本研究は,行為者の姿勢制御系の制約が系列行為に与える影響を明らかにすることを目的に,マイクロスリップの観点から動作系列の推移を修復モデルに基づいて分析した.被験者は健常成人 10 名とし,統制群と姿勢制御系に制約を与える実験群に無作為に振り分け,お茶を 1 杯淹れる課題を遂行した.動作系列の推移は修復対象,非流暢,修復と 3 つの連続する区間に分けて記述し,特徴的なタイプを抽出した.実験群においては,修復対象の抽出,非流暢の有意な増加,中でも躊躇と接触が特徴的に抽出された.動作系列レベルにおける修復対象については,次の行為に向けた準備的役割や対象知覚の補償といった探索機能的な意味を再検討する必要性が示された.修復区間では,視知覚系による探索過程が躊躇と関連して続行が有意に増加し,転換と代替は課題対象と対象間における場の知覚と操作制御の知覚に関連していることが確認された.少なくとも姿勢制御系に困難性を抱えるということは,系列課題遂行の戦略となる知覚‐運動の探索過程に影響を与えることが明らかとなった.それは,予期的に行為が連結されず,全体構造を安定して知覚することを困難にするが故に,マイクロスリップの生起によって環境と行為者の持続した関係を保ち,行為を繋いでいることが示された.
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