口腔衛生学会雑誌
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72 巻, 1 号
令和4年1月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 小田島 あゆ子, 葭原 明弘, 石上 和男
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 72 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     地域在住高齢者の頸部可動域に対する口腔機能訓練の効果を明らかにすることを目的とした.65歳以上の高齢者を対象に年齢,性別,BMI,ロコモ度テスト,現在歯数,義歯の使用および頸部可動域を調査した.自治会の地域によって運動器機能訓練および口腔機能訓練を実施する複合プログラム群(30名),運動器機能訓練を実施する単一プログラム群(35名)の2群に分けて3か月間訓練を行った後,同一項目の調査を行った.頸部可動域の訓練前後比較はWilcoxonの順位和検定を,変化量の2群間比較はMann–WhitneyのU検定を行った.また,頸部可動域の改善を従属変数として,性別,年齢および口腔機能訓練の介入の有無を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.複合プログラム群ではすべての運動方向において頸部可動域が改善した(p<0.05).前屈を除く運動方向において,単一プログラム群と比べて頸部可動域の変化量が高く(p<0.05),頸部可動域の改善が口腔機能訓練の介入と有意な関連がみられた(オッズ比=7.23 ~18.52).高齢者における口腔機能訓練は頸部可動域の改善に影響を与えることが明らかとなった.

  • 大森 智栄, 小島 美樹, 永井 るみこ, 森崎 市治郎
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 72 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     周術期口腔機能管理が保険収載され8年ほど経過し,実施現状の調査を目的とした,各病院対象の質問票調査を用いた報告がなされてきた.本研究では,病院に勤務する歯科衛生士の周術期口腔機能管理に対する意識を調査し,それに関連する要因を検討することを目的とした.記名を任意とした自記式質問票を作成し,2018年1月から2019年9月の期間で,30施設を対象に郵送法にて実施した.調査項目は,勤務先および勤務形態,周術期口腔機能管理の実施体制,歯科衛生士の意識,患者数とした.

     自記式質問票に対する回答を得た施設は30施設のうち27施設(回収率:90.0%)であり,歯科衛生士116名の有効回答を得た.周術期口腔機能管理に従事する歯科衛生士の不足を感じる者の割合は,病院種類や独立部署の有無,患者数を問わず,高い結果となった(70.7%).主成分分析により,抽出された3成分のスコアプロットをもとに,歯科衛生士数の不足感を検討したところ,不足感のある者は勤務施設における周術期口腔機能管理業務と他業務との兼任歯科衛生士数が多く,周術期口腔機能管理の活動度が低く,実施上の問題点が少ない傾向にあった.

     本研究結果から,周術期口腔機能管理に携わる歯科衛生士は,歯科衛生士数の不足を感じていた.そして,歯科衛生士数の不足感に影響する因子は単独ではなく,歯科における内的要因のみならず,医科や病院,地域歯科医院といった周術期口腔機能管理実施体制および環境等の外的要因を含む多因子であることが示唆された.

報告
  • 福田 敦史, 藤田 裕介, 水谷 博幸, 広瀬 弥奈
    原稿種別: 報告
    2022 年 72 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,幼児期の約1年間の継続的なフッ化物洗口が,唾液のpH,緩衝能,無機イオン濃度に与える影響と,う蝕抑制効果について検討することを目的とした.年中児から0.1%NaF溶液(450 ppmF)を週1回にてフッ化物洗口を実施している施設の幼児15名とフッ化物洗口を実施していない施設の幼児18名を対象とし,年中児のときと1年後の年長児になったときにそれぞれ1回ずつ同一被験者から安静時唾液の採取とう蝕罹患状況を調べた.採取した唾液からpH,緩衝能,無機イオン濃度を測定し,フッ化物洗口実施有無による各唾液因子の比較を行った.Ca2+では,フッ化物洗口群のほうが有意な低下が認められた.NH4+ とPO43- では,フッ化物洗口実施群,非実施群ともに,年長児で有意な上昇が認められた.う蝕罹患状況は,フッ化物洗口実施群での年中児から1年後のう蝕増加率は21.74%であったのに対し,フッ化物洗口非実施群は61.11%もの増加が認められた.う蝕経験者数は,フッ化物洗口実施群での年中児から1年後のう蝕増加率は10.00%であったのに対し,フッ化物洗口非実施群は30.00%であった.幼児期における約1年間の継続的なフッ化物洗口は,Ca2+ に影響を与えることやう蝕の増加率を抑制する傾向が示唆された.

  • 中山 真理, 植野 正之
    原稿種別: 報告
    2022 年 72 巻 1 号 p. 34-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     う蝕は個人的な要因だけでなく,社会的に恩恵を受けにくい状況によっても発生すると考えられている.そこで,本研究は,学童期にあたる小学5年生のう蝕および歯みがき習慣と,家庭・生活状況との関連を検討することを目的として行った.

     2017年に埼玉県は子どもの生活状況を把握するために「子どもの生活調査」を実施した.その調査のうち,3,716組の保護者とその子どもの質問票への回答項目を本研究の分析対象とした.分析では,χ2 検定およびロジスティック回帰分析を用い,子どものう蝕と歯みがき習慣に関連する要因についての検討を行った.

     その結果,子どもがう蝕を多く有することや歯みがき習慣がないことには,ライフライン支払い困難経験や緊急時に頼れる人がいない,しつけの相談をする人がいない,といった家庭の経済状況や社会状況が影響していることが明らかとなった.さらに,保護者のほめる頻度が少ない養育態度や子どものう蝕,歯の汚れへの憂慮,朝食欠食や栄養バランスを欠いた食生活も関連していた.これらのことから,子どもが育つ家庭の状況や保護者の関わり方によっては,子どもの健康が損なわれる危険性があることが推測された.

     したがって,小学校高学年の子どものう蝕や歯みがき習慣に取り組む際には,これらの影響を十分に考慮して,子どもが自分自身の健康を考え,歯と身体を大切にする価値観と統制力をもった行動を育てる健康教育を行う必要があると考えられた.

資料
  • 工藤 理恵, 柴山 大賀
    原稿種別: 資料
    2022 年 72 巻 1 号 p. 42-51
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     全身疾患と口腔状態の関連の強さから医療施設で治療を受けるすべての患者に対しoral careの看護支援は重要である.本研究は医療施設での看護実践におけるoral careの概念を明らかにすることを目的とした.データ収集はCINAHL,PubMed,Cochrane Library,医中誌Webの4つのデータベースを用いて行った.本研究の分析対象の選定基準としてタイトルと要約に「oral care」「nurse」の用語を含むこと,医療施設で治療を受ける成人患者を対象としたoral careの看護実践に関する説明が含まれていることとし,対象期間は1971年から2020年7月までとした.概念分析はRodgers(2000)の方法により,属性,先行要件,帰結について分類するコーディングシートを独自に作成し記述内容を抽出した.抽出した内容をコード化し,類似性と相違性に基づいてoral careの構成要素を明らかにして概念を規定した.

     その結果,39文献が分析対象に選定され,oral careは5つの先行要件,7つの属性,7つの帰結で構成されていた.

     属性には,口腔の観察と評価,患者教育,口腔衛生の維持,義歯のケア,口腔の保湿,記録,多職種連携の促進が抽出された.先行要件には看護師の状況や看護師への教育およびトレーニング等が含まれ,帰結には微生物感染の予防,口腔合併症の予防,生活の質の維持等の構成要素が確認された.

     本研究の結果より,医療施設での看護実践におけるoral careは,「患者の口腔の観察と評価に基づく患者教育,口腔衛生の維持,義歯のケア,口腔の保湿に関する看護支援の実施,およびこれらの支援内容の記録を通じた多職種への連携の促進を含む口腔に関する一連のケア」と規定できると考えられた.この結果は,医療施設で遭遇する多様な口腔に関する看護支援の標準化の一助となり,oral careの看護実践の促進につながると考えられた.

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