生態心理学研究
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1 巻, 1 号
生態心理学研究
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
特集 日本生態心理学会第1回大会 発表論文
  • 染谷 昌義
    2004 年 1 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     知覚が哲学の中で問題にされてきた大きな文脈の一つは,命題的構造を持つ概念的な知識を非概念的・非命題的な知覚が正当化できるのか否か,また正当化するとすればそれはどのようになされているのか, という認識論の文脈である.本稿では,“<情報抽出をガイドする情報>としての言語メディア"という見方(Reed,1992; 1996a; 1996b)や“概念は知覚をガイドする地図である,概念の意味は操作の結果である"というプラグマティズムの見方(James,1 1907;1 1911; Dewey,1 1929)に倣い,情報抽出としての知覚と,抽出を補助する道具としての概念(命題・言語) とを行為調整によって結び付け,概念的知識は将来の知覚一行為をうまく誘導しガイドする機能を持っているときに正当化される点を指摘する.これによって,know-how (知覚─行為の技能知)とknow-that/what (命題知・概念的知)とのカップリングを基本にしたエコロジカルな認識論を提起したい.

  • 塩瀬 隆之, 植木 哲夫, 川上 浩司, 片井 修
    2004 年 1 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     これまで技能は,それ自身が個人の内に閉じた特別な行為との理解が主流であったため,技能それ自身を抽出できて,機械やコンピュータに閉じ込めようとする技能の技術化研究が進められてきた.しかし,精緻に熟練者の技能を観察すると,環境との遭遇以前に何かが決まっているというよりはむしろ,環境との絶え間ない相互作用の結果として創発してきたと解釈すべき事実が多く,まさに生態心理学的な行為理解の視点が示唆に富む.主体と環境との関係の中で結果として組織化された行為という“技能"の理解は,物理環境を他者環境と読み替えることで,師匠-弟子関係のような徒弟制度的な“技能継承"プロセスの説明にも拡張可能である.そこで本稿においては,生態心理学の視点から技能継承をとらえるための技能継承の技術化スキームについて概説する.

  • 廣瀬 直哉
    2004 年 1 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     コーヒーを入れる課題の観察からReed & Schoenherr (1992)が見出した,躊躇,軌道の変化,接触,手の形の変化,というマイクロスリップの分類は,その後の研究でも踏襲されてきた.しかしながら,実際に行為の観察を行うと,このカテゴリーではうまく捉えることのできないスリップが観察されることがある.本研究の目的は,より一貫性のある新たなマイクロスリップの分類体系を提案することである.新たな分類体系では,変化の形態,変化の方向,変化時の小停止,変化の位置の4つの観点からマイクロスリップの分類を行う.この分類体系で特に重要なことは,行為の変化の方向を,続行,取消,変更の3つに分け,スムーズでない行為の流れを記述することである.この新たな分類体系に基づきコーディングを行った実験から,その分類の有効性の検討を行った.

  • 柴田 崇
    2004 年 1 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     道具を使うとき,わたしたちは,自分の手が対象に触れるのと同じように,直接,離れたところにある対象に道具が触れるのを感じると考えている.こうした現象に関する記述は、視覚障害者が用いる白杖や,内科医の使う探り針probeなどの事例をもとに枚挙にいとまがない.使用に供されているとき,道具はあたかも手の延長として捉えられ,それ自体は“透明”であるかのように考えられているのである.これに対し,D・カッツは,その使用時にも道具が決して“透明"にならないことを,触覚現象の考察を基に主張する.カッツによれば,道具は,使用に供されているとき,手と対象の間に介在し,行為者に,対象の情報だけでなく道具に固有の属性をも伝達する.それは,道具を含む媒介物mediumが,行為主体や対象と同じ資格で実在することを出発点にして初めて可能になった.その意味で,対象(物質),面,とともに,媒質の実在を前提に議論を展開したJ・J・ギブソンの生態学的アプローチの嚆矢になったと考えられる.以上の論点を,両者の媒体論の比較を通じて証明する.

  • 森山 徹
    2004 年 1 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     オカダンゴムシのような下等動物は,自然選択の結果,生得的行動の適応性が保証される限定的環境にて生息するに至ったと考えられている.もしそうであるならば,環境が突如として大きく変動した場合,彼らは全く適応できないことになる.これに対し筆者は,生物は環境中から刺激をその都度自律的に区別し,行動を選択していると考えている.本論文では,オカダンゴムシが新奇的環境において刺激を自律的に区別し,その結果新奇的行動を創発することを示した実験を報告する.実験個体は,水で囲まれたリング状の通路に放置された.この環境において,彼らは交替性転向反応という生得的行動の作用により危険な水際の移動を余儀なくされた.しかし 時間経過と共に,水は刺激として自律的に区別され,個体と水との距離がある一定の値に保たれるような新奇的行動が創発された.更に,通路中央部に小さな障害物が置かれたところ,個体は当初これらに対し無反応だったが次第に刺激として自律的に区別し,遂にはしばしば数個を連続的に伝うという新奇的行動を創発した.

  • 関 博紀
    2004 年 1 巻 1 号 p. 45-62
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,環境の成立を支えている構造に注目した.分析対象は建物という環境であり,1950年以降に日本国内で建設された217軒の戸建住宅である.これらを対象とし,建物がどのような環境として成立しているかを分析した.その過程では,建物を巡る既存の単位である壁や床,柱などと異なる「囲み」という単位が設定された.「囲み」とは,建物の,閉じつつ聞くという特徴を捉える単位であり,囲んでいるものと囲まれることで現れるその場の質を同時に示している.この単位を用いて分析が進められ,建物という環境の構造を,20から成る「囲み」の型と呼ばれる細かな単位へ分類し整理した.

  • 松裏 寛恵
    2004 年 1 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     一乳児を対象とし,リーチング時の姿勢調整の発達的変化について縦断的観察を行った. リーチング時,乳児は重力の制約下で対象物を見るために頭部を定位し,体幹を主とした動的平衡状態を維持しなければならない.また,うつ伏せでリーチングを行う場合,頭部や上体を支持することと対象物に向かうことの2つの機能が両腕(手) に課される.このような制約下で,乳児はリーチング可能な姿勢を調節し遂行する.様々な条件が混在する日常場面で乳児は姿勢の再調整を繰り返す.時としてこの試みは全身体の回転等の崩れを生じさせる.本研究では,リーチング時において乳児が新しい姿勢調節を知るプロセスを記述することを試みた.

  • 佐藤 由紀
    2004 年 1 巻 1 号 p. 73-83
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,舞台上におけるイッセー尾形の“台詞"と“身体"の組織化=協調構造の変化に注目し,役者の演技が変化すれば観客の反応も異なるという演劇表現の事実を手がかりに,演技の分析・比較をおこなった. 研究手順としては,2001 年の春・秋の両公演に上演された演目“ニチゲイ"を研究対象とし,観客の反応である“笑い"を分析・比較し,両公演で“笑い"に差異がみとめられる箇所を抜き出した.そしてその観客の“笑い"が起こるきっかけとなっているイッセー尾形の“台詞"の言語情報とパラ言語情報,“身体"のジェスチャーを分析し,春・秋公演間のイッセーの“台詞"と“身体"の協調構造の変化を比較し,考察した.

  • 佐々木 正人, 高橋 綾, 林 浩司
    2004 年 1 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,卵割りという行為を,対象との接触方法や,それに伴い発生する音の連鎖によって記述することを目的としている.はじめに健常者を対象とした実験を行い,異なる2種類の衝突から成る運動系列によって卵割りが遂行されていることが示された.その後,1人の高次脳機能障害者における卵割り行為の運動系列を記述し,解析した.高次脳機能障害者は衝突が明確に分化していなかったが,卵割りを繰り返すにつれて,衝突が分化し運動系列構造が成立していく傾向がみられた.

  • 林 浩司, 佐々木 正人
    2004 年 1 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,ヴァイオリン奏者の身体に着目することにより,科学的な取り扱いが困難である“芸術性”,“個性"の記述,解析を行うことである.弦楽器演奏では様々なテクニックが必要とされるが,それらのテクニックが表現上どのような役割を果たすかについては十分な議論がされたとは言い難い.本研究では重要なテクニックのひとつである“ヴィブラート"に着目した.ヴィブラートを身体と楽器の“力の相互作用"とみなし,その測定結果と聴覚上の印象を比較することにより,楽器演奏という行為のプロセスを記述した.

  • 玉垣 努
    2004 年 1 巻 1 号 p. 99-103
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     加齢障害や脳卒中や脊髄損傷などの中途障害者のリハビリテーションに関する中心的な話題は,麻痺や筋力低下した手足に集中し,共通して背景にある“基礎的定位の障害" を無視する傾向がある.加えて,力学的な動作分析は,入れ子化している体幹や骨盤,下肢の姿勢制御系を動きのない剛体として計算していることが多い.しかし,宮本ら(1999)は“行為時の同時的姿勢"に着目し,上肢で行う目的的運動と姿勢支持の運動が変化し,互いに協調し影響し合っていることを示唆した.作業療法は“行為"を媒介として治療,指導,援助を行うアプローチであり,当事者の“行為"に介入し,“良い変化"を提供しなければならない.そのためには,目的的な運動と姿勢制御系へ同時に援助すべきではないかと考えている.結果的に,安心して動けることによって,自発的で協調的な基礎的定位への気づき(無自覚)が促されることとなる.

  • 古山 宣洋, 高瀬 弘樹, 林 浩司
    2004 年 1 巻 1 号 p. 105-110
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     発話にはしばしば自発的な身振りが伴うが,発話と身振りの協調はどのように成立しているのだろうか.発話と身振りの協調は,ある水準では,種類の異なる記号聞の協調であり,別の水準では,肢体間協調左同様,運動する振動子聞の協調である.このようなことから,発話と身振りの協調にアプローチするには,言語・記号的な分析と協調のダイナミクスに関する基礎的研究を進め,それらの関係を明らかにしなければならない.本稿は,発話と身振り動作の協調に関して,蓄積されつつあるデータをも踏まえながら,自然会話における発話,身振り,呼吸運動の協調について,定性的な分析および考察をする.

  • 堀口 裕美
    2004 年 1 巻 1 号 p. 111-120
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     写真表現の制作過程における選択についての分析をとおして,表現の成立を視覚的発達過程のなかで起こることとして論じる武蔵野美術大学映像学科の写真作品の制作に関する授業で,写真作品が学生によってどのように制作されるかを参加観察した.本稿では,この授業を担当したプロの写真家と学生とのやりとりの記録を元に,その過程を記述・分析した.その結果,撮ることと見ることのなかで繰り返される視覚的選択によって写真的な単位が発見されることが,制作の持続を促していることがわかった.作品は,そのような知覚と行為のシステムが発達していく過程のなかのひとつの到達点として成立しうるものであることが示唆された.さらに,光学的配列のなかの不変項を画面に保存することが,写真による表現を成立させるひとつの要件として探られていることが明らかになった.

  • 右田 正夫
    2004 年 1 巻 1 号 p. 121-126
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     生態心理学は,動物一般を対象とし得る理論的枠組を提供する.このため,動物一般の行動を進化的適応という統一的な見方の上で扱う動物行動学とは,親和的な研究分野であると考えられる.現在のところ,二つの学問分野聞の交流はそれほど盛んではないが,今後様々な共同研究プログラムが考えられるであろう.そのような交流の結果として,単に互いの現状での正当性を保証し合うことで終わるのか,あるいは,新しい概念が流入することで各分野の理論的枠組の刷新が図れるのか,という問題は興味を引くところである.本研究では,生態心理学における“マイクロスリップ"等の概念を動物行動学に導入し,現代動物行動学の理論的基盤をなす進化的適応概念について再考することの意義について考える.

  • 高橋 綾
    2004 年 1 巻 1 号 p. 127-133
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,環境との関係性から家の中の乳児の移動発達を検討した.具体的にはGibson (1979/1986)が知覚される環境の性質として提案した“遊離対象"に焦点をあて,ハイハイまでの乳児の移動発達を検討した.その結果,乳児は多様な仕方で移動すること,前進移動は対象への定位と関係していること,移動によって拠点ができること,地面との関係が変化すること,追いかける運動が生じることが示唆された.

  • 西崎 実穂
    2004 年 1 巻 1 号 p. 135-140
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,乳幼児とその環境を理解することを目的とし,乳幼児が残す行為とその跡に着目して検討した.これは表面の変化であると同時に乳児が対象との関係を変化させようとした意図の痕跡である. なぐりがきのような手の痕跡をGibson,J. J. (1966) は知覚の練習と称した.痕跡は操作の持続の記録であり,さらに新たな行為を生むリソースとなる.本研究で観察された痕跡はなぐりがきなどの描画行為だけにとどまらないものである.観察から得られた乳幼児の痕跡を,表現以前にある表示という範囲に含まれ,なおかつ表現と表示という両者を結び得るものであると考える.

  • 宮本 英美, 小池 琢也
    2004 年 1 巻 1 号 p. 141-146
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     対象物操作に伴い出現するマイクロスリップは行動の適応性を示す現象として興味深い.先行研究では,マイクロスリップが動作遷移の途上に現れる普遍的な現象であることが示唆されているが,その生起機序についてはいまだ明確ではない.生起機序を検証するための準備として,系列的行動のタスク制約を構成する3つの性質を概観するまた,系列的行動が困難な観念失行患者の事例では,症状が顕著なときはマイクロスリップが生起しないが,行動の達成に伴いマイクロスリップが生起するという臨床的な報告があり,行動系列障害の回復を示す一指標としてマイクロスリップ生起の意味が実証的に位置づけられることが期待される.本稿では, これらの手がかりに基づいて,マイクロスリップがタスク制約を背景とした視覚的な探索と運動制御によって生じる運動成分であると主張し,将来的な実験研究への有用な仮説となることを議論する.

  • 佐分利 敏晴
    2004 年 1 巻 1 号 p. 147-157
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     Kaplan, G. Aによる論文 “Kinetic Disruption of Optical Texture: The Perception of Depth at An Edge" について,現在の視覚論における役割について考察する.彼はGibson, J. J. が提唱した生態光学から視覚を,特に表面(surface)の分離と奥行き方向の配置の判定について,表面の肌理とそれにより構造化された光学的配列に基づいて実験し,考察した.その結果,彼は“隣接する構造" (Adjacent orders) と, その非トポロジカルな変形一崩壊(disruption)によって奥行きが判定できることを示した.

  • 福間 祥乃
    2004 年 1 巻 1 号 p. 159-166
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     人が実際の街において,場所を特定するために使っているレイアウトについて研究することが目的である.このために,筆者はまず渋谷の街の交差点106箇所での各視界を上下150度・左右360度分撮影し,パノラマ 画像として合成することで提示画像“包囲写真"を作成した.被験者に対してこれらをディスプレイで提示し, 実験者の質問(1. 画像の撮影場所はどこか,2. 何を手がかりにその場所がわかったか)に答えてもらった.実験中の被験者の発話を,環境を面のレイアウトの集合として捉えるJ. J. ギフソンの生態心理学的観点から分析した.結果から,各レイアウトを利用し,ヴィスタを重ねることでヴィスタ群を作りだすことが,街の認識につながっているのではないかと考察した.

特別寄稿
  • 野中 哲士
    2004 年 1 巻 1 号 p. 169-181
    発行日: 2004/02/14
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

     Stoffregen & Bardy (2001) によって提唱されたグローバルアレー(Global array)の概念とStoffregen (2003) によるアフォーダンス論を概観し,双方の議論が一貫した主張に基づいていることを示した上で,Gibsonの理論との比較を通してその主張を批判的に考察する.グローバルアレーに関しては,アフォーダンスの様々なレベルに応じて,それを特定する情報が様々なレベルで存在すること,また,情報の存在するエネルギー配列が単数か複数かという問題設定は,直接知覚に関して本質的な問題設定ではないことを示す.アフォーダンスに関しては,相対主義的なアフオーダンスの解釈を招きかねないStoffregenの議論の問題点を指摘した上で,環境の事実としてのアフォーダンスに,より普遍性の低い行動の事実としてのアフォーダンスが入れ子になっているという新たな見方を提示する.

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