口腔衛生学会雑誌
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71 巻, 4 号
令和3年10月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 犬飼 順子, 高阪 利美
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 4 号 p. 208-214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

     本研究では再石灰化時のフッ化物添加とpHサイクリング時間がエナメル質の表面性状に与える影響をナノスケールでの微小表面粗さと脱灰量により検討した.

     ヒトエナメル質を切り出し研磨した.試料は12個ずつ4実験群に割り付けた.また実験群とは異なる2個の試料は形態観察用とした.

     実験1:脱灰と再石灰化を5分間ずつ4回繰り返した.実験 2:脱灰とフッ化物添加再石灰化を5分間ずつ4回繰り返した.実験3:脱灰と再石灰化を1分間ずつ20回繰り返した.実験 4:脱灰とフッ化物添加再石灰化を1分間ずつ20回繰り返した.試料は微小表面粗さ(Ra(算術平均高さ),Rq(二乗平均平方根高さ))および脱灰量を測定し,再石灰時のフッ化物添加とpHサイクリング時間を要因とした二元配置分散分析により分析した.また,試料の原子間力顕微鏡(AFM)像により試料の微細構造の形態観察を行った.

     その結果,Ra, Rqともにフッ化物添加により有意に低くなった(p<0.05)ものの,pHサイクリング時間は関連しなかった.また,脱灰量についてはどちらの要因についても関連しなかった.一方,AFM像から再石灰化溶液にフッ化物添加した実験群は結晶の粒径が大きいことが観察された.

     以上より,短い時間でのpHサイクリングによるエナメル質の表面性状として,微小表面粗さのナノスケールによる評価では結晶の大きさは反映されずに再石灰化時のフッ化物添加により有意に小さくなることが示された.そして,微小表面粗さはpHサイクリング時間と関連せず,作用時間の合計に関連する可能性が示された.

  • 吉岡 昌美, 川島 友一郎, 福井 誠, 柳沢 志津子, 中江 弘美, 十川 悠香, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 4 号 p. 215-222
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

     糖尿病と歯周病は肥満や喫煙などの共通のリスク因子を有しており,糖尿病とう蝕はシュガーコントロールなど共通の食事指導を必要とすることから,糖尿病と歯科疾患の双方に関連する保健行動がコモンリスクファクターアプローチのターゲットとなる可能性がある.本研究では糖尿病患者の食習慣および口腔保健行動と口腔環境との関連性を明らかにし,コモンリスクファクターアプローチの重点課題を抽出することを目的とした.有歯顎の2型糖尿病外来患者68名を対象に食事と口腔保健に関連する質問紙調査,多項目唾液検査および口腔内診査を行い,各項目間の関連性を統計学的に分析した.その結果,「ダラダラ食い」「甘い間食」と唾液の酸性度との間に有意な関連を認めた.「ダラダラ食い」は「歯がしみる」症状とも関連した.「歯磨き時の出血」「寝る前の歯磨き」は唾液の潜血,タンパク質と関連しており,唾液の潜血は「左右の奥歯でかめる」こととも関連していた.唾液の潜血が多いことを目的変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った結果,「外出先での歯磨き」と「寝る前の歯磨き」が有意に関連することが明らかとなった.以上のことから,間食習慣に重点を置く食事指導と好ましい歯磨き習慣を身につけるための保健指導を強化することが糖尿病患者の口腔環境の改善に繋がる可能性が示唆された.

  • 矢田部 尚子, 中島 由香, 島津 篤, 谷口 奈央, 内藤 麻利江, 髙江洲 雄, 埴岡 隆
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

     わが国では,加熱式タバコの使用者が急増している.本研究では,加熱式タバコ使用者の禁煙意思に,口腔に着目した介入は効果的かを調べることを目的とした.某職域で2019年度に口腔の健康に着目した1日の禁煙の啓発事業を行った.20〜54歳の男性喫煙者241名(平均年齢:33.2±10.5歳)のデータを分析した.アウトカム指標は事業実施前後における禁煙意思の変化とし,さらに,1 日の喫煙本数,喫煙歴,禁煙意思の有無,口臭や肺年齢,呼吸機能,呼気中CO濃度(血中カルボキシヘモグロビン濃度)と喫煙の種類との関係を調べた.加熱式タバコ使用者(燃焼式との併用を含む)は72名(29.9%)であった.禁煙意思ありの割合は,全体(25.7から44.4%)および40歳未満(28.6から49.7%)では啓発事業後に有意に増加した(p<0.05).40歳以上では加熱式タバコ使用者の禁煙意思ありの割合が有意に増加した(8.7から34.8%,p<0.05)が,燃焼式タバコ単独使用者では有意の変化は認められなかった(p>0.05).加熱式タバコ使用者の呼気中CO濃度(血中カルボキシヘモグロビン濃度)は燃焼式タバコ単独使用者より低かった(p<0.001)が,口臭や肺年齢差,呼吸機能は,加熱式タバコ使用者と燃焼式タバコ単独使用者との間に有意差は認められなかった(p>0.05).以上のことから,口腔の健康に着目した介入は加熱式タバコ使用の禁煙意思の向上に効果的であるとともに,喫煙者全体の禁煙意思の向上にも有効であることが示唆された.

  • 星岡 賢範, 大持 充, 吉岡 慎太郎, 桝本 雄次, 川又 俊介, 松岡 奈保子, 中村 譲治, 鶴本 明久
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 4 号 p. 231-237
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,中学生の歯肉炎予防プログラムおよびその評価手段としての質問紙票作成を目指し,PRECEDE-PROCEEDモデルを基本フレームとして歯肉炎に関連する要因を検討することを目的として,神奈川県川崎市の某中学校,2年生118名(男性66名,女性52名)に質問紙調査と口腔診査を行った.歯肉炎の状況の調査にはPMA指数(Schour & Massler)を採用した.質問項目の内容は,PRECEDE-PROCEEDモデルを基本構造とした成人の歯周疾患の総合診断プログラム(FSPD34型)の質問項目を参考とし,中学生に適合すると考えられる質問項目を要因ごとに作成した.各要因の回答別にPMA指数を比較した.さらに各要因内の各質問項目の回答結果を数量化し,その合計点を各要因の点数としてPRECEDE-PROCEEDモデルの構造に基づきパス解析を行った.

     結果,歯肉炎有病者(PMA index 1 以上の者)率は87.5%,PMA指数の平均点は11.7であった.点数0と最大指数の22が最も多く,2峰性の分布を示していた.回答のカテゴリーごとのPMA指数の中央値を比較した結果,統計的な有意差が認められた質問項目は「ブラッシング回数」と「定期健診受診の有無」のみであった.パス解析を行った結果,モデルの適合度指標であるGoodness of Fix Index(GFI)は0.975と比較的強く,構造方程式としてもよく適合していた.そして強化要因および実現要因が保健行動要因に有意な影響を示しており,行動要因はPMA指数に影響を与えていた.

報告
  • 髙橋 収, 新里 勝宏, 伊谷 公男, 佐々木 健, 八木 稔
    原稿種別: 報告
    2021 年 71 巻 4 号 p. 238-244
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/15
    ジャーナル フリー

     過去に保育所・学校等をベースとした集団フッ化物洗口(以下,「フッ化物洗口」という.)のう蝕予防効果に関する研究が多数実施されているものの,国内では1970〜90年代に公表されたものが多い.従前よりもう蝕有病状況が改善した近年の状況下におけるフッ化物洗口の有効性を検討する意義は大きいと考え,今回,小学校におけるフッ化物洗口を導入していた自治体で,フッ化物洗口実施小学校と非実施小学校の両方の卒業生の進学先となっている中学校において,診査者目隠し法による歯科健診を行った.実施小学校出身者72人(経験群)と非実施小学校出身者592人(非経験群)の永久歯について,う蝕経験歯数(DMFT)の分布,う蝕経験のない者の割合,う蝕多発者の割合,平均DMFT,平均う蝕経験歯面数(DMFS)などを比較した(2016〜2018年度の中学1年生,男性352人:女性312人).人単位の指標にはχ2 検定,歯数および歯面単位の指標にはt検定を用い,有意水準5%とした.

     DMFTの分布を相対度数による図で確認したところ,両群ともDMFTの最小値は0で,かつDMFT=0が最頻値であった.しかし,経験群では左側へ偏った幅の狭い分布を示し最大値が4本(2人,2.8%)であったのに対し,非経験群では5本以上の割合が31人,5.2%であり,10本および14本(各1人,計0.3%)に該当する者も存在するなど,経験群とは明らかに異なる,裾が右側に長い形状であった.

     う蝕経験のない者の割合に統計的に有意な差は認められなかったものの(p=0.367),4本以上のう蝕を有する「う蝕多発者」の割合(95% 信頼区間:95%CI)は,経験群2.8(0.0–6.6)% に対し,非経験群は12.0(9.4–14.6)% と,統計的に有意な差があった(p=0.031).また,両群の平均DMFT(95%CI)は経験群0.56(0.31–0.80)本に対して非経験群1.02(0.87–1.16)本(p=0.002),同じく平均う蝕経験歯面数(DMFS)は経験群0.69(0.37–1.02)面に対して非経験群1.48(1.25–1.71)面(p<0.001)であった.

     以上の結果から,う蝕が比較的少ない地域においても,小学校6年間の継続したフッ化物洗口による永久歯う蝕予防効果が確認され,多数歯う蝕を防ぐことにより健康格差が縮小することも示唆された.

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