カンボジア・コンポントム州の土壌特性と分布_-_地形・植生との対応_-_
鳥山淳平(京大農)、太田誠一(京大院農)、荒木誠(森林総研)、神崎護(京大院農)
Khorn Saret、Pith Phearak、Lim Sopheap、Pol Sopheavuth(DFW,Cambodia)
_I_.はじめにカンボジアの森林は国土の50%を占めているが、近年広範かつ急速な天然林開発が進行しつつあり、天然林の持続可能な森林経営・管理方策を確立するための基本情報の蓄積が急務となっている。そこで本研究ではメコン河西岸域に分布する同国の代表的森林タイプの一つである熱帯乾燥常緑林の土壌の分布様式の概要と基本的土壌特性を明らかにし、それらを規定する主要な要因を摘出することを目的とした。さらに土壌が植生の分布をどのように規定しているかについても検討を行った。
_II_.方法調査はカンボジア・コンポントム州(北緯105°25′,東経12°45′,年平均気温27℃,年間降水量1570mm)において行った。同地域の主要な部分を占める乾燥常緑林(以下DEF)において2ヶ所の土壌調査地点を設定した。加えて同域内において、周囲をDEFに囲まれ、交互に連続して出現する乾燥落葉林(DDF)、常落混交林(MF)、
Melaleuca leucadendronの優占する湿地林(SF)のパッチを縦断して680mのトランセクトプロットを設置し、プロット内のDDFとMFで各2ヶ所、SFで1ヶ所の土壌調査地点を設定した。それぞれの調査地点で、土壌断面を作成し、各土壌層位から100ccの採土円筒3個の物理特性解析用の試料とともに化学分析用試料を採取した。またトランセクトに沿った10地点から0, 50, 100, 150cmの深度の土壌試料をオガーにより採取した。
得られた土壌試料について、pH(H2O、KCl)、CEC、ECEC、交換性カチオン類、粒径組成の分析を行うとともに、土壌円筒試料を用いて容積重、飽和透水係数、水分特性曲線を測定した。またトランセクトのオガーサンプルについて粒径組成を分析した。
_III_.結果と考察調査対象地域の土壌はそれぞれ以下のような特徴を備えていた。DEF:粘土含量は10_から_30%の範囲にあって下層へ明瞭に増大した。pHが低く、低塩基飽和度であった。Acrisolsに分類された。DDF:全層にわたり粘土含量は約10%以下でArenosolsに分類された。表層50cmまでの粘土含量が極めて低い点でMFと異なり、また下層の容積重が他の土壌タイプに比べて特に高かった(1.8_から_1.9Mg/m
3)。MF :DDFと同じく砂質であるが、断面の形態的特徴からPodzolsに分類されると考えられた。SF :有機物に富む黒色の土層で構成されHistosolsに分類されると考えられた。年間のほとんどの期間冠水しているおり、粘土含量は40_から_50%であった。
以上の様に森林タイプと土壌間にはDEF-Acrisols, DDF-Arenosols, MF-Podzols, SF-Histosolsという対応関係が認められ、粘土含量の違いとそれに起因する土壌特性がこれらの対応関係を生み出している主要な要因であると考えられた。
大地形との関係についてみると、DEF-Acrisolsは同地域で相対的に高い(5_から_20m程度)地形面上に分布するのに対し、DDF- ArenosolsとMF-Podzolsは相対的に低い集水地形上に分布する傾向が認められた。一方トランセクト内でのDDF- ArenosolsとMF-Podzolsの分布は必ずしも地形面の高さとは対応しておらず、両者の分布は土壌の粒径組成を含む他の要因が関係していると考えられた。
各土壌の表層50cm程度までの毛管粗孔隙量(ψ=_-_6KPa_から__-_50KPa)はDDF>MF>DEFの順に多かった。飽和透水係数と水分特性曲線から求めた不飽和透水係数 (Kosugi, 1996) は、毛管移動水(ψ=_-_6KPa_から__-_50KPa)の大部分の範囲ではDDF>MF>DEFの順に高かったが、毛管移動停止点(ψ=_-_50KPa)付近ではDEF>MF>DDFと逆転した。
このことから、粘土含量の差と関係した透水性の違いが乾季の水分ストレスに差をもたらしている可能性が示唆された。一方雨期には、台地上に分布するDEFでは根系まで地下水位が上昇することはないのに対し、低地のDDFとMFでは地表付近まで地下水位が上昇し、根系は冠水ストレスにさらされる。しかし、雨期にも、非毛管孔隙を多く含み排水性がよく、気相確保が容易な土壌にはMFが、逆に困難な土壌にはDDFが分布するものと考えられた。
このように、この地域における異なる森林タイプの分布には、乾期の水分ストレスと雨期の冠水ストレスの双方が関係しており、粒径組成の違いがその重要な要因であると考えられた。
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