単に生産規模だけでなく,多様な観点からの評価に基づいて,林業事業体の経営展開の方向性について検討する必要があることを示した。1990年代以降,生産性の向上,経営の持続性の確保,労働力の育成・確保が進み,社会性への対応が本格的に始まるのは2000年代以降であった。これらを経営改善の一連の流れに体系的に位置づけている事業体のモデルとして久恒森林(大分県)を紹介した。また,「緑の雇用」の分析を通じて,林業労働問題が新たな局面を迎えていることをみた。1990年前半に雇用改善施策(就業条件,作業環境の改善等),1990年代後半以降に労働市場サービス(マッチング)支援施策が進み,2000年代以降に新規就業者を体系的に教育(初期教育としての「緑の雇用」)して定着させることが林業労働政策の中心となった。今後,初期教育,中堅教育(各都道府県が実施している林業作業士等の研修事業),高度教育(経営参画,工程管理技術,施業プランナー養成など)の統合化を図り,キャリア形成を支援することが課題となろう。
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