日本森林学会大会発表データベース
第126回日本森林学会大会
選択された号の論文の855件中51~100を表示しています
経営部門
  • 星川 健史, 渡井 純, 池田 潔彦
    セッションID: C22
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    国産針葉樹材の用途が多様化する中、全国的に山土場や中間土場から工場への直送が試みられているが、山土場や中間土場で検尺を行わなければならず、人員不足やコスト上昇が課題となっている。そこで本研究では、検尺を自動化するためにコンパクト3Dカメラを用いた原木材積計測システムを開発した。
    プログラムの構成は、画像からの3次元座標の取得、Hough円変換を利用した木口の認識、Hough円変換の前処理としての色相抽出及びグレースケール変換、認識された木口の3次元座標からの直径計算及び集計である。
    開発した原木材積計測プログラムを用いて、様々な撮影条件下で撮影した原木の画像の材積計測を行い、原木の認識率を高めるのに適した画像処理手法及び撮影条件の検討を行った。原木40?50本を用いた場合、良好な撮影条件下では認識率95%を示した。撮影条件ごとには、距離が遠いほど認識率が低くなり、日陰等の木口面が暗い画像では認識率が著しく低下することがわかった。木口面が暗い場合は、前処理としてHSV色空間から色相を抽出しRGB色空間のR(赤)を抽出することで、認識率の低下が抑えられた。
  • 細田 和男, 高橋 正義, 西園 朋広, 齋藤 英樹
    セッションID: C23
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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     森林調査の省力化を目的として、市販の小型デジタルステレオカメラの利用可能性を検討している。その手はじめとして、本発表では胸高直径の測定精度について報告する。使用したカメラは富士フイルムの「FinePix REAL 3D W3M(3D計測専用モデル)」で、本体重量は250g、基線長は75mmである。ステレオ写真からの三次元点群の生成や画面上での計測を行うために、同カメラ専用のPCソフトである(株)アルモニコス(浜松市)の「撮測3D Ver.2013.3」を使用した。感度や画質などの設定は、カメラ本体およびソフトの説明書にある必須および推奨条件にしたがった。また、ソフトで点群を生成する際の各種パラメータは、すべてデフォルトのままで実行した。2014年12月に、胸高直径の範囲が11~51cm、69年生のスギ人工林においてテスト撮影を行った。デフォルトの点群生成範囲であるカメラから10mまでの範囲に、3~5本の立木が写り込むことを目安として構図を決定した。撮影地は固定試験地であり、各立木の胸高が白色ペンキでマーキングされている。マーキング位置における幹の幅をPC画面上でクリックして計測し、実測の胸高直径を真値として精度を評価した。
  • Raharjo Beni
    セッションID: C24
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    This study assess the spatial and temporal patterns of area prioritization in a Forest Management Unit (FMU). A prioritization framework was developed using a GIS-based multi-criteria analysis to accommodate the main conservation tasks of biodiversity preservation and forest rehabilitation. The spatial and temporal change of the resultant priority area was assessed in the periods of 1993-2003 and 2003-2013 in Sultan Adam Forest Park as the study site. The preservation priority area changed with the agreements of 0.41 and 0.68, while the rehabilitation prioritization area changed with 0.58 and 0.703. The optimum proportion of 14% and 30% was proposed for preservation priority area, meanwhile 10% and 17% were proposed for rehabilititation priority area. A conservation zonation was propossed to adjust the current zonation within the park.
  • NOOR JEMALI, 芝 正己, AZITA ZAWAWI
    セッションID: C25
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    Elevation has a complex influence in selecting potential forest area for conservation. It includes quantity area occupied and site quality factors. The study sought to identify priority conservation areas based on elevation gradients in the subtropical forest of Okinawa Island. The digital terrain data was adopted to analyse the availability sites for prospective conservation areas. Different elevation levels range from 50 to 350m was overlaid with forestland owner boundary data, vegetation and accessible forest road. Result showed that potential conservation areas decreased with an increase of elevation. Forest with continuous covers featured a high value area for conservation. After considering the influence of the qualitative factors for site selection, it was suggested that the middle-peak elevation region in the Yambaru forest is a priority area for protection and conservation sites.
  • 光田 靖, 北原 文章, 垂水 亜紀, 佐藤 重穂, 宮本 和樹, 酒井 敦, 酒井 寿夫
    セッションID: C26
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    戦後に植林された人工林が成熟し、これから本格的な主伐の時期を迎えようとしている。今後、主伐へ向けてこれからどのように山づくりを行っていくのか、指針を示すことが求められている。本報告においては、林分の成長と伐採・搬出コストをシミュレーションするモデルを利用して、どのような山づくりの方法がありえるのかを検討する。今回は短伐期皆伐施業(50年伐期)と長伐期皆伐施業(100年伐期)を比較の対象として、100年間で得られる収益の最大化を図るように、間伐強度および方法を最適化した。一方で、林業生産性のみを追求すると災害に対して脆弱であったり、多面的機能を大きく損なったりする可能性がある。よって、モデルによって推定される林分密度や林床光環境の時系列変化を指標としてそれぞれの施業方法を評価した。短伐期および長伐期施業ともに強度の上層間伐を長間隔で行う方式が最適となった。一方で、強度の上層間伐は大きな林冠ギャップを生じさせる、間伐間隔が長いため林床光環境が悪化するという欠点も明らかとなった。
  • 奈良 和正, 龍原 哲
    セッションID: C27
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    【背景と目的】効率的な素材生産を考慮する際、林分団地化による施業の集約化は有効である。しかし、どの林分から団地を構成し、いつ施業を行えばよいかを計画するのは困難である。そこで本研究では、多数ある小班から団地を構成し、施業計画を立案した。また、団地化をしない場合の計画と比べ、素材生産量の水準や選択される林分の特徴などにどのような差異が生じるかを調べた。
    【手法】新潟県村上市旧山北町の一地域における民有スギ人工林を対象にした。作業システムは聞き取り調査により、チェーンソーでの伐倒、架線での全幹集材、チェーンソーでの造材と想定した。まず、ArcGISを用いて、対象森林における小班の隣接行列を取得し、全ての林分を基準とした団地候補を形成した。次に、それぞれの団地候補について計画期間で最大の素材生産量を発揮できる分期毎の施業を決定した。最後に、0-1整数計画法を用いて、計画期間における素材生産量の水準の最大化を目的関数とし、計画期間における団地候補の選択をした。この際、小班が重複するような団地候補の選択を排除するために、隣接制約を加えた。
  • 宮本 麻子, 松浦 俊也, 佐野 真琴
    セッションID: C28
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    森林計画史料は作成された当時の森林に関する自然立地および社会的な情報を持ち合わせている。本研究はこのような性質もつ森林計画史料から森林景観やその変化要因に関する情報がどの程度得られるか、景観史研究への有用性を明らかにすることを目的としている。その一環として、ここでは、福島県南会津郡の国有林奥会津森林計画区に位置する叶津区を対象として経年的な森林計画書及び附属林相図から林相、過去のゾーニング、地域住民利用の林分配置等に関する情報を収集し、森林利用変遷の特徴を捉えた。その結果、文献情報や聞き取り調査からは把握することが困難であった空間的な森林利用履歴の把握、既往文献情報との重ね合わせによる地域住民の森林利用情報の詳細化が可能となり、各種情報を得られる森林計画は景観史研究に有用な史料となりうると推察された。本研究はJSPS科研費24501300の助成を受け実施した。
造林部門
  • 南光 一樹, 鈴木 覚, 野口 宏典, 萩野 裕章, 小倉 晃, 石田 洋二, 松元 浩, 滝本 裕美, 坂本 知己
    セッションID: D01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    風・津波・雪崩に対し森林はその流体力の軽減機能を発揮する一方、極端な風・津波・雪崩では樹木は破壊され林業被害や災害拡大を招く。それらの相互的な現象を力学的に解明するためには、流体に対する樹木挙動のシミュレーションが有効である。本研究では、経時的な流速変化に伴うクロマツ立木の変形と破壊について動力学的な再現を試みた。再現に必要な樹木の曲げ特性を得るために、石川県加賀海岸国有林にて6本のクロマツ立木の引き倒し試験を実施し、根返り抵抗回転モーメントを得た。また引き倒した立木から採取した幹15本、根8本の玉切り供試体の三点曲げ破壊試験を実施し、曲げヤング係数と曲げ強度を得た。シミュレーションでは、クロマツ立木を長さ0.1mの円柱セグメントの集合体としてモデル化し、流体荷重から各セグメント接点にかかる回転モーメントを算出し、多自由度の振動方程式を解くことで経時変化する流速に対応した樹木動揺を再現した。接点にかかる内部応力を逐次計算し、幹折れ及び根返りが起きる流速条件を求めた。発表においては、樹木変形を考慮する場合と考慮しない場合の幹折れ及び根返り条件の差異について検討する。
  • 山本 福壽, 藤原 佳奈, 谷口 武士, 毛 惠平, 山中 典和
    セッションID: D02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    中国の内蒙古自治区、オルドス(鄂爾多斯)地方に分布するクブチ(庫布其)砂漠に植栽されている小葉楊(Populus simonii)の成長におよぼす埋砂環境の影響について調査研究を行った。今回の現地調査は、2014年8月26日から5日間、クブチ砂漠の北緯40度18分20.1秒、東経109度41分46~48秒の移動砂丘地に列状植栽されている約5年生の小葉楊20本を対象とした。地形と砂移動方向との関係により、10本は地上部が砂に深く埋もれた埋砂環境、10本は地上部の砂が吹き払われて根株や根系が裸出した退砂環境に置かれていた。埋砂環境に置かれた個体は、埋砂した枝に不定根が形成され、伏条更新状態となっていた。一方、退砂環境にある個体では放射状に展開している水平根から多数の根萌芽の発生が認められ、面的な個体数の増加が確認された。これらの結果から、埋砂環境は個体の成長促進と伏条更新による個体数の増加に、また退砂環境は根萌芽の発生による面的な分布域の拡大に寄与していることがわかった。
  • 齊藤 哲, 川崎 達郎, 壁谷 大介, 飛田 博順, 田中 憲蔵, 右田 千春, 梶本 卓也
    セッションID: D03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    樹木の形状比(樹高/胸高直径)は木材生産における形質だけでなく、気象害の受けやすさにも関係する重要な指標のひとつである。形状比は直径成長と樹高成長のバランスによって変化する。本研究はその直径と樹高の成長パターンの差異を明らかにすることを目的とする。調査対象は19年生スギ若齢林のなかの8個体とした。胸高直径はデンドロメーター、樹高は林冠に到達できる鉄塔を利用し、2013年1月から2014年12月までの2年間測定した。平均成長量(±標準偏差)は直径2.0 (±1.0) mm/年、樹高47.0(±14.9)cm/年であった。形状比平均値は2年間で77.2から81.7に増加した。2014年の直径は3月下順に成長を開始し5月上旬にピークとなり7月上旬でほぼ止まった。一方、樹高は5月中旬から伸長が始まり、6月中旬にピークとなりその後漸減し9月中旬でほぼ止まった。本調査期間では直径、伸長とも明確な秋季の成長はみられなかった。直径、伸長成長と初夏にピークがある季節変化を示したが、直径成長が伸長成長より約1ヶ月先行していた。19年生時の形状比は、年間では大きくなるが季節で変動した。
  • 酒井 敦, 深田 英久, 渡辺 直史
    セッションID: D04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    全国的にニホンジカの分布域が広がっている中、拡大造林期に植林した人工林が主伐期を迎えている。林齢構成の平準化し、持続的な木材生産を確保するために、シカの生息域でも確実に皆伐・再造林を行うことが求められている。林道脇の植生からシカの生息密度を判定するため、植生の多様度とシカの生息密度の関係を求めた。高知県が実施しているシカ生息密度モニタリングサイト110か所のうち39か所を選定した。糞粒調査によるシカの生息密度は0~68頭/km2である。9月~10月にかけて面積4㎡の植生調査コドラートを1サイトにつき6個設置し、種ごとに植生高、植被面積を調査した。コドラート当たりの種数は10から61の間で、平均30.7種だったが、シカの生息密度との相関はなかった。シャノン・ウィナーの多様度指数H’を計算したところ、サイトのH’の平均値は1.96から3.61の間であり、シカの生息密度と負の相関関係が見られた。これはシカの生息密度が上がるにつれて特定の植物(シカの忌避植物)が優占し、多様度が低くなることを示している。忌避植物としてはイワヒメワラビ、ヒメワラビ、マツカゼソウ、タケニグサ、アケボノソウ、レモンエゴマなどがあった。
  • 高橋 絵里奈, 高橋 さやか, 竹内 典之
    セッションID: D05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    樹冠投影図を描いたり、個体の枝張りを測定したりする際に、航空写真法や林内での目測などの方法が用いられてきた。しかし、これらの方法の測定精度は10cm程度であり、森林内で枝先の鉛直下を正確に特定することは難しい。そこで、林内で枝先の鉛直下を決定するための樹冠測定具「天望鏡(てんぼうきょう)」を開発した。天望鏡は、円筒と糸で構成した十字線、おもり、手鏡、赤白ポールで構成される測定具で、おもりを利用して、枝先の鉛直下を決定する測定具である。天望鏡の測定精度を検証するために、建物の2階から5階に設置された渡り廊下を利用して上空に目標を設置し、上空では壁から目標まで、地上では壁から天望鏡を利用して決定した目標の鉛直下までの距離を同時に測定した。4.07m、8.30m、12.50m、16.70mの高さでの測定値と地上での計測値を比較したところ、測定精度は高さが高くなるにつれて1.1cmから2.9cmと下がる傾向があり、正確度は4.2cmから0.4cmと上がる傾向があった。以上の結果から、天望鏡を用いればこれまでの方法より正確に枝先の鉛直下を決定できることが明らかとなった。
  • 横井 秀一, 三村 晴彦
    セッションID: D06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】人工林の長伐期施業を進める上で、伐期に想定されるような林齢の現存林分の構造から施業に結びつく情報を得ることは有意義である。本研究の目的は、高齢スギ人工林の構成個体の径級と他の因子との関係を明らかにし、施業に結びつくヒントを得ることである。 【方法】岐阜県・愛知県・富山県で、80~117年生のスギ人工林33林分を調査した。調査区(0.1ha程度)を設置し、区内の立木(DBH≧10cm)の胸高直径・樹高・枝下高・樹冠幅を測定した。樹高から枝下高を引いた値を樹冠長とした。解析に当たり、本数密度と林分材積はスギ以外の樹種を含め、胸高直径などの平均値はスギだけで計算した。 【結果】調査林分は、本数密度169~1067本/ha、平均樹高19.1~35.9m、平均胸高直径23.5~68.6cmであり、それらの値は調査地により大きく異なった。林齢と本数密度や平均胸高直径には、関係がみられなかった。平均胸高直径は、本数密度と負の、平均樹高・平均樹冠長・平均樹冠幅と正の相関がみられた。平均胸高直径を応答変数、林齢・平均個体間距離・地位指数を説明変数とする重回帰分析で、重決定係数0.84を得た。
  • 大住 克博
    セッションID: D08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    琵琶湖西岸で観察されるヒノキ天然生林は、かつて近畿地方低山域に多く生育していたと考えられる同種が、現在でも分布の潜在的可能性を持っている証左として注目される。そのような林分の構造と成長過程を調査した。対象林分は一斉人工林と見分けがつかないが、所有者から天然生林であるという証言を得ている。調査区の生立木(dbh>3cm)は約1800本/ha、胸高断面積合計は57㎡/haであった。ヒノキはそれぞれの73%、99%を占めた。調査区内には伐り株や小径の枯立木が多数存在した。ヒノキの隣接同種個体までの距離は、枯立木や伐り株を含めるとほぼランダム分布となり、ごく短い場合も多いことから、更新が植栽に依らないことが示唆された。一方生立木のみでは、規則分布に近づいていた。間伐により個体間距離が調節されたためであろう。伐り株により年輪を解析したところ、概ね70年生前後であり、戦時期に更新したことが読み取れた。また多くは中心部の年輪が極めて密で、初期に成長が停滞したことが認められたが、これは初期にはアカマツが優占していたという所有者の証言に合致した。以上の結果は、当地域で人工林に類似したヒノキ天然生林が成立し得たことを示している。
  • 水永 博己, 大洞 智宏
    セッションID: D09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    岐阜県今須地方などでは、小面積の集約的な持続的森林経営の一例として単木択伐人工林施業が行われてきた。現在では、原木販売形態の変化によって主伐が抑制され従来の林分構造が変質し、この経営方法の持続可能性を疑問視する報告がなされている。しかし、全国的に10齢級以上の森林が半分近くになり、「更新」を考えなければならない今日、皆伐-更新の低コスト化とともに、対極の単木択伐のオプションも用意して更新手段の多様化を維持することは価値がある。すなわち皆伐更新と同様に主伐の実行を前提に単木択伐更新を議論する意味はあるだろう。単層人工林を単木択伐型に移行することは不可能だろうか? 本発表ではこの問題について、葉分布構造をもとに議論する。
    今須択伐林で、3Dレーザースキャンにより複層状態の三次元葉分布構造を明らかにし、下木の成長・生存との関係を解析し、単木択伐人工林の葉分布の構造と影響を報告する。また96年生のヒノキ単層林の毎木調査データから林冠構造を再現し、複数の単木択伐林移行へのシナリオごとに、林冠動態を予測して、求める林分構造の実現が可能かどうか評価する。
    葉分布から見た「今須への道」は険しいのだろうか?
  • 伊藤 哲, 正木 隆, 光田 靖, 平田 令子
    セッションID: D10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    わが国では施業研究の成果が実際の森林施業に正しく反映されず、全国一律な施業指針として普及され不適切に実行されることが多かった。その反省からか、現在の林業人材育成では施業方法の選択に自由度を与える一方、個別ケースにおける模範的施業を具体的に示せていないのが実態である。これはケーススタディから一般論を導くのは危険であることや、ベストの施業方法の選択を科学的に示すのが難しいことによる。しかし、このような普及指導は都合の良い判断による破壊的な施業や問題の先送りを誘発しかねない。一方、事業としての失敗例を掘り起こせば相当数あるはずであり、それらを基に施業が失敗する理由を論理的に説明できる可能性がある。我々はこれまで、一定の自由選択幅を残した施業指針の提示を目的として、天然更新および育成天然林施業事例を中心に成果をレビューし、管理の現場で「やってはいけないこと」(ネガティブリスト)の体系化を試みてきた。本報告では複層林および混交林化施業に焦点を当て、九州における成功・失敗事例30件をレビューし、対象や条件に応じたネガティブリストのマトリックス型および判定フロー型による体系化を試みたので報告する。
  • 紙谷 智彦, 原澤 夏穂, 小林 誠
    セッションID: D11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    新潟県の豪雪ブナ林地帯には、広葉樹が薪材として短い周期で商業的に伐採され、河川で流送された地域がある。一方、薪材の流送に不向きな地域では、運搬が容易な炭の材料として良質なナラ類が好んで伐採され、その結果、相対的に伐採頻度が低かったブナ林が良好に更新してきた。
    そのようなブナ林は、薪炭林としての機能が放棄された後も未利用のまま成長を続け、今日では堅果生産量が増大し、林冠ギャップが生じるなど、構造的に成熟段階に入りつつある林分が出現してきた。これまで皆伐天然下種で伐採された高海抜地のブナ天然林では、ササが大きな更新阻害要因になったのに対して、低海抜地で薪炭林として利用されてきたブナ二次林にはササが少なく、近年では稚樹バンクも見られる。
    そこで本研究は、豪雪薪炭林跡地に再生したブナの林業樹種としての活用を検討する。調査地の新潟県松之山地域には、点在する集落近傍の薪炭林跡地に、ブナ二次林が散在している。この地域のブナ林26林分を対象に、樹高・枝下高・胸高直径・樹冠サイズを測定し、その特徴を明らかにするとともに、林業的に活用する場合の課題について検討する。
遺伝・育種部門
  • 菊池 葉香, 並川 寛司, 北村 系子
    セッションID: E01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     一般的に、分布限界における集団の遺伝的多様性は低いことが予想される。日本におけるブナの自生地北限は北海道南部の黒松内低地帯付近にあるが、北海道におけるブナの遺伝的多様性を本州の集団と比較したところ、多様性は比較的高く保たれていた。そこで本研究では、北限域のブナが北進過程においてどのように遺伝的多様性を獲得しているのかを明らかにするための調査を行なった。札幌近郊の野幌林業試験場樹木園跡に42m×80mのトランセクトを設定し、植栽されたブナ6本および当年実生を含む更新稚樹265本について、核マイクロサテライト12遺伝子座を用い遺伝的多様性を評価した。その結果、対立遺伝子数は植栽された母樹で60、稚樹165、当年性実生91で、高い外交配性が確認された。他方、平均ヘテロ接合体率は母樹が0.707、稚樹0.631、当年性実生0.684、アレリックリッチネスは母樹が5.00、稚樹4.06、当年性実生4.11と、いずれも一世代更新によって獲得された遺伝的多様性の程度はそれほど高くないことが明らかとなった。このことは、北限域におけるブナの遺伝的多様性の高さが、比較的多くの世代数を経たことにより形成されたことを示唆している。
  • 北村 系子, 田中 信行, 津山 幾太郎, 松井 哲哉, 並川 寛司, 齋藤 均, 寺澤 和彦, 金指 あや子, 石塚 航
    セッションID: E02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    ブナ(Fagus crenata)は九州大隅半島から北海道渡島半島にかけて分布し、その自生地北限は黒松内低地帯に隣接する幌別山塊とされていた。ところが、2013年さらに約12km北の岩内町で新たな自生地が確認された。自生地は極めて狭い範囲に限られ周辺にブナの個体は全く確認されていない孤立集団で、2014年夏の調査時に当年生実生も含めて152個体であった。これら全個体について核SSR12遺伝子座を用いて多様度パラメータを計算した。平均ヘテロ接合体率は0.693と非常に低かった。北限地帯のブナは本州の集団に比べて平均ヘテロ接合体率が低いが、その値(0.75)と比較しても多様度の低さは明らかである。アレリックリッチネス(7.5)でも北限地帯の自生集団(8.1-10.9)に比べて極端に低下していた。結実が確認された2個体を含む成熟木8個体について葉緑体DNAを分析した結果、すべてハプロタイプAを示したことから渡島半島に分布するブナ林から派生したと考えられる。しかし、複数の遺伝子座での対立遺伝子頻度の違いなど、隔離小集団の影響が遺伝的多様性に強く現れていることが示唆された。
  • 内山 憲太郎, 藤井 沙耶花, 津山 幾太郎, 鈴木 節子, 森口 喜成, 木村 恵, 津村 義彦
    セッションID: E03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     浸透交雑は集団に急速な遺伝的変異をもたらすことから、その進化的意義は大きい。本研究の対象であるモミ属3種(シラビソ、ウラジロモミ、モミ)は、標高に沿ってゆるやかに分布を分けているが、分布が重なる地域では交雑個体も確認されている。核マイクロサテライト19座を用いたadmixture解析では、3種間の遺伝的混合はほとんど認められず、現在の種間の遺伝的交流は限られていると考えられた。一方で、mtDNAの5領域のシークエンスからは、種を越えたハプロタイプの共有が認められた。特に、モミの太平洋側の北端5集団は、シラビソ、ウラジロモミの主要ハプロタイプに、ウラジロモミの南端の2集団はモミの主要ハプロタイプにそれぞれ置き換わっており、地理的なまとまりが認められ、過去にこれらの種間での浸透交雑が起きた可能性が示唆された。過去の気候変動に伴う分布の変化は、種間の新たな接触と隔離の機会を生み出してきたと考えられる。近縁種との交雑が活発に生じた際に、交雑を介して互いの有益な遺伝情報を獲得してきたかもしれない。本報告では、3種の過去の分布予測と遺伝解析から、これら3種の浸透交雑の歴史について考察を行う。
  • 長谷川 陽一, 浅野 亮樹, 高田 克彦
    セッションID: E04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    蜂蜜は花の蜜をミツハ?チか?集めて貯蔵したものて?、レンケ?蜂蜜やニセアカシア蜂蜜、トチノキ蜂蜜なと?、さまさ?まな種類の単花蜜や、多くの植物に由来する百花蜜が販売されている。このように、ミツバチは多様な植物を利用しているので、ひとつの蜂蜜であっても多数の植物に由来している可能性がある。蜂蜜の元となった植物種を明らかにすることは、蜂蜜生産および養蜂に活用されている森林資源の把握につながると考えられる。そこで本研究では、5種類の蜂蜜(ニセアカシア(東北),クリ(東北),ソバ(東北),百花(東北),百花(関東))からそれぞれ花粉を採集し、そこからDNAを抽出して、次世代シーケンサーを用いて、3つの領域(rbcL,trnL,ITS1)のDNA塩基配列の決定を行なった。得られた配列はBLAST解析によって植物の分類群を特定し、蜂蜜の元となった植物の種の同定を試みた。全ての蜂蜜から、複数の分類群の植物のDNA配列が検出された。また、ITS1を用いた時に種まで識別できるDNA配列の割合が最も高かった。種まで識別できた植物分類群のうち、高木:低木:つる:草本の割合は、21種:7種:8種:24種、虫媒花:風媒花:不明の割合は、50種:7種:3種であった。
  • 鶴田 燃海, 向井 譲
    セッションID: E05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    日本で最も親しまれている桜の品種ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンとの雑種であると言われている。ソメイヨシノを種子親としてエドヒガン3個体(E750, IJR1, IJR2)を掛け合わせたところ、3つの家系全てで半数にのぼる実生に生育不全が観察された。本研究ではこの生育不全に関与する遺伝子座のマッピングを試みた。両親および健全な実生と生育不全の実生178個体を用いた連鎖解析により、77のマーカーが座乗する8連鎖群からなる533.7 cMのFemale mapおよび、17のSSRからなる196.8 cMのMale mapが構築された。作成した連鎖地図をもとに生育不全との関連を探索したところ(マーカー分離比の歪み、関連解析、QTL mapping)、Female mapの第4連鎖群(LG4)において強い関連がみられた。一方、Male mapのLG4には有意な関連は見られなかった。このことからエドヒガン種内の近交弱勢ではなく、種間の不和合により生育不全が引き起こされると予想された。現在、3家系の実生384個体におけるLG4の分析により、生育不全に関与する遺伝子座を2つのSSRに挟まれた3.8 cMの領域に同定している。
  • 久本 洋子, 後藤 晋
    セッションID: E06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     一般に樹木の繁殖開始は個体サイズに依存するが、高標高の厳しい環境ではサイズが小さくても早期に繁殖を開始することが知られている。しかしこれまで早熟性が次世代に遺伝するかは不明であった。本研究は、東京大学北海道演習林で実施された低標高(530m)と高標高(1100-1200m)の自生個体の相互交雑試験地において、4交配タイプ(高標高由来母樹×高標高由来花粉親(高×高)、以下同様に高×低、低×高、低×低)の計21個体について2011~2014年に高所作業車を用いて全球果数を計数するとともに、樹高と胸高直径を測定し、統計モデルを用いて交配個体の結実量が高標高ゲノム割合と個体サイズで説明できるかを調べた。
     豊作年であった2011年と2014年で結実数は低×高、低×低、高×低、高×高の順に多かった。統計モデルの結果、個体サイズが大きいほど、また、高標高ゲノム割合が高いほど結実量が多くなり、早熟性が遺伝することが示された。しかし、個体サイズ、高標高ゲノム割合ともにほとんど差が無い高×低と低×高の結実数が有意に異なっており、種子形成時の環境というエピジェネティックな効果が加わっている可能性が示唆された。
  • 後藤 晋, 鐘ヶ江 弘美, 石塚 航, 北村 系子, 上野 真義, 久本 洋子, 八杉 公基, 永野 惇, 工藤 洋, 岩田 洋佳
    セッションID: E07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道中央部ではトドマツが標高200mから1200m程度まで自生するが、標高間相互移植試験により、フェノロジーや成長形質で自生標高への適応が示唆されているが、具体的にどのような遺伝子が関与しているかは不明である。本研究では、高標高(1100-1200m)と低標高(530m)に自生するトドマツ個体間の相互交雑試で得られた高標高×低標高(以下、高×低)の2つの交雑個体を両親として、2011年5月に人工交配を行い、それらの分離集団376個体を用いて連鎖地図を作成した。RAD-Seqで得られた66,035のSNP座のうち、80%以上の個体で遺伝子型が決定でき、親ごとに1:1分離が期待されるaa×ab、ab×aaの遺伝子型を持つそれぞれ576座と567座のSNPを用いて、疑似検定交配を想定して連鎖地図を作成した。その結果、各親についてそれぞれ12連鎖群の地図を作成できた。作成された連鎖群の数は、トドマツの染色体数(2n=24)から予想される数に一致していた。今後、得られた連鎖地図を利用して、実生のフェノロジーや成長形質に関するQTL解析を行う予定である。
  • 永光 輝義, 島田 健一, 金指 あや子
    セッションID: E08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    林木の種苗移動の規制は、他所では不適応になる樹木の植栽を防ぐ。林業種苗法により、日本のアカマツは、南から北への移動が禁じられている。現行の規制を評価するため、南北の産地のアカマツ種苗を、それらの産地の近くの試験地に植栽した相互移植試験を行った。間伐前の15年生まで、および間伐後の15から30年生までと15から40年生までの生存率を測定し、30年生幹の直径、植栽面積あたり断面積、形状を計測した。間伐前の生存率は北より南の産地で低く、北より南の試験地で低かった。間伐後の生存率は、他所の試験地、特に北の試験地の南の産地が低かった。直径は、南の試験地の南の産地がもっとも大きく、北の試験地の両産地がもっとも小さく、南の試験地の北の産地が中間だった。よって、地元では、北より南の産地で数が少なくサイズが大きかった。これらの生存と成長の結果を総合すると、南の産地の種苗を北の試験地に植えると植栽面積あたり断面積が低下し、不利な北方種苗移動が示唆された。折れたり曲がったりした幹の割合は、南より北の試験地で高く、北の試験地の環境の厳しさが示唆された。これらの知見は、現行のアカマツの種苗移動規制を支持する。
  • 武津 英太郎, 平岡 裕一郎, 松永 孝治, 千吉良 治, 倉本 哲嗣
    セッションID: E09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     林木育種を進める上で育種材料の遺伝的評価は必要不可欠である。林木育種事業においてこれまでに多くの検定林が設定され、主に5年?10年間隔で成長データが収集され、そのデータに基いて精英樹に代表される各育種材料の遺伝的評価がなされてきた。近年では精英樹の検定林では伐期を超えるものも多くなり、各精英樹の評価を行うためのデータがそろいつつある。これまでのは測定年次毎に各データが解析され遺伝的評価値が算出されてきた。しかしながら、複数測定年次・複数試験地での大量データを統合した評価手法の検討はまだ不十分である。複数年次・複数試験地のデータを統合して解析することにより、測定誤差の影響の低減や未測定の年次・環境下での成長の予測、系統毎の成長パターンの評価などが可能になり、より実用的な遺伝的評価が可能になると期待される。本研究では、非線形の成長関数の各パラメータ毎に各系統の変量効果を仮定したモデルにより、複数年次・複数試験地のデータから系統毎の成長関数パラメータを推定する手法を試行し、その効果について検討を行った。
  • 栗田 学, 平岡 裕一郎, 小野 雅子, 平尾 知士, 高橋 誠, 渡辺 敦史
    セッションID: E10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    スギはわが国の主要な造林樹種であり日本人の生活に深くかかわってきた。これまで検定林等を活用した調査により第一世代精英樹の特性が明らかになり、それらの情報に基づいた次世代化を進めている。スギにおける主要な育種形質は成長・材質・雄花着花性であるが、それぞれの形質に関わる遺伝子座は複数存在し、受け継ぐ対立遺伝子の組合せによって後代の性能は異なると予想される。よって単一形質もしくは複数形質に優れた次世代候補木を作出するためには、多様な組合せの交配を行い、その中から遺伝的に優れた個体を選抜していく必要がある。多様な複数の交配を簡便かつ高精度に行う方法として、我々は交雑温室を利用した室内種子生産技術の開発を進めている。少ない投入花粉量で交配効率を高めるための条件検討として、投入花粉量や花粉投入のタイミングの最適化を行った。また花粉を投入せずにブース内に設置した苗木の生産する花粉のみで交配が成立するかどうか検討し、室内種子生産技術の実用化に向けた交配手法の最適化を進めている。本発表では様々な条件下で生産した種子の発芽率を解析し、室内種子生産技術の実用化に向けて考慮すべき諸条件について議論する。
  • 倉本 哲嗣, 松永 孝治, 武津 英太郎, 千吉良 治, 倉原 雄二, 湯浅 真, 山田 浩雄
    セッションID: E11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     林木育種において,新たな系統の開発には交配から成長や材質等の特性の調査結果を含めると20年以上を要する。一方九州は,スギさし木苗による造林が主流であることから,さし木苗での調査結果を待って特性を見極める必要があるので,さらに多くの年月を要する。そのため,市場が求めている特性を有した品種の開発をより効率的に進める方法を開発していくことが必要であると考え,これまでに蓄積されている第一世代にあたるスギ精英樹のデータから若齢段階で標準伐期齢頃の特性が見極められないか検討した。解析に使用したのはスギ精英樹28クローンである。まずこれら精英樹クローンについて1反復あたり10本,3反復の合計30本を九州育種場内に植栽後,1成長期でどの程度成長したかを示す比(伸長率とする:(1成長期後の樹高)/(植栽時の樹高))を算出した。次に検定林調査データからこれらクローンの九州一円における樹高および胸高直径の平均値を算出し,伸長率との間に相関が認められるか解析した。その結果,30年次の樹高・胸高直径と伸長率との間にはそれぞれ1%水準で統計的に有意な相関関係が認められた(相関係数はそれぞれ0.72と0.63)。
生理部門
  • 鍋嶋 絵里, 工藤 佳代, 東 若菜, 石井 弘明, 船田 良
    セッションID: F01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    樹幹の木部には葉で稼いだ光合成産物の多くが蓄積される。一方、木部の道管は個体の水輸送を担い、葉での光合成に必要となる。落葉広葉樹では、春先に葉と新しい木部とが形成される。特に、環孔材樹種では春先に形成された当年の孔圏道管が主たる通水を担い、その形成は開葉に先立って開始することが報告されている。これらの樹木では、葉と木部の形成および光合成の季節変化はどのように関連し、進行するのか?本研究ではミズナラとブナの林冠木を用い、葉の展開と最大光合成速度および樹幹の木部形成と木部内の貯蔵デンプンについて季節変化を調べた。
    ミズナラでは展葉完了時期に当年最初の孔圏道管の形成が終了し、この時期の最大光合成速度は低かった。一方、ブナでは展葉の完了が早く、この時期には光合成速度も高かったが木部はまだ形成されていなかった。また、ミズナラはデンプンが当年の木部に見られた一方、ブナではほとんど見られなかった。これらの結果から、春先の炭素のシンク(葉と樹幹木部の形成)とソース(貯蔵養分と葉の光合成産物)の関係は両樹種で異なり、ミズナラの木部形成の炭素シンク能はより強く、貯蔵養分への依存度もより高いことが示唆された。
  • LEI CHEN, SUMIDA Akihiro
    セッションID: F02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    We investigated patterns of branch growth for sunlit and shaded trees in an even-aged plantation of Sakhalin spruce, Picea glehnii, in Sapporo, Japan, from 2013 to 2014. The number of current year (0-y) shoots produced per primary branch (those branching off the main trunk) increased with increasing relative light intensity above the primary branch (RLIpb), whereas mortality of the primary branches decreased with the vertical distance from the crown base, irrespective of RLIpb. In the lower part of a crown, the length of 0-y shoots on primary branches was significantly shorter in sunlit trees than in shaded trees. In addition, branches of the trees that were about to die also produced abundant current year shoots regardless of their shaded crown conditions. Physiological mechanisms underlying these results were discussed.
  • 高橋 さやか, 高橋 絵里奈, 岡田 直紀, 野渕 正
    セッションID: F03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】温帯広葉樹林において道管配列/管孔性の異なる樹種が、どのような時期的関係で道管形成と葉の展開を行うのかを明らかにすることを目的とする。【方法】芦生研究林および上賀茂試験地に生育する、林冠を形成する落葉性の環孔材樹種、散孔材樹種、半環孔材樹種、および常緑性の環孔材樹種、散孔材樹種、放射孔材樹種について、幹の成長錐コアと枝を春先から定期的に採取し、同時に葉のフェノロジーを観察した。採取した試料を用いて、当年の年輪界から1列目の道管列(初形成道管列)の木化を顕微鏡で観察した。【結果】落葉性環孔材樹種では、開葉時に枝と幹の初形成道管列が木化し、落葉性散孔材樹種では、開葉時に枝の初形成道管列が木化するが、その後、数週間後に幹の初形成道管列が木化した。落葉性半環孔材樹種、常緑性の環孔材樹種および散孔材樹種では、落葉性環孔材樹種と同様の結果の個体と、落葉性散孔材樹種と同様の結果の個体が見られた。常緑性放射孔材樹種においては、落葉性散孔材樹種と同様の結果であった。
  • Shi Cong, Makoto Watanabe, Watanabe Toshihiro, Satoh Fuyuki, Koike Tak ...
    セッションID: F04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    Hypotheses that retranslocation of foliar nutrients in broadleaved deciduous trees is influenced by soil nutrient availability or high ozone concentration were studied with/without free air O3 fumigation for one growing season using seedlings of Birch, Oak, Beech, Willow planted on poor, medium and rich fertility soils, respectively. We will focus on following major questions: Should O3 tolerance rather than sensitive tree saplings be more efficiently retranslocation? Should trees planted on poor rather than rich soils increased net translocation for growth of newly established seedlings? Should Mn concentration be higher in top leaves rather than fallen for its poorly mobile in phloem? Does N retranslocation in beech leaves decrease in response to N supply in soil since the sensitivity of beech to O3 may become greater with increasing amount of soil.
  • 梅林 利弘, 福田 健二
    セッションID: F05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    水ストレスは植物の分布を決定づける要因の一つである。これまで切り枝を対象にした木部通水性に基づく調査が数多くなされているが、切り口由来のアーティファクトな通水阻害域の発生に伴う通水性の低下が懸念されている。木部水分を非破壊的に可視化し、水ストレスに伴う通水阻害域の拡大をモニタリングする研究がこの問題を解決する上で必要である。本研究ではスギとクロマツのポット苗を対象にコンパクトMRIを用いて渇水ストレスに伴う木部水分の損失状況について調査を行った。試験開始前において、2種とも樹皮側は大半が通水域であったが、接線方向に広がる通水阻害域も認められた。また、スギでは髄側で通水阻害域が広範囲で認められた個体があり、クロマツではいずれの個体もほとんど認められなかった。灌水停止後、2種とも髄側の木部では通水阻害域が急増したが、樹皮側の木部では緩やかに増加した。2種における新たな通水阻害域の発生はその大半が既におきていた通水阻害域から認められた。以上のことから、ポット苗の渇水ストレスにともなう通水阻害域の拡大は、ポット苗作成時や成長段階で引き起こされた既存の通水阻害域から引き起こされることが考えられた。
  • 三木 直子, 佐藤 佳奈子, 青木 万実, 楊 霊麗, 松尾 奈緒子
    セッションID: F06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    中国の半乾燥地に生育するJuniperus sabinaは匍匐型の生活形を有するヒノキ科の常緑針葉樹である。匍匐枝から不定根を出し、匍匐枝を四方に伸ばしてパッチを拡大する。主に不定根は土壌表層に分布するのに対して、主根は土壌深層の地下水の影響を受ける層まで分布することから、降雨に関連した異なる土壌層間の水分の不均一性に伴い、主根そして不定根を介した水の移動(Hydraulic redistribution)が生じている可能性が示唆されてきた。今回はそのうち、降雨後の乾燥の進行に伴う土壌深層から土壌表層への水の移動(Hydraulic lift)について、実際にその存在を確認するために、ポット苗木4個体を用いて土壌水分の操作実験を行った。主根側は灌水を継続し、不定根側の灌水のみ停止した。乾燥がある程度進行した段階で、主根部において重水を1週間灌水し、不定根および不定根部側の土壌から重水が検出されるかを水の酸素安定同位体比の分析により確認した。また、実験期間中を通して、匍匐枝上の主根と不定根間(枝_基部)および不定根より先端側 (枝_先端) において樹液流速度を測定した。今回はこれらの結果について発表する。
  • 楢本 正明, 吉岡 優一, 水永 博己
    セッションID: F07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     森林生態系における炭素循環において、非同化器官における呼吸量は大きく、幹呼吸量の評価は重要である。しかし、幹呼吸は樹体内の細胞が呼吸によって放出したCO2を単に大気に放出しているのではなく、樹体内部および樹皮でのCO2拡散抵抗や、樹液流に寄るCO2輸送、同化器官での固定など、種々の影響を受ける。樹体内のCO2は、どこへ移動し、どこで放出または固定されるのか?この樹体内で起こるCO2動態については不明な点も多い。
     本研究では、切り枝したシュートを対象に、樹体内のCO2輸送とその光合成への利用に注目して実験を行った。CO2付加実験では、溶液のCO2濃度を高めることで上方の枝から放出されるCO2放出速度を測定した。測定箇所は樹皮の剥離処理を行うことで、CO2付加処理の影響を評価しやすくして実験を行った。また予備実験として、樹皮剥離処理でのCO2放出を測定し樹皮によるCO2放出の抑制効果を求めた。
  • 津山 孝人, 乗冨 真理, 内海 泰弘
    セッションID: F08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    メーラー(Mehler)反応は、葉緑体内で活性酸素の生成と消去を行うwater-water cycleの始めの反応であり、かつサイクル全体の律速段階でもある。植物はストレス環境下で光が過剰になると、メーラー反応によって酸素に電子を流し、電子伝達鎖の過剰な還元を回避する。生成した活性酸素はwater-water cycleにおいて消去される。クロロフィル蛍光測定を応用してメーラー反応の潜在能力を様々な植物で調べた所、裸子植物の方が被子植物よりも10倍高いことが分かった。針葉樹の多くは北半球高緯度地方の山岳部に生息しており、被子植物との間には地球規模でおおまかな棲み分けが見られる。我々は、メーラー反応が植物の環境ストレス耐性、ひいては生育場所を決定する一つの要因であると考えた。乾燥地でのメーラー反応の役割を調べるために、その能力を日本とケニアの植物(計136種)で比較した。ケニアには裸子植物は稀であるので、比較は被子植物間で行った。その結果、ケニアの乾燥地には同反応の能力が高い植物が多い(種数が多い)ことが分かった。この結果は、乾燥地への適応にもメーラー反応が寄与することを示唆している。
  • 飛田 博順, 北尾 光俊, 宇都木 玄, 齊藤 哲, 壁谷 大介, 川崎 達郎, 矢崎 健一, 小松 雅史, 梶本 卓也
    セッションID: F09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    施業に伴う生育環境の変化に対するスギの成長応答予測のためには,スギ針葉の光合成能力のパラメタリゼーションと共に、針葉の性質と光合成能力の関係の解明が必要となる。本研究では、スギ樹冠内の当年生と一年生の針葉の窒素含量と光合成能力(最大炭酸固定速度;Vcmax25)の季節変化を調べ,冬季のVcmax25の低下と針葉の窒素含量の関連を明らかにすることを目的とした。茨城県森林総合研究所千代田苗畑に生育する樹高約10 mのスギ成木を対象とした。樹冠上層と下層の切り枝(シュート)の光合成速度を実験室内で測定した。シュートは、針葉と軸(木化する部分)に分けて窒素濃度を分析した。シュート投影面積あたりの当年葉の窒素含量とVcmax25の関係は,6月から11月までは比較的安定していたが,12月以降大幅に変動した。シュートの単位重量あたりでみると,2月と4月の上層の当年葉のみ,窒素含量に対するVcmax25が顕著に低かった。以上の結果から,樹冠上層の当年葉で見られた冬季のVcmax25の低下は,針葉の窒素含量の低下では説明できないことが明らかになった。スギの成長モデルにおいて,陽樹冠のVcmax25が冬季の変色時に低下する点を考慮する必要性が示唆された。
  • 小林 元, 蔵屋 諒丞, 吉竹 晋平, 斎藤 琢, 安江 恒
    セッションID: F10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地の常緑針葉樹林フラックスサイトにおいて,樹齢40~50年,樹高約20mのスギ針葉の光合成速度を1年間測定した。光合成速度は10月から12月にかけて低下した。その後4月に増加した後,展葉期の5月初旬に一時低下し,その後9月まで4~5μmolCO2m-2s-1の値を示した。10月以降,光合成速度は再び低下した。光合成速度は8月に一時的に3μmolCO2m-2s-1近くまで低下した。気孔コンダクタンスは光合成速度とほぼ同じ季節変化を示した。Ci/Caは5月から9月にかけて0.5前後の低い値を示した。今回測定された光合成の値は,既存のデータと比べると低かった。一方で,Ci/Caも低い値を示したことから,本調査地のスギの光合成速度が低い原因として,気孔閉鎖が挙げられる。光合成好適期間中の長期にわたって気孔が閉じ気味であった詳細な理由はわからないが,8月には大気飽差が一時的に3.5kPaを超えたことから,このときの光合成速度の低下は大気乾燥の影響によるものと考えられる。今後,光合成速度を継続して測定し,2014年に長期にわたって観測されたCi/Caの低下が,2015年以降も発生するかどうか確認する必要がある。
  • Na Yin, Hajime Kobayashi, Reiko Ide, Naishen Liang, Nobuko Saigusa
    セッションID: F11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    A photosynthesis model was developed to estimate the seasonal variation of needle photosynthesis (Pn) of Larix kaempferi in this study. On the basis of the physiological factors, the seasonal variation of photosynthesis was estimated from the leaf nitrogen content (N). Additionally, the effect of vapor pressure deficit (VPD) on photosynthesis was considered as the environmental factor. A positive correlation between Pn and N was found. However, there was a decrement in Pn under high VPD even though N was at the same level. Consequently, the photosynthesis-nitrogen relationships were developed by dividing VPD into two ranges: 0 < VPD < 2 and VPD ? 2. Finally, Pn was estimated from the photosynthesis-nitrogen relationships. The estimated Pn was fairly closed to the observed Pn throughout a year and represented a temporary decline which occurred frequently in summer induced by the water stress.
  • 則定 真利子, スカルティニンシー ?, 山ノ下 卓, 古川原 聡, 小島 克己
    セッションID: F12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    土壌が湛水すると根圏が低酸素環境となり、植物の生育の阻害要因となる。植栽地における湛水ストレスはインドネシアの石炭採掘跡地の緑化の際にも問題となっている。湛水ストレスに対する植栽候補樹種の応答性を明らかにすることを目的に、13種の熱帯造林木の稚樹を用いて9週間余りの湛水ストレス実験を行い、成長と光合成の応答を比較するとともに、湛水解除後の応答についても調べた。湛水処理34日後、ほとんどの種で湛水により地際5 cmの直径成長が促進されたが、樹高成長が促進されたものはShorea balangelanCassia siameaのみであった。Aquilaria malaccensisSwietenia macrophyllaでは主根の空隙率が湛水により増加した。湛水処理35日後、成熟葉の光飽和光合成速度が半数以上の種で湛水により低下したが、Hevea braziliensisMelaleuca cajuputiMitragyna speciosaS. balangelanでは低下しなかった。光合成の低下の原因としては気孔閉鎖によるものと光合成能力の低下によるものが示唆された。湛水解除後4日目の時点で、解除による気孔の閉鎖や光飽和光合成速度の低下は認められず、Cassia siameaでは湛水によって低下した光合成が解除後に回復した。
  • 山ノ下 卓, 則定 真利子, 古川原 聡, 小島 克己
    セッションID: F13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    根圏低酸素環境下で植物が生育するためには、根でより多くの糖をエネルギー代謝に配分し、呼吸阻害によるエネルギー不足を補う必要がある。これまでの研究で、低酸素ストレス耐性種のMelaleuca cajuputiの根では低酸素ストレス初期に構造性画分への光合成産物の配分が減少し、可溶性画分への配分が増加することを確認した。本研究では、Melaleuca cajuputiの根圏低酸素環境下での根におけるリグニン生合成に関与する芳香族代謝を調べた。低酸素処理2日後の根で、ペントースリン酸経路の酵素活性やシキミ酸経路のシキミ酸脱水素酵素の活性に変化はみられなかったが、より下流にあるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の活性は著しく低下した。また、シキミ酸濃度に変化はみられなかったが、シキミ酸経路から分岐して生成されるガリック酸の濃度は増加していた。PALによって生成されるケイ皮酸濃度は減少したが、より下流にあるシナピン酸の濃度は変化しなかった。PALより上流の代謝は維持されているが、PAL以降のリグニン生合成経路中の様々な部位で代謝が滞っていることが示唆された。
  • 田原 恒, 橋田 光, 平舘 俊太郎, 篠原 健司
    セッションID: F14
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     Eucalyptus camaldulensisは、酸性土壌で問題となるアルミニウム(Al)毒性に強い耐性を示す。演者らは、これまでユーカリの根から新規のAl無毒化物質を分離し、加水分解性タンニンのOenothein B(OB)と同定している。本研究では、OBのAl耐性における役割を明らかにするために、OBの特性を解析した。試験管内でOBと種々の金属との結合を調べたところ、OBはAlおよび鉄と不溶性の複合体を形成した。また、OBとAlは、既知のAl無毒化物質であるクエン酸とシュウ酸が共存した溶液でも複合体を形成した。Al感受性のモデル植物シロイヌナズナを使った生物検定で、加水分解性タンニンであるOBとPentagalloyl glucoseのAl無毒化能を評価したところ、二つの物質は同等のAl無毒化能を示した。一方、加水分解性タンニン自体の植物毒性を調べたところ、OBでは毒性が認められなかったのに対し、Pentagalloyl glucoseはシロイヌナズナの根の伸長を阻害した。E. camaldulensisでは、OBが根に侵入したAlと結合し、Alを無毒化することで、高いAl耐性に寄与していると考えられる。
  • 斎藤 秀之, 神村 章子, 瀬々 潤, 小倉 淳
    セッションID: F15
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    発現遺伝子を指標にした樹木のストレス診断技術の開発の一環として、ブナの発現遺伝子の環境ストレス診断指標を開発している。これまで酸性・酸化性ストレスは高温ならびに土壌乾燥ストレスと区別して診断できる指標性遺伝子を明らかにしてきた。しかし森林衰退問題での実践では、NOx、SOx、オゾンなど具体的な原因物質を特定して診断できる技術が求められる。本研究では、ブナの個葉を対象に硫酸、硝酸、オゾンを模した過酸化水素を塗布処理して、それらに反応する遺伝子の発現パターンの相違点をゲノム網羅的に解析した。対照に対して有意(t-test, p < 0.01)かつ7倍に増加した遺伝子の数は、硝酸特異的で62遺伝子、硫酸特異的で169遺伝子、硫酸と硝酸に共通で81遺伝子あった。また、有意(t-test, p < 0.01)かつ7倍に減少した遺伝子の数は、硝酸特異的で35遺伝子、硫酸特異的で7遺伝子、硫酸と硝酸に共通で0遺伝子あった。以上から、酸性ストレスにおいても硫酸と硝酸では反応する遺伝子の種類が異なり、酸性ストレスの種類を識別する指標として有望であることが示された。発表では、過酸化水素に対する反応結果も含めて報告する予定である。
生態部門
  • 清和 研二
    セッションID: G01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    森林群集の種多様性創出メカニズムとしてPlant-soil feedback(PSF)仮説が注目されている。PSFには負のPSF と正のPSF がある。負のPSFはJanzen-Connell仮説と同じで、親個体の近傍での種特異的病原菌による同種個体の死亡と他種の生き残りが特定の種の寡占を抑え種多様性を高め、一方、正のPSFは菌根菌により親個体近傍で同種個体の定着が促進され優占度が増し多様性は減少する、といった仮説である。したがって、PSFの方向性や強さは個々の種の優占度と関係すると考えられるが、その関係は森林群集ではほとんど検証例されていない。
    本研究では、優占度の異なる8種の広葉樹を対象に、成木からの距離(近・遠)における同種実生の当年生実生の死亡率と死亡要因を調査し、それを基にFeedback指数を算出し、優占度との関連を解析した。
     相対優占度が低い種ほど病原菌による負のPSFが強かった。逆に言えば相対優占度の高い種では病原菌による負のPSFは弱く、むしろ菌根菌による正のPSFが強く働いていることを示唆した。
  • 赤路 康朗, 木下 秋, Ariya Uyanga, 宮崎 祐子, 廣部 宗, 牧本 卓史, 水永 博己, 坂本 圭児
    セッションID: G02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     氷ノ山後山那岐山国定公園内の若杉ブナ天然林では、森林構造調査からササの一斉開花枯死がブナの更新動態と関係している可能性が報告されているが、動態解析等を含めた議論はない。本研究では、林分動態、実生動態、年輪解析、および遺伝構造の解析から、ササの一斉開花枯死との関係を含めてブナ個体群の更新動態を考察する。長期毎木調査区における19年間の林分動態解析から、優占種であるブナ、ホオノキ、およびミズメの個体群が全て縮小していることがわかり、林冠木を対象とした年輪解析から、ブナはホオノキおよびミズメより樹齢の幅が広く、肥大成長パターンに個体差が大きいことが明らかになった。また、ブナ実生はブナ繁殖個体の周辺で多く発芽し、ブナ繁殖個体の近接区域および開空率が低い場所でその後の生残率が低かったが、ササの幹密度はブナ実生の生残に大きな影響を及ぼさなかった。以上から、本林分におけるブナ個体群の更新は、ササの一斉開花枯死よりも小規模な林冠ギャップに依存していると考えられた。さらに、最近接のブナ繁殖個体と血縁度が高いブナ実生に生残率が低い傾向がみられ、近接個体間の遺伝的類似性が低下している可能性が示唆された。
  • SHINGO KUSAKA
    セッションID: G03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    山火事跡の再生が非常に悪いモンゴル北部で、森林内や林縁に樹木の直線列が見られることから、倒木の陰に実生の定着立地が生じ、更新するという『倒木遮蔽更新』仮説を着想(2006 新潟生態学会発表)した。その検証のために、東西方向に倒した焼失木を使って、焼け跡での再生阻害要因実験を行った。その結果、光による乾燥害、種子の供給不足、リターによる発芽定着阻害が顕著に見られ、倒木の北側に熊手をかけて播種した実験区に実生が最も多く生えた。
    さらに、湖西ハロス、湖東部ヘクツアル、及び湖南部のハトガルで広く、自然状態での倒木とその周囲の実生・稚樹生育調査を、異なる光環境下で行った。その結果、自然に起きた倒木遮蔽更新例が、焼失地の草原や明るい森林内で数多く見られ、数m程に育った再生木が倒木の陰側だけに10本以上再生している実例データを数多くとることができた。これは、倒木陰に再生した稚樹の一部は自然状態で亜高木にまで育つことの証明となる。再生阻害要因実験での結果や自然の更新例などの観察、発芽率などから、森林再生促進のためのマニュアルを作成した。
    本研究はJSPS科研費23405030の助成を受けたものです。
  • 石田 清, 早川 玲奈
    セッションID: G04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    多雪山地の落葉樹林では、消雪時期が林冠木の開葉時期よりも遅く、林冠木の展葉後に下層植生が開葉する傾向がある。このような遅い消雪時期が落葉樹の実生・幼樹の発芽・開葉時期や生残過程に及ぼす影響についての知見は集積されていない。ここでは、多雪山地である八甲田連峰のブナ林内の2地点(低標高区:標高450m、高標高区:880m)に帯状区を設定して消雪日およびブナ林冠木・当年生実生の開葉日と春~秋の実生生存率を調査し、消雪期間(林冠開葉から消雪までの期間)の標高変異と局所的変異が実生の生残に及ぼす影響を分析するとともに、子葉開葉期間(消雪から開葉までの期間)に作用する自然選択について検討した結果を報告する。小区画(6.25m×2m)ごとの消雪期間は高標高区の方が低標高区よりも長く、中央値でみると19日間長かった。両区ともに消雪が遅い小区画ほど実生生存率が低くなる傾向が認められた。また、子葉開葉期間が長い実生ほど生存率が低くなる傾向も認められた。多雪山地のブナ林では、消雪が早いサイトで実生が生残しやすいこと、さらに、子葉開葉期間を決める形質に対して開葉が早まる方向に自然選択が作用していることが示唆される。
  • 松下 通也, 星崎 和彦, 井上 みずき, 石川 雄一, 石井 弘明, 堀田 佳那, 高田 克彦, 蒔田 明史
    セッションID: G05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     将来的な天然スギ林の資源量を検討する上で、長命な樹木の成長傾向を予測できる頑健なモデルは必要不可欠である。樹木の肥大成長は内的要因(サイズ、樹齢)と外的要因(被圧、個体間競争など)の影響を受けるが、300年生前後の個体の成長にどのような要因が影響を及ぼしているか定量的に解析した例は限られる。そこで本研究では、天然秋田スギ林の林分構造を調査し、個体特性とサイズ、競争および局所環境因子(光資源・土壌水分)がスギ個体の成長におよぼす影響をモデル化した。
     秋田県内の仁鮒水沢と二ッ井七座山の調査区にて毎木調査を実施した。両調査区ともに平均胸高直径80-100cmのスギ大径木が林分上層に優占しており、中間層にはトチノキやイタヤカエデが優占していた。スギの成長傾向を解析した結果、樹齢300年前後の個体の直径成長量は、対象木自身の個体サイズに依存していなかった。光資源の利用可能性は成長に強く影響していた一方、対象木周辺の競争個体の混み合い度の効果は認められなかった。また土壌水分量は、樹高と正の関係性が認められたが、直径成長については至適範囲の存在が示唆された。
  • 佐藤 保, Nur Hajar Bt. Zamah Shari, Wan Mohd Shukri B. Wan Ahmad, 新山 馨, A ...
    セッションID: G06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     REDD+では単位面積当たりの森林炭素蓄積量(以下、炭素蓄積量とする)を如何に正確に推定できるかが重要となってくる。本研究では、マレー半島の典型的な二つの森林タイプ(低地フタバガキ林及び丘陵フタバガキ林)に設定したPSP(Permanent Sampling Plot;固定試験地)の毎木データより推定した炭素蓄積量を比較した結果を報告する。
     マレーシア半島内の6州の低地フタバガキ林(標高300m未満;n=66)及び丘陵フタバガキ林(300m以上;n=20)に設定した固定試験地(0.36ha)の毎木調査データ(胸高直径5cm以上の個体)を用いて、地上部およぶ地下部現存量を計算し、0.47を乗じて炭素蓄積量を推定した。択伐履歴の無い林分の現存量(地上部+地下部)の平均値は、低地林で250Mg-C/ha、丘陵林で280Mg-C/haであった。地下部と地上部の比率は、低地林(22%)よりも丘陵林の方が若干高い値(28%)を示していたが、種組成の違いが反映されていると推察された。これら異なる森林タイプの単位面積当たりの炭素蓄積量を用いることによって、広域での正確な炭素蓄積量の推定が可能になると考えられた。
  • 竹田 有佑, 小南 裕志, 和田 佳子, 植松 千代美, 金澤 洋一
    セッションID: G07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    近年全球レベルでのCO2の濃度上昇が問題になっており、森林の持つ炭素蓄積機能の定量化が進められ、日本においては特に森林管理の効果や蓄積機能の樹種による違い温暖化時の変動評価などが求められている。しかし樹種や群落構造などの比較については多くの場合比較可能な長期データを持つ森林が異なった気象環境に存在しているため、環境とそれ以外の要素の分離が困難である。
    本研究の試験地である大阪市立大学理学部附属植物園は、1950年代から吉良竜夫らの手により異なった樹種で構成されたに11の群落が育成されており、環境条件がほぼ同条件とみなせる同林齢の11種の森林が存在する。さらにこれらの群落において5年毎の毎木調査による長期モニタリングが行われている。本報告では11群落から常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、常緑針葉樹林の計8林分を対象に毎木調査による群落成長情報から森林の長期炭素蓄積過程における樹種-群落構造依存性の評価を試みた。その結果、長期的な群落炭素蓄積能の違いには一部の樹種依存性が見られるものの、それ以外の初期密度およびその変動、枯死率などの群落動態の違いが大きく関与していることが明らかとなった。
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