生態心理学研究
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日本生態心理学会第10 回大会 予稿
  • 中田 裕士
    2026 年18 巻1 号 p. 3
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー
  • 坂東 元
    2026 年18 巻1 号 p. 4
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー
  • 染谷 昌義, 吉田 正俊, 廣田 隆造
    2026 年18 巻1 号 p. 5-9
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本シンポジウムでは,心のはたらきに対する二つの研究プログラムであるエコロジカル・アプローチとエナクティヴ・アプローチの共通点・相違点,ならびに協働と相補の可能性を検討し,今後の議論の端緒を開くことを目的とする.エナクティブ・アプローチ側から吉田正俊(神経科学),廣田隆造(身体性認知科学)が提題発表を行い,それに対し染谷昌義(生態心理学・哲学)が議論を仕掛ける構成でシンポジウムを進行する.

     二つのアプローチは,知覚認知の反表象主義,知覚認知において身体行為が果たす役割の強調,生物主体と環境との動的な関係調整としての認知観といった点は共通しており,認知主義的な心の理解に対し一貫して反対してきた.他方,両者は30年近く前から対立もしている.1991年の誕生当時,エナクティヴ陣営は,エコロジカル陣営が脳や神経系の仕組みをほとんど重視していないと批判した.逆に,エコロジカル陣営は,エナクティヴ陣営が生態学的環境や刺激情報に十分な注意を払っていないのではないかという不満があったと考えられる.ところが,最近になって海外の研究では,二つのアプローチの違いを認めつつも,互いのセールスポイントを結びつけ補おうとする動きが始まった.このシンポジウムでは,こうした最新の動向や課題について報告し,さらに議論を深める場としたい.特に本邦にてエナクティヴ・アプローチを専門とする吉田正俊氏と廣田隆造氏に登壇してもらい,エコロジカル・アプローチとエナクティヴ・アプローチの近さと遠さについて集中的に議論する.

     吉田正俊氏には,エナクティヴ・アプローチの本質,最も重要なポイントと魅力,エコロジカル・アプローチとの異同を指摘してもらい,協働の可能性を考えるための材料を提供していただく.廣田隆造氏は,エコロジカル・アプローチの重要概念であるアフォーダンスをエナクティヴな観点から捉え,数学における圏論を用いアフォーダンスの関係的性格と資源的性格が両立可能であるという主張を展開していただく.染谷昌義は,シンポジウムの最初に二つのアプローチの論争点と現況を手短に報告し,個別の提題はせず,エコロジカル・アプローチ側からのディスカスタントとして質疑を行う.

  • 牧野 遼作, 山本 敦, 細馬 宏通, 高梨 克也, 名塩 征史
    2026 年18 巻1 号 p. 10-17
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

    人間の行為を十全に理解するには、他者との関係によって形成される社会的環境と、身体を通して関わる物質的環境の双方に跨るものとして行為を捉える必要がある。本シンポジウムでは、相互行為分析と生態心理学の接点を改めて見直すことで、自己―他者―環境という三項関係に基づく相互行為の新たな記述可能性を探る。動画データに基づく発話や身体動作の分析を通して、現実のコミュニケーションにおける三項関係の構成過程を検討し、静的で単純化されたモデルを超えた、動的な行為理解の可能性について議論する。

  • 河野 哲也, 石渡 美穂子, 黒子 彩子, 棚橋 愛
    2026 年18 巻1 号 p. 18-26
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     生態心理学は,これまで,医療や看護,特別支援教育,養護,当事者研究といった臨床場面の分析やその課題解決に用いられることが少なかった.本シンポジウムでは,生態心理学の諸概念と研究方法が,臨床場面でいかなる有効性を持ちうるかについて,3名による提題を行う.石渡は,「浦河べてるの家」によって生まれた「当事者研究」を生態学的アプローチから分析することが,いかに障がいの個人モデル/社会モデルを乗り越え,個々のQOLを向上させるのか,生態学的現象学の立場から検討する.黒子は,学校現場における養護教諭の実践を,子どもと環境との相互作用という側面から捉え直す.棚橋は,看護教育における学びと実践の生成過程を,現象学と生態心理学の視座から探究する.

  • 菅野 裕暉
    2026 年18 巻1 号 p. 27-29
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     予測処理は、脳が形成する環境に関する予測信号と実際の感覚信号との誤差(予測誤差)を最小化するという観点から、知覚、身体運動、情動などを説明する理論である。予測処理に拠れば、道徳的規範は、規範的態度(社会的な制裁行動を通じて予測誤差の最小化を他者に促す態度)を伴い、かつ自らを支持する証拠が大多数を占めるような規範として理解できる。こうした道徳的規範は、社会的な規則性を予測モデルに組み込み(学習)、さらにその学習された規則性を環境の側に反映させる(社会的ニッチ構築)なかで獲得される。本発表では、この道徳的規範の獲得の過程をSituated Normativity(特定の状況において「良い/悪い」を弁別する実践的能力)の観点から考察する。Situated Normativity は、より良い環境の実現に向けた行為と本質的に結びついており、予測処理の文脈では、行為者が具体的な社会的文脈において予測誤差を最小化する能力として捉えられる。この観点から、予測処理に基づく道徳的規範の獲得に関する、適応的かつ状況依存的な側面を明らかにする。

  • 井上 拓也
    2026 年18 巻1 号 p. 30-39
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,大規模言語モデル(LLM)の「意味理解」を,受容者のアフォーダンス知覚を誘導・拘束する「知覚デザイン(perceptual design)」の生成と再定義し,その生態学的妥当性を実証的に検証した.解析では『分類語彙表』に基づく層化ランダムサンプリングを行い,LLMが生成する動詞ランキングと,人間社会の行為ループを反映した統計データ(JpTenTen)との相同性(isomorphism)を定量化した.解析の結果,全モデルにおいて人間側の統計的優先順位とは対照的な「負の相関」が観測され,層間(対象・道具・場所)での相同性スコアに有意な差は認められなかった.本手法は,人工知能の情報処理体系が人間社会のニッチといかなる構造的差異を有しているかを測る客観的な性能評価基準として有効である.

  • 畑 美緒, 古山 宣洋, 三嶋 博之
    2026 年18 巻1 号 p. 40-49
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     光学的流動 (Optical Flow) が姿勢制御に与える影響に関する生態学的研究は,これまでLeeらによる“Swinging Room” 実験パラダイム(Lee et al., 1974)の枠組みの中で行われてきた.この実験は,参加者を囲む表面(床を除く壁と天井)が前後に動揺するものが典型的であり,Gibson (1979) などでは ”Gliding Room”,Schöner (1991) などでは “Moving Room” として,名称は異なるものの,理論と研究が蓄積されてきた.それらの結果は示唆に富むものの,生物がいる環境は決して一枚の壁で構成されているわけではなく,あらゆる対象は散在しており,それらの対象による遮蔽関係は無数に存在する.遮蔽関係は観察者にとって重要な情報であるが,従来の “Swinging Room” では,参加者は一体となった表面で完全に囲まれていたため遮蔽関係は存在しておらず,それを原理的に捉えることができない.そこで本論では,“Swinging Room” 実験パラダイムを「遮蔽関係を導入する」という面から再考し,新たにNested Moving Roomを提案することでこの歴史的実験パラダイムの新たな展望を模索する.

  • ヒュース 由美, 工藤 和俊
    2026 年18 巻1 号 p. 50-54
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     即興演劇における発話の生成は,他者を含む環境との即時的なインタラクションとして捉えられる.本研究では,即興演劇(119発話)と台本演劇(112発話)における発話と間の時間構造を比較した.台本には即興で生成されたセリフを使用し,発話内容を統制した(Jaccard係数0.92).結果,発話速度は即興演劇より台本演劇の方が速く(p < .001),発話内およびターンテイキングの間は即興演劇の方が長かった(発話内;p=.013,ターンテイキング;p=.004).短期的変動に関する検討では、発話内およびターンテイキングの連続する間において、即興演劇の方が高い変動であった。(発話内;p=.007,ターンテイキング;p=.016).Detrended Fluctuation Analysisのスケーリング指数では,即興演劇が台本演劇より高かった.さらに物語を起承転結の4セクションに分割して,間に関するKL Divergenceを算出した結果,即興演劇では終盤に向けてセクション間のサプライズが単調増加し(起→承:0.71 bits,承→転:7.25 bits,転→結:11.29 bits),台本演劇では頭打ちの傾向を示した(起→承:0.94 bits,承→転:4.67 bits,転→結:4.38 bits).これらの知見は,即興における「間」が,物語展開に伴う環境とのインタラクティブな調整過程を反映する可能性を示唆する.

  • 鈴木 紫琉, 金 希堯, 落合 陽一
    2026 年18 巻1 号 p. 55-64
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)分野において音楽は重要な応用領域であり,即興パートナーとして協働するシステムも提案されてきた.一方で,演奏行為そのものに直接介入するインタラクションは十分に検討されていない.本研究では,筋電気刺激(EMS)によってパッド型デジタル楽器の押下・離脱をランダムに誘発するシステムを実装した.音楽家3名による同システムを用いたソロ即興を対象に,回顧説明と半構造化インタビューを実施し,テーマ分析を行った.その結果,EMSが演奏のインスピレーションの源となること,システムの作用を直接制御することの難しさ,システムとの交代的な応答戦略,および演奏者の探索志向的な態度を特定した.本研究は小規模な質的調査にとどまるものの,身体アクチュエーションが,演奏行為の遂行を演奏者に知覚させることと習慣的な動作パターンから逸脱することを通じて,楽器のアフォーダンスの発見を促しうることを示唆する.

  • 鈴木 ほのか, 伊藤 精英, 角川 雅俊, 梶 征一, 松石 隆
    2026 年18 巻1 号 p. 65-72
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,音楽に対する暴露が飼育下のネズミイルカの行動に及ぼす影響を明らかにすることであった.実験では,水族館に飼育されている2頭のメスのネズミイルカに対して,4種類の異なるクラシック音楽をランダムに呈示し,音楽の有無が2頭に与える影響を比較した.観察指標として,浮上行動,ネズミイルカの気分評価尺度を設定した.実験の結果,2頭とも音楽を呈示した方が浮上行動に費やす時間が有意に増加した.浮上行動はストレスや警戒心が高まる環境では頻発しない行動と言われている(幸島ほか,2008).また,飼育員による2頭の気分評価尺度を得点化した値は,音楽呈示期間が長くなると増加しており,飼育員から見ても2頭が落ち着いた状態であったことを意味している.以上のことから2頭は,音楽が呈示されたプールを警戒する必要のない環境だと知覚した可能性が考えられる.つまり音楽がネズミイルカに対して安全な場所のアフォーダンスを提供し得ることを示唆する.

  • 園田 正世, 野澤 光, 向井 香瑛, 金沢 創, 山口 真美, 工藤 和俊
    2026 年18 巻1 号 p. 73-77
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     ヒトを含む哺乳類の仔は,保護者に運ばれている際に輸送反応と呼ばれる特徴的な反応を示す(Esposito et al.,2013).仔マウスでは,母親らしい運搬の仕方をすることで鎮静反応がおこり,母マウスがより運びやすくなることが確認されている.これは生存率を高める適応的反応と考えられており,抱いて運ばれているあいだのヒトの乳児も輸送反応が見られることが報告されているが,ヒト乳児の四肢の具体的な姿勢は検討されていない.本研究では,仔マウスが輸送反応時に小さく丸いコンパクトな体勢をとることに着目し,ヒト乳児における抱かれ姿勢と鎮静反応の関係を検討した.実験では母親が抱き,乳児は股関節屈曲姿勢(安定姿勢)と膝伸展姿勢(不安定姿勢)になるよう抱っこひもを調整して歩行した.それぞれの条件で心拍数の変化を比較した結果,安定姿勢での抱きが,膝を伸ばした不安定姿勢の状態よりも速く心拍数が低下する傾向が認められた.

  • 大野 俊尚, 清水 大地, 三嶋 博之
    2026 年18 巻1 号 p. 78-87
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     「バトル」と呼ばれる形式で競われる、ストリートカルチャーのパフォーマンス競技が近年注目されている。これらの競技ではパフォーマーがおこなった技の難易度や「うまさ」だけでなく、「かっこよさ」という主観的な印象も含めて優劣が決められる。では人はパフォーマンス・パフォーマーのどこから「かっこよさ」を判断しているのだろうか。本研究の目的は、生態心理学の視座から、「かっこよさ」評価を「身体性の異なる評価者が能動的に探索して築いた評価対象との関係」と考え、その関係性を示す探索過程を検討する。方法として、フリースタイルバスケットボールのパフォーマンス動画を対象とした印象評価実験をおこない、動画視聴中の評価者の、パフォーマーの頭部とパフォーマーが持つボールに対する視線分配の時系列変化を検討する。視線の分析には、Shimizu & Okada (2025)によって提唱された、Colored Cross Recurrence Quantification Analysisを用いることを提案する。

  • 古山 宣洋, 近藤 崇之, 伊藤 万利子, 友野 貴之, 三嶋 博之
    2026 年18 巻1 号 p. 88-96
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     間隙の通過可能性を判断するための知覚情報については身体幅に対する間隙幅の比(例:間隙幅/肩幅)をπ値として議論が進められている.Warren & Whang(1987)は,身体幅との比が固定的である眼高に対する間隙幅の比で間隙通過可否を判断しているとする眼高情報仮説を提案し,以降この亜種が提案されているものの,2つの幅の比として議論する枠組自体は変わっていない.しかしながら,これらの仮説の前提条件が成立しない状況であっても間隙通過可否判断ができる事例が観察されている.そこで,本稿では,間隙幅/肩幅や,事前の知識(例:肩幅/眼高の固定比)を参照することのないまったく新しい情報仮説を提案する.間隙幅と身体幅の大小と, 間隙通過可否判断をする観察者が間隙に近づくにつれ変化する,自身と環境の間に成り立つ幾何学的なパターンとの関係についてまず確認することから始め,さらに一般τ理論で提唱されるτ結合の概念を用いることで,十分予期的な制御が可能となる説明を試みる.

  • 廣田 隆造
    2026 年18 巻1 号 p. 97-106
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     今日の生態心理学は,社会的実践や技術習得などにまでその射程を広げているが,その数理的基盤は古典的な幾何学的枠組みに留まっている.本発表では,この課題への処方箋として,現代数学における圏論が持つ可能性を検討する.一方でJ.J. Gibsonの生態光学は,幾何学においてF.Kleinが「エアランゲン・プログラム」として提案した「対象をある変換群のもとで不変の性質によって規定する」という方法論を知覚と運動の理論へと応用し,生態心理学もそれを継承している.他方で圏論は,この方法論の射程を幾何学以外へと拡張する「エアランゲン・プログラムの延長」として20世紀半ばに提案され,あらゆる対象を,それらがもつ「射」のネットワークとしての「圏」から特徴付ける理論体系を発展させてきた.こうした歴史的パラレル性を踏まえ,本発表は,生態心理学の「エコロジー」への眼差しを体系化するための枠組みとしての圏論の可能性を議論する.

  • 杉山 智久, 加藤 敬
    2026 年18 巻1 号 p. 107-114
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     重症熱傷患者の作業療法で,触覚システムへ働きかけた介入において,知覚分化の過程と神経由来の知覚低下との相違点を考察したものである.事例は,30代男性,仕事中に受傷,手背部III度熱傷,遊離複合組織移植による重度表在覚鈍麻,ピンニングによる手指可動域制限をきたした.介入前期では視覚代償が主,介入後期では残存する深部覚,パチニ小体,ケラチノサイトがセンサーとして機能する介入を実施.具体的には能動的探索活動を取り入れ,物品の長さや重さ,皮膚の伸張感や振動への気づきを促す知覚再教育を実施.その結果,静的な受動覚の回復は認めなかったが,能動的触知覚が向上し日常生活での使用頻度が増加した.熱傷患者は伝導路が維持,深部覚は残存しやすいため,早期から運動と知覚の循環を促す介入が,脳の可塑性を通じた知覚分化に有効である可能性が示唆された.

  • 鳥羽 允人, 友野 貴之
    2026 年18 巻1 号 p. 115-123
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     歩行中の他者とのすれ違いにおける回避行動は, 相手の動きや身体的特徴だけでなく, 衣服の色といった外見などの情報に影響される可能性がある. 本研究では, 歩行者の衣服の色がすれ違う他者の進路変更行動に与える影響を検討した. 白, 黒, 水色, 赤, 紫の各色のロングスリーブシャツを着用して歩行する男性の歩行者1名とすれ違う実験を実験参加者に実施した. 従属変数として以下の4つを測定した; ①すれ違う瞬間の参加者と歩行者の距離, ②参加者の歩行開始位置から進路変更開始地点までの距離, ③進路変更開始時の参加者と歩行者との距離, ④参加者が進路変更を開始した時点における, 歩行者の位置から歩行者の歩行開始位置までの距離の4か所の距離. 実験の結果, 衣服の色と性別が進路変更距離に有意に影響を与えることが示された. 特に, 赤や紫の衣服は, 威圧感や注目性により参加者の回避行動(進路変更行動)が早まる傾向があり, 女性の参加者は進路変更の開始タイミングが男性の参加者と比較して早まる傾向があった. これらの結果から, 歩行時のすれ違い場面において, 衣服の色が進路変更行動に影響を与えることが明らかとなった.

  • 大山 耀平, 友野 貴之
    2026 年18 巻1 号 p. 124-131
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     教育現場では2人の生徒が協同して描画を行う場合がある. Areljung et al.(2025)によれば, 多くの場合, その相互的な調整は発話を用いずとも行われていた. 本研究では, 参与者2人が協同して描画を行う際に, どのような身体的資源や環境的資源を利用し, 互いの描画行為を維持していたのかに着目した. 明らかになったことは, 協同して描画を行う参与者は自他の身体的資源と, 画用紙やそれに残されている絵という環境的資源を多様な用途で用いていたということである. これら2つの資源を利用することで, 参与者は相手へ描画順番を交替することや, 互いの描画行為を可能にしていた. さらに, 参与者は自他が描いた絵を指し示すことによって互いの描画行為を維持していることも明らかとなった.一方で, 参与者の描画行為には淀みや停滞が生じる場合もあった.

  • 青井 郁美, 野中 哲士
    2026 年18 巻1 号 p. 132-139
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究では,保育施設で過ごす3名の乳児を対象に保育室内で乳児が触れたモノと,モノとの接触に付随する経験について縦断的に分析した.保育室内で自由に遊んでいる時間に乳児がモノに触れた場面を動画から抽出し,接触したモノ,モノへの接触持続時間,接触に付随した出来事と大人の関わりの有無やそのヴァリエーションについて特定し,臥位で過ごす時期,ずり這獲得期,立位獲得期に分類し検討した.その結果,乳児が触れるモノやモノに触れることに伴い経験する出来事のヴァリエーションは,移動運動を獲得することによって多様になり,大人の関わりの有無はモノとの接触持続時間に影響を与えていた.一方,各乳児にユニークな発達的変化も観察された.

  • 沖田 羽舞, 友野 貴之
    2026 年18 巻1 号 p. 140-148
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     災害現場などでラジコンカーのような遠隔で操作するロボットの活用が期待される一方, 遠隔操作では環境の奥行きやスケールの情報が不足し, 通過できない幅を「通過できる」と判断してしまう過大評価がおこりやすいことが先行研究(Moore et al., 2007; Moore et al., 2009)で指摘されてきた. 本研究では, ラジコンカーの写り具合と間隙幅を独立変数とした間隙通過課題を実施した. ラジコンカーの写り具合の要因として4つの条件を設定した; ラジコンカーを直接見ながら操作する条件(直接可視条件), ラジコンカーの車体が見えない状態で遠隔操作する条件(遠隔不可視条件), 遠隔操作するラジコンカーの車体前方のみが見える条件(遠隔前方可視条件), 遠隔操作するラジコンカーの車体全体が見える条件(遠隔全可視条件). その結果, ラジコンカーが通過不可能な間隙幅8㎝において, 遠隔操作の前方可視条件・全可視条件は, 直接見ながら操作する条件よりも有意に通過可能と判断する過大評価が確認された. このことから, 例えラジコンカーの一部もしくは全体が操作画面に写っていたとしても正確な判断には結びつかないことがわかった.

  • 染谷 昌義
    2026 年18 巻1 号 p. 149-151
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     どのような存在に心のはたらき(認知)があると言えるのだろうか?近年の心理学の哲学、生物学の哲学、心の科学においては、「心」と「生命」を連続的に捉える、あるいは両者を強く同一視する立場が力を増している。心のはたらきは脳や神経系の存在を必ずしも前提としない。その結果、認知は、脊椎動物、無脊椎動物にとどまらず、細菌、アーキア、原生生物、菌類、植物にまで拡張され得るものと考えられている。この見方を真剣に受け止めるなら、心理学の守備範囲は大きく拡張されることになる。心の科学を長らく、そして現在も拘束してきた「神経戦線」、すなわち心理的現象を神経基盤に関連づけて理解しようとする枠組みは、再考を迫られることになるからである。本発表ではこのような動向を「神経戦線の突破」と捉え、その思想的背景と意義を検討する。具体的には、2000年代後半に始まる植物神経生物学の運動、認知に対するバイオジェニック・アプローチの提起を起点とし、目下、基底認知と呼ばれる認知生物学の興隆までの動向を、課題や批判を含めてレポートし、神経戦線突破の先に見えてくる将来の心理学―アニマシー心理学のあり方を素描する。生態心理学がアニマシー心理学に対してなしうる寄与についても検討する。

  • 稲見 悠, 森 直久
    2026 年18 巻1 号 p. 152-159
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,人同士がすれ違う際に生じる歩行の停滞や互いに衝突する方向への進行といった,ぎこちないすれ違いの発生プロセスに関する仮説を生成することを試みた.歩行者同士が衝突を回避しつつ行き交う状況を設定し,実験観察を行った.その結果,ぎこちないすれ違いが7場面観察され,その発生パターンは次の3つに分類することができた.①足が接地する直前の情報探索・行為調整によるもの.②歩行者の行為と対向者のその予期の間の乖離によるもの.③歩行者間の探索的行為の循環によるもの.これらの場面では,歩行者と対向者が接近しつつ,互いに相手の行為の探索と自身の行為調整を行うことで,ぎこちないすれ違いが発生していると考えられた.このような事態は,歩行者と対向者が共に能動的に知覚行為循環を行うエージェンシーを有する存在であるために発生しうると考えられた.このことから,エージェンシーを有する歩行者・対向者が,共に足の振り上げを開始した後にも能動的に知覚行為循環を行うことで,ぎこちないすれ違いが発生しうるという仮説が提出された.

  • 成田 明凜, 友野 貴之
    2026 年18 巻1 号 p. 160-168
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究では, VR環境における単色空間が空間の広さ知覚および提示画像に対する印象評価に及ぼす影響を検討した. 参加者は黒を基準とした7色の単色空間を体験し, 空間の広さ知覚の評価および単色空間内に提示された画像に対する14項目の感情語を用いた印象評価を行った. その結果, 空間の広さ知覚に対する色の主効果は一部でのみ認められ, 仮説は部分的支持にとどまった. 一方, 画像と感情語の組み合わせに有意な影響が見られた. 本研究の結果は, 空間色が提示画像への印象評価に影響を及ぼし, 環境や空間の広さの知覚が変化する可能性を示唆した. 総じて, 印象や感情といった内的経験は, 身体運動のように外在化された指標を通じて直接的に捉えることが難しい領域ではあるが, 本研究はこれらを高次認知機能としてではなく, 環境情報の知覚的拡張として位置づけることを試みた.

  • 東 優汰, 野中 哲士
    2026 年18 巻1 号 p. 169-174
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     ヒトは視覚を剥奪された状態でも,自ら移動した距離を的確に知覚し,再現できる.このような能力はhuman odometerと呼ばれ,これまでに複数の実験結果が蓄積されている.本研究ではhuman odometer研究の実験パラダイムを援用し,受動的な移動場面 (i.e., 「運ばれる」場面) におけるodometer能力を検討した.具体的には,視聴覚を剥奪された参加者を地点Aから地点Bまで2種類の方法 (おんぶ orキャスター椅子) で運搬し,その後地点Aまで独力で歩いて帰るよう求めた.結果として,参加者の反応はおんぶ条件においてより正確であった.2つの運搬方法は,ヒト身体の歩行ダイナミクスを参加者が利用可能か,という点で異なっている.本研究はhuman odometerがヒト身体に固有の歩行ダイナミクスを情報資源として実現されていることを示唆する.

  • 持舘 康太, 友野 貴之
    2026 年18 巻1 号 p. 175-180
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     オプティックフローとは,包囲光配列が流動することで生じる光学的な情報である(Gibson, 1979).オプティックフローを提示する実験の多くでは,ディスプレイ上での提示刺激を与えることで,GOFとLOFを再現している.しかし,ディスプレイ上で発生したリアルでないオプティックフローの特異性については十分に検討されていない.本研究では,参加者が提示された視覚的情報の中で,加減速をすることで能動的に探索できる環境を構築した.また,刺激としてLOFを提示した.実験では,能動的な操作の有無による影響を検討した.実験の条件は,操作の有無による2水準であった.LOFに対する反応時間と操作の速度変化を従属変数として計測した.実験の結果,操作の有無においては有意な差が確認された.ディスプレイ操作時の姿勢の知覚の影響が考えられたことから,参加者が視覚システムと定位システムの情報を相補的に活用することにつながっていた.また,速度変化を調節することによって,不変項を知覚しやすくしていた可能性が示唆された.

  • 右田 正夫, 森山 徹
    2026 年18 巻1 号 p. 181-182
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー
     本研究では,生成AIにタートルグラフィックスのプログラムを生成させることを通じて,AIの「心」へのアプローチを試みる.タートルグラフィックスは,仮想的なロボットに前進や回転などを指示することでコンピュータの画面上を移動させ,その移動軌跡によって描画するものである.ChatGPTなどの生成AIに対して,タートルグラフィックスで何らかの絵を描くプログラムを生成するように指示すると,往々にしてユーザーが期待したものとは異なった絵を描くプログラムが作られる.これは恐らく,AIが生成したプログラムの動作を検証する手続きがないために生じる齟齬であるが,一方で,こうした齟齬によって,生物の心の様相が逆照射されるものと考えられる.
  • ──役の類型に着目して──
    坪井 駿門, 古山 宣洋
    2026 年18 巻1 号 p. 183-190
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

    本研究は,歌舞伎における立役と女形の演じ分けが,性別だけでなく身分や年齢によって変化する役の類型によってどのように異なるかを定量的・定性的に検討した.実務経験を持つ歌舞伎俳優1名を対象に,立役については侍・町人男性・老爺の3種と女形については姫・町人女性・田舎娘・老婆の4種の計7類型の歩行動作をモーションキャプチャで計測し,インタビューを行った.腰の高さ,腰の動きの軌跡,膝間距離,歩幅等の指標を分析した結果,立役と女形で共通した差異に加え,立役と女形内でも類型による差異が確認された.立役は身分が高いほど動作が大きく力強くなる一方,女形は身分が高いほど動作が小さく抑制的になる傾向が見られた.また,老爺や老婆には動作の不安定さが確認された.本研究は,歌舞伎において社会的地位や年齢に応じた表現手法として,身体動作が調整されていることを示唆する.

  • 真下 英明
    2026 年18 巻1 号 p. 191-200
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,寝る動作における枕位置の特定が,個体の身体尺度(座高)とどのような関係にあるかを記述的に検討した.回復期リハビリテーション病棟入院患者15名と健常成人5名を対象に,座高を回転半径と見なし,枕の最適位置として選択される距離を測定した.その結果,選択距離と座高の間には極めて高い比例関係(R²=0.99)が観察され,選択距離を座高で無次元化したπ値は,群や左右条件の別なく0.75付近に収束した.一方,患者群では,この選択距離の安定性にもかかわらず,実際の寝る動作において頭部の到達位置に系統的なずれを生じる症例が認められた.これらの結果は,寝る動作における定置が身体スケーリングに基づく知覚現象である可能性,また身体機能の変化に対する知覚−行為システムの再組織化が,探索活動の制約により遅延する可能性を示唆する.

  • 児玉 謙太郎, 中山 景介, 磯田 和生, 松山 麻珠, 久永 一郎
    2026 年18 巻1 号 p. 201-208
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究では,行為者にとっての障害物の生態学的な意味(危険性,情動性など)が,回避行動に及ぼす影響を検討するため,仮想環境で跨ぎ越え動作を計測・解析し,条件ごとに比較した.参加者は実環境,および,VR(仮想現実)とMR(複合現実)を統合したXR空間内を歩行しながら,4種類の障害物(実環境内のブロック,VR内のブロック,空き瓶,猫)を跨ぐよう教示され,各障害物を通過する瞬間の爪先の高さと速度が比較された.その結果,外寸はほぼ同じであっても,実環境よりVR環境で,かつ,空き瓶や猫に対して,参加者は先導脚をより高く持ち上げ,後続脚の速度を増加させる戦略をとる傾向が観察され,行為の文脈における対象の生態学的な意味が,障害物の知覚や行為に影響する可能性が示唆された.今後,本研究の知見がリハビリテーションや転倒予防プログラムの開発などに応用されることが期待される.

  • 吉田 快馬, 堀内 隆仁
    2026 年18 巻1 号 p. 209-218
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

    本研究は,朗読練習における文字列の韻律化過程で生じる読み直し行為の意味を明らかにすることを目的とする.朗読練習において読み手は,文字列に直接書き込まれていない韻律的側面を探る.このとき,見慣れない文字列を自分なりに声へと韻律化する過程は,部分的にテクストを読み上げる「読み直し」として現れる.本研究ではこの点に注目し,短歌を例題に,ノーテーションを作成しながら朗読を練習する課題をおこない,その様子を撮影・録音し,記録したデータと事後的に行ったビデオリフレクションを相互参照しながら実践過程を分析した.結果,読み直し行為は,文字列を《統合》・《焦点化》・《反復》・《移行》といった形で切り替えながら連鎖し,調音に伴う微細な運動感覚の変化を探索する過程であることが示唆された.

  • 山本 尚樹
    2026 年18 巻1 号 p. 219-224
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

    本稿は,制作プロセスと道具の関係,多重時間スケールの概念,この2つの観点から1名の木工作家がヘラを制作するプロセスを数年にわたってどのように探索しているのか,検討した.2018年,2019年の制作の様子を分析した結果,各年で削りの工程の手順が異なるだけでなく,同じ年であっても1~2日の間に削りの手順を変えていることが示された.マクロ,メゾなタイムスケールの中での工程の変化が見られ,それらが入れ子になっていた.

  • 中山 優, 成田 雄一
    2026 年18 巻1 号 p. 225-228
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     高齢者の長期臥床はアフォーダンス獲得を妨げ、情動の発生が減少する。今回、100歳代の女性への理学療法介入について報告する。年齢100歳代の女性。在宅生活で転倒を繰り返していた。脱水と尿路感染症で緊急搬送され、食欲不振・起立性低血圧からベッド上生活となった。3週間の安静で認知・身体機能が低下した。GCS:E3 V2 M3。自発性低下、座位保持も介助が必要。アフォーダンスの獲得を知覚循環、自己組織化によって行うことによって深部脳に対して情動の発生や運動学習による基本動作の制御能を自覚させる。視覚・内在フィードバックを活用。40日後には歩行訓練や会話も可能になった。GCS:E4 V3 M6に改善した。臥床の長期化は廃用と深部脳への影響による自発性・情動抑制につながった。知覚刺激や環境調整が認知機能や自発性の改善に有効であった。本症例から身体的・知覚的刺激や環境調整が重要であり、個々の状況に応じた柔軟な支援が必要だと示唆された。

  • 渡邉 観世子, 樋口 貴広
    2026 年18 巻1 号 p. 229-234
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     妊婦の転倒リスクに関わる要因を明らかにするために,妊婦体型における障害物のまたぎ動作の特性を足部クリアランスと障害物への視線行動から検証した.若年健常女性6名は妊婦体験ジャケット着用の有無それぞれにおいて,両手での荷物の把持(あり,なし)と障害物の高さ(5cm,15cm)の2つを要因とした4条件のまたぎ動作課題を実施した.主たる従属変数として,またぎ動作遂行中の先行・後続下肢における足部クリアランスを測定した。また視線行動や妊婦体験ジャケット着用時の転倒恐怖感を計測した.その結果,妊婦体験ジャケット着用時には,(a)両手荷物把持条件下で高い障害物をまたぐ際の先行下肢の足部クリアランスが低下する,(b)荷物把持に関わらず低い障害物をまたぐ際の後続下肢の足部クリアランスが低くなることがわかった.さらに日常生活動作に対する転倒恐怖感が高くなることが明らかとなり,妊婦体型の女性が特定の条件下で転倒リスクを高める可能性が示唆された.

  • 炭谷 将史
    2026 年18 巻1 号 p. 235-242
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,水たまり環境が乳幼児に提供する行為可能性を,実際の遊び場面の観察を通じて明らかにすることを目的とした.2023年2月から9月にかけて,近畿圏内の公立2園において計6回の動画撮影による観察を実施し,267事例から70の行為を抽出した.各撮影日で最も継続した遊び事例を詳細に分析した結果,水たまりは子どもの行為に応じて変化する「応答性」と,水と泥の混ざり具合による「グラジュアルな変容性」が遊びと関係する様子が明らかになった.事例分析から,3歳女児は約15分間でブランコ下の水たまりとの関係を変容させ,2歳男児は道具を介して水と泥の探索を展開させた.こうした環境の応答性が次の行為を誘発し,遊びの持続・展開を支えていた.保育実践への示唆として,動的で応答性のある素材を意図的に提供すること,園庭に適度な凹凸や土を残すことの意義が示された.

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