1.はじめに
本研究では森林内での摂食試験を行い,エゾシカの樹皮剥ぎに対するグイマツ(G)や交雑種(G×L)の抵抗性ついてニホンカラマツ(L)と比較しながら評価を行った。
2.材料
摂食試験ではL,G及びG×L各1家系の樹幹を用いた。樹幹は東京大学北海道演習林内で2001年11月下旬に伐採した。試験には直径13cm未満(Lは17cm未満)の樹幹部位(各家系4-7本分)を用い,試験が始まるまでは屋外(降雪後は雪の下)で保管した。
3.方法
1)シカの樹皮剥ぎに対する抵抗性(試験1,2)
摂食試験は,Orihashi
et al.(2002)の方法に準じて,2002年3,4月に東京大学北海道演習林内で実施した。
試験1:シカの樹皮剥ぎに対するL,G及びG×Lの抵抗性について試験を行った。各家系の樹幹から長さ100cm,元口径3-13cmの丸太15本を調製した。ほぼ同径の丸太3本(各家系1本)を1セットとして15セットを作成し,それらを試験サイトの雪上に設置した。試験は,シカの樹皮剥ぎが起こらなくなるまで続けた(7-24日)。試験後,丸太樹皮の剥皮面積を測定した。あるセットにおいて丸太3本の合計剥皮面積が50cm
2未満の場合,そのセットは不成立とみなした。丸太樹皮の剥皮面積は,フリードマン検定を用いながらL,G及びG×Lの間で比較し,続いてボンフェローニの修正を伴うウィルコクソンの符号付順位和検定を用いて二者間比較を行った(両側5%検定)。
試験2:どのサイズの丸太がシカの樹皮剥ぎを受けやすいのかを知るために補足的な試験を行った。丸太の元口径に関して4つのサイズクラス(D<8cm,8≦D<11,11≦D<14,14≦D<17)を設け,各クラスに対して長さ100cmの丸太6本をLの樹幹より調製した。丸太4本(各サイズクラス1本)を1セットとして6セットを作成し,試験1と同じ要領で約20日間の試験を行った。
2)ネズミの樹皮剥ぎに対する抵抗性(試験3)
試験1,2で使用した家系について,ネズミの樹皮剥ぎに対する抵抗性を合せて調べた。試験はOrihashi
et al.(2001)の方法に準じて,2002年の2月中旬に石狩管内当別町の防風林内で行った。各家系の樹幹より厚さ5cm,直径6-8cmの円盤13個を調製し,各家系1個からなる円盤のセットを13セット作成した。各セットは,約20m間隔で雪中に埋設された13の試験装置のいずれか1つに入れ,48時間の摂食試験を行った。試験後,円盤樹皮の剥皮面積を測定し,試験1と同じ要領によりL,G及びG×Lの間で比較した。
4.結果
試験1:丸太15セット中10セットで試験は成立した。丸太の元口径(平均値±SD,cm)は,成立セット(6.0±2.1,n=30)と不成立セット(9.5±2.3,n=15)の間で有意に異なっていた(マン・ホイットニー検定,
p <0.001)。丸太樹皮の剥皮面積(平均値±SD,×10cm
2)は,L(34±37)とG(1±2)あるいはLとG×L(5±6)の間で有意に異なっていた。Lに比べてG及びG×Lは,シカの樹皮剥ぎに対して強い抵抗性を示した。
試験2:シカの樹皮剥ぎは,最小のサイズクラス(D<8cm)の丸太6本全てで,また2番目に小さいクラス(8≦D<11)の丸太6本中1本で観察された。残りのサイズクラス(11≦D<14,14≦D<17)では,剥皮された丸太は全く観察されなかった。丸太の剥皮面積(cm
2)は,最小のサイズクラスについて合計600(最小,最大:6,324),2番目に小さいクラスについて248であった。最小のクラスの丸太は,シカの樹皮剥ぎを受けやすいと示唆された。
試験3:円盤樹皮の剥皮面積(平均値±SD,cm
2)は,L(64±41)とG(0±1)あるいはLとG×L(6±17)の間で有意な違いが認められた。試験1のシカの場合と同様に,G及びG×LはLに比べてネズミの樹皮剥ぎに対して強い抵抗性を示した。
5.考察
今回の研究においてGやG×Lは,Lに比べてシカの樹皮剥ぎに対して有意に強い抵抗性を示し,その結果はネズミに対する場合と非常に類似していた。G×Lは幾つかの観点(例えば,ネズミに対する抵抗性,成長速度,材質)から造林用途に大変有望であるとこれまでに評価されているが,今回の結果は,シカの樹皮剥ぎに対する抵抗性の観点からもG×Lが有望であることを示唆していると言える。
引用文献
Orihashi
et al. (2001) J. For. Res. 6: 191-196.Orihashi
et al. (2002) J. For. Res. 7: 35-40.
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