日本林学会大会発表データベース
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T4 マツ枯れ・マツ材線虫病研究の現在
  • 小松 雅史, 鈴木 和夫
    セッションID: F39
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 真宮 靖治
    セッションID: F40
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    カラマツ2年生および3年生苗木に対するマツノザイセンチュウの接種により発病・枯死した苗木の樹体内における線虫の動態を,とくに個体数との関連で解析した.線虫接種後,苗木は早くに皮層部の褐変や針葉の萎凋変色・落葉といった病徴を示して,ほぼ1ヶ月で枯死にいたった.接種苗木の85%が枯死し,これは対照としたクロマツ3年生苗木と同等の枯死率であった.カラマツ枯死苗木の樹体内で,マツノザイセンチュウ個体数は病状の進展とともに増加した.線虫は樹幹下部に局在する傾向を示し,また皮層に木部より多く生息しているのが特徴的であった.クロマツ苗木との比較では,病状進展にともなう個体数増加に関しては同様な経過であったが,樹体内分布に関しては,両樹種間で明らかな差異が示された.さらに,カラマツ苗木では,線虫接種にともなう樹体反応として,樹幹の広範囲にわたり傷害樹脂道が形成され,樹体反応に関するクロマツとの大きな違いを示した.発病初期において,傷害樹脂道が線虫生息の場として重要な役割を果たしていることが予測された.
  • -病原力の強い2つのアイソレイトを接種した場合-
    相川 拓也, 小坂 肇, 菊地 泰生
    セッションID: F41
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的  病原力の強い2つのマツノザイセンチュウ(以後線虫と略する)個体群が1本のマツに侵入した時の、マツ樹体内における線虫個体群構造を明らかにするために、2つの強病原力アイソレイトを1本のマツに接種し、その後マツ樹体内で増殖した線虫をPCR-RFLP法により解析した。2.方法 線虫の接種:森林総合研究所千代田試験地(茨城県千代田町)内の6年生クロマツを使用した。病原力の弱い1つのアイソレイト(OKD-1)、および病原力の強い2つのアイソレイト(Ka-4、No.476)を用いて、2003年の6月および7月にそれらの接種する順序を変化させ6つの処理区を作った(処理区1:7月にOKD-1のみを接種、処理区2:7月にKa-4のみを接種、処理区3:7月にNo.476のみを接種、処理区4:7月にKa-4とNo.476を接種、処理区5:6月にka-4を接種後7月にNo.476を接種、処理区6:6月にNo.476を接種後7月にKa-4を接種)。処理区4、5、6には、それぞれ5本のマツを供試した。処理区1、2、3については、各アイソレイトの病原力を再確認するため、供試本数多くし12本とした。マツ幹の胸高の位置にドリルで穴を空け、そこへ線虫懸濁液100μl(線虫10,000頭分)を接種した。 線虫の分離および解析:同年8月に、各マツの幹にドリルで2箇所穴を空け、材を採取した。処理区1-3については、12本のマツのうち5本を無作為に選んで採取した。採取した材は研究室へ持ち帰り、ベールマン法により線虫を分離した。マツ1本につき24頭の線虫をつり出し、既往の方法と同様に1頭ずつPCR-RFLP法による解析を行った。線虫分離後の材は、105℃の恒温器に3日間入れ、乾重を測定した。3.結果 同年10月までに処理区2-6のすべてのマツが枯死した。また、材内の線虫密度も処理区2-6の間で有意な違いはなかった。処理区1のマツは1本も枯死せず、線虫も全く分離されなかった。 材から分離された線虫を1頭ずつPCR-RFLP解析した結果、処理区2のマツから分離された線虫は、すべてKa-4アイソレイトと同様のバンドパターンを示し、処理区3のマツから分離された線虫は、すべてNo.476アイソレイトと同様のバンドパターンを示した。それに対し処理区4、5、6のマツからは、Ka-4のバンドパターン、No.476のバンドパターンおよび両アイソレイトのバンドを持つ混合パターンの計3パターンの線虫が検出された。処理区ごとに5本のマツから分離されたすべての線虫を合計した場合、3パターンの線虫の検出頻度は3処理区間で大きな違いがなかった(Ka-4パターン:No.476パターン:混合パターン=28:44:22[処理区4]、37:51:32[処理区5]、44:57:19[処理区6])。しかし、同じ処理区内の5本のマツの間で3パターンの線虫の出現頻度は大きく異なっていた。4.考察 処理区2と処理区3のマツ枯死率は、どちらとも100%であり、材内の線虫密度も処理区間で違いがなかったことから、この2つのアイソレイトの病原力、およびマツ樹体内での増殖力はほぼ同じであると推測された。1本のマツにこの2つのアイソレイトを接種した場合、Ka-4パターンとNo.476パターンの他に2アイソレイトの混合パターンを示す線虫も多く検出された。これは両者がマツ樹体内で互いに交雑したことを示している。しかし、同じ処理区でも3パターンの線虫の出現頻度はマツごとに大きく異なっていたことから、2つの強病原力線虫個体群がマツに侵入した場合、その後の樹体内の個体群構造はマツごとに異なる可能性が示唆された。
  • 秋庭 満輝, 石原 誠, 佐橋 憲生, 佐々木 峰子, 岡村 政則, 富樫 一巳
    セッションID: F42
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    宮崎県椎葉村の材線虫病の被害が拡大中のアカマツ林に試験地を設定し、試験地内の全てのマツについて、2002年から2003年の期間に継続的に材線虫病の病徴を調査した。また、枯死木からマツノザイセンチュウを分離後培養し、増殖したアイソレイトの病原力を接種試験によって調査した。また、マツノザイセンチュウについてマイクロサテライトマーカーを用いた解析を行った。その結果、試験地内の枯死木から分離されたマツノザイセンチュウは全て強病原力と判定され、遺伝的にもほぼ同一の集団であると推定されたが、個々のアカマツの病徴進展の時期は異なっていた。
  • 竹本 周平, 神崎 菜摘, 二井 一禎
    セッションID: F43
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     マツ材線虫病の病原体マツノザイセンチュウ (Bursaphelenchus xylophilus) には弱病原性系統と呼ばれるアイソレイト群が存在する。弱病原性アイソレイトは、いずれも宿主マツを発病枯死させる能力が殆どなく、本病の主要な媒介昆虫であるマツノマダラカミキリに殆ど乗り移らないとされている。また、これら弱病原性系統は、強病原性系統とは遺伝的に隔たった姉妹群をなしている。ところが、野外での両系統のすみ分けは実証されておらず、系統間交配も容易であることから、野外では、競争力の弱い弱病原性系統の個体群が一方的に排除されるか、もしくは強病原性系統の個体群内に取り込まれつつあると考えられる。しかし、これまで強弱2系統の混合により生じた集団が野外に存在するか否かは確かめられていない。そこで、弱病原性系統に特異的な分子マーカーを用いて日本産アイソレイト28株の中での弱病原性系統の遺伝的寄与を調査することを目的として本研究に着手した。 マツノザイセンチュウ強病原性アイソレイト S10、弱病原性アイソレイト C14-5 から抽出した DNA を鋳型とし、プライマー対 hsp70f(5ユ-GACACCGAGCGTCTAATCGGAG-3ユ) + hsp70r(5ユ-GTACCACCTCCAAGATCGAAG-3ユ) および制限酵素Alu_I_ を用いて PCR-RFLP 解析を行ったところ、両アイソレイトを区別し得る明瞭な多型パターンが得られた。なお、このPCR 産物であるヒートショックプロテイン 70A (以下、 hsp70 と略す)遺伝子の部分配列から、パターンの差となって現れた塩基の置換はアミノ酸の置換につながるものでなく、したがって本遺伝子の機能には影響していないことが判明した。 次に、PCR-RFLP 画像解析法により hsp70 対立遺伝子の頻度を推定するための検量線を作成した。まず、 S10 - C14-5 の9段階に混合比を調整した混合懸濁液からそれぞれ抽出した DNA を鋳型として PCR-RFLP の多型パターンを得た。S10 特異的なバンドの強度と C14-5 特異的なバンドの強度との比を従属変数、実際の S10 混合比と C14-5 混合比との比の値を説明変数として回帰分析を行ったところ、両者のあいだには線形的な関係が成り立ち、原点を通る傾き1の直線に近似できた。以後、この直線を検量線として遺伝子頻度の推定を行うこととした。 また、選抜したマーカーの中立性を検討するため、S10 - C14-5 の混合集団内におけるマーカー対立遺伝子頻度の経時変化をPCR-RFLP 画像解析法により調査したところ、培養期間が進むにつれS10 型のhsp70 対立遺伝子の頻度は 0.7_から_0.8 に近づいていた。このことは、hsp70 遺伝子に対して見かけ上の頻度依存性選択が働いたことを示している。このため、hsp70 遺伝子は中立マーカーとしては利用できないと考えられた。しかし、一旦集団中に拡がった C14-5 型の対立遺伝子が選択により完全に排除されることはないと確認できたので、C14-5 型の hsp70 対立遺伝子を持たない集団には弱病原性系統が遺伝的に寄与していない可能性が高い、と判定できると結論した。 同じ手法で日本各地産アイソレイト28株について hsp70 遺伝子の対立遺伝子頻度を調査したところ、茨城県笠間市産のアイソレイト Ka1 においてのみ C14-5 型の対立遺伝子が検出された。なお、その推定遺伝子頻度は約 25_%_ であった。残り27系統においてはC14-5 型の対立遺伝子が全く検出されなかったことから、日本産マツノザイセンチュウにおける弱病原性系統の遺伝的寄与はかなり低いと考えられた。 本研究により、少なくともアイソレイト Ka1 の分離された茨城県笠間市にはC14-5 型の対立遺伝子が残されている可能性が明らかになった。今後、弱病原性系統の生物学的な遍歴を明らかにする上で、両系統の遺伝的寄与の大きさを量的に評価するための中立マーカーの開発を進めるとともに、この地域を中心として弱病原性系統由来の対立遺伝子の分布について地域レベルでさらに詳しく調査することが非常に重要であると考える。
  • 松永 孝治, 富樫 一巳, 軸丸 祥大
    セッションID: F44
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    PCRを用いたマツノザイセンチュウとニセマツノザイセンチュウの簡単な識別法○松永孝治・富樫一巳(広島大総合科)軸丸祥大(広島県立林技セ) 目的:マツノザイセンチュウはマツ材線虫病の病原体であり,日本ではクロマツやアカマツ林に大きな被害を与えている。この線虫はアメリカから侵入したと考えられているのに対して,その近縁種のニセマツノザイセンチュウは日本土着で健全なマツに対して病原性を持たない。マツノザイセンチュウの侵入地域ではこれら2種の線虫が存在することになり,その識別が防除や検疫の面から重要である。これまでにDNA技術を用いた2種の識別法としてPCR-RFLP等が発表されている。我々は種特異的なPCR primer pairsを設計し,より簡便に識別できる方法を開発したので報告する。材料と方法種特異的なPCR primerの開発:日本産マツノザイセンチュウ5アイソレイト, C14-5, Ka-4, OKD-1, S-10およびT-4,ニセマツノザイセンチュウ4アイソレイト, TBm098, TBm119, TCS00および Un-1を実験に用いた。これらのアイソレイトをBotrytis cinerea上で培養した後,培地から分離した。各アイソレイトについて個体ごとにDNAを抽出した。 Beckenbach et al. (1999) が決定したマツノザイセンチュウとニセマツノザイセンチュウのrDNA塩基配列に基づき,各種に特異的な領域を選び,その領域を含むようにSoftware Oligoを用いてprimer pairsを設計した。マツノザイセンチュウに特異的なprimersをXFとXL,ニセマツノザイセンチュウに特異的なものをMFとMRと名付け,それらのPCR産物のサイズはそれぞれ557bpと210bpになると期待された。 2種類のprimer pairsの混合がPCR産物に与える影響を明らかにするために,XFとXR,MFとMRおよびこれら4種のprimersを混合した条件でPCRを行った。アイソレイトS-10とUn-1のDNAを鋳型として用いた。PCR反応後,PCR産物を1.5%アガロースゲル上で電気泳動し,エチジウムブロマイドで染色し,UV光線下で写真を撮影した。 次にこれらのprimer pairsの有用性を調べるため,マツノザイセンチュウの5アイソレイトとニセマツノザイセンチュウの4アイソレイトのDNAを鋳型としてPCRを行った。その後,電気泳動,染色および撮影を行った。野外線虫個体群の調査:2002年の冬に広島県河内町,高野町でそれぞれ4-6本のアカマツ枯死木からハンドドリルを用いて材を採取し,ベールマン法によって線虫を分離した。各枯死木から線虫5頭をランダムに選び,個体ごとにDNAを抽出して鋳型を作成した。Primer XF, XR, MFおよびMRを用いてPCR反応を行い,電気泳動,染色および撮影を行った。結果と考察種特異的なPCR primerの開発:XFとXRによってマツノザイセンチュウアイソレイトS-10は約557bpのPCR産物を生じたが,ニセマツノザイセンチュウアイソレイトUn-1はPCR産物が生じなかった。逆にMFとMRによってUn-1は約210bpのPCR産物を生じたが,S-10はPCR産物が生じなかった。4つのprimersを混合した場合,S-10とUn-1はそれぞれの種に特異的なPCR産物だけを生じた。この結果によって2つのprimer pairsがそれぞれのPCR反応に干渉しないことが示された。 マツノザイセンチュウ5アイソレイトはすべて同一サイズのPCR産物を生じ,ニセマツノザイセンチュウ4アイソレイトもすべて同一サイズのPCR産物を生じた。その結果2種のPCR産物を容易に識別することができた。野外線虫個体群の調査:高野町の30頭の線虫はマツノザイセンチュウに特異的なバンドを持っていた。河内町の20頭の線虫もマツノザイセンチュウに特異的なバンドを持っていたが,そのなかの5頭はニセマツノザイセンチュウに特異的なバンドも同時に持っていた。これらの個体はゲノム中にマツノザイセンチュウとニセマツノザイセンチュウ双方に由来するDNA配列を持つと考えられた。つまり2種の雑種であると考えられた。
樹病
  • 陶山 大志, 周藤 靖雄
    セッションID: G01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 小林 享夫, 讃井 孝義, 小野 泰典, 中島 千晴
    セッションID: G02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギに寄生するCercospora属菌には赤枯病菌C. sequoiae Ell. et Ev.、列いぼ病菌C. cryptomeriaecola Sawadaおよび森林総研樹病標本室(TFM:FPH)所蔵の未公表の1種がある。近年、赤枯病菌の所属が2転3転してきたが、筆者らはこれらの処理に疑問を持ち、列いぼ病の新鮮な標本を入手したのを機会に、スギに生ずるCercospora関連属菌3種の所属の再検討を行った。結 果1)スギ赤枯病菌:菌体は病針葉全体に散生_から_密生。子座は表皮細胞内生、のち表皮を破って露出し偽柔組織状、褐色、径25~88μm 。分生子柄は子座上部に叢生、淡褐色_から_褐色、単条、シンポジオ型、32~98 x 3~5μm、分離痕は薄壁。分生子は倒棍棒状、褐色_から_オリ_-_ブ色、2~9真正隔壁、始め滑面のち疣に覆われ、隔壁部でくびれ、基部截切状で薄壁、35~80 x 4~7μm、塊は灰緑色。2)スギ列いぼ病菌:菌体は病針葉の凹部に縦に列生。子座は表皮組織内生、のち表皮を破って露出し偽柔組織状、暗褐色、径24-165μm。分生子柄は子座上部に叢生_から_束生、単条、褐色、1~5隔壁、全出芽・アネロ型で上部に環紋を形成、55~79 x 6~7μm。分生子は円筒状、頂部鈍円、基部やや平坦で薄壁、褐_から_濃褐色、平滑、6~13の偽隔壁を有し、55~79 x 6~7μm、塊は暗緑_から_暗褐色。3) 未記録葉枯性病菌:菌体は病針葉基部に密生。子座は角皮下生、角皮を破って露出する、淡褐色_から_褐色、偽柔組織状、径31~72μm。分生子柄は子座上部に叢生、無色_から_淡褐色、単条、直_から_シンポジオ型、分離痕は薄壁、21~34 x 2.4μm。分生子は細い円筒状、頂部細まり、基部截切状で薄壁、無色_から_淡オリ_-_ブ色、2~5隔壁(eusepta)、33~60 x 2.4~3μm、塊では淡緑色_から_灰緑色。考 察1) スギ赤枯病菌:本菌は赤枯病病原諸説の一つとしてCercospora cryptomeriae Shiraiと記載された(北島1916)。のち本病菌は米国産のC. sequoiae Ell. et Ev.と同一種であることが確認され、C. cryptomeriaeはその異名となった(伊藤ら1967)。Chupp(1953)は、本菌の分生子表面が顕著な疣に覆われる特徴から、Heterosporium属であるとした。Sutton & Hodges(1990)は、分生子表面の顕著な疣の分離痕が厚壁であることから本病菌をAsperisporium sequoiae(Ell. et Ev.)Sutton et Hodgesと転属した。さらにBakerら(2000)は子座と分生子柄の形状と分生子形成様式がAsperisporiumとは異なるとしてCercosporidium sequoiae(Ell. et Ev.)Baker et Partridgeと再転属した。 しかし、中島(2001)や筆者らの観察では、日本産スギ赤枯病菌のみならず、かつてHodgesから贈られた米国産のC. sequoiaeにおいても、分生子柄と分生子の分離痕は決して厚壁ではないことが改めて確認された。分生子が濃色で疣のある点は特徴的ではあるが、Pseudocercospora属には分生子が濃色の種や、色は淡いが疣を持つ種もある。Heterosporium属はCladosporium属の異名であり、Asperisporium属は、束生する分生子柄やポリブラスチックな分生子形成などにより、Cercosporidium属は、分生子柄と分生子に明瞭な分離痕を持つことで本病菌とは異なる。以上によりスギ赤枯病菌は、Pseudocercospora属に所属させるのが最適と考える。 2) スギ列いぼ病菌:本菌は山形県のスギ病標本上の菌に基づきCercospora cryptomeriaecola Sawada(1950)と記載された種で、他に4点の標本が森林総研に保管されている。2002年に新鮮な病標本が採取され、再検査を行った。その結果、この標本の外見的病・標徴は沢田の記載や森林総研保存標本のそれとよく一致した。今回の標本の菌体では、分生子が真正隔壁ではなく偽隔壁を持つことが大きな特徴である。森林総研所蔵標本4点の再検査では、ほとんどの分生子は消失し、僅かに2個の分生子が認められた。この残存分生子は明らかに偽隔壁を持ち、宮崎産の標本の分生子と一致した。これにより、本菌はDistocercospora Pons et Sutton(1988)属に転属すべき種と考える。3) 新しい葉枯れ性病菌:1964年5月故徳重陽山氏により鹿児島県指宿市のスギ林で、赤枯病菌でも列いぼ病菌でもないCercospora属菌による葉枯性病標本が採取された。この菌は、その後現在まで数回の接種試験によっても病原性を確認できていない。また、形態的に似ているコウヤマキ黄葉病菌(Cercospora sp., 小林・堀江1980)との交互接種も成功していない。しかし、本病菌が上記2種のCercospora関連属菌とは全く異なるためPseudocercospora属菌の新種として記録していきたい。
  • 矢口 行雄, 小林 享夫, 小野 泰典, 渡邉 章乃
    セッションID: G03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに 2003年5月、富山県下新川郡で自生する、さらに同年6月北海道函館市で植裁木の、コナラ(Quercus serrata Thunb.)の梢に枝枯れ症状、そして葉枯れ症状を呈する同様な病害が発生した。そこで、病原菌を究明するため枝枯部の分生子層より分離菌を得た。分離菌を健全なコナラの葉に接種試験を行った結果、病徴が再現された。本病は、分生子の形態および系統解析の結果から、Discula属に所属することがわかり、病名をコナラ灰斑病と命名した。そこで、本報告は、コナラに発生した灰斑病の病徴および標徴、病原菌の分離、病原菌の同定、分離菌の生育温度試験、接種試験について報告する。2. 方 法病原菌の分離:病斑上の分生子層の粘塊から単胞子分離を行った。病原菌の同定:それぞれの分離菌をPDA培地で培養後、分生子の大きさを計測した。分生子層の断面は、病葉を2%グルタルアルデヒドで固定後、常法により超ミクロトームで切片を作製した。本分離菌の系統解析による分類学的所属を確認するため、LSU nrDNA D1-D2領域を用いた系統解析を行った。分離菌の生育温度試験:各分離菌の生育温度を調査するため、PDA培地上で培養温度を2, 5, 10, 15, 20, 25, 28, 30 ℃で10日間培養後、菌叢の直径を計測した。接種試験:各分離菌をPDA培地で培養後、コナラをはじめ、ミズナラ、クヌギ、クリ葉に菌叢貼付接種を行った。3. 結果および考察 病徴および標徴:本病の病徴は、はじめ梢の先端部が褐変し、その後、新葉が黒褐色となり枯死した。さらに梢先端部から基部に向かい褐変部が拡大し、周辺の成葉では、はじめ水浸斑となり、その後黒色で不定形の病斑が急速に拡大した。枝部および黒色病葉上には灰褐色の分生子層が多数観察された。病原菌の分離:富山県下新川郡より分離したQs-37菌、および北海道函館市より分離したQs-1菌を以下の実験に供試した。両分離菌ともにPDA培地上で灰褐色から褐色の菌叢であった。病原菌の同定:分生子層は、角皮下に生じ、子座を形成した(図1)。大きさは、80-180μmで分生子形成細胞は無色、隔壁をもち、分岐し、頂部に内生出芽・フィアロ型に分生子を形成した。分生子は、無色、単胞、卵形から紡錘形であった(図2)。大きさは、分離菌Qs-37で、12.8-17.9×5.1-10.2μm(平均14.4×7.8μm)、分離菌Qs-1では、12.8-17.9×5.1-7.7μm(平均14.8×7.5μm)と両分離菌ともほぼ同様な大きさであった。さらに分離菌をLSU nrDNA D1-D2領域を用いた系統解析を行い、これら形態的な結果と系統解析の結果により、本病原菌をDiscula属 (Arx, 1957, 1981, 1987, ; Sutton, 1980)と同定した。分離菌の生育温度試験:分離菌は培地上で20℃を最適生育温度として5-28℃で生育した。菌叢は、灰褐色から褐色で15-25℃で分生子を形成した。  接種試験:分離菌Qs-1とQs-37を健全なコナラの葉に菌叢貼付接種した結果、病徴が再現され、分生子層が豊富に観察された。さらに宿主範囲を検討するため、ミズナラ、クヌギ、クリの葉に接種試験を行った結果、コナラの病徴と同様な結果が得られ、病原性を示した。 以上の結果より、本病をDiscula属菌によるコナラ灰斑病(Gray leaf spot of Oak)と呼称することを提案する。わが国におけるDiscula属菌による病害の報告は、モモタマナ灰色斑点病、スズカケノキ炭疽病の報告のみである。本病菌は形態的観察から分生子層および分生子が炭疽病菌に類似しているため、Colletotrichum属菌と誤同定する可能性がある。本報告では、系統解析を行い明らかにDiscula属菌であることがわかった。しかし、本菌は分生子および分生子層の詳細な形態的観察においても、Colletotrichum属菌と識別できる。
  • 宮下 俊一郎
    セッションID: G04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギ・ヒノキ暗色枝枯病菌に対する特異性の高いPCRプライマーを作成し、罹病患部材片から抽出したDNAに対してPCRを行った結果、暗色枝枯病菌由来のPCR産物が得られた。
  • 楠本 大, 鈴木 和夫
    セッションID: G05
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    はじめに針葉樹の師部は、傷害や菌の感染に対して、防御反応を引き起こす。それにともない師部内では様々な化学変化が起こる。これまで多くの組織化学的研究によって、師部の化学物質の変化が示されているが、それら化学物質の経時的・空間的変化を定量的に明らかにしたものは少ない。本研究では、フェノール系物質を中心に防御反応による化学物質の量的変化を、組織化学的観察と対応させながら、明らかにすることを試みた。材料と方法実験には東京大学演習林田無試験地植栽の5年生ヒノキを用いた。7月にヒノキの主幹に傷を付け、その後継続的に5本ずつ選び、傷の周りの樹皮を採取した。解剖観察:樹皮切片を作成した。ポリフェノールはジアゾ反応法とニトロソフェノール反応法で、リグニンはフロログルシン-HCl法で染色した。スベリンはフロログルシン-HClで染色した切片にUV光を照射して蛍光を観察した。フェノール類の抽出と定量:樹皮を傷害カルス、壊死部(コルク組織を含む)、傷から1mmまでの生きた師部(コルク形成層とコルク皮層を含む)、傷から1_から_2mmまでの生きた師部に分け、凍結乾燥した。10mgの組織片を粉砕し、80%メタノールで2回抽出した。総ポリフェノール量をFolin-Denis法で定量した。タンニン量は、抽出液にゼラチンを加えてタンニンを沈澱させたのち、上澄みに残ったポリフェノール量を総ポリフェノール量から引くことで計算した。壁結合フェニルプロパノイドの抽出と定量:メタノール抽出を行った後の残渣から細胞壁に結合したフェニルプロパノイドを1N NaOHで抽出した。抽出されたフェニルプロパノイドはHPLCで分析した。リグニンの定量:NaOHで抽出した後、残渣のリグニン量をアセチルブロミド法により測定した。結果傷害カルスにおけるポリフェノール量は健全部よりも測定期間を通じて有意に高く、解剖観察においてもポリフェノール粒が多数観察された。一方、壊死部では3日目で既にポリフェノール粒は消失し、量的にも減少した。0-1mm師部では、parenchymatic zoneにおいて多量のポリフェノール粒が観察された。また、師部柔細胞では14日目以降液胞の拡大とポリフェノールの染色性の低下が観察された。0-1mm師部のポリフェノール量は健全部よりも若干増加したがその差は有意ではなかった。1-2mm師部のポリフェノール量は健全部と変わらず、解剖観察によっても変化はみられなかった。タンニン量は、いずれの部位においてもポリフェノール量の20_から_35%を占め、ポリフェノールとほぼ同じ経時変化を示した。傷付け7日目に壊死部の細胞壁にリグニンの蓄積が認められ始め、14日目まで蓄積の範囲が増加した。壊死部のリグニン濃度は14日目から増加し始め、28日目に一定に達した。傷害カルスでは、カルス形成が始まったばかりの14日目に健全部に比べてリグニン濃度が低かったが、28日目以降は健全部と同様の濃度を示した。壁結合フェニルプロパノイドについては、p -クマル酸、カフェー酸、フェルラ酸、シナピン酸のうち、フェルラ酸のみが検出された。フェルラ酸は壊死部と傷害カルスで7日目以降増加した。考察傷害カルスのポリフェノールは、その発達初期から多量に含まれており、傷害カルスの防御に強く関与していると考えられた。一方で、師部柔細胞では、化学性の変化によると思われる染色性の低下が認められた。壊死部ではポリフェノールの減少がみられたが、これは細胞が傷付けられたときに遊離した酸化酵素がポリフェノールを酸化重合させたためと考えられた。壊死部のリグニンは、染色によって7日目に認められたが、実際に細胞壁中の濃度が増加するのは14日以降であった。また、その増加は28日目まで続き、壊死部であっても1ヵ月程度は生理活性を維持している可能性が示唆された。壁結合フェルラ酸はリグニン濃度に変化が認められた壊死部と傷害カルスにおいて有意に増加し、リグニン合成との関連が示唆された。このように、ヒノキ師部の防御反応は部位によって多様であり、その発現のタイミングも異なっていた。病原体に対する抵抗性は、こうした種々の防御反応の総合的な効果によって決定されると考えられた。
  • 水崎 進介, 松下 範久, 鈴木 和夫
    セッションID: G06
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに 街路樹などの都市に生育する樹木が水ストレス下におかれ衰弱・枯死する場合の樹勢診断は主観的な部分が大きく、客観性にかける。このため、簡便でかつ非破壊的な計測が可能なクロロフィル蛍光により、水ストレス評価ができれば、樹勢診断の大きな助けとなる。そこで本研究では、乾燥に弱い樹種であるブナを用いて、クロロフィル蛍光(Fv/Fm,Fv’/Fm’)による水ストレスの評価を試みた。また、水ストレスを受ける日中のFv/Fmを測定することでより正確にストレス評価ができると考えられるので、暗処理クリップを用いて水ストレスを受けている日中にFv/Fmを測定し、夜間のFv/Fmと比較した。2.材料と方法 材料は樹高1.24±0.21mのブナの苗木32本を用いた。ブナの苗木を鉢植えにし、野外に数ヶ月放置した後、鉢に覆いをかけて雨が入らないようにした。2003/8/21に覆いをかけ、8/31 までの11日間測定した。それらの個体を毎日灌水した個体(n=3,処理A)、覆いをかけて5日後(n=2,処理B)から毎日潅水した個体、灌水しない個体(n=27,処理C)にわけた。さらに、処理Cの中で一部にしおれが見られた個体の一部に7日後から水を与えた(n=2,処理D)。各個体についてPAMによるFv/Fm(0時測定)とFv'/Fm'(13時測定)、外観の変化を記録した。クロロフィル蛍光の測定は見た目が健全な葉を対象に1サンプルにつき10点行った。さらに、暗処理クリップを用いて7日後から7個体(処理Aが1個体、処理Cが5個体、処理Dが1個体)のFv/Fmを0時、13時に測定した。暗処理クリップによるFv/Fmの測定は1サンプルにつき5点行った。3.結果 Fv/Fmの水ストレスに対する変化については、処理Bには特に処理AとFv/Fm,Fv’/Fm’の変動に差異が見られなかったので灌水した個体(n=5処理A,B) と灌水しなかった個体にわけて考えた。0日後の灌水した個体と灌水しなかった個体のFv/Fmをt検定で検定したところ、有意水準1%で有意差はなかった。6日後では有意水準1%で有意差があった。一方、Fv’/Fm’では0日後では有意差は無く、6日後では有意水準1%で有意差があった。 しおれが見られた前後のFv/Fmの変化について、3日前と1日前でt検定で検定を行ったところ、有意水準0.1%で有意差があった。Fv’/Fm’で同様の検定を行ったところ、有意差はなかった。 また、サンプル数が少ないため検定は行っていないが、7日後に水やりを開始した個体(処理D)のFv/Fm,Fv’/Fm’は回復傾向を見せた。 暗処理クリップにより測定したFv/Fmの値については、サンプルを水ストレスを期間中受けている処理Cの3個体とした(処理Cの残り2個体は測定期間の終わりに葉がしおれたため除外)。0時と13時でt検定を行った結果、有意差はなかった。また、0時のFv/Fmにおいて、普通に測定した場合と、暗処理クリップを用いた場合で差が見られたため、サンプルに外観の変化から植物への水ストレスの影響が小さい方から順位をつけ、7日後における「普通に測定したFv/Fmと暗処理クリップを用いて測定したFv/Fmの差」との間でスペアマンの順位相関係数を出したところ、明らかな正の相関が見られた(n=7,ρ=0.8532,p=0.0146)。4.考察 本研究では、有意差が認められない場合もあるものの、水ストレスがFv/Fm,Fv’/Fm’に影響を与えること、そして、しおれる前にFv/Fm,Fv’/Fm’に変化が見られることが明らかにされた。実際に診断に応用できるかについては、個体差が大きく、現段階では難しい。例えば、しおれが見られたにもかかわらずFv/Fmが余り低下しない個体がある一方で、しおれが見られないのにしおれが見られる個体と同程度に低下する個体もあった。 暗処理クリップにより昼夜のFv/Fmを比較したが、有意差はなかった。この結果からは、水ストレスを受ける日中においても夜間に比べFv/Fmが下がることはないことがわかる。一方、サンプル数が少なく、傾向を見るに留まったが、植物に対する水ストレスの影響が暗処理クリップを用いるか否かによるFv/Fmの差で検出できる可能性が示唆された。挟むという物理的行為が何らかの影響を与えていると考えられる。さらにサンプル数を増やした追加実験が必要である。
  • 鈴木 崇之, 松田 陽介, 伊藤 進一郎
    セッションID: G07
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 畑 邦彦, 川俣 光一, 曽根 晃一
    セッションID: G08
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    I. はじめに
     内生菌とは、生きた植物の健全な組織内に無病徴で存在している菌のことであるが、通常、健全な植物は組織の中に内生菌を常在させていることが知られている。内生菌の生態的な特性の一つを推測し得る事例として、宿主が健全なうちは組織内で潜在しているが、宿主組織が衰弱、枯死すると急速に成長し、場合によっては子実体まで形成するケースがしばしば報告されている。このように、宿主の枯死前後は、内生菌の生態を考える上で、一つのポイントとなるステージと言える。
     そこで、本研究においては、マテバシイの当年生実生を用いて、宿主が枯死した直後の組織内部の菌相を枯死前の健全な宿主における内生菌相と比較することにより、枯死前後における組織内部の菌相の変化を明らかにすることを目的に調査を行った。そのため、まずマテバシイの当年生実生を採取して一部を健全個体の内生菌相の調査に供すると共に、残りを条件の異なるプロットに植栽し、次にそこで枯死した実生を枯死個体の内部菌相の調査に供するという手順で調査を行った。
    _II_. 材料と方法
     調査は桜島の北岳北西斜面中腹と鹿児島大学附属高隈演習林の広葉樹林で行った。実生の採取は桜島の調査地で行った。一方、桜島では周囲と比べて比較的明るいギャップ下(以下桜明)と密な樹冠下で比較的暗い場所(以下桜暗)の二ヶ所、高隈では樹冠下一ヶ所(明るさは桜暗と同程度)の計三ヶ所に植栽用プロットを設置した。
     2002年8月6日及び10月17日に桜島の調査地付近でマテバシイ当年生実生を採取した。8月6日に採取した実生は、13本を健全実生の内生菌相の調査に供し、残りはその日のうちに桜明、桜暗、高隈の各プロットに20本ずつ植栽した。10月17日に採取した実生は、20本を健全実生の内生菌相の調査に供し、残りはやはりその日のうちに桜暗と高隈に20本ずつ植栽した。植栽後、実生の枯死経過を1_から_2週間に1回、二ヶ月間観察した。この期間に枯死した実生は研究室に持ち帰り、その内部菌相を調べた。
     菌相調査に供試した実生は、葉身部、葉柄、茎の地上部、茎の地下部、根の各部位に分け、70%エタノール1分間、15%過酸化水素水15分間、70%エタノール1分間の連続処理による表面殺菌を施した後、長さ約2mm(葉身部は2x2mm)の断片を切り出した。その断片を2%麦芽エキス寒天培地に置床して培養し、培地上に伸長してきた菌の分離、同定を行った。
    _III_. 結果と考察
     健全実生、枯死実生とも、分離された菌は共通のものが多く、Colletotrichum gloeosporioidesPhomopsis sp. といった菌はどちらでも比較的高頻度で分離された。このことは、枯死直後の時期においてもやはり内生菌が引き続き植物組織内では重要な位置にあることを意味する。ただし、枯死個体ではPestalotiopsis sp. など健全実生ではほとんど出現しない菌も分離され、枯死に伴ってそれまでは侵入できなかった菌も入り込んでくることが示されている。
     一方、枯死実生では死因(乾燥、立枯病、衰弱)、時期(8/6、10/17)、プロット(桜明、桜暗、高隈)の違いに関わらず菌の分離頻度が健全実生に比べて顕著に高くなっており、特にC. gloeosporioidesの分離頻度の増加が目立った。すなわち、内生菌の中で宿主の枯死に伴って顕著に宿主内で成長するものが存在することが今回のケースでも示された。死因等の違いに関わらず同様な変化が認められたことから、宿主の死に際しての内生菌相のこの変化は、副次的な要因ではなく宿主の死そのものに伴う内生菌の反応と考えられる。なお、Colletotrichum属の菌については、宿主組織を人工的に衰弱させることによって急速に子実体を形成させる技術が知られており、今回の結果と符合する。多くの植物病害の病原菌として知られる。本属菌であるが、あるいは本来こういった「宿主に内生→宿主の衰弱に伴い急速に成長」という生活史戦略を取る菌なのかもしれない。
  • 佐橋 憲生, 秋庭 満輝, 石原 誠, 森田 茂
    セッションID: G09
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    奄美群島において南根腐病の発生について調査した。調査は奄美大島を中心に、徳之島、沖永良部島、喜界島において、平成11年から15年にかけて4回行い、4島すべてにおいて南根腐病の発生を確認した。特徴的な病徴および病原菌の分離試験から南根腐病であると確認された樹種は16種で、そのうちタブノキ、ヤブニッケイ、タラノキ、シャリンバイ 、ハマビワ 、クロガネモチなど13種はこれまで報告されておらず、本病の新宿主であることが明らかとなった。なお、本調査では本菌の子実体は確認することができなかった。
  • 升屋 勇人, 市原 優, 窪野 高徳
    セッションID: G11
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    キクイムシ類は菌類と何らかの相互関係を持っている。特に養菌性キクイムシはマイカンギアと呼ばれる胞子・菌糸の貯蔵・運搬器官で、アンブロシア菌と呼ばれる菌類を保持、運搬している。アンブロシア菌は幼虫の栄養源となっており、養菌性キクイムシとアンブロシア菌は高度に発達した相利共生の1例としてよく知られている。 一方、同じキクイムシの中でも樹皮下穿孔性キクイムシは、樹木の内樹皮を摂食するグループであり、特定の菌類との関係は養菌性キクイムシと比べて希薄と考えられている。しかし、樹皮下穿孔性キクイムシの1種、マツノムツバキクイムシは口腔内にマイカンギアがあり、アンブロシア菌の一種Ambrosiella属菌をそこに保持していることから樹皮下穿孔性キクイムシの中でも特異な種である。 マツノムツバキクイムシにおけるアンブロシア菌の意義は、内樹皮とともに虫の栄養源になっていると考えられているが、十分には解明されていない。本研究ではマツノムツバキクイムシにおけるAmbrosiella属菌の適応的意義を明らかにするための予備調査として、マツノムツバキクイムシ孔道から菌の分離を行い、初期孔道における菌類相を明らかにするとともに、Ambrosiella属菌の存在の有無、分離パターンを調査した。2.材料と方法
     2002年5月16 日、岩手県盛岡市のアカマツ林においてマツノムツバキクイムシが穿孔していたアカマツ落枝(直径約12cm)2本を、実験室に持ち帰り分離に供試した。樹皮表面を火炎滅菌したあと、火炎滅菌した鉈で樹皮を剥ぎ、マツノムツバキクイムシ孔道を部位ごとに卵室、長さ5mm以下の幼虫孔、長さ5-10mmの幼虫孔、長さ10-15mmの幼虫孔の4つにカテゴリ分けした。各カテゴリで最も母孔から遠い幼虫孔先端部の樹皮片(2x2x2mm)をそれぞれ1個ずつ切り取り、1%麦芽寒天培地上で2ヶ月間、18℃暗所で培養し、その間に樹皮片から出現した菌を分離した。分離した菌は2%麦芽寒天培地上で純粋培養した。こうして得られた菌株を形態観察により同定し、カテゴリごとに、分離に供試した全幼虫孔数における菌が出現した幼虫孔数の割合を出現頻度として算出した。
    3.結果および考察
     マツノムツバキクイムシ孔道の卵室では明瞭な内樹皮の変色は認められなかったが、8種類の菌が分離され、4種類が同定された。 もっとも高頻度に出現したのは酵母で76%、次いでAmbrosiella macrosporaが38%であった。また20%の出現頻度で青変菌の1種、Ophiostoma ipsが分離された。母孔付近の内樹皮は褐変していたが、今回分離に供試した幼虫孔の先端部のうち、長さが5mm未満のものでは、明瞭な変色は認められなかった。それにも関わらず、そこからは複数種の菌が分離された。酵母が最も高頻度に出現し、次いでA. macrosporaが多く出現した。Leptographium属菌も分離されたが、これは同所的に穿孔していたHylurgops属キクイムシ由来であることは確認している。長さ5-10mmの幼虫孔の先端部からも長さ5mm未満の幼虫孔先端部と同様様々な菌が分離されたが、O. ipsの出現頻度が大幅に増加した。またHyalorhinocladiella属の1種が新たに出現した。長さ10-15mmの幼虫孔先端部では酵母とO. ipsが最も高頻度に出現した(それぞれ約43%)。Ambrosiella macrosporaの出現頻度も増加したが、O. ipsほどではなかった。 以上のことから、マツノムツバキクイムシでは、幼虫孔において最初に繁殖するのは酵母とAmbrosiella属菌であり、幼虫孔が伸びるとともに、O. ipsが酵母やA. macrosporaが繁殖している場所に入り込んでいくと考えられた。今回のA.macrosporaの分離は日本で初めての報告である。 マツノムツバキクイムシの幼虫は、生育の初期段階において、酵母とAmbrosiellaを摂食している可能性があり、両菌が幼虫にとって、栄養源として、もしくは栄養改善のために機能している可能性が示唆される。ただし、一方でそれらの出現頻度は100%ではないことから、必ずしも重要な栄養源になっていないとも考えられる。また今回供試できたサンプル数も少ないことから、サンプル数を増やして検討する必要もある。そして今後分離菌を用いた詳細な人工的飼育試験により、各菌の機能を明らかにしてゆく必要がある。
  • 二井 一禎, 竹本 周平, 神崎 菜摘, 山崎 理正, 小林 正秀, 野崎 愛
    セッションID: G12
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     ミズナラをはじめとするナラ属樹木が集団的に枯死するいわゆる“ナラ枯れ”が各地で問題になっている。この森林病害はこれまで日本海側を中心に被害地域を拡大してきたが、最近では内陸部に被害が進展し、平成14年の夏には京都府の内陸部に位置する京都大学フィールドセンター、芦生研究林にまでその被害がおよぶようになった。そこで、この被害実態を調査し、有効な防除法を確立するために研究チームを組織し、調査・研究を開始した。これまでにこのチームが実施した調査・研究は大別して3つの部分からなる。その一つは、被害地における枯死木の発生状況の調査で、第二の課題は感染に対する宿主樹木の応答の動的解析である。これらの課題についてはチームの他のメンバーによって別に発表されるのでここでは省略する。第三の課題は、病原菌を媒介し、被害の流行の原因となっているカシノナガキクイの密度を拮抗菌を用いることににより制御する方法の開発である。この考えは既にメンバーの一員である小林や野崎により、シイタケ菌を用いた防除法として発表されているが、より有効な菌を見いだすためにこの調査・研究が実施された。ここではその結果を紹介する。 抗菌の探索:“ナラ枯れ”の病原菌、Raffaelea quercivora に対し8株の菌類を供試して対峙培養を行い、基質上で示されるR. quercivoraと各供試菌の生長反応を解析し、拮抗力を判定した。用いた菌株はシイタケ、ツキヨタケ、ヒラタケ2株、トリコデルマ4菌株の合計8菌株である。これらの菌をPDA培地上で9日間25℃で前培養後、これら供試菌のいずれか1種とR. quercivora を直径6 mm のディスクとして抜き取り、内径84 mm のシャーレに用意した培地上に互いに 3 cm 隔てて対峙させ、25℃の恒温条件下で生長を観察した。いずれの組み合わせについても繰り返しにはシャーレ10枚を用いた。 木丸太を用いた拮抗力試験: カシナガが多数穿孔している枯死木を伐倒し、虫の多数潜入している部位を30cmの長さに切り分け、これを材料とした。接種に先立ち、切断後の丸太の乾燥を防ぐため、両端をパラフィンで封じた。拮抗菌としては、シイタケ、ヒラタケ、トリコデルマ3系統、木材腐朽菌3系統、ボーベリアの合計9 菌株と、孔をあけただけで、菌を接種しない対照区の合計10処理区とした。各処理区につき、7反復をとった。したがって、用いた丸太の数は70本である。接種後、丸太は風通しの良い屋内に放置し、翌年初夏に防虫ネットで被覆し、羽化昆虫を定期的に採取し、カシナガについては雌雄別に、他の昆虫については種類別、あるいはグループ別にカウントした。 野外枯損木への接種試験: 枯損木から周辺健全木への被害の拡大を最小限に抑えるため、拮抗作用があきらかになっているシイタケ菌を枯損木に接種した。用いた菌株はキノックス社のS-10株である。接種に当たっては背負い式ドリルで、地際、胸高、その中間の3つの高さについて穿孔した。孔の間隔は、ガイドネット(幅が30 cm、格子間隔が10 cm のネット)を用い、10 cm間隔で穿孔した。穿孔した孔のうち、十分の一のものに、拮抗菌のタネ駒をできるだけ均等に打ち込んだ。この時、孔の深さは5cmとし、タネ駒は2cmより深くに埋め込んだ。翌年7月初旬より1週間に1度の頻度で2ヶ月間、羽化昆虫をトラップ内から採取し、その数をカウントした。調査・実験の結果は次のようになった。 拮抗菌の探索:供試した8菌株のうち R. quercivora  の生長が抑制されるのは、シイタケ菌、ツキヨタケ菌、トリコデルマ・ハルティアーヌム菌、ヒラタケ菌の2株などであったが、トリコデルマの sp.2 やsp. 3 は生長が早く、その効果判定ができなかった。 枯損木丸太を用いた拮抗力試験: 供試した8菌株のうち、菌を接種せず穴だけを空けた対照区より有効であったのはボーベリア菌と、トリコデルマ sp. 2 菌だけであった。 以上のように病原菌を制御したり、カシナガの羽化個体数を制御するために、いくつかの菌類の拮抗力を試験したが、野外における実施結果はまだ出ていない。病原菌やその伝搬者に対して拮抗力を判定するためには、さらに多面的な調査が必要であると総括できよう。
  • 大和 万里子, 山田 利博, 鈴木 和夫
    セッションID: G13
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1. はじめに
    近年、主として日本海側の各地でナラ類の萎凋枯死が集団的に発生している。萎凋枯死機構には、カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)の媒介する菌類Raffaelea quercivoraが深く関わっている。カシノナガキクイムシはナラ類の樹幹に大量穿孔し、R.quercivoraは坑道から材内に蔓延して通道阻害を引き起こす。通道阻害域の拡大に伴う水分通道の停止によってナラ類は萎凋枯死に至ると考えられ、枯死機構を理解する上で通道阻害発生のメカニズムを明らかにすることが重要である。
    通道阻害要因として、道管内の水柱の切れ(キャビテーション)、病原体の菌体、病原菌の分泌物、分解された宿主の組織、また、樹木が道管内に生成するチロースや樹脂などが考えられる。本研究では、R.quercivoraの接種によって通道阻害の引き起こされたミズナラ苗の道管を軸方向に連続的に解剖観察し、R.quercsivoraによる通道阻害の要因を明らかにすることを目的とした。2. 材料と方法
    供試木として、東京大学付属演習林田無試験地苗畑に植栽した高さ1m、根元直径1.5-2cmの4年生ミズナラ苗木を用いた。接種源として、米ヌカ・フスマ培地を用いて23℃暗黒下で4週間培養したR.quercivoraを用いた。2003年8月22日に、地上20cmの樹幹に錐で直径1mm、深さ5mm程度の穴を1つ開け、接種源を詰め込み、パラフィルムで巻いて固定した。対照として、滅菌培地を同様に接種した。
    通道域を染色するため、接種2ヶ月後にR.quercivora接種木2本、対照木2本を根ごと掘り起こし、根を水洗後、0.5%過ヨウ素酸水溶液を3時間吸収させ、水洗後、Schiff試薬を20時間吸収させ、冷凍保存した。接種部を中心に木口面を凍結ミクロトームで25μm厚さに薄切りし、0.1mmおきに連続的に切片を得て解剖観察を行った。
    3. 結果と考察
    接種部の周囲には薄い褐色の材変色が見られた。通道阻害域は材変色域より大きく、接種部から接線方向に、接種木では1.5-2.0mm、対照木では0.5-1.5mmの距離まで形成された。通道阻害域の道管にはチロースが認められ、仮道管領域には閉塞物質が見られることが多かった。
    通道域と阻害域の境界部では、チロースや閉塞物質が顕著に認められ、フロログルシノール-塩酸で赤く染まる物質の沈着が木繊維を中心に見られた。また、境界部は、蛍光顕微鏡のU励起モードで青白い蛍光を発する部位とほぼ重なっていた。これらは樹木の防御反応である反応障壁形成だと考えられる。
    接種部から遠ざかるにつれ阻害域が狭くなり、仮道管領域の通道が回復するのが観察された。接種木において、通道域の道管がチロースで閉塞していることがあったが、これらの道管は下部で通道阻害域と接するか、阻害域を通過している道管であることが多かった。孔圏における大径道管(直径60-80μm)20本のうち、19本は5mm以上の長さがあり、そのうち2本は1cm以上の長さがあった。仮道管領域は、道管に比べて短い仮道管や小径道管が互いに隣接して存在するため、道管よりも水平方向の水移動に優れ、通道阻害域の迂回路として寄与していると考えられる。
    菌糸は接種付傷部と、付傷部から接線方向に0.3mm離れた道管内に観察されたのみであり、菌体自体が道管を閉塞する可能性は低いと考えられた。
      本実験では、道管のチロースと仮道管領域の閉塞物質が通道阻害要因として観察された。チロースや閉塞物質が反応障壁と同部位に形成されたことは、これらが樹木の防御反応であることを示唆している。
  • ブナ科各樹種における材変色形成と初期防御反応
    村田 政穂, 山田 利博, 伊藤 進一郎
    セッションID: G14
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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  • 岩竹 淳裕, 二井 一禎, 山崎 理正
    セッションID: G15
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 近年、日本海側を中心としてナラ類の集団枯損が報告されている。この枯損被害の特徴はカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)という養菌性キクイムシが健全木に多数穿入すること、さらには被害個体の辺材部においてこのカシナガの共生菌が繁殖することで通水機能に影響をもたらし、被害個体が萎凋・枯死する事である。 これまでに大径木やミズナラで枯損被害が著しいことがいわれているが、その原因は大径木やミズナラへのカシナガの飛来数が多いからなのか、それとも飛来したカシナガのうち穿孔する割合(穿孔率)が高いからなのかははっきりしていない。そこで、これを検討するため穿孔率に着目して野外調査を行った。 さらに、この野外調査とあわせてカシナガ穿入後の辺材成分の変化についても調査した。カシナガは辺材部に穿孔し、穿孔によりこの部位に影響を与えることが知られているが、穿孔と辺材成分の変化の関係についてはほとんど報告されていない。この変化を知ることは、穿孔に対する樹木側の反応を知る上で重要な手がかりになると思われる。そこで、枯損の割合が異なるミズナラとウラジロガシとでこの反応を比較し,被害過程と合わせて検討した。2. 材料と方法 調査は京都府美山町に位置する芦生研究林第5林班にて行った。被害発生の初期過程を詳しく見るため、平成14年度の被害林分に隣接する未被害の林分を選び、50m×50mのプロットを設置して、プロット内のミズナラ20本及びウラジロガシ10本についてカシナガの飛来数と穿孔数を3~5日おきに調査した。飛来数は、カミキリホイホイ(アースケミカル社製)8cm×25cmを粘着面が外側になるように調査対象木の地際部50cm部位の山側・谷側に設置し、トラップされたカシナガをカウントすることで調査した。穿孔数は150cm以下について、全ての穿入孔のそばに押しピンを刺してカウントした。 辺材成分の分析は、7月下旬から8月中旬にかけて、カシナガによって穿孔されたミズナラ2本、ウラジロガシ1本について、また、9月上旬から10月下旬にかけて、ミズナラ4本、ウラジロガシ4本(それぞれ被害木2本・健全木2本ずつ)について辺材試料を採取した。採取は分析対象木の穿孔部周辺から径1cmのドリルで深さ1.5cmまで削り、木屑を得た。得られた木屑を凍結乾燥・粉砕後50%メタノールで抽出し、 Price and Butler methodにより総フェノール量(以下、TP)を、Bate-Smith methodによりエラグタンニン量(以下、ET)をそれぞれ定量した。3. 結果と考察 被害木はミズナラ7本、ウラジロガシ3本であった。被害木の穿孔率を比較すると、ミズナラ枯死木とミズナラ生存木、ミズナラとウラジロガシで穿孔率が異なり、それぞれ前者の方が有意に穿孔率が高かった。さらに単位面積あたりの飛来数と穿孔密度には相関が見られなかったが、穿孔率と穿孔密度に正の相関が見られた。穿孔密度と枯損に関係が見られるという報告があり、実際今回の調査でも穿孔密度が高い個体で枯死が観察された。以上から、カシナガは穿孔の際に寄主を識別していると考えられ、穿孔率の高い寄主(カシナガの嗜好度の高い樹木)では穿孔密度が高くなり損傷程度が大きくなると考えられる。 分析を行った辺材成分について大きな変動が見られたのは穿孔率が高い時期であり、穿孔によって辺材成分が変化することが示唆された。具体的には、カシナガの初期穿孔後各成分は徐々に上昇し、その後急激に穿孔率が高くなると、各成分の値が減少する傾向が見られた。その際、ミズナラの方が減少程度が大きく、ウラジロガシではTPはほとんど減少しなかった。 ミズナラとウラジロガシの枯損の割合の違いには、カシナガの穿孔率の違いやこのような成分変化の違いが関係しているのかも知れない。
  • 井下田 寛, 江崎 功二郎, 鎌田 直人
    セッションID: G16
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    本州の日本海側を中心にみられるナラ類の集団枯損は、カシノナガキクイムシ(以下、「本種」)が媒介するRaffaelea quercivoraが原因で発生する。これまでの研究から、本種成虫は斜面下方から斜面上方へ移動する傾向があり、成虫の正の走光性が至近要因の一つであることが明らかにされた(Igeta et al., 2003)。また、飛翔する本種成虫の多くが風下に移動するという報告もある(井下田ら,2002)。そこで本研究では、成虫の飛翔方向に風と斜面が与える影響を相対的に評価することを目的とした。
    調査は石川県加賀市刈安山で行った。調査区の斜面方向は西南西である。
    風向トラップは2つの粘着バンドからなる。風向きと移動の関係を調べるため、常に風上を向く風見鶏に、筒状の粘着シートを粘着面が表になるように取り付けた(以下、「回転バンド」)。その下には斜面と移動の関係を調べるために、常に固定されている粘着バンド(以下、「固定バンド」)を取り付けた。このトラップを林内の地上高約1mの位置に60個(10列×6)設置した。調査期間は7月1日_から_10月27日である。シートは全周を24等分し、1週間間隔で各部位で捕獲された成虫数を数えた。風向トラップの設置と同時に、自記記録装置付きの風向風速計も1台設置した。データは1時間間隔で記録した。Circular Statisticsによって、捕獲数と風向きについて方向性の検定を行った。
    調査期間中、2459個体がトラップで捕獲された。最初の5週間(7月1日_から_8月4日)で全体の77.3%の個体が捕獲されたため、この期間の結果について解析した。
    回転バンドでは風上側で有意に多くの個体が捕獲された(Rayleigh test, p<0.05)(図A)。これは、飛翔成虫の多くが風下に移動していたことを示している。一方、固定バンドでは、北西側で有意に多くの個体が捕獲された(Rayleigh test, p<0.05)(図B)。本種成虫はおもに午前中に飛翔するが、飛翔成虫の多くが午前中の太陽の方向である南東方向に移動していたことを示している。回転バンドと固定バンドの結果を比較すると、回転バンドでは方向性は明確でなく、風下側でも比較的多くの個体が捕獲されていた。この結果は、この場所では風よりも光の方が移動により強く影響していたことを示している。午前4時からから正午までの風向きを調べたところ、午前9時までは東の風が卓越していたが(Rayleigh test, p<0.05)(図C)、午前10時以降は、上昇気流により北北西の風が卓越するようになった(Rayleigh test, p<0.05)(図D)。午前4-8時は風は弱く、午前9-12時は風が強くなった。これらの結果、本種成虫の飛翔方向に及ぼす光と風の影響を次のように考察した。本調査地では、一貫して明るい方向に飛翔する個体が多かった。午前4-9時まで、飛翔成虫の多くは明るい方へ向かって飛翔していたが、結果的に風上に向かって飛翔していたことになる。これは、午前8時までは風が比較的弱いことも関係していたものと考えられる。午前10時以降は、北西方向の上昇気流が発生し風も強くなった。風の方向と太陽の方向が一致していたため、飛翔成虫の多くが風に流され、明るい方向へ移動した。
    次に、1週間ごとのデータで同様の解析を行った。回転バンドでは、5週のうち3週は風上側で多く捕獲されたが、2週だけはまったく逆に風下側で多く捕獲された。それに対して、固定バンドでは、一貫して、北西側で多くの成虫が捕獲された。これらの結果も、この年のこの場所では、風よりも光がより強く移動方向に関係していたことを示している。
    粘着板を斜面方向に対して垂直に設置して、本研究と同じ場所で5年間調査を行った結果では、本種成虫の斜面下方から斜面上方へ移動する明確な傾向はみられなかった。この原因は、飛翔成虫の多くが粘着面とほぼ平行である南南東方向に移動したため、粘着板の表裏で捕獲数に差が認められなかったものと考えられた。したがって、これまでに報告されている斜面の下から上へ向かう移動も、重力そのものよりも光が強く関係している可能性が強い。
造林 I
  • 樋口 国雄
    セッションID: G17
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    スギの寿命と長伐期林業のために日本の本土(本州)のスギ巨樹の樹齢を文献調査した。本調査では千葉県にある清澄の大杉が最長寿で、2004年1月現在で約427年生であった。著名なスギ並木は約350年生が多く、江戸時代初期に植栽されたものと思われる。樹齢100年以下で根元、胸高、目通り周囲300 cm以上のスギ巨樹は65件確認され、スギ巨樹の生長は極めてよい例が多いことが分かった。
  • 福島 成樹
    セッションID: G18
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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     長期育成循環施業において下木の光環境改善を目的とした高齢木の枝打ちを行う場合,それが高齢木の直径成長にどのような影響を与えるかについて検討した。 調査地は,千葉県南部にある嶺岡山県有林の1914年植栽(2003年時90年生)のヒノキ林である。このヒノキ林内に3箇所の調査区を設定し,区域内の53本のヒノキ高齢木について枝打ちと直径成長の関係について調査した。 枝打ちは2000年1_から_3月に行った。枝打ちの方法は,枝打ち後に残る樹冠長を6m程度とする強度枝打ち,枝打ち後に残る樹冠長を8m程度とする弱度枝打ち,枝打ちなしの3種類とした。 枝打ち後の直径成長については,成長バンドにより胸高位置の幹まわり(胸高周囲長)の変化をミリメートル単位で測定した。成長バンドは枝打ち後の2000年4月6日に設置し,成長量の測定は,2000年11月21日,2002年2月20日,2003年1月20日の3回行った。 3年間の胸高周囲長成長量は,個体によるバラツキが大きいものの,樹冠長が大きくなるほど成長量も大きくなる傾向を示した。また,調査区,枝打ち処理別の胸高周囲長成長量の平均値を見ると,樹冠長が大きくなるほど成長量も大きくなる傾向を示したが,特に樹冠長が8mよりも少なくなると成長量の低下が大きかった。 したがって,今回調査を行った地域において,下木の光環境改善のための上木の枝打ちを行う場合,上木の直径成長を低下させないためには枝打ち後の樹冠長を8m程度に設定することが必要と考えられた。
  • 高橋 絵里奈, 竹内 典之
    セッションID: G19
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    近年長伐期施業の指針が切望されている。吉野林業地では、約100年という長伐期で林分が管理されてきており,200年生を越えるスギ人工林が現存する。その管理技術を詳細に調査し,結果を科学的に解析することは,今後の人工林管理に役立つと考えられる。吉野林業地に設定した調査区において胸高直径を測定した。平均胸高直径は200年生を越えるまで増加し続けていた。調査区ごとに最頻値や標準偏差,変動係数を算出した。最頻値は平均胸高直径とほぼ一致していた。一般的な人工林では変動係数の値は20%程度で,林齢の増加にともなって増加すると言われてきたが,吉野林業地では,多くの調査区で変動係数が20%以下であり、林齢の増加にともなう増加傾向はみられなかった。以上の結果から,吉野林業地の直径分布は平均胸高直径と最頻値がほぼ一致し,一般的な人工林と比較して胸高直径のサイズのばらつきが小さく,高齢になっても集中した分布が保たれていることが明らかになった。
  • 三好 悠, 野渕 正
    セッションID: G20
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    ○はじめに 平成13年度より100年生程度以上の森林をつくる施業ととして長期育成循環林施業が導入された(H13森林・林業白書)。しかしながら、100年生以上の施業を行う根拠について材質や木材利用の観点から論じられた報告は少ない。そこで、本研究では粗植・省力の木頭林業として知られる徳島県那賀郡の木沢村と木頭村で100年以上育成された合計6本のスギについて材積成長量と材質指標(年輪幅・容積密度数)の100年にわたる経年変化を明らかにした。そしてこれまでの材質研究で言われているコアーウッド(未成熟材)とアウターウッド(成熟材)の性質が100年を超えるスギにも見られるかどうかを確かめた。さらに各年輪における仮道管細胞形態(細胞数・接線径・放射径)の観察結果から100年程度までの樹齢における元玉部位の木材生産力について考察し、木頭地方における適正な主伐期を見いだそうとした。 ○調査地・試料・方法 ★木沢村沢谷(地位:上) およそ20から30年ごとに間伐。2002年3月に間伐を実施。ヘクタール当たり立木密度はおよそ190本から133本となる(面積は1.3ha)。3本の試料木SA・SB・SCにおける樹高はそれぞれ34.9m、33.6m、30.7m、胸高直径はそれぞれ80cm、64cm、70cmである。各試料木の地上高0.3mから12.6mの範囲から4枚の円盤試料を採取した。地上高0.3m部位の年輪数は100から101であった。★木頭村折宇(地位:中)これまで間伐はなされていなかった。2003年3月に間伐を実施。ヘクタールあたり立木密度はおよそ367本から218本となる(面積は0.4ha)。3本の試料木TA・TB・TCの樹高はそれぞれ32.2m・40.7m・34.3m、胸高直径は63cm、79cm、46cmである。各試料木の地上高0.3m以上の範囲から8_から_10枚の円盤試料を採取した。地上高0.3m部位の年輪数は128から130であった。<方法1 軟X線デンシトメトリー>各円盤の髄から4つの放射方向に向かって2mm厚の試料を作成したのち軟X線デンシトメトリーを行い、材質指標値として各年輪の年輪幅・容積密度数・晩材率(閾値:550kg/m3)を測定した。樹幹解析は得られた年輪幅を用いて行い、材積成長量を求めた。<方法2 仮道管細胞形態の観察および測定>円盤試料を加工し、2000年から10年ごとにさかのぼって光学顕微鏡観察用のプレパラートを常法により作成(厚さ20μm)した。これらのプレパラートを接眼レンズ10倍・対物レンズ100倍で観察し、早材部の仮道管接線径(50個の平均値)、1年輪あたり放射方向細胞数(10列の平均値)及び放射径<年輪幅(対物レンズ4倍)/細胞数の平均値>を測定した。○結果と考察 材積成長量については各試料木で樹齢100年前後まで順当に増加していく傾向が見られた。TAとTCについては樹齢100年以降で材積成長速度が著しく減少し、被圧木の傾向が見られた。容積密度数は木沢よりも木頭で大きいという傾向が見られた。また、コアーウッドと見なされる形成層齢10から15年前後までの部位では容積密度数が急激に減少し、アウターウッドと見なされる形成層齢20年以降の部位では安定もしくは漸減するという従来の報告と同様の傾向が見られた。さらに容積密度数をかたちづくる細胞形態のうち接線径の変動傾向を調べると、樹齢の増加に伴って全ての試料木で漸増してゆく傾向が100年前後まで見られた。よって100年前後までで細胞形態に急激な変動が起こっているとは言えないと判断され、木頭地方においては材質的に100年程度の伐期を設定することが可能であることが示唆された。
  • 松崎 誠司, 河原 輝彦
    セッションID: G21
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    I.はじめにヒノキの天然更新による森林造成は、質的に優れた天然生ヒノキの生産を主眼におき、さらにその造成過程での技術的合理性や地力維持・環境保全等の公益的機能にも期待することができることなどから、これからの人工林の管理手段の1つとして有効であると考えられている。しかし、ヒノキの天然更新はどこでも簡単に成功するというものではなく、種々難しい問題を多く含んでいる。大阪営林局管内(現・近畿中国森林管理局)では、ヒノキ天然更新の技術的な体系化を図るために数多くの試験地を設定し、稚樹の消長調査等が行われ、すでに多くの成果が発表されている。その結果、ある程度の条件さえ整えばヒノキの天然更新は十分可能であることが判っている。そこで、ヒノキの天然更新が可能となる条件とはどのような条件か、数多くの条件の違う地況および林況のヒノキ林から集めたデータを用いて、天然更新の成否に影響を与える要因を分析するとともに、実際の林地における天然更新の可能性を診断することができるシミュレーションモデルの構築を目指した。II.調査地および調査方法分析に使用したデータは、大阪営林局管内(現・近畿中国森林管理局)の23営林署・445プロットにおいて、1986年9月から10月の間に調査されたものである。調査項目は、地況・林況について全14項目、さらにヒノキ稚樹の更新状況についても詳細に調査を行っている。III.結果および考察1.標 高:標高が低いほうから高いほうにいくにしたがって、更新の可能性は大きくなり、750から1000mでもっとも大きく、約60%の林分で更新可能である。しかし、標高が1000m以上になると逆に更新の可能性は小さくなっていた。2.降水量:年降水量が1200mmと少なくても、また、2600mm以上と多くても、更新との間にははっきりした関係は見られなかった。3.方 位:8方位について検討したが、南面で最も更新の可能性が大きかったが、ほかの方位との関連性は見られなかった。4.傾斜度:傾斜度と更新との関係では、10度以下の緩斜面では更新の可能性が大きく、傾斜が急になるにともなって更新の可能性は小さくなっていた。これは急斜面ほど雨水による土壌の移動量が大きくなり、それにともなって稚樹の移動も大きくなることも関係している。5.斜面の位置:斜面の上、中、下部と更新との関係を見ると、上、中、下部間でそれほど大きな差は無いが、傾向としては上、中、下部の順に可能性は小さくなった。6.基 岩:各基岩について検討したが、天然更新の可能性との間には、はっきりした関係は見られなかった。7.土壌型:黒ぼく土(BlD)では、ほかの土壌型よりも際立って更新の可能性は大きく、この土壌型にある林分の75%が更新可能地となった。その他は、湿った土壌でも、また乾いた土壌でも更新の可能性は小さくなった。すなわち、乾きすぎたり、湿りすぎたりするところでは天然更新の適地とはいえない。8.林 齢:林齢が大きくなるに伴い、更新の可能性は大きくなった。この理由として考えられることは、40年生ぐらいまでは葉量が最も多く、林内が暗いが、林齢が進むにつれて葉量が次第に少なくなり、林内の光環境が改善される。よって、ヒノキの天然更新を考える場合には、できれば60年生以上の林分を対象にした方が良い。9.容積密度(V/H):V/Hが40くらいまでの林分での更新の可能性はほとんど変わらない。しかし、40以上になると高密度となることから林内が暗くなり更新は極端に悪くなった。10.樹冠疎密度:林冠の閉鎖度を3段階にしたが、更新の可能性との関係では、疎な林分ほど更新の可能性は大きくなった。これは林内の明るさによるものと思われる。11.林内照度:林内相対照度が3%以下の林分では、暗すぎて稚樹の生育が難しく、3%よりも相対照度が大きい林分では大差なく、約40%の林分で更新可能地となった。12.林床植生の被覆度と重量:林床植生の被覆度がゼロと思われる林分での更新の可能性は非常に小さいが、被覆度が大きくなるにつれて可能性は大きくなった。13.林床型:林床に植生が何もない林分では、更新は不可能であった。一方、コケ型を示す林分では、プロット数は少ないが、約95%の林分で更新可能となった。他の草本、ササ、シダ型では、その密度によって更新の可能性は大きく異なるが、ササ型で多少更新の可能性が低くなる傾向を示した。
  • 最多密度の生態的意味
    千葉 幸弘
    セッションID: G22
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     林分密度管理をした場合の人工林成長動態と「樹形モデル」との統合を図るため、人工一斉林の林分構造とその動態のモデル化を試みてきた。現時点では林分平均個体を想定したモデルであるが、器官別の成長経過と林分密度との関係を解析することは可能である。昨年のシミュレーションでは、従来言われている以上に壮齢期以降の現存量成長が大きいことが予測された。 時間が十分に経過すると、現存量は最大値に到達する(最終収量)と言われるが、実際には高齢林でも成長がそれほど低下しないことが最近報告されつつある。今回は、樹木を含めた植物成長における最終収量および3/2乗則などの密度効果について再考し、特に森林における最多密度の解釈に関して林分密度管理図との関連から検討を加える。
  • 長野県伊那谷のマダケ林を事例として
    海原 淳平, 植木 達人
    セッションID: G23
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.背景と目的日本文化の代名詞でもある竹を生産してきた竹林は、現在多くが放置されており里山や人工造林地への拡大・侵入や、竹林そのものの荒廃による公益的機能の低下といった様々な問題を抱えている。この様な問題を解決するためには適切な竹林整備が必要である。本研究では、適切な整備方法を検討するために整備が竹林の成育に与える効果について長野県伊那谷のマダケ林を事例として調査・検討を行い、その問題点や課題点を明らかにすることを目的とした。2.方法現地調査として「放置竹林」「整備竹林」「改良整備実施竹林」の条件の異なる3つの林分において10×10mのプロットを設置し、稈長、枝下高、直径、節間長、本数、位置等について林分調査を行った。直径については竹の形状を算出するために地際から高さ2mまでの値を測定した。放置竹林と整備竹林、放置竹林と改良整備実施竹林について調査結果を比較することで、整備が竹の育成に与える効果と今回行われた改良整備の内容についての考察を行った。3.各林分の整備方法整備竹林では毎年弱度の抜き伐りと施肥を行っており、竹の育成を目的として整備を行っている。改良整備実施竹林は今年放置竹林において4年生以上の竹を全て伐り取る方法で林分の改良を図っている。放置竹林は最近5年ほど放置されている林分である。4.結果と考察林況:各プロットの竹を年齢別に「新竹」「枯損竹」「二年生以上」の三種に分類すると整備竹林で新竹22%、枯損竹4%、二年生以上74%であり、改良整備実施竹林で新竹25%、枯損竹11%、二年生以上64%、放置竹林で新竹8%、枯損竹24%、二年生以上68%であった。改良整備実施竹林においては今回の整備によって4年生以上の竹を全て伐採したことが新竹の割合を高め、放置竹林においては竹の利用が無いために枯損竹が多くなったと考えられる。また、整備竹林では枯損竹が少なく二年生以上が他よりも多く見られた。新竹の割合も多く、枯損竹が少ないことから新竹の発生に関しては整備による効果が出ていると考えられる。形質:竹材の形質は「胴張り型」「株張り型」「中間型」「枯損」の4つに分類することができる。良質とされるのが「胴張り型」と「中間型」の竹で、「株張り型」の竹は劣質とされる。(2)これらの形質は地上高約2mまでの直径値の変動により決定されるもので、竹林の良・不良の判断の大きな目安となる。各林分の形質別本数割合は、整備竹林で胴張り型が48%、中間型が18%、株張り型が30%、改良整備実施竹林で胴張り型が36%、中間型が13%、株張り型が38%、放置竹林で胴張り型が38%、中間型が16%、株張り型が22%であった。良質な竹である胴張り型が最も多かったのは整備竹林であり、劣質な竹である株張り型が最も多かったのは改良整備竹林であった。また、放置竹林においては胴張り型の竹が少ないことから良質材が成育しにくい環境にあることが考えられる。竹の形質に関しても整備竹林において良質な竹が多い傾向を示したことから、整備の効果が明らかとなった。しかし、各林分の新竹について形質の本数割合をみると今後の竹林の変化に関して劣質林に向かっていることも示唆された。整備竹林では胴張り型が23%、中間型が50%、株張り型が27%と中間型が半数を占め、この割合のまま年を重ねると中間竹が増加し、将来的には株張り型の竹が増加する可能性がある。改良整備竹林では胴張り型が21%、中間型が36%、株張り型が43%と株張り型が非常に多く、今後適切な整備を行わなければ株張り型が半数を超る可能性がある。放置竹林においては胴張り型が31%、中間型が31%、株張り型が38%でやや株張り型が高いが平均的な割合分布となり、胴張り型が最も高い割合であった。新竹に限っては整備によって劣質な竹の発生を抑制できているが、良質な竹の生産に関してはさして効果をあげていないことが明らかとなった。5.まとめ今回の林分調査において、整備を行うことによって翌年の新竹発生を促進させること、整備によって形質の良い竹が多く発生すること、新竹に関しては整備によって劣質な竹の発生は抑制されたが良質な竹の発生は促進されなかったことが明らかとなった。このことから、竹林における整備は材生産に対して良い効果を与えることが明らかとなった。しかし、整備竹林における整備については良質材を生産するには不十分な整備であり、より適切な整備方法の検討が必要である。そういった意味において、改良整備竹林における今後の動向についての追跡調査が重要である。
  • 渋谷 正人
    セッションID: G24
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    萩原による密度効果のロジスティック理論を、自己間引きによる密度変化が生じているカンバ天然林へ適用する方法論について検討した。萩原のC-D効果の逆数式は生物学的時間の関数となっているが、生物学的時間はロジスティック式における内的成長率の積分値であるから、成長の積分量であり、かつ密度によってあまり影響を受けない林分の平均樹高階を、ロジスティック理論へ導入することとした。逆数式の係数Bは、平均樹高階のべき乗式で精度よく近似でき、またBの生物学的な意味からも、その関係は適当であると考えられた。Bと平均樹高階との間にべき乗関係が成り立てば、逆数式のAも平均樹高階の関数となり、他の成長係数もすべて平均樹高にもとづいて求められた。ただし、実際に意味のある係数値を求めるためには、まず自己間引き線や各成長段階における最大密度などについて、経験的な検討を行い、それに基づき係数値を求める必要がある。従来林分密度管理図の作成には、逆数式の係数A、Bを上層樹高のべき乗関数で近似していたが、今回適用した方法の方が理論的には優れていると考えられる。
立地
  • 地形・植生との対応
    鳥山 淳平, 太田 誠一, 荒木 誠, 神崎 護, Khorn Saret, Pith Phearak, Lim Sopheap, Pol ...
    セッションID: H01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    カンボジア・コンポントム州の土壌特性と分布_-_地形・植生との対応_-_
    鳥山淳平(京大農)、太田誠一(京大院農)、荒木誠(森林総研)、神崎護(京大院農)
    Khorn Saret、Pith Phearak、Lim Sopheap、Pol Sopheavuth(DFW,Cambodia)
    _I_.はじめに
    カンボジアの森林は国土の50%を占めているが、近年広範かつ急速な天然林開発が進行しつつあり、天然林の持続可能な森林経営・管理方策を確立するための基本情報の蓄積が急務となっている。そこで本研究ではメコン河西岸域に分布する同国の代表的森林タイプの一つである熱帯乾燥常緑林の土壌の分布様式の概要と基本的土壌特性を明らかにし、それらを規定する主要な要因を摘出することを目的とした。さらに土壌が植生の分布をどのように規定しているかについても検討を行った。
    _II_.方法
    調査はカンボジア・コンポントム州(北緯105°25′,東経12°45′,年平均気温27℃,年間降水量1570mm)において行った。同地域の主要な部分を占める乾燥常緑林(以下DEF)において2ヶ所の土壌調査地点を設定した。加えて同域内において、周囲をDEFに囲まれ、交互に連続して出現する乾燥落葉林(DDF)、常落混交林(MF)、Melaleuca leucadendronの優占する湿地林(SF)のパッチを縦断して680mのトランセクトプロットを設置し、プロット内のDDFとMFで各2ヶ所、SFで1ヶ所の土壌調査地点を設定した。それぞれの調査地点で、土壌断面を作成し、各土壌層位から100ccの採土円筒3個の物理特性解析用の試料とともに化学分析用試料を採取した。またトランセクトに沿った10地点から0, 50, 100, 150cmの深度の土壌試料をオガーにより採取した。
    得られた土壌試料について、pH(H2O、KCl)、CEC、ECEC、交換性カチオン類、粒径組成の分析を行うとともに、土壌円筒試料を用いて容積重、飽和透水係数、水分特性曲線を測定した。またトランセクトのオガーサンプルについて粒径組成を分析した。
    _III_.結果と考察
    調査対象地域の土壌はそれぞれ以下のような特徴を備えていた。DEF:粘土含量は10_から_30%の範囲にあって下層へ明瞭に増大した。pHが低く、低塩基飽和度であった。Acrisolsに分類された。DDF:全層にわたり粘土含量は約10%以下でArenosolsに分類された。表層50cmまでの粘土含量が極めて低い点でMFと異なり、また下層の容積重が他の土壌タイプに比べて特に高かった(1.8_から_1.9Mg/m3)。MF :DDFと同じく砂質であるが、断面の形態的特徴からPodzolsに分類されると考えられた。SF :有機物に富む黒色の土層で構成されHistosolsに分類されると考えられた。年間のほとんどの期間冠水しているおり、粘土含量は40_から_50%であった。
    以上の様に森林タイプと土壌間にはDEF-Acrisols, DDF-Arenosols, MF-Podzols, SF-Histosolsという対応関係が認められ、粘土含量の違いとそれに起因する土壌特性がこれらの対応関係を生み出している主要な要因であると考えられた。
    大地形との関係についてみると、DEF-Acrisolsは同地域で相対的に高い(5_から_20m程度)地形面上に分布するのに対し、DDF- ArenosolsとMF-Podzolsは相対的に低い集水地形上に分布する傾向が認められた。一方トランセクト内でのDDF- ArenosolsとMF-Podzolsの分布は必ずしも地形面の高さとは対応しておらず、両者の分布は土壌の粒径組成を含む他の要因が関係していると考えられた。
    各土壌の表層50cm程度までの毛管粗孔隙量(ψ=_-_6KPa_から__-_50KPa)はDDF>MF>DEFの順に多かった。飽和透水係数と水分特性曲線から求めた不飽和透水係数 (Kosugi, 1996) は、毛管移動水(ψ=_-_6KPa_から__-_50KPa)の大部分の範囲ではDDF>MF>DEFの順に高かったが、毛管移動停止点(ψ=_-_50KPa)付近ではDEF>MF>DDFと逆転した。
    このことから、粘土含量の差と関係した透水性の違いが乾季の水分ストレスに差をもたらしている可能性が示唆された。一方雨期には、台地上に分布するDEFでは根系まで地下水位が上昇することはないのに対し、低地のDDFとMFでは地表付近まで地下水位が上昇し、根系は冠水ストレスにさらされる。しかし、雨期にも、非毛管孔隙を多く含み排水性がよく、気相確保が容易な土壌にはMFが、逆に困難な土壌にはDDFが分布するものと考えられた。
    このように、この地域における異なる森林タイプの分布には、乾期の水分ストレスと雨期の冠水ストレスの双方が関係しており、粒径組成の違いがその重要な要因であると考えられた。
  • 大貫 靖浩, 篠宮 佳樹, Chansopheaktra Kimhean, Sethik Sor
    セッションID: H02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    水源涵養機能を評価する上で重要な指標の1つとなる、異なった森林植生下における土層厚分布様式の類型化を試みた。カンボジア・コンポントム州内に設置した試験地において、乾季と雨季の端境期にあたる2003年5月に、常緑広葉樹林内の2地点、落葉広葉樹林内の3地点、混交林内の2地点で簡易動的コーン貫入試験を実施し、土層厚を測定した。雨季にあたる10月には、常緑広葉樹林内の2地点で土層厚を再測定した。河岸段丘上の落葉広葉樹林では、土層は平均8mと非常に厚く、地表面付近よりもむしろ地表面下2_から_3mに軟らかい土層が分布しているのが特徴であった。ほぼその深度に地下水面が認められ、保水力の高さを示唆していた。小河川沿いの混交林では、地表面下3m付近まで沖積性堆積物と考えられる非常に軟らかい土層が分布し、風化層は1m程度と薄かった。河岸段丘上の混交林では、土層厚は7m、そのうち土壌層は4mで、落葉広葉樹林同様地表面下2_から_3mに軟らかい土層が分布していた。沼沢地内の落葉広葉樹林においては、地表面下2m付近までは軟らかい土層が分布するが、その下に5m以上の厚い風化層が分布していた。このように、小河川から離れるに従って風化層が厚くなる傾向が認められた。常緑広葉樹林においては、5月の測定では2地点ともに土壌は比較的堅く、特に粘土含量の少ない地点では非常に締まった土壌が地表面直下から分布していた。粘土含量が比較的多い地点では地表面下1m以下から非常に締まった土壌が分布していた。風化層はそれぞれ2m程度、土層全体でそれぞれ4m程度であった。これに対し雨季の10月の測定では、双方ともに8mを超える測定結果が得られた。さらに今回は軟らかい土層が表層から4_から_6mの厚さで分布しているのが確認された。乾季と雨季の端境期にあたる2003年5月の土層厚の測定結果を常緑広葉樹林と落葉広葉樹林・混交林で比較してみると、標高および河川からの比高が高い常緑広葉樹林の方が土層が薄いという結果になった。しかしながら雨季の測定結果では、常緑広葉樹林の土層厚は8mを楽に超えており、標高および河川からの比高が高いほど土層が厚いという一般性は認められた。季節によって簡易動的コーン貫入試験の貫入抵抗値が大きく変化し、見かけ上の土層厚も変わることは、熱帯モンスーン地域における水資源貯留量を推定する上で重要な知見であると考えられる。
  • 荒木 誠, 神崎 護, 太田 誠一, サレ コーン, ピアラク ピト, ソピアップ リム, ソフィアブトゥ ポル
    セッションID: H03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 伊藤 江利子, 神崎 護, 金子 隆之, Saret Khorn , Phearak  Pith , Sopheap  Lim , Soph ...
    セッションID: H04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    アジアモンスーン気候下のカンボジア・コンポントム州において、隣接する常緑林と落葉林の二種類の熱帯季節林のLAI季節変化パターンを調べた。また、リモートセンシングによるNOAA NDVIデータの季節変化パターンと比較した。LAIの季節変化の大きさとフェノロジーにおいて常緑林と落葉林の間に差が認められた。また、LAIが増加する時期に値がばらつくことが示された。LAIとNDVIの関係は不明瞭であった。これはNDVIの解像度が1.1kmと粗いことやノイズの他、雨季後半の湛水の影響のためと考えられた。
  • 逢沢 峰昭, 梶 幹男
    セッションID: H05
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    中部日本の太平洋側地域から日本海側地域への積雪深傾度に沿って成立する、亜高山性針葉樹の分布様式の地域的な差異を明らかにし、その成因を解明することを試みた。
    詳細な標本調査および実地踏査によって分布情報の得られた284の山岳を、オオシラビソ、シラビソ、トウヒおよびコメツガの分布の有無によって8つの山岳タイプに分け、この各山岳タイプの成因を、積雪深の実測値、これも基に算出した推定最大積雪深値、および各樹種の分布下限標高と山頂標高の位置関係に着目して検討した。その結果、太平洋側から日本海側に向かう積雪深傾度に沿った亜高山性針葉樹の分布様式の違いは、1)各樹種の分布下限標高と各山岳の山頂標高の上下関係、2)積雪深の多寡によって変異するオオシラビソの分布下限標高の下降・上昇、および3)その他3樹種の積雪深に対する適応幅の違いによって規定されているものと考えられた。
  • 春木 雅寛, 秋元 薫, 藤原 充志, 鈴木 貴洋
    セッションID: H06
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    有珠山,昭和新山における窒素固定植物7種(ウスバヤブマメ,シロツメクサ,アカツメクサ,エゾヤマハギ,アキグミ,ミヤマハンノキ,ケヤマハンノキ)の生態と土壌環境の実態を明らかにする目的で2003年に調査を行った。1)個体サイズ(根の深さと地上部高)と根粒の付き方の関係では,地上部高と根粒数の関係は草本,木本による違いはみられず,各植物の根粒の付着部位では,全体的に空気の流通しやすい地表に近い主根や1次根で多く,2次根で少なく,3次根以下にはほとんど付着していなかった。2)土壌は,各植物群落において5mおきに7地点で深さ0-5cm,10-15cmでサンプリングを行った。土壌の深さごとのpH(H2O)値は,全体に約6.0-7.1の範囲となり微弱酸性から中性であった。NH4-N量は,全体に約0.5-3.7mg/kg(乾土)の範囲であった。NO3-N量は,全体に約0.1-3.1mg/kg(乾土)の範囲で0-5cmが10-15cmの深さに比べ多かった。全C,Nはウスバヤブマメが0-5cmでC5.78%,N0.16%と大きな値を示したが,他の種ではC0.15-0.97%,N0.01-0.07%と小さくCN比もウスバヤブマメが36.2でミヤマハンノキが22.9でこれに次ぎ,他は14.3-17.0とあまり変わらなかった。可給態リン酸(P2O5)は0-5cmでアキグミが155.3,ケヤマハンノキが106.6mg/kgと林内_から_林縁で大きな値を示し,他の種では8.9-39.1であった。しかし,各元素での植物種による一定の傾向はみられなかった。3)これまでの調査から全体に植物種により窒素固定能は異なっていた。また,土壌中の無機態窒素量の季節変化とは顕著な正負の相関は認められなかった。4)各植物群落は旺盛に生育しており、今後の観察試験にもよるが,各植物群落やそこでの土壌窒素は主に窒素固定に起因して生成されてきたと考えられ,豊富な窒素固定植物の存在が貧栄養火山噴出物堆積地における植生回復には必須だったといえよう。6)元来の噴出物は昭和新山については記録がないが,有珠山ではほとんど貧栄養で栄養分はゼロに等しく, pHも7-8であったので噴火生成後の25年,58年の間にこれらの植物群落は各生育地に成立しながら,土壌を生成し,土壌環境との相互関係を発展させながら,現在に至ったと考える。
  • 菱 拓雄, 舘野 隆之輔, 武田 博清
    セッションID: H07
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    樹木は不均一な土壌養分・水分を効率的に吸収するため、土壌環境に対して細根の形態、構造的変化で対応している。そこで、樹木細根の土壌環境に対する振る舞いを調べた。本研究ではヒノキの細根を材料とし、土壌の違いに対して細根系の分枝位置ごとの形態的、解剖学的特徴を比較した。調査地は京都市の京都大学上賀茂里域ステーションのヒノキ林で行った。調査地の土壌はmoder型で、A層土壌の発達は悪い。調査はイングロースコア法によって行った。メッシュサイズ2mm, 直径5cm, 長さ20センチのイングロースコアの上部に有機物層、下部に鉱質土(B層の土)を現地土壌と同じ厚さだけ詰め、2002年三月より一年間放置した。イングロースコア内の土壌をまず鉱質土と有機物層にカッターで切り分け、そこから細根を取り出した。細根は根端を一分枝目とし、二分枝目と基部の三種類の分枝位置を別々に分け、解剖用サンプルとした。解剖用サンプルは徒手切片によって解剖検体を作り、蛍光顕微鏡下で観察した。
    結果・考察
    観察された108断面の原生木部数から、ヒノキ細根は主に二、三、四原器からなることが分かった。細根原生木部の分布はどちらの土壌においても分枝段階が低い位置ほど二原器が多く、四原器が基部に多いことで共通していた。特に有機物層においては一分枝目の二原器の割合はおよそ9割になり、鉱質土では二原器の割合はおよそ3割であった。原生木部数は後の二次肥大移行割合に関わっており、原基数が多いほど二次肥大しやすい。従って、鉱質土では細根系が先端に長命の根を配置するのに対し、有機物層では短命根を多く配置すると考えられる。各分枝位置で通導細胞を持ち、コルク層を欠く吸収根の割合を見ると、どちらの土壌でも一分枝目はほぼすべて吸収根で、基部は非吸収根であるが、二分枝目は吸収、非吸収根どちらも含んでいた。二分枝目の吸収根の割合は、鉱質土で有意に高かった。また、一分枝目の内皮、周皮の通導細胞の数を調べると、鉱質土で有意に高かった。これらの結果をまとめると、有機物層では、細根は先端に吸収力が比較的低い短命根を分布させ、根端を回転させて吸収を維持している。一方、鉱質土では長命の根が根端部となり、個々の根が高い吸収力を保持していた。ヒノキは土壌環境に応じて細根の吸収力維持様式を変えており、このことは、森林の地下部物質配分にも影響すると考えられた。
  • 荒井 知朗, 田 野, 戸田 浩人, 生原 喜久雄
    セッションID: H08
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに中国のカルスト地域の約1/4(32.92万k_m2_)が、南西部の3省に分布する。この地域では、カルスト特有の非成帯的な特殊環境と人口圧の増大による傾斜地の耕地開発を原因とし、石漠化が極めて深刻に進んでいる。中国政府は、1998年の長江流域での大洪水を契機として石漠化問題の抜本的な解決に向け、退耕還林工程、天然林保護工程という2つのプロジェクトを開始した。退耕還林とは、退耕還林工程に組み込まれており、傾斜25°以上の耕地を段階的に造林地とするものである。封山育林とは天然林保護工程に組み込まれており、森林地への新たな開墾や薪などを取るための入山・伐採、家畜の放牧を禁止するものである。本研究では、長江上流域(貴州省)の石漠化したカルスト地域で、退耕還林と封山育林を有効に実施していくための研究課題の提起を目的としている。2.調査地および方法調査地は中国貴州省の長江一級支流の一つ、烏江流域の普定県、安順市および開陽県である。亜熱帯湿潤気候に属し、年平均気温10.5_から_19.6度、年間降雨量854_から_1588mm(うち75_から_85%が5_から_10月に集中)である。2003年9月、地域の概況、退耕還林(3地点)、封山育林(3地点)、アグロフォレストリー(3地点)、および流域試験地(1地点)の5つについて調査を行った。毎木調査と分析用の土壌を採取した。採取した土壌は、理化学性の分析に供した。カルスト地域における森林に関する文献を114報集め、整理した。3.調査結果と考察・地域の概況・・・峰叢型カルスト景観が広がり、峰と峰の間は凹地形の平坦地ドリーネとなっている。平坦地は水田に利用されており、二毛作(小麦など)を行っている。斜面は下部よりテラス状の水田、畑(主にトウモロコシ)へと変化する。斜面上部はピークまで耕地となっているか、薪炭の採取により低質化した二次林が残っている。・退耕還林・・・植栽されて1_から_2年の退耕還林地では、樹種や斜面位置により活着・成長が著しく異なっている。成長への最も大きな要因は、土壌の厚さと思われる。また、植栽予定の放棄耕地では植生の自然回復がみられた。・封山育林・・・調査した10年生および40年生の二次林は、ともに林冠が閉鎖していた。林相は岩石露出が激しく、密集した低木林であった。高木は4_から_5種と少なく、樹高も斜面下部で12mであった。数回の薪炭材伐採で一度低質化した森林は、伐採を禁止しても回復は遅いと思われる。・アグロフォレストリー・・・植栽後5年間農業が行われたアグロフォレストリー林分では、チャンチン、トウキササゲなど植栽木の成長は良好であった。岩石露出が多く、土壌が薄い場所では林木の成長が悪かった。・流域試験地・・・長期生態定位試験地として中国全土15ヶ所の流域試験地がある。貴州省のカルスト地域でも流出量、蒸発量、樹幹流など物質循環に関する多くの項目について測定されはじめている。・土壌の特徴・・・カルスト土壌の三相組成は日本の耕地土壌と褐色森林土の中間的な値であった。粒径組成はシルトが80%前後を占めていた。地表0_から_10cmの透水係数は10_-_3(cm/s)と大きな値であった。pHは7.5‐7.9と弱アルカリ性を示した。全炭素は2_から_7%、全窒素は0.2_から_0.6%であった。Ca、Mg(それぞれ0.1%)は豊富であるが、K(0.06%)およびNa(0.02%)は少なかった。4.今後の課題 既往の報告では、カルスト地域での植物への制限要因に乾燥をあげている。カルスト地域での乾燥適応に深根性が指摘されている。植栽木の耐乾性と養分要求性について明らかにする必要がある。退耕還林の評価にトップダウン式、5_から_8年の補助期間後の制度不備など問題点が多く指摘され、植林事業として失敗が危惧されている。住民の理解と協力を得るには、有用樹を用いた退耕還林とアグロフォレストリー導入が必須で緊急の研究課題である。多くの研究により自然植生の群落構造が明らかにされており、今後は、封山育林地における整理伐などの有用樹の育成管理についての研究が必要である。 これまでの報告では現状の植生や局地的な生態環境の調査が多い。森林を育成管理する観点からすると応用できる成果は少ない。経時変化を追える定位試験も必要である。それらを基に流域単位での土地利用区分モデルと管理システムの構築が今後の課題である。
  • -インドネシア南スマトラにおける二次林・チガヤ草原との比較から-
    山下 尚之, 太田 誠一, Saifuddin Anshori, Hardjono Arisman
    セッションID: H09
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】マメ科早生樹種であるAcacia mangium(以後Acacia)の短伐期による造林は、高い窒素固定能力と高窒素濃度リターの供給によって土壌中の養分フラックスに変化を引き起こしたり、材木の成長と共に土壌から樹体に移行・蓄積する養分が短期間で繰り返し持ち出されることで土壌養分の減少がおこる可能性が指摘されている。しかし、近年におけるAcacia造林地の拡大にもかかわらず、その実態は明らかでなく、土壌養分に注目した持続可能性の検証が必要である。本研究ではAcacia造林による土壌養分蓄積量の変化の実態を明らかにすることを目的として、Acacia造林地と、造林が行われる以前の土地利用形態であるチガヤ (Imperata cylindrica) 草原と二次林(択伐林と焼畑休閑林)における土壌中の養分蓄積量を多点サンプリングによって比較・検証した。【調査地と方法】インドネシア共和国南スマトラ州にあるMHP社のAcacia造林地とその周辺約20万haの領域を調査対象とし、6_から_8年生のAcacia造林地、チガヤ草原、二次林についてそれぞれ11_から_15地点の土壌を採取した。各地点では約0.25haの範囲内で6箇所の土壌ピットを掘り、それぞれにおいて深さ30cmまで5cm毎に採土円筒2_から_3個を用いて土壌を採取した。その後、深度別の試料を混合してコンポジットサンプルを調製した。得られた試料を用いて容積重を測定すると共に、粒径組成(ピペット法)、pH(H2O、KCl)、交換性のCa2+、Mg2+、K+、Na+(pH7.0の酢酸アンモニウムによる抽出)、Al3+、H+(1MKClによる抽出)、有効態リン酸(Bray No.2)、全炭素と全窒素濃度(NCアナライザー)を測定した。Acacia造林地の各調査地点では同時に植栽木の胸高直径と樹高を測定した。【結果と考察】Acacia造林地と二次林の土壌pHはチガヤ草原より低かった(図1)。Acacia造林地と二次林の交換性Ca2+、Mg2+濃度と塩基飽和度もチガヤ草原より低く、Acacia造林地の交換性K+濃度は他の植生より低かった。一方、全炭素・全窒素含量には植生間差が見られなかったが、有効態リン酸濃度はチガヤ草原よりもAcacia造林地と二次林で高かった。これら各元素濃度について見られた傾向はヘクタールあたりの蓄積量でも同様であった(図2)。交換性塩基蓄積量は多くの場合粘土量に支配されるため、これを粘土量を共変量とした共分散分析によって比較した結果、Acacia造林地と二次林では粘土量に関わらずチガヤ草原より交換性Ca2+、Mg2+蓄積量が少なく、Acacia造林地の交換性K+蓄積量も他の植生より少なかった。このことから、これら植生間の交換性塩基蓄積量の違いは土壌本来の性質として現れているのではなく、植生の違いに起因すると考えられた。Acacia造林地と二次林の土壌中で養分濃度・蓄積量が少ないのは、バイオマス量の小さなチガヤ草原に比べてより多くの塩基類が樹木バイオマス中に分配されているためと考えられ、これがAcacia造林地と二次林における土壌の酸性化要因のひとつと考えられた。Acacia造林地における土壌中の交換性塩基蓄積量をAcacia樹体中の塩基蓄積量と合計した値が、チガヤ草原における土壌中の交換性塩基蓄積量とほぼ同じレベルであることもこの仮説を支持するものであった。今後バイオマス中の養分が収穫により系外に持ち出されることによって、Acacia造林地の土壌養分蓄積量の確実な減少とそれに伴う土壌の酸性化が進行するものと予想された。
  • 喜多 智, Cahyono Agus, 戸田 浩人, 生原 喜久雄
    セッションID: H10
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに近年、熱帯林の消失が大きな問題となっており、その維持・再生は重要な課題である。また、熱帯地域での短伐期育成林業は土壌の地力への悪影響が懸念されている。 熱帯林において、リン(P)は窒素と並んで樹木の成長にとって、重要な養分であると同時に天然供給の少ない元素である。樹木にとって利用しやすい土壌中の可給態Pは、種々の方法を用いて分析されてきた。それら分析方法の多くは、可給態Pの一部を抽出する方法によって可給態Pとしている。しかし、土壌中のPの樹木への可給性を評価するためには、Pの存在形態に応じた画分をする必要がある。そこで、本研究では、Hedleyら(1982)によって確立されたP分別法を用いた分析を数種の熱帯林の土壌で試みた。この方法は、無機態Pを溶解性に応じて数段階に画分すること、同時に、無機態Pの供給源である有機態Pも分解性に応じて画分することができる。 また、微生物バイオマスは、土壌中で最も分解されやすい有機物としての役割も持っている。そこで、微生物による養分プールの役割を調べるため、微生物バイオマスP(MBP)も分析した。2.調査地概況と調査方法 調査地はインドネシア東カリマンタン島ITCI siteの天然林2ヶ所(NF)、択伐二次林2ヶ所(SF)、sebulu siteのGmelina arborea Roxb.(yemane)造林地4ヶ所(PL)、山火事後劣化した二次林1ヶ所(DE)、荒廃し造林の難しいアランアラン草原地1ヵ所(AR)に設置した。赤道付近の熱帯降雨地域であり、乾季は7月_から_9月の3ヶ月であるが明瞭ではない。土壌は大部分がTypic Hapludult(USDA)である。pH4_-_5の酸性土壌で、薄いA層と赤黄色の粘土質下層土をもつ、塩基性の乏しい土壌である。天然林、択伐二次林ともフタバガキ科の優占する森林である。本調査地で植林されているyemaneは、初期の成長が非常に早い短伐期の造林で、地位の良い所では6年生で、平均直径17cm、材積120m3/haになる。 本調査地では、これまで、土壌の微生物バイオマス、室内培養の窒素無機化量、総窒素無機化と有機化量、土壌呼吸量などを調査している。 2002年7月に0-5cm、5-10cm、10-30cmの土壌を採取した。Pの溶解性は、Hedleyらによって考案された逐次抽出方法を用いた。土壌0.5gに対し、抽出液を30ml加え、16時間振とう後、遠心分離し、上澄みを採取した。0.5mol L-1重炭酸ナトリウム溶液(Bicarb)、0.1mol L-1水酸化ナトリウム溶液(NaOH)、1mol L-1塩酸溶液(HCl)の順に逐次抽出を行い、最後に残さ土壌を湿式灰化処理した。BicarbおよびNaOHは、抽出液中の有機態P(oBicarb、oNaOH)と無機態P(iBicarb、iNaOH)を、HClおよび湿式灰化試料は無機態P(iHCl、Residual)を測定した。 Hedleyらによると、無機態Pは、iBicarbが最も溶解性が高く、植物に容易に吸収される。以下、抽出が進むにつれて、難溶性になり、植物の可給性が低くなる。有機態Pでは、oBicarbは、容易に無機化され可給態となるが、oNaOHは無機化されにくい。Residualは、最も難溶性の無機態Pあるいは、縮重合の繰り返された難分解性の有機態Pと定義されている。 微生物バイオマスP(MBP)は、クロロホルムくん蒸抽出法で測定した。3.結果と考察 全P濃度は、NF≒SF>PL>DF>ARとなり、皆伐造林によって減少が見られた。溶解性が高く、植物が比較的利用しやすいiBicarbは、ARを除けば違いは小さかった。iNaOHは、NF、SFがPL、DFより高かった。iNaOHは、FeやAlに吸着し、溶解性が低いPだが、フタバガキ科樹木は共生する菌根菌を利用して、この画分も利用していることが考えられる。 有機態Pは、oBicarb、oNaOHとも、NF、SFがPL、DFより高かった。皆伐造林によって、土壌表層の有機物が減少していた。ARはどの画分も低かったが、特に植物の利用しやすいiBicarb、oBicarbが少なかった。 MBPは、PLがNFやSFより低く、微生物バイオマスも皆伐造林によって減少が見られた。
  • 徐  小牛, 榎木 勉, 柴田 英昭, 平田 永二
    セッションID: H11
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    沖縄では台風が頻繁に生じている。台風が森林生態系の物質循環に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、沖縄における亜熱帯常緑広葉樹林のリターフォール、リター分解および林内雨、樹幹流量等を5年間にわたって連続観測した。その結果、台風が物質循環に及ぼす影響は大きく、年間リターフォール量(7.56 Mg/ha)の30 %、年降雨量(3324 mm)の29 %が台風の時期に観測された。台風による養分インプット量(リターフォール+林内雨+樹幹流)はそれぞれ窒素29.5、リン1.86、カリウム26.9、カルシウム37.3、マグネシウム12.5 kg/ha/yrとなった。これらは年間養分インプット量のそれぞれ27 〜37 %を占めていた。台風によるリターの分解が速かった。
  • 福澤 加里部, 柴田 英昭, 高木 健太郎, 野村 睦, 佐藤 冬樹, 笹 賀一郎
    セッションID: H12
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    北海道北部の針広混交林において、森林伐採が流域の物質動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、皆伐前後の渓流水および土壌溶液中の硝酸イオン(NO3-)、アンモニウムイオン(NH4+)、溶存有機窒素(DON)、溶存有機炭素(DOC)濃度を比較した。伐採前(2002年)の渓流水中のNO3-、NH4+、DON濃度はそれぞれ0.01、0.08、0.20 mgN L-1だった。それに対し、伐採後(2003年)の渓流水中のNO3-、DON濃度はそれぞれ0.01、0.22 mgN L-1であり、NH4+濃度は検出限界以下であった。また、渓流水中のDOC濃度は伐採前後でそれぞれ6.5、4.5 mgC L-1であった。伐採後に渓流水中の溶存窒素・炭素濃度は上昇しておらず、伐採が渓流水中の溶存成分濃度に影響しなかったことが示唆された。土壌溶液中のNO3-濃度も伐採後の濃度上昇がみられず、伐採に伴い樹木による養分吸収がなくなったにもかかわらず、土壌中での硝酸濃度の上昇や硝酸の溶脱増加が起こらなかったことが示唆された。
  • 中西 麻美, 中島 弘起, 武田 博清, スントン カムヨン
    セッションID: H13
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 大園 享司, 保原 達, 木庭 啓介, 亀田 佳代子
    セッションID: H14
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 勝又 伸吾, 大園 享司, 武田 博清, 亀田 佳代子, 木庭 啓介
    セッションID: H15
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的本研究の調査地である滋賀県近江八幡市の伊崎半島では、カワウが集団営巣している。カワウ営巣林では糞によって窒素などの養分が大量に供給されており、窒素飽和の兆候が見られる。また、カワウによる枝の折り取りや、葉への糞の付着、土壌の変化などによって、樹木が衰弱したり枯死したりしている。一部の林分では、枯死木の本数割合が30%を超え、林分の衰退が起きているとされている。しかし、カワウの営巣で枯死した樹木 (枯死材)の量や機能に関する研究はなされていない。枯死材は養分物質を不動化し、長期的に放出することで、森林生態系の養分動態に影響を与えている。また、カワウ営巣林のような養分が過剰に供給される林分では、供給された養分の貯蔵場所として機能することも考えられる。このため、カワウ営巣林において枯死材の現存量や養分蓄積量を把握することは重要である。カワウ営巣林では、過剰な養分供給によって分解過程が変化したり、糞が直接的に吸着されたりして、枯死材の養分濃度が変化している可能性がある。養分蓄積量は現存量と養分濃度の両方の影響を受けると考えられるので、カワウ営巣林における養分蓄積量を考える際には、カワウの営巣が養分濃度に与える影響も考慮する必要がある。本研究では、伊崎半島のカワウ営巣林における枯死材の現存量と窒素蓄積量を明らかにすることを目的とし、カワウの営巣が、枯死材の現存量と窒素濃度および窒素蓄積量に与える影響を考察した。2.方法ベルトトランセクトセクト調査(0.8ha)を行った。ベルトトランセクトを、林分を営巣履歴から「営巣なし」1・2、「営巣中」、「営巣放棄・森林維持」1・2、「営巣放棄・森林衰退」1・2の7区画に区分した。林分の衰退の指標として4段階の開空度を用いて、樹冠の閉鎖を10メートル間隔で評価した。ベルトトランセクトの範囲内にある直径10cm以上の枯死材を対象として、両端直径・長さを計測し、枯死材の材積を推定した。立ち枯れについては胸高直径と樹高を測定し、材積を求めた。枯死材の物理性・化学性は、樹種・形状・腐朽度の影響を受けるので、樹種(ヒノキ・アカマツ・広葉樹・不明)、形状(倒木・立ち枯れ・切り株)、腐朽度を記載した。腐朽度は枯死材の外観から5段階に設定した。記載した枯死材のうち211本から材片を回収して密度を算出し、窒素濃度を測定した。材積に密度を乗じて現存量とし、現存量に窒素濃度を乗じて窒素蓄積量とした。3.結果と考察開空度から、「営巣なし」と「営巣放棄・森林維持」では、林分の衰退は起きておらず、「営巣中」と「営巣放棄・森林衰退」で林分の衰退が起きていることを示唆していると考えられた。枯死材の現存量は、「営巣なし」1の7.3t/haが最小で、「営巣放棄・森林衰退」1の98.0t/haが最大であった。枯死材の現存量は、「営巣なし」よりもそれ以外の営巣履歴のある林分で多く、特に立ち枯れが増加していた。カワウ営巣林では見かけ上衰退していない林分でも、立ち枯れの増加によって現存量が増加するといえる。枯死材の窒素濃度は樹種や腐朽度をよく反映していたが、カワウの営巣の影響は受けていないことが示唆された。ただし、カワウによる糞の供給量は巣からの距離などによって異なることが考えられるので、営巣の影響の大きさが、枯死材によって、また同じ枯死材でも部位によって異なる可能性がある。そのため、今回のサンプリング方法とサンプル数では、カワウの営巣が枯死材の窒素濃度に与える影響を厳密には明らかにできなかった可能性もある。枯死材の窒素蓄積量の推定値は、「営巣なし」1の10.8kg/haが最小で、「営巣放棄・森林衰退」1の104.1kg/haが最大であった。窒素蓄積量は、枯死材の窒素濃度よりも現存量を反映しており、カワウ営巣林で増加していた。カワウ営巣林では枯死材の現存量は増加しており、それに伴って窒素蓄積量も増加していた。枯死材は今後、養分物質の不動化と放出を通して、長期的に生態系に影響を与えてゆくと考えられる。
動物
  • 石谷 栄次
    セッションID: I01
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.目的 千葉県では、松枯れ予防薬剤として安定的に使用されている有機リン系殺虫剤より環境負荷が少ない新しい松枯れ防止剤の開発に関わり、ネオニコチノイド系のアセタミプリド液剤がマツノマダラカミキリ成虫(以後「マダラカミキリ」と記す)に対して接触阻害効果が顕著であることを明らかにした。そして、このアセタミプリド液剤がどのような作用特性を持つか検討する中で、今回は網室内で散布マツの中に無散布マツを配置し、マダラカミキリを放虫してアセタミプリド液剤に対する忌避行動の有無を検討した。2.試験方法(2001年、2002年) 網室(3m×3m×2.3m)内に5年生クロマツを各9本植栽し、1本無散布区(以後「1本区」と記す)、3本無散布区(以後「3本区」と記す)、全木無散布区(以後「全木区」と記す)を設定した。2001年6月5日(2002年も6月5日)、無散布マツに薬剤がかからないようにビニール袋で覆い、アセタミプリド2%液剤の60倍液を1本当たり444ml散布した。散布当日、網室内にマダラカミキリを5頭ずつ放虫した。散布1週間後から8週間後まで1週間間隔で各網室のマダラカミキリの生死を確認した後に後食痕箇所数を測定し、その後、各網室5頭ずつ放虫した。散布9週間後、各網室のマダラカミキリの生死を確認した後に後食痕箇所数を測定し、すべてのマダラカミキリを回収した。散布5か月後に枯死木を確認し、ベールマン法によりマツノザイセンチュウ(以後「材線虫」と記す)分離検定を実施した。3.試験結果と考察(1)2001年の結果:全木区は供試マツが毎週後食され、すべてが枯死し、材線虫が検出された。1本区の散布マツは後食がわずかで、すべてが生存した。無散布マツは5週間後に成虫1頭が生存し後食痕箇所数が増加した。しかし、それ以外の週にも後食痕が確認されたことから、偶然飛来した成虫が後食し、その後移動したと考えられた。5週間後に確認された成虫も翌週にはいなかった。このことからマダラカミキリはアセタミプリド液剤に対して忌避行動は見られないと推察した。無散布マツは枯死し、材線虫が検出された。3本区は無散布マツが多いためか1本区より生存成虫数が多かった。その中で、散布マツは後食がわずかで、すべてが生存した。後食痕箇所数が少なかった無散布マツは生存し、多かった無散布マツは枯死して材線虫が検出された。(2)2002年の結果:全木区は供試マツが毎週後食され、すべてが枯死し、材線虫が検出された。1本区の散布マツの後食はわずかで、8本のうち2本枯死したが、枯死木から材線虫が検出されなかったのでマツ材線虫病以外で枯死したと判断した。無散布マツは成虫の生存が2週間後だけ確認されたが、7週間後にも後食されて枯死し、材線虫が検出された。3本区の散布マツは後食がわずかで、すべてが生存した。無散布マツはすべてが枯死し、材線虫が検出された。(3)考察:2年間の結果から、マダラカミキリはクロマツの間を移動しながらアセタミプリドの散布の有無に関わらず後食し、散布マツでは摂食阻害が起こり、無散布マツでは後食して材線虫を伝播しクロマツを枯死させていると推察した。忌避行動が無いことから、マダラカミキリ多発地においては薬液をむらなく散布しなければ松枯れが無くならないと考えた。
  • 小林 正秀, 衣浦 晴生, 野崎 愛
    セッションID: I02
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)が穿入したナラ類の生立木が枯死するのは、カシナガが樹体内に病原菌を持ち込むためと考えられている。海外でも生立木に穿入するナガキクイムシ類が知られており、カシナガと同様に病原菌のベクターになっていると疑われている種類もいる。しかし、ナガキクイムシ類は、一般に衰弱木や枯死木に穿入し、生立木に穿入しても樹液によって繁殖に成功することはほとんどない。カシナガでも、樹液が繁殖阻害要因になっていると推察されているが、樹液が繁殖に及ぼす影響を調査した事例はない。そこで、穿入孔からの樹液流出の有無とカシナガの羽化脱出数を同時に調査した。2.方 法 京都府和知町仏主の被害地(以下、和知調査地)と京北町米々谷の被害地(以下、京北調査地)で調査を行った。2003年6月17日、和知調査地のコナラ20本とミズナラ6本の穿入孔に、また6月21日、京北調査地のコナラ2本とミズナラ15本の穿入孔にチューブ式トラップ(図)を設置した。 トラップの設置は、調査木の地上高1mまでの樹幹部の穿入孔を調査し、穿入孔数が20孔以上の場合には20個のトラップを、20孔未満の場合には10個のトラップを設置した。ただし、和知調査地の調査木は、2002年6月上旬に、樹幹表面の穿入孔の有無によって穿入履歴の有無を確認し、穿入履歴がある調査木には、穿入孔数の多少にかかわらず、10個のトラップを設置した。 7月11日、フィルムケース内に入れたティッシュペーパーの変色の有無によって、穿入孔からの樹液流出の有無を確認した。また、7月11日_から_11月12日まで2週間ごとにトラップ内に脱出したカシナガ成虫を回収して雌雄別に数えた。3.結 果 穿入孔からの樹液流出とカシナガ脱出状況を表に示す。樹液を流出している穿入孔の割合は、穿入後に生存した樹木(以下、穿入生存木)の穿入孔のほうが穿入後に枯死した樹木(以下、穿入枯死木)の穿入孔よりも有意に高かった。 カシナガの脱出が確認された調査木の割合は、穿入枯死木(9本中7本)のほうが穿入生存木(34本中3本)よりも有意に高かった。また、脱出が確認された穿入孔の割合も、穿入枯死木の穿入孔のほうが穿入生存木の穿入孔よりも有意に高かった。脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、穿入生存木(平均102.5頭)のほうが穿入枯死木(平均48.3頭)よりも有意に多かった。 脱出が確認された穿入孔の割合は、樹液を流出していない穿入孔(243孔中47孔)のほうが樹液を流出している穿入孔(387孔中14孔)よりも有意に高かった。しかし、脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、樹液を流出している穿入孔(平均62.8頭)と流出してない穿入孔(平均69.3頭)との間に有意差がなかった。4.考 察 穿入生存木からのカシナガ脱出数は少ないとする報告が多く、今回も同様の傾向が認められた。樹液を流出している穿入孔では、脱出がなく繁殖に失敗している穿入孔の割合が高かったことから、樹液が繁殖阻害要因であり、穿入生存木からの脱出数が少ないのは、穿入生存木の樹液流出量が多いためと考えられる。 穿入孔あたりの脱出数は、平均2_から_20頭とされている。これに比較して、今回の穿入孔たりの脱出数は多く、最高337頭が脱出した。特に、穿入生存木の穿入孔からの脱出数が多かったが、これは、穿入生存木では樹液によって繁殖に失敗する穿入孔の割合が高いため、一旦繁殖に成功した穿入孔は種内競争の影響が少なく、広い繁殖容積が確保されたためと推察される。 ヤツバキクイイムシが青変菌と共生関係を結んで針葉樹生立木を衰弱または枯死させるのは、生立木に穿入しても樹脂などの防御物質による抵抗を受けて繁殖できないため、青変菌によって樹木を弱らせ、キクイムシ類が利用可能な状態にするためとされている。ナラ樹の樹液は、針葉樹の樹脂と同様の防御物質であり、R. quercivoraは青変菌と同様に、その防御を突破する役割を担っていると推察される。
  • 野崎 愛, 小林 正秀, 水野 孝彦, 梶村 恒
    セッションID: I03
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1.はじめに カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)の穿入に伴うブナ科樹木の枯死被害が各地で発生している。樹木が萎凋枯死するのは、カシナガが病原菌(Raffaelea quercivora)を樹体内に運搬するためと考えられる。このため、病原菌のベクターであるカシナガの生態を解明することは、防除法の開発にとって重要である。カシナガは長梯子型と呼ばれる複雑で長い孔道を構築するため、材内生態は未解明な部分が多い。そこで、材内生態を非破壊的に調査するため、人工飼料を用いた飼育が試みられている(梶村ら,2002;野崎ら,2003)。今回、人工飼料を用いた飼育でも新成虫の羽化脱出を確認したので、それによって得られた知見を報告する。2.方 法 2002年7月、浸水した丸太に雌雄成虫を接種し、野外に設置した。その後、接種丸太を23℃の恒温室に移動し、移動後40日目以降の2003年3月_から_5月の期間に羽化脱出した新成虫を実験に用いた。 人工飼料に使用した木粉は、不純物の混入を避けるため、ミズナラ健全木の辺材部だけを電気カンナで削り、粉砕機でパウダー状にした。この木粉に澱粉、乾燥酵母、ショ糖および水を添加して人工飼料を作成し、これを口細ビン(高さ13.5_cm_、口の内径1.8_cm_、底の内径3.5_cm_)に押し詰め、二層構造の飼育ビンを作成した(図1)。 カシナガは、寄主の含水率が低下すると繁殖に失敗する(小林ら,2003)ことから、2003年の人工飼料は、前年よりも水の添加量を増やした(表1)。オートクレーブで殺菌した飼育ビンに1頭ずつ雄成虫を放虫し、数日後に雌成虫を放虫した。その後、交尾、卵、幼虫および新成虫の羽化脱出の有無を確認した。なお、同腹同士でも繁殖できるか確認するため、同じ孔道から脱出した同腹の雌雄成虫を接種する飼育ビンも用意した。3.結 果 卵、幼虫および新成虫の羽化脱出が確認できた人工飼育ビンの数を表2に示す。人工飼料の含水率を高くした2003年は、卵および幼虫が確認できた割合が向上し、新成虫の羽化脱出も確認された。羽化脱出数は、飼育ビン1本あたり4_から_21頭で、2004年1月現在でも脱出が継続している。交尾、産卵、孵化、分岐孔形成および新成虫の羽化脱出が確認できた飼育ビンの数を、接種した雌雄成虫が同腹の場合と異腹の場合に分けて表3に示す。同腹の場合でも交尾と産卵が行われ、新成虫が羽化脱出したことから、1世代目の同腹交配が可能なことが判明した。 雌接種日から卵、幼虫および新成虫の確認までに要した日数を表4に示す。ここでも、同腹の場合と異腹の場合とで大きな差はみられなかった。 新成虫が羽化脱出した4本の飼育ビンについて、その発生消長を図2に示す。野外の被害木からは、短期間に脱出するが、飼育ビンからの脱出はダラダラと長期間にわたって継続している。4.考 察 人工飼料の含水率を高くした結果、繁殖成功率が向上した。今後、最適な含水率を検討する必要がある。 今回、同腹でも繁殖することが判明し、飼育ビンからの羽化脱出は長期間継続した。Sone et al.(1998)は、樹木に掘られた2年目の穿入孔から羽化脱出を確認している。これらのことは、同じ巣の次世代虫が交尾を行って繁殖している可能性を示唆しており、検討を要する。 飼育ビン内の孔道内にダニや線虫類が観察された。ダニや線虫類がカシナガの繁殖に及ぼす影響を調査する必要がある。
  • 衣浦 晴生, 小林 正秀
    セッションID: I04
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    ミズナラ生立木(Quercus crispula)にカシノナガキクイムシ成虫(Platypus qercivorus)を人工的に接種した。接種方法はピペットチップによる強制接種区と、網掛けによる自然接種区を設定した。その結果、ピペット接種5本中4本、自然接種5本中5本すべてが枯死した。枯死木はすべて、天然のナラ類集団枯損と同様の萎凋症状を呈し、萎凋しはじめてから数週間以内に枯死に至った。接種木からは通称「ナラ菌」(Raffaelea quercivora)が分離された。材の変色面積率は、「ナラ菌」の分離率が高いほど、また繁殖に成功している孔道数が多いほど高かった。また、接種から枯死までの期間が短い個体ほど「ナラ菌」の分離率は高かった。対照木からはナラ菌は分離されず、外見上の変化は見られなかった。これらのことから、カシノナガキクイムシが「ナラ菌」を運搬してミズナラを枯死させることを完全に証明した。
  • 高部 直紀, 升屋 勇人, 梶村 恒
    セッションID: I05
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 岡田 充弘, 小湊 弘明, 小島 和夫, 柳澤 信行
    セッションID: I06
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/03/17
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    1 はじめに
     スギカミキリ(Semanstus japonicus)は、スギ、ヒノキの代表的な材質劣化害虫として、全国各地で問題となっている。長野県でも、1990年に県南部の高森町のヒノキ林分で、2000年には県北部の長野市、豊野町などのスギ林分で被害が確認された。
    このため、県内におけるスギカミキリ被害の概況調査と、被害木の樹種別比較を行った結果を報告する。
    2 方法
    1)被害状況調査 2001年にスギ、ヒノキの森林面積が100ha以上の市町村を対象として被害林分の有無、および被害林分の概況を調査した。
    概況調査結果を基に2002年、および2003年に県北部のスギ被害林分4箇所、県南部のヒノキ被害林分7箇所に調査地を設け、被害状況などを毎木調査した。
    2)被害木の樹種別比較 2003年1月に毎木調査を実施したスギ、ヒノキ各2林分から被害木を採取し被害履歴等を割材調査した。
    3 結果と考察
    1)被害状況調査 被害林分は、諏訪地域以外の26市町村でみられ、北部の長野周辺と南部の下伊那北部周辺で被害林分が多かった。また被害樹種は、北部はスギ、南部はヒノキに偏っていた。
     スギ、ヒノキともに果樹園などの集落に近接した小面積林分で被害が発生しており、既往の調査結果(林野庁1991)と一致していた。しかし標高では、スギは 400_から_550mに多く、ヒノキは450_から_650mに多く認められ、既往の調査結果に比べ高い傾向があった。
    毎木調査を行った林分の被害率は、スギが19_から_92%、ヒノキが26_から_91%であった。しかし、被害木の状態をみると、スギに比べヒノキはハチカミによる樹幹変形は少なかったが、スギではみられなかった枯損木が30%程度の被害で発生していた。
    2)被害木の樹種別比較 割材調査した被害木では、スギは樹高の55_から_77%、ヒノキは樹高の25_から_57%まで被害部が存在し、ヒノキの被害部が低い傾向があった。
    また被害履歴をみると、ヒノキでは被害の確認時期と加害開始時期がほぼ一致していた。一方スギの被害は、確認は近年であるが、少なくとも20年以上前から発生していたものと判断された。
    割材したスギ被害木では材内成虫は0_から_4頭と少なかった。しかしヒノキ枯損木では、最多24頭の成虫が確認され、これらの個体は、他の被害木の個体に比べ小型化(平均体長♂12mm、♀14mm)していたが、生殖能力を持っていた。
    スギでは、累積被害で衰弱しヤニの分泌が低下した立木には小型化したスギカミキリが大量寄生すること(小林・柴田,1985)が知られている。ヒノキは、加害により立木が衰弱しやすいことから、同様のことが発生していると考えられた。スギカミキリは枯損木には産卵しないことから、枯損木から発生した成虫はすべて他の立木に分散する。これらのことから、ヒノキ林分では、枯損木などの影響で、スギに比べ林内の被害拡大が進行しやすい可能性が考えられた。
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