競走馬の運動器疾患のなかで,筋に由来する疾患は多い。わが国でみられる全身筋痛は,欧米でのtying up syndrome と類似した疾患ではないかと疑われている。このtying up syndrome は paralytic myoglobinuriaと同様に筋色素(Mb)を排泄し,競走馬にも発症することが報じられている。
これら競走馬の筋に由来する疾患の病態解明のための一手段として抗馬Mb血清を作成し,この抗血清による馬Mbの免疫拡散法による検出法を検討した。
市販の馬Mbを簿層ゲル濾過法により展開すると,微量の不純物,もしくは変質物質が認められたため,DEAE-Sephadex A-50 column chromatography によって精製した。
ヒトMbによるYakulisらの方法に準拠して,この精製馬Mbを油性adjuvant(Freund, complete adjuvant)処理し,これを免疫原として家兎5頭に10mgMb/頭を基礎注射し,3週間後から週1回の補強注射(5mgMb/頭以上)を数回実施した。
抗体の産生を検査するために基礎注射後第3週から週1回採血し,免疫拡散法によって測定した。また,この免疫拡散法により,馬hemoglobin(Hb)および健康馬材料を用いて,得られた抗血清の特異性を確認した。ついで,血清中および尿中Mbの検出を試みた。その結果.
1.基礎注射の3または4週間後から,馬Mbとの反応で沈降線が認められ抗体産生が確認された。
2.基礎注射の5~7週後の抗血清は,6μgMb/mlを検出できたが,力価はこれ以上上昇しなかった。
3.抗血清はHbおよび健康馬材料と反応しなかった。
4.臨床的に重度の全身筋痛症例の血清との反応で,沈降線が認められ,血中Mb陽性症例のあることが確認された。
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