, 筒井 修一, 安細 敏弘
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 69 巻 4 号 p. 189-197
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

     本横断研究は,介護保険制度における要支援または要介護の認定を受け,在宅医療・介護サービスを利用している者(以下「在宅要支援・要介護者」)において,舌圧と栄養素の摂取量と関連を明らかにすることを目的とした.研究には在宅要支援・要介護者95名(平均年齢:84.6歳)が参加した.舌圧測定器を用いて舌圧を測定し,20 kPa未満を「低値」とした.簡易型自記式食事歴法質問票を用いて5種の栄養素(たんぱく質,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンC,葉酸)の摂取量を求め,先行研究にもとづく基準量,および日本人の食事摂取基準(2015年版)で示された推奨量または目安量をもとに摂取基準に達しているかどうかを評価した.舌圧を説明変数,摂取量が基準に達しない栄養素の数の合計数(最小:0,最大:5)を目的変数とするポアソン回帰分析を実施した.結果として舌圧が20 kPa以上の者と比較して,20 kPa未満の者は摂取量が基準に達しない栄養素の数が有意に多かった.すなわち,基準量未満の栄養素の合計数では率比が1.8(95% 信頼区間:1.2‒2.7),推奨量または目安量未満の栄養素の合計数では率比が1.7(95% 信頼区間:1.2‒2.5)であった.結論として,舌圧が低い在宅要支援・要介護者は栄養素が十分に摂取できていない可能性があることが本研究から示された.

  • 佐藤 俊郎, 大石 泰子, 阿部 晶子, 難波 眞記, 坂田 清美, 三浦 廣行, 下田 陽樹, 岸 光男
    2019 年 69 巻 4 号 p. 198-203
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

     2013年のWHO口腔診査法第5版からCommunity Periodontal Index(CPI)の方法が改訂された.改訂法では歯石の有無が評価から除外され,歯肉出血と歯周ポケットを別に記録するようになった.本研究ではCPIを用いた口腔保健調査において従来のCPI(従来法)による歯周組織の評価に加え,全被検分画の歯肉出血を記録することで改訂法による評価も行った.両者の結果を比較することで,評価方法の改訂により有所見者やスクリーニングに用いた場合の受診勧奨者の割合にどの程度影響するかを検討した.

     調査対象は2016年度の歯科健康調査に参加した岩手県大槌町の成人住民1,159名で,そのうちCPIの代表10歯のいずれかを有する者882名(男性327名,女性555名,平均年齢64.2±12.9歳)の結果を分析した.改訂法での評価では所見ありとみなされる者は本集団の69.3% に該当し,従来法で評価した場合(84.2%)と比べて有意に低かった.これは従来法で個人コード2(歯石あり)と判定される者の半数近く(47.1%)が歯肉出血スコアが0であったためであった.また,歯石があっても出血の認められない部位では分画による違いは認められなかった.本研究の結果から従来法において歯石付着所見のみ認められる者には歯肉出血がみられない者が多く含まれており,改訂法では有所見者とみなされないことが示された.

報告
  • 郡司 位秀, 吉川 浩郎, 松本 健太郎, 永松 久美子, 梶浦 靖二
    原稿種別: 報告
    2019 年 69 巻 4 号 p. 204-210
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

     島根県では,40 ~60歳の残存歯数が全国平均を下回っていることがわかり,その対策が急務であった.そこで,島根県行政はこの年齢層の主たる歯の喪失原因である歯周病への対策に歯周病唾液検査を活用するため,県内における実施の可能性や歯周病スクリーニング検査としての有用性,臨床における有用性の検証,集団健診での普及啓発等について,島根県歯科医師会に検証を委託した.また,島根県行政は「島根県歯と口腔の健康づくり計画」にもこの検証実施について明記した.こうした経緯に基づき,島根県歯科医師会は島根県行政や検査機関である島根県環境保健公社と協力して,検証を平成23年から5年計画で開始した.検証の結果,東西に長い島根県で,検体受け入れ機関が県東部松江市にある島根県環境保健公社1箇所だけであったが,全県下で唾液検査の実施が可能であった.また,歯周病スクリーニング検査としての有用性,歯周病臨床での有用性も確認できた.5年計画実施後は,各種イベントでのデモンストレーション実施,公社で行われている人間ドックでのオプション実施など,歯周病唾液検査の普及啓発に努めている.

  • 湯之上 志保, 石田 直子, 中向井 政子, 角田 晃, 高阪 利美, 荒川 浩久
    原稿種別: 報告
    2019 年 69 巻 4 号 p. 211-217
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,将来歯科保健指導を担う立場にある歯科衛生士学生の歯科保健行動,口腔への関心等が,3年間の歯科衛生教育を受ける過程でどのように変化するかを解析し,その結果を歯科衛生教育に資する目的で行った.

     歯科衛生士学生を対象に,1年生入学直後の4月に1回目,1年生の歯磨剤についての講義終了後の秋季に2回目,3回目4回目は2年生,3年生への進級時に,歯科衛生に関る質問紙調査を実施し,4回の質問紙に回答し,および歯磨剤の使用の有無に回答した者150名を解析対象とした.

     自分で歯磨剤を購入する学生は,入学直後の1回目27名(18.5%)から4回目には61名(41.8%)に増加した.購入理由は,「宣伝」が1回目15名(13.7%)から4回目2名(1.8%)に減少し,「むし歯の予防」が1回目60名(54.5%)から4回目76名(69.1%)に増加し,「フッ素入り」が1回目13名(11.8%)から4回目52名(47.3%)に増加した.歯みがき習慣においては,昼食後の歯みがきをしない者が1回目78名(54.6%)から4回目18名(12.6%)へと減少した. また,歯磨剤使用による口腔の変化については,「感じた」と回答した者が1回目43名(29.9%)から4回目68名(47.2%)に,「自分の歯や口で気になっていることはありますか?」では,「歯肉の形」と「歯の色」が増加した.以上の結果から,歯科衛生教育は歯科衛生士学生の歯科保健行動だけでなく,意識の向上に対しても良い影響を与えるものと考えられた.

  • 藤川 君江, 広瀬 公治
    原稿種別: 報告
    2019 年 69 巻 4 号 p. 218-222
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

     日本の100歳以上の高齢者は増加傾向にあり,健康寿命の延伸が課題である.本研究は,過疎高齢化地域3市町と都市近郊地域3市の65歳以上の高齢者を対象に調査し,過疎高齢化地域と都市近郊地域における高齢者の口腔状態,口腔保健行動および意識の違いを比較することを目的とした.調査対象者の基本属性である年齢や同居家族の有無については,過疎高齢化地域で年齢構成が都市近郊地域に比べ高齢であり,かつ独居者が有意に多かった.一方,居住地域と口腔内状況との関連について検討を行ったところ,口腔内状況では現在歯数は20歯未満の者の割合および義歯装着者の割合が,都市近郊地域に比べ過疎高齢化地域で高かった.さらに,居住地域と口腔保健行動との関連を検討したところ,歯磨き指導,定期受診および歯間清掃用具使用のある者の割合,歯磨き回数,歯磨きの重要性の認識の程度は,いずれも過疎高齢化地域のほうが都市近郊地域に比べ低い結果であった.以上の結果より,過疎高齢化地域と都市近郊地域の口腔保健格差を是正するために,過疎高齢化地域における教育的介入の必要性があると考える.

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