日本森林学会大会発表データベース
第126回日本森林学会大会
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T5. 木質バイオマスの中小規模熱利用の課題と展望
  • 井筒 耕平
    セッションID: T05-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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     国内におけるバイオマスエネルギーの利用は、2000年代後半のチップやペレットボイラーによる温浴施設等への給湯・空調用途に始まり、2010年代には薪ボイラーの技術移転も進み、現在約数十の薪ボイラーの導入事例がある。岡山県西粟倉村では、2015年2月に温浴施設へ薪ボイラー導入を行った。薪ボイラーは、チップやペレットのように搬送装置を使わず人力で燃料投入するため、ロジスティクスがこれまでとは明らかに異なる。事例数が少ない薪ボイラーのロジスティクスを含めた運用について、実践をもとに明らかにする。
     一方、急ピッチで計画や実施が進む5MW以上の大規模バイオマス発電は、低質材の価格底上げの好影響を地域に与えているが、発生した熱を捨てている場合が多いこと、燃料使用量が多すぎるため燃料調達が広範囲に亘ること、などの問題が指摘されている。西粟倉村では、2015年度に中規模程度(原木ベース5000トン)での地域熱供給の検討を行うことになっており、国内では未整備の丸太ボイラーについて議論する。さらに、今後バイオマス事業を展開する上で燃料供給体制の構築は極めて重要な論点であり、自伐型林業の導入も含め、西粟倉村での展望を議論する。
  • 寺田 徹
    セッションID: T05-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    緑地計画分野は、都市から都市近郊にかけての緑地(オープンスペース、樹林地、農地等)の保全・創出に向けた計画的技術を研究する分野である。緑地分野におけるバイオマス利用は、公園緑地の管理時に発生する剪定枝の利用(緑のリサイクル)が代表的だが、近年では、発電・熱利用等のエネルギー利用も見られるようになってきた。また、公有地のみならず、里山のような民有緑地においてもバイオマス利用の検討が進みつつある。本発表では、都市近郊の里山保全とバイオマス利用の事例を紹介し、都市的な要素を踏まえた森林保全やバイオマス利用の在り方に関して議論を行いたい。紹介する事例は、森林経営計画を活用した市民による都市近郊里山の管理(千葉県船橋市)および、薪の需要を活かした地方都市の里山保全(長野県伊那市)の2つとする。前者について、都市部の森林を対象とした森林経営計画は珍しく、また潤沢な熱需要である都市と近接することから、小規模なバイオマス利用にもつなげやすい例と言え、これらの点を中心に議論する。また後者については、薪需要を生み出している薪ストーブの普及について、ストーブ利用者への調査結果を中心に議論を行いたい。
  • 寺岡 行雄, 前田 清水
    セッションID: T05-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    木質バイオマスボイラーのトラブルの多くは木質燃料の含水率に起因している。木質燃料の普及を図るため、チップ燃料の乾燥について明らかにする。本研究では、メッシュコンテナ(側面と底面がメッシュ状になり、空気が通るようにしたコンテナ)にスギチップを投入し、木材乾燥機を用いた乾燥実験を行った。21時間の人工乾燥により、含水率53%のチップが23%に低下し、コンテナを用いての乾燥は有効であることが分かった。次に、チップが空気と触れる面積を大きくすることで乾燥効果が高いと考え、コンテナ内にメッシュ状の直径約10cmのパイプを設置し、温風がチップに接触する面積を大きくした。しかし、チップの含水率はパイプ設置をしても有意な差は認められなかった。さらに、乾燥機からチップを取り出した後に撹拌すると、含水率が低下することが確認できた。木質燃料は形態に関わらず、含水率を下げることが品質上重要である。現段階では、木質燃料の人工乾燥についての研究は少なく、効果的な乾燥方法が確立されていない。今回の実験によって、木材乾燥機を用いた燃料チップの人工乾燥が有効であることが分かった。
  • 澤田 直美, 白石 則彦, 龍原 哲, 中島 徹
    セッションID: T05-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    発電所を中心として地理的な広がりを持つバイオマス燃料収集圏の構造を概念的な円形モデルを用いて整理し、発電規模の拡大が燃料収集圏の姿とその輸送コスト構造に与える影響について考察した。
    発電規模約2万kW・約6千kWのバイオマス発電所を想定し、政府審議会資料および事業者開示資料等に基づき20年間のキャッシュフローを作成し、感度分析によりIRRが6%となる時の燃料上限価格を求めた。また燃料収集圏を発電所を中心とする円形の空間と想定し、面積あたり燃料生産量(燃料密度)を7.6t/k㎡とし燃料生産地点を一様乱数を用いて配置、中心からの距離10km毎の資源帯を設定した。
    結果として約6千kWでは燃料の全てを50km圏内で収集可能であり、各資源帯収支の平均は4,074円/tとなったが、約2万kWでは50km圏内で得られる燃料の量は全体の24%に留まり、収支の平均は1,505円/t、80km圏以遠の資源帯において輸送費が燃料価格を上回った。燃料収支の改善には発電所に近い地点からの収集量を増加させることが有効だが過伐が懸念され限界がある。バイオマス利活用の規模は、森林の保続が確保され利活用システム全体で利益を共有できる最適規模とすることが求められる。
  • 藤原 まや, 岩岡 正博, 松本 武
    セッションID: T05-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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     木質バイオマス利用施設の燃料用チップは,買取価格が決まっていることから,供給コストがこれ以下の場合のみ供給可能となる。供給コストに関する研究は数多く行われているが,それらはチップ生産量を十分に確保できることが前提となっている。しかし,生産量が異なれば,所有機械の稼働率が変化することから,コストにも影響すると考えた。そこで本研究は,生産量がコストに与える影響と,ある買取価格での供給を可能とするのに必要な最小生産量に影響を与える条件とを明らかにすることを目的とした。このために,チッパーと輸送車両はサイズ別に3種類ずつ,チップ化場所は4種類を想定し,これらの各組合せについてコストを算出した。また,損益分岐点となる生産量について,買取価格,輸送距離,軽油価格,作業地面積を条件に感度分析を行った。この結果,生産量が減少すると供給コストは増加すること,最も低コストとなる機械やチップ化場所の組合せも生産量によって異なることが明らかとなった。必要生産量への影響が大きい条件は,買取価格と輸送距離であり,特に買取価格6,000円/m3,輸送距離30kmを堺に,必要生産量の増加量が大きくなることが分かった。
  • Yoshida Mika
    セッションID: T05-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    燃料用木質バイオマス生産は森林経営を資源の有効利用と経済面から支援すると期待されていると同時に、地方における雇用創出など社会的側面からの関心も高い。しかし、燃料用木質バイオマスの生産システムは確立されておらず各工程のコストも不透明で、木質バイオマス利用のシステム構築とコスト分析は喫緊の課題である。チッピングと輸送システムに焦点を絞り、チッピングはチッパの初期投資と生産能力に応じた原料収集能力が、輸送システムはチッパの生産性、チッピング場所と運搬車両の関係が重要であるという知見を得た。一例として、初期投資が異なり、生産性がほぼ同等の二種のチッパを比較した場合、低い初期投資のチッパの方が生産コストは安く、原料が不足したときの生産コストの上昇が緩やかであり、原料収集能力が低い場合は初期投資を低く抑えることが肝要と言えた。また、4tトラックと10tトラックを比べたとき、10tトラックの方が低コストだが、生産性の低いチッパとの組み合わせでは集荷圏は縮小した。今後日本における木質バイオマス生産システムの改善には、生産能力と初期投資の釣り合ったチッパ、チッパの能力を活かせる輸送システムが必須であると言えた。
  • 小島 健一郎, 高野 毅, 由井 正宏
    セッションID: T05-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    現行のFIT制度による発電用のチップ材供給は、本来森林所有者が受け取るべき立木価格へと反映できないような構造となっている。長野県の佐久地域と大北地域の林業団体である「佐久林業連絡会議」ならびに「大北林業創生協議会」では、発電用ではなく熱利用に向けた乾燥チップの生産と供給を事業化すべく、三ヵ年に渡って活動している。両団体で共有しているコンセプトは以下の通り。
     
    ・地域の温泉や旅館、プール、事業所などの温熱利用をバイオマスで代替する
    ・木質ペレットは生産設備が不可欠かつコストが高いため、木質チップとする
    ・生チップ焚きボイラは初期投資が高額のため、乾燥チップ焚きボイラとする
    ・乾燥チップは水分30%w.b.以下、価格20円/kg(到着ベース、税別)を目標とする
    ・チップ供給の受け皿となる株式会社を設立、既存の製紙チップ工場に生産を委託する
    ・受け皿会社はチップの安定供給を担うとともに需要開拓(ボイラ導入診断)を推進する

    本シンポジウムでは、このコンセプトについて説明するとともに、これまで実施した調査や実験についても結果を発表し、乾燥チップ流通のための認識を共有できればと考えている。
T6. 「住まい」を通じた人工林資源の循環的利用の可能性-建築用材による「地材地消」の仕組み作り-
  • 新田 紀敏
    セッションID: T06-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    北海道でも人工林が成熟し、資源を増やす時代が終わった。今後は用途に裏付けられた林業ビジネスモデルを提案し、林業経営者の意欲を高めながら安定して質の高い原木を供給する時代になった。これまでは樹木の性質・材質を理解し、市場を意識した生産目標を持つ山側から考えた森林資源の循環的利用の提案がなかった。量的供給だけでなく、用途を考えた施業ができないか。これまでの知見を結集すれば、2巡目の資源造成では技術的にその段階に近づいていると期待している。カラマツはかつて坑木生産を目標とした短伐期施業として植えられ、当時は優れたビジネスモデルであった。炭鉱の閉山によって行き場を失い、長伐期化が進められたが合板以外に用途拡大はなく、未だ生産目標を持てずにいる。スギ等の心持柱向け短伐期施業は投資の早期回収というメリットがある。技術によりカラマツでも住宅という安定した需要をとらえ、同様の生産目標ができるのではないかと考えた。そこで森林施業により安定的な資源生産を実現し、加工技術によって製品の性能を向上して付加価値を上げ、さらに流通が連携して、地元経済にも貢献する優れた住宅資材として供給される道筋を示す。
  • 滝谷 美香, 八坂 通泰
    セッションID: T06-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    100年近くもの長期にわたる人工林の収穫量を予測することは,森林管理計画の意思決定のための重要な情報を得ることになる。一般的に収穫予測は林分単位で行われるが,局地的な予測値を,生物学的あるいは行政的な地域に集約し,積み上げていくことにより,地域の資源量の予測へとつなげることも可能となる。カラマツは,北海道における重要な人工林資源の一つである。これまでに収集されたカラマツ林分の2,000点近いデータを元に,高齢級林分にも対応した収穫予測システムを作成した。このシステムは,従来の予測方法である林分密度管理図や,収量-密度図の概念を核とし,植栽密度,間伐率,あるいは立地条件などによる個体の成長速度への影響等も考慮した,柔軟な施業計画に対応できるものである。システムに組み入れる成長量のうち,植栽地の地形や気象要因などに影響を受ける樹高成長量について,非線形の成長曲線の一つであるRichards関数にあてはめた。本報告では,作成したカラマツ人工林の収穫予測システムの構成と,道内の地域ごとの地位や立木密度などの違いを考慮し,予測システムを用いて林分単位で径級別収穫量を推定した結果について紹介する。
  • 大野 泰之, 酒井 明香, 津田 高明, 寺澤 和彦
    セッションID: T06-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    針葉樹人工林から搬出される丸太がすべて輸送資材や合板、建築用材などの一般材として扱われるわけではない。末口径が小さく利用径級に満たない丸太や曲りや腐朽などの欠点が著しいものは製紙用などの原料材(パルプ材)として扱われ、一般材と区別される。パルプ材の単価は一般材に比べて低いため、林分から搬出されるパルプ量の大小は収益に大きく影響する。そのため、パルプ丸太出材量を把握することは林業経営において重要である。そこで、北海道のカラマツ人工林を対象に土場におけるパルプ丸太の出現パターンを把握するため、林齢15年~64年の73林分の土場において調査を行い,209,907本の丸太について末口径(D)と材長の測定を行った。一般化線形混合モデル(分布族=ポアソン,リンク関数=log)を用いてパルプ丸太本数(PN)に与えるD、林齢、伐採方法(主伐・間伐)の影響を解析した。得られたモデルの係数を用いて、PNとD、伐採方法との関係を図示した結果、D30cm以下の範囲ではDの増加とともにPNは減少し、それ以降、PNは横ばいで推移した。伐採方法によってもPNが異なり、Dが同じ丸太であれば主伐時に比べて間伐時にPNが増加するパターンが認められた。
  • 津田 高明, 大野 泰之, 酒井 明香
    セッションID: T06-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    人工林資源を持続的に利用するには、長期的な資源管理シナリオの検討から、長期的な出材可能量を予め見通しておく必要がある。一方、資源量など資源循環に関わる因子は地域毎に異なるため、資源管理のシナリオ及び出材可能量は地域毎に検討するのが望ましいが、北海道ではそのような事例は見られない。そこで、北海道でのカラマツ人工林を対象に、中長期的な木材供給可能量を地域別に推計した。
    出材可能量の検討では、地域の区分を振興局(14区分)とし、資源量、林分成長量、伐採性向(最尤法推定による減反率)を基に各地域の森林資源予測モデルを作成した。また、年間の計画伐採量を3段階設定し、各伐採量を50年間実施した際の人工林蓄積及び径級別の出材可能量を推定した。
    解析の結果、現行の伐採量を維持した場合、地域別では資源量が減少する振興局がみられるものの、全道的には資源量を維持できると予測された。径級別の出材可能量は、現在の利用径級である末口径14~22cmの原木生産量は減少するものの、一定量は供給可能と予測された。一方、末口径24cm以上の原木生産量は増加し、15年後には末口径14~22cmの原木生産量を超える可能性が示された。
  • 大橋 義徳
    セッションID: T06-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    北海道内の木材全体の自給率は50%を超えているが,パルプや産業資材等の低位利用が主体であり,加工度と付加価値の高い建築材の利用は少なく,建築用材の自給率は2割程度にとどまる。その背景には,主要造林木であるカラマツやトドマツの樹種特性,人工林材特有の未成熟材の材質特性,高断熱高気密住宅の低湿度な室内環境,梱包材や羽柄材主体の製材品目と生産体制など,本州とは異なる様々な要因がある。しかしながら,近年の国産材需要の高まりや長期優良住宅・公共建築物等の推進により,北海道でも地域材を用いた建築材のニーズが高まっている。素材生産の主力であるカラマツ人工林材を建築材として利用拡大していくためには,未成熟材部のねじれや材質変動の克服が大きな課題であったが,製材乾燥技術や積層加工技術の進展により,品質や性能に優れたカラマツ建築材の供給が実現しつつある。また,これらの新しい生産技術の展開によって,人工林資源の成熟化に伴い供給量が増えている大径材の用途開拓と価値向上の可能性も広がっている。持続可能な林業経営,木材産業の振興,地域材を活用した木造建築の促進につながるカラマツ材の新しい加工技術を紹介する。
  • 植松 武是
    セッションID: T06-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    一般的な木造住宅の躯体としては,土台,柱,横架材(梁など),床組,小屋組,壁(構造用面材や筋かいなどを含む)が挙げられる。これら木造住宅の構造部材は,単一の木質建築材で成り立っている部材もあれば,複数の木質建築材で構成される部材もある。このような木造住宅の躯体に,品質の安定と,強度性能の向上等を図った高性能な建築材を使うことで,木造住宅の性能はどう変わるのか,また,木造住宅にどのようなバリエーションが生まれるのか。ここでは,木造住宅における躯体への要求性能を軸に,付加価値が高く,高性能な地域木質建築材の木造住宅への活用方法と,活用・普及へ向けての課題を考える。
  • 酒井 明香, 津田 高明, 大野 泰之
    セッションID: T06-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    地域材を活用した木造住宅の普及に向け、相対取引・直送方式が主流の北海道における“建築用途向け原木の安価で迅速な生産・流通”を目標に,機械作業システムの見直しと実証可能性調査を実施した。システムの改善点は「ハーベスタを(枝払い・玉切り工程に限定せず)伐倒工程にも使用」,「集材工程にフォワーダを導入するか,巻立て用グラップルローダで兼務」「リースや自社有の機械を活用」の3点である。ハーベスタとグラップルローダの2台2名体制など計3種類のシステムを、間伐・主伐の各試験区で実施し、伐倒・枝払い・集材・玉切り・巻立て・選木の6工程についてデジタルビデオ撮影により時間要素分析を行った。結果,平成23年度林野庁素材生産費調査における北海道の平均値と比較し、主伐で1.3~2倍,間伐で3~3.6倍の労働生産性となり、生産時間の短縮が図れた。原木生産コストは2~4割低減した。運材車をタイミング良く配置することが条件となるが、将来的に地域材のサプライチェーン・マネジメントを目指す上で,直送方式の今後の可能性が示唆された。
  • 石川 佳生
    セッションID: T06-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    木材産業における国産材の流通構造は、小規模かつ多段階であることから、安定供給やコスト低減が困難な状況となっており、特に建築用材の流通は、多くの業態が中間に介在している。一方、北海道の主要な人工林資源であるカラマツは、そのほとんどが梱包材やパレット材等の産業用資材として利用されており、建築用材としての利用は、集成材原板を含めても16%程度である。本研究では、カラマツ資源の新たな用途開拓と外国産材からのシェア奪還を目的とし、道産材を建築用材として使用するための“新たな流通システム”について検討した。北海道内の豊富な森林資源を有する地域から、一般住宅の大消費地である都市部へ高品質な建築用材を効率的に供給する仕組みとして、各地域の中核となる製材工場が川上から川下までの連携を図るためのモデルを設定した。モデル地域において、素材生産業者と製材工場間、あるいは製材工場と工務店間における需給バランスのミスマッチを解消するための情報共有化システムとなる“木材トレーサビリティシステム”と、受発注の管理を行う“木材受発注管理システム”の検証結果および実用化に向けた展開について報告する。
  • 古俣 寛隆
    セッションID: T06-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    北海道における道産材自給率は55.7% (平成24年度) となっており、この10年で15%増加したが、これは主に輸入材供給量の減少によるものである。現状、道産木材の用途はパルプ・チップや輸送資材が中心であり、今後はより付加価値の期待できる建築用材の生産を拡大させることで道産材自給率の向上を目指す必要がある。これまで、建築用材の道産材自給率については詳細な検討が行われておらず、今後の需要目標を設定する上でも現状の自給率の推計が必要である。一方、地域材利用推進への期待の一つに「地域経済効果」が挙げられている。これについては、イベントの実施や土木・建設など、主に公共投資を対象とした推計事例が数多く報告されているが、地域材を対象とした推計事例はほとんど見られない。地域材利用のPRのために、木材業界や行政からその数値的根拠が求められている。本研究では、北海道における建築用材の道産材自給率を算出し、地域材の利用が地域にもたらす経済効果を定量的に明らかにするため、産業連関分析を用いて建築用材の道産材自給率が向上した場合の経済波及効果を推計した。
T7. 樹木の大量枯死現象が森林生態系に与える影響
  • 深澤 遊
    セッションID: T07-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
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    人間による輸送のグローバル化に伴い、移入病虫害による樹木の大量枯死が世界中で頻発している。枯死木は多種の生物の住み場所となり、森林の生物多様性維持に重要な役割を果たすことが知られているが、病虫害による枯死木では、その原因となる病原菌や無脊椎動物により直接的・間接的に内部の菌類群集が、ひいては枯死木の分解過程や枯死木に定着する生物の種組成が影響を受ける可能性がある。本発表では、マツ枯れにより枯死したアカマツ倒木内部の菌類群集がどういった要因により規定されているのか、そして菌類群集を反映した分解過程の違いが、倒木上に定着する樹木実生の種組成にどのような影響を与えているのか、研究事例を紹介するとともに、病虫害による枯死木が森林の更新動態に与える影響について概観する。
  • 勝山 正則
    セッションID: T07-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    滋賀県南部に位置する桐生水文試験地において、1990年以降、渓流水・地下水水質の観測を継続している。同試験地の一つの支流域では1980年代後半から1990年代前半にかけてマツ枯れが発生し、1994年頃に台風により立ち枯れ木の風倒被害が発生した。その結果、渓流水中のNO3-濃度が上昇し、1997年から98年にかけて濃度ピークを迎えた。その後、濃度は低下していき、2005年には攪乱前の濃度まで低下した。しかしそれ以降、低濃度が維持されることはなく、また特に最近の5年間を見ると徐々に再上昇している。このように、一度の攪乱発生からの回復に非常に時間がかかる現象を渓流水の滞留時間分布の観点から見ると、渓流水には滞留時間が10年を超えるような流出成分も寄与していることが影響しているものと考えられた。すなわち、樹木の枯死・分解のサイクルに加えて、流域内の水移動・流出プロセスに伴う物質輸送を考えることが、攪乱の影響を解釈する上で重要である。森林のライフタイムは非常に長いことから、必然的に長期観測研究が重要となる。
  • 森本 淳子, 森本 未星, 中村 太士
    セッションID: T07-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    森林に大規模な風倒地が発生すると、先進国では、風倒木の収穫・除去が行われ、その後、地拵と造林木の植栽が行われてきた。これら一連の施業が、風倒木を残置した場合と比べ、初期の森林更新を遅らせる事実がモンスーンアジアで初めて実証された事例を報告する。2004年の台風18号で全壊したトドマツ高齢人工林で、2008年から4つの処理区(A: 風倒木残置/ B: 収穫・除去・地拵・ミズナラ植栽・除草無し/ C: 収穫・除去・地拵・ミズナラ植栽・除草/ D: 残渣列)を設けて、環境(土壌硬度、光環境、地表被覆物の被度、CWD、土壌CN含有率)と植生(植物種とその被度)を3年間モニタリングした。再生の目標となる針広混交林の植生調査も行った。その結果、Aでは高木類やシダ類を中心とした多様な種組成となり、前生植物の繁茂が主体のため種組成に大きな年次変化はなかった。BCは、陽性の草本類、外来種草本類、カンバ・ヤナギ類が順に優占したため、種組成は大きく年次変化した。DはCWD に保護された前生植物が一部生残し、AとBCの中間的な種組成となった。目標像との比較の結果、従来の施業(BCD)は、風倒木を残置した場合(A)に比べ植生回復に時間を要すると予想された。
  • 鈴木 智之
    セッションID: T07-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    稀に起こる大規模な風倒は、一度に大量の倒木を発生させる。壊滅的な風倒であれば、地上部現存量のほぼ全量が倒木として林床に供給される。倒木の幹は分解には非常に長い時間がかかり、粗大木質リター(Coarse Woody Debris, CWD)として森林の炭素蓄積に寄与する。特に、分解の遅い寒冷地では、風倒後の地上部の回復速度よりもCWDの分解速度の方が遅いため、地上部がある程度回復すると森林の炭素蓄積量は風倒前よりも高くなる可能性もある。本発表では、大規模風倒とさらにその後の風倒木の搬出(salvage logging)が森林の炭素蓄積に与える影響について概観し、特に1959年の伊勢湾台風による大規模風倒地における研究例を紹介する。
  • 小林 真
    セッションID: T07-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    樹木の大量枯死現象は生態系内に大量のリターを供給し、リターに関連する物質循環へ影響を及ぼす。北方林では、樹木を大量に枯死させる主な要因は山火事である。一方、山火事はただ樹木を枯死させるだけではなく、燃焼および炭化を通じてリターの性質を変化させるという特徴を持つ。演者らの研究から、炭化により多孔質?高CN比となった木質リター(木炭)は、土壌中の無機態窒素やリンの動態、土壌からの温室効果ガスの放出に対し大きな影響を及ぼす事がわかった。さらに木炭による養分動態への変化は、それらを成長に利用する樹木の成長?更新へ影響することも示された。近年、Afterlife (枯死後)の樹木の多様性が物質循環へ及ぼす影響の重要性が注目されている。山火事により森林内に新たな性質を持ったリターが大量に生み出されることは、森林生態系に存在するAfterlifeの樹木の多様性を増加させ、環境の不均一化を通じて北方林の構造の複雑にしているかもしれない。発表の最後には、近年の温暖化に伴い北方林で拡大している虫害と山火事が同所で発生した際に炭素循環が受ける影響についての研究を紹介し、複数の大量枯死現象間の相互作用についても議論したい。
  • 野口 麻穂子, 吉田 俊也
    セッションID: T07-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    木材収穫時の伐採にともなう樹木の枯死は、発生した枯死木の大部分が森林生態系外に持ち出される点で、自然攪乱による枯死と大きく異なる。木材生産のための施業が行なわれている森林において、無施業林と比較して林内に存在する枯死木の量が少なくなることは世界各地の森林で広く知られており、伐採にともなう持ち出しはその大きな要因のひとつと考えられる。そして、施業の影響による枯死木の減少が、資源や営巣場所として枯死木を利用する生物群の減少につながった事例も報告されている。我々の研究では、北海道の針広混交林において、択伐が枯死木を介して樹木の更新に及ぼす影響を調べた。その結果、過去の択伐の強度が大きい林分で、枯死木の量が少ない傾向がみられた。そして、主要樹種のうち実生の定着適地を倒木に強く依存するアカエゾマツの稚幼樹の密度は、択伐の強度が大きい林分ほど低いことが明らかになった。この結果から、森林生態系に対するインパクトが比較的少ないと考えられてきた択伐においても、枯死木が減少することにより自然攪乱の場合とは異なる更新・回復の過程をたどる可能性が示唆された。
  • 福島 慶太郎, 徳地 直子, 吉岡 崇仁
    セッションID: T07-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    現在人工林では手入れ不足状態の改善のため,様々な方法で伐採が進められている。切り捨てが主体だった間伐は,バイオマス資源の有効活用という観点から,幹を搬出する全幹集材や,枝葉もつけたまま搬出する全木集材が行われるようになってきた。一般に森林が伐採されると,植物の養分吸収の停止や土壌有機物分解の促進により,土壌から渓流へ養分元素の流出が報告されている。加えて,伐採木や枝条の持ち出しは,土壌への養分還元量の減少を招くだけでなく,有機物をエネルギーとした土壌微生物による窒素無機化プロセスにも影響を与えると考えられる。本研究では伐採木や林地残材の取り扱い方の違いが,土壌の養分動態・養分流出に与える影響について欧米や日本の研究事例を整理し,土壌からの養分流出を最小限にする人工林施業方法について検討した。その結果,土壌窒素動態への影響として,伐採残渣が多いほど硝酸生成が抑制され,伐採直後の窒素流出の抑制に寄与する傾向が示されたが,その影響は1年前後と短く,効果は限定的であった。渓流への養分流出は,間伐量が同等の場合,伐採残渣の取り扱い方法よりも伐採木の空間配置に強く規定されることが分かった。
T8. 今後の再造林に向けたコンテナ苗研究の現在
  • 田中 浩, 重永 英年, 陣川 雅樹, 鹿又 秀聡, 宇都木 玄
    セッションID: T08-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    間伐一辺倒であった林業の世界で、皆伐とその後の再造林が大きな問題として浮上してきた。低コスト再造林のために、伐採から植栽までの「一貫作業システム」が提案され、その中では、「植栽時期を選ばず」、また「植栽効率の良い」コンテナ苗の活用が求められている。これを受けて、国有林を中心に、コンテナ苗の生産、植栽に向けた動きが急速に進み、コンテナ苗が従来の普通苗に比べて、活着・植栽効率・成長のすべての面で優れているという半ば「神話」に近い説も一部には生まれてきた。しかし、コンテナ苗の様々な林地でのパフォーマンスについては、いまだ正負の情報が錯綜している。一方、徐々に生産や植栽の事例研究、生理生態的研究も進められてきた。かつて一時のブームで終わった林業でのポット苗生産と同じ轍を踏まぬためにも、コンテナ苗について、科学的なデータにもとづいたメリット、デメリットについての冷静な議論が必要である。できれば、そのメリットを生かす方向での研究開発につなげたい。本講演では、現在のコンテナ苗ブーム(?)にいたる歴史と現状を概観し、コンテナ苗研究が取り組むべき今後の課題について整理し、シンポジウムの導入としたい。
  • 松田 修, 原 真司, 飛田 博順, 矢崎 健一, 中川 敏法, 清水 邦義, 上村 章, 宇都木 玄
    セッションID: T08-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    スギ・ヒノキ成熟林の皆伐および再造林は、わが国の林業施策において喫緊の課題である。これらの樹種では、種子発芽率が概して低いことが、低コストかつ省力的な苗木生産を阻んできた。不稔種子の多くは、成熟胚を欠いたシイナや、黒褐色のタンニン様物質を高蓄積するシブダネから構成されるが、特に後者は、外観に加えて粒大や比重など、簡易計測が可能な特性が、発芽可能な充実種子と酷似している。発表者らは、充実・不稔種子における内容物の違いに着目し、化学組成に対して鋭敏に応答する短波長赤外域における分光特性に基づき、充実種子を特異的に選別する手法を開発した。充実種子では貯蔵脂質の蓄積を反映して、脂質吸収帯における反射率が、隣接波長帯における反射率よりも著しく低下していた。反射スペクトルにおけるこのような“窪み”を、3つの狭帯域における反射率をもとに数値指標化することにより、充実種子のみから成る種子ロットを再構成し得ることを実証した。しかしながら、充実種子であることは、必ずしも発芽可能であることを意味しない。効率的な発芽誘導法を併せて開発することにより、一粒播種による半自動的な苗木生産を実現したいと考えている。
  • 杉原 由加子, 丹下 健
    セッションID: T08-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    スギコンテナ苗の成長を規定する要因を明らかにする目的で、コンテナ容量(150ml、390ml)や育苗期間(5~18カ月)が異なるスギコンテナ苗(実生4種、挿し木2種)について、形状比やT/R率などの形質測定、苗畑での試験植栽(8/18~9/3)、植栽初期の吸水能の指標として蒸散速度測定、植栽後の根の成長量測定を行った。実生由来のコンテナ苗では、コンテナ容量が同じ場合、苗高が高いほど形状比やT/R率、細根乾重量に対する地上部乾重量比(T/FR率)が大きい傾向にあった。挿し穂由来のコンテナ苗は、実生由来に比べて同じ苗高の場合の形状比が小さく、T/FR率が大きい傾向にあった。T/FR率が大きいほど植栽当初の蒸散速度が低い傾向が認められ、植栽当初の蒸散速度が低いほど、地上部乾重量あたりの植栽後の根伸長量が小さい傾向が認められた。コンテナ苗は、葉量に比べて根量が少ない形態になりやすいが、そのことが植栽後の伸長成長が抑制される一因であることが示唆された。下刈り期間の短縮を図る造林方法として秋植えを行う場合、来春までに葉量に見合った根量となることが必要であり、T/FR率の小さいコンテナ苗を用いることが有効と考えられた。
  • 三樹 陽一郎
    セッションID: T08-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    Mスターコンテナは、ポリエチレン製の育苗シートを丸めて育苗容器にするもので、特徴の一つに、海苔巻き方式(育苗シートに培地と幼苗の根系部分を載せて海苔巻き状に包み込む方法)による移植が可能で、根が損傷しにくいことがある。しかしながら、1本ずつ作業を行う必要があり、実用的に有効であるかはこれまで不明であった。一方、宮崎県川南町のH農園は、秋に箱挿しし、翌春に発根した幼苗をMスターコンテナへ移植する方法でコンテナ苗を生産しており、2014年からは海苔巻き方式による移植を試みている。このため、同農園の事例調査を行い、コンテナ苗生産における海苔巻き方式の作業性などを検証した。その結果、①2013年まで行っていた移植方法(コンテナの組立て、培地の充填、植付けの各作業を別々に行う方法)と比べて作業時間に差はなかった②挿し床で根が伸長しても切戻す必要がないため、移植期間を延長することができ、育苗スケジュールが立てやすくなった③移植後、根が良好に伸長した苗と未発達の苗を区分することにより、成長が均一となり、効率的な出荷作業が可能になった、ことから実用生産において導入可能な移植方式であることが示唆された。
  • 角田 真一, 坂田 益朗, 井上 純大, 原 真司
    セッションID: T08-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    国内の植林用苗木は、国産材需要の高まりとともにその需要が増大しているが、苗木供給体制は苗木生産者の減少・高齢化により、苗木不足の問題が顕在化している。当社では、この問題に対処すべく宮崎県において施設及び育苗コンテナを利用したスギ挿し木苗の大量生産事業を開始した。従来、スギの挿し木苗生産は、採穂、穗の調整、挿し木等、労働集約的な作業が主に春先に集中するため、大量生産のためには作業の分散化・効率化が必要である。本研究では、発根性の良い穂を長期貯蔵し、高温期等挿し木が難しい時期の挿し木に利用できるか検証した。その結果、挿し穂は低温・密封条件下であれば半年以上貯蔵できること、一方、高温期の挿し木試験では枯死が発生したが、採穂時期により発根率に差があることを確認した。一方、秋に露地に挿し木した穂を夏場にコンテナへ床替えした場合は、高温期でも95%以上の高い発根率を示した。今後、発根性の高い穂について生理的側面から調査を行い、発根率を高める方法や、挿し木の周年生産技術を検討していく。
  • 来田 和人, 今 博計, 石塚 航
    セッションID: T08-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道における従来のカラマツ裸苗の育苗期間は2年であるが、コンテナ苗では1年生幼苗を移植しコンテナで2年、合計3年をかけて育苗しているためコスト高となっている。そこで北海道林試では、直接播種により1年で出荷可能なカラマツコンテナ苗木の育苗技術を確立することを目的に育苗試験や植栽試験を行っている。本研究では、1年生播種コンテナ苗の植栽ストレスに対する応答を調べ、同苗の有用性と植栽可能な時期を明らかにすることを目的とした。2013年春に6種類のコンテナで育苗した1年生播種カラマツコンテナ苗と裸苗を用いて、北海道三笠市で植栽試験を実施した。2014年5月に各苗木50本ずつ植栽し、毎月、樹高と根元径を測定するとともに6月、8月、10月に苗木を掘り取り、部位別に乾燥重量を測定した。また1種類のコンテナ苗木を対象に5月~10月にかけて毎月植栽を行い、同様の調査を実施した。解析の結果、コンテナ苗は裸苗よりも植栽当年から年間成長量が高く、植栽後1か月の根の成長率と同化器官/非同化器官比が高いことがその理由として示唆された。一方、葉の展開が盛んな7月植栽では生存率が低く、その原因として乾燥ストレスが考えられた。
  • 八木橋 勉, 櫃間 岳, 松尾 亨, 小西 光次, 中原 健一, 那須野 俊, 野口 麻穂子, 八木 貴信, 齋藤 智之, 柴田 銃江, 中 ...
    セッションID: T08-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    スギ(Cryptomeria japonica)のコンテナ苗が,東北地方の厳しい気候下で良好な成長ができるのか,また徒長気味に見えるコンテナ苗でも良好な成長をするのかを確かめるため,最大積雪深が1m前後である岩手県と宮城県の2調査地において,成長量の調査を行った。コンテナ苗と裸苗の樹高と地際直径を植栽後3または4成長期に渡って計測して比較した。その結果,岩手県の調査地では,コンテナ苗の方が裸苗よりも樹高,直径成長ともに早かったが,宮城県の調査地では裸苗の方が初期成長が早かった。両調査地の環境の違いによる影響も考えられるが,植栽されたコンテナ苗の形状比に大きな違いがあり,これが植栽後の成長に影響したものと考えられた。このため,コンテナ苗は東北地方でも良好な成長が可能であるが,そのためには,植栽時の形状比を低く保つ必要があることが示唆された。最適な形状比は環境の違いによって異なる可能性があるため,今後より多くの事例を解析する必要がある。
  • 渡邉 仁志, 三村 晴彦, 茂木 靖和, 千村 知博
    セッションID: T08-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    コンテナ苗による省力造林の可能性を検討するため,岐阜県下呂市の斜面傾斜が異なる地拵え後の皆伐地において,マルチキャビティコンテナ(JFA-300)で育苗したヒノキ・コンテナ苗と普通苗(いずれも2年生実生苗)の植栽功程,活着率,初期成長を比較した。
     植栽効率は急傾斜地(斜面傾斜40°)において普通苗>コンテナ苗,緩傾斜地(同11°)において普通苗=コンテナ苗であった。斜面傾斜の緩急によらず,コンテナ苗の植栽効率は普通苗のそれに比べて向上しなかった。コンテナ苗は両調査地ともに植え穴掘りに時間を要した。急傾斜地ではコンテナ苗の根鉢に対応する深い穴の掘削が困難で,緩傾斜地でも調査地の土壌条件(土層深,土性,石礫量)が影響したと考えられた。一方,活着率はコンテナ苗に比べ普通苗で低かった。コンテナ苗では根鉢により植栽前のストレスが緩和された可能性がある。植栽初期の成長量は,同じ傾斜の調査地間で比較すると,樹高,根元直径ともにコンテナ苗の方が大きかった。コンテナ苗の培地中に残存する肥料成分が,植栽後の苗木の初期成長に効果的だった可能性がある。
  • 諏訪 錬平, 奥田 史郎, 山下 直子, 大原 偉樹, 奥田 裕規, 池田 則男, 矢野 宣和
    セッションID: T08-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    森林総合研究所関西支所では、近畿・中国地方に多くみられるヒノキ人工林を対象に、再造林の低コスト化の研究を行っている。その一環として、近畿中国森林 管理局森林技術・支援センターと共同で、岡山県の国有林において季節別(夏・秋・春)に植栽されたコンテナ苗と普通苗の活着・成長を調べている。また、関西支所 実験林では、各苗タイプの生理特性解明を目的に、光合成特性と根成長を調べている。
    国有林において、コンテナ苗が普通苗と同程度あるいは高い活着・樹高成長を示した。特に夏季植栽ではコンテナ苗の活着・樹高成長が高かった。関西支所実験 林において、植栽後に葉のクロロフィルは普通苗では減少したがコンテナ苗では増加した。クロロフィル蛍光反応の測定では、コンテナ苗は光阻害の程度が低 く、光化学反応に流れるエネルギーが高かった。根の観測のため、2014年春に埋設したアクリル箱の検査面に出現した根の全伸長量をスキャナで毎月 記録して成長指標とした。樹高成長は10月に鈍化したが、根成長は12月において継続している。コンテナ苗の根の初期成長が比較的良かったが、移植による 根の損傷がコンテナ苗においては軽減されるからかもしれない。
  • 渡辺 直史, 藤本 浩平, 山﨑 真
    セッションID: T08-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    再造林の低コスト化のために伐採から植栽までの「一貫作業システム」が車両系システムにおいて提案されている。急傾斜地では架線系システムとなるため、急傾斜地における「一貫作業システム」導入を目的に、架線による苗木の運搬効率および運搬後の苗木の長期保管を想定してコンテナ苗を林地で保管後に植栽した時の健全度を調査した。運搬には荷下ろし場所の自由度が高いH型架線を採用し、作業性や運搬時の根鉢の変形回避等を考慮してスチール製の籠を使用した。苗木の保管期間は7日から28日とし、植栽地と皆伐地周囲の林内に苗木を置き、乾燥しないように枝条で苗木を被覆した。水平距離299m、標高差120mの上げ荷運搬に要した時間は、人力(300ccコンテナ苗40本)32分6秒、架線(300ccコンテナ苗120本:3人作業)13分36秒で、架線は人力の42%の時間であった。林地での苗木小運搬は距離が47m以下では架線よりも人力の方が速かった。植栽苗木の健全度は、運搬直後の植栽では健全78%、衰弱11%、枯死11%であったが、保管後の苗木では林内14日保管と植栽地28日保管でそれぞれ1%の衰弱木があった他は全て健全であった。
  • 鹿又 秀聡, 田村 和也, 都築 伸行
    セッションID: T08-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    国産材供給量は、2002年の1608万m3を底に増加傾向で推移し、2012年には1969万m3まで回復した。国産材需要の増加を大きく牽引した大型製材工場の建設は今なお各地で進んでおり、木材のバイオマス利用の増加を考慮すれば、しばらくは増加傾向が続くと考えられる。供給の面から言えば、人工林資源の成熟に伴い、今後は間伐から皆伐が増加すると予想されている。森林資源を循環利用していくためには再造林が不可欠であり、苗木供給についても増産体制を構築することが重要である。筆者らは47都道府県の県庁及び林業用種苗組合(県苗組)を対象に苗木の安定供給体制構築に向けた課題、近年注目されているコンテナ苗に対する供給者側の動向等について聞き取り調査を始めた。中間報告の段階であるが、これまでに、1)苗木生産業者の減少・高齢化が急速に進んでいること、2)苗木の需給調整が十分機能していないこと、3)コンテナ苗の生産が一部地域を除き停滞している実態、が明らかになった。尚、本研究は(独)農研機構生研センターの「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)の予算による成果である。
T9. ブナの豊凶が何かおかしい? -全国のブナ林からの報告-
  • 八坂 通泰
    セッションID: T09-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    企画シンポの趣旨説明として、マスティング研究における豊凶パターンの変化について以下のような点から整理する。数万年という長い歴史の中で、森林植生は変動する気候に対応して移動してきた。一方、マスティングに関する研究では、長くても数十年のデータから、その至近要因や適応的意義が議論されてきた。激しい気候変動の中を生き抜いてきた樹木の歴史において、数十年のデータで認知できる豊凶パターンの変化は、マスティング研究の中で、どのように理解するべきだろうか?植生移動の駆動力となる種子の生産散布プロセスには、変動する気候に対応するために、我々が想像するよりも遙かに巧妙な仕組みを備えているのかもしれない。豊凶パターンの変化の認知は、豊凶データが長期整備されたことを意味し、より幅広い気象条件のもとで、マスティングと気象要因との関係についての再考を可能にする。一方、苗木生産、花粉症対策や野生動物管理などの分野においては豊凶予測が試みられている。予測という応用面においては、十年単位のデータに基づく豊凶パターンの変化は、現在実施されている1年先の豊凶予測だけでなく、より長期のトレンド予測の必要性を示唆する。
  • 寺田 文子, 八坂 通泰
    セッションID: T09-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    道総研林業試験場道南支場では24年間、北海道南西部(道南地域)の6地点でブナの開花結実のモニタリング調査を行ってきた。ブナは数年に一度、広い範囲で豊作となることが知られている。道南地域では1990年~2002年の調査で約5年の周期で地域的な大豊作になることが明らかになっていた。しかし,長年の調査でその周期が当てはまらないことが分かってきた。本研究では,24年間で開花量、結実、作柄にどのような変化が起こってきたか報告する。豊作の第一の条件となる開花量に注目すると、2002年以前(前半)とそれ以降(後半)で異なる傾向が示された。開花量に影響を与える条件をGLMMで解析したところ、前年の春(4月下旬~5月上旬)の最低気温と夏の最高気温が選択されたが、春の気温の影響は前半のマイナスから後半はプラスに転じていた。また、春の最低気温を見ると「咲かない条件」となる平年差1度以上という年が殆どなかった。豊作になるには、虫害率を低下させるために開花量の前年比が大きいことが必要になるが、後半に豊作がないのは開花量の差を生じさせる気象条件が整わないことが原因の一つになっていると推察される。
  • 小山 浩正, 佐藤 充
    セッションID: T09-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    ブナには著しい豊凶性があり、それが天然更新を促す補助作業のタイミングや苗木生産のための堅果の採取を困難にしてきた(演者らは、北海道で開発された「豊凶予測手法」を改良して山形県版の手法を開発している)。従来のブナの豊凶に関わる知見では、1)豊作のインターバルは概ね5年程度で、かつ2)それが広い範囲で同調するとされていた。ところが、山形県庄内地方において、1992年から20年以上にわたる結実調査を行った結果では、1995年、2000年、2005年と、確かに5年間隔の豊作が観察されていたが、それ以降はおよそ10年にわたり豊作が観察されなかった(ただし、その間に複数回の並作が確認されていた)。また、地域的同調性についても、県内の19林分で調べた結果からは、2010年以降は豊作と場所と凶作が地域間で分かれる傾向がみとめられる。このため、豊凶予測も地域ごとに実施する必要がでている。また、ツキノワグマの人里への出没にも地域差が出ている可能性がある。このように、近年の山形県では豊作の間隔は長期化する傾向と地域でばらつく傾向がある。ただし、2014年秋における冬芽調査の結果によると、2015年秋の庄内地方は豊作になりそうである。
  • 小谷 二郎
    セッションID: T09-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    白山周辺地域でのブナ堅果の豊凶推移を15年間調査し、気象条件が堅果の品質や豊凶に与える影響を考察した。1999年(3箇所は2001年)に、林内に1m×1mのトラップを5個設置し、開花時期から秋まで堅果(雌花)を回収し仕分けし、雌花と堅果の個数をカウントした。1981年から2014年までの34年間に白山地域では5回豊作が訪れ、約7年に1度豊作年が訪れているということになる。ここ15年間では、2005年と2011年(一部2009年)の2回でやはり7年に1度という計算になる。15年間での健全率・虫害率・受粉失敗率に与える気象条件の影響をみるために、4~9月までの平均気温・降水量・日照時間について重回帰分析を行ったところ、平均気温においてのみ関係がみられた。健全率では6月が正、虫害率では6月と9月が負で8月が正、受粉失敗率では4月が正の影響を与えた。受粉期は低温、杯の発達初期は高温で成熟期は低温の環境条件ほど堅果の品質を向上させるがことが示唆された。また、1981年から2014年までの豊凶に対する気象条件でも4月の平均気温が低いほど豊作になりやすい傾向がみられた。以上のことから、堅果の豊凶と品質向上に対し受粉期の気温が重要と考えらえた。
  • 星崎 和彦, 安倍 一博, 松下 通也, 野口 麻穂子, 柴田 銃江, 星野 大介, 高橋 和規, 大住 克博, 鈴木 和次郎, 正木 隆
    セッションID: T09-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    岩手県奥羽山系にあるカヌマ沢渓畔林試験地では、1988年から1haのコア部分において、継続して種子トラップによる樹木の開花・結実を群集レベルでモニタリングしている。現在までに延べ3000基近いトラップを設置し、調査努力量にして約17,000トラップ・月を費やしてきた。今回はこのうち、現在の調査体制の基礎が完成した1990年以降をコンパイルした繁殖器官データ(12万行のレコード、計240万個)を解析した。期間全体で43種145万個の雌性繁殖器官が捕捉された。全期間通じて設置された60基のトラップで年変動を解析したところ、1990、1995、2000、2003、2005、2008、2011の各年には主要樹種の多くで豊作レベルの結実が生じており(ブナの豊作は90、95、00、05、11年)、群集内で豊作が同調する傾向が明瞭であった。発表ではそのほか、各樹種の繁殖努力の経年傾向についても報告する予定である。
T10. 天然更新施業による保続的木材生産の可能性
  • 尾張 敏章, 後藤 晋
    セッションID: T10-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    東京大学北海道演習林では1958年以降,林分施業法に基づく事業的規模の天然林施業を行っている。更新補助作業の必要性は林分施業法の開始当初から認知され,これまでに様々な方法で作業が実践されてきた。本報告では,林分施業法における更新補助作業の変遷とその成果を振り返り,今後の技術開発の方向性について検討する。1958年編成の第8期施業案では,単木~小面積規模の補助造林作業(伐根周囲や孔状地等への植栽)が計画された。しかし,労働力の減少や賃金の高騰によって,補助造林の実行面積は縮小された。1983年には風害地復旧対策として,重機地がきによる天然更新促進作業が導入された。しかし,針葉樹の天然更新が少なかったため,1996年以降は地がきと針葉樹の低密度植栽とを組み合わせて行い,早期の針広混交林化を図っている。2005~2009年には帯状皆伐による更新促進施業を試験的に導入した。また最近では,択伐施業の選木時に記録した収穫木の樹種と径級,位置座標をもとに植栽に適した伐根の位置を特定し,小型クローラ運搬車を用いてポット大苗を運搬し,地拵えせずに伐根周囲に植栽する更新補助作業システムの技術開発を進めている。
  • 山崎 遥, 吉田 俊也
    セッションID: T10-02
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道の森林では重機を用いた更新補助作業(掻き起こし)が広く行われてきた。施工後に多く成林するカンバ類の中で、ウダイカンバはとくに経済的価値が高く、持続的な資源管理が求められている。ウダイカンバは埋土種子を形成するため、表土を多く残す作業が有効と考えられたことから、本研究では、表土の残し方を変えた複数の施工地(1-2年および4-5年生、北大天塩研究林)において実生の発生および定着に及ぼす要因を明らかにした。その結果、表土を多く残す更新補助作業がウダイカンバの発生・定着に及ぼす得失は、土壌(とりわけ含水率)や周囲植生の条件で変化することが明らかになった。埋土種子起源のウダイカンバ発生数には、表土を多く残した直接の効果は認められなかった。一方、成長には顕著な改善が見られたが、表土を多く残すことは他の植生の発達にもつながり、それらが強い競争環境をもたらすことが見積もられた。結果をもとに、いくつかの初期条件を仮定した動態シミュレーションを行い、作業コストを含めた費用対効果の観点から代替的な作業が有利となる条件を整理した。
  • 倉本 惠生, 飯田 滋生, 津山 幾太郎, 関 剛, 石橋 聰, 南 達彦, 友田 敦, 横山 誠二, 真庭 利明, 藤岡 裕之
    セッションID: T10-03
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道の天然林択伐施業では伐採後にササが繁茂し更新が阻害されるため、伐採を繰り返して疎林化・無立木地化した箇所では、ブルドーザーの排土板・装着レーキでササを広範囲にはぎとる「かき起こし」と呼ばれる地表処理作業が従来行われてきた。従来方法ではカンバ類の一斉林が更新するため、天然林本来の多様な樹種の更新を促す作業方法が望まれる。そこで、新たな方法として、伐採木伐根周囲のササを油圧ショベルで掘り取って除去する「小面積樹冠下地がき」(地がき)と、油圧ショベルで伐根を転倒させて風倒木の根株周辺の状態を模倣する「人工根返し」(根返し)を考案し、実証試験を行った。実証試験は、北海道北部の朝日天然林施業試験地で行い、初回の択伐翌年の2009年夏に地表処理作業を各処理10箇所実施し、作業5年後の2014年まで毎年9月に更新状況の調査を行った。作業5年後までに、地表処理を実施しなかった箇所でササが著しく増加したのに対し、地がき・根返しとも更新面にはササはほとんど進入していなかった。更新面には上木構成樹種のほとんどが更新し、カンバ類の優占はみられず、従来方法と遜色ない密度の更新が認められた。
  • 櫃間 岳, 森澤 猛, 八木橋 勉
    セッションID: T10-04
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     天然更新施業には、林床の稚樹バンク(高密度の稚樹群)形成が重要であることが近年明らかになってきた。稚樹バンクを形成するヒバ稚樹の生態を明らかにするため、樹形と側枝の性質を調べた。
     ヒバ稚樹の樹形は、明所では一般的な円錐形、暗所では主軸より側枝の頂端が高く伸びることで形成されるボウル形を示した。ヒバの側枝は比較的暗所でも枯れ上がらず枝下高が低く、樹冠上部まで上向きに湾曲して伸び上がり樹冠上部に葉を保持していた。上向き側枝による展葉様式は、主軸を伸長させずに新葉を保持することにより個体の維持コストを抑制し、耐陰性に寄与していると考えられる。樹冠下部には、ターミナルリーダー(主軸頂端と同様の成長点)を持つ長い枝が多かった。これらの枝は成長速度が小さく、樹冠拡大には寄与していなかったが、接地発根して新たなラメット(同じ遺伝子をもつ幹)を作りやすいと推察される。ヒバ稚樹がもつこれらの特徴は上向き側枝によって成り立ち、稚樹の耐陰性ならびに長寿に貢献していると考えられた。
  • 杉田 久志, 八木橋 勉, 齋藤 智之, 野口 麻穂子, 櫃間 岳, 八木 貴信, 大原 偉樹, 西園 朋広, 澤田 智志, 和田 覚
    セッションID: T10-05
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    戦後の拡大造林推進により大面積に造成された針葉樹人工林では、多雪環境や手入れ不足のため広葉樹が侵入して針広混交林が形成されている場合がある。従来このような人工林は「不成績造林地」と呼ばれてきたが、近年になって生物多様性の面からその価値が見直され、混生広葉樹を生かした省力的・合自然的な人工林の取り扱いが新しい森林施業のあり方として注目を集めている。しかし、針広混交林が今後広葉樹優勢へと向かうのかそれともスギ優勢へと向かうのか、間伐などの手を加えなくても健全な状態が維持されるのかなど、混交林化した人工林の動態に関するデータの蓄積は少ない。本研究では、秋田県森吉山麓において林齢28~43年生のスギ人工林22林分に10m×40mの調査区を設置して、広葉樹の混交状態、その後10年間の単木の成長、林分構造変化を解析した。混交した樹種はブナ、ウダイカンバ、ミズナラなどであった。この10年間にスギは旺盛な樹高成長を示し、広葉樹林冠層から抜き出てスギ天然林のような林分構造を呈しつつある。広葉樹を抜けたスギの密度は175~1000本/haで、間伐が行われていないにもかかわらず比較的低い値で維持されていた。
  • 正木 隆, 田中 信行, 八木橋 勉, 小川 みふゆ, 田中 浩, 杉田 久志, 佐藤 保, 壁谷 大介
    セッションID: T10-06
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    本州の冷温帯の山で、伐り頃を迎えたカラマツの林分を今後どうするか。植栽にかかる経費を考慮すれば天然更新を試したくなる。冷温帯ならウダイカンバ等の広葉樹を更新させることも不可能ではない。ところが、たいていの場合、チマキザサ等の群落が林床を優占しているのが実状である。これを目にすると、天然更新どころか通常の植栽も憚られてしまう。だが逆に、このササさえ制御できれば、天然更新も含むさまざまな更新施業オプションが可能になるとも言える。たとえば、上木の伐採を行う前に下層植生を下刈りする方法はどうだろう? 木曽ヒノキ天然林などでは、この有効性が指摘されているところである。そこで本講演では、事前の下刈りがササ群落に及ぼす効果を、ブナ林で検証した結果を報告する。苗場山ブナ天然更新試験地内のPlot1では、1968年からの10年間、刈払や除草剤散布等の処理が繰り返され、1978年に皆伐された。このプロットでのササ群落の構造の変化を解析すれば、事前の林床処理によるササ抑制の可能性を評価できるだろう。現在データの解析中だが、現時点の見込みでは、ササ事前処理の有効性を積極的に支持する結果は得られそうにない感触である。
  • 天野 智将
    セッションID: T10-07
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
     広葉樹の素材生産は針葉樹材に比べて歩留まりが低く、製材向けにならない低質材の利用システムが必要である。これまでは製紙が担ってきた。さらに一般材を製材が存立し、そのような中間加工品に乾燥、木取り、接着、塗装などを行う工場が存立する。このような加工場は同時に、価格の高い丸太から様々な製品も生産しており、価値の高い輸入材も消費する。合板系の利用については、高価格の丸太が用いられる。家具向けの突き板が減少し、これまでは住宅の複合フロア向けの表面材が市場を引っ張ってきた。建築内装分野においては、国産材の利用は限定的である。安定的な資源とみられるのは米国のオーク、ウォールナットや、カナダのメイプル、欧州のオーク、ブナなどである。これらの供給を担保として、国産のナラ、クルミなどは需要が強い。近年は供給可能性の拡大を求めて、たとえばシラカバの製品化が行われるなどしており、原料の安定供給が強く求められている。
  • 辰巳 晋一, 尾張 敏章
    セッションID: T10-08
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    択伐施業は、木材を生産すると同時に、林床の光環境を改善して樹木の更新を促すことを目標にする。しかし、北海道の針広混交林では伐採後にササが増加し、かえって更新が阻害されてしまうことも多い。これら伐採・ササ・更新の三要素は林内において局所的に変化し、複雑に関係し合っている。そのため、伐採が将来的なササ密度と更新量に与える影響を推定することはこれまで困難であった。本研究では、階層ベイズモデルを使って林内環境の局所的な変化を単木レベルでモデリングし、三要素の関係を定量化した。
    推定の結果、ササを抑制する効果は広葉樹よりも針葉樹で大きかった。また、その効果は胸高直径が33-45 cmのときにピークになり、それ以上では減少した。ササ密度が更新量に与える負の影響は、広葉樹よりも針葉樹に対して大きかった。また、その負の影響は数十年の遅れを伴うと推定された。総じて、針葉樹の小中径木の減少はササを増加させ、そのササの増加がさらに将来的な針葉樹の減少につながると示唆された。択伐施業における伐採木の選定では、なるべく針葉樹の小中径木の保護に配慮することが継続的な木材生産と林分構造の維持につながると考えられた。
  • 吉田 俊也, 野口 麻穂子
    セッションID: T10-09
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    北海道においては開拓以降、広い地域の天然林において抜き伐りが行われてきた。施工後の森林では回復不良な事例が多いが、その程度には地域差があり、多雪で、林床にササ類が多い北海道北・西部で一般に更新が不良である。ここでは、積雪条件が異なるふたつの地域に所在する、集約的に管理された択伐林分において林分の長期動態を比較した。北海道東部の置戸道有林(置戸:少雪)および北部の北大中川研究林(中川:多雪)にそれぞれ別個に設定された照査法試験地のデータを使用した。置戸では8年、中川では10年の回帰年で、全木調査に基づく成長量に見合った強度(材積比で10-30%程度)で伐採が繰り返されてきた。立木の量は、両施工地で期首には同等であり、ともに40年を超える期間中ほぼ維持されていたが、伐採量(年あたり)の実績は置戸で明らかに多かった。小径木の量も、予想どおり置戸で多かったが、それぞれ期首と比較すると、置戸では広葉樹が、中川では針葉樹が減少する対照的なパターンが見られた。置戸では択伐による管理の実行可能性がより高いが、同時に、両地域では、持続可能な施業レジーム(伐採量・対象・更新補助)が明らかに異なるといえた。
  • 石橋 聰
    セッションID: T10-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    針広混交林において択伐施業により木材を保続的に生産するためには、更新木の確保が不可欠である。しかし、北海道内のほとんどの針広混交林は、ササ類の密生化で十分な天然更新木が確保できなかったことなどにより林分内容が低下し、そのため近年の木材生産量は僅かとなって保続が実現しているとはいえない。一方で北海道東部地域には、補助作業によらない天然更新(天2)が期待できるとされる地域があり、これら地域の針広混交林では、更新を天2とした択伐施業による低コストの保続的木材生産が実現できる可能性がある。そこで本研究では、過去の報告等から天然更新の良否に関係する条件を選び、北海道東部地域を対象としてGIS上で重ね合わせ、天然更新(天2)のポテンシャルが高いと考えられる地域を1キロメッシュで地図上に示した。そして、その結果についていくつかの林分調査データセットによって検証を行った。今回の結果は、広域的なレベル(地域レベル)での針広混交林における択伐施業による保続的木材生産を実施するための管理方針や管理計画を策定するための重要な項目の一つとなる。
T11. 都市近郊林の文化的サービスの持続的発揮に向けて-多様な学問領域の視点から-
  • 高山 範理
    セッションID: T11-01
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/23
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】都市近郊における森林の文化的サービスのひとつとして、都市近郊林を対象として行われた癒し・休息的利用に関する研究(静的利用)を対象に、①都市近郊林の扱われ方、②調査スケールと人間の取り扱い方法、③森林風致分野における静的利用に関する研究動向(ニーズ・ブーム・課題)を整理した。
    【方法】都市近郊林および散策、癒し、セラピー、滞在などをキーワードとしてJ-StageおよびCinii等より文献検索を行なった。
    【結果】①文化的サービスという観点から考えた場合、都市近郊林の生態系サービスの概念上にどのように静的利用を位置づけていくのかが問われること。②一部を除いて、メソ(地区)-ミクロ(地点)スケールが対象となることが多く、個人や特定集団の生理/心理/行動について扱った研究が多い。社会的な動向把握や利用圧の調整法に座視した研究が少ない。③森林風致分野では、個人や特定集団の利用や福利的効果については多くの研究がされているが、持続的な利用を念頭として、効率的な森林空間の利用や利用種間の調整など、空間管理方法に関する研究が少ない。社会的な動向を先取りするような研究が待たれることなどが明らかになった。
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