会誌食文化研究
Online ISSN : 2436-0015
Print ISSN : 1880-4403
17 巻
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研究論文
  • 川口 幸大
    2021 年 17 巻 p. 1-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    この論文では、過去1世紀にわたり日本の家庭料理において中華料理がいかに展開してきたかを、主として料理番組テキスト『きょうの料理』のレシピと食材を分析し、かつそれを20世紀初頭に刊行された『料理の友』、および中国政府がオーソライズした中国の正典的な料理書である『中国名菜譜』と比較することによって考察する。結果として、戦後は主に中国出身の限られた講師たちが日本の読者に様々な中国料理を紹介していたが、1980年代ごろからは、餃子、チャーハン、春巻きといった特定のいくつかの料理の異なるレシピがよく紹介されるようになり、また香菜やオイスターソースや豆板醤といった、それまでなじみのなかった食材や調味料が頻繁に使われることになった。同じ料理が新しい要素をともなった様々なレシピで作られるようになったのである。このように、日本の家庭料理における中華料理は、多様な定番化の路線を進んでいると言えるのである。

  • 治部 千波
    2021 年 17 巻 p. 14-26
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    中世ヨーロッパにおける食というのは、古代ギリシア・ローマ医学の四体液説に基づいた療法的な側面が強調される一方で、フランス・ブルゴーニュ宮廷のように、宴会において技巧を凝らした、色とりどりの「アントルメ」がみられるなど、相反したイメージが混在する。このような時代に特徴的な料理というのが、療法食でもあった「ブラン・マンジェblanc manger」である。この料理は「白い」という名前を持ちながらも、赤や黄色へと変化をみせる。

    本稿では、ブラン・マンジェが視覚的に変化していく過程を追いながら、中世における食の発展について考える。ブラン・マンジェは医学書から料理書へ、まずは療法食として伝えられた後、見た目という新しい価値観の下で変化する。食における目的の違いに着目しつつ、この変化の背景にある宮廷の宴会での食の役割についても検討する。

  • 深谷 拓未
    2021 年 17 巻 p. 27-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    本論文は、イタリア・ワインを具体事例に取り上げ、政治・経済的な側面を強く呈するようになった現代の食を文化人類学的な手法で考察するものである。近代以降、国家による政治・経済的な政策は食文化のあらゆる側面を規定するようになった。この傾向を捉えたガストロポリティクス研究は、政治政策と集団的な言説や食物自体の変化を読み取ることで、食が政治経済的に規定されることを指摘してきた。

    イタリアにおけるワインは、国家が認証制度によって政策の対象としている食品の一つであり、ガストロポリティクの一環として捉えることができる。イタリア中部トスカーナ州のワイン生産の現場の事例からは以下の2点を指摘できる。1点目に、認証制度は生産地に経済的な利潤を与えるだけでなく、世界的な一般知として定着することを通してワインのブランディング貢献している。2点目に、ワイン生産者は認証制度を積極的・戦略的に利用することもある一方で、流通や消費の形態に応じて、逆に認証制度を回避し嫌悪するという、両義的な態度を見せている。

研究ノート
  • 小池 美穂
    2021 年 17 巻 p. 38-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    上巳の節供は、祓の行事と平安時代の雛遊びが結びついたといわれる。古くは、艾餅を用いて節供を祝ったとされ、江戸時代には、菱餅がお供えとして見られるようになる。

    本研究では、調査資料として『日本の食生活全集』全50巻及び主たる参考資料として『諸国風俗問状答』を用いることとした。主に江戸時代に刊行された文献により菱餅が供えられるようになった経緯を明らかにし、全国各地の菱餅の調査からその特徴と地域差の要因を解明することを目的とした。

    結論として大正期から昭和初期における菱餅の主流は、三色であり、色数には江戸時代から続く慣習が見られたことが明らかとなった。また、各地域に点在した菱餅には地域差が見られ、御所風、武家風、寺院風などの歴史的背景が考えられた。

資料
  • 中澤 弥子
    2021 年 17 巻 p. 49-59
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    本研究では、食文化および食育推進の視点から長野県の学校給食の現状と課題を明らかにし、児童生徒が伝統的な食文化について理解を深める参考事例を得ることを目的とした。アンケート調査は2016年11月に実施された研修会の参加者234人の栄養教諭および学校栄養職員を対象として行った。調査用紙は郵送で回収し、アンケートの有効回答数は212票(90.6%)だった。

    郷土料理の実施日数は年平均10.7±16.2日であり、行事食の実施日数は年平均11.3±6.4日だった。学校給食において郷土料理や行事食を食べる機会の提供や地域農産物の使用と農業体験を通して、地域の食文化や農業への理解を深める食育を実践していた。食育や学校給食のさらなる充実のためには、特に大規模学校給食調理場において栄養教諭の数を増加することが必要であることが示唆された。

  • 畑 有紀
    2021 年 17 巻 p. 88-100
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/07
    ジャーナル フリー

    本報告では、宝暦十年(一七六〇)版『永代重宝記宝蔵』所収「食物本草要歌」の翻刻と紹介を行う。近世初期には、『和歌食物本草』をはじめとし、和歌形式で日常の食物の効能を説いた食物本草書が複数生まれた。これまでの研究では、この『和歌食物本草』の典拠や異同に主眼が置かれ、前述のような和歌形式の食物本草書は、近世中期以降にはほとんどないと考えられてきた。しかし、本報告においては「食物本草要歌」と『和歌食物本草』の本文比較を行うことで、近世中期以降にも数度の版を重ねた『永代重宝記宝蔵』に、『和歌食物本草』と同一、または類似した和歌が含まれていることが明らかになった。こうしたことから、和歌形式で書かれた食物本草書が、広く近世の人々が持っていた日常的な食物の効能に関する「知」を把握する上で有用な資料であると結論づけるに至った。

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