口腔衛生学会雑誌
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最新号
令和8年7月
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 王 宝禮
    原稿種別: 総説
    2026 年76 巻3 号 p. 150-156
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     紀元前,古代ギリシャの医師であるHippocratesは,疾患は体内の四つの体液(血液,粘液,黄胆汁,黒胆汁)のバランスが崩れたときに発症するという「四体液説」に基づいて理解されると考えた.この体液の均衡を保つことが健康維持,ひいては疾患予防につながるとされていた.この考え方は,現代西洋医学における「予防医学」,および東洋医学における「未病を治す(治未病)」という概念と極めて近い.

     未病という語は,約2200年前に編纂された中国最古の医学書『黄帝内経』の中に,「聖人は既病を治すのではなく,未病を治す」と記されている.これは,病気になってから治療するのではなく,発病に至る前,あるいは病気の兆候が現れ始めた段階で対応することの重要性を示している.中国医学は,古代中国の思想を基盤として発展してきた伝統医学であり,「未病を治す(治未病)」ことを基本理念としている.中国医学を基盤とし,日本で独自に発展した漢方医学もまた,この未病の理念を継承している.

     一方,西洋医学の予防歯科医学領域においては,1958年にLeavellとClarkが疾病の自然史に基づく「予防の3相5段階」を提唱した.さらに1962年には,Dunningがこの概念を主としてう蝕,歯周病および歯の喪失に当てはめ,1次から3次までの予防レベルと5段階の予防手段として整理した.これらの概念は,わが国の予防医学に広く定着している.

     そこで本稿では,西洋医学であるLeavellとClarkによる疾病の自然史および健康のレベル,ならびにDunningによる歯科疾患における予防段階の考え方と,東洋医学の治未病の概念を踏まえ,予防手段として漢方薬処方を考察する.

原著
  • 河本 幸子, 稲田 さくら, 竹内 倫子, 江國 大輔, 森田 学
    原稿種別: 原著
    2026 年76 巻3 号 p. 157-165
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     う蝕罹患型O2の基準の見直しに向けて,3歳児におけるう蝕の発症とリスク因子との関係を調べることを目的とした.A市の1歳6か月児歯科健康診査 (1.6健)と3歳児歯科健康診査(3健)を受診した幼児のうち,1.6健でう蝕がなく,データに欠損値のない幼児3,324名を分析対象とした.3健時のう蝕の有無を従属変数とし,性別,家族数,昼間の養育,母乳,ほ乳びんの使用,喫煙(母・父),仕上げ磨き,食事以外の飲食回数,フッ化物塗布の受診,指しゃぶり,生歯数を説明変数として,二項ロジスティック回帰分析を行った.う蝕の発症と有意な関連があったのは,オッズ比の高かった順に,祖父母による養育,母乳,食事以外の飲食回数,家族数,父の喫煙,母の喫煙,仕上げ磨き,および生歯数であった.上記8項目を用いて作成したROC曲線により,カットオフ値を求め,該当項目数が2以下と3以上で分けたところ,感度65.8%,特異度69.2%となった.今回,明らかとなったう蝕の発症のリスク因子は,う蝕罹患型O2の基準の見直しに貢献できる可能性がある.

  • 角田 衣理加, 高尾 亞由子, 岡田 彩子, 中野 雅子
    原稿種別: 原著
    2026 年76 巻3 号 p. 166-172
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     歯科医療の安全確保には院内感染対策が不可欠である.本研究では,飛沫拡散を可視化した教育用動画の有効性を評価し,感染対策意識と行動変容への影響を検証した.微粒子可視化システムで撮影した模擬的歯科診療時の映像を含む約20分間の教育用動画を作成し,歯科大学病院での感染対策研修において260名の歯科医師が視聴後のアンケートに回答した.動画台本はテキストマイニングにより分析し,「飛沫」「バキューム」「感染」などの語句が高頻度で出現し,教育的語群と実践的語群の関連が確認された.アンケート解析では,今後の使用意向が最も高かったのは口腔外バキューム(76.3%)であった.ロジスティック回帰分析では,口腔外バキュームを基準群とした場合,PPEや他の吸引装置のオッズ比は0.29(キャップ)から0.05(口腔内バキューム) の範囲であり,基準群との間に有意差が認められた.さらに,行動変容の間接指標として診療室の騒音を測定した結果,研修後に65dB超の騒音頻度が有意に増加し(p<0.05),口腔外バキューム使用頻度の増加が示唆された.以上より,模擬的歯科処置時の飛沫飛散映像を含む教育用動画を院内感染対策教材に用いることは,受講者の飛沫感染対策の意識を変化させ,歯科診療時の口腔外バキューム使用状況が改善した可能性がある.したがって,受講者の行動変容を伴う院内感染対策教育の効果が高くなる可能性が示唆された.

  • 槌谷 三桂, 河村 佳穂里, 土居 貴士, 三宅 達郎
    原稿種別: 原著
    2026 年76 巻3 号 p. 173-181
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,日本全国の歯科診療所から75歳以上の後期高齢者に対する歯科医療サービスのアクセシビリティを,訪問歯科診療も含めた歯科診療所の潜在的な供給能力として指標を用いて評価するとともに,歯科受診率および歯科医療費との関連を検討することである.令和2年国勢調査75歳以上500mメッシュ人口データと国土数値情報2020年度医療機関データを用い,全国68,806件の歯科診療所を対象とした.ArcGIS Proを用いて,16km dAIRおよび15分tAIR-carを到達圏外人口割合として算出した.その結果,全国では75歳以上人口の2.27%が自動車15分圏外に居住しており,高知県・岩手県・和歌山県・秋田県など高齢化率が高く地形条件の厳しい地域で15分tAIR-carが高値を示した.また,15分tAIR-carは歯科受診率および歯科医療費と有意な負の相関を示し,地理的アクセスの低下が歯科医療サービス利用の抑制に関連する可能性が示された.本研究は,従来の距離指標では捉えにくかった実際の移動可能性を反映する指標として,高齢者歯科医療アクセスの実態を把握する一助となる可能性がある.

報告
  • 久保田 悠
    原稿種別: 報告
    2026 年76 巻3 号 p. 182-189
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,ベトナム在留邦人におけるオーラルフレイルの有病状況,および関連因子を検討することである.

     ベトナム在留邦人にオンライン質問票調査を実施し,125名を分析対象とした.調査項目は,社会的背景,生活習慣,語学力,メンタルヘルス (心理的ストレス),栄養摂取,重度歯周病リスク,社会参加,身体活動であり,アウトカムであるオーラルフレイルはOral frailty 5-item Checklist (OF-5) で評価した.OF-5で,該当部が2項目以上ある場合を「オーラルフレイルあり」とした.

     本集団のオーラルフレイル有病率は,22.4%であった.単変量解析から,不規則な睡眠 (p=0.003),語学力 (英会話)(p=0.049),重度歯周病リスク (p<0.001),心理的ストレス (p<0.001)とオーラルフレイルの間で有意な関連がみられた.ロジスティック回帰分析から,重度歯周病リスク (オッズ比=5.26; 95%信頼区間=1.61–17.21; p=0.006),心理的ストレス(オッズ比=5.04; 95%信頼区間=1.54–16.47; p=0.007)とオーラルフレイルとの関連を認めた.

     本集団において,重度歯周病リスク,および心理的ストレスはオーラルフレイルの関連因子となる可能性が示唆された.

症例報告
  • 浅野 千絵, 上野 尚雄, 八岡 和歌子, 瀬名 浩太郎, 石河 理紗, 丹田 奈緒子, 小関 健由
    原稿種別: 症例報告
    2026 年76 巻3 号 p. 190-201
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/15
    ジャーナル フリー

     免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor; 以下,ICI)単独投与およびICIと他剤との併用投与患者の口腔の免疫関連副作用(immune-related adverse events; irAE)の症状について9症例の観察研究を行った.ICI投与後の口腔内症状としては,扁平苔癬様変化が最も多く,発症部位は頰粘膜が最も多かった.口腔内症状をICI単独投与群と他剤との併用投与群で比較すると,他剤との併用投与群のほうが口腔粘膜炎のグレードは重く,口腔内疼痛も強く,口腔乾燥も強い傾向にあった.口腔粘膜炎発症までの日数に,ICI単独投与群と他剤との併用投与群では差は認められなかった.また,口腔粘膜炎発症までのICI投与回数,投与量においても両群で差は認められなかった.口腔粘膜炎の治療として局所のステロイド(軟膏・含嗽薬)の奏効が認められ,有効性が示唆された.

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