日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
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口頭発表
T1 「緑のダム」の検証とモデル化
  • 服部 重昭
    セッションID: A01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    流域の水保全機能を地域の森林立地環境を考慮して高度化するための森林管理・整備技術はまだ確立されていない。しかし、これまでに蓄積された流域における水文・気象__-__森林環境__-__人工林施業体系という枠組みの中には、相互の関わりを理解するのに有効な情報が存在すると考えられる。ここでは、流域試験で得られた蒸発散量デ__-__タを森林情報との関係で整理し、その結果を人工林の密度管理図と結合することにより、林分成長や間伐が蒸発散に及ぼす影響を評価する仕組みを提案する。
     わが国を含め世界各地で継続されている森林流域試験は、森林や土地利用の変化に伴う水循環や水収支の変動について時系列的な情報を提供している。そこで、わが国で実施されている16ヶ所の流域試験地を取り上げ、年間水収支と森林蓄積の情報を収集する。それに基づいて、蒸発散量と森林蓄積の関係を地域ごとに検討し、両者の関係を表す関数式を見出す。
     モデル林を想定し、地域ごと、樹種ごとに作成されている人工林林分密度管理図および収穫表を適用して、そこでは林分成長や間伐に伴って蒸発散量がどのように変化するかを試算する。
     森林蓄積と蒸発散量の関係は気象、立地環境により異なるので、両者の関係を地域ごとに評価することが望ましいと考えられる。しかし、これらの情報は限定的であり、森林蓄積と蒸発散量の関数関係を地域ごとに区分して解析できるだけのデ__-__タは集積されていない。そこで、ここでは地域を大きく三つ(__丸1__北海道・東北地域、__丸2__関東・東海・近畿・中国・四国、__丸3__九州・沖縄)に区分し、流域試験における年間水収支から得られた蒸発散量と森林蓄積の関係を検討した。関東__から__四国地域の針葉樹林における森林蓄積と年蒸発散量の関係について解析した。解析に用いたデ__-__タの中には森林蓄積が必ずしも水収支解析期間の平均値ではない場合、樹種も針葉樹と広葉樹が混在している場合が含まれる。なお、回帰式の相関係数は0.77であった。
     蒸発散量は森林蓄積のベキ乗式で近似され、森林蓄積がおよそ400m3/ha以下では森林蓄積の増加とともに蒸発散量は増加する。しかし、それ以上の森林蓄積についてはデ__-__タが不足しており、蒸発散量の変化は明らかでない。森林蓄積と蒸発散量の回帰関係からは、北海道・東北地域は回帰直線の下側に、一方、九州・沖縄地域はその上側に位置する傾向があり、地域性を読み取ることができた。なお、針葉樹と広葉樹の違いおよび回帰式の係数の物理的意味は明らかでない。
     この関係とスギ人工林の密度管理図を用いて、3,000本ha__-__1で植栽し、2回の下層間伐を実施した場合の蒸発散量の経年変化を計算した。年蒸発散量は樹高(林齢)とともに増大する。2回の下層間伐は収量比数約0.75を0.6に減少させた場合で、材積間伐率でおよそ20%である。この2回の間伐において年蒸発散量は30mm程度減少した。
     残された問題は多いが、ここでは流域水収支の研究成果を現場の施業・保育技術とつなぐ一つの方法として提案する。
  • 地形・地質・気候帯からどの程度推定可能か
    大貫 靖浩, 吉永 秀一郎, 荒木 誠, 伊藤 江利子, 志知 幸治, 清水 晃
    セッションID: A06
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    森林に降った雨の一時的な貯留場所としての土層は、水源涵養機能を評価する上で重要な役割を果たすと考えられるが、土層の厚さを流域単位・微地形単位で評価した研究はまだ少ない。演者らは、水源涵養機能に大きく寄与すると考えられる表層土層(0<Nc≦5)と風化層(5<Nc≦40)の分布形態に着目し,異なった気候・地質条件下における森林流域の土層厚を調査し、微地形単位の土層厚分布様式の推定を行った。温帯に位置し、火山灰の影響が大きいと考えられる茨城県桂試験地(地質:中古生層)、茨城県筑波流域試験地(地質:片麻岩)、暖温帯に位置し,火山灰の影響が少ないと考えられる熊本県鹿北流域試験地3号沢(地質:結晶片岩)、亜熱帯に位置し火山灰が堆積していない沖縄県南明治山流域試験地(地質:第三紀層)において、多点で簡易貫入試験を行い、表層土層厚・風化層厚を測定した。桂・鹿北・筑波・南明治山各流域の、表層土層厚・風化層厚の分布形態の特徴を検討すると、土層厚を規定する要因は、地質条件と気候条件に大別されるが、地質条件には基盤岩石の種類と火山灰の土壌への混入度が挙げられる。このうち、基盤岩石の種類は主に風化層厚に影響を与え、火山灰は表層土層厚に大きな影響を与えると考えられる。気候条件は、表層土層厚に対しては斜面崩壊に対する抵抗性の指標となり、風化層厚に対しては風化の進行度の指標となると考えられる。地質条件は、基盤岩石の種類としては変成岩(筑波、鹿北)と堆積岩(桂、南明治山)に分かれる。変成岩では、片麻岩の流域(筑波)が斜面上方で風化層が厚いのに対し、結晶片岩の流域(鹿北)では斜面下方で風化層が厚い。堆積岩では、中古生層(桂)が頂部斜面・上部谷壁斜面・上部谷壁凹斜面の一部を除いて風化層が一様に薄いのに対し、第三紀層(南明治山)では斜面上部ほど風化層が厚い傾向が見られた。火山灰の土壌への混入程度では、北関東に位置する桂と筑波では関東ロームの影響が大きいと考えられる。双方とも谷頭斜面・谷頭凹地の表層土層厚が非常に厚く、桂試験地では上部谷壁斜面・上部谷壁凹斜面においても、最大7mを超える厚い地点が認められた。
  • 貯留関数法の適用事例
    加藤 英郎, 上野 亮介
    セッションID: A07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1 目的 長野県林務部では、ダム建設計画中止に関連して設置したプロジェクトチームの検討により、流域の森林の洪水防止機能を土壌学的手法を用いて、森林の保水力として推定、評価した。しかし、この評価は一時的な潜在容量を示す値であるので、洪水想定時における河川流量の経時的変化に対する関与を具体的に示すことはできない。そこで、流出解析において一般的に用いられている貯留関数法において、プロジェクトの成果を踏まえて森林の洪水防止機能を反映させる手法を検討することとした。2 方法 貯留関数法では、一次流出率(f1)や飽和雨量(Rsa)といった森林の機能と密接に関連した定数が用いられているが、この解析手法が実際どのように運用されているかを、長野県内で計画されていた9ダムについて点検し、さらに解析過程における森林の関与について考察を加えることによって、より的確に森林の機能を反映させる手法を検討する。3 結果と考察 県内9ダム計画における流出解析はすべて貯留関数法が用いられていたが、実測洪水資料によらずに簡略化した方法によりモデルの定数が定められるなど、初期定数の設定や解析過程において、流域の森林の状態が考慮されたものとなっていない。 そこで、流出モデルの初期定数は実測洪水資料により求めることとした上で、__丸1__定数解析にあたっては貯留関数の定数K及びpの修正は行わないか、又は最小限に留める、__丸2__Rsaについては土壌学的手法で求めた有効貯留量を用い修正は行わない、__丸3__f1の初期値は平均流入係数fとし、最大流出量を最優先として適合度を調整する、__丸4__先行降雨の有無により別個のモデルを作成する、こととして流出モデルを作成し、流出計算を行う方法を考案した。 この方法により、薄川流域における最近のデータを用い流出モデルを作成して、洪水想定時の流出計算を行った。この結果、先行降雨の有無が見られる複数の降雨パターンに対しては、同一のモデルを適用するより、降雨パターンによりモデルを使い分ける方が適当であることが確認された。また、降雨の中断があるような降雨パターンでは、最大流出量に大きく影響している降雨を特定することにより、最大流出量はさらに厳密に計算されることが分った。さらに、薄川流域のダム計画において採用された流出モデルにより計算される値に比べ、両降雨パターンによる試算値とも相当低い値となり、今回の計算事例では森林の効果が顕著に現われたものと考えられた。4 おわりに 流域の流出機構への森林の関与について、現在最も一般的に行われている貯留関数法による流出解析の過程に、森林の洪水防止機能の評価を数値で反映させることを試み、さらに森林の効果を的確に反映できる解析手法提案し検証することができた。今後は、さらにデータを集積して分析を進め、Rsaと有効貯留量との関係を精査し、さまざまな降雨パターンに対応できるモデルを検討するとともに、この手法が適用できる範囲を追求していくことが課題である。
  • 宝川森林利水試験地を例にして
    荒木 誠, 伊藤 江利子, 加藤 正樹
    セッションID: A08
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目 的 森林の水保全機能の内、渇水緩和機能に関わる働きは、土壌孔隙の果たす役割が大きいと考えられている。本報告では、流出量の測定値から推定される保水容量と土壌孔隙量から推定される保水容量を比較検討する。2.方法(1)流出逓減曲線を用いた保水容量の推定方法 堀田(1984,1985)は、流出量の基準逓減曲線を求めて、流域の保水容量を推定する方法を提示した。さらに、加藤ら(1995)は、その方法で全国の多目的ダムの流量観測資料を用いて保水容量を推定した。この方法は、降雨日を除く、ある日の流出量と翌日の流出量を直交座標上にプロットし、その散布図をもとに基準逓減曲線を求め、その曲線で示される流量を積算して保水容量を推定するものである。本報告では、その方法を簡素化し毎日の流量減衰の散布図から、減衰を2次曲線で近似し、その近似曲線式で保水容量を推定することとした。この方法で得られる基準減衰曲線は、堀田の方法に比べ精緻さに欠けるが、日流量データが揃っていれば簡便に算出できる利点がある。 使用データは、宝川森林理水試験地の公表されている日流量観測値の中で、本流流域と初沢1号および初沢2号の観測値が揃っている期間として1978年__から__1981年までの観測値である。宝川流域は冬季の降水は雪となり積雪するが、融雪出水期間には積雪の影響が大きく、降雨イベントに対応した流出量の増加、減少が観測できない。そこで、本流流域では6月1日__から__11月14日まで、初沢1号沢および2号沢では5月1日__から__11月14日までの期間で降水の観測された日を除いた日流量データを抽出して解析に供した。(2)土壌孔隙量を用いた保水容量の推定方法 本流流域における土壌調査結果を基に、有光ら(1995)が、初沢1号沢および2号沢で行った方法に準拠して、本流流域の保水容量を算出した。3.結果(1)流出量に基づく保水容量の推定 先ず、抽出したデータをもとに、ある日の日流量とその翌日の日流量を一対のデータとした。降雨によって流出量が増加し、その後急激に減衰する時期は、本報告での保水機能の対象外と考え、日流量の減少が前日の30%を超える場合を除去した。データの散布図をもとに原点を通る2次近似曲線を描き、この近似曲線を用いて、初期日流出量を30mmとして各流域の日流出量が1mm未満になるまで累積すると、本流流域で 201..9mm、初沢1号沢で 174.2mm、初沢2号沢で 163.3mm であった。(2)土壌孔隙量に基づく保水容量の推定 試験地に分布する各土壌型ごとの保水容量と土壌型ごとの面積割合と各土壌型ごとの保水容量をもとに各流域の保水容量を算出した結果、粗孔隙量ベースで、本流流域 201.1mm、初沢1号沢で 288.8mm、初沢2号沢で 215.5mm であった。小孔隙ベースでは、本流流域 71.1mm、初沢1号沢で 66.0mm、初沢2号沢で 26.7mm であった。3.考 察 流出量から推定される保水容量は、本流流域で最も大きく、次いで初沢1号沢、2号沢の順で小さくなった。これは、流域面積が大きいほど、様々な流出状態にある小流域を合流するため流出量の変動が緩やかになるためではないかと考えられる。 土壌孔隙量に基づく保水容量の推定値は、粗孔隙、中孔隙、大孔隙で比較すると1号沢>2号沢>本流であったが、小孔隙では、本流>1号沢>2号沢であり、流出量から推定した値と同じ傾向を示した。流域の保水機能に小孔隙が大きな働きをしている(有光ら 1995)ことを考慮すると、流出量の減衰が、土壌の小孔隙量の大小を反映しているものと推察される。
  • 加藤 正樹
    セッションID: A10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    全国135の多目的ダム流域について流出解析に基づく流域保水容量を推定するとともに、既存の34箇所の土壌孔隙解析資料から土壌保水容量を推定した。135箇所の多目的ダム流域の平均保水容量は216mmであった。地域的には近畿と四国で小さな値を示したが、他の地域では大きな違いはみられなかった。表層地質条件によって流域保水容量に差が認められた。土壌の孔隙解析データが得られた34箇所について平均保水容量を推定した結果、pF0.6相当以下が100mm、pF0.6-1.7相当が138mm、pF1.7-2.7相当が132mmであった。土壌群別には、黒色土群の優占する箇所が褐色森林土群の優占する箇所よりpF1.7-2.7相当の保水容量が顕著に大きな傾向を示した。さらに、平均土壌深度とpF0.6-2.7相当の保水容量との間に高い正の相関が認められた。
  • 流域の焼失や植生変遷を例として
    中根 周歩, 嶋津 輝之
    セッションID: A12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    各種森林域からの河川流出過程を解析することによって、流域の治水機能に係わる特性を明らかにすることが可能であろう。そこで、流域の森林の治水機能、「緑のダム」の評価をするにあたって、流域の植生状況とそれに伴う土壌保水力(土壌浸透能や貯水力)などが河川流出、特に洪水時のピーク流量、または渇水期の基底流量などの関連を科学的に、量的に把握することが求められている。従来、荒廃地やその植栽地、森林伐採とその再生過程におけるハイドログラフの解析例はけして少なくない(中野, 1976; 塚本, 1998)。しかし、流域の植生の変遷に伴う、林齢や樹種をも考慮した、ハイドログラフの解析をタンクモデルを用いて行った例は極めて少ない。タンクモデルは、単位図法や貯留関数法等と比較して、当然ながら汎用性と適合度は優れている。しかし、それらの多くの係数が意味するもの、流域の森林のもつ保水力との関連を示し切れてはいない。そこで、広島県江田島の山火事後の植生再生過程や熊本県川辺川流域の一斉拡大造林前後、及び人工林の成長過程におけるハイドログラフの解析をタンクモデルで行い、その係数、特に第1タンクの係数値の変化と流域の植生変遷との関係を検討した結果を報告する。1)1978年に焼失した江田島の焼失区とこれにほぼ隣接する焼失を免れたアカマツ残存林区(地形、土壌、焼失前の植生は類似)における山火事後10年間のハイドログラフに適合するタンクモデルを検出したところ、残存林区のモデル係数にはほとんど変動は見られなかった。しかし、焼失区の第1タンクの浸透係数値(b1)は山火事後徐々に減少していた。また、山火事直後散布し、その後全域を覆ったエニシダが集団枯死し始めた山火事後7年目から焼失区の流出が加速され、第1タンクの流出係数値(a1)はそれに対応して急上昇した。ところが両区の第2、3タンクの係数値はほぼ同一で、しかもこれらの変動は見られなかった(田中, 1990)。焼失区の浸透係数の平均値は残存林区の約半分で、それぞれの流域で測定した土壌浸透能と良く対応していた。2)川辺川の柳瀬地点では1950年代から雨量と流量観測データ(時間単位)があるが、この間流域は50年代後半から始まる一斉拡大造林、伐採とスギ・ヒノキの人工林化(80%)、そして80年代からの人工林の成長と最近の間伐などの森林整備の停滞などの流域植生の激変が記録されている。そこで、この約50年間における大洪水に適合するタンクモデルを求めたところ、江田島と同様に、流域の森林植生の激変にも拘わらず、第2、3タンクの係数値には変化は見られないが、第1タンクの浸透係数と流出係数は大きく変動した。すなわち、一斉拡大造林初期の1954年時の浸透係数値は大きく、流出係数値は小さい。しかし、拡大造林の最盛期(60年代)、さらに流域が幼齢、若齢林の比率が高かった70年代では浸透係数は大きく低下し、流出係数は増大していった。しかし、流域の人工林の成長に伴って、80__から__90年代はこれらの傾向は止まり、逆に50年代の係数値へ戻り始めた。その故に、川辺川流域の80年に一度の洪水(500mm/2days)で基本高水流量(ピーク流量)をそれぞれの年代のモデルで予測すると、90年代後半のピーク流量は60__から__70年代より20__から__40%低下し、さらに成熟した広葉樹林が流域を覆っていた50年代は90年代よりさらに20%ほどピーク流量が低減していた。中根(1994)は、伐採後土壌浸透能が徐々に低下しつづけ、また植栽木が成長する過程でそれが回復するが、適切な間伐など行われないとその回復は伐採前の広葉樹林の半分以下に留まることを同一斜面に成立する異なる林齢、手入れのスギ人工林地の調査から指摘している。以上のことは、植生の変遷、特に焼失や伐採が土壌浸透能を低下させ、それが再生・植栽後も継続するため、特に洪水時のピーク流量が流出係数の増加も加わって跳ね上がる。やがて、植生の回復、落葉枝の供給により土壌浸透能は回復するが、スギ・ヒノキの人工林は適切な間伐による下生えの広葉樹の再生が伴わないとその回復は停滞することを意味する。これらの森林の保水機能、特に土壌浸透能とタンクモデルの第1タンクの浸透係数と流出係数とは密接な関連があることが示唆された。
  • 篠宮 佳樹, 小杉 賢一朗
    セッションID: A13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    実際の森林土壌の不飽和水分特性が降雨浸透流出プロセスに如何に影響するかを,モデル計算で明らかにするため,我が国の森林土壌のθ__-__ψ関係,K__-__ψ関係の特性について,できるだけ多くの実測データを使って,以下の内容の検討を行った。1) 土壌断面で,θ-ψ,K-ψが鉛直方向に如何に変化するのか,2) 異なる林地間で表層土壌のθ-ψとK-ψは似ているのか,異なる林地間で下層土壌のθ-ψ  とK-ψは似ているのか,3) 上記結果から,表層,下層の平均的なθ-ψ,K-ψを求める 試料は,8地域14断面の林地土層から非攪乱状態で採取された。θ-ψ関係は吸引法または砂柱法,加圧法により,K-ψ関係は定常法により測定した。いずれも100mL円筒を用いた。飽和透水係数の測定は主に400mL円筒を用いて定水位法で行った。 θsは表層で大きく,深くなるほど小さくなる傾向があった。なお,深さに比例して徐々に減少する場合とθsの値が変化しない部分を含むが全体として減少する場合があった。Kosugi(1994)では,森林土壌の体積含水率はψ=-30cmより大さな領域で大きく変動すると報告している。そこで,飽和からψ=約-31cm(pF1.5)までの孔隙率(θm)をその指標に用いた。その結果,表層ほどθmが大きく,深くなるにつれて小さくなる傾向がみられた。飽和透水係数は表層で大きく,深くなるほど小さくなる傾向がみられた。K__-__ψ関係について,表層ほどKは急激に減少し,下層土壌のKと逆転する傾向がみられた。林地斜面の水分特性の鉛直変化に風化花崗岩を母材とするサイトで例外が認められることが多かった。 次に深さ10cmのデータを表層土壌,深さ40cmのデータを下層土壌と見なし,表・下層土壌の水分特性をサイト間で比較した。該当する深さのサンプルが無い場合,上下の深さのサンプルの平均を用いた。θsは表・下層とも風化花崗岩母材のサイトよりそれ以外のサイトで大きかった(t-test:表層,P<0.1:下層,P<0.05)。θmは表層ではサイトによる違いは見られなかったが,下層では風化花崗岩母材のサイトで大きかった(P<0.05)。この結果は,表層ではどのサイトも同じくらい,下層では風化花崗岩母材のサイトのほうが大きくθが低下することを示す。従って,下層土壌では母材による違いが認められるが,森林土壌化はその影響を消失する方向に働いていると考えられた。
経営
  • 王 賀新, 魚住 侑司, 植木 達人, 加藤 正人, 関 慶偉, 長島  源一
    セッションID: A17
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    カラマツは長野県や北海道において重要な林業樹種であり,森林面積が多く存在している。本研究は,天然更新によるカラマツ林の成長状況と更新特性を明らかにするのが目的である。調査地は長野県南佐久郡川上村,八ヶ岳西岳国有林,浅間山国有林,北海道森町三菱マテリアル社有林とした。林齢別に新しく更新した稚樹から50年生以上の林分まで計14個のプロットを設置した。プロット内における立木全体を樹高,胸高直径,枝下高,樹冠幅,立木位置,稚樹の更新発生条件等を調査した。また,一部分調査林分において解析木を伐って樹幹解析を行った。調査の結果により,カラマツ天然更新は自然的・人為的活動によって土壌表層を撹乱した場所に高密度に集中して発生するのが特徴である。人為的にカラマツの天然更新条件を造成して更新を促進することが可能と考えられた。天然更新の場合,カラマツ稚樹は一斉に大量発生するのが一般的である。カラマツ天然更新林分は発生地の立地や母樹状況によって,カラマツ一斉林,カラマツ・スギの混交林,カラマツ・広葉樹の混交林等のタイプに分けられた。天然更新によって形成されたカラマツ林の樹高成長は,人工林のそれと比べて劣らないものの,直径成長では肥大化が遅れ,その結果,未成熟材の割合が低くなる可能性があり,将来の優良材生産が期待される。
  • 宮 久史, 植木 達人, 小鹿 勝利, 兼平 文憲
    セッションID: A18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 背景・目的 青森県では平成14年3月に「青森県森林・林業基本計画」を策定し、今後広葉樹林の整備も重要であるとの認識に立っており、今後広葉樹林の整備とその利用にこれまで以上の注目が集まると考えられる。しかしながら、現在県内に存在する広葉樹二次林(民有林ではコナラの占める割合が高い)に対しどのような施業を行うか、具体的に有効な管理手法が提示されているとは言い難い。 よって本研究では、異なる本数密度で管理されたコナラ林において、林分毎の15年間での構造の変化を把握し、各林分の比較・検討を行うことを目的とした。それによりコナラの形質優良木生産に向けた間伐法の一つの可能性を提示した。2. 調査地と方法 林分調査は青森県八戸市に隣接する、福地村の民有林で行った。樹種は主にコナラであり、林齢42年生時にha当り成立本数を200本、400本、600本に間伐したプロットと対照区が設定されている。これらのプロットは西向きの斜面に隣り合うように設定されている。各林地の大きさは20m×20mであり、間伐後15年経過した2001年に林分調査および成長錘による資料の採取を行った。これらのデータをもとに林分材積の比較、枝下高変化と密度の関係、成長予測による今後の間伐の必要性等を検討した。3. 結果1) 材積成長量 各プロットの15年間の総成長量は200本区が104m3、400本区が121m3、600本区が153 m3、対照区が135 m3であった。間伐がなされたプロットだけを見ると本数が多いほど成長量は大きい。各プロットのクローネ占有面積の割合もこれと同様の結果である。対照区は樹冠占有割合が高くなりすぎ成長量が低下したとも考えられる。また対照区では枯損木が発生しており、このことが原因で間伐区の600本区に比べ成長量が劣っていると考えられる。2) Y‐N曲線 この試験地に対し行われた間伐は全層間伐であった。間伐がされる前の林地は対照区が最も大径木が多かったが、間伐後15年経った現在では間伐がされた3プロットの方が大径木の多い状況となっている。この事から対照区が立木本数は多く蓄積量も多いが、大径木が少ないということが確認された。3)連年成長量 間伐がされたプロットでは個体差があるが間伐による成長量の増加が確認された。間伐後の年平均成長量を間伐区毎に比較すると600本区<400本区<200本区となっていた。 しかし各間伐区で間伐後、5年毎に年平均成長量を比較すると、200本区が最も成長量が低下しているのが分かった。この成長量の低下の割合は200本区で35%。400本区は25%、600本区は10%それぞれ成長量が低下していた。4) 枝下高変化 今回の調査では全てのプロットで枝下高の低下は見られなかった。400本区に関しては1mほどの枯れ上がりが確認された。最も枝下高に変化があったのは対照区であり1.83m高くなった。600本区でも1.69m高くなっていた。4. 考察 胸高直径の肥大化を促進させる効果は各間伐区で確認され、なかでも200本区の間伐後における成長量の増加が最も大きかった。高い枝下高維持・獲得に関しては最も強度に間伐した200本区でも枝下高の低下(後生枝の発生)は確認されなかった。このことから今後木材生産を目的とした林齢40年生程の広葉樹二次林(コナラが優先している林地)においては、haあたりの残存本数を200本にまで落とすことも可能であることが示唆された。
  • 能本 美穂, 吉本 敦, 柳原 宏和
    セッションID: A19
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     現在、地球温暖化ガスの一つである二酸化炭素の吸収源として、森林の果たす役割が注目されており、森林による炭素蓄積量および、炭素吸収量を正確に把握することが求められている。経営林の立木に固定された炭素は、素材生産工程である伐採・搬出運搬と各種製材工程を経て製材品としてストックされる。しかし、これまで森林のみを対象とした炭素固定機能の分析や、住宅分野における炭素貯留量の分析は行われているが、実際の経営林に固定されている炭素の量と、経営林から原木が生産される過程、および原木が製材される過程で発生する炭素量の収支分析は行われていない。そこで、本研究では経営林における炭素固定量と木材生産の過程において発生する炭素の収支分析を行うことを目的とする。
     今回は、八女地域において森林調査プロットを設置し、毎木調査および、樹幹解析から得られる乾材積量を基に、炭素固定量の推定を行う。次に、調査対象プロットから得られた原木が全て製材されると仮定し、それらの原木を製材する過程で消費するエネルギー量を基に製材工程で発生する炭素量を推定する。以上のデータを基に、調査対象プロットにおける炭素の収支分析を行う。
  • 全国のスギ・ヒノキ人工林地域を対象に
    鹿又 秀聡, 岡 裕泰
    セッションID: A20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    計画的・安定的な木材供給を行っていくためには,計画地域の森林の量的・質的状況の把握をするだけでは不十分である。現在のような材価が低迷している状態においては,機械・林道等の基盤整備状況及び地形条件から間伐コストを算出し,採算性を考慮した上で,計画を進めていくことが重要である。 我が国では,林業生産性の向上,労働強度の軽減,低コスト化等を目的として,林業の機械化が積極的にはかられている。「高性能林業機械化促進基本方針」の中で将来に向けた機械化の推進および「新たな高性能林業機械作業システム」の構築・普及に向けての施策を展開していくことが述べられており,従来型システム同様,作業型,集材距離,傾斜等によりシステムの目標が設定されている。筆者らはこれまでに,斜面傾斜の面から,車両系林業機械の導入が行いやすい地域を抽出する手法について,関東地方を対象に検討を行ってきた。今回は,斜面傾斜及び林道開設量の面から,全国のスギ・ヒノキ人工林地域の地形区分をGISを用いて行った。
  • 宮本 麻子, 佐野 真琴
    セッションID: A24
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     国土数値情報データを用い茨城県霞ヶ浦森林計画区にあたる55市町村について近年の土地利用と森林との関係の把握、検討を行った。 使用データは国土庁により提供されている国土数値情報1976年および1988年の土地利用細分メッシュデータ(L03-51M、L03-62M)である。細分メッシュデータは基準地域メッシュを縦横10等分したものであり、縦横約100mのメッシュとなる。1976年、1988年がそれぞれ15および12の土地利用に分類されている。このうち「海浜」、「海水域」を解析対象外とし、他を「田」、「畑」、「森林」、「荒地」、「市街地」、「その他の用地」、「内水地」の7区分に再分類した。その後、データを地理情報システムTNTmipsに読み込み、土地利用の変化および、土地利用の隣接関係を解析した。 その結果、森林メッシュ数は「つくば市」で最も減少しており、変化率(1988年森林メッシュ数/1976年森林メッシュ数*100)で見た場合は「守谷市」が最も低い値を示すことが明らかになった。メッシュ数の減少は比較的面積の大きい市町村(つくば市、鉾田市、八郷町)や森林率の高い市町村(八郷町)で大きく、霞ヶ浦北側周辺市町村に多く認められた。また、メッシュの変化率が大きい市町村は利根・鬼怒平地沿いに分布していた。 メッシュ数の減少が最も多かった「つくば市」及び変化率で最も減少した「守谷市」につき、転用後の土地利用を調べたところ、「つくば市」では市街地への転用が33.3%、畑への転用が30.5%を占め、「守谷市」ではその他の用地への転用が38.6%と最も多く、市街地への転用が20.5%を占めていた。 両市について森林を取り巻く周囲環境の変化を土地利用配列から明らかにするため、メッシュの位置関係をもとに隣接する土地利用の関係を求め、各土地利用に対し最も高い隣接割合をもつ土地利用との関係をに整理した。 その結果、「つくば市」では、森林面積の減少に伴い、周囲の土地利用と森林の関係にも変化が見られた。「守谷市」では経年変化により森林面積は減少していたが、土地利用の隣接構造に変化は見られなかった。また、全ての土地利用にとって森林が最も高い隣接割合を示していたことから、森林と他土地利用がモザイク上に混在した関係が推察された。
  • 地域社会学の視点から
    吉村 妙子
    セッションID: A25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的 里山はその多くが放置、放棄されている一方、近年では様々な方面から注目されており、里山が備えている多面性や総合性を検証する必要がある。そこで本研究では、里山の時間的・空間的秩序と社会的側面を検討し、総合的な里山活用のあり方を提示することを目的とした。2.方法と視点 研究の方法は1.市民活動への着目、2.土地利用・自然状況と社会状況の総合的な把握、3.統計データ等による全体的動向の把握とアンケート・インタビューを中心とした事例研究による個別的動向の把握、によった。また本研究は、森林経理学的視点と地域社会学的視点にたっている。3.結果および考察(1)里山の定義の整理 調査研究に先立ち里山の定義を整理し、機構的定義と地理的定義に分けられるという提案を支持した。 その上で、「現代地域社会と物的基盤とが新たに統合された将来の里山」を目標として設定することを提案した。(2)里山活用の全国的動向 里山活用の全国的動向を、市民活動については環境省「里山における保護・ふれあい活動団体」リストを用い、都道府県による施策状況についてはアンケートを実施し、社会的・自然的状況と関連づけて分析した。 その結果、都市化の進行と活動・施策の活発化との強い相関、総合的な施策の少なさが明らかになった。また、林業分野と環境分野の部局が施策を行っており、里山に対する認識の複雑さと分野間の連携の重要性を示しているものと思われた。更に、都道府県をサンプルに市民団体数、施策状況、社会的・自然的条件を変数として因子分析を行った結果、第1因子の意味は「都市的地域-農山村的地域」、第2因子の意味は「里山に対する働きかけの程度」であると考えられた。(3)事例研究1:大阪府「里山倶楽部」の活動実態および活動フィールド持尾集落の変遷 まず、大阪府内で活動している団体「里山倶楽部」の、活動の実態と参加者の意識を把握するためにインタビューとアンケートを実施した。その結果、会員の多様性や森林・林業に対する関心の高さに加え、出会いや達成感などへの要求・満足度の高さが明らかになり、このような活動の多面性や森林・林業以外の分野への発展の可能性が示された。 続いて、持尾集落の土地利用および集落社会の状況の変遷について、3時点の空中写真判読による土地利用図作成と資料等の解析により、総合的に検討した。その結果、1945年以降現在までの集落の状況を4時期に区分でき、伝統的農業・農村社会の崩壊と現代的な社会関係発生という変遷が明らかになった。更に、集落住民にとっての里山の重要度は3時点を通じて低下し、利用形態は協働から個別になり、里山に対する働きかけの頻度・形態の変化に伴って里山に対する住民の意識に変化が生じていると考えられた。(3)事例研究2:霞ヶ浦流域「アサザプロジェクト」における各参加主体の特徴と主体間の関係 霞ヶ浦流域で進行中の、市民参加の公共事業「アサザプロジェクト」を対象に、多様な主体による里山活用の方向性を考察した。また、粗朶生産林、ボランティア活動実施里山林、茨城県の平地林保全整備事業対象平地林の森林価を平田法により算出、比較し、持続的な里山管理のための条件を考察した。 その結果、参加主体の特徴として「NPO法人アサザ基金」の開放性が、「NPO法人アサザ基金」及び「(有)霞ヶ浦粗朶組合」が各主体をつなげていることが明らかになった。次に森林価を算出した結果、ボランティア活動地が最も高くなり、森林の非経済的価値に対する評価の高さが示された。しかし、評価を反映するしくみが不完全で、持続性が保証されないという課題も明らかになった。4.総合的考察(1)里山活用を行う市民活動団体の特徴 都市化の進行につれて活動が活発化していること、多様な属性の参加者が理念によって結束し様々な活動をしていることから、団体は都市的な性格を持っていると考えた。 また、多様な組織と関係を結ぶネットワーカーの役割も果たしうると考えられる。(2)団体構成員の特徴 構成員個人もまた多様な主体を結ぶネットワーカーであり、この多様性が里山活用を従来の林業を超えた分野に広げていると考えられる。(3)里山をめぐる時間的・空間的構造と社会構造 里山をめぐる社会構造と空間構造との間に様々なギャップが存在している。社会的側面と自然的側面からこのギャップの所在を明らかにし、各主体・対象をつなげる存在として市民を位置付けた里山地域を再構築することが必要であると考える。
林政 I
  • 岡田 久仁子, 由井 正敏, 岡田 秀二
    セッションID: B01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.課題と背景 本報告は、イギリス・ニューフォレスト地区の森林・林野管理の展開から、とりわけニューフォレストに特徴的なヴァーダラースの役割の分析を通し、多様な森林機能の要請を巡って生じている利用調整問題の解決に向けての必要なシステムと考え方について考究する。2.対象地域の概要 ニューフォレスト地区の総面積は58094haで、約50%を締める王室林の管理はForestry Commissionが行っている。3.分析 (1)歴史的ニューフォレストとヴァーダラース 入会権が認められるようになった農民に認められた権利は、ポニーや牛、豚の放牧権、薪や泥炭の採掘権等6つの権利である。それらの権利を保障する一方で、鹿と樹木保護にあたってきたのがヴァーダラースという王室林管理官である。しかし、農民の利用対象地は、王室林の育林地化と地主への払い下げのなかで大きく制約されていく。また、パブリック・アクセスが増大するにつれ、ヴァーダラースの役割を、コモナースの権利保存、土地利用をめぐる問題解決をはかる組織へと変えていく。 (2)管理と利用調整の実態 1949年にはヴァーダラースは、ForestryCommission 、English Natureその他の組織との協議によって、コモンズにおけるさまざまな問題の解決を図っていくことになる。 (3)ヴァーダラース裁判所 土地保全と利用に関する問題を公にし解決へと導くのはヴァーダラース裁判所である。2001年には年間80件の告発があった。4.小括 林野利用を巡って生じる様々な摩擦や問題に対し、ヴァーダラース組織は時代を超えて大きな役割を果たしていた。それはヴァーダラースが、王室林とコモナース・都市住民との時代時代の関係を反映しながらも、土地そのものの保全に立脚し、対象たる自然と利用主体間の間に立って、身近な生活の視点からそれらを媒介し合意点を求めてきたからである。
  • 鳥取県日野川流域を事例に
    川村  誠, 花田 英樹
    セッションID: B02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     現在、入会林野の解体が進む一方、入会地と入会集団の持つ共同管理的な性格に着目した再評価も活発である。しかし、入会権は往々にして地盤所有権にまで達する強い私権として意識され、既に江戸時代から割山(分け山)という形で示されてきた。すなわち、所有と利用が一体化した権利でありながら、総有的な性格が弱く、むしろ入会権者の持分権を明確にする方向に推移してきたといえる。今後、改めてコモンズとして再編を図るには、まず、所有と利用の関係を見直す必要がある。鳥取県の日野川流域の入会林野には、森林利用の変化に対応して、地盤所有権と林野利用権を分離し、巧みに入会林野を保持してきた地域が多い。今回、その代表的な事例である日南町福万来集落を調査した結果を報告する。
    2000年現在、福万来集落の戸数48(農家45戸)、135人であるが、65歳以上の高齢者が居住者の40%を超える。通勤者は33名を数えるが、流域のDID都市である米子市までの通勤は困難である。また、集落内の林野950ha、人工林率60%で、町内では比較的早く造林が進んだ地域である。入会林野は5集団365haを占める。しかし、個人や法人への売却が進み、「野呂山」215haが入会の実態を残している。
     福万来集落の「野呂山」の場合、地盤所有権を10割の「分」に、また利用権を100株の「株」として持分権を明確にする一方、村外への分散を防いできた。それでも権利移動は激しく、それぞれの保有規模に大きな偏りが生じている。例えば、「株」の移動をみると、60年代以後、141件の移動があり、発足時の権利者で「株」を譲渡して失った者が33名を数える。また、「分」の保有者56名の内36名、「株」保有者53名中22名が集落外居住である。なお、「分」と「株」両方を保有する36名中、22名が集落外となっている。「野呂山」の場合、集落入会であったものから、あえて所有と利用を分離する方向で、入会林野のまとまりを維持してきた。権利者の生活が変わり、居住地域が広がる中で、新たな共同性を何に求めるのか、現代の智恵の在処が問われている。 
  • -岡山県蒜山地区を事例に-
    田中 玄洋, 川村 誠
    セッションID: B03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
    岡山県蒜山東部に位置する川上村には、火入れ採草地と呼ばれる原野が存在し、集落住民による管理が継続している。火入れ採草地とは林野への火入れによって維持されている採草地のことを言う。火入れとは春に林野に火を入れて野草の萌芽を促す行為のことである。蒜山地区ではかつて水田の肥料に、刈敷よりも採草による堆肥を多用してきた。しかし現在、採草自体は行なわれていない。火入れ採草地の多くは村有林野である。火入れの範囲は各集落の旧入会地に重なる。採草地の公有林野入会とみなしてよい。
    本研究では公有林野入会と集落のコミュニティ形成の関係を集落の火入れ管理の仕組みを見ることによって明らかにしようと試みた。
    2.調査方法
    __丸1__土地利用の変化及び火入れ採草地の分布を確認するため、集落の精通者に対する聞取り調査。__丸2__「火入れ採草地」マップ作成。現在の「火入れ採草地」の位置と周辺の土地利用状況を森林基本図に記入。__丸3__各集落の火入れ管理の仕組みについて聞取り調査。
    3.公有林野入会の成立
     川上村の林野面積は3479ha。うち村有地面積が2242ha。採草地面積は220haである。川上村の入会林野の多くは1907年から始まる「公有林野統一事業」により、集落の入会地のほとんどが村有地となる。
     1911年「公有林野整理并使用条例」(通称「林野条例」)が制定され、住民は旧入会地を管理する「保護者」と位置づけられ、ただし、使用に際しては料金を払うことになった。薪炭林や採草地の使用料は集落ごとに支払う。なお1899年から1917年まで蒜山原野は陸軍軍馬補充部に編入され、さらに1935年から45年までは陸軍演習場となり採草地の利用は制限された。戦後、一部が開拓者の入植地や鳥取大学演習林へ編入され、60年代以後の拡大造林により、採草地はさらに狭められ、村有地の減少をみた。
    なお、現在では人工草地の開発、大根生産のための畑地利用といった個人の営利目的で集落を介さずに直接利用することも可能である。
    4.調査結果
    (1)火入れ面積と火入れを行なう集落の減少
    川上村役場の「火入れ許可申請書」の集計によると1950年代まで火入れ地は600ha前後、火入れを行なう集落は全32集落のうち23集落だったが、現在は約120ha、11集落である。
    (2)「火入れ採草地」の土地利用の変化
    戦後、堆肥生産は後退の一方で、採草地の土地利用は多様化した。1965年頃から10年ほど人工草地あるいは造林地への転換が進んだ。その後、大根畑へ変化が激しくなり、90年頃から放棄地が増加する。
    (3)「火入れ採草地」の入会権者と集落の関係
    各入会集団の入会権者数、火入れ面積、火入れの仕組みを表した(表__-__1)。
    __丸1__白髪、延助、天王、湯船は集落全世帯が入会権を持つ村中入会の形態をとる。__丸2__南田、熊谷、別所は観光開発により集落外からの移住者が増え、古くから集落に住む世帯にのみ入会権が与えられる一部入会の形態をとる。__丸3__この3集落は大字本茅部を形成し入会林野を保持している。現在の火入れ採草地が放牧場として設定されたときの牧野組合員(当時の3集落全世帯)に対して入会権を与えている村々入会の形態をとる。__丸4__大在所とは戦時中に人手不足になったおり、入会地の管理を効率的に行なうため、4集落が共同で管理し始めたことで発生した入会集団であるが、入会権は4集落の全世帯および、終戦後、隣接集落の一部住民にも入会権を与えており、現在は他村入会の形態をとる。
    (4)火入れの仕組み
    火入れは全入会集団で毎年3月下旬から5月上旬の日曜日に行われる。責任者を決め、役場と消防署に対し許可書の提出が義務付けられている。1984年には火入れに関する条例が制定された。作業は丸一日かけて行われ、作業後は慰労会を行なう。不参加費を徴収するのは3集落のみである。女性の参加が認められているのも、日曜日でも男性が参加しにくいことに対する配慮である。
    5.考察
    多くの入会地が個人分割して管理する形に移行することが多い中、川上村における火入れを通した林野管理は住民が参加可能な形に変化しながら止むことなく続けられた。
    これは公有地化によって個人分割がされずに現在に至った結果である。同じ蒜山地区の八束村では個人分割された旧入会林野が観光開発の対象となっている。また、集落においては毎年火入れを行なうことにより、コミュニティのつながりの確認と入会権の存在の確認がなされている。
    ここに、コミュニティを基礎とした林野管理の可能性をみとめることができる。
  • 岩手県・東日本を例に
    永坂 崇, 岡田 秀二
    セッションID: B04
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに
     本報告では、政策主導で展開されてきた入会林野の整備と実態を整理する一方、入会林野の今日的問題状況を把握し、地域意志を背景とする入会林野問題対処の方向性を探りたい。
    2. 分析方法・調査地
     政策との係わりや事業の整理は、関連文献及び政府統計等を利用した。入会整備後の問題は、岩手県担当課から資料提供を受ける一方、東日本入会林野研究会会報やそこでの資料を分析する方法によった。実態調査は岩手県大東町にて実施した。
    3. 分析
    (1) 基本法林政の展開と入会林野
     入会林野は基本法において、権利関係を近代化すべき存在と位置づけられた。そこには、農林漁業基本問題調査会答申や部落有林野対策協議会答申といった前史があり、考え方と方向性はむしろそれらに整理されている。それらの要点は、__丸1__薪炭生産から木材生産へ__丸2__家族経営的林業の形成__丸3__林業の協業化、__丸4__部落有林野の分解・近代化、__丸5__近代化は個別私権化中心だが集団所有も容認、__丸6__近代化後の生産対象は育林生産・畜産・果樹作等、ほかである。
     こうした入会林野整備の方向性は入会林野近代化法に明確化され、政策事業として展開する。
     整備実績は70年代前半に伸び74年にピークになった。その翌年に実績が大きく減少、その後は漸減している。
     整備された入会林野等の割合は小林(1)によれば、60年の入会林野(民有林のみ)は2,216,713ha、2000年度までの整備総数は561,566haであるから、約25%となる。
     整備後の森林経営形態のうちもっとも多いのが生産森林組合であり、人数、面積それぞれの半数以上を占めている。
    (2) 生産森林組合と入会林野整備
     生産森林組合は入会林野整備の最大の受け皿だが、そこに期待されたのは、政府にとっては林業の協業化、地域にとっては集団としての土地所有権の確保である。
     生産森林組合の主たる業務の林業活動は停滞している。育林はバブル期までは全体の60%近い組合でなされたが、近年は30%台まで落ち込んでいる。また入会林野近代化法施行以前には新植を活発に行っていたが、組合数が急増するとその割合は低下した。現在、育林を除く林業活動は全体の数%の組合だけが実施している。
     生産森林組合の経営は厳しく、事業管理費と税金の捻出が困難な組合が多い。税金は固定資産税と法人住民税が主となる。
    (3) 入会林野をめぐる今日的問題
     東日本入会林野研究会で頻出する話題として__丸1__未整備入会林野__丸2__生産森林組合__丸3__行政の対応の問題が挙げられる。やや具体的には__丸1__は整備を希望しない集団がある点や、整備の際の諸問題が、__丸2__は支出に見合うだけの収入を何から得るかということが、__丸3__では行政に入会問題の専任職員が減少し整備が停滞していることが話題になる。
     次に大東町旧鳥海村の入会林野整備は、大正期に旧村に寄付した部落有林野が地区内の入会権者に払下げられて久しいため、これら所有権を整理することが目的であり、まだ完了していない。
     これら記名共有林は持分権が外部に流出しかつ相続で微細化した部分もある。全持分権者から整備の了承を得るのは困難である。また地区内の生産森林組合の保有林野も整備対象だが、県から補助金が支払われない可能性がある。入会権者は既存生産森林組合を再編、部落有林を現物出資したうえ、保安林の指定を希望している。
    4. 若干の整理と今後の課題
     今日、林野への期待は大きく変化している。住民の林野利用と所得への手法も多様化し、公益機能は所有の枠を越えて現実化している。しかし入会林野整備後の制度的実態は木材生産中心に特化し、利用者の範囲に排他的一面も生じてきた。
     住民にとっても多くの人々においても林野利用の広範な開放が求められる一方、そうした利用を前提とした生産森林組合の生活手段化が期待される。この場合利用者の範囲について新たな問題が生じる。入会林野の整備不要の意思はその現れである。
     新しい入会問題への次なる課題解決の方向については実態調査を通し、調査で住民と林野の関係や住民の意向を整理していくなかで探りたい。
  • 矢島 万理, 宮林 茂幸, 関岡 東生
    セッションID: B05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    近年、里山の利用形態が大きく転換したことにより、里山の存在意義に変化が見られるようになった。そうした中で、社会的に里山を保全していくといった新たな存在意義が出てきている。今後、社会の変動とともに、里山保全活動のあり方についても問われるものと予想される。本報告は将来の動向を予測する上でも、今後の目標などについて実体を明らかにしておくことが重要であるという認識から、里山保全活動の組織形態や活動状況について、アンケート調査を分析することで、里山保全活動を行う団体の現状を明らかにしたものである。
  • 八曽自然休養林を事例として
    渡邉 宏美, 大浦 由美
    セッションID: B06
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに国有林野事業における「改善計画」以降の「民営化」路線を受けて,森林レクリエーション事業においても,地元公共団体等へレクリエーション施設の管理運営を委託する方針へ転換し,また利用者がレクリエーションの森の整備費用を負担する森林環境整備推進協力金制度が制定された。このような森林レク事業の「民営化」によって管理運営の主体となった民間の取組みの現状や,レクリエーションの森整備の財源となりうる協力金の収受額は,地域によって様々であり,それによる自然休養林の管理運営の実態も異なると考えられる。そこで本研究では,地域住民を主体とした八曽自然休養林の管理運営の実態を,主として愛知森林管理事務所,地域住民への聞取り調査により明らかにし,森林レクリエーション利用を通じた国有林管理について考察することを目的とする。2.尾張西三河国有林野事業と森林レクリエーション 愛知県尾張西三河地区は,森林面積102,504ha(森林率31%),うち3,285ha(3%)が国有林である。国有林の生産事業はほとんど行われておらず,森林と人との共生林が59%を占めている。名古屋市から車で1時間以内の場所に位置し,都市近郊とあって森林レクリエーション的利用が中心となっている。レクリエーションの森には,犬山・八曽自然休養林等計1,942ha (2002年3月現在)が設定されており,年間利用者数は約2万人となっている。3.八曽自然休養林の管理運営実態愛知県犬山市に位置する犬山・八曽自然休養林は,犬山地区,八曽地区に分れており,そのうち,後者が八曽自然休養林である。面積は751.16ha,そのすべてが国定公園であり,開園当初から開発規制が厳しく,それ故自然が多く残されてきた。八曽国有林は1974年に自然休養林に指定され,翌年開園した。その際,自然休養林の管理運営は「協定」を結ぶという形で,営林署から地元入鹿地区住民によって構成される入鹿森林愛護組合に委託され,野営場と駐車場が組合によって整備された。1985年には,増加するキャンプ客に対応するため,組合が野営場を増設した。2001年度の入込者数は, 11,864人であった。運営については,駐車料金,貸テント料金からの収入でまかなっており,駐車料金500円のうち200円が森林環境整備推進協力金(以下,協力金)となる。支出は組合員の賃金,施設の維持管理費,国有林への野営場使用料である。協力金は毎年約60万円集まり,一旦国有林野特別会計に納められ,森林環境整備の予算として事務所と組合に下り,主に歩道,トイレ,案内板,キャンプ場内施設の新設及び修理に充てられる。4.地域住民による管理運営の取組み・入鹿森林愛護組合終戦直後までの地域住民と国有林との間には,国有林の冬季雇用等を通じた関係があった。その後,木材生産が行われなくなり,代わって八曽自然休養林が開設し,入鹿森林愛護組合が管理運営に参加することとなった。組合は,地元の高齢者雇用対策事業として,国からの働きかけにより1975年に発足した。入鹿地区54戸で組合員が構成され,そのうち組合長,副組合長等計10名が2年交代で役員となり,管理運営の中心的役割を担う。しかし一方では,若手の組合員は恒常的勤務者が多く,休日にキャンプ場の仕事を手伝うことを嫌がる人もおり,高齢者が管理運営の中心的存在となっている。5.考察入鹿地区住民にとって,八曽自然休養林の管理運営を国有林から委託されたことは,高齢者や定年退職者の雇用創出となり,また交代で数人ずつキャンプ場の管理を行うことで地元の人々の繋がりも維持された。さらに観光客との交流も出来,地域住民はやりがいを感じている。役員の中でも,若者のアイディアやエネルギーを積極的に取入れて組合の存続を図ろうとするなど,八曽の森林を守っていく意識は高い。しかし実際に管理運営に携っているのは主に高齢者のみであり,若手は仕事を忌避する傾向にあることから,このままでは組合の存続と今後の管理が危惧される。今回は八曽自然休養林の事例を明らかにしたが,地域によって国有林管理の実態は様々であり,高齢化などで管理運営主体となる組織の存続が困難な箇所もあるだろう。このように現在,レクリエーション施設の管理運営は不安定な主体に任されている事が懸念され,国有林は管理運営の方針を見直す時期にきている。今後は個々の自然休養林の管理運営実態を明らかにし,それぞれの事例を比較検討していくことが課題とされる。
  • 秩父多摩甲斐国立公園内白井差登山道閉鎖にみる国立公園の土地利用問題
    根岸 秀和, 宮林  茂幸, 関岡 東生
    セッションID: B07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     森林は木材生産だけではなく、人々の保健休養の面においても重要な働きをしている。近年、ハイキングや登山、風致の観賞等、森林のレクリエーション利用が活発に行われている。また、各地域では、その地域の自然を利用した地域振興が行われている。この中で自然を適正に保護・利用するために自然公園が設置されている。自然公園は土地が私有地、国有地に関係なく指定する地域制を採用している。しかし、自然公園の土地に私有地を含むことは、土地所有者の権利を自然公園法で制限することにもなる。この自然公園法による制限のなかで、土地所有者と国や公園利用者の間に矛盾が生じることがある。自然公園とはいえ、その自然を保護し利用する場合、土地所有者との調整が必要不可欠であるといえる。 埼玉県の両神村には、秩父多摩甲斐国立公園に指定された両神山(1,723m)がある。その両神山の白井差登山道が、登山道の土地所有者によって閉鎖された。本報告では登山道が閉鎖に至った経緯を明らかにし、現在の国立公園の利用と土地所有者の間にある問題点をみつけたい。
  • 住民アンケートの年齢別考察
    浅田 慎也, 佐藤 宣子
    セッションID: B10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに  日本の山村は、高度経済成長期以降、都市への人口移動とそれに伴う過疎化・少子高齢化が進んだ。このころからの山村振興対策は、農林業生産力を重視した内容が主であり、生産力の向上が過疎化・高齢化などの山村問題を解決するという論理が中心であった。しかしこうした振興対策は山村問題を解決できないままであり、農林業の不振も重なって、過疎地域の人口動態は社会減から自然減へと移行し、限界集落の発生、更には集落消滅の危機が指摘されている。さらに現在市町村合併も日程に上がってきている段階でもあり、山村の地域社会の再構築を検討する時期だといえる。そこで本研究では、山村振興には山村に暮らす人々の「生活」視点が欠かせないとの立場から、山村社会特有の生活様式・共同関係の現状を分析し、今後の山村生活のあり方を考察することを目的とした。対象地は、独自の自治公民館組織を発達させている宮崎県諸塚村とした。2.諸塚村の自治公民館 諸塚村には各地区ごとに16の自治公民館と、その下部組織である実行組合が存在する。この組織体系(以下自治公民館組織という)は村の発展に大きな役割を果たしてきた。一つ目は土地資源(農林業・生産基盤)保全の役割である。つまり、道路網の開設と維持、及び木材・しいたけ・牛・茶を四本柱とした農林複合経営推進の基盤としての役割である。二つ目に、生活の土台としての役割である。実生活に即した文化の向上、生活改善、神楽など伝統芸能の伝承などが自治公民館組織を土台にして進められてきた。三つ目が内発的発展の土台としての役割である。諸塚村では都市住民との交流事業やグリーンツーリズムを推進しているが、これも自治公民館組織に拠るところが大きい。 こうした様々な役割を果たしている自治公民館であるが、前述のような山村問題の顕在化、村民の暮らしの多様化などにより活動の見直しが求められるようになった。そのためにまず村内の現状を把握し、今後の生活のあり方を考える必要が出てきた。諸塚村では自治公民館活動のあり方検討会をつくり、各公民館の現状や村民の意見を把握することにした。3.分析方法 本研究では、検討会を中心に村が高校生以上の全村民を対象に行った『諸塚村のくらしと自治公民館活動についてのアンケート』を分析し、山村生活のあり方について考察する。その内容は「あなた自身の経歴や家族のことについて」「実行組合及び自治公民館活動について」「地域での生活について」「老後の生活や福祉について」「山や農地の管理について」「行政に対する意見」などとなっており、全45個の質問から構成されている。人口2271人(平成14年4月1日現在)のうち、対象者数1874人、回収部数1439部、回収率約77%であった。4.分析結果と考察「あなたの実行組合で行ってきたことで、最近難しくなったと思うことは何ですか」という質問では、「道路や水路の維持管理」「役員の選出」「祭りなど伝統行事の継承」が上位を占めた。この結果は、過疎化・少子化などの山村問題が具現化し、住民もそれを感じていることを端的に示している。さらに代表的な意見をまとめると(1)活動範囲を「公民館」から「村単位」へと移すべきだと考える活動項目がでてきている(2)特に40歳代にかけて日々が「忙しい」と感じており、「公民館行事の見直しまたは削減」を求める意見が多い(3)公民館長をはじめとする役員の選出範囲(年齢・性別)の拡大や、各部会の対象年齢の見直しなどを求める意見が多い(4)若い世代の女性が公民館の活動に参加機会が少ない、などである。 またこれら公民館の活動とは別に、「ボランティア活動に参加したいと思いますか」との質問には、この質問に回答した村民の実に7割以上が何らかのボランティア活動に参加したいと回答した。この結果は、地縁血縁関係の性格を持つ公民館活動とは別に、同志や友達といった、自分で仲間を選べる「選択縁」の要素をもつ活動に対する村民の関心の高さを示しているといえる。過疎化・高齢化による人口の減少により、公民館活動の改変は避けては通れまい。その際まず大切なことは、どの活動を公民館にまかせ、どの活動を村など他の活動範囲に移すのかという現状に即した公民館組織づくりである。村の役割がさらに大きくなることが予想されるが、村役場だけでは対処しきれない面もでてくるであろう。大事なことは、ボランティア活動のアンケートでも見られたような、公民館の枠を越えた活動に対する村民の関心をいかに汲み取るかということである。この村民の関心・意欲を形にすることが出来れば、公民館単位で困難になった活動を持続することが可能であろう。以上のことから、今後は公民館活動と「選択縁」の要素をもつ活動の両輪で村内の活動を行うことが必要であると考えられる。
  • __-__近畿地方市町村を対象としたアンケートから__-__
    田中 亘, 野田 英志
    セッションID: B13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    近畿地方管内2府5県(三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)の全392市町村を対象として、「自治体における里山林保全の取り組み状況」に関するアンケート調査(郵送方式)を行い、その結果、以下の点が明らかになった(有効回答数212、有効回答率54.1%)。 里山林が日常的に利用されている(ところがある)と応えた自治体は約半数であった。その利用内容は、「山菜採り」という回答が多く、他には「シイタケ栽培」や「散策場所として」などが挙げられた。一方、里山林が利用されなくなったことで問題が生じているかの質問では、60%の自治体が「問題あり」と回答している。鳥獣害・廃棄物の不法投棄・管理担い手不足・境界管理の困難さ・竹林の拡大といった点について25__から__30%の自治体が問題視している。府県別で見ると、人工林率が高く人手が入っている森林の多い奈良県や和歌山県では、鳥獣害を除き問題点は比較的少ない。逆に人工林率が低く人口の多い大阪府などでは、廃棄物の不法投棄が大きな問題として挙げられている。 里山林の利用・保全に関する自治体独自の施策や条例の有無については、「ある」と回答した自治体は11%、検討中を含め16%に過ぎない。80%の自治体はそのような施策を持っていない。ただしここでも地域差が見られ、大阪府の自治体では26%が「ある」、15%が「検討中」と回答し、京都府も20%の自治体が「ある」としている。京阪神の大都市を抱え、またそれに近接する府県において、里山林の利用・保全への取り組みが相対的に活発化していることが伺える。 里山ボランティア活動と自治体との関わりに関しては、約3分の1の自治体で里山林利用・保全のボランティア活動が確認している。こうした活動を支援している自治体は全体の約2割であるが、地域内でボランティア活動がある自治体のうち、約3分の2が支援を行っている。これは、自治体主導で立ち上げられたボランティア団体も少なくないことが要因であろう。具体的には「補助金支給」や「情報提供」を通じた協力関係にある。さらに、ボランティア団体からは「活動場所の斡旋」や「資材提供」といった要望が行政へ挙げられてもいる。府県別ではやはり大阪府の自治体が突出しており、59%がボランティア活動を確認し、30%が支援を行っている。これもやはり、少ない身近な緑に関心を寄せる都市住民の意向を反映したものと見られる。逆に人工林率が高く人口の少ない奈良県や和歌山県ではボランティア活動も未ださほど目立つ存在とは言えないようである。 アンケート結果を通じて、人目が多いゆえに里山の荒廃が目立つ都市部と人工林率が高く適度に人手が加えられているためにそれが目立たない過疎町村部との対比が際だった。人目の多さは大阪を中心とする里山林ボランティア活動とも直結しており、都市近郊の自治体においては里山林の保全・利用の取り組みに対してより積極的に取り組まざるを得ない状況がうかがえた。
  • 那須 嘉明
    セッションID: B14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    森林減少・劣化に歯止めがかからない熱帯林では、因果関係が指摘されている従来のコンセッション制度に替わるものとして、近年各地で住民参加型の森林管理・経営が試みられている。しかし、この試みは具体的な成果に乏しく、未だに試行錯誤を繰り返している段階である。 世界で最も激しい森林減少・劣化を引き起こしたフィリピンでは、その反省から1980年代になると、従来のコンセッション制から住民参加型の森林政策へと、大きなパラダイムシフトが図られた。生態系の保全を目的とする保護地域においても、1992年に制定された国家統合保護地域システム(NIPAS)によって住民参加型の管理が試みられている。NIPASでは、一定の資格を満たす保護地域内の占有者に対して、権利の保障のみならず、保護地域管理への参加までも謳っている。しかしこの一連の森林政策の転換について、関(2000)は、商業伐採跡地における残存森林資源の管理をめぐってコミュニティの機能が注目されているが、地域の環境、人々の生業、およびコミュニティの性格自体も大きく変貌している中で、その実態を把握しないまま政策を導入しても、失敗を招く可能性が大きいと論じている。 生計の手段を森林資源に求める地域住民の利害と対立しがちな生態系保護地域の管理において、住民主体の管理体系が成立するのであろうか?本研究ではこのような問題意識のもと、保護地域内の資源を利用する人々を取り上げ、フィールド調査により、その実態ついて明らかにし、実態に対応した参加型保護地域管理が実施されているかについて検討する。さらには今後の公園管理のあり方についても考察を加える。 研究の事例として、ケソン州リアル町キナンリマン山間部を選定した。この地域は1958年よりコンセッション制度による商業伐採がおこなわれたが、1977年には国立公園に指定されている。2001年に調査地として設定した際には、公園内の資源に生計を依存していると思われる耕作者集団が存在した。その集団40世帯に対し悉皆調査を試みた結果、36世帯に対しインタビューを実施することができた。加えて公園の管理状況を調べるため、管理当局へのインタビューおよび関係資料の収集をおこなった。調査は2001年9月と11月の2回にわたり実施した。 耕作者集団に対する調査からは、1.世帯主全員が移住者であり、その来歴からは、1960・70年代にかけての商業伐採に関連する移住パターンと、80年代のラタン資源を求めての移住パターンが確認できる、2.商業伐採により伐採跡地の開墾が促進され、土地(慣習的利用権)の取得が進んだが、商業伐採の終了以降、土地は売買によって移動している、3.70年代までの移住者は、その生業をすでに第2次・3次産業へと転換し、農業に対する重要度も低下していると考えられる一方、80年代にラタン資源を求めて移住してきた10世帯は、現在でも第1次産業に従事し、全世帯平均年収の82.4%を公園内資源に由来する収入に依存している、4.集団の中には、土地を貸し与え自らは耕作を行わない地主層が存在する、などが明らかになった。 一方、管理当局に対する調査からは、NIPASの掲げる管理計画の策定、ゾーニングの実施、そして資格審査にもとづく土地保有権の発行という、段階をふまえた住民参加による管理システム構築のうち、占有権の発給が先行しておこなわれ、かつそれが唯一の具体的な成果であることが明らかになった。この占有権の発給は地元NGOの後押しにより実現したが、厳密にNIPASで定められた受給資格を適用すると、該当するのは公園内資源に依存しているラタン採取者10世帯のみである。このように制度の一部のみが先行している現状は、公園内資源の利用をめぐって様々な対立を生み出していた。 フィールド調査からは、占有者集団の多様性が明らかになった一方、公園管理については、管理主体不在ともいえる管理状況が判明し、さらにその極めて消極的な管理状況により、公園内資源の利用をめぐるステークホルダー間の対立が確認された。これからの住民参加型公園管理には、まず各ステークホルダーの間で『公園の資源利用者ならびに管理の担い手』についての議論をする必要性があるだろう。そして環境調査を実施し、管理指針を決定しなければならない。さらに指針に沿った、境界線の再考およびゾーニングを実施すべきである。国家が管理主体であるコアゾーンを大幅に縮小し、バッファーゾーンについては、管理主体をコミュニティへと移行させることが最善策であると思われる。
  • 志賀 薫, Budi ., 森 あい子, 齋藤 達也, 御田 成顕, 増田 美砂
    セッションID: B15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1. 背景及び目的インドネシアにおいてアジア経済危機はそれまでの都市と農村との関係にも影響を与えることになった。すなわち,それまでは成長し続ける工業セクターや都市インフォーマルセクターに吸収されていた農村部の過剰人口が,再び農村へと還流し,すでに飽和状態にあったジャワ島の農村部にあってさらなる農地不足を引き起こした。その矛先は国有林へと向かい,各地で国有林の占拠,開墾が生じた。本研究は,ジャワ島第2の都市バンドンを擁し,その周辺にアパレル産業をはじめとする工業地帯を発達させているバンドン県を事例に選び,国有林内開墾がどのような社会的背景の下に行われ,森林に対してどのような結果を生みだしているのかを明らかにすることを目的として,1999年に開始されたものである。今回の報告では,2002年7月から8月にかけて行った追跡調査の結果を加え,経済危機後の4年間の変化について考察する。2. 調査方法調査値である西ジャワ州バンドン県ロンガ郡C村は,バンドン市から南西約60km,標高約1000mの山間部に位置している。人口5,821人(2001),面積5.76km2,人口密度1010人/ km2であり,農業のみで人口を扶養することはできない条件にある。 C村は3つのDusun(地区)からなり,各Dusunの下には3から5のRW(区)がおかれ,各RWはさらに2から4のRT(班)に分けられている。1999年には,国有林に近いRW12(2001年現在149世帯)を母集団とし,給与生活者を除いた上,主たる職業をもとに分けたクラスターから,計50世帯(内49世帯が有効)を無作為抽出し,調査票を用いた聞き取り調査を行った。今回はその調査と同一世帯を対象として追跡調査を行い,4年間の比較を行った。3. 結 果国有林内開墾については,経済危機直後の1999年には33世帯が国有林内開墾に従事していたのに対し,今回の調査では21世帯に減少していた。約1/3の12世帯が国有林内開墾から離れ,また国有林内開墾地面積の合計は,多少ではあるが減少したことが分かった。1999年以降,新たに国有林を開墾した世帯は8世帯,開墾された土地面積は182アール,うち水田アール,畑地166アールであり,放棄した世帯は21世帯,土地面積は272.6(a)(水田2(a),畑地270.6(a))であった。さらに,かつての開墾地約50%が放棄されていることが分かった。聞き取り調査によると,それらの土地はその大部分が何も手を加えられずに放棄されているが,中には果樹などを植林された土地もあるとのことであった。しかしながら,この放棄後の開墾地の現状は自己申告によるものであり,信頼性は薄いと考えられたので,今後は現場とつき合わせたチェックが必要である。また,C村の調査対象世帯の人口については,1999年から2002年にかけて顕著な変化は見られず,2001年調査時以降村外へ転出した世帯は見られなかった。4. 考察1999~2002年にかけて,国有林内開墾に従事する世帯数は減少したが,これは農地不足が解消されたことを示しているものではなく,粗雑な農地経営を反映したものであると考えられる。開墾地放棄の理由から,当初,収益が上がると見込んで開墾を開始したのにも関わらず,労働力,資金の欠如のため,適切な管理をすることができず,農地の生産性を招き,十分な収益が得られなくなったという,計画性の欠如した土地経営が行われていたことが窺える。このことは,同じ国有林内開墾地でも,持続的経営がより可能な水田では開墾地の約5%が放棄されたのに対し,収奪的な経営に陥り易い畑地では,約54%という,水田に比べはるかに大きな割合の開墾地が放棄されたことからも推察できる。また,継続して国有林の開墾を行っている世帯のなかには,古い開墾地を放棄し,新たな土地を開墾する,という世帯も見られたことから,生産性の低下した耕作放棄地・新たな開墾地,双方の増加により,国有林の減少,国有林地の土壌の質の劣化は着実に進行していると考えられる。さらに,前回の調査時には見られなかった用水路(インドネシア政府による)が国有林地を経てC村へ届いたことも,その流れに拍車をかけているのではないかと考えられる。また,1999~2002年の間の,C村の調査対象世帯における人口の変化に顕著な変化はない。しかし,調査で得られた回答によると,バンドン市とC村を結ぶエリアで短期的に労働しているというケースが多く見られ,C村がバンドン市という大都市のインフォーマルセクターの供給源となっていることが窺えることからC村の人口は浮動的であるといえる。このような人口の動向には,高人口圧と農地の不足のため,農業による自立が不可能であるという事情が存在する。この事情がこれからも,国有林地の劣化の原動力となる事は明らかであろう。
  • 佐々木 太郎
    セッションID: B16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     タイにおける森林問題の背景には、荒廃した森林の維持および管理という環境保全の必要性と同時に、多くの土地なし農民に対する農地造成のための国有林の開発と解放という、相矛盾する二つの社会的要請があった。このベクトルの異なる二つの要請に応えるため、タイでは1975年、王室森林局によって森林村事業が開始された。森林村事業の政策目標は、地元住民を雇用して造林を行うことにより荒廃した国有保全林の再生を図ること、土地を持たない地元住民に対して暫定的に耕作権を与え、小農を創設することによって村の自立的発展を実現することにあった。 本論文の課題は、森林村事業が開始されてから四半世紀が経過した今日、その政策目標がどのように達成され、何が問題として残っているのかを事業の実態に即して明らかにすることにある。また、森林村事業は住民参加という意味において、いわゆるコミュニティ・フォレストリーの一つと位置づけられている。そこで、研究対象地域として、トップダウン方式の管理が継続されており、政策目標がそれなりに達成されている村、政策意図が住民に十分に伝わらずに、制度が曲げられて運用されている村、政策意図が住民に伝わることで、その後の内発的な土地利用秩序の形成が確認されている村、という性格の異なる三つの森林村を選定し、住民参加の理念と実態を明確にして、その政策評価を行った。 上述のような背景の下で、森林村事業は、国有林における森林再生のための造林と、国有林内における農地造成とその分配による小農創設という、相反する二つの目的を同時に両立させ得る画期的政策として位置づけられた。そのため森林村事業では、国有保全林内の事業地を、保全を目的とした水源域での造林予定地と、土地なし農民に対して限定的な条件の下で土地を貸し与える地域という二つの土地利用に区分した。造林・保育事業では耕作権を付与した農民を労働者として雇用し、荒廃した国有保全林を回復した。 一方、土地なし農民には土地の完全な所有権ではなく、暫定的な耕作権が与えられ、その権利には制約条件が課せられた。これは、森林村の経済基盤が不安定で農民が耕作権設定地に極度に依存するために、担保権の設定や売買などによる土地の流動化を防止するための措置であった。これから、森林村民の経済的性格が、当初の造林労働者という労働者範疇から自作農という小農範疇へと移行し、最終的に地域として経済的に自立することをこの政策は想定していたことが分かる。暫定耕作権は土地政策の展開により、国有保全林の外部で発行されるその他の土地証書との統合性を持つに至り、自作農創設という経済的目的を持った森林村事業での目的が、近代的土地所有権の確立という広い社会的な政策課題へと昇華したことを意味している。 続いて、以上で明らかにした森林村事業の政策目標と事業地での実態との乖離について検討した。まず、調査地のある東部内陸地域の経済的特徴と、その地域における商品経済の急速な展開を概観した。そして、森林村内に暫定耕作権の設定地を保有する世帯を対象として実態分析を行った。その結果、小農創設という事業目的に反して、森林村では自作農への展開を十分に果たすことなく農民層の分化・分解が進行し、多くの農民が出稼ぎや周辺地域の雑業労働者へと転落していることが明らかとなった。このように、森林村事業では、造林による国有保全林の再生という側面については一定の成果は上がったものの、自作農創設による地域社会の自立という面については必ずしも成功とはいえない結果となった。 森林村事業における住民参加の形は、造林・保育事業における雇用労働力としての「従事」に過ぎなかった。今日注目されているコミュニティ・フォレストリーでは、地元住民が事業計画の策定や評価に一定の決定権を持つため、地域社会や経済的実態に合わせた森林管理が可能となる。しかし、森林村事業はトップダウン的な政策であるために、政策当局により政策理念が一方的に住民に押しつけられる可能性があった。現地調査の結果、地元住民が政策的に与えられた土地制度を自ら再編し、強化している例や、保全林事務所が地元住民による独自の動きを政策に取り込むケースが見られ、トップダウン方式の政策の中でもその運用面では内発性が発揮される可能性が示唆された。 現在、タムボン自治体を主体とした地方分権化が議論されているが、その財政的自立は困難であり、森林村は王室森林局の財政的補助を受ける必要がある。以上の分析において確認されたような森林村の内発的な動きを尊重しながら、それを政策へと取り込んで生かしていく仕組みを確立し、国有林をめぐる二つの社会的要請に応えていく必要がある。
  • 渋谷 幸弘, 餅田 治之
    セッションID: B17
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    フィリピンにおける森林再生事業は、初期の政府が直轄で行う造林から近年では地域の住民組織が主体となったものへと変化してきた。しかし、現在においても問題の抜本的解決には至っていない。そこで本研究では、フィリピンにおける主要な森林再生事業である、__丸1__政府が直轄で行う造林と、__丸2__住民組織による造林が地域の実態においていかなる問題をはらんでいるのかという点に関して、事業に関係している地域住民に焦点を当て考察を行った。具体的には、__丸1__事業の公平性、__丸2__地域住民による造林地の自立的な維持管理、__丸3__地域住民の生活改善への寄与、そして、__丸4__森林の再生という4つの分析視角を設定し事業の評価を試みた。政府が直轄で行う事業としては、国際協力事業団の協力により1976__から__1992年に実施されたパンタバンガン森林開発プロジェクトを取り上げた。プロジェクトの目的は、ダムの集水域に広がる荒廃林地に造林を行うことによって土砂堆積を防ぐことであり、約1万haの造林が行われた。当プロジェクトでは、林地・造林木は国の所有とされ、地域住民は主に雇用労働者として事業に携わった。住民組織による事業としては、現在の林政における最重要政策であるCBFM(Community Based Forest Management)を取り上げた。CBFMは地域の住民組織に対して25年を契約単位とする林野保有権を付与し、住民組織を基盤とした資源の共同管理を目指そうとするものである。調査地においては、二つの住民組織が各々約300haの国有林地を利用し、果樹造林を行っていた。調査地は、ルソン島中部に位置するヌエバエシハ州カラングラン町を設定した。当地域では過去にパンタバンガンプロジェクトが実施され、2001年以降二つの住民組織がパンタバンガンプロジェクトと同じ造林地を利用してCBFMを実施している。そのため、多くの住民が双方の事業に関わっており、両事業の比較が可能であった。調査は2001年8月、2002年2月、2002年9月の3回実施し、設定した二集落の全世帯に対して質問表を用いた悉皆調査を実施した。地域住民は所得水準によって以下の4つの階層に分類することが可能であった。高所得順に、__丸1__農外就業者、__丸2__自作農、__丸3__小作農、__丸4__農業雇用労働者であり、この階層の違いをもとに分析をおこなった。__丸1__事業の公平性:パンタバンガンプロジェクトにおいては、最も貧しい農業雇用労働者が最も雇用機会を得ることができず、雇用に際して平等が確保されていなかった。CBFMの実施主体である住民組織への参加率は、自作農が最も高いものの、その他の階層ではほぼ同程度であった。しかし、農業雇用労働者は日々の生活の糧を得なければならないため、造林地の維持管理ができず、CBFMは富裕層のみが利益を得ることができ、貧困層が実質的に参加できない仕組みになりつつあった。__丸2__造林地の自立的な維持管理:パンタバンガンプロジェクトにおいては、実施期間中、年平均10ha以上が山火事によって被害を受けた。林地・造林木に対してほとんど何の権利も持たなかった地域住民にとって、造林木を維持管理するインセンティブは無く、造林地を保護する自立的な行動は見られなかった。CBFMでは、その同じ造林地において、2001年に事業が開始されて以来、山火事による造林木の被害は無い。これは、住民組織が山火事に対処するために規則を作り、草刈や消火活動などを行った結果であり、25年(最長50年)に及ぶ林野保有権が林地・造林木の維持管理における強力なインセンティブになっていると考えられた。__丸3__住民の生活改善への寄与:当地域における住民のニーズはどの階層においても、「雇用機会の創出」が最も高かった。パンタバンガンプロジェクトは、16年間という長期にわたって雇用機会を提供することができたが、一時的な効果にとどまっており、地域の持続的な発展に繋がることはなかった。CBFMにおいては、住民組織が造林事業にとどまらず、家畜飼育事業や金融事業などを自主的に行うことを計画しており、CBFMを通じた新たな地域発展の可能性が生まれつつあった。__丸4__森林再生事業としての評価:パンタバンガンプロジェクトにおいては、20種類以上の多彩な樹種が造林され、採算性の低い場所にも大面積に造林された。CBFMにおいては、造林されているのはマンゴーを主体とする数種の換金樹種に限られ、また集落から交通アクセスのよい林地にしか造林が行われていない。面積は現在のところ完全に事業が成功したとして約600haである。このように、森林の再生という側面からみれば、CBFMには限界があるということができる。
  • 小林 由紀, 柿澤 宏昭, 増田 美砂
    セッションID: B18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに  シベリア・極東地域の森林資源については劣化および減少が懸念されるが、その原因は、第一に森林開発、次に森林火災とされる(柿澤 1997)。特に前者は、旧ソ連時代からの大面積皆伐と粗放的林業に起因している。また、急激な民営化の影響による経済・産業の低迷で、当該地域の加工部門は停滞し、東シベリアにおいては回復の兆しがあるものの、依然原木輸出に依存する構造となっていることが指摘されている(日本貿易振興会 2002)。 この状況の長期化により炭素吸収源として有望視されているロシアの広大な森林が危機的な状況に陥り、ひいては地球規模の環境問題として悪影響を与えることが懸念される。 日本は、2001年に輸入量で中国に抜かれ2位となったものの、旧ソ連時代を通じ最大のロシア材輸入国であった関係ゆえに、環境意識の高い先進諸国からは、環境改善につながる何らかの協力が求められている(柿澤 2003)。 本研究では、持続的森林経営を実現するにはどのような条件が整備されなければならないかを考察した上で,シベリア・極東地域における森林経営や林業セクターの活動の現状を明らかにする。2.持続的森林経営のための条件  連邦・地方政府が森林の経済的機能だけでなく環境保全機能にも関心を払うこと、シベリア・極東地域における林業を恒久的に発展すべき産業として認識することが前提となる。また林政の方向性として、民間投資や企業活動を統制できる強力な権限をもつ森林管理システムを構築し機能させることが重要となる。更に、依然国内産業への投資がままならないロシアの経済状況から、積極的な外資の誘致により、資源の節約技術にすぐれ、かつ付加価値の高い加工材生産業を発展させることが必要とされている。そのようにして林産業が活発化することで伐採量が増え、資源への負荷が高まる可能性もあるが、ロシア産製品が市場である一定のシェアを占めることにより、「ロシア材」としてのブランド化や認知が進むと考えられる。そこでは同時に、買い手側から、木材生産に係る情報公開、トレーサビリティ等を強く求める機運を高めること、持続的森林経営を促す外圧を形成することが求められる。その中で生産者の差別化がすすみ、環境面からみても優良な経営体が残っていくと期待される。3.イルクーツク州における森林経営 東シベリア地域においてもっとも林業が盛んなイルクーツク州を例にとり、以下の項目を明らかにする上で必要な二次資料を収集するとともに、キーインフォーマントに対する聞き取り調査を実施することとした。まず、林業セクターにおける企業活動の実態を明らかにする。また、現在、加工部門への投資や技術協力の担い手として重要な位置を占めていると考えられる外資系企業については、進出過程や投資・活動状況などに関する情報を収集する。さらに、法改正や林業発展プログラムの実施、丸太輸出税の大幅値上げなど税制改革の進捗現状について整理を行い、これらの動向が持続的森林経営の実現に結びついているのかを総合的に検討する。
  • マセル プレミスル, 堺 正紘
    セッションID: B20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    I. IntroductionThe time between the collapse of the communist regime and full establishment of the market economy based democratic system is usually referred to as the “period of economical transition”. II. Historical circumstances1. Before 1989Before the “Velvet Revolution”, forestry had been considered to be a strategic economic sector, which required central control. The most important function of forests was the production of timber. The forestry policy at that time was in competence of the Ministry of forestry and fisheries. From 1960 to 1995, there was a legal obligation for all owners regardless of forest size to manage forests according to forest management plans in connection with nationalization of forests.2. Changes in attitudeAttitudes to forests in the Czech Republic have been gradually changing during the past few decades. Under the Forest Act No. 166/1960 Coll., forests were divided into commercial and special forests. The following Forest Act no. 61/1977 coll., classified forests as commercial, protective and forest of special purpose. Since the revolution, even more focus is being placed on their non-productive functions for water management, nature protection, health and recreation, etc.3. Towards the European UnionRecently, the main driving force for the transition changes and a course of direction is derived from the decision to join the European Union as soon as possible. The intention to join the European Union was expressed by the new Czechoslovak Government immediately after November 1989. From the historical point of view, the membership has mostly been seen as something quite natural. The important question is under what conditions the CR should join the EU.4. Changes in ownershipThe restoration of property equality and ownership existing before 1948, when the communist regime took over, was among the most important tasks, which had to be done at the government level as one of the first steps towards democracy.In the Czech Republic, the recognition of private property rights in forests has been revolutionary development. In 1991 process of restitution in forestry was started. Since then, the ownership of forests has significantly altered. Up to that time, an absolute majority of forests was state-owned. In 1990, 95.8% of woodlands were owned by the state, 4.1% by agricultural co-operative farms and only 0.1% was in private ownership (Table 1). Following the Act on Land passed in 1991, forests are being returned to the former owners. Process of restitution is essentially completed but there are still some issues that need to be discussed.III. New legal frameworkIn order to be able to join the EU, one of the most important steps is the approximation of the law. In November 1995 Parliament of the Czech Republic passed the Act no. 289/1995 coll., on forests and amendments to some acts (the Forest Act). This law is a fundamental norm of new forest legislation respecting basic rights of forest owners, concern of the state for the fulfilment of all forest functions and preservation of forests for generations to come. Sustainability of all forest benefits has been the basic principle of all forests laws up to now. The new Forest Act creates a legislative framework for the fulfilment of the major elements of process undergoing in Europe that respects the principles of nature friendly forest management, sustainability and biodiversity.IV. ConclusionEconomic transition influences forestry in many ways. Forests are subject to restitution and privatization. After almost 14 years, the Czech Republic has not yet fully recovered from the damage caused by the communist regime. Forestry legislation as a component of country’s legal infrastructure must be carefully studied with the rest of the legal framework in mind. There are still many changes which have to be done and forestry sector as an important part of the Czech economy has to react to them.
  • 白河林業局を事例として
    崔 鉄岩, 餅田 治之, 増田 美砂
    セッションID: B21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 背景および目的中国の国有林は,過伐による森林資源の荒廃と,職員の福利厚生に加え地域社会の運営まで担ってきたことに起因する収支の悪化という問題を抱えている。1998年夏に発生した大規模な洪水の原因は,木材伐採による治山・治水能力の低下にあるとされ,それを契機として中央政府は,当年下半期から国有林地域の天然林を全面的に保護することにした。この天然林保護政策の実施によって木材生産量は著しく減少し,林業局は経営体制の抜本的な改革を余儀なくされている。そこで本研究では,天然林保護政策が具体的にどのように実施され,国有林企業はそれにどのように対応しているかを明らかにし,問題点を整理したい。2. 方 法中国の重要な木材生産基地の一つである長白山林区のうち,特に林業生産の盛んな白河(バイハ)林業局を事例に選び,2002年7月から8月にかけて調査を実施した。その際に,当該地域の土地利用を,国有林,自然保護区,および農地に区分した上で,特に国有林に焦点を当て,森林資源,木材生産量,木材価格,中央政府からの交付金などの内部資料を収集した。これらの資料およびキーインフォーマントに対するヒアリングの結果をもとに,天然林保護政策実施前後の比較を行った。3. 結 果中国政府は,計画の策定と目標の達成を監督することによって,国有林企業の経済活動をコントロールしている。国家計画委員会は,国民経済発展年度計画に基づいて予測した年間木材需要量を,国有林年間計画木材生産量として中央林業部に下達する。それを受けた林業部は,各省の林業庁に年間計画生産量を割り当て,林業庁はさらに管轄下にある各国有林企業に割り振る。各国有林企業は森林資源の状況と木材生産能力を基に修正を加え,その計画を上級機関に提出する。国家計画委員会は,国有林から寄せられてきた修正意見をもとに年間計画生産量を最終的に決定し,再び林業部から林業庁,国有林企業へと下ろしていく。このようなトップダウンの流れの中で国有林企業は生産活動に従事しているが,国家レベルで重要な政策変更が生じた場合は,すでに決定された生産計画をさらに修正できることになっている。政府の天然林保護政策の実施とともに,中央林業部は具体的な実施方針を立て,それにしたがい各省の林業庁は管轄下の国有林企業の林地ゾーニングを行った。白河林業局の国有林は直ちに重点公益林(国有林面積の25.2%),一般公益林(39.8%),および生産林(35.0%)にゾーニングされ,従来通り伐採を行うことができるのは生産林のみで,一般公益林では皆伐が禁止され,重点公益林の伐採は認められないこととなった。その結果,実施前の1997年と比較し,2001年には木材生産量で40%,木材販売収入も30%減少した。こうした減産・減収に対し,国有林経営組織は合理化を断行せざるを得ず,管理部門は1995年の41処・室・部から2001年には21に縮小された。管理職にある職員数も,1995年の752人が310人に削減されている。伐採作業量の減少に対しては,白河林業局はまず植林部門への配置転換によって対応した。しかし植林を終えてしまった1999年からは希望退職・一時帰休制が適用され,2001年には生活保障をうけている職員・労働者が3,739人に上がっている。こうした突然の減産・減収,さらには整理された職員の生活保障など追加的支出の増大に対して,中央政府は並行して5年間の交付金支給計画を立てることによって支援を行っている。しかしその4年間の総額は8,612万元で,1998年から2001年にかけた木材販売収入の減少額14,847万元の6割弱にすぎない。次に林業局側の自助努力として,経営の多角化および資源の高度利用に向けた努力があげられる。すなわち,従来の天然林伐採への依存から,「林地分類経営」を目指して人工造林,樹下植栽,養殖,林産物加工,天然水開発や観光業へと多様な活動を展開しつつある。4. 考 察天然林保護政策は,資源の保全・育成という目的に対して有効に働いており,同時に過伐に支えられ拡張を続けてきた国有林経営組織の合理化も,深刻な社会不安を生じさせることなく遂行されていると考えられる。また,退職あるいは一時帰休した職員の生活を最低限しか保障しないことにより,企業だけでなく職員・労働者にも他業種への就労や起業など,自立を促している。そのための方針として,国有林側はこれまで自由に採集できた非木材林産物に対し,「山の請負」制を導入し,一時帰休職員・労働者の排他的利用を認めるようになった。しかし,それは他方で非木材林産物採集により現金収入を得てきた農民を国有林から排除することになり,その生活を圧迫している可能性がある。一方,2000年の道路整備による長白山の観光開発は,一時帰休職員・労働者が転職する際の受け皿となっているとも考えられ,今後これらの点の解明が課題として残される
  • 永矢 麻希子, 枚田 邦宏, 中島 皇
    セッションID: B25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.研究目的とその背景 芦生演習林は近年、研究・教育利用だけでなく、一般のレクリエーション利用の比率が相対的に高まっている。その数は平成13年度において、学生実習・研究利用が約3,900人、それ以外の一般利用が約12,000人と、一般レクリエーション利用が研究・教育利用の約3倍となっている。 この一般利用の増加傾向は、1980年代後半から徐々に現れ、その背景として第一に、自然ブームで人々が自然を堪能することに主眼を置く余暇や旅行をする傾向が強まり、森林レクリエーションの機会を求めるようになったこと、第二に、芦生演習林の位置する美山町が観光による地域振興を推進するようになり、町営宿泊施設が演習林見学ツアーを開催して一般に広く演習林を知らせるようになったこと、第三に、道路整備による関西都市圏からの時間距離の短縮により、日帰りで原生的な自然を楽しむことが可能になったことが挙げられる。一般利用の増加傾向を受けて、利用者の動向と実態を把握するために1992年秋と93年春、1995年秋にアンケート調査ならびに実数調査が行われ、その結果浮上した問題点は、第一に、5,7,8,11月においては土曜、日曜、祝日に利用が集中し、その集中が恒常化しつつあるために森林の状態が改変され、演習林の第一の目的である教育・研究の役割に支障をきたす恐れがあること。第二に、再度利用を繰り返すリピーターが多く、歩道以外の研究対象区域に入り込む恐れがあること。第三に、利用者年齢層が高齢化していること、加えて少人数で来訪する傾向が強まっていることにより、事故増加の危険性が増大することなどが挙げられる。いずれの問題も一般利用者自身が演習林利用ルールを理解し、遵守することである程度の回避が可能だが、利用ルールを遵守しない、或いは勝手な解釈をする人が多く、今までの管理方法の再検討をせまられている。 そこで本研究は、2002年5月、7月、9月、11月に実施したアンケート調査をもとにその結果を分析し、一般利用者がどの程度利用ルールや大学演習林、芦生演習林を認識しているのかを把握することで、現在の利用ルールやその他情報などの提供方法を評価し、今後の新たな管理方法の検討に際して重視すべき点を明確にすることを目的とする。2.研究対象地域の概要 芦生演習林は京都府北東部の滋賀・福井両県境にある美山町に位置し、森林面積は約4.200haで由良川の最源流部にその大半をおく。天然林が約半分を占め、その一部は原生的な状態に保たれている。京都市街地より約60__km__、車で2時間弱を要し、また公共交通機関の利用は不便をきたすため、多くの一般利用者は自家用車を利用して京都府美山町側と滋賀県朽木村側から演習林を訪れる。3.調査結果 アンケート結果を見ると、利用者の属性として50代を中心とした高年齢層の男性が多く、リピーターが半数近くを占める。調査項目ではこうした属性に始まり、主に演習林の役割や演習林利用のルール、利用に伴う問題に対する認識などを聞いた。まず、演習林の役割に関してみると、半数以上がよく知らないと回答した。演習林の役割を、「教育・研究施設」と回答した人が6割程度で、中には「自然公園」との回答も2割近くあった。演習林の第一の目的である教育・研究の役割は、大学関係者や研究者のみならず、広く一般の方に対しても周知されなければ、一般利用により、本来の目的である教育・研究が脅かされる。演習林を「自然公園」という認識のもと利用が進むと、利用マナー悪化に拍車がかかる危険性がある。そこで、演習林の第一の役割が「教育・研究施設」であると知ってもらう意味でも、2003年1月からのホームページでの研究・調査内容の公開が果たす役割は大きいといえる。 次に演習林利用のルールに関してだが、利用に許可が必要なことは6割以上の人が認識していたが、同時に、入林申請書の提出を知らなかった人も3割以上いたことを考慮すれば、利用ルールの認識が高いとは言い難い。また、こうした基本的なルールでさえも認識不足の利用者が多く、殊に具体的なルールに関しては認識が低い。 最後に利用に伴う問題(多人数での利用が原生的な自然に悪影響をもたらすこと、ゴミ処理の方法など)に対する認識についてだが、利用ルールの認識と同様に、一般の森林を利用する際にも当てはまる問題は認識が高いが、芦生演習林特有の具体的な問題に関してはその認識が低い。4.まとめ 演習林利用に対する認識は大まかなものでしかなく、利用している森林が「演習林」だという認識は低いといえる。演習林利用に関する情報提供や利用指導を、林内の看板とホームページに依存している状況を考慮すれば、その提供情報の内容再検討と提供方法の改善を図ることが、一般利用者の演習林利用における認識向上に有効と言える。
  • 青柳 里緒, 山本 裕隆, 宮林 茂幸
    セッションID: B27
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     現在、わが国における森林管理問題の一つとして間伐問題があげられる。間伐材に付加価値を見出すことで間伐が促進され、健全な森林管理が可能となり、さらには林業の活性化につながるといえる。本研究は、間伐材の利用と湖沼の水環境保全を組み合わせるプロジェクトを提案し、間伐の促進を施し、健全な森林管理と林業振興を進めようとするものである。具体的には、新たな間伐材利用として間伐材や抽水植物を使用した水質浄化装置の人工浮島(以下、とよあしはら浮島とする)の構造材として利用することを提案し、その利用がどのような経済の可能性を持つかについて検討した。なお、今回は神奈川県秦野市と中井町の境に位置する震生湖に、とよあしはら浮島を導入する場合について考察した。
     本研究では、神奈川県の間伐材流通を参考にA:森林所有者が森林組合に委託販売し、森林組合からとよあしはら浮島の構造材となる間伐材を購入する経路、B:森林所有者が森林組合に委託し、森林組合から森林組合連合会の木材共販を通って販売される間伐材をとよあしはら浮島に利用する経路、C:森林所有者が間伐を行い、直接とよあしはら浮島に利用する経路、の3経路設定して検討した。なお、とよあしはら浮島はNPO法人「とよあしはら」によって実際に進められているプロジェクトで間伐材の購入価格を1本1800円としている。
     とよあしはら浮島の間伐材を一般の流通価格で使用するとき、全ての経路で森林所有者の支出が収入よりも上回り、赤字(損益)が生じることとなった。特に、経路Cにおける損益幅が大きい。なお、今回算出した代金は、補助金について考えずに算出したものであるが、たとえ補助金を考慮に入れたとしても、どの経路においても森林所有者までの還元(貨幣の循環)は生じない結果となった。
     NPO法人「とよあしはら」が設定した間伐材価格による流通では、全ての経路で森林所有者の収入が支出を上回り、利益が生まれる結果となった。その中で森林所有者の利益の最も多いケースは経路Cで、最も少ないのは経路Bである。NPO法人「とよあしはら」が行っているとよあしはら浮島プロジェクトの事業費がどのように分配されているかについて経路別に、とよあしはら浮島の総事業費を100%として試算すると、森林所有者に配分される割合が最も多いのは経路Cで、最も少ないのは経路Bとなった。
     以上より、次のようにまとめた。
     第一は、一般の流通価格で本プロジェクトの使用すると、どの経路においても森林所有者に利益が得られないこととなった。他方、NPO法人「とよあしはら」が設定した間伐材価格においては、全ての経路で森林所有者に利益が生じた。NPO法人「とよあしはら」が設定した間伐材価格においては、全ての経路でとよあしはら浮島によって間伐材の新たな利用促進が可能となるものといえる。
     第二に、特に顕著な利益率は、経路Cの78%であった。経路Cは森林所有者にとって総事業費が配分される割合が最も多い経路といえる。しかし、経路Cは、現在神奈川県には存在してない。したがって、とよあしはら浮島プロジェクトの普及など間伐材に付加価値を持たせる利用促進などによって、農家や林家による間伐が可能になったとき、利用できる経路であるといえる。
     第三に、現在、神奈川県に実存する経路Aと経路Bについては、経路Aのほうが森林所有者の利益率が66%と、経路Bより7%高くなった。よって神奈川県の経路で最も利用可能な経路は経路Aであるといえるが、両者の経路共に実利益があがる結果が得られていることから間伐事業の促進に繋がるものといえる。
     第四に、とよあしはら浮島は、公共事業による湖沼の水質浄化および水辺環境の保全を特徴としている。つまり公共事業であるからこそ山元への収益の還元が期待されることとなる。なお、とよあしはら浮島は、全てを天然資材によって賄うもので、他の浮島と比較して事業コストを2割から3割軽減することが可能である。
     第五には、天然の資材によるとよあしはら浮島が水質浄化を行い、水辺環境を保全する。また、間伐材の促進を可能とすることから森林の適正な管理が進み、林業振興となる。さらには、住民参加や環境教育などとしての取り組みも可能なことから、循環型の地域づくりプロジェクトとなる可能性もある。
     とよあしはら浮島に間伐材を使用する新たな利用法は、山元に利益を生み、水環境を改善する、経済と環境が地域内で循環する社会を形成できる可能性があるといえる。
  • 蕗井 敏輝, 藤原 三夫
    セッションID: B28
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年、林業従事者の高齢化や、未整備森林の増加などの問題が発生しているが、竹林の拡大と森林への侵入もまた深刻な問題として浮上している。「竹は伐ることが植えること。」という言葉にもあるように、伐採されることで循環が維持されるが、管理放棄された竹林は旺盛な成長力によって隣接する林地や、田畑に侵入し、それらに荒廃をもたらせている。このような現状の中で、竹林整備に動き出している県や市町村もある。しかし、そこでは、伐採後の竹材をどう処理するかが重要な課題となっている。本研究の目的は、竹林整備で生産された竹材の処理方法の一つとして、竹材の炭化物である竹炭の販売の可能性を探ることにある。 調査方法としては、竹炭需要の現状を把握するために1.一般消費者への竹炭に関する意識調査と、2.土壌改良剤・水質浄化剤での竹炭の利用に関する使用現状についての聞き取り調査を行った。 1.については、「朝市」や「フリーマーケット」に参加・出店して具体的な商品と価格を提供・販売しながら、来訪者の反応をアンケート方式で聞き取った。 2.については、それぞれに関係する機関・団体に消費の現状と可能性及び条件について聞き取り調査を実施した。1.の調査結果はとしては、竹炭に関して最も関心を示す客層は、50才代の夫婦2人暮らしで街中に住む女性であるということや、竹炭の購入場所としては、ホームセンターや道の駅が一般的であること等がわかった。また、竹炭価格のダウンの必要性も実感することが出来た。コストダウンの方法としては、1mから2mの筒状の竹炭を芸術作品として販売することや、まだあまり普及していない水溶性のミネラル分に注目した商品の開発・販売による付加価値の拡大などによって、一般的な竹炭商品については、価格を下げるといった。市場対応が考えられる。 2.に関しては、竹炭価格のダウンはもちろん、性能・効果に関する具体的な前例やデータ、量的供給のシステムづくりの必要性を認識することが出来た。まずは研究データを基に竹炭の効能と使用に対する正しい情報を広めることで、少しずつ市場を開拓し、需要を広めていくことが課題となる。 竹炭の市場は、小さいこともあり、小市場が分散的に存在し、品質や価格においても大きなばらつきが見られる。また、土壌改良剤や水質浄化剤市場では、産業廃棄物を利用した商品が開発され、竹炭との競合が生じている。こうした中で、竹炭のマーケティングを図るためには、価格・品質・性能など最も基本的な要素について、説明責任と透明性の確保が要求されている。とくに竹炭の性能に関するデータの収集が必要であろう。
  • ネパール、サンク・コミュニティフォレストにおける聞き取り調査より
    内山 鉄也, Manandhar Anita, 庄子 康
    セッションID: C01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1 背景・目的1988年の林業マスタープラン発表以降、ネパールで推進されてきた地域住民による森林管理は、各地でその成果が報告されている。しかし、資源が豊富な南部のタライ地方などで、コミュニティフォレスト(以下CF)を商業的に利用し、現金収入を得る森林ユーザーグループ(以下FUG)が出始める一方で、地域住民のCF資源に対する需要が高く、なかなか資源が回復しないCFが存在するなど、地域ごとの格差も明確となってきている。本研究は、CFの状態を規定する住民の森林利用について、各世帯の所有資源、CFからの距離の側面より考察を行い、今後FUGレベルで当面するCF管理の課題について検討を行った2 調査対象・調査方法ネパールの首都カトマンドゥから東へ20kmほどのサンク村にあるパニファト地区のFUGを調査対象とした。当地区は山の南斜面にあり、地区の南端が標高1400m、北端が1600mであり、1600m以上の場所がCFとなっている。現在のFUG役員8名、前役員3名への聞き取りから、当地区のCF管理、FUG運営の状況を明らかにした上で、メンバー34戸に対して、各世帯の基礎的な情報、CF利用状況などを面接式のアンケートにより調査した。調査期間は2002年10月2日から10月14日である。今回はパニファト地区を地図上の等高線で区切り、CFまでの距離によって「近(11戸)」、「中(12戸)」、「遠(11戸)」の3グループに分け、調査結果の分析を行った。3グループの地理的区分は以下の通りである。近・・・標高1540m以上 中・・・標高1460mから1540m遠・・・標高1400mから1460m 3-a 調査結果1 -当地区のCF管理、FUG運営- 水量が減少する川の水源確保を目的とし、1992年にサンク村近隣の森林保護を開始した住民が、1995年以降それぞれの地区でFUGを組織し、森林の利用・管理を開始した。パニファト地区もその一つである。 当地区はFUG発足後、年2回の採草以外原則立ち入り禁止という厳重な保護を実施した結果、急速に資源が回復している事が特徴的である。2001年1月、営林局の指導によりFUG役員が全員女性となって以降、年2回の枯れ枝採取と、通年の採草が許可されるようになった。3-b 調査結果2 -住民の生活とCF利用状況- 調査した34戸のうち、専業農家が約2/3、兼業農家が約1/3であった。一世帯あたりの耕作地面積は、約0.47haであるが、地域別に見るとCFに近い地域は雨水利用の畑地面積の割合が高く、CFより遠い地域ほど灌漑水利用地が増える傾向にある。 多くの世帯は、生垣や田畑の畦に私有木を所有していたが、私有林を持つ世帯は稀であった。地域別ではCFより離れた地域ほど、私有林木を多く持つ傾向が見られた。 家畜とその飼育目的では、牛と水牛が糞の肥料化、ミルク、山羊が肥料、食肉、ミルク、鶏が卵であり、ミルクと山羊の肉を販売し、現金収入を得ている世帯が多数存在した。 CF林産物は、敷き藁で24戸、家畜飼料で8戸、薪で12戸が利用していた。 CF林産物の占める割合が、利用している資源の20%を上回る世帯では、私有木本数とCF利用割合に反比例の傾向が見られ、特にCFに近い世帯では、その傾向が顕著であった。CFより離れた2地域では、私有木本数と関係なく、CFを利用していない世帯が多かった。  各世帯の農地面積、家畜飼育頭数とCF利用割合の関係についても分析を行ったが、CF利用割合0%という世帯は、CFよりの距離によって規定される傾向が見られるのみであった。4: 考察・今後の展望 本来CFを利用するための組織であるFUGに、CFを全く利用しないメンバーが存在している事が明らかとなった。 当地区は地区内であっても「近」「中」「遠」では、それぞれ世帯ごとの所有資源量に差が生じており、そのような地域ごとの所有資源量の差が、CF利用の地域差に与える影響は否定できない。しかし、所有している資源の量が同程度であっても、CFまでの距離により、利用割合に大きな開きが見られるなど、CF資源の利用は、CFまでの距離に影響を受けていると言える。 このような現状を踏まえると、今後、当地区で予定されている果樹栽培や、桑の植林+養蚕が行われた場合、CF付近に住む一部の住民が、利益を独占してしまう可能性が考えられる。また、利益を全メンバーで平等に配分していくには、管理の平等な負担が前提となるが、そのような際、現在CFが遠いため利用していないといった住民が、どのように管理を負担していくかが問題となる。
  • Ellyn K. Damayanti, 増田 美砂, Ervizal A. Zuhud
    セッションID: C03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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  • 三柴 淳一, Vincent Pullockaran, 那須 嘉明, 増田 美砂
    セッションID: C04
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 背景および目的森林資源を有する開発途上国は現在,開発と保全の両立という問題に直面している。これまで多くの国では政府主導による管理が行われていたが,地域住民の協力が保全の鍵となることが明らかになるにつれ,森林管理における住民参加が急速に普及しつつある。こうした世界の潮流に先駆けて共同森林管理(Joint Forest Management,JFM)に着手したのがインドである。インドの人口は10億を超え,さらに拡大しているにもかかわらず,FAOによると過去10年間の森林面積は0.1%とわずかながら増加に転じている。そこで本研究では,実際にどのような人々がJFMに参加し,どのような活動を行っているのかを具体的な事例に則して明らかにし,その結果をもとに森林保全に果たす参加型森林管理の役割について考察したい。2. 研究の方法調査地としては,819人/km2(2001年)という全国平均の2倍以上の人口密度を抱えながら高い森林率(28.6%)を維持しているケララ州を選び,2002年9月__から__11月に現地調査を行った。まず森林官などキーインフォーマントへの聞き取りや二次資料による概況調査を行ったところ,ケララ州では近年になってJFMを応用した参加型森林管理が実施されるようになり,それらはParticipatory Forest Management(PFM)と総称されていることがわかった。次に比較的早くからPFMが導入されているトリシュール県ランドゥカイ村の事例を取り上げた。ランドゥカイの地理条件は,中規模都市からバスで1時間の距離,背後には保護対象の国有天然林とティーク人工造林を控える都市近郊の側面も有する農村地域である。地域住民で組織され,PFMを運営している森林保護委員会Vana Samrakshana Samithies(VSS)の構成員から無作為に抽出した40世帯を対象に,__丸1__家族構成,__丸2__土地所有,__丸3__農業活動,__丸4__農業・農外収入,__丸5__森林への依存についての聞き取り調査を行った。3. 結果および考察インドの森林をめぐる決定はトップダウン方式でなされ,中央政府の方針にしたがい州政府において具体的な行動計画が策定され実施されている。PFMにおいては画一的なモデルを避け,地域情勢を考慮した様々なヴァリエーションを設けている。ただし,モデルの設定は住民参加によるボトムアップではなく,現状では州政府レベルで開発した雛型を現地に適用する形式を取っている。ランドゥカイ村は,過去の森林解放と不法侵入によって形成されたという経緯を持ち,すべての住民が他地域からの移住者である。VSSには国有林周辺に居住する人々が概ね組織され,VSSの中心メンバーによって策定された5ヵ年計画,マイクロプランに基づき活動している。ただし2001年7月の実施以来行われた活動は,わずかな植林と現在区域の見回りが行われているのみであり,むしろ定期集会や実行委員会会議を通じた啓蒙活動が活動の中心となっている。参加住民への聞き取りによると主な参加の理由は,VSS実行委員による勧誘であり,次に職の機会を期待してであった。活動開始後の全体集会への参加状況については,参加理由に何らかの目的があった人々を除くとあまりよくない。しかし,ランドゥカイは小農村ながら人材豊富でVSS代表者は経済学修士,実行委員も短大卒以上が4割,また一般メンバーにおけるリーダー的存在には元小学校校長がいる。参加住民の生活状況は自らの農地でゴム園やココヤシを主体とするアグロフォレストリーを営んでいるが,家計は農外収入で補っており,出稼ぎや仕送りに依存する世帯も少なくない。国有林内では,管理協定で認められた薪炭材やわずかな非木材林産物の採集だけが行われ,禁止されている放牧は今も続いているが,地域内の家畜数自体が少ない。牛,ヤギとも調査対象世帯平均で0.5頭であった。またVSS活動開始後に林産物採集場所を変更したのは40世帯中1世帯のみであった。当該地域では林地の境界がすでに確定しており,その後の急激な森林減少は認められない。森林の行方を規定する要因はむしろ,森と住民という二者間の直接的関係ではなく,土地利用や就労機会など両者をとりまく地域の経済構造全体にもとめるべきである。PFMが森林保全に果たす役割としては,それまで少しずつ進行していたであろう資源の劣化を,同様に緩やかに回復に向かわせるという点,現在土地依存傾向の見られる地域情勢が今後変化した際,国有林に対するバッファーゾーンになり得る可能性および雇用創出の可能性に認められるが,それを直ちに州やインド全体に見られる森林増加という逆転現象の説明に用いるにはいささか無理がある。また森林管理のあり方を考えるに際しては,林地という限定された側面だけに注目するのではなく,地域の持つ様々な条件全体を考慮した設計を行う必要があると思われる。
  • 東カリマンタン州クラヤン郡の事例
    齋藤 達也, 加藤 亮, 御田 成顕, Indra Kumara, 増田 美砂
    セッションID: C05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的および方法 本研究では、地理的に隔離され域外への木材の輸送ができないという限定された条件を持つ地域において、人口の動態によって森林がどのような影響を受けるのかを探る。また、その影響を左右する要因について考察する。本研究では、衛星画像によって森林保全の評価を行うために、グランドツルースとして訪ねた地点の座標とその地点の概況を記録した。画像データは、Path:118、Row:57のLandsat TM(1991/6/14)、Landsat ETM+(1999/12/21、2002/5/19)を利用した。また、人口動態を知るために、クラヤン郡の人口統計資料を収集するとともに、ケラビットへ出稼ぎをしている人が多いL村において、全41世帯のうち19世帯に対し、聞き取り調査を実施した。2.調査地の概況 調査地は、東カリマンタン州の東北部のヌヌカン県クラヤン郡(以下、クラヤン)で、マレーシアのサラワク州およびサバ州に境界を接し、面積3170km2,世帯数1957世帯、人口9199人(2001年)である。周囲を山岳に囲まれているため交通のアクセスは悪く、インドネシア側からはヌヌカンとタラカンなどからの空路のみである。陸路は唯一サラワク側との間に1本あるが、国境に入国管理事務所がないため、その陸路もインドネシアの独立記念日に開かれるのみで、自動車を利用した輸送には利用できない。同じ民族が国境をを挟んで両国の山間地域に生活していて、姻戚関係を持つ世帯もあり、日常的な徒歩での行き来もある。サラワク側はケラビット・ハイランドと呼ばれ、マレーシアの経済発展により都市部への人口流出によって、人口の減少及び高齢化が進んでおり、焼き畑地が放棄され2次林が回復しているといわれる。これに対し、クラヤンでは、人口は微増しており、人工衛星の画像からは森林回復は全く否定的と判読された。1960年代の国境紛争時にインドネシア政府によって集村化が行われ、現在27の地区(Lokasi)に89の村(Desa)が集められていて、1つの集落が数村からなることもある。集村化の際には、火事による損害軽減のためにかつてのロングハウス居住形態が解体され、戸別の住居に転換された。ケラビットではロングハウスが残るのとは対照的である。クラヤンの主な産業は米作で年1作であり、生産された米はマレーシアに売りに行き、そこで生活に必要な物を購入してくるというように、クラヤンはマレーシアとの結びつきが強い。また、ケラビットの不足した労働をクラヤンからの出稼ぎが補ってもいる。3.結果 郡長や住民へのインタビューから、現在クラヤンにおいては焼き畑を行っているものはほとんどいないことがわかった。理由は、焼き畑による陸稲栽培は多大な労力の割に収量が少なく、水稲栽培を選ぶからである。しかし、クラヤンでは樹木がない山が多く見られ、その理由については野焼きの火が飛び火し、コントロールが効かなくなり山火事になったためと説明された。特に、1997年は山火事がひどかったとのことである。L村では、徒歩で8時間のケラビットのバリオに出稼ぎに行く者が多く、中にはバリオに水田を借りて水稲栽培をしている世帯もあった。つまり、自分の水田で生産した米の売却と出稼ぎによって得る収入が家計を支えている世帯が多い。森林利用については、チェーンソーを19世帯のうち12世帯が所有し、自己消費の薪炭材および建築用材を近くの山から伐採している。また、伐採した材は水牛によって搬出し、クラヤン郡内の町に売りに行くこともある。チェーンソーを持たない世帯でも、親戚から借りることによって必要な木材を調達している。4.考察 人口動態は、経済格差により生じることがあり、それによって森林の保全に差異を生じることが上記の調査によってもわかる。ケラビットでは、国内の経済格差により人口が流出し、それによって焼き畑が放棄され森林が回復している。これに対し、クラヤンでは経済危機から回復しない国内の都市部に向かうよりも、隣接するマレーシアに出稼ぎに出かけ、それによって生計が安定的に支えられ、人口を維持することができる。しかし、それにより山火事の原因となる野焼きの機会が多くなり、森林が消失していると考えられる。このように国内の経済発展により、森林のある山間部から人々が流出することによって、森林は保全されるのかもしれない。しかし、これはケラビットやクラヤンのように木材の搬出路を持たない場合である。つまり、木材資源があってもそれが経済的な価値を持たなければ、商業的な森林伐採は成立しない。現在、クラヤンと外部とを結ぶ道路が計画されている。この道路が開通したとき、この地域の森林がどのような変貌を遂げるのか、興味深い。また、クラヤン内にはカヤン・ムンタラン国立公園があり、エコツーリズムも期待される。
T5 森林系バイオエネルギーの利用
  • 西園 朋広, 家原 敏郎, 久保山 裕史, 福田 未来
    セッションID: C08
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    成長モデルを利用して,岩手県遠野地域におけるスギとカラマツの未利用バイオマス予測表を作成した。モデルの概要は以下の通りである。収穫予想表を用いて,地位別林齢別の林分幹材積,本数密度,平均樹高および平均直径を算出した。直径分布を,ワイブル分布を利用して推定した。相対樹高曲線を利用して,樹高曲線を推定した。相対幹曲線式を用いて幹の細りを推定した。皮なし直径の皮付き直径に対する比と相対高との回帰式から樹皮厚を推定した。幹材積に容積密度数を乗じることによって,幹乾重を推定した。以上までのモデルによって,任意の林齢・地位における直径階ごとの本数と幹の細りが推定できる。この樹幹に対して採材を行うことによって,樹幹部の未利用バイオマスを推定した。さらに,枝葉乾重の樹幹乾重に対する割合によって,任意の林齢・地位における枝葉乾重を推定した。作成した予測表と齢級別面積もしくは素材生産に関する統計資料などを併用することにより,未利用バイオマス資源量の把握が可能となった。
  • 吉田 茂二郎, 加賀 英昭, 寺岡 行雄, 村上 拓彦
    セッションID: C09
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    著者らは、1999年から2001年度に科学研究として、木質バイオマスのエネルギー利用について研究を行ってきた。その研究の中で、九州のように人工林資源が豊富でかつ温暖な地方での木質バイオマスの利用方法を考えてきた。その結果、大型発電施設での利用が有効ではないかとの結論に達した。よって、現在、RPS法で新エネルギーによる発電が義務付けられようとしている電力会社をターゲットに県とともに、木質バイオマスを電力事業の中で利用できるように検討・協議を行っている。その経過を今回は発表する。
  • 八巻 一成, 神沼 公三郎, 香坂 玲
    セッションID: C11
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    地球温暖化をめぐる最近の情勢の中で、二酸化炭素排出量の実質的な削減に貢献できるものとして、木質バイオエネルギーの利用が注目されている。わが国で木質バイオエネルギーの普及を図ろうとするとき、検討しなければならない諸点の一つとして原料供給の問題がある。本研究では、木質バイオエネルギーの導入が推進されているドイツ、バーデン・ビュルテンベルク州を事例に、木質バイオエネルギー原料供給の実態を明らかにするとともに、今後の展望について考察した。林地材は現在使用量のトップを占め、賦損量の点からも重要な原料であると位置付けられている。しかし、価格面で不利な状況にある。一方、景観施業木は価格的に安価であることに加えて、賦損量も期待できることから、今後の利用が見込まれる原料である。また、古材加工品も賦損量が多く、価格面での条件が揃えば原料として期待できると推察された。
  • 人工シュラを用いたボランティアによる集材
    楢崎  達也, 牧 大介, 小里 慎太郎, 笹谷 康之, 出羽 浩明, 野間 直彦, 桜井 俊彦, 大亦 義朗
    セッションID: C12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    市民参加による集材作業を行うために安全性が高いと考えられる人工シュラを用いた集材を行い、その安全性と効率性、レクリエーション性を検討した。
林政 II
  • 佐藤 宣子
    セッションID: C15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     本報告の目的は、2002年度に導入された直接支払い制度である森林整備地域活動支援交付金制度(以下、「森林交付金制度」と略)の枠組みと展開形態に関して考察することである。同制度導入は、いうまでもなく森林の多面的機能の持続的な発揮を掲げた新森林・林業基本法の制定後、それを具現化するための初めての制度として位置づけられる。特に、森林施業計画を実質化することが強く意識された制度設計となっており、市町村長との協定締結が条件とされている。基本法改正後のゾーニング作業期間の短さに加えて、本交付金制度も十分な説明や議論の期間が十分に保障されないままの導入であり、県段階や市町村段階でも多くの不満が聞かれる。制度導入の第1の問題点はその拙速さにあるが、同時に、枠組みや展開形態について検討し、予想される問題点を整理しておくことが現段階で求められる。 2000年に導入された農業における「中山間直接支払い」との違いを見ることによって、「森林交付金制度」の特徴点をみると、次の3点が指摘できる。 第1は、「中山間直接支払い」では傾斜などの条件不利性が基準とされるが、「森林交付金制度」では森林の齢級構成や機能別ゾーニングによって交付金額が決定されることである。第2は、団地(30ha以上)や地域の捉え方、交付対象者が「中山間直接支払い」に比べて多様であることである。農業ではほとんどが集落協定であり、農業集落を中心とした団地となっている。団地設定は大きくても旧村単位である。一方、「森林交付金制度」では、先の森林法改正によって森林所有者以外でも施業計画を作成することができるようになったのを受け、更にその代表者が協定を結ぶことも可能である。森林組合や個別林家、林家集団、民間業者等が施業計画策定者になれる。更に、団地設定は30ha以上という下限が決められているだけであり、集落レベルや個別林家保有レベルから1市町村に1団地を設定することも可能である。第3は、交付金額は積算基礎森林面積に応じて決定されるため(積算面積当たり1万円)、同じ協定面積であっても交付金額が異なることである。このことは、実施すべき作業費用の過不足を発生すると同時に、集団的な取組の困難さをもたらしている。 福岡、大分、宮崎の3県において交付金制度の実施状況の調査を実施した。団地設定の方法及び交付対象者(協定者となる施業計画作成者又はその代理)に関して市町村に対する指導方針が異なることが明らかとなった。 2002年度の交付金予算額は約200億円(半分が国、あとを都道府県と市町村で折半)であり、積算基礎森林面積では約200万ha分が予算化されている。これは35年生以下の民有人工林面積433万haの46__%__にあたる。しかし、全国一様に基礎面積に応じてとりくまれているわけではなく、都道府県によって取組方に大きな温度差があると言われている。 同制度の初年度が終了した段階で、県別の協定面積率やその協定方法を比較分析し、各県あるいは各町村の実態分析を積み上げることが、制度をより実行あるものにするために、また制度自身の見直しのために不可欠である。しかし、基礎となるデータが未公表のままである。今後、そうしたデータの開示を求め、県別あるいは市町村別の比較研究や実態研究を行うことが必要である。
  • 福岡県を事例に
    長谷川 寛, 佐藤 宣子
    セッションID: C16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに 適切な森林の整備の推進を通じた森林の有する多面的機能の発揮を図る観点から、森林所有者等による計画的かつ一体的な森林施業の実施に不可欠な地域活動を確保するための支援措置として、森林整備地域活動支援交付金制度が2002年度に導入された。 本報告では、この交付金について、福岡県の甘木市、黒木町、矢部村、星野村を比較検討することで、その効果と問題点を報告する。2.福岡県における交付金の事例 福岡県において全就業者のうち、0.04%に過ぎない。また、林業における生産も低い。民有林は事業体別には林家が83%を占め、うち零細林家が多い。このため、福岡県では、森林組合が組合員の森林の計画作成、施業を受託し、交付金を森林組合に交付することで森林整備を推進していこうとしている。また、交付金を効率よく使うという視点から、ほとんどの市町村がその市町村の全森林で、一つの団地を形成している。しかし、市町村によって交付金の流れが異なる。__丸1__甘木市 甘木市は、筑後川流域に位置する中都市で、就業人口のうち、林業従事者の人口は、わずか0.2%で、自ら施業する所有者が少ない。しかし、福岡県の水瓶である大型ダム2基があることも影響して、市では水源地を活かしたイベントを開催する等、森林に関した積極的な活動を行っている。本市では、主に森林組合が交付金を運営し、道の整備などに用いる。参加している所有者は小規模所有者が多い。今年度は、全所有者面積の73.1%、全所有者数の、43.6%をカバーしている。交付金額は1300万円。__丸2__黒木町 黒木町は、矢部川上流域の農山村で、1次産業が盛んである。森林所有者の所有規模としては、中小規模林家の比率が高い。更に、この中で農業主業林家が多く、自ら施業する所有者も多い。そのため、交付金をいったん組合に交付した後、組合が所有者にその日の労働に対して日給として林家に支払う形を取っている。本町も道の整備に重点を置いている。しかし、所有者の世代交代が起きる中で、組合委託が増加した場合、組合の労働力が対応しないといった問題もある。今年度は、全所有者面積の58.2%、全所有者数の31.9%をカバーしている。交付金額は1400万円。__丸3__矢部村 矢部村は八女地域の最奥地の山村であり、全就業者数における林業従事者の割合が7.8%と比較的高い。しかし、所有者のうち、約7割が不在村所有者であるため、主に施業を担う森林組合に交付している。また、不在村所有者が多いことから、矢部村では主に施業区域の明確化に重点を置いている。ただ、不在村所有者への連絡等といった役場への負担が大きく、役場の対応が間に合わないといった問題がある。今年度は、全所有者面積の86.7%、全所有者数の50%をカバーしている。交付金額は現時点では不明。__丸4__星野村 星野村では産業別生産額における1次産業の割合が16.6%、1次産業が盛んである。また、在村の大規模林家が比較的多い。そのため、福岡県内で唯一複数の団地を形成している。その内容は、所有森林面積が30ha以上であり、かつ自分で施業する所有者が個々に14団地を形成し、個別協定を結んでいる。それ以外は、森林組合が交付対象者(=施業計画者)であるが、1団地にまとめず、団地共同施業計画の引継ぎで20団地を形成している。これは、他の市町村に比べて星野村に若い大規模所有者が多く、林業に対して積極的な所有者が多いためでもある。また、個別協定を結んでいる所有者は道の整備に、森林組合は主に施業区域の明確化に重点をおいている。今回の計画で、全所有者面積の70.6%、全所有者数の43.2%をカバーしている。交付金額は1082万円。3.考察 このように森林整備地域活動支援交付金制度は、自治体によっては地域に適した形で運用され、協定締結率からもある程度の所有者及び面積をカバーしている。また、不在村所有者への施業計画参加も推進している。しかし、問題点として、__丸1__ 対象行為に関する規定が各自治体によって異なり、混乱をまねいている。__丸2__道に関する対象行為が作業道のみで、林道の整備はできないため、対象行為の範囲の拡大が必要。__丸3__ 交付金が施業計画内の森林にしか使えないため、特に施業実施区域の明確化などでは使いづらい。__丸4__ 所有者が理解しないまま協定を結んでいる場合があるため、協定内容に違反する場合が懸念される。等が挙げられる。特に__丸4__については、一つの市町村で1団地を形成している市町村が直面する重大な問題である。こういったことから、森林整備地域活動支援交付金制度は、森林整備に対してある程度の効果を期待はできるが、今後さらに整備範囲を広げていくには制度自体の問題のほかに、特に小さな自治体が組合職員や役場職員が少人数であるため負担が大きくなるといった問題の解決も望まれる。
  • 持立 真奈美
    セッションID: C17
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに地球的規模で破壊されつつある環境のなかでも、森林の減少は著しく、環境保全と持続可能な森林経営の確立を目指して、広範な取組みが世界各国でなされてきた。しかし、まだ依然として適正な管理はなされておらず、世界の森林面積は減少し、森林の蓄積も減少、劣化しつつあり、地球全体の生態系は崩壊しつつある。1992年以降、様々な論議が繰り広げられてきたが、その中心は森林の持続可能性を維持し、適切な森林管理を行い、また、その管理体制を維持・監視するための基準をいかに設定するか、そのための新たな制度をいかに創造するかであった。また、産業界においては国際標準化機構(ISO)等による環境監査規格規制が起こり、先進国を中心として企業の環境管理の妥当性が問われるようになった。このような流れの中で、持続的森林経営の理念、基準を推進するために、森林認証制度(ForesCertification)が各国及び各地域で構築されることになった。森林認証の制度の形成過程およびその実態を解明し、認証制度の導入による影響について分析し、森林認証制度導による森林経営の変化と政策的措置について検討することを目的として行った。2.森林認証導入による変化森林認証は、経済林に対しては木材生産の最大化、非経済林に対しては節度ある経済的な収益と自然保護の双方の最適化を図り、それらを統合して自然条件を前提とした環境便益の最大化を目的としている。森林計画が環境持続型の森林管理を目指す状況のもとでは、この計画の目指す効率性は社会的純便益の最大化ということになる。世界的な認証システムの森林管理協議会、国際熱帯木材機関(ITTO)などを中心に、国際的に重要な意義を持つ持続可能な森林経営に向けた展開がの中、そこで求められている基準・指標の構築がなされている。生態系管理の国際的原則が多数あるうち、このような原則と基準・指標は、先進国の従来の「資源持続型経営」での環境適合性だけではなく、自然保護を含む「環境持続型経営」でなくてはならないだろう。また、わが国における森林認証の適用について、国内ではFSC取得第1号である速水林業を中心に、その実態と問題点を現地調査の結果を踏まえて考察した。認証を行うことにより、適正に管理された森林から生産・搬出された木材であるということの保証が可能となり、森林経営としても経済的効率化の実現へと近づけることが明らかになった。そして、森林認証の環境管理と貿易市場取引への影響と問題について考察し、森林認証導入の当面のメリット・デメリットが浮き彫りになった。とくに、認証のために必要な費用負担の問題、認証製品の市場での差別化の流れを捉え、木材市場に与える影響と、環境保全に与える影響とが極めて大きいことかが判った。とくに認証材が外国から輸入された場合、国産材は著しく不利な立場に立たされるであろう。さらに、森林認証と森林計画制度のあり方を考察した。森林計画制度は、林産物の需要と供給に関する長期見通しを国が作成するため、どのような林産物を何年後にどのくらい生産・供給するかという資源確保のための政策手段として、森林管理を考える上で重要な位置を占めていた。これに対して森林認証は森林計画制度の評価・チェックの役割をなし、森林計画制度を環境保全を主とする計画への転換を図るためにも重要な機能をもつものとなった。3.今後の課題今後持続的森林管理がどうなされていくべきなのかを、国内の森林管理の実態を、国際的市場の視点から見た日本の対応を検討し、地球全体の森林を持続可能なものとし、生態系を保全していくために、森林認証のさらにすべきあり方を考察した。我が国においては、従来からの森林政策と森林への公共政策の抜本的見直しが必要であろう。また、森林に対する財政措置、とくに補助金の無原則な配分を改め、森林認証による計画的原則的な適合性を前提条件とした効率化を図ること、森林認証による適正な経営に対する補助金交付、相続税などの免除、山林所得税の軽減など、可能な限りの経済的支援を行うことが重要であろう。木材市場取引においては、森林認証材を原則とすることなどの政策的措置が必要であろう。そしてとくに求められるのは、森林認証を受ける森林経営の経営に対する明確な責任意識、費用の自己負担への主体的取組み、持続的森林経営を支える技術の積極的開発、適正な技術(環境を損なわない技術)とそれを用いる森林経営の計画的取組み、森林の持続的管理の計画的実践、実践結果の評価と監査、それにもとづく森林経営方針の是正などに果す機能と、それに対する認証・監査の内容等、国および各地方自治体の各地域ごとでの森林認証システムの具体的構築の必要性、あるべき認証のあり方が今後の課題と考えられる。
T3 林政分野研究の課題と展望
  • 戦後林業地代論研究の論点及び到達点から
    小山 淳哉
    セッションID: C21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     石渡貞雄「林業地代論」(1952)以後、林業経済分野における理論研究の多くは地代論の枠組みの中で進められてきた。その中で大きな課題は、採取と育成という2つの異質の生産方法を持つ林業の産業的特殊性が、地代の、そして、木材価格の形成にどのように影響するのかを明らかにすることであったと言えよう。石渡地代論に続いて、この分野には多くの研究蓄積があり、論争の前後で論点も変化している。 今回、この研究分野とみなしたものは、林業における地代形成を扱った、またはそれを基礎とした論文ないし文献である。議論の中のに問題を整理し到達点を明らかににした上で、今日解決すべき課題は何かを考えたい。したがって、方法としては、これまでの議論の中にある問題、論点について整理していくが、多くの問題を以下のように2分する。1つは、林業において生じる地代論を考察するために必要な、地代形成に直接関わる諸問題、これには、林業における豊度の概念、採取林業における差額地代第二形態、地代論の前提条件としての、資本・技術・面積一定条件、そして、林道投資、他をめぐる議論がある。もう1つは、地代の考察にとどまらず、林業論に発展すべき、より広範な、すなわち、二範疇林業論、育成林業資本の成立条件、木材市場価格決定他の問題である。このように問題群を2分した後、一連の論争を経て提起されているとみなされる、重要なものを総括的課題としてとりあげる。 今回の報告で検討対象となる主要な論者は、石渡貞雄、鈴木尚夫、高橋七五三、岡村明達、半田良一、村尾行一、奥地正、北尾邦伸、柳幸広人、泉英二、他である。 
  • 日独のNGOがキャンペーンで使用した写真、図に関する考察
    香坂 玲
    セッションID: C25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的:効果的なコミュニケーションの解明 本研究は、アカデミズムの中での熱帯林を巡る研究者の発言を読み込み、焼畑、木材輸入の是非など、1980年代のアグロフォレストリー(以下AF)に関する議論の展開過程を明らかにする。更に、同議論からの新課題を受け、非政府組織(NGO)によるマスメディアなどを対象としたキャンペーン(以下CP)に使用された図像を分析する。テキストのみならず、写真や絵を含め、「シンボルの魔術師」という異名を持つNGOの表現力の源泉を捉える。2.1980年代前半の議論1988年以前の議論の特徴は、研究に基づいていない論拠から発せられた発言が多数を占めていたこと、また、研究の根本であるデータの用法に混乱、つまり定義からの乖離や新旧のデータの混在があったことである。例えば、その議論の多くは、将来的に日本の木材輸入量が確保できなくなる、という危機発言に端を発していた。また、「西暦2000年の地球」とFAOの統計がデータとして使用されていたが、FAO統計の用いられ方に混乱が見られた。その論理展開においては、熱帯林の消失原因を探る過程で商業伐採と焼畑の対立構造が作られ、商業伐採と日本の木材輸入の関連、その是非が争われた。貧困、人口増加を背景として、熱帯林減少の原因を焼畑と位置づけた、木材輸入不足に対する危機感から発せられた発言が目立った。更なる論理展開として、焼畑移動耕作民の定住化を促すAFが解決策である、とする発言が導かれがちであった。3.論調を変化させた研究 上述した多数派の意見に対して批判的な分析を行ったのが、井上(1988)、熊崎(1988)の研究だった。前者は、熱帯林消失の全体的構図、商業的木材伐採で始まり非伝統的焼畑農業で終わる一連のプロセスそのものを生み出している国内経済社会的背景、人口増加に関する誤謬の解明を行った。一方、後者はAFの意義を問うことを通じて、これまでの発言での論理の飛躍を指摘し、そこから生態的バランスを考慮したAFだけでは解決足りえない、という主張を導いた。当時、両者から提起された新課題として、「国際市場の動きの中で熱帯林諸国がどういう立場にあり、それが森林減少にどうかかわってくるのかも解明する必要性」(井上)と「現代の国際的な社会経済秩序の枠組み」での「市場の要求」を考慮する必要性(熊崎)が挙げられる。この新課題への糸口として、日独NGOによるCPを本研究では取り上げる。4.NGOによるコミュニケーション反新世界秩序運動など、NGOのCPは広がりを見せつつある。そもそもNGOがどのようにその影響力を増大させたのか、またそのコミュニケーションの特異性に対しては、多くの学問領域で看過されてきた。環境問題は今日では、旧来の科学的事象に留まらず、認識やフレーミングの問題として注目されるに至っている。熱帯林破壊の議論は、焼畑や貿易等を争点とし、NGO、先住民族、学者、企業などが問題認識をめぐって争った問題といえる。テキスト分析が中心であった社会科学で、認識に大きな影響を与える図像の分析を内包する試みが近年、発展している*15.理論的な背景 NGOや市民運動による圧力は、1980年代以降、熱帯林の保護など地球規模の環境問題に対し、それらの政治的交渉を促進する原動力となった。このマクロな変化に対し、国家を基本単位としてきた国際関係学や政治学の分野では、レジーム理論、ゲーム理論、言説分析など既存の理論が発展し、NGOをアクターとして取り込む試みが進行中である。一方、記号論、広告論を使った個々のNGOによるCPの事例分析は、(社会学の分野で)多くは存在しない。6.結論         社会科学での焦点がテキストから図や絵の分析にも広がっていくなかで、記号論、図像学、広告論という枠を超え、解釈学という複合領域での議論が期待される。個々のシンボルを社会的な文脈ごとに丁寧に解きほぐしていく作業が続けられていくことで、図や絵の解釈を自覚的に振返ることが可能となる。CPの図像の分析は、下地となる「社会に共有された記憶」の解読作業であり、複合領域的議論と、文化相対主義に陥らない比較によって初めて可能となる。*1 社会との効果的コミュニケーションを実践へ移すことは森林科学にとって急務である。その流れを反映してFAOとUNECEは2000年、「森林コミュニケーター・ネットワーク」を立上げ、IUFROも「森林科学と広報」という新タスク・フォースを設立した。
育種
  • 単木混交試験地における植栽後7年目までの樹高データの解析結果
    河崎 久男, 高橋 誠, 向田 稔, 川村 忠士
    セッションID: D02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     苗畑で選抜および非選抜のヒバの実生個体をさし木によってクローン化し、それらの苗木によって試験地を造成した。試験地の大きさは30行×17列で、植栽苗木は14家系、60クローン、509本である。単木混交で植栽し、植栽後7年目までの樹高について解析した。
     7年目を経過した時点で選抜クローンと非選抜クローンとの樹高に差は認められなかった。しかし、家系間と家系内クローン間には、それぞれ5%、1%水準で有意な差を認めた。分散分析を行い、分散成分の推定値から樹高における狭義の遺伝率を推定した。植栽後7年目まで、概ね0.5前後で推移した。
  • 門松 昌彦, 斎藤 秀之, 船越 三朗
    セッションID: D03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的量的形質は環境の影響を受けやすいことが知られている。母樹と次代との似通い度から,量的形質に対する遺伝と環境の影響を明らかにすることができる。本研究で,既設のナラ類産地試験地を利用して,葉形質における遺伝性を明らかにする。さらに,母樹とは異なる環境下で育成された次代の葉に環境がどのように影響を与えているかを検討する。2.方法 1981年から1982年にかけて,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター雨龍研究林(以下,雨龍。44゜N, 142゜E)に自生するミズナラから採取した堅果を母樹別に直播し,雨龍に試験地を設定した。一方,中国黒龍江省帯令・東京城・帽儿山(44__から__47゜N, 127__から__129゜E)から1988年__から__1991年にモンゴリナラの堅果を収集,雨龍近郊の名寄林木育種試験地で育苗した。その後,1991年に帯令・東京城産苗を,1994年に帽儿山産苗を雨龍産の試験地の隣に移植した。母樹の葉の測定は雨龍が1983年秋の試料について,中国各産地は1988年秋の試料について行った。それらの次代の葉は2002年秋に採取し,直ちに測定した。1産地あたりの母樹数は20母樹で,次代は各母樹1個体とした。次代-母樹の組数は計80組であった。測定形質は葉身長(L),葉幅(W),形状比(L/W),葉柄長(L’),相対葉柄長(L’/L),鋸歯数(SN),鋸歯密度(SN/L),鋸歯タイプ(ST;宮崎ら,1984)で,測定枚数は1個体あたり10枚である。各形質の母樹に対する次代の回帰と相関を求めるとともに,平均値における母樹と次代間の相違度(次代__-__母樹)と産地の緯度・経度との関係を調べた。3.結果 各形質の母樹-次代間の回帰と相関を求めた結果,有意で正の回帰係数と相関係数は,形状比,葉柄長,相対葉柄長,鋸歯数,鋸歯密度,鋸歯タイプに認められた。これらのうち,葉柄長を除く形質は有意水準0.001以下であった。母樹と次代間の相違度(次代__-__母樹)と産地の緯度には,葉柄長と相対葉柄長で有意な負の相関が認められた(表-2)。母樹よりも次代の葉柄長は短くなり,高緯度産の次代ほどその差が大きい傾向にあった。母樹と次代間の相違度と産地の経度には,葉身長・葉幅・葉柄長・鋸歯数で正の有意な相関が認められ,形状比では有意な負の相関があった。前者では,より西の産地の次代ほど母樹より値が小さくなる傾向にあった。 逆に形状比は,より西の産地の次代ほど母樹より大きくなる傾向にあった。4.考察 回帰係数と相関係数から遺伝率を推定する方法があるが(Steinhoff & Hoff, 1971),本研究では過大に推定されたため,各係数そのもので検討する。回帰と相関の結果から,本研究で調べた葉形質のなかで,葉身長と葉幅以外は母樹と次代との似通い度が極めて高かった。回帰の残差には,父方の遺伝と,母樹の生育環境の違いが含まれる。したがって,葉の形状比,葉柄長,鋸歯に関する形質は少なくとも母方の遺伝の影響をかなり受けていると推察できる。生方ら(1999)はミズナラにおける葉形質の反復率を求めているが,形状比>葉柄長>葉柄比(L’/(L’+L))>側脈数>側脈密度>葉身長>葉幅の順に反復率が高いと報告している。本研究では鋸歯数>鋸歯密度>形状比>鋸歯タイプ>相対葉柄長>葉柄長の順に母樹・次代間の相関が高く,生方らの報告を概ね支持している。 植物にとって,表現型可変性は重要な適応機構であるといわれ(Bradshaw,1965),生方ら(1999)も葉形質の可変性を指摘している。本研究では,生育地の緯度が変化することによって葉柄長に関する形質のみが変化し,一定の方向性が認められた。緯度と対応するものに日長や気温があり,それらの変化が要因のひとつとして考えうる。一方,生育地の経度の変化につれて変化した形質は多かった。しかし,中国の産地間の経度は比較的近いが,中国と雨龍の経度はかなり離れている。相関の解釈にあたっては,この点を考慮しなければならない。いずれにしても,変化の要因は,制御実験などにより明らかにする必要がある。
  • 茂木 靖和, 坂井 至通
    セッションID: D04
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     ハナノキ(Acer pycnanthum)は、岐阜県東部とその周囲の愛知県、長野県を中心としたごく限られた地域に自生するカエデ科の雌雄異株の落葉高木である。本種は主に湿地に生息し、湿地開発により個体数が減少し、現在絶滅危惧__II__類に指定されている。 ハナノキは、春の開葉に先立って開く真紅色の花と秋の紅葉が美しいことから、鑑賞目的で植栽されている。その際に、アメリカハナノキも、無意識のうちに植栽されていると思われる。このようなことが自生地の周囲の地域において行われた場合、植栽木からの花粉の飛散による自生地の遺伝的多様性への影響が危惧される。 現在、遺伝的影響を軽減する方法として、不稔性の三倍体個体を苗木に用いる方法を検討している。三倍体個体作出にあたって、クローン個体を用いれば、遺伝的影響を排除でき、条件を統一した試験が行える。 そこで、本研究では、三倍体個体作出のため、組織培養によるクローン増殖を試みた。 その結果、培養期間が24日程度の場合、ホルモン条件はBAP2.0mg/lとGA35.0mg/lの併用、糖はサッカロースを施用するのがシュート伸長にもシュート数の増加にも効果的と考えられた。
  • 細井 佳久, 丸山 エミリオ, 石井 克明
    セッションID: D05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    国産針葉樹の組織培養では、近年様々な樹種について種子胚から不定胚形成能を有する細胞塊を誘導し、その培養細胞(不定胚形成細胞)から植物体を再生させる試みがいくつかなされてきている。しかし、プロトプラストからの植物体再生については報告がない。今回筆者らは国産針葉樹のヒノキ属に属するサワラの種子胚由来の不定胚形成細胞からプロトプラストを単離・培養し、植物体を再生させることができたので報告する。まず、6月下旬に採取した種子の未熟種子胚から不定胚形成細胞を誘導した。培養は24℃暗黒下、12ウエルプレートを使い、1μMの2,4-Dと0.3μMのBAPを添加したMS液体培地で行った。顕微鏡観察の結果、不定胚形成細胞は、胚の根端部から誘導されることがわかった。得られた不定胚形成細胞は、90mmシャーレで誘導時と同一の培地・培養条件で2週間毎に継代培養し、プロトプラスト単離の材料とした。プロトプラストは、不定胚形成細胞を1%セルラーゼオノズカRS、1%ドリセラーゼ、0.6Mマンニトールから成る酵素液で約5時間処理し、単離した。得られたプロトプラストはFDAによる蛍光観察の結果、ほぼ100%の生存率であった。単離したプロトプラストは2,4-DとBAPを様々な濃度で組み合わせ、0.6Mマンニトールを含むMS液体培地で培養した。培養には96ウエルプレートを使い、24℃暗黒下で行った。その結果、10μMの2,4-Dと0.3μMのBAPを組み合わせた培地で約60%の高い培養効率でコロニーが得られた。コロニーはその後、同一培地中で不定胚形成細胞へと再分化した。プロトプラストから再分化した不定胚形成細胞は、90mmシャーレを用い、マンニトールを除いたプロトプラスト培養時と同一組成の培地・培養条件で培養し、増殖させた。増殖させた不定胚形成細胞を成熟化用の固形培地に移植すると2-4枚の子葉を持つ成熟不定胚へと分化した。培養は暗黒下24℃で90mmシャーレを用いて行い、シャーレあたり1000-2000個の不定胚が得られた。得られた不定胚を発芽・伸長させるため、無機塩・糖濃度を下げたMS寒天培地で24℃、16時間照明培養した。その結果、不定胚は緑色を呈し、針葉・幼根を伸長させ幼植物体へと分化した。
  • 後藤 陽子, 近藤 禎二, 安枝 浩, 齋藤 明美
    セッションID: D06
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    スギ花粉症は主に花粉中に含まれるCry j 1およびCry j 2の2種類のタンパク質により引き起こされる。Cry j 1、Cry j 2ともに花粉中の含量がスギの個体間で異なることが報告されていることから、花粉症対策としてアレルゲンの少ないスギ品種を利用することが期待されている。しかし、Cry j 2については抽出方法の検討が不十分であると考えられることから、本研究においてはまずCry j 2の抽出方法を検討した。その結果、50倍量の0.125Mの炭酸水素ナトリウムに0.5Mの塩化ナトリウムを加えたバッファーにより、24時間花粉を抽出方法が最も効率がよいと考えられた。この方法によりスギ精英樹80個体からCry j 2を抽出し、個体間変異を調べた。その結果、花粉1gあたりのCry j 2含量は97-1146μgであった。一方、Cry j 1含量は191-1259μgであり、Cry j 2含量のCry j 1含量に対する比は約64%であった。また、Cry j 1含量とCry j 2含量の間には、1%水準で有意な相関が認められた。
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