1. はじめに 本報告では、政策主導で展開されてきた入会林野の整備と実態を整理する一方、入会林野の今日的問題状況を把握し、地域意志を背景とする入会林野問題対処の方向性を探りたい。
2. 分析方法・調査地 政策との係わりや事業の整理は、関連文献及び政府統計等を利用した。入会整備後の問題は、岩手県担当課から資料提供を受ける一方、東日本入会林野研究会会報やそこでの資料を分析する方法によった。実態調査は岩手県大東町にて実施した。
3. 分析(1) 基本法林政の展開と入会林野
入会林野は基本法において、権利関係を近代化すべき存在と位置づけられた。そこには、農林漁業基本問題調査会答申や部落有林野対策協議会答申といった前史があり、考え方と方向性はむしろそれらに整理されている。それらの要点は、__丸1__薪炭生産から木材生産へ__丸2__家族経営的林業の形成__丸3__林業の協業化、__丸4__部落有林野の分解・近代化、__丸5__近代化は個別私権化中心だが集団所有も容認、__丸6__近代化後の生産対象は育林生産・畜産・果樹作等、ほかである。
こうした入会林野整備の方向性は入会林野近代化法に明確化され、政策事業として展開する。
整備実績は70年代前半に伸び74年にピークになった。その翌年に実績が大きく減少、その後は漸減している。
整備された入会林野等の割合は小林
(1)によれば、60年の入会林野(民有林のみ)は2,216,713ha、2000年度までの整備総数は561,566haであるから、約25%となる。
整備後の森林経営形態のうちもっとも多いのが生産森林組合であり、人数、面積それぞれの半数以上を占めている。
(2) 生産森林組合と入会林野整備
生産森林組合は入会林野整備の最大の受け皿だが、そこに期待されたのは、政府にとっては林業の協業化、地域にとっては集団としての土地所有権の確保である。
生産森林組合の主たる業務の林業活動は停滞している。育林はバブル期までは全体の60%近い組合でなされたが、近年は30%台まで落ち込んでいる。また入会林野近代化法施行以前には新植を活発に行っていたが、組合数が急増するとその割合は低下した。現在、育林を除く林業活動は全体の数%の組合だけが実施している。
生産森林組合の経営は厳しく、事業管理費と税金の捻出が困難な組合が多い。税金は固定資産税と法人住民税が主となる。
(3) 入会林野をめぐる今日的問題
東日本入会林野研究会で頻出する話題として__丸1__未整備入会林野__丸2__生産森林組合__丸3__行政の対応の問題が挙げられる。やや具体的には__丸1__は整備を希望しない集団がある点や、整備の際の諸問題が、__丸2__は支出に見合うだけの収入を何から得るかということが、__丸3__では行政に入会問題の専任職員が減少し整備が停滞していることが話題になる。
次に大東町旧鳥海村の入会林野整備は、大正期に旧村に寄付した部落有林野が地区内の入会権者に払下げられて久しいため、これら所有権を整理することが目的であり、まだ完了していない。
これら記名共有林は持分権が外部に流出しかつ相続で微細化した部分もある。全持分権者から整備の了承を得るのは困難である。また地区内の生産森林組合の保有林野も整備対象だが、県から補助金が支払われない可能性がある。入会権者は既存生産森林組合を再編、部落有林を現物出資したうえ、保安林の指定を希望している。
4. 若干の整理と今後の課題 今日、林野への期待は大きく変化している。住民の林野利用と所得への手法も多様化し、公益機能は所有の枠を越えて現実化している。しかし入会林野整備後の制度的実態は木材生産中心に特化し、利用者の範囲に排他的一面も生じてきた。
住民にとっても多くの人々においても林野利用の広範な開放が求められる一方、そうした利用を前提とした生産森林組合の生活手段化が期待される。この場合利用者の範囲について新たな問題が生じる。入会林野の整備不要の意思はその現れである。
新しい入会問題への次なる課題解決の方向については実態調査を通し、調査で住民と林野の関係や住民の意向を整理していくなかで探りたい。
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