本研究は,成人片麻痺者の歩行能力の発達と,それに照応する知覚能力の発達の関係について検討し,またそれらの発達について評価する指標を発見することを目的として行われた.成人片麻痺者2名を被験者として,通路の途中に設定された間隙の通過可能性について視覚的に判断させる条件,および,その間隙を実際に通過させる条件を設定し実験を行った.実験は,麻痺を伴った被験者が最初に歩行が可能となった時点からその歩行が自立した時点まで,およそ1週間の間隔で行われ,12週ないしは7週に亘って継時的な変化が測定された.その結果,(1)歩行が自立した時点では,視覚的に通過可能と判断された間隙幅と実際に通過可能な間隙幅とが近接すること,一方で,(2) 成人片麻痺者では,視覚的に通過可能と判断された間隙幅と実際に通過可能な間隙幅とが相対的に大きく乖離する時期があり,その際,視覚的判断において自身の歩行能力を健常な成人よりも過大に見積もってしまうことが示された.また,先行研究での提案(Flascher, 1998; Shaw, Flascher & Kadar, 1995)を参照しつつ,本研究で提案された“実効π”(Ⅱ)の指標を導入することによって,これらの結果が成人片麻痺者の知覚・行為能力の発達を説明しうることが示された.
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