1990年代に入り,林政の目標は経済から環境へ大きく変わった。しかし,グローバリゼーションの進展する中で,林政と森林・林業の現実との乖離が目立つ。第1に,天然林から人工林・再生二次林への世界的な資源の転換があり,それに伴う資源獲得の新たな競争に林政が対応できていない。第2に,内需型の国内市場に対応してきた林業・木材産業は,今やグローバリゼーションの波にさらされている。対抗的リージョナリゼーションのネット形成が必要である。しかし,政策的に,未だ十分な取り組みはできていない。第3に,林業の担い手を,林家とするのか,雇用労働とみるか明確ではない。そのため,イノベーションに向けた政策の方向が定まらない。第4に,山村問題を中心とした地域政策において,林政が果たすべき役割が不明である。まず,山村において,生活環境が急速に悪化している。さらに,その背景として,貧困が深刻な問題となっている。一方,都市から山村へ向けて,就業希望やレクリエーション利用は多くなっている。つまり,山村と都市の関係に「双方向性」"interactivity"が生まれてきている。しかし,林政はそうした状況を生かしきれていない。林政という階層的ガバナンスが徐々に機能しなくなる一方,集落コミュニティや各種の事業体などによる分権的なガバナンスが必要とされている。しかし,未だ地域ガバナンスは確立されていない。社会経済的にみて,イノベーションを含んだ新しいアプローチが求められる。
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