日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
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育種I
  • 森 康浩, 宮原 文彦, 後藤 晋
    セッションID: P1144
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    現在、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ種苗の生産は、抵抗性クロマツ採種園産の実生苗にマツノザイセンチュウを人工接種して抵抗性を検定した上で、合格した苗を出荷するシステムになっている。しかし、線虫の培養や接種作業に相当のコスト・時間・労力がかかる上に、接種前後の気象条件により接種検定の合格率が変動するなど、苗木の品質面・供給面での問題点も指摘されている。近年、接種作業の省力化と苗木品質の安定化を目的として、接種検定に合格した苗からの遺伝的に同一な挿し木クローン苗生産が注目されている。しかし、これら検定合格木から作出した挿し木クローン苗の抵抗性に関する情報は少なく、品質について詳しいことはわかっていない。
    本研究では、抵抗性が異なる採穂母樹から作出した挿し木クローン苗にマツノザイセンチュウを接種し、その後の反応を調べた。
    採穂母樹は、福岡県小郡市のマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ採種園を構成する川内ク__-__290号の自然交雑実生苗45本である。まず、1999年2月中旬に、各母樹から5本程度挿し穂を採取し、福岡県森林林業技術センターのミスト室内に挿し木した。次に、1999年7月中旬に、採穂母樹に対して1本当たり6000頭/50ulのマツノザイセンチュウ島原個体群を改良剥皮法で接種し、11月中旬の生存調査で、母樹の抵抗性を健全・部分枯れ・枯死の3段階に評価した。その結果、健全17本、部分枯れ24本、枯死4本であった。
     翌春の2000年4月中旬に、生存した41本の採穂母樹のうち38本から採穂し、同じくミスト室に挿し木してクローン苗を作出した。これらは、2001年4月上旬に同センター苗畑に移植した後、2002年3月下旬に床替えした。そして、2002年7月下旬に前述した方法で接種検定し、11月中旬の生存調査で母樹と同様に各クローン苗の抵抗性を健全・部分枯れ・枯死の3段階に評価した。
     2000年の挿し木における発根率は平均53.6%であり、各母樹につき1__から__10本、合計187本のクローン苗を作出できた。このように高い発根率が得られた要因としては、発根促進処理に通常のIBA粉末の塗布とIBA液剤への浸漬処理を組み合わせて行ったためと考えられる。
     本研究では、得られた挿し木クローン苗が3本未満の母樹は解析から除外し、26母樹から作出した合計156本のクローン苗の抵抗性について解析した。これらを母樹の抵抗性で分類すると、健全グループのクローン苗が9母樹・合計51本、部分枯れグループが17母樹・合計105本となった。
     グループ別にみた母樹ごとのクローン苗の接種生存率を逆正弦変換した値を用いてt検定を行った結果、健全グループの方が5%水準で有意に高い生存率を示した。
     次に、母樹を込みにして両グループのクローン苗の接種結果を健全・部分枯れ・枯死の本数割合としてみてみると、健全グループのクローン苗は、健全65%、部分枯れ20%、枯死16%であった。一方、部分枯れグループは、健全37%、部分枯れ33%、枯死30%であり、健全グループよりも健全率、生存率ともに低かった。
     今回の結果から、部分枯れグループのクローン苗は、健全グループに比べて、明らかに抵抗性が低いことが示された。このことから、もしも仮に部分枯れ個体を検定合格木として造林した場合、問題が大きいと考えられた。一方、健全グループの母樹から作出した挿し木クローン苗の中にも、16%の枯死個体が認められた。したがって、同じ母樹のクローン苗を用いて複数年にわたる接種検定を行うなど、抵抗性がより確実な個体を採穂母樹として利用する必要があると考えられた。なお、枯死してしまった母樹からクローン苗を作出することは不可能であるが、1999年の挿し木を母樹への接種前に行ったことで、枯死母樹のクローン苗を作出することに成功している。今後は、この枯死グループを含めた調査を行うことにより、より正確なクローン苗の抵抗性評価が可能になると考えられる。
  • 佐々木 峰子, 倉本 哲嗣, 岡村 政則, 平岡 裕一郎, 藤澤 義武, 秋庭 満輝
    セッションID: P1145
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    抵抗性クロマツのF1から高い抵抗性を持つ個体群を若齢で選抜し,さし木によって増殖する手法の確立を目的とした研究を進めている。この際,さし木の採穂台木となる人工接種済みの個体群において,さし木発根性が保たれていることを確認する必要がある。そこで,異なる強さの病原力を持つ材線虫を接種し,選抜された個体群のさし木発根性を調査した。 材料は抵抗性クロマツ5家系の2年生苗である。3アイソレイトの材線虫を用いて接種を行い,生き残った各個体をさし木した。分散分析による結果から,強い淘汰圧をかけて選抜した集団であってもさし木発根性はあまり影響を受けないこと,F1の発根率は母樹によって有意な差があることがわかった。
  • 加藤 一隆
    セッションID: P1146
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    スギカミキリは、スギおよびヒノキの害虫として知られているが、幼虫がない樹皮に進行する段階でその多くは死亡することが知られている。この原因としてスギが抵抗するために形成する傷害樹脂道が考えられているが、世の形成能力はスギの個体間で大きく異なる。林木育種センターでは、多くのスギ個体についてスギカミキリに対する抵抗性を明らかにしているため、樹幹に刺針処理を行うことによってそれらの傷害樹脂道形成能力を検証してみた。その結果、スギカミキリが産卵し孵化した幼虫が樹皮内に穿孔開始した時期にあたる4月から5月にかけてでは、刺針処理から10日後では新しい傷害樹脂道は形成されなかった。一方、刺針処理から15日後では新しい傷害樹脂道が形成されたが、形成された場所は樹皮年輪内の2年生部分に限られた。スギカミキリの抵抗性と傷害樹脂道の出現率との相関を取ったところ、刺針を比較的早く行った場合には抵抗性との相関がみられた。
  • 倉本 哲嗣, 佐々木 峰子, 岡村 政則, 平岡 裕一郎, 藤澤 義武
    セッションID: P1147
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    DNAマーカーを用いてクロマツのマツノザイセンチュウ抵抗性個体16クローンとおよび精英樹237個体間の類縁関係の推測を試みた。その結果、地理的距離が大きいほど抵抗性クローン間ならびに精英樹間での遺伝的な相違が大きくなる傾向があると推測された。また、抵抗性個体群より遺伝的な差違が少ないことが示唆されたが、これは抵抗性個体の場合と異なり、各精英樹の選抜地間の距離が近いため、比較的遺伝的に近縁であろう個体が精英樹として選抜されているためと推測された。
  • 野村 考宏, 久保田 正裕
    セッションID: P1148
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    関東育種基本区において、ヒノキ精英樹の半兄弟家系を用いて設定された次代検定林11箇所の個体値を用いて、成長形質の遺伝パラメーターについて検討した。対象とした形質は、20年次の樹高と胸高直径である。同一育種区の検定林を2箇所ずつペアにした分散分析を行い推定された遺伝率の平均値は、樹高、胸高直径とも0.10程度、TypeB相関係数の平均値は、樹高が0.32、胸高直径が0.37となった。育種区間で比較した場合でも大きな違いは認められなかった。これらの結果は、育種区内において、検定林と家系の交互作用が無視できない大きさで、家系間差についてもスギ等の他の樹種に比べ小さいことを示している。そのため、20年次の家系評価を行うに当っては、育種区単位での評価に併せ、育種区よりも小さい地域区分、例えば県単位での評価も併せて行うことを検討する必要がある。また、今後、蓄積されつつある30年次のデータを用いてさらに検討する必要がある。
  • 久保田 正裕, 野村 考宏
    セッションID: P1149
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    カラマツ精英樹自然交配家系の樹高,胸高直径について,遺伝率の推移等を検討した。調査対象とした次代検定林は,関東林木育種場長野支場構内のカラマツ採種園産種子を用いて苗木を養成し,1973年から1976年までに造成された24箇所である。解析には,5,10,15,20年次における樹高,胸高直径のプロット平均値を用いた。 各形質のプロット平均値に基づき,検定林ごと,および全検定林を対象にした分散分析を行い,推定された分散成分から,家系平均値の反復率,遺伝率を計算した。反復率の平均値は,樹高,胸高直径ともに 0.2__から__0.4の間を推移した。遺伝率は,樹高,胸高直径ともに,0.6__から__0.8の間を推移し,樹高は,ほぼ横ばいで年次変動は見られず,胸高直径は,15年次で最も高くなり,20年次で低下する傾向を示した。形質ごと,家系ごとに求めた最小二乗推定値の年次間の相関係数は,0.59__から__0.90と,どの年次間においても正の相関関係が認められた。 カラマツでは,家系平均値の反復率及び遺伝率は年次による変動は小さく,また,家系の最小二乗推定値も年次間に正の相関が見られたことから,早期に家系の評価を行い優良な家系を選抜できる可能性が示唆された。
  • 多形質における適用例
    那須 仁弥
    セッションID: P1150
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    関西育種基本区内の瀬戸内海育種区に設定されたスギさし木次代検定林における15年次調査のデータを用い,各クローンの評価値(BLUP値)を、2つのモデル(単形質モデルと多形質モデル)で求め比較を行った。各モデルで求められたBLUP値の相関、順位相関はともにモデルによる違いは少なかった。系統の順位付けの点ではモデルによる違いは少ないと考えられる。多形質モデルが単形質モデルに比べ、系統の分散成分の大きさ、正確度ともに値が大きかった。正確度は真の値と予測値の相関を示し、相関が高いほどその予測値が優れていることをしめすこと。系統分散の大きいことは系統間の違いをよく反映していると考えられることなどからBLUP法において多形質モデルを使用することで系統評価の更なる精度の向上が望めると考えられた。
  • 谷口 亨, 大宮 泰徳, 岡村 政則
    セッションID: P1152
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    クヌギの遺伝子導入系を開発するために、不定胚にアグロバクテリウム法で緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の導入を試みた。その結果、合計16系統のGFP遺伝子を発現する形質転換不定胚系統が得られた。これらからPCR反応により選抜遺伝子であるカナマイシン耐性遺伝子を検出した。形質転換不定胚は、発芽したがその効率は悪かった。
  • 西川 浩己, 小山 泰弘, 遠藤 良太
    セッションID: P1153
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    スギ花粉症は、大きな社会問題になっている。そこで本研究では、ジベレリン生合成阻害剤であるパクロブトラゾールの処理による雄花形成抑制を目的として、採種園の精英樹5クローンを用いて、2000年6月に樹幹に埋包処理し、2001年6月に枝に埋包処理した。枝の埋包処理において、著しい雄花形成抑制効果が認められた。
樹病I
  • 山田 利博, 小松 雅史, 楠本 大, 鈴木 和夫, 中西 友子
    セッションID: P1154
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    暗色枝枯病菌を接種したスギ苗木の材変色の進展を中性子ラジオグラフィで追跡した。接種3, 7, 13, 22日後に苗木に熱中性子線を照射した。X線フィルム像を得たが、菌接種によって形成された変色部や周辺の乾燥帯は黒色部として検出され、水分が少ない部分であることを示している。乾燥帯は材色にほとんど変化がない接種3日後には検出された。乾燥した部位の大きさが接種菌株間で異なることが中性子像で示された。本実験で使用した中性子線は培地上での暗色枝枯病菌の伸長に影響せず、本法は樹病における非破壊検査として有用と考えられた。
  • 寄生菌とその病原性,被害分布
    河辺 祐嗣
    セッションID: P1158
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    え死病斑が発生し始めたばかりの初期症状のマンサクとマルバマンサクの葉枯れ被害の被害葉を用いて,細菌と糸状菌の分離を行った。細菌は分離されず,顕微鏡観察でもえ死組織内に細菌は認められなかった。糸状菌は,病斑形成の当初のえ死病斑ではPhyllosticta属菌だけが分離され,症状が進むと数種の他の菌が分離されるようになった。Phyllosticta属菌,Phomopsis属菌,Alternaria属菌,Epicoccum属菌,炭そ病菌などの分離菌を用いてマンサク鉢苗に接種試験を行った。Phyllosticta属菌の培養菌そうまたは分生胞子けんだく液により,傷つけ処理した部位に接種したが,わずかに接種部位の周囲にえ死部を形成したものがあったものの,葉枯れ被害は再現されなかった。Phomopsis属菌,Alternaria属菌,Epicoccum属菌,炭そ病菌などの接種でも,同様の結果であった。2月に鉢植えを行った山取りのマンサク苗を温室で管理した。その苗の葉枯れ被害は4月に発生し始めた。葉枯れ被害の発生に病原菌の関連を想定するなら,この場合の病原菌の感染源の存在はないので,冬芽の状態ですでに感染していることが推測された。森林総合研究所が運営する森林病虫獣害情報収集システムおよび各地から寄せられた個別の情報から全国規模のマンサク類の葉枯れ被害の発生分布をまとめると,北海道と九州地域以外の地域では発生が確認され,東では青森県,西では広島県,南では高知県の範囲で発生していた。マンサク以外にマルバマンサク,シナマンサク系統の園芸品種などにも発生が確認された。
  • __-__常緑性および落葉性広葉樹8種を事例として__-__
    渡邉 章乃, 佐藤 友美, 矢口 行雄
    セッションID: P1159
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに 植物の葉の葉内および葉面を含めた範囲を葉圏といい(Carroll, 1977)、葉圏に生息する菌類は葉の表面に分布する葉面菌と内生菌を含め、葉圏菌といわれている(Petrini, 1991)。しかし、これらの菌類の役割についての研究はほとんど蓄積がないのが現状であり、さらに内生菌の中には、病原菌として報告されている菌類も含まれている。また葉圏菌に関する研究は葉面菌または内生菌のどちらか一方に集中していて、これらの比較検討を行った研究はほとんどない。そこで本研究は、内生菌および葉面菌と病原菌との関係のメカニズムを解明するため、葉面菌および内生菌を分離・同定し、既報の病害報告と比較検討を行い、さらに異なる樹種における菌類発生の季節的変動パターンの比較検討を行った。2. 方 法 葉面菌および内生菌を分離、同定するため、東京農業大学世田谷キャンパス内にある常緑および落葉広葉樹それぞれ4種を供試木として葉を経時的に採取した。常緑広葉樹としてトウネズミモチ、サンゴジュ、キョウチクトウ、ヤマモモの葉を、さらに落葉広葉樹としてソメイヨシノ、ウメ、トウカエデ、ニセアカシアの新葉の展開した2002年4月から12月の間に合計19回各葉をそれぞれ採取した。各樹木から1調査木につき5から8枚採取し、採取後、直ちに直径1cmのコルクボーラーでくり抜き葉ディスクを作製した。表面殺菌処理また無処理として、葉ディスク3枚を葉の表面をPDA培地に接するように置床した。各処理後、室温下で2週間の培養後にそれぞれ発生した菌類のコロニー数をカウントした。3. 結果および考察1) 常緑および落葉広葉樹の葉から分離された葉面菌と内生菌 常緑および落葉広葉樹8種の葉面菌と内生菌を検出するため、各葉の表面殺菌区および無処理区から分離された菌類を同定した結果、常緑および落葉広葉樹の供試葉からほぼ同様な19属の菌類が分離された。無処理区では、Alternaria sp.、Microsphaeropsis sp.、Cladosporium sp.、Pestalotiopsis sp.の順に高頻度で分離された。また処理区では、Phomopsis sp.、Phyllosticta sp.、Colletotrichum spp.の順に高頻度で分離された。Phomopsis sp.、は、両処理区より高頻度で分離された。またPhyllosticta sp.は無処理区からは全く分離できなかったことから葉面には生息せず、代表的な内生菌であることがわかった。これに対して、Pestalotiopsis sp.、Epicoccum sp.、Botrytis sp.、Phoma sp.、Mucor sp.、Trichoderma sp.は処理区から全く分離できなかったことから、葉内には内生できない代表的な葉面菌であることがわかった。今回行った表面殺菌法の処理区と無処理区では、処理区から分離した菌類は内生菌と特定できるが、無処理区では葉面菌と内生菌の一部が分離されることが推定された。葉面菌を分離するには洗浄法が一般的な方法であるが、本実験の結果から、無処理区から分離された菌類は明らかに処理区の分離数より多く、これらは代表的な葉面菌であるものと考えられた。このことは、Petrini(1991)により、葉面菌は葉の老化に伴い内生すると報告されていることからも推察された。2)葉面菌および内生菌の季節的変動 各処理区から分離した菌類のコロニー数の季節的変動を調査した結果、葉面菌は常緑および落葉広葉樹8樹種で、同様な結果が得られ、4月から12月までの全期間で同様なコロニー数を示した。これに対して、内生菌は、常緑広葉樹では葉面菌同様に季節的な変動はみられなかったが、落葉広葉樹では、新葉展開後、6月頃より12月にかけて増加傾向を示した。以上の結果より、葉面菌は樹種が異なっていても、同様な発生傾向を示した。しかし、落葉広葉樹の内生菌では、新葉が展開後、6月ころまでは全く検出されないことがわかった。次に各葉より発生した菌類の発生率の季節的変動を調査した結果、葉面菌は常緑および落葉広葉樹ともに同様な結果が得られた。すなわち最も高頻度で分離されたAlternaria sp.およびCladosporium sp.は4月から12月の調査中でほぼ全ての期間で同頻度に発生したが、Microsphaeropsis sp.は4月から12月にかけて減少傾向を示し、Pestalotiopsis sp.は8月以降増加する傾向を示した。内生菌では、高頻度で分離されたPhomopsis sp.、Phyllosticta sp.、Colletotrichum spp.の3属菌について比較検討した結果、常緑広葉樹ではPhomopsis sp.とPhyllosticta sp.は、4月から12月までの全期間で分離されたが、Colletotrichum spp.は4月から12月にかけて増加傾向を示した。また落葉広葉樹では、Phomopsis sp.は4月から12月にかけて減少する傾向を示し、Phyllosticta sp.とColletotrichum spp.は7月から発生がみられ、12月まで増加傾向を示した。
  • 佐藤 友美, 矢口 行雄
    セッションID: P1160
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに
    植物の葉に内生する菌類は、宿主植物への様々な利益付与や生理障害を推測する指標、さらに植物への病虫害抵抗性遺伝子導入のためのベクターとしての可能性が期待されている。Colletotrichum属菌は、世界中の広範な地域の植物に多大な被害をもたらす植物病原菌であるが、多くの健全な植物の葉に内生することが知られている。矢口ら(1999)は、日本各地の調査植物131種類より73種類の植物の葉から湿室法により本属菌を分離した。さらに1999から2001年の3年間、湿室法によりソメイヨシノの葉における本属菌の発生の季節変動を調査した結果、4月の新葉展開時期には全く検出できなかった本属菌は、5月から落葉期にかけて発生率は増加した。
    そこで本報告は、湿室法で検出されたColletotrichum属菌の葉における所在を明らかにすることを目的に、落葉広葉樹2種を供試し、表面殺菌法により各種内生菌の検出を季節的に調査するとともに、各葉組織内における内生菌の所在を光学および電子顕微鏡により観察し、これらの結果より総合的に本属菌の所在様式を検討した。
    2.方法
    (1)東京農業大学世田谷キャンパス内のソメイヨシノ、ムラサキシキブを調査木とし、2001年5月から11月までの間に合計11回、各調査木から外観健全な葉を採取し、ディスクを作製後、表面殺菌処理を行い、各葉ディスクをPDA培地に置床した。1週間後にそれぞれ発生した菌類のコロニーを分離、同定し、発生率を求めた。
    (2) 2001年6月5日、2002年9月12日と11月12日の計3回、ソメイヨシノとムラサキシキブに内生する菌類の所在を明らかにするため、採取した直後の葉、また(1)の表面殺菌処理を行い、培地に置床してから1、2、3、6日後の葉をそれぞれ固定後、脱水、樹脂包埋を行い、超ミクロトームで厚切切片を作製し、光学顕微鏡で内生菌の有無を観察した。さらに超薄切片を作製し、内生菌の所在を透過型電子顕微鏡で観察した。また、Colletotrichum属菌の所在を明らかにするため、培地上の葉ディスクに本属菌の粘塊が確認された部位を供試し観察した。
    3. 結 果
    (1) 各葉を表面殺菌処理し、Colletotrichum属菌の季節的な発生変動を調査した結果、ムラサキシキブではソメイヨシノに比べ、5月の早い時期から落葉期まで高い発生率を示し、ソメイヨシノでは8月に初めて発生し、落葉期にかけて発生率は高くなった。さらにColletotrichum属菌は、ムラサキシキブで5月からC.gloeosporioides に比べC.acutatumの発生が顕著だったのに対し、ソメイヨシノでは8月および11月にC.acutatumが発生し、C.gloeosporioidesの発生は10月以降に顕著となった。
    (2) 6, 9, 11月に採取した直後のソメイヨシノとムラサキシキブの葉組織内を光学顕微鏡下で観察した結果、内生菌は全く観察できなかった。
    ムラサキシキブの6月および 9月の葉では、表面殺菌処理3日後から表皮細胞、柵状組織、海綿状組織の細胞内外に多数の菌糸が認められ、またColletotrichum属菌の分生子層も顕著に観察された。さらに11月の葉では表面殺菌2日後からすでに葉組織全体に菌糸が確認され、Colletotrichum属菌の分生子層が形成されていた。
    これに対してソメイヨシノでは、9月に表面殺菌処理3日後の海綿状組織の細胞間隙にわずかに菌糸がみられるだけであり、電子顕微鏡により角皮下に菌糸が潜在していることがわかった。その後、表面殺菌処理6日後にはColletotrichum属菌の分生子層が葉脈に形成されていた。11月の葉では表面殺菌2日後にColletotrichum属菌の粘塊が葉上に形成され、角皮下に菌糸が確認された。
    4. 考 察
    ソメイヨシノとムラサキシキブの葉に内生するColletotrichum属菌の季節的発生の変動を、表面殺菌法を用いて検討した結果、発生パターンが異なり、さらに顕微鏡下で本属菌の所在様式も異なった。すなわちソメイヨシノの葉では8月以降にColletotrichum属菌は角皮下に潜在感染するが表皮細胞には侵入できないまま落葉するのに対して、ムラサキシキブの葉では、新葉展開後、6月ころから落葉期にかけて、特に海綿状組織の細胞間隙に所在していることがわかった。すなわち、葉の表面殺菌処理によりソメイヨシノでは角皮下の潜在菌が分離できたものであり、さらにムラサキシキブでは葉組織内部に内生する菌が分離できたものと推定された。
  • 折橋 健, 桧山 亮, 小島 康夫, 寺沢 実, 鴨田 重裕, 笠原 久臣, 高橋 康夫
    セッションID: P1162
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに
     本研究では森林内での摂食試験を行い,エゾシカの樹皮剥ぎに対するグイマツ(G)や交雑種(G×L)の抵抗性ついてニホンカラマツ(L)と比較しながら評価を行った。
    2.材料
     摂食試験ではL,G及びG×L各1家系の樹幹を用いた。樹幹は東京大学北海道演習林内で2001年11月下旬に伐採した。試験には直径13cm未満(Lは17cm未満)の樹幹部位(各家系4-7本分)を用い,試験が始まるまでは屋外(降雪後は雪の下)で保管した。
    3.方法
    1)シカの樹皮剥ぎに対する抵抗性(試験1,2)
     摂食試験は,Orihashi et al.(2002)の方法に準じて,2002年3,4月に東京大学北海道演習林内で実施した。試験1:シカの樹皮剥ぎに対するL,G及びG×Lの抵抗性について試験を行った。各家系の樹幹から長さ100cm,元口径3-13cmの丸太15本を調製した。ほぼ同径の丸太3本(各家系1本)を1セットとして15セットを作成し,それらを試験サイトの雪上に設置した。試験は,シカの樹皮剥ぎが起こらなくなるまで続けた(7-24日)。試験後,丸太樹皮の剥皮面積を測定した。あるセットにおいて丸太3本の合計剥皮面積が50cm2未満の場合,そのセットは不成立とみなした。丸太樹皮の剥皮面積は,フリードマン検定を用いながらL,G及びG×Lの間で比較し,続いてボンフェローニの修正を伴うウィルコクソンの符号付順位和検定を用いて二者間比較を行った(両側5%検定)。試験2:どのサイズの丸太がシカの樹皮剥ぎを受けやすいのかを知るために補足的な試験を行った。丸太の元口径に関して4つのサイズクラス(D<8cm,8≦D<11,11≦D<14,14≦D<17)を設け,各クラスに対して長さ100cmの丸太6本をLの樹幹より調製した。丸太4本(各サイズクラス1本)を1セットとして6セットを作成し,試験1と同じ要領で約20日間の試験を行った。
    2)ネズミの樹皮剥ぎに対する抵抗性(試験3)
     試験1,2で使用した家系について,ネズミの樹皮剥ぎに対する抵抗性を合せて調べた。試験はOrihashi et al.(2001)の方法に準じて,2002年の2月中旬に石狩管内当別町の防風林内で行った。各家系の樹幹より厚さ5cm,直径6-8cmの円盤13個を調製し,各家系1個からなる円盤のセットを13セット作成した。各セットは,約20m間隔で雪中に埋設された13の試験装置のいずれか1つに入れ,48時間の摂食試験を行った。試験後,円盤樹皮の剥皮面積を測定し,試験1と同じ要領によりL,G及びG×Lの間で比較した。
    4.結果
     試験1:丸太15セット中10セットで試験は成立した。丸太の元口径(平均値±SD,cm)は,成立セット(6.0±2.1,n=30)と不成立セット(9.5±2.3,n=15)の間で有意に異なっていた(マン・ホイットニー検定,p <0.001)。丸太樹皮の剥皮面積(平均値±SD,×10cm2)は,L(34±37)とG(1±2)あるいはLとG×L(5±6)の間で有意に異なっていた。Lに比べてG及びG×Lは,シカの樹皮剥ぎに対して強い抵抗性を示した。試験2:シカの樹皮剥ぎは,最小のサイズクラス(D<8cm)の丸太6本全てで,また2番目に小さいクラス(8≦D<11)の丸太6本中1本で観察された。残りのサイズクラス(11≦D<14,14≦D<17)では,剥皮された丸太は全く観察されなかった。丸太の剥皮面積(cm2)は,最小のサイズクラスについて合計600(最小,最大:6,324),2番目に小さいクラスについて248であった。最小のクラスの丸太は,シカの樹皮剥ぎを受けやすいと示唆された。試験3:円盤樹皮の剥皮面積(平均値±SD,cm2)は,L(64±41)とG(0±1)あるいはLとG×L(6±17)の間で有意な違いが認められた。試験1のシカの場合と同様に,G及びG×LはLに比べてネズミの樹皮剥ぎに対して強い抵抗性を示した。
    5.考察
     今回の研究においてGやG×Lは,Lに比べてシカの樹皮剥ぎに対して有意に強い抵抗性を示し,その結果はネズミに対する場合と非常に類似していた。G×Lは幾つかの観点(例えば,ネズミに対する抵抗性,成長速度,材質)から造林用途に大変有望であるとこれまでに評価されているが,今回の結果は,シカの樹皮剥ぎに対する抵抗性の観点からもG×Lが有望であることを示唆していると言える。
    引用文献
    Orihashi et al. (2001) J. For. Res. 6: 191-196.Orihashi et al. (2002) J. For. Res. 7: 35-40.
  • イヌエンジュとハリギリに対する嗜好性
    小島 康夫, 桧山 亮, 折橋 健, 寺沢 実, 鴨田 重裕, 笠原 久臣, 高橋 康夫
    セッションID: P1163
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1)目的
    本研究では、内樹皮中のADL含有量が低いにも関わらず嗜好性の低いイヌエンジュと径が大きくなると樹皮剥ぎを受けにくくなるハリギリについて嗜好性試験を行い、嗜好性を低くする要因を調べて樹皮剥ぎ害対策の糸口を掴むことを目的とした。
    2)試験方法
    1)イヌエンジュ樹皮抽出物の摂食試験
    __丸1__樹皮抽出物:2001年11月にDBH15cm前後の3個体を東京大学北海道演習林(以下演習林)にて採取し、直ちに樹皮を剥ぎ、95%EtOHに室温で1ヶ月間浸漬した。抽出液は減圧濃縮した。__丸2__担体の調製:ヤマナラシから長さ100cm、直径7-18cmの丸太をとり、樹幹方向に半分に割り、抽出塗布用と対照用とし、その2本1組を10セット用意した。__丸3__抽出物の塗布:各セットについて、担体の一端から80cmまでの部分を試験部位として使用した。面積および樹皮生重量を測定し、ヤマナラシ樹皮(生重量)1gに対してイヌエンジュ樹皮(生重量)0.5gあたりの抽出物量を含む抽出液を塗布し、約1日間風乾した。また、対照担体には同量の95%EtOHを塗布し、約1日間風乾した。__丸4__摂食試験:試験は2002年2月22日__から__3月1日に演習林内の4試験サイトにて実施した。両担体は50cm程度の間隔で設置した。各担体の一部(未塗布の20cm)を雪中に差込み直立固定した。1日1回観察し、いずれかの丸太で樹皮500cm2が剥皮された時点で試験終了とした。
    2)ハリギリの摂食試験
    2-1)径級別試験
    __丸1__試験材料:2001年11月にDBH10-16cmのハリギリ5個体を採取し、樹幹と枝から長さ100cm、中央直径2-18cmの丸太を調製した。丸太の中央直径で5.0cm未満、5.0-7.5cm、7.5-10.0cmおよび10cm以上の径級に分け、4本1組で10セット用意した。__丸2__摂食試験:試験は演習林内の4サイトで2002年2月19日から27日に実施した。各セットでの4本の丸太は50cm程度の間隔をおいて、ランダムな順番で一列に並べて雪上に直立設置した。1日1回観察し、最初の被食があった日を1日目として7日目までを試験期間とした。各丸太に対して、予め定めた剥皮面積(300cm2)にいつ達するかにより以下のように点数を与える方法で評価した。1日目から順に7__から__1点を与え、7日目に300cm2に未到達の時は50%≦A<100%、0%2__-__2)外樹皮剥ぎ試験
    __丸1__試験材料:試験2__-__1と同じ5個体の樹幹および枝より、3グループ(7.5cm未満、10cm以上(外樹皮つき)、10cm以上(外樹皮無し))長さ100cmの丸太を調製した。10cm以上(外樹皮無し)は試験前日に内樹皮を残して外樹皮を剥いだ。3本1組として、9セット用意した。__丸2__摂食試験:2002年3月11日__から__20日に演習林内の2試験サイトで実施した。試験2-1と同様の方法で摂食試験を行った(但し一定面積を500cm2とした)。
    3)結果と考察
    1)イヌエンジュ樹皮抽出物の摂食試験
    10セット中9セットで試験が成立し、その全セットで先に対照担体が500cm2の剥皮面積に達し、試験終了時の面積(平均面積±SD,cm2)は対照担体(700.0±230.1)、抽出物塗布担体(16.7±89.9)となった。
    抽出物塗布担体をエゾシカは忌避した(P<0.01、Wilcoxonの符号付順位和検定)。抽出成分がイヌエンジュ樹皮嗜好性の低さの要因である可能性が示唆された。
    2)ハリギリの摂食試験
    2__-__1)径級別試験
    全9セットで試験が成立した。各丸太の獲得点数(平均点数±SD,点)は5cm未満(6.3±0.9)、5-7.5cm(6.2±0.8)、7.5-10.0cm(3.9±2.8)、10.0cm以上(0.1±0.1)であった。径が大きくなると点数が減少する傾向が見られ(P<0.01、Pageの傾向性検定)、5cm未満および5‐7.5cmと10cm以上の径級で有意差が見られた(P<0.05、Tukey型多重比較)。
    2__-__2)外樹皮剥ぎ試験
    全9セットで試験が成立した。各丸太の獲得点数(平均点数±SD,点)はそれぞれ7.5cm以下(6.8±0.4)、10cm以上で外樹皮を剥いだ丸太(6.6±0.9)、10cm以上で外樹皮を残した丸太(1.3±2.5)であった。直径7.5cm未満の丸太および10cm以上で外皮剥ぎ処理をしたものと10cm以上で外樹皮を残したものとの間で有意差が見られた(P<0.05、Tukey・Kramer型多重比較)。
    まとめると、径が大きくなると嗜好性が低下し、その原因が外樹皮の発達による可能性が推察された。
  • 明石 信廣
    セッションID: P1164
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    道東地域に近年造林されたカラマツのなかには,エゾシカによる食害を受けて樹高成長が著しく阻害されているものがある一方,高い被害率が報告されていても,その後成林していることも多い。カラマツは枝が採食されれば,その生育期間内に新たな枝が伸長し,樹高成長をある程度回復することができる。しかし,この枝も再び食害を受ける可能性があるため,カラマツの樹高成長におけるエゾシカの影響は,一生育期間における採食の頻度と関係があると考えられる。そこで,エゾシカによる採食の頻度とカラマツの樹高成長の関係について調査した。
    調査は2001年10月および2002年10月に,北海道釧路支庁管内音別町・白糠町のカラマツ林6林分(調査地A__から__F)で行った。それぞれの調査地において,無作為に100個体を調査した。調査年の成長を開始した時点で最も高かった部位を前年の樹高,調査時に最も高い部位を調査時の樹高として,その間の成長過程における採食頻度と調査年における最初の頂枝の採食高を調査した。
    それぞれの調査地において,18-100%の個体が採食被害を受けており,一生育期間に3回の採食を受けている個体もあった。
    ほとんどの調査地では,前年樹高が100cmを越えると被害率が低下したが,30-40 度 の斜面にある調査地Dでは,140cmまで被害率が高かった。被害率が最も高い調査地Aと被害率が低い調査地Eを除いて,2回目の採食を受けた個体と受けなかった個体で1回目の採食高に有意な違いがあった。前年樹高が低かった個体は繰り返し採食を受ける可能性が高いが,前年樹高が高かった個体は採食されずに成長することができる。その結果,樹高階分布は二山形になった。
    前年樹高と採食頻度を説明変数として,樹高成長量を一般線型モデルで解析したところ,採食頻度が最も高い調査地Aおよび,2回以上採食された個体数の少ない調査地E,Fを除き,採食の有無だけでなく採食の頻度が樹高成長量に有意な影響を及ぼしていた。調査地Dでは,1回の採食によって38cm,2回で52cm成長量が低下したことを示していた。この結果から,1回採食を受けた個体の樹高成長量を求めると,樹高100cm以下のとき20-50cm成長していることがわかった。
    カラマツは採食を受けても枯れることはほとんどなく,その生育期間に再び枝を伸長させることができるため,採食耐性の高い樹種であると考えられる。繰り返し採食を受けることがなければ,ある程度の樹高成長は可能であるが,樹高成長量は採食頻度が高まるとともに低下する。樹高成長量が大きければ,翌年以降の採食を受ける確率も低下するため,繰り返し採食を受ける個体と,採食を受けずに成長する個体の樹高の差は拡大する。
    調査地Aでは,採食頻度による樹高成長量の有意な違いは認められなかった。採食圧が高い場合,1回目の採食の時期が早く,その後も新たな枝の伸長後直ちに採食を受ける。採食が1回と記録された個体でも,採食後に伸長した枝が1回目の採食部位より低い位置で採食された個体も含んでおり,採食回数による違いが生じなかったものと考えられる。
    採食を受けない場合,樹高35cmの苗木を植栽したとすれば,2年で樹高100cm 以上になると考えられる。最も被害率の高い調査地Aでも,全体の平均樹高は18cm 高くなっており,4__から__5年程度で樹高100cmに達する。したがって,樹高100cm に達するまでのカラマツの,エゾシカの食害による樹高成長の遅れは最大でも3 年程度である。採食圧の高い林分では,樹高100cm以上になっても被害が発生する可能性もあるが,カラマツは著しい採食圧を受けても数年の遅延で成林が可能であるといえよう。
  • 斉藤 正一, 三浦 直美, 伊藤 聡
    セッションID: P1165
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    近年、日本海側を中心に発生しているナラ類集団枯損被害は終息の目処がたっていない。ナラ類集団枯損被害林の特徴は、上層林冠の大部分を短期間に失うことであるが、日本の被害の最北端の山形県において、被害林の林分構造や更新の実態を調査した。 調査は、ミズナラもしくはコナラを主とした植生域において、健全、微害、激害の被害区分ごとに20m四方のプロットを各区分ごと6個設定して、林分構造や稚樹の生息に関する調査をした。 健全林では、高木層はナラ類が70%以上を占め、亜高木・低木層上部の植被率は低く、低木層下部にはユキツバキが優占し、草本層における高木性広葉樹は少ない。 被害林では、ミズナラ帯における激害林では、高木層の植被率が20%程度までに激減し、林床にユキツバキ等が繁茂する特異な林分構造になる。コナラ帯の激害林では、高木層の植被率は50%以上を保ち、ミズナラが枯死し、コナラが残存する。しかし、亜高木層以下には後継の高木性広葉樹の生育はまれである。 林床に生育する高木性広葉樹の稚樹による更新の可能性を検討した。30cm以上の高木性広葉樹が3,000本/ha以上かつプロット調査での出現率が80%以上の場合稚樹による更新可能とする基準により健全林と被害林の判定を行った。その結果、ミズナラ帯、コナラ帯、被害林、健全林を問わず稚樹による更新の可能性がないことが明らかになった。
  • 舟尾 規子, 池田 武文, 中島 友弘, 高畑 善啓
    セッションID: P1166
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年、日本海側の各地でナラ類の集団枯損が発生し、問題となっている。この被害については、その原因、防除方法等に関しては様々な研究が進められている。しかし、これらの被害が森林にどのような影響を与えるのかといった、生態学的な観点からの調査はまだあまりなされていない。 本調査では、被害の終息した林分で四分法による植生調査を行い、被害前後で密度や優占度等がどのように変化したかを比較検討した。また、対象林分として、被害植生と似た、無被害林分での植生調査も行った。被害林分は京都、滋賀、福井の6林分、無被害林分は京都、滋賀の7林分である。 被害樹種は主にミズナラとコナラであったが、特にミズナラの枯損被害が激しく、被害の大きい林分ではミズナラの約8割が枯死していた。その結果として、ミズナラの優占する林分において、被害の影響が大きくなっている。 被害による森林への長期的な影響については、今後調査が行われていく必要があるが、今回の調査を行った時点で、すでにギャップにササが侵入・密生し、今後の森林の更新は不可能と思われる林分もあり、生態系における被害の影響の大きさがうかがえた。  
  • 斉藤 直彦, 在原 登志男
    セッションID: P1170
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに
     ヒノキ漏脂病の発生誘因の一つは枯れ枝の巻き込みで,枝の基部や粗皮に付いたCistella菌が樹体内に取り込まれて発病するものと考えられる。さらに,生枝打ちによって生じた長さ2,3mmのごくわずかな枯れ枝,すなわち枝打ち残枝(切っかけ)等も本病の発生誘因となることが判明した。このため,枝打ちは,本病予防のため,わずかな残枝も残すことができない。そこで,ヒノキ樹体の大きさ(胸高直径)と初回生枝打ちによって生じる残枝の付着割合を調査した。
    2.調査方法
     調査林は,海抜高が430__から__520mに位置する阿武隈山地の川内村,鮫川村および塙町のヒノキ4林分で,いずれも未枝打ち林である。林分の林齢は13__から__16年生で,平均樹高は4.5__から__7.5mであった。生枝打ちによる残枝の付着状況調査は,2002年6__から__7月にかけて行った。林分ごとにおおむね20本の立木を対象とし,胸高直径を測定後,うっ閉していない林分では1mmほどのきわめて細い枯れ枝,そしてうっ閉した林分ではこれに加えて,枯死した枝を除く生枝を高さ2mほどの範囲まで落とした。1本当たりの枝打ち本数は,13(平均)/8__から__25(範囲)本であった。枝の切断はノコを用い,幹に接して幹と平行に行った。そして,切断面に現れた残枝の付着状況を調査した。
    3.結果と考察
     枝を打ったヒノキの総本数は74本であった。また,川内村と鮫川村の計2林分はうっ閉した状態でなく1mmほどのきわめて細い枯れ枝を除くと,枯れ枝の発生は少なかった。しかし,塙町と鮫川村の残り1林分の計2林分はうっ閉状態にあって,かなりの枯れ枝が発生していた。
     これによると,両者はR2=0.74(n=74,P<0.01)の関係にあって,胸高直径がおおむね6cmを越えて,太くなるほど残枝の付着割合が高まった。うっ閉した林分では、胸高直径が太いものほど調査範囲内に着生している生枝の活力低下が著しく,枝の付着部にくぼみが生じて幹と平行に枝を打っても残枝が付着し,付着割合が高まったと考えられた。さらには,既に巻き込まれている状況の生枝も見られた。また,うっ閉していない林分でも,胸高直径が太いものほど着生している生枝間に活力の差が生じ,残枝の付着割合が高まったと推定された。なお,注1のヒノキは胸高直径が5.2cmで,18本の生枝を落としたが,残枝の付着割合が44%と高かった。この理由は太さ2,3mmの細い生枝が多数着生し,一部で活力の低下が起こり,幹部への巻き込みが始まっていたためである。
     漏脂病は,数mmの残枝からも発病すると考えられることから,初回の枝打ちは胸高直径が5cmほどに達した時点,すなわち襟(カラー)の発達も少なくかつ枝打ちによって残枝の付着しない状態で行う必要がある。また,胸高直径が6cmほどに達したものに対して枝打ちを行う場合は,枝着生部にくぼみが生じていたり,また生枝の巻き込みが始まって,枝打ち切断面に残枝がたまに付着することに留意し,枝基部を少し深めに削って取り除く必要がある。なお,胸高直径が7,8cmに達したものにあっては,くぼみが大きくまた巻き込まれた枝が材深くまで存在することになり,残枝の完全な削り取りは不可能に近いものと考えられる。
     以上述べたことから,漏脂病の発生を予防するための初回の枝打ちは,ヒノキの直径が5cmほどに達した時点で成育にさほど支障のない生枝を幹に接して幹と平行に落とす。また,6cmほどに達したものに対しては,切断面に残枝がたまに付着することに留意し,少し深めに削って取り除く。さらに,本病は大きな傷口からも発生すると予想されるので,枝打ち切断面は出来るだけ小さくすることが必要である。なお,今回は1mmほどのきわめて細い枯れ枝を調査の対象から外したが,これも本病の発生誘因となることから,枝打ち時には全ての枯れ枝を切り落とし,枝基部に巻き込まれた枯れ枝を出来るだけ取り除く必要があると考えられる。
  • 在原 登志男
    セッションID: P1171
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    ○はじめに
     福島県船引町に位置する海抜高640mの21年生ヒノキ林は,11年前(10年生時)の6月下旬(夏期)に初回の枝打ちを行った。その後,14年生および17年生時の2月下旬(冬期)に枝を打ち,現在は6mの高さまで枝打ちを完了している。初回の枝打ち時に,漏脂病の特徴である樹幹部からの樹脂流出を既に認めていたが,枝打ち後も枝打ち痕から樹脂の流出または点出が見られた。
    そこで,供試木の提供を受けて,枝打ち時期の違いによる樹脂流出および陥没等の発生状況とその誘因を調査した。
    ○調査方法
     2002年5月中旬,平均胸高直径12.5cmの5本の被害木を伐倒した。伐倒木は樹脂流出および陥没等の激しい幹部を1.5mの長さに玉切って8本持ち帰り,2cm間隔で玉切って円盤を採取した。円盤はその面に現れた枝打ち痕,枯れ枝の巻き込み状態などを調査するとともに,年輪幅の減少のみを伴って欠損を伴わない凹みまたは年輪幅の減少と欠損を伴う陥没の発生状況を調査した。
    ○結果と考察
     枝の付け根からきれいに打ち落とされた残枝なしにおける夏期の枝打ち数は10枝,冬期で6枝を調査したが,いずれの枝打ち痕にも樹幹の凹みや陥没が認められなかった。また,全ての枝打ち木口面は,枝打ち翌年または翌々年に癒合組織で被われていた。
    枝の付け根からきれいに打ち落とされなかった残枝は,夏期の枝打ちで25本,冬期で28本の計53か所を調査した。樹幹の凹みまたは陥没なしの発生頻度は,前者で88%,後者で57%となり,樹幹の変形は冬期で高かった。また,樹幹陥没の発生頻度は,現在のところ,それぞれ8%および7%と差がなかった。
    次に,全調査件数53件中38件(72%)について,残枝ありの枝打ち木口面が癒合組織で被われるまでの期間を算出する。なお,木口面は未だ癒合組織で被われていないものがあり,樹幹の凹みまたは陥没なしで8%が,そして凹みまたは陥没ありが56%に相当し,前者で癒合済みの割合が高かった。ちなみに,癒合が済んだもののみで両者の期間を求めると,前者は3.7(平均)/2__から__7(範囲)年,後者は7.0/5__から__11年となった。
     また,残枝の長さと樹幹の凹みまたは陥没か所の出現状況を検討したところ,凹みまたは陥没は2,3mmのごくわずかな残枝からも発生していた。
     さらに,出現した枯れ枝の巻き込み48本について,漏脂病等の発生状況を調査したところ,樹幹の凹みは全体の19%,陥没は8%で発生していた。これらの発生頻度は,残枝ありの枝打ちの凹み21%,陥没8% とほぼ同率であった。
     以上の結果から,残枝なしの枝打ちは夏期および冬期であっても木口面の癒合が2年以内と早く,年輪幅の欠損を伴わない樹幹の凹みや欠損を伴う陥没が生じないと考えられる。また,残枝ありの枝打ちでは癒合が遅く,残枝の存在や癒合の遅れがきっかけとなって数10%で樹幹に凹みを生じ,さらに10%弱で陥没が引き起こされたと推定される。これらの異常は,長さ2,3mm のごくわずかな残枝からも発生が認められた。そして,枯れ枝の巻き込みか所でも,残枝ありの枝打ちと同様に,数10%で樹幹に凹みを生じ,さらに10%弱で陥没が引き起こされたと推定される。
  • 石井 徹尚, 河原 輝彦
    セッションID: P1172
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    はじめに
     近年、人々が森林に求める機能は木材生産機能から公益的機能へと移行しており、環境に配慮した多様な森林施業が求められている。健全な森林を育成する過程で植生面のみならず、野生動物もまた、森林生態系の一員としてその研究が行われる事は必要不可欠であり様々な環境要因が与える影響を考慮する必要があると考えた。本研究では小型哺乳類を多様な環境の林分で捕獲し、その分布や個体数変化をみることで森林の豊かさの指標とするための調査及び検討を行った。
    調査地および調査方法
    Siteは山梨県小菅村、東京都奥多摩町にそれぞれ標高・林相別に5ヶ所選定し、スナップトラップ(パンチューPMP型)に付け餌として生ピーナッツ、サツマイモを用い、それぞれ30個、各Siteにつき60個(計300個)仕掛けた。さらに、きな粉を添加した。トラップは一晩置き、翌朝回収した。調査は平成14年6月から平成14年11月まで、毎月1回ずつ計6回行った。尚、使用したトラップは両調査区で延べ3,600個になった。
    山梨県北都留郡小菅村・東京都水源林
    Site-A人工針葉樹林 標高700から850mB天然広葉樹林 750から1,150m C人工針葉樹林 850から1,000m D天然広葉樹林 1,200から1,350m E天然広葉樹林 1,420から1,450m
    奥多摩演習林 東京都西多摩郡奥多摩町 狩倉山
    Site-A人工針葉樹林700から850m B広葉樹二次林 750から1,150m C人工針葉樹林 1,200から1,350m D広葉樹二次林 750から1,150m E広葉樹二次林 1,400から1,452m
    結果
    小菅村
     捕獲された種はアカネズミApodemus speciosus ヒメネズミA.argenteus カゲネズミEothenomys kageus ヒミズUrotrichus talpoides ヒメヒミズDymecodon pilirostrisの5種であった。捕獲数の季節変化を見ると6月にピークがあり,7月に最小捕獲数となった。その後11月まで緩やかに捕獲個体数は増加した。全捕獲数に対する各Siteの捕獲割合は、Site-Aは6.2%、Bは16.2%、Cは33.7%、Dは27.5%で、Eは27.5%であった。
    奥多摩演習林
     捕獲された種類は、アカネズミ,ヒメネズミ,ヒミズの3種であった。季節変化を見ると春季と秋期に捕獲数が増加する傾向がみられた。Site-AからEの全捕獲数に対する各Siteの捕獲割合は、Site-Aは8.5%、Bは23.4%、Cは21.2%、Dは29.7%で、Eは17%であった。
    考察
    小菅村全体における小型哺乳類の森林利用について
    小管村ではSite-C,D,E地域の捕獲数、種数ともに多く、生物多様性が保たれている環境であると考えられた。天然林は捕獲数が多い傾向があるが,人工針葉樹林Aでは、捕獲数・種数は少なかった。この理由として、適切な間伐が行われておらず下層植生の導入が成されていない為であると考えられた。また、適切な間伐が行われている人工針葉樹林Cでは、捕獲数が最大であったこと、捕獲種数が最大であったこと、調査期間を通じて常に小型哺乳類が捕獲されたこと、の3点から人工針葉樹林であっても、天然林と同様に小型哺乳類にとって十分生息可能な空間と成り得る事が推測された。
    奥多摩演習林全体における小型哺乳類の森林利用について
     Site-B,C,Dともに捕獲数が多く、小型哺乳類にとって生育しやすい環境にあると考えられた。一方、人工針葉樹林であるSite-A,C地域の構成種、捕獲数は乏しかった。この理由として、適切な森林施業が行われていないことから、林床の光環境が悪く、加えて、奥多摩地方に生息するニホンジカによる食害で下層植生が破壊されたことが影響していると考えられた。
    まとめ
    以上のことより、適切な間伐が行われ、造林木の立木密度が適度な状態にあり、下木として様々な樹種の広葉樹が生育可能な光環境を有する林分は、動物相全体から見て多様な生息環境を提供しており、今後このような林分に導く為の施業が行われていくことが、森林生態系を考慮する上で重要である。
  • 積雪期の足跡調査による植生利用
    矢竹 一穂, 梨本 真, 阿部 聖哉, 竹内 亨, 松木 吏弓, 石井 孝
    セッションID: P1173
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    積雪期のノウサギの植生利用を明らかにするため,秋田県田沢湖町でノウサギの足跡をたどり,植生タイプ,林床植生,食痕・糞粒の出現状況を調査した。植生タイプ別にみると足跡は開放地,スギ林、クリ・コナラ林で多く,距離当りの食痕密度は林縁部でもっとも多く,次いでアカマツ林,落葉広葉樹林で多くスギ林や開放地では少なかった。糞粒密度はヤナギ林,落葉広葉樹林などで多く,林縁部では少なかった。採食環境を反映する食痕は林縁部で有意に多く,逆に開放地,スギ壮齢林で少なかった(カイ二乗検定)。林縁部が積雪期の採食環境として重要であることがわかった。
  • 佐野 明
    セッションID: P1175
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     三重県では,地域住民が効率的な追い払いを行なえるよう,ラジオテレメトリーを利用して,群れの接近をいち早く探知し,かつその情報を共有するシステムの整備と普及を行ってきた。そこでこのシステムのより効果的な運用を図るため,恒常的に被害を与えている群れの土地利用様式を調査し,追い払いの方法についても検討した。 調査は三重県上野市東部,阿山郡大山田村西部および名賀郡青山町北部一帯で行われた。調査対象とした「上野A群(仮称)」は成獣・亜成獣(新生獣は除く)あわせて約40頭からなる。 1998年5月から2002年8月までに129回(昼間119回,夜間10回),電波受信機による方探と直接観察を行った。群れの確認地点を地図上に記し,食害された農作物の種類を記録した。 日中に行われた119回のラジオテレメトリー調査で,上野A群が農地あるいはその周辺の林内で確認されなかったのは3回のみであった。大規模な季節的移動は見られず,通年,激しい被害を受けている集落があった。確認地点の最外郭を結んだ区域面積は,春季(3__から__5月)が18.8 km2,夏季(6__から__8月)が17.8 km2, 秋季(9__から__11月)が20.8 km2,冬季(12__から__2月)が19.6 km2であり,季節による変化は小さかった。これは、遊動域内の人工林率は70%を超えるため,自然林において見られる春季および秋季のエサ条件の向上があまりみられなかったことに加え,自家消費用に多品目の野菜が小面積ずつ作付けされ,周年収穫できるという農地利用形態のため,夏季および冬季のエサ条件の低下もあまりなかったことによると推測された。 夜間の調査は10回行われ,毎回,ねぐら(夜間の休息場所)を特定できた。ねぐらは一定しておらず,調査日ごとに異なったが,それらはいずれも農地周辺の林内にあり,最寄りの集落からは電波を強く受信できた。10回の調査のうち1回は,群れが翌日の午前中まで農地に現れなかったが,9回は日出直後にねぐらに近い農地に出没して農作物に加害した。したがって,夜間に1回方探することによって,最も無防備になりやすい早朝に加害される農地の予測ができた。夜間における群れの位置情報を,電子メールや有線放送,あるいは電話連絡網を使って共有化することにより,効率的な追い払いが可能になるものと思われる。 人慣れが進み,恒常的な被害を与えている群れの被害予測においては,夜間方探が有効な場合があることがわかった。
利用I
  • 櫻井 倫, 仁多見 俊夫, 小林 洋司
    セッションID: P1176
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年スイングヤーダの導入台数が急激に伸びている。スイングヤーダは最大スパンが短く架線の張り上げ高も低いため、これらの機械を存分に使うためには路網の充実が不可欠であり、あわせて路網配置の理論についてもその特性に合わせたものを検討する必要がある。 本研究で提案する手法では、対象林分内すべての地点へ一定の距離以内で架線を到達させることを第一義する。到達性を保証するために、林道網が通過すべき点を予め複数決定し、これらの点を開設延長が最短となるようにグラフ理論の手法を用いて結ぶことで、路網配置計画を決定する。本手法においては林道網が通過すべき点の抽出を自動化した点が特色である。 既存の路網から遠い区域から順々に計画路線を求めていくことで、到達性の保証を確実に行うことができる。すなわち、はじめに既存の林道網から距離と地形を用いて、予め設定した最大到達距離以内で架線を到達させることができる範囲を求める。このとき、架線を地形に邪魔されず架設できるか否かをあわせて判断する。つづいて既存の道路から最も遠い点を求め(以下、最遠点と称する)、最遠点に架線を到達させることができる範囲を求める。その範囲内に林道網が通過すべき点(以下、通過必須点と称す)を一点定める。 定まった通過必須点には林道網が至ることが保証されているので、これ以降は通過必須点を既存道と見なし、再び最遠点を求める過程へと戻る。対象林分すべての区域が、通過必須点を含む既存道からの到達範囲内に収まるまでこの手続きを繰り返す。これにより、既存道と通過必須点のみで林内全域へ架線の到達性を保証した成果を得ることができる。 通過必須点を求めたら、これらの点を最小の開設延長で結ぶことができる路網配置を求める。この問題はグラフ理論の最小全域木問題にそのまま帰着できる。しかし、山間部が対象であるため、対象域内には道路が開設できないような急傾斜の地域・方向が数多く存在する。したがって、通過必須点間相互および各通過必須点と既存路網との距離を求めるときにはDijkstra法を使用し、許容範囲を超える急傾斜のある区間については距離無限大のペナルティを科す。これにより、二点間の開設延長をより現実的な値として得ることができる。 つづいて構築した林道網配置システムを用い、実地における林道配置計画を行った。対象としたのは大分県玖珠郡九重町の民有林で、面積は28.6ha,付近の既存道路は2088mであり、林道密度は73.02m/haとなる。 道路からの最大到達距離を150mとして計算を行ったところ、道路開設延長は2137m,平均集材距離は32.7mとなった。また最大到達距離を50mから250mまで変化させて計算を行ったところ、最大到達距離225mまでは最大到達距離が伸びるにつれて平均集材距離が短くなり開設延長が伸びたが、最大到達距離250mになると平均集材距離は逆に長くなり、開設延長は減少に転じた。また最大到達距離が100mを下回ると急激に効率が悪くなることがわかった。 本研究では到達性を最優先した路網配置プログラムを提示した。計算に時間の掛かるのが難点であるが、本手法により到達性について保証された林道網配置計画をパーソナルコンピュータレベルで計算することが可能となった。また計算結果より林道密度が十分なレベルであっても地形次第で路網の開設が必要なことが明らかとなった。
  • 弾塑性有限要素法による検討
    山崎 一
    セッションID: P1177
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.背景及び目的これまでに筆者らが行った平面ひずみ模型載荷実験では,木製構造物で補強された法面は補強領域が一体化し,その外側にすべり面を生じる破壊モードを示した。しかし,上載荷重が過大な場合や,部材の腐朽が進行した場合には,構造物の破損によりすべり面が補強領域内を横切る状況も想定される。いずれの法面破壊パターンとなるかは,部材に作用する応力がその時点の許容レベルを越えるか否かによって決まることになり,一般的な安定評価の手続きとしては,部材力の定量予測が極めて重要なポイントとなる。有限要素法によるシミュレーションでは,実際の力学状況を直接反映することができ,様々な工学的問題に応用されている。しかし,木製構造物を対象とした有限要素解析では,構造物のモデル化に関して次の点が課題となっていた。1)壁面剛性の過大評価:実構造物の壁面部では,部材を固定する釘や異形鉄筋の曲げ剛性は小さく,壁面は比較的変形しやすい。しかし,単純に要素分割しただけの解析メッシュでは,構造物全体が一体としてモデル化され,部材の全断面が壁面の曲げに著しい抵抗を示す。2)補強材-土間の力学的相互作用の過大評価:補強材と土の境界面に生じる力には限度があり,それに達するとすべりを生じる。通常の要素分割では,補強材と土の境界に位置する節点が,部材と土の両方に共有され(すなわち,境界は部材・土の両属性をもつ矛盾を生じる),相対変位が許されないために,土-部材間では全ての応力を互いに伝達しあう。これらの要因によって,構造物の効果が過大に見積もられ,計算された支持力は実験結果を大幅に上回った。従って,本稿では上記二点についての改善を図ることにより,シミュレーションによる法面挙動の再現を試みると共に,そのときに生じる部材力の分布を検討する。2.方法本研究では,破壊規準にMohr-Coulomb式を,塑性ポテンシャルにDrucher-Prager式を適用する弾完全塑性構成モデルに基づく,二次元有限要素解析を行った。まず,要素データの作成が容易な斜面形状を想定し,より実際的な構造物のモデル化について検討した。断面形状を単純に矩形要素に分割したオーソドックスな有限要素(メッシュ1)とは別に,隣り合う部材間の接触を一点だけにすることによって,壁面部の曲げ剛性を低下させた(すなわち,構造物が壁面部における変形を過剰に制約することを避けるように配慮した),メッシュ2を作成した。さらに,その条件に土・補強材間の境界面に対応する要素を挟んだメッシュ3を準備した。境界面のモデル化には特殊な要素を用いる手法もあるが,ここでは最も簡易な方法として,幅の狭い二次元要素を境界層として追加した。この場合,要素データが増えるだけで,解析プログラムの変更は必要とならない。以上のメッシュ条件について,補強域上方へのフロント載荷を想定したシミュレーションを実行した。3.結果と考察前述の仮想斜面に関する有限要素解析によって,下記の載荷板圧力-押込み量関係が得られた。すなわち,壁面における要素間の非現実的な拘束を除いただけで,ピーク強度は半減しており(メッシュ1-2間),さらに,補強材-土間の接触面を考慮することによって,ピーク圧力後に荷重がやや減少する傾向を示した。斜面条件が異なるため単純に比較できないが,これらのメッシュ分割法の工夫によって,模型実験の結果に近い支持力特性を再現できた。本研究では,さらに,模型実験の条件と対応したシミュレーションを行い,以上の構造物のモデル化について,実測結果との比較に基づき検証を行う。また,部材力についても定量的に検討する。構造物の力学特性をこのように定量的にモデル化することによる意義は大きい。それは,丸太組・木製ブロックの違いや部材固定法など,異なる壁面仕様の相互比較や,腐朽に伴う補強材表面の摩擦特性の変化が法面安定性に及ぼす影響の予測など,木製構造物の詳細な安定評価に応用することができるためである。
  • 現場設計者に対するアンケート調査による
    山口 智, 梅田 修史, 鈴木 秀典
    セッションID: P1178
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     林道工事において、再生産可能な資源である木材の使用が推進されたことで、各地で様々な木材の使用が試みられ、平成11年からは標準歩掛が制定され始めている。そのような状況の下で、各地で施工される木製構造物を現場で設計している技術者(県や市町村、森林管理署等の担当者)が、どの構造物を多く施工しているか、また、治山事業や林道工事で設置される構造物を木材で作ることにどのような意識があるのか、調査した例は少ない。
     そこで、現場の技術者が求める木製構造物のあり方を探り、木製構造物の改良に資する情報を得ることを目的として、それらの事項に関する調査をアンケート形式で行った。
     回答者の中でどのような木製構造物が施工されたかという選択肢式の質問に対し、最多の回答は木柵工で37名中25名が施工したと答えた。以下、木製ブロック積工(15名)、法枠工(9名)、丸太筋工、木橋(各8名)の順で多かった。なお、8名の回答者が選択肢以外の構造物を施工したと回答した。そのうち、治山や林道に直接関係のないと考えられる工種(公園設備など)については除外した。
     木製構造物には多様な工種があるが、それらを設置目的や力学的特徴によって、いくつかのグループに振り分けた。個々のグループを「工種群」と称す。工種群には、自重式、地盤反力式、導水、木橋、緩衝、その他の6つがある。
     個々の構造物に対して、使用材料、木材への防腐処理、破損した場合の対応などについて調査した。そこで、工種群とこれらの事項とのクロス集計を行った。以下において、「AとBの組み合わせ」を示すのに「A×B」と表記する。
     「工種群×使用木材」をみると、全体的にスギが最も多く使われていたが、その中では木橋で使われることは少なく、反対に地盤反力式工種群の構造物で使用されることが多かった。そこから、材種特有の強度や防腐能力が期待されていることがあると考えられる。 「工種群×防腐処理」をみると、導水工種群の構造物では薬剤処理された木材の使用がほとんど無く、自重式工種群や地盤反力式工種群の構造物でも薬剤の使用が比較的少なかった。逆に薬剤使用が多かったのは、木橋と緩衝工種群の構造物であった。ここから、使用目的によって防腐処理方法が考慮されている現状がうかがえる。
     「工種群×一部破損時処理」をみると、全体で破損した部分の部品交換をすると答えたところが多かったが、地盤反力式工種群の構造物については放置と部品交換の選択者数が拮抗していた。
     「工種群×木材腐朽時処理」をみると、自重式工種群や地盤反力式工種群の構造物では放置すると答えたところが多かったが、木橋についてはほとんどが部品交換すると回答し、緩衝工種群の構造物でも部品交換と答えたところが多かった。
     これらから、地盤反力式工種群や自重式工種群の構造物は放置を、木橋や緩衝工種群の構造物は交換前提に作られている傾向が見られた。
     「防腐処理×一部破損時処理」をみると、防腐処理をしていないものでの回答では部品交換と放置の選択者数が拮抗していた。一方、何らかの処置を施しているものについては部品交換をするという回答が多かった。
     「防腐処理×木材腐朽時処理」をみると、防腐処理をしていないものでの回答では放置という回答が圧倒していた。一方、処置を施しているものについては部品交換と放置の選択者数が拮抗していた。
     それらから、放置するならば防腐処理をしないという方針が多くとられている傾向を見て取ることができる。また、できれば部品交換を行いたいという工種については、自由回答も含めて検討すると維持管理に苦慮している傾向が見られた。
     以上のことから、現場において材料の特性に合わせた施工がなされ、管理手法を模索しているところが多いことを確認することができた。
  • 植栽木の消長
    山田 健, 遠藤 利明, 佐々木 達也
    セッションID: P1179
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     造林作業機械化の一環として、植付け前の地表処理を行うこととした。どのような処理方法が苗木にとって適切なのか知見を得るために、マウンディング、耕耘の2種類の地表処理を行い、マウンドと対になるピット、対照区としての無処理を含む4区分に苗木を植栽し、経過を調査している。 苗木の枯死率はマウンドで高く、ピットで低く、その原因として土壌水分条件が考えられた。
防災I
  • 佐野 俊和
    セッションID: P1180
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    林野火災の発生原因の多くは人為的なものであるが、その誘因として林床可燃物の含水率が20%を下回ると引火が容易になり、延焼拡大しやすくなるといわれている。そこで、林床可燃物の含水率を林内の気象観測値及び最寄の気象観測官署の観測値から予測することを試みた。その結果、林床可燃物の含水率を林内実効湿度から予測するには精度が不十分であった。また、森林の種類別に林内実効湿度を気象官署観測値から計算した実行降水量、乾燥指数による推定を試みたが、これも十分な精度が得られなかった。
  • 久米 朋宣, 蔵治 光一郎, 吉藤 奈津子, 諸岡 利幸, 鈴木 雅一
    セッションID: P1181
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    降雨後に濡れた樹冠面が乾ききるまでの時間とは,遮断蒸発と蒸散という水循環の重要な構成要素がともに生起する遷移期間である.特に,湿潤熱帯域の降雨は温帯域の降雨と比較して,1イベントの降雨時間が短く,イベント回数が多いという特徴があるため,遮断蒸発と蒸散の遷移期間の回数が多くなると考えられる.ゆえに降雨後に樹冠が乾くまでの時間,その時間を決める要因を明らかにすることは,熱帯雨林の蒸発散量を推定するうえで有益な情報となる. ここで,樹冠の付着水分は,気孔を閉鎖させ,また気孔のガス交換を阻害するので蒸散量を減少させる.樹冠が濡れている期間には樹液流が生じないことが確認されているので,樹液流測定は樹冠の濡れ具合についても情報を与えるものと思われる. 本研究では,混交フタバガキ林の主用樹種の1つで樹液流測定を行い,樹液流測定値を用いて濡れた樹冠面が乾ききるまでの時間(Canopy Drying Time: CDT)を推定した.またこのCDTを決める要因について考察を加えた. その結果,CDTの推定値は,降雨終了時刻が午前の場合と午後の場合とで,値のとる範囲及びばらつきが異なった.降雨終了時刻が午前の場合は,CDTが65-414分,午後の場合は39-103分となった. これらのCDTの値の取る範囲の違い,ばらつきの要因について,降雨後の蒸発強度(日射と大気飽差),降雨特性,降雨の日周変動に着目して検討した. 
  • 飯田 真一, 田中 正
    セッションID: P1184
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    暖温帯の極相に相当するシラカシ林への遷移過程にある現在のアカマツ二次林を対象として遮断量の観測を行い,アカマツの単層林であった過去の遮断観測例との比較検討に基づき,植生遷移による遮断量の変化およびその要因を解明した。林内雨量はほぼ変化しなかったものの,樹幹流下量が過去の14.6mm(林外雨量の1.2%)から現在の105.9mm(9.2%)まで増加したため,遮断量は208.7mm(17.2%)から114.7mm(9.2%)まで減少した。また,推定された林分の降雨貯留量は明らかに減少したが,降雨中に発生した遮断量はほぼ変化しない。したがって,林分の降雨貯留量の減少により遮断量が変化したものと結論される。
  • 品川 哲郎, 太田 岳史, 小林 菜花子, 檜山 哲哉, 福嶌 義宏
    セッションID: P1187
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     森林生態系におけるCO2の動態の解明には、土壌からのCO2放出量の解明が必要不可欠である。しかし、林床からのCO2放出量は時空間的に大きく変動するため、まずその変動要因を解明する必要がある。また、林床からCO2放出量に影響を与える環境因子として地温と土壌水分が注目されてきたが、これら環境条件と林床からのCO2放出量の関係は必ずしも定量的に整理されているわけではない。特に実際の現地観測において、土壌水分と土壌呼吸量の関係は明らかにされていない。そこで、複数のチャンバーを用いて土壌呼吸量の時空間的な分布及び特性を検討した。 観測対象地域は北海道苫小牧市郊外の苫小牧フラックスリサーチサイト内にある落葉針葉樹林人工林(41°44’ N, 141°31’ E)である。人工林内には高さ26mのタワーが設置されている。主要構成樹種はカラマツで、群落はカラマツの人工林にエゾマツや広葉樹が混ざる形で構成されている。カラマツの樹高は18から20mで、樹齢は約40年である。林床には密にシダ類が繁茂している。2001年度の年平均気温は5.0℃、年間降水量は1132mmであった。本研究ではタワーから北西に約70m離れた地点に土壌呼吸観測機器を設置した。 本観測では、対象木と対象木を結んだトランゼクトライン上に8個の自動開閉式チャンバー(ハイドロテック)を等間隔に設置した。チャンバー間隔(中心)は1.25mとした。チャンバーは測定有効底面積が0.09 m2、測定有効容積が0.018 m3の直方体である。CO2の濃度変化は赤外線ガス分析装置(LI-6252、Li-cor)を用いて測定しデータロガー(CR10X、Campbell)に記録した。各チャンバーの測定時間は5分間とし、最初の1分間は蓋を開けたままで空気の循環を行ない、残りの4分間で蓋を閉じ濃度上昇を測定した。地温の測定にはサミスタセンサ(HOBO H8 Pro Series、onset)を、体積含水率の測定にはTDR(CS615、Campbell)をそれぞれ用いた。2002年9月18日から10月31日まで観測を行なった。観測開始から3週間経過後8つのチャンバーの中から4つのチャンバーを選びチャンバー下の根を掘り出し、根系が存在しない状態での呼吸量を測定した。残りの4つのチャンバーは対照として、根系除去の処理は行なわなかった。 降水量及び土壌呼吸量、地温、体積含水率の経時変化については、9月28、29日、10月1、2日、10月4日、10月6、7日、10月27日に土壌呼吸量が急激に増加していた。体積含水率も土壌呼吸量と同様に9月28、29日、10月1、2日、10月4日、10月6、7日、10月27日に値が急激に増加した。土壌呼吸量の急激な増加は、体積含水率の急激な上昇が原因であると考えられる。降雨のあった期間は土壌呼吸量の急激な増加が見られた期間と一致していた。以上のことから、降雨があるとそれに伴い体積含水率が増加し、何らかのメカニズムによって土壌呼吸量が増加すると考えられる。 そこで、土壌水分量の変化を調べ、降雨の影響を受けている期間を定義した。降雨の開始は土壌水分量が急激に増加を始めた時刻とし、降雨の影響がなくなったとみなされる時刻は減水係数λを用いて求めた。降雨の影響を取り除いた前後の土壌呼吸量と地温との関係を比較した結果、降雨中・直後の値が除かれ、R2の値が降雨の影響を削除する前より削除した後の方が高くなった。よって、降雨の影響を取り除くことによって、水の浸透による土壌のメカニズムの影響が除かれ、結果として土壌呼吸量そのものと環境因子の関係が導出できると考えられる。
  • 林業用車両座席の振動特性
    呉 宰憲, 朴 範鎮, 有賀 一広, 仁多見 俊夫, 車 斗松, 小林 洋司
    セッションID: P1189
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    本硏究は、林業用車両の座席のHz基本振動伝達特性と人体各部位の振動伝達特性を究明することにより、その振動低減化のための合理的設計指針を得ることを目的とする。そのため4機種の車両系林業機械の座席を供試し、室内て3軸6自由度振動試験装置を利用し、車両系林業機械の座席を0から50Hzまで加振して、その時の人体の加速度を測定し人体の振動応答特性を分析した。その結果、振動伝達の度合は座席の種類によって減衰特性の差異がみられた。また、人体各部位の共振周波数は3__-__10Hzの低周波数域に見られた。従って、振動の伝達面から 林業用車両の座席の防振を考える時、共振点のある低周波数成分をできる限り小さくすると同時にエンジンの振動なども十分に考慮する必要がある。
  • 簡易試験装置による切創試験
    鹿島 潤, 今冨 裕樹, 陣川 雅樹
    セッションID: P1190
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     チェーンソー用保護衣は海外のメーカーによる製品が主となっており、国産品で耐切創性をうたっている製品は少ない。海外ではISOをはじめとする耐切創性試験の規格があり、この試験をパスした製品が安全性をうたい文句に販売されている。一方、我国では、チェーンソー用保護衣の耐切創性・安全性に関する規格が無く、国内のメーカーは保護衣を開発する際の規準がかわからない状態にある。さらに、海外規格の試験を国内で行う施設もなく、海外で試験を受ける方法もよく知られていないことが国産のチェーンソー用保護衣の開発を遅らせている原因と思われる。そこで、チェーンソー用防護衣の耐切創性を評価する項目を明らかにし、試験方法を検討することを目的として、チェーンソーを用いた試験装置を製作し、市販の保護衣等の切創試験を行った。 試験片を直径100mmの丸太に10mm厚の発泡性素材を巻き付けたものに取り付けた。試験装置のチェーンソー取り付け台はベアリングを入れた軸に取り付けられ、軸を中心に滑らかに回転できる。試験では、錘でバランスをとり適度な荷重でソーチェーンが試験片に切れ込むようにした。試験手順は、1)試験片を取り付けた丸太を装置にセットする、2)ソーチェーンスピードを一定(23m/s:フルスロットル状態[エンジン回転14000rpm])にする、3)ソーチェーンと試験片の隙間がなるべき小さくなるようにチェーンソーの位置を決める、4)スロットルレバーから手を放すと同時にチェーンソーを試験片に落とす、5)ソーチェーンの動きが停止した状態で試験を終了する、とした。なお、試験ごとにソーチェーンが試験片に接触してからチェーンの動きが止まるまでの時間を測定した。ソーチェーンのスピードを23m/sとしたのはISOやEN(ヨーロッパの規格)の試験では最低のチェーンスピードが20m/s(評価:クラス 1)であるので、それ以上の切創性を得られるものと期待したためである。試験では市販品とメーカーの試作品を含めて20種類以上の試験片で試験を行った。試験の結果、試験片の繊維の種類・織り方、積層パターンの違いによってソーチェーンへの繊維の絡み方とソーチェーンの停止時間が異なることが明らかになった。さらに、ISOやENにパスした製品でも、ソーチェーンが試験片を切り抜けて取り付けの発泡性素材まで達した場合があったので、本試験はISOやENの低評価(クラス1)試験に比べハードな試験であったと考えられる。 チェーンソー用保護衣の耐切創性を評価する項目として、1)試験片へのチェーンの切れ込み深さ、2)チェーンの停止時間、3)チェーン及びスプロケットへの繊維の絡み方、の3項目が重要であると考えられた。作業者の安全性の点では1)が特に重要で、防護衣を構成する素材をチェーンが切り抜けないことが防護衣に求められる最重要点である。また、2)もチェーンの2次接触等によって防護服以外の場所で怪我をさせないために重要な点である。3)はどのようにチェーンを止めるかを評価することができるので、素材の構成を評価する上で重要な項目になるとともに、繊維がチェーンに絡むことによってチェーンが身体の他の部位に触れることを防げるので2)と同様に重要な項目である。 今回製作した装置によって試験片同士の耐切創性の優劣評価を行えるとともに、保護衣または保護衣を構成する素材を簡易評価できることが分かった。また、試験を通して保護衣の耐切創性を評価するのに必要な項目が明らかになった。今回製作した装置では、チェーンソーを台に固定する方法をとった。この方法では、チェーンのスピードを一定に保つことが難しく、また、様々なチェーンスピードで繰り返し試験を行うことが難しい。モーターによってチェーンを駆動させ、安定したチェーンスピードが得られるように改造することで、より正確な評価を行えるようになると考えられる。
  • 佐々木 達也, 遠藤 利明, 山田 健
    セッションID: P1191
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     マルチシートの敷設を効率よく行うための一つの方法として,立った姿勢のままで作業できる,留め具を打ち込むための作業具を考案し,試験した(図__-__1)。試験は,留め具を地面に打ち込む時間を測定した。その結果,固い地面では手刺しより作業具を用いた方が,作業時間は短く,逆に軟らかい地面では,手刺しの方が時間は短い傾向になった(1)。しかし,手刺しでの作業では,移動なしに留め具を打ち込む場合も見受けられるため,移動時間も含めた計測が必要である。(1)の報告では,留め具を打ち込む作業の時間だけを測定し,マルチシートを敷く作業からの一連の作業時間を測定したものではないため,本報告においては,マルチシートを敷き,留め具で固定する作業までをマルチシート敷設作業とし,移動時間を含めた作業時間を計測し,手刺しと試作作業具を用いたそれぞれの場合を比較する。

    2.方法
     茨城森林管理署管内にて試験を行った。マルチシートは1m×1mのポリエチレンフィルム製のものを用い,留め具は針金をU字型に成形したものを用いた。作業時間は,一連の作業をビデオカメラで撮影し,時間を計測した。手刺しと試作作業具の作業時間は以下のように計測した。 手刺し作業については,マルチシートを敷き,留め具をシートの四隅と中央の5か所に手で打ち込んだ。すべての箇所に留め具を打ち込み終えるまでの時間を手刺し作業時間とし,また,シート敷き,留め具打ち込み,移動の各要素作業時間を測定した。
     試作作業具による作業については,マルチシートを敷き,留め具をシートの四隅と中央の5か所に試作作業具を用いて打ち込んだ。すべての箇所に打ち込み終えるまでの時間を手刺し作業時間とし,また,シート敷き,留め具打ち込み,移動の各要素作業時間を測定した。留め具打ち込みの時間には,留め具を作業具に供給する時間も含める。 (1)の報告では,平地だけで試験を行ったが,傾斜地では,傾斜により移動時間に差がみられると予想されたため,今回は,緩傾斜地と急傾斜地において手刺しと作業具を用いた試験をそれぞれ行い,その作業時間について計測を行った。

    3.結果
     作業具では5か所にそれぞれ留め具を打ち込むために移動が必要であり,手刺しの場合には移動が必要ない場合もあったため,その分,作業時間は作業具の方が長くかかった。
     今回の試験により,留め具を打ち込む作業具,または機械を作る際に留意すべきいくつかのポイントが明らかにされた。
  • 岸上 廣司, 石川 知明
    セッションID: P1192
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     林業労働者を対象として、滋賀県の二つの事業体を取り上げ、全体の事業量の確保および年間を通じての仕事量の均等化がどのように行われているかを調査し、その結果をもとに、仕事量の均等化について検討した。 その結果、仕事量の確保は、両事業体とも林業作業以外のものを取り入れることによって対応していた。均等化について、一方の事業体は林業作業以外のもので調整していたがこれらの作業量自体も季節変動が大きいことから均等化は困難であった。これらを解消するためには、治山事業などの公共事業のの発注時期を関係事業体などと協議しながら均等化に協力するという行政側の配慮が必要と思われる。もう一方の事業体では冬期に作業員を県南部に派遣するという方法で均等化を図っていた。これはこの事業体にとって利点となるばかりでなく、冬期の仕事量が増加する県南部の事業体にとっても貴重な労働力として期待されている。 このように、仕事量の確保および均等化を図るには、林業以外の作業も積極的に取り入れるとともに、公共事業の発注時期の調整、県内全域単位での作業者の派遣などを総合的に検討する必要があると考えられる。 
  • ―サラワク・ランビル国立公園における観測の解析―
    南光 一樹, 諸岡 利幸, Manfroi Odair Jose, 堀田 紀文, 蔵治 光一郎, 鈴木 雅一
    セッションID: P1193
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに 雨滴の粒径分布は、雨滴侵食の侵食量の推定だけでなく、樹冠面が濡れていく過程や樹冠遮断量の推定の上でも重要な情報である(Calder, 1986)。温帯域に比べて強い降雨が多く、大きな雨滴が発生するといわれている湿潤熱帯域において、林内外の雨滴粒径分布を明らかにすることは、樹冠遮断・土壌侵食の両研究分野から望まれている。本研究では、レーザー雨滴計による連続的な観測より、温帯の観測結果との比較を通して、熱帯における林内外雨滴分布特性を論じる。
    2.観測地及び観測方法 観測地は、ボルネオ島中北部海岸部に位置するランビル国立公園(サラワク州ミリ市郊外、4°20'N 113°50'E 標高150-250m)である。雨量・雨滴観測には、0.5mm転倒マス雨量計とレーザー雨滴計を用いた。林外観測ポイントは、樹冠到達前の雨滴を観測するために国立公園内に建設された80mクレーンの77m部に設定した。林内観測ポイントは樹冠高が30__から__50mの高さに連なるフタバガキ科が優占する林内に設定した。林内ポイントの開空度は15.2%である。 レーザー雨滴計は、サンプリング部を通過する個々の雨滴のレーザー遮光量から雨滴粒径を算出する。粒径とレーザーの遮光率との関係式は、粒径が既知であるガラスビーズによる検定実験から導いている。本来落下する雨滴は回転楕円体であるが、扁平率が極めて1に近いので、球形として扱った。 熱帯の対象として、2002年8月の観測データを用いた。温帯の対象として、2001年に同じ測器を用いて著者が行った東京大学千葉演習林袋山沢試験流域での観測から得られたデータを用いた。林内雨はヒノキ人工林(平均樹高19.1m、最下生枝下高14.9m)で観測されている。ここでは条件を等しくするため、ランビルで得られた降雨イベントの内、最大10分降雨強度が3.5mm以下の熱帯では比較的弱い降雨イベントを対象に比較を行った。
    3.結果 まず、林外雨について比較する。千葉、ランビル共に1.5mm以下の雨滴が大きな割合を占め、大きな雨滴になるほど小さい割合を占めていくようになっていた。最大雨滴粒径は千葉で3.64mm、ランビルで5.97mmであり、千葉の最大粒径である3.64mmよりも大きな雨滴は、ランビルの雨量の19.0%を占めていた。弱い降雨強度ながら、千葉に比べてランビルで大雨滴が発達するのは、熱帯と温帯における雲・降水システムの違いによるものであると考えられる。また、ランビルではより強い降雨強度のイベントでも最大粒径は6.28mmであり、降雨強度と雨滴粒径とに相関は見られなかった。 次に、林内雨について比較する。林外雨よりも大きな雨滴が発生しており、最大雨滴粒径は千葉で7.00mm、ランビルで8.03mmであった。雨滴が樹冠上で結合して巨大化していることが示されている。また、それぞれの粒径分布は林外雨では異なっていたのにもかかわらず、千葉・ランビル共に似た形をしており、1mm付近と5,6mm付近にピークを持った。弱い強度の降雨イベントにおいては、天然熱帯林、温帯ヒノキ人工林にかかわらず林内雨滴はほぼ同じ粒径分布をもつことが確認された。 7mm以上の大きな雨滴は、林外では落下速度に対する空気抵抗に耐え切れず、地表到達前に分裂してしまうと言われている。したがってランビル林内で観測されたこれらの雨滴は、上層の樹冠からではなく、下層植生の樹冠から滴下した分裂前の雨滴であると考えられる。千葉では下層植生がなかったため7.00mmが最大であった。上層木の樹種ではなく生枝下高や下層植生の有無が林内の雨滴粒径分布に影響を与える可能性がある。
  • 佐藤 嘉展, 久米 篤, 大槻 恭一, 小川 滋
    セッションID: P1194
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    森林地における水循環過程を定量的に評価するために,九州地方の主要造林樹種であるスギ林とマテバシイ林を対象として,降雨として供給された雨水の配分特性を明らかにするために,樹冠遮断量とリター遮断量を推定するモデルの構築を試みた.樹冠遮断量を推定するモデルについては,簡易なタンクモデルを適用した.このモデルは,各降雨日における樹冠通過雨および樹幹流の発生開始雨量と林外雨量に対する樹冠通過雨量および樹幹流下量の比率から,樹冠通過雨量と樹幹流下量を推定し,この推定値を林外雨量の実測データから差し引くことによって樹冠遮断量を推定するものである.モデルパラメータは,各林分における実測データから同定し,樹冠通過雨量の空間的なばらつきや樹幹流下量の樹木サイズによるばらつきを考慮して,林分平均値となるように補正を行った.樹冠遮断量は1日単位で計算され,各降雨日に遮断された雨水は1日以内に蒸発するとみなし,翌日の遮断量には影響を与えないと仮定した.リター遮断量を推定するモデルについては,各降雨日におけるリター遮断量と降雨後のリター層からの蒸発速度を推定する2つのモデルから構成される.各降雨日におけるリター遮断量は,リター層へ雨水を供給する樹冠通過雨の量を,樹冠遮断タンクモデルの出力値から推定し,この樹冠通過雨量と現地に設置したライシメータによる観測結果から得られる実測リター遮断量との対応関係から,対数近似関数を用いて推定し,降雨後のリター層からの蒸発速度は,リター層内の含水率に比例して変化する特性が見られたため,リター層内含水率に対する線形近似関数によって推定した.本研究では,この樹冠遮断モデルとリター遮断モデルを用いて,樹冠部での雨水配分量と林床での雨水配分量を推定した後,最終的な土壌への水分供給量を推定し,樹冠構造や林床リター層の堆積構造が,森林地における雨水配分に与える影響評価を試みる.
  • 清水 貴範, 清水 晃
    セッションID: P1196
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    暖温帯のスギ・ヒノキ人工林流域で、気象観測タワーによる熱収支観測と、流域水収支の観測を行っている。最もインテンシブな観測が行われてきた小流域では、既に水収支と気象観測との整合性が示されている。しかし、その流域と隣接する小流域では、2000年の水流出量に20%以上の差が生じることが判明した。隣接した小流域で乱流変動法を適用した結果、流出量の相違には夏季の蒸散量の差異が影響している可能性が示唆された。今後の展開として、他の季節のデータも精査するとともに、熱収支インバランスに関する検討を行っていく必要があることが明らかになった。
  • 小南 裕志, 深山 貴文, 玉井 幸治, 後藤 義明
    セッションID: P1197
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    京都府相楽郡山城町の山城試験地の同一流域内に設置した2本の気象観測タワーにおいて、CO2濃度の絶対値が比較可能な方法でCO2濃度の鉛直分布の連続観測を行い、複雑地形上でのCO2貯留量の変動の解析を行った。その結果、凹部に相当する谷の貯留変動量の方が,30%程度大きな値が観測され、凹部の方が溜まり込むCO2がやや大きいことが得られた。しかし相互の関係では、非常に安定度が低い場合以外ではヒステリシスは観測されず(30分間隔測定)、双方のデータの時系列追従性は非常に高い。従って貯留量自体も凹部に極端に大量のCO2が貯留するといった結果は得られなかった。このことは比較的小規模な微地形要因は全体の混合にはそれほど寄与しないか、あるいは移流が速やかに進行しているという可能性が考えられた。
  • 深山 貴文, 小南 裕志, 玉井 幸治, 後藤 義明, 伊東 宏樹
    セッションID: P1198
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     現在、山城試験地では落葉常緑樹混交林における二酸化炭素交換量の評価を行うため、乱流変動法によるCO2フラックスの連続観測が行われている。しかし、この手法によって観測されるCO2フラックスは大気__-__森林間での値であるため、さらに森林内における内部動態を知るためには、積み上げ法等による純生産量の測定、植生や土壌面でのチャンバー法による観測結果等が必要であり、これらの観測も平行して行われている。特に近年、山城試験地では葉群チャンバー法によって葉面における総光合成量の観測も行われており、群落総光合成量と純生産量の差から樹体呼吸量の推定が行われている。今後、この推定結果についてチャンバー法による樹体呼吸量の実測値と群落全体の樹体表面積の推定値からの検証を行うことが必要とされている。そこで本研究では、自動幹チャンバーの観測結果と伐倒調査及び毎木調査の結果を用いて山城試験地における樹体呼吸量の推定を行うことを目的とした。
     試験地は森林総合研究所関西支所管内の山城試験地(NL 34°47', EL 135°50', 220m)である。この試験地は京都府南部の相楽郡山城町北谷国有林509林班い小班に位置する1.6haの流域試験地である。試験地では1994年と1999年に試験地全体のDBH3cm以上の木本を対象とする毎木調査、1999年から2001年にかけては隣接する森林において46本の伐倒調査が行われ、地上部現存量や地上部純生産量が報告されている。その結果によると樹木密度は5953本 ha-1、胸高直径(DBH)3cm以上の落葉樹と常緑樹の地上部現存量はそれぞれ57.78、24.52(t ha-1)で、地上部現存量全体の66%を落葉樹、28%を常緑樹、6%をその他の針葉樹とツル植物が占めている。葉面積指数(LAI)は6.61で、これは落葉樹の4.71と常緑樹の1.90の合計である。
     方法としては落葉樹と常緑樹の代表樹種としてコナラとソヨゴの成木を各1本選定し、それぞれの樹幹北面に風呂場用防水パテを用いて30分間隔で呼吸量を連続測定することのできる自動幹チャンバーを設置した。これはプログラマブルリレー(ZEN,オムロン社)によって電磁弁とポンプを制御し、樹幹に固定した容積910ccのアクリル製チャンバー内の二酸化炭素濃度を、循環用ポンプで赤外線式CO2アナライザー(LI-800,Li-cor)を通じて測定し、3分間の濃度差から樹体呼吸量の測定を行うものである。測定用の循環時間は30分に1回、各5分間であるが、それ以外の時間は換気用ポンプによってチャンバー内に外気を取り込んで換気を行っている。この自動幹チャンバーで得られた結果と、伐倒調査における広葉樹の分枝パターン及び毎木調査の結果等から群落全体における樹体呼吸量の推定を行った。
     8月のソヨゴとコナラ樹幹における30分間隔のチャンバー内気温と樹幹呼吸量の関係を散布図に示した。散布図におけるソヨゴとコナラの分布はほとんど重なっており、近似曲線もほぼ一致した。気温に対する呼吸量の変化で両者間に大きな差は無いと考えられる。日変化については、両者とも樹幹呼吸量の日変化の波形が気温の日変化の波形と概ね一致した。しかし、1時間程度の位相の遅れが発生する場合も観察され、これは気温に対する樹体温度の位相の遅れによる可能性が考えられた。
  • 風化カコウ岩地域の複雑地形にある森林の場合
    玉井 幸治, 小南 裕志, 深山 貴文, 後藤 義明
    セッションID: P1199
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    他の素過程や乱流変動観測の結果などと林床面CO2フラックスを相互比較するためには、林床面CO2フラックスを流域レベルで推定する必要がある。そのため、種々の観測が行われている山城試験地(34°47’N、135°50’E)を対象とした。落葉広葉樹が優占しており、土壌は風化カコウ岩を母材とし、未熟土的であった。 尾根、斜面上下、沢底の4ヶ所にプロットを設営した。尾根部と沢底部の標高差は約20m、水平距離は70mであった。各プロットで5cm深の土壌水分と地温を測定した。各プロットで24個のソイルカラ__-__からの土壌呼吸量を、2002年6__から__12月にかけて月に1__から__4回の割合で、測定した。その結果、山城試験地を対象に、林床面CO2フラックスを地温と土壌含水率から推定するモデルを開発した。斜面部位に関わらず、同一の関係式を用いることができた。
特用林産
  • 小林 久泰, 引田 裕之, 山田 明義
    セッションID: P1202
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的茨城県内アカマツ林において、(1) 林内に繁茂している広葉樹を伐採・整理し、(2) 林床の草本類を除去し、(3) Ao層をかき取る、という環境整備を行ったところ、マツタケの子実体発生本数の増加が認められた(前田ら、1999)。関東地方におけるマツタケ増産を目的としたアカマツ林の環境整備を行った事例はほとんど認められないため(前田ら、1999)、中長期的な環境整備の効果を追跡調査することは意義深いものと思われる。そこで、引き続き同試験地におけるマツタケ子実体発生量と菌根性きのこ相の推移を調査した結果を報告する。2.方法調査地は前田ら(1999)が調査したアカマツ林(面積:831 m2)である。前田ら(1999)に引き続き、1998-2002年にマツタケの発生本数の調査を行った。また、1998年、2001-2002年に発生した菌根性きのこの種類を調査した。引き続き行った環境整備として、マツ材線虫病によるアカマツ枯死木を毎年伐倒し、試験区外に除去した。また、2001年には新たに伸長した広葉樹を伐採・整理し、極度に堆積した落葉をかきとった。3.結果と考察マツタケの子実体は1998-1999年と減少傾向にあったが、2000年より微増の傾向に転じ、20本近くの子実体が発生した。最も少なかった1998年でも8本の発生が認められ、環境整備の効果が現れる前よりは多く発生した。これらの結果は最も多く発生した1997年には及ばないが、環境整備の効果が中期的に維持されていることを示すものと考えられる。その他の菌根性きのこの観察種数は1996-1998年に増加し、2001-2002年もほぼ同数のきのこが発生していた。マツタケの子実体発生本数とその他の菌根性きのこ発生種数の間の相関係数は0.786(n=8, p<0.05)の正の相関が認められた。このことより,マツタケの増産を目的とする環境整備はマツタケの子実体発生本数を増加させるだけでなく、その他に発生した菌根性きのこの種数を増加させていることが明らかとなった。マツタケ以外の有用な食用菌で,マツタケ子実体の発生数の増加と共に発生するようになり、複数年発生している種類には、オウギタケ、ガンタケなどが認められた。これらの種類はアカマツ林のマツタケ発生適地判定の指標とされるものでもある(伊藤・岩瀬、1997)。このことは、茨城県内においても、きのこ相に基づくアカマツ林の適地判定が可能であることを示している。
  • 佐藤 博文, 菅原 冬樹
    セッションID: P1203
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     豊富な森林資源の活用をはかるため、キノコの子実体増収に寄与する有用な成分を生薬類に求めてきたなかで、演者らは、これまでにヨクイニン粉砕物にヒラタケ子実体の増収能を認め、その効果を実証している。本研究では、ヨクイニンとその原料であるハトムギ粉砕物をマイタケ菌床培地に添加して、子実体収量の調査を行った。供試種菌は、森51号(森産業株式会社)を用いた。ヨクイニンは、市販品(ウチダ和漢薬)を、また、ハトムギは、広島県大和町産のものを殻ごと粉砕して用いた。なお、ハトムギは事前に風選し、内容が充実している順に製品、二番選および二番の3等級に大別し、それぞれを供試した。栽培試験は、市販のPP袋に一菌床あたり培地2.3kgを充填して行った。培地は、培養基材として、広葉樹オガコ2、廃ホダ8の容積比で混合したものに、栄養源195g(乾重、培地全重の8.5%に相当)の添加を基本とし、含水率が約65%となるように水を加えた。試験区は、栄養源の組成を変えることにより計12試験区設定した。試験1では、対照として、フスマ単独(1区)およびフスマ1、コーンブラン1の容積比で添加した(2区)2試験区を設けるとともに、これら栄養源をそれぞれヨクイニンにより4または8%分置換した3、4および5区を設定し、効果的な添加方法や割合等を見積もった。また、試験2では、試験1に対比して、3種類のハトムギを主にコーンブランと置換するかたちで4または8%ヨクイニン相当量を添加した6試験区と、栄養源195g分を全て二番ハトムギで置換した(12区)計7試験区を設定した。なお、各培地の供試数は1試験区8袋とした。調製した培地は、常法により直ちに高圧蒸気滅菌後、一晩放冷して種菌の接種を行った。培養は、温度22℃、相対湿度65%の暗条件下で50日間行った。発生操作は、菌床を温度17℃、相対湿度90%以上の連続照明条件下において原基形成を促し、管孔が開いた時点をもって、子実体の収量を調査した。試験1の結果においては、ヨクイニンをコーンブランに代えて4%添加した3区に若干の増収傾向がみられ、対照区(1、2区)の平均収量がそれぞれ392.5、378.0g/菌床のとき、3区では414.3g/菌床を示したが、これをフスマと代えた4区にそうした傾向は認められなかった。一方、ヨクイニンの添加量を8%に倍増した5区の収量は、329.2g/菌床と顕著に減少した。また、試験2の結果からは、こうした傾向がさらに確認された。すなわち、3区における4%ヨクイニン相当量を様々なグレードのハトムギで置換した6、8および10区では収量の増加が認められ、特に製品と二番選級を添加した6、8区では、いずれも485g/菌床前後の収量を示し、対照区収量に比べて二__から__三割増加していたが、これらの倍量を添加した7、9および11区では、400g/菌床前後の収量にとどまり、いずれも4%区のそれより低かった。発生状況においては、2区で収穫に要した日数がやや長くなる傾向はあったが、残りの試験区に大差はみられなかった。また、収穫時の形態においては、1区で葉が小さく茎の目立つものが多く、5区で未分化の生育原基が部分的に散見された。以上の結果から、ヨクイニンおよびハトムギ粉砕物4%の培地添加により、マイタケ森51号における子実体発生量の増加が確認され、ヨクイニン成分による効果以外に、殻部分の添加も増収に大きく寄与することが示唆されたが、他方では、これらの大量添加により逆に収量が低下することも明らかとなった。マイタケの収量を左右する要因として、栄養源以外では、一般に培地の通気性や保水性および水分含量が大きく関係しているといわれ、培地に使用するオガコの材質や粒径などによって収量が変化することが知られている。本試験において供試したハトムギ粉砕物は、直径1.5mm程度のメッシュを通過したものであるが、殻の効用について探るためには、今後こうした物理性の面からも検討する必要があるだろう。
林政II
  • 永山 啓一, 中根 周歩
    セッションID: P2001
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに
    吉野川可動堰計画の反対運動を契機につくられた各分野の専門家委員会は、その代替案として、「緑のダム」と言われる森林の多面的機能に注目している。具体的には、スギ、ヒノキ人工林を間伐し、針広混交林化することで森林の治水機能を高め洪水制御しようとする案である。その根拠となる森林水文学的な調査が行われる一方で、この計画の経済性の検討が必要とされている。そこで、本研究では、この「緑のダム」と可動堰案の費用対効果分析を行うことを目的とした。
    2.方法
    (1).各県森林簿、森林調査簿をもとに可動堰が予定されている徳島県石井町第十付近までの吉野川集水域の森林について樹種ごとの面積を求めた。また間伐不実施面積も行政資料から推定した。
    (2).一般的な林業施業として、植栽後1から7年目まで下刈り、10年目に枝打ち、15年目に除伐、25年目に間伐、枝打ち、35年目に間伐を行い、伐期60年としたときの1haあたりの林業収支をスギ、ヒノキの各人工林について求めた。その際、木材の市場価格については四国各県の2002年平均値を用いた。林業施業に掛かる事業費は各県の平均値を用いた。また、その他、木材の集材搬出にかかる費用等は徳島県、高知県の林業従事者の聞き取りから得られた値を用いた。
    (3).「緑のダム」計画では、一般的な施業に加え、45年目に間伐、枝打ちを各1回ずつ多く行い立木密度を1haあたり600本程度にしていくと想定し、同様に伐期60年の1haあたりの林業収支を求めた。次に、一般的な施業と「緑のダム」計画での収支の差をスギ、ヒノキ人工林について求めた。この差を吉野川流域全体のスギ、ヒノキ人工林面積を乗ずることで「緑のダム」計画のコストとした。その上で「緑のダム」と可動堰の洪水制御機能が同程度と仮定したとき、「緑のダム」コストと旧建設省が発表した吉野川可動堰建設費用、および維持費用とを比較分析した。
    3.結果と考察
     「緑のダム」計画に伴う損失は、1haあたりスギ172万円、ヒノキ20万円であった。現在、間伐が不十分な森林に対して間伐を行い、行政がこの損失分を補助金として補填した場合、60年間で約681億円必要であることが分かった。一方、可動堰建設費用は950億円、年間維持費は9.6億円であるため、可動堰の60年あたりのコストは1526億円と推定され、当初60年間を比較すると「緑のダム」計画の方が低コストで実現できる可能性が示唆された。しかし、人工林面積が現状のままであると仮定すると次の60年では、「緑のダム」のコストが1793億円、可動堰コストが維持費のみの576億円となり、「緑のダム」コストの方が多くなってしまう。
     しかし、実際には人工林面積は現状のまま推移するとは考えられない。より現実的な想定として、現在、間伐が不十分な放棄人工林を間伐後、スギ、ヒノキ大径材の混ざる針広混交林とすることで、人工林面積が今後現状の60%程度にまで減少すると仮定すると、当初120年間の「緑のダム」コスト(1791億円)は可動堰コスト(2102億円)に比べ低コストで実現できる可能性が示唆された。
  • 藤掛 一郎
    セッションID: P2002
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    2001年に森林・林業基本法が改正され、またそれが示す政策指針に沿って、一連の林政改革が行われている。その中で、民有林への森林機能区分の導入が行われた。これは、今後の森林整備に重要な役割を果たす可能性がある。高知県はこの機能区分導入にあたって、区分毎の整備方針と補助事業の差別化を明確に打ち出した。本研究では、この高知県の取り組みとそれへの所有者の反応について調査し、機能区分に基づく森林整備にまつわる問題点について整理した。二点を指摘した。第一に、高知県が示した明確な整備方針に対する所有者の反応から見えてきたのは、木材生産を積極的に行うつもりはないが、しかし、完全にあきらめて、混交林化するつもりもない、という多くの所有者の姿であった。ゾーニングは、それによってゾーン毎の森林整備の方向を明確にしようとするものであるが、所有者の反応が鈍い。第二に、水土保全林における複層林化、混交林化において、一般の森林所有者にも受け入れられるような現実的な施業方法が未確立であり、解決しなければならない問題として残っている。
  • 攝田 哲夫, 堀江 亨
    セッションID: P2004
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    わが国における地場産材を利用した住宅生産過程の各地域の取り組みについて○攝田哲夫、堀江亨(日大生物資源) 1.はじめに 近年、国産材需要が低迷する中で、国産材需要促進、持続的森林管理などの見地から、地場産材を利用した住宅建設が日本各地で行われている。これらの取組みは、従来の流通形態とは一線を画し、新たな形態を築いている。そして、この新たな形態を支援するために、様々な団体が現れ活動している。各団体の主体者は、工務店、住宅メーカー、建築設計事務所、民間主導など様々である。今回はその中で、共同組合組織の「東京の木で家を造る会」、住宅メーカーが主体の「神奈川の木で家を造る会」、工務店が主体の「秩父杉でつくる家の会」の三団体について調査した。そして、各団体の活動の違いや、各地域での形態の違いを明らかにし、地場産材を利用した住宅生産過程の問題点を検討する。2.方法 2002年8月24日に、「神奈川の木で家を造る会」を主宰するE社代表取締役に、2002年10月9日に「秩父杉でつくる家の会」を主宰するK建設代表取締役に、2003年1月24日に「東京の木で家を造る会」事務局長にそれぞれ聞き取り調査を行った。また、一般会員の募集も行っている神奈川の団体と東京の団体については入会し、その団体の活動実態を明らかにした。3.結果 各団体の組織については、神奈川の団体と秩父の団体は、一企業が中心となって運営している団体であるのに対し、東京の団体は「東京の森林で持続可能な林業経営をする」という意識で出来た共同組織である。この東京の団体の組織は、主体となる「事務局」、林家や製材業などが含まれる「造る会会員」、施主やこの団体に賛同した個人などが含まれる「ユーザーの会会員」の三部門によって構成されていた。各団体の運営理念としては、神奈川の団体と秩父の団体は利益を第一に考えているのに対し、東京の団体は利益追求や低コストに抑えることよりも、持続可能な森林管理の意識が優先した考えのもとに活動していて、団体の組織や理念に違いが現れた。そのため、前者の二団体は勉強会などは行うものの、施主の意向を尊重するかたちであり、在来工法や外材を用いた住宅も建設することもあった。また前者の二団体は、コストの面から一軒の住宅の総木材使用量に対する地場産材の使用率は、ともに8割前後にとどまっているという。一方東京の団体は、林家・製材所・工務店・建築家・施主・一般者の参加する勉強会を重ねることで、東京の木材を使うことの意味を理解させ、地場産材を使用している。そのため、活動初期は地場産材利用率は低かったものの、現在では地場産材利用率100%を達成している。 団体の活動は、三団体とも施主を含めた一般者への勉強会や、植林・林内作業のイベント等が行われ、森林についての知識を深める場が提供されていた。 各団体における造林から住宅建設までの過程を図1に示す。神奈川の団体は、会員でもあり山林を所有している製材業者に直接交渉し、材を入手しているという。また、神奈川の団体は住宅メーカーが主体になっているため、その後の工程は設計から建設にいたるまで、神奈川の団体の中で行われるという。 秩父の団体は、会員である製材業者が林家に直接交渉し、材を購入しているという。秩父の団体の主体者は工務店であるが、建築士もいるので、その後の工程は団体の中で行われるという。 東京の団体では、造る会会員である林家・製材業者・設計事務所・工務店が協力することで、全ての工程が会内で行われている。この際主体者である事務局が、ユーザーの会会員の施主と造る会会員とをつなぐ役割をし、施主を含めた積極的な打ち合わせが行われるようになっていた。そのため、施主が林内に入って住宅建設に使用する材を自分で選ぶこともできるシステムになっていた。また、この団体では、建築端材をペレットとして利用する試みも動き始めている。4.考察 これらの団体が関与して建てられた住宅は、従来のような新建材を使わず、無垢材を多く用いた住宅であり、在来の一般住宅とは大きく違っていた。また、ただ単に国産材を多く使用するばかりでなく、施主に森林や林業についての理解を深めてもらう点も、一般の住宅建設とは違っていた。しかし、主体者が違うことで、同じ地場産材を利用した住宅建設でもそのあり方が大きく違うことが分かった。
  • 世界林産物需給モデルを用いて
    岡 裕泰, 田村 和也, 立花 敏, 小山 修, 古家 淳
    セッションID: P2005
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    世界林産物需給モデルは、産業用丸太、製材、合板、ボード、パルプ、紙の6品目と森林資源の計7つの部門から構成され、世界全体を25の単独国、9地域(中国を含む)と貿易調整のための「その他世界」の計35地域に分割した需給均衡モデルである。われわれは、このモデルを用いて関税撤廃の影響評価を行うために、丸太の輸入国においては、国産材価格と新たな製品価格との関係が、それらから導かれる国産材製品の供給及びそれにともなう原料需要と、国産丸太の供給とが均衡するように決定され、輸入丸太価格とは独立に変化するというかたちにモデルの定式化の変更を試みた。この修正によって、輸入国においては、製品にかかる関税の撤廃によって、その製品の国内生産に負の影響が生じるだけでなく、製品の原材料の国内生産にも負の影響が生じるという影響予測が得られることになる。世界林産物需給モデルでは、森林の蓄積変化が丸太の供給ポテンシャル変化をもたらすが、蓄積変化自体は、天然林・人工林別の面積と国別・人天別の面積あたり成長量、および産業用材と薪炭材の生産量と生産量1単位が森林蓄積をどれだけ低下させるかを表す国別のインパクト係数などによって決まる。林産物製品の需要は経済成長によって拡大し、製品の生産に必要な産業用材の量は、原則的には製品の需給量により決まる。ただし紙生産のための原木量については、外生的に与えられるバージンパルプの配合率の変化もそれを決める一因である。また改訂版では薪炭材の需給量は人口の増加によって決まる。このようなモデルにおいて、将来の木材生産が森林の蓄積を低下させるものになるかどうかは、人工林の造成面積、経済成長率、紙に対するバージンパルプの配合率、および関税率によって決まってくる。人口増加や経済成長による丸太需要の拡大に十分匹敵するだけの森林成長量の改善が必要であるが、地域的にみると東南アジア諸国における森林蓄積量の急激な低下は、利用の持続可能性という意味で深刻である。
  • 奈良県川上村山林所有者へのアンケート調査から
    井戸田 祐子
    セッションID: P2006
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに 山守とは、山林所有者の委託をうけて森林施業を計画し、その実行時には所有者に代わって山林労働者や労働手段を確保・統率し、自らも作業に従事する。主・間伐時には山守に優先的に立木を販売する慣例があり、多くの山守は素材業を営んできた。山守の収入は、主・間伐時(多くは主伐時のみ)に支払われる立木価格の2-5%の山守料、主・間伐時の素材業、保育作業の労賃である。基本的には山守は所有者に従属する立場にあり、木材需要の質的変化や長引く木材価格低迷の下、その性格は変質しつつある。しかし、世界的には「持続的森林経営」が叫ばれており、対象地におけるその実現のため、長期的な視点に立った適切な森林管理の方法の検討が必要と考える。よってその手始めとして、本報告では、川上村における山林所有・管理の現状および所有者からみた今後の山林管理の方法に対する意向を把握することを目的とし、あわせて現在における山守制度の利点および問題点を整理した。2.方法 川上村森林組合員393名のうち、村・部落・社寺等の所有を除いた個人所有者(会社を含む)を対象とし、所有面積、目的、現在の管理方法、将来の管理方法に対する意向、山守制度に対する意見等を把握するため、2003年1月に郵送によるアンケート調査を実施した。 アンケート送付総数378のうち、住所不明6、回収総数161、未回収211、回収率は43%であった。なお、回収総数には、本人死亡、すでに山林を売却・委譲したなどの理由から未回答のものが13通含まれる。3.結果と考察 有効回答であった148の山林所有者のうち、村内所有者は全所有者の35%で、その9割が所有者であると同時に村外・部落外所有者の山守でもある。しかし、村内所有者の4割以上は5ha未満の小規模所有である。川上村以外の吉野郡および奈良県の所有者が約50%をしめる。また、村外に居住しつつ、山守でもある所有者が山守の17%存在した。 現在の管理方法につては、所有のみの91名のうち、約8割にあたる71名が山守に管理を委託しており、村外所有者にとっては現在でも山守による管理が一般的である。一方、山守でもある所有者の場合には、自己管理が多い。所有者側からみた山守に管理を委託する利点は、大きく分けて1山守の持つ技術的側面、2施業実施、3地元との関係の3つに分けられる。2施業実施については、山守が造林から収穫まで各作業に必要な資材や労務者の手配など一切を引き受けるため、所有者は生産手段を持たずにすむことである。3地元との関係は、施業実施に伴う近隣所有者・地元住民との調整、森林組合への手続きの代行、境界確認、自然災害時の迅速な見回りや報告など山守が山林の近くに居住することによって果たされる地元との円滑な関係である。 しかし、山守への評価がある一方で、将来の管理方法については、「森林組合など公的機関に委託したい」との割合が増加する傾向にある。この背景の根本には木材価格の下落がある。具体的には、それに起因する間・皆伐および保育作業の減少によって山守の収入機会が減少し、それに伴って山守の兼業化と高齢化が進行し、一部では山守の管理能力の低下が見られ始めていること、さらに後継者不足などが主な理由となっている。また、立木販売時の慣例のため、より高く購入してくれる相手と自由に取引できないことも所有者の不満となっている。採算性の悪化から所有者自身の経営意欲低下も影響している。 4.おわりに 所有者は技術面と金銭面に信頼のおける山守に対しては存在を評価している。所有者が期待する森林組合は現時点では独自の作業班は組織しておらず、その体制整備は遅れている。山守が能力を発揮できる条件整備とあわせて、森林組合などの体制整備が望まれる。
  • 村瀬 啓子, 山田 容三
    セッションID: P2007
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに 現在,林業労働力には,「高齢化に伴う退職者の増加」,「林業作業経験のない新規就業者の増加」といった傾向がみられる一方で(林野庁,2002),林業事業体は即戦力となる人材,リーダー的存在となる人材を望んでいる。しかし,事業体は林業生産活動が停滞して経営的に厳しい状況にあり,新たな人材の育成に伴う事業体や現場指導者の負担は増大する一方である。 こうした状況の打開策,また,新規就業者の負担軽減という点からも,林業作業未経験者が基幹的な林業労働者に至るまでの過程を支援することが必要であり,その一手段が研修の実施である。また,近年は高性能林業機械オペレーターを養成することにも重点が置かれている。現在各地で様々な研修が行われているが,そのカリキュラムの検討と共に,研修システムの検討が必要である。今回はその第一段階として,全国の森林・林業技術者養成のための研修システムについて現状を調査したので報告する。2. 現在実施されている研修事業 平成8年,各都道府県に林業労働力確保支援センター(以下「支援センター」という。)が設置されて以降,支援センターが研修の主な実施主体となり,「林業労働力確保支援センター等事業」として「基幹林業労働者研修」「技術研修」「新規就労者研修」の3種の研修を現場林業労働者対象に実施している。「基幹林業労働者研修」は,基幹的な林業労働者になり得る者を対象に林業に関して幅広く,専門的な技能・知識を修得させるための研修並びに研修者対象の先進地研修を行うものとされており,昭和56年の「基幹林業技能者育成確保対策事業」の延長線上にある(辻,2001)。そのカリキュラムは研修標準教程に基づき作成されているが,資格・免許等の取得に重点を置いた研修とする県が多い。「技術研修」は,平成3年の「高性能林業機械オペレーター養成等推進事業」より,現在はオペレーター養成研修として主に実施されている。「新規就労者研修」は,U・Iターン者の増加等により,平成3年に基幹林業労働者研修から「3年以上の経験」という条件がはずされたのを皮切りに,支援センターの設置以降は特に本格的に実施されている。3. 研修システムの現状 今回報告するのは,支援センターが実施主体の研修(平成13年度実施)についてとするが,平成13年度からの緊急雇用対策に伴った就業前研修は除いた。(1)研修の種類とシステム 各都道府県の研修システムは様々である。特に,秋田県や栃木県,富山県は,専門の養成機関を設置しており,また,千葉県や鹿児島県のような,各資格について個別に研修を実施している県も存在する。こうした特異なシステムをもった県や研修非実施又は不明の県以外の35県について,各研修を基幹林業労働者研修,高性能林業機械オペレーター研修,新規就労者研修の3種に分類し,各県の研修システムをまとめたところ,基幹林業労働者研修は31県(研修数は34),高性能林業機械オペレーター研修は15県(17),新規就労者研修は18県(19)で実施されており,研修システムとしては,基幹林業労働者研修のみ実施が12県,3種とも実施が9県,新規就労者研修と基幹林業労働者研修の2種実施が7県と多かったが,実施されているシステムにはあらゆる組み合わせが存在した。(2)実際の内容 研修の種類としては(1)の通りであっても,実際の内容は他の研修内容にまで踏み込んだものである研修も存在する。そこで(1)の各研修システムについて,実際の研修内容でさらに分類したところ,基幹林業労働者研修に高性能林業機械オペレーター養成のための内容を取り入れている県が特に多く,新規就労者養成のための内容を取り入れている県もあわせると, 35県中13県(42%)が基幹林業労働者研修に他の研修の内容も含めて実施している。4. おわりに 現在各都道府県で実施されている研修システムは多様であることが明らかになった。これは,各都道府県を取り巻く森林・林業事情の違いや研修に対する取り組み姿勢の違い等が反映されているのではないかと考える。今後は,その森林・林業事情と研修システムとの比較検討を行い,また,カリキュラムについても細かく分析する必要がある。
経営II
  • 坂田 景祐
    セッションID: P2008
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    本研究は、日本、アメリカ合衆国、EU(スウェーデン)の3カ国をモデル地域として、4通りの排出権の計算方法を用いた林業経営収支モデルを作成した。このモデルでは、CO2排出権の単価(CO2価格)を$5と$10(現在の市場取引価格を参考)とした場合の「造林利回り」を算出することと、伐期に影響を与える造林利回り最大の伐期齢が異なるCO2価格により何年になるのかを明らかにした。 本研究で用いた4通りの森林の排出権の計算方法は、ストック変化法、平均貯蔵法、トンイヤー法、排出権を返還する方法である。「ストック変化法」とは、ある1時点の森林が貯蔵している炭素量を排出権として計算する方法であり、ここでは伐採時に樹木が貯蔵している炭素量を排出権として森林所有者が獲得するとした。「平均貯蔵法」とは、植栽時から伐採までの間の平均蓄積量を排出権とする方法である。植栽して早くから成長し、温暖化を防止する森林には多くの排出権が見込まれることになる。ここでは、伐期齢1年ごとの平均蓄積量の排出権を森林所有者が伐採時に獲得するとした。「トンイヤー法」とは、森林の炭素貯蔵により温暖化を防止する効果を排出権として計算する方法である。ここでは森林が貯蔵した炭素量の1/55を55年間毎年排出権として森林所有者が獲得するとした。「排出権を返還する方法」とは、森林の炭素循環を考慮した方法で、森林所有者は森林が成育している段階では、森林が貯蔵する炭素量を毎年排出権として獲得するが、伐採時には貯蔵した炭素を排出するととらえて、獲得した排出権をすべて返還する方法である。トンイヤー法と排出権を返還する方法では、森林所有者は排出権を毎年獲得することから、その排出権にはモデル国の10年国債の利回り(過去10年間の平均)(日本:2.53%/年;アメリカ合衆国:5.93%/年;スウェーデン:5.32%/年)を1年複利で乗じた。 CO2排出権取引を想定しない場合の伐採収益は、丸太を木材市場で売却した収入から造林費と伐採費を引いた金額である。CO2排出権取引を想定した伐採収益は、排出権取引を想定しない場合の伐採収益にCO2排出権の金額(4方法ごと)を加算した値である。CO2排出権の金額は、排出権(量)にCO2価格を乗じた値である。この林業経営収支モデルを日本では神奈川県津久井郡(樹種:スギ)、アメリカ合衆国は南部のジョージア州(樹種:イエローパイン)、スウェーデンは南部のユタランド地域(樹種:ノルウェースプルス)に適用した。 異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化については、CO2価格が上昇するにつれて「ストック変化法」と「平均貯蔵法」の場合、造林利回り最大の伐期齢は、日本、アメリカ合衆国では短縮し、スウェーデンでは延長した。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」の場合では、日本、スウェーデンでは延長し、アメリカ合衆国では短縮した。 造林利回りが最大になる計算方法として、「排出権を返還する方法」において造林利回りが最大になった理由は、排出権取引を想定しない場合の造林利回りが国債の利回りと比較して低いためである。この方法は、伐採前から排出権を獲得して、その排出権は国債の利回りにより増加することから、伐期が長くなるにつれて造林利回りは国債の利回りに収束することになる。そのため、「排出権を返還する方法」以外の計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、この計算方法の造林利回りが最も高くなる。異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化として、「ストック変化法」と「平均貯蔵法」では、CO2価格の上昇に伴い樹木の平均成長量が最大の伐期齢に移動することを明らかにした。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」では、伐期が長くなるに従い、造林利回りは国債の利回りに収束する。そのため、この計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、伐期が長くなるほど造林利回りは高くなる。この場合、CO2価格が上昇するほど国債の利回りに影響を受ける排出権の価値が増し、造林利回りが国債の利回りまで上昇する伐期は短縮する。
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