日本森林学会大会発表データベース
第129回日本森林学会大会
選択された号の論文の883件中301~350を表示しています
学術講演集原稿
  • 玉泉 幸一郎, 大西 裕子
    セッションID: P1-098
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    広葉樹種は道管の配列様式で成長開始様式が異なることが知られており、環孔材樹種では肥大成長が展葉よりも先に起こり、散孔材樹種では肥大成長と展葉が同時期に起こる。その原因については、環孔材樹種では新しい道管で水輸送を行い、散孔材樹種では古い道管での水輸送が可能であるためと考えられている。しかし、これまで肥大成長、道管形成および展葉を同時に計測した研究は少なく、また、肥大成長と道管形成を同一場所で時系列的に比較したものは見られない。本研究においては、1点式のデンドロメーターを用いて同一場所での肥大成長と道管の形成過程、および自動カメラによる展葉過程を比較した。九大構内に生育する6種(環孔材3種、散孔材3種、放射孔材1種)に1μm分解能のデンドロメーターを設置し、2017年2月から10月まで測定した。また、自動カメラで樹冠を1回/日で撮影した。測定部位は11月に円盤を採取し、横断面切片を得た。これらの試料により、各樹種の肥大成長、道管形成および展葉過程を解析した。その結果、道管の配列様式による成長開始期のフェノロジーは、肥大成長開始時期には違いが無く、展葉までの肥大成長量に違いのあることが明らかになった。

  • 崔 東壽, 戸田 浩人, 前田 健蔵
    セッションID: P1-099
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    ニセアカシア(Robinia Pseudoacacia)は北米原産のマメ科の先駆樹種で、窒素固定根粒菌と共生し、貧栄養や荒廃地でも生育可能な樹種である。1873年に導入以来、緑化樹・街路樹・蜜源植物として利用している。しかし、その旺盛な繁殖力と成長力による分布の拡大は、在来植生相や生物多様性に大きな影響を与えている可能性が高いため、その管理方法の確立に必要な生理・成長特性の解明が求められている。本研究では、東京都府中市の多摩川沿い侵入したニセアカシアの同一個体の陽葉と陰葉において、葉内窒素含有量、葉内ルビスコ含有量、クロロフィル含有量、SLA(単位重さあたりの葉面積)、光合成特性などを測定した。その結果、陰葉は陽葉に比べ、葉内窒素含有量、葉内ルビスコ含有量が低く、光合成速度の低下が見られたが、SLAと葉内窒素の可溶タンパク質の割合の増加が見られた。陽葉は高い光合成速度を保ち、陰葉は速やかに窒素が転流できるような形で窒素を蓄えて待機することで、生育環境の変化に素早く対応できるような生理・成長特性を示していると考えられる。

  • 五十嵐 秀一, 黒川 紘子, 柴田 銃江, 正木 隆, 陀安 一郎, 市栄 智明
    セッションID: P1-100
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    多くの樹木において、開花や結実量が年変動する豊凶現象がみられる。数理モデルによる研究では、このメカニズムとして豊作年の前に樹体内への炭水化物の蓄積が必要であることが示唆されている。しかし、それを定量的に示した例はほとんどない。本研究は、ブナの花芽分化期の樹体内貯蔵炭水化物と開花量の関係を調べ、開花に対する貯蔵物質の役割を検証した。調査は茨城県小川群落保護林に生育する林冠木7個体で行った。ブナの花芽分化期に各個体の先端枝・枝・樹幹・根から試料を採取し、非構造性炭水化物(TNC)濃度を求めた。また、各個体の樹冠下にリタートラップを設置し、雄花序・雌花序数を計算した。さらに放射性炭素年代測定により、花序に含まれる炭素の構成年代を推定した。調査したブナ7個体で、年ごとの開花パターンや規模が異なった。TNC濃度は大きく年変動していた。各器官のTNC濃度と翌年の開花数の間には、有意な関係性はみられなかった。花序に含まれる炭素は、主に開花前年に生産されたものが用いられていた。以上より、ブナは開花に対しても比較的新しい炭素を利用しており、樹体内の貯蔵炭水化物量は開花の制限要因にはなっていない可能性が示唆された。

  • 水谷 瑞希
    セッションID: P1-101
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     ブナ科樹木の豊凶は,気象因子がそのトリガーとなっていることが予想されており,従来その条件を探索する試みが多く行われてきた。気象因子は繁殖器官の生育段階に対応して作用すると予想されるが,このことから気象因子の影響を検討する際には,対象樹種のフェノロジーを考慮する必要があると考えられる。そこで本研究では,ミズナラ,コナラを対象として,中部日本地域における開芽フェノロジーの空間的変異を明らかにするとともに,過去38年間の開芽予測日の年次変動を推定した。調査は中部日本の25地点で行った。ミズナラの開芽日は4月下旬から5月下旬で,地点により1か月のずれがあった。コナラの開芽日は4月中旬~4月下旬で,地点間のずれは約半月であった。有効積算温度にもとづく開芽日予測モデルにより推定された開芽予測日と実測による確認日との差はほぼ一週間以内であり,モデルは妥当であると考えられた。過去の気象値から予測された地点ごとの開芽日の年次変動の平均は,ミズナラで約20日,コナラで約15日であった。このことから,気象因子が豊凶に及ぼす影響を検討する上で,開芽フェノロジーの空間的・時間的変異を考慮することの必要性が示唆された。

  • 丸毛 絵梨香, 上田 実希, 関 宰, 高木 健太郎, 小林 真
    セッションID: P1-102
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    近年の地球温暖化に伴い、春先の樹木の成長において重要な役割を持つ雪解け時期が北海道でも早まっている。雪解け時期の早まりは森林の無機的環境を変化させ、樹木の成長に影響を及ぼすが未だ不明点が多い。雪解けの早まりが植物の成長に及ぼす影響は種によって異なることが知られているが、その種間差を統一的に説明する要因は分かっていない。そこで本研究では、雪解け時期の早まりが冷温帯に生育する樹木の成長へ及ぼす種間での違いとそのメカニズムについて、樹木の機能形質に注目して明らかにすることを目的とした。実験では北大研究林内の苗畑において異なる木部構造を持つ落葉広葉樹の苗木6種を対象に、3月下旬に雪を溶かし雪解け時期を1週間半早め、樹木への影響を見た(雪解け処理)。雪解け処理によって全ての樹種で成長量は増加したが、その増加程度は樹種によって異なった。成長量の増加程度の樹種間差を説明する要因について検証したところ、出葉時期や葉形質ではなく、木部構造の違いが重要であることが示唆された。本研究から、雪解け時期の早まりが樹木の成長へ及ぼす影響は種間によって異なり、種間差を生み出す要因が木部構造であることが示唆された。

  • 高梨 聡, 檀浦 正子, 中野 隆志, 小南 裕志, 深山 貴文
    セッションID: P1-103
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動環境下において、森林の持つ役割は大きく、気候緩和機能やその遷移を把握する上で、冷温帯地域における常緑針葉樹の炭素貯留機能を明らかにすることは重要である。富士吉田森林気象試験地では標高約1000mに位置する冷温帯アカマツ林を対象とし、アカマツの幹直径の季節変動、枝長、葉長等のフェノロジー観測、チャンバー法による幹呼吸量の測定、微気象・フラックス観測が行われており、そのデータを用いて光合成・呼吸量とフェノロジーとの関係を解析した。当年枝の伸長は3月の終わりから4月に始まり、6月頃まで続いていた。葉の伸長は当年枝の伸長からほぼ1ヶ月遅れていた。葉面積指数(PAI)は、3-5の間で季節変動し、4月後半に上昇し始めた後、8月にピークを迎えていた。幹の肥大は3月の中旬に始まっており、光合成量の増大に伴い、幹の肥大、枝の伸長、葉の展葉が順次行われている様子が観測された。幹呼吸量の温度依存性は3月から7月に高く、幹の下部では3月と6,7月で特に顕著であった。炭素パルスラベリング実験によると、冬季の炭素は3月の中旬に下部へと輸送されており、幹下部では基質量や葉や幹の生長量によって呼吸量が変動していることが示唆された。

  • 大原 遼, 作田 耕太郎
    セッションID: P1-104
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    近年、管理放棄された竹林が増加し、周辺林分への群落拡大が問題視されている。竹林の拡大に適切に対処するためには、タケ類を生物学的に理解することは重要であると考えられる。タケ類は地下茎から毎年新しい稈を地上に発生し、稈は複数年にわたって生産を行うという特徴を持つ。これらの稈に発生する当年葉の光合成速度は、稈齢とともに低下することが知られている。発表者らは、稈齢にともなう当年葉の光合成速度の低下には、葉中クロロフィル量や蒸散速度の低下などが影響していることを明らかにしてきた。タケ類だけでなくイネ科に属する植物は、土壌中のケイ素を積極的に吸収、蓄積し、生育に利用していることがよく知られている。しかしタケ類の稈では、年ごとの肥大成長が行われず、複数年にわたって同一の維管束による生理活動を余儀なくされ、その間に必要量を超えた過剰なケイ酸が維管束や、葉の組織などに蓄積することが、さまざまな生理的機能に負の影響を与えることが想定される。本研究ではマダケを対象として、新竹の葉および発筍前の春先に付け替わった前年以前に発生した稈の新葉を対象として、光合成速度とケイ酸含有量について測定を行い、比較検討した。

  • 楢本 正明, 蓮田 和也, 坂田 史帆, 水永 博己
    セッションID: P1-105
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    CO2吸収は同化器官である葉で主に行われるが、非同化器官である枝や幹においても光合成色素のクロロフィルが存在し、CO2吸収が確認されている。本研究では、異なる高さにおける幹でのCO2交換を環境変化と併せて解析するほか、異なる種での当年生枝におけるCO2吸収特性について比較する。 新潟県苗場山標高900mに生育するブナを対象に異なる高さの幹におけるガス交換の日変化を測定し、環境変化とガス交換特性の関係について解析した。幹におけるガス交換の測定には、多点通気および閉鎖型測定システムを用いた。また、静岡県浜松市の静岡大学天竜フィールド、および静岡市の静岡大学圃場に生育するブナ科13種の当年枝を対象にガス交換特性およびクロロフィル含量の測定を行った。葉と枝におけるガス交換の測定には、携帯型光合成蒸散測定装置を用い、その後各器官ごとにアセトン抽出によりクロロフィル含量を測定した。

  • 則定 真利子, 山ノ下 卓, 小島 克己
    セッションID: P1-106
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    熱帯荒廃湿地において造林をする上で植栽木の活着や成長を阻害する主要な環境ストレスとして湛水による根圏の酸素濃度の低下がある。タイ南部の荒廃低湿地に設置した試験地で植栽試験を進めながら制御環境下における環境ストレス応答実験を行うことにより、樹種特性に関する基礎的知見に裏打ちされた応用性の高い造林技術の開発を目指している。造林候補樹種のHorsfieldia iryaH. crassifoliaについて、自然光環境制御温室において水耕栽培系を用いて4週間の根圏低酸素処理を施し、光合成速度に与える影響を調べた。根圏低酸素処理により両種とも気孔が閉鎖し、光合成速度が低下したが、H. iryaでは光合成速度の低下が一時的であり処理終了時には回復したのに対してH. crassifoliaでは処理終了時まで低下が継続した。根圏低酸素処理が茎と根のデンプン濃度に与える影響を調べ、光合成への影響との関連を報告する。

  • ソ ホンドク, 益守 眞也, 丹下 健
    セッションID: P1-107
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    熱帯の湿地性樹種であるSyzygium kunstleriは,通気組織の発達した根を形成することが分かっている。本研究では,水耕液中に伸長したS. kunstleriの根の横断切片を0.5 cm間隔で作成し,1本の根の中での一次通気組織と二次通気組織の軸方向の分布を光学顕微鏡と蛍光顕微鏡を使って調べた。根端近くの根の表面は白く,根端から離れるにしたがい淡褐色,暗褐色と変化するが,白い部分と淡褐色の部分で皮層内に一次通気組織が形成され,淡褐色の部分から暗褐色の部分で周皮内に二次通気組織が形成されていた。表面の白い根端付近では離生の一次通気組織だけが見られ,破生の一次通気組織は淡褐色の部分から分布していた。淡褐色の部分で,破生通気組織の内側に二次通気組織が形成され始めている様子が観察された。

  • 山ノ下 卓, 則定 真利子, 小島 克己
    セッションID: P1-108
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    熱帯アジアの湿地の利用のあり方が注目を集めているが、森林利用に必要な、湿地における林木の成長に関する情報は乏しい。本研究では、タイ南部のクアンクレン湿地に植栽されたMelaleuca cajuputiの成長について報告する。 2012年に植栽されたM. cajuputiの植栽5年後の生残率と樹高に対する植え付け場所の水位と植栽時の苗サイズの影響を調べたところ、水位が低い場所、植栽時の直径が太い方が生残率が高く、樹高も高かった。1995年に植栽された林分の2017年時点のバイオマス量を試料木から得た相対成長式を元に推定したところ、地上部143 t ha-1、地下部34 t ha-1であった。植栽10年後には地上部、地下部共にバイオマス成長速度が鈍化し始め、植栽20年後には全バイオマス量が、成長曲線から推定される最大値の95%に達していた。落葉量は葉のバイオマス量と、細根の純生産量は根のバイオマス量と比例すると仮定し、成長曲線と林床に蓄積した落葉量、葉の分解速度、細根の純生産量から2017年時点のバイオマス成長量は1.3 t ha-1 y-1、純生産量は16 t ha-1 y-1と推定された。

  • 津山 孝人, Radka  Vladkova
    セッションID: P1-109
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    裸子植物は被子植物よりも、葉緑体チラコイド膜におけるメーラー(Mehler)反応の能力が約10倍高い。メーラー反応とは光化学系Ⅰ(系Ⅰ)下流での酸素への電子の流れである。酸素が還元されると、活性酸素のスーパーオキシドが生じる。スーパーオキシドは酵素SODにより過酸化水素に、過酸化水素は酵素APXにより水へと還元される。電子は光化学系Ⅱ(系Ⅱ)における水の分解に由来するので、全体の反応はWater-water cycleとも呼ばれる。メーラー反応を触媒する酵素として、藍藻においてFlavodiiron protein(Flv1、Flv3)が単離された。これらのタンパク質は(光合成生物では)藍藻から裸子植物まで保存されている。すなわち、メーラー反応に関しては、裸子植物よりも被子植物の方が例外的である。本研究では、遅延蛍光法を応用して針葉樹の光合成機能、特にメーラー反応の解析を行った。メーラー反応の検出を可能にするために、藍藻Synechocystis sp. PCC 6803のFlv1欠損株を用いて遅延蛍光の減衰を調べた。メーラー反応は針葉樹の強光ストレス耐性に寄与することが示唆された。

  • 中島 剛, 田中 紀充
    セッションID: P1-111
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    カラマツは耐寒性を持ち土壌に対する要求度が低いこと、成長が早く材強度が優れることなどから寒冷地の主要な造林樹種の一つであり、近年、造林需要が増加している。しかし着花が不定期であるため種子の安定供給が困難な状況である。カラマツは短枝に雌雄別の花をつけるが、これら器官の形成過程や機序については詳細な調査を必要とする。これらを明らかにすることで、着花促進を目的として実施している機械的処理など作業の適期の理解に繋がる知見を得られることが期待される。そのため本研究ではカラマツの花芽・葉芽を経時的に採取し切片を作成して形態観察を行った。試料は6月から12月にかけて月一回程度、十和田市内の圃場に植栽後50年以上経過した1本のカラマツから短枝を採取した。ここから花芽・葉芽をメスで切り出し、FAAで固定した後に常法に従って脱水、レモゾール置換、パラフィン包埋を行い、回転式ミクロトームを用いて6-12μmの連続切片を作成した。切片は脱パラフィンの後にサフラニン、ファーストグリーンによる二重染色を行い光学顕微鏡下で観察を行った。本発表では花芽・葉芽の器官形成における形態特性の経時的変化を観察した結果について報告する。

  • 和田 尚之, 斎藤 秀之
    セッションID: P1-112
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    花成メカニズムの解明は着花技術や開花結実予測の技術開発における重要課題である。ブナ花成はFT遺伝子のDNAメチル化によるエピジェネティック制御を受けている。DNAメチル化は展葉時に決定し、養分によって変動することがわかっているが、これが花成を制御することは実証できていない。本報告では養分によるDNAメチル化制御とその後のFT遺伝子の発現誘導を野外操作実験により検証し、ブナ花成におけるDNAメチル化の果たす役割を解明することとした。材料は北海道大学のブナ成木1個体の陽樹冠にある枝18本であった。各枝内に対照区と施肥区を設け、2年間着葉期に施肥を行った。結果、初年度の展葉後の施肥ではDNAメチル化は影響を受けなかった。2年目では、処理枝が無開花の場合に施肥でDNAメチル化の促進とFT遺伝子の発現が確認された。以上から、FT遺伝子のDNAメチル化は展葉時の養分濃度の上昇で施され、夏まで維持されることでFT遺伝子の転写を誘導し、資源量の情報を花成に反映させていることがわかった。発表では、養分分析の結果も交えて報告する予定である。

  • 赤田 辰治, 福井 忠樹, 鳥丸 猛, 大宮 泰徳
    セッションID: P1-113
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     縮合タンニン(プロアントシアニジン;PA)は高等植物において最初に進化した防御物質の一つであり、広汎な植物種に存在する。食葉性昆虫による食害や物理的損傷などによって合成経路が誘導されるが、ブナにおいては前年の食害が翌年の若葉におけるPA合成にまで影響を及ぼすことが報告されている。PA合成の調節遺伝子としてシロイヌナズナの種皮着色に関与するTT2が知られており、ブナのホモログとして傷害誘導性遺伝子FcMYB3202が同定された。FcMYB3202は摘葉処理によって発現が誘導されるが、摘葉後の腋芽から展開した葉においても発現量の増大が観察されることから、エピジェネティックな調節が想定される。そこで本研究では、FcMYB3202のプロモーター領域の構造解析とシトシン(C)塩基におけるメチル化解析を行った。その結果、開始コドンの上流400 bpの領域にCメチル化維持に寄与するCG及びCHG配列がそれぞれ3か所に限定されることから、RNAポリメラーゼが結合するTATAボックス(-190 bpの位置)近傍での脱メチル化が起こりやすい構造であることが示唆された。実際のCメチル化解析においてもこの領域での顕著な脱メチル化が推測された。

  • 樋口 亮, 大橋 慧介, 和田 尚之, 神村 章子, 高須賀 太一, 堀 千明, 斎藤 秀之
    セッションID: P1-114
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    樹木のストレス診断技術の開発の一環として、遺伝子発現プロファイルに基づく診断指標の開発に取り組んでいる。先行研究では、ブナの葉のトランスクリプトーム(mRNA量)解析により乾燥・高温・酸化の環境刺激に対して特異的に発現する遺伝子や衰退木の葉で特異的に発現する遺伝子の存在を明らかにして、これらの遺伝子発現パターンに基づいた指標作りを行ってきた。しかしながら、mRNA量は必ずしも生理機能量を反映しているとは限らず、特にターンオーバーの遅い安定的なタンパク質をコードする遺伝子の場合には翻訳産物との間に量的な相関を示さないことが予想される。したがって、生理機能と密接な関係が得られるオミクス解析として発現タンパク質の総体を調べるプロテオミクス解析が期待される。本報告では、ブナ成熟林で同所的に生育する健全木と衰退木の樹冠に着生する葉を対象に、ペプチドマスフィンガープリンティング法によるプロテオミクス解析を行い、衰退木で特異的に発現するタンパク質の探索を行う。また、トランスクリプトーム解析で選抜された発現遺伝子との関係性についても検討する。

  • 杉田 昂駿, 野口 夏美, 片畑 伸一郎, 水永 博己, 楢本 正明
    セッションID: P1-115
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    植物にとって重要な環境要因の一つに風がある。風はCO2の供給増加に寄与するなど有益である一方、幹・葉の破損や成長抑制など負の要因ともなる。近年、強度間伐や台風通過後のヒノキ林で立ち枯れが生じる現象が報告されている。枯損の要因は急激な環境変化であると予想されるが、環境変化は各要素が複合的に変化するため個別にとらえることは難しい。そこで本研究では風環境に着目し、ヒノキ苗を用いて風がヒノキの遺伝子発現と生理・成長に与える影響について調べた。試験は、静岡大学静岡キャンパス内のビニールハウスで行った。成長比較試験は、送風機で強風区(5 m/s)、中風区(2 m/s)、弱風区(1 m/s)、無風区(0 m/s)の4段階の風環境を設けた。生理応答試験は、湿潤処理区と乾燥処理区を設け、かつ各処理区に送風処理(7 m/s)と送風無処理を設けた。生理特性については、樹液流速度、光合成速度、水ポテンシャル、最大量子収率を測定し、樹液流速度については自作した茎流センサ(桜谷センサ)を用いて連続的に測定した。同時に各処理区から採取した針葉よりRNAを抽出し、RNA-Seq解析を用いて、各処理区間の遺伝子発現を比較した。

  • 西村 佳穂, 石川 達也, 細尾 佳宏
    セッションID: P1-116
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     カリウムイオン(K+)は、植物細胞内で最も豊富な陽イオンであり、植物の様々な生理的過程に関与している。このK+の生体膜を横切る輸送は、膜輸送体(トランスポーター、チャネルなど)と呼ばれる膜タンパク質が担っている。K+膜輸送のメカニズムを明らかにすることは、樹木の成長や環境適応の仕組みを理解するために不可欠である。本研究では、カラマツから新たにK+トランスポーター候補遺伝子であるLkKUP1を単離し、配列解析を行った。その結果、LkKUP1は既知のKUP/HAK/KTトランスポーターとアミノ酸レベルで高い相同性を有していた。さらに、大腸菌のK+取り込み能欠損変異株を用いた相補性試験により、LkKUP1はK+取り込み能を持つことが明らかになった。また、他の陽イオンを用いた生育阻害試験の結果、LkKUP1の K+ 取り込み活性はセシウム、カルシウム、ナトリウムの各陽イオンに影響を受ける可能性が示唆された。

  • 長谷川 彩, 加藤 正吾
    セッションID: P1-117
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     樹木の光をめぐる競争は数十mの高さに及ぶこともあるが、森林の下層には低木として生育する樹種が存在する。一般には光資源の獲得のため、樹木は樹冠構造の可塑性を持つ。しかし、低木のマンリョウ(Ardisia crenata)の樹形は、明るい庭や暗い林内など様々な条件に生育している個体であっても、ほとんどが樹高1m以下であり、外形的にはよく似た樹冠構造をしていることが観察される。本研究では、マンリョウの樹形を構成する各器官の比率を調べ、個体サイズや光環境の差異による資源配分の違いを明らかにすることを試みた。 調査地を岐阜大学柳戸試験林とした。様々な個体サイズから106個体を任意に選び、伸長量、生枝下長、樹冠半径、個体上の相対光量子束密度を計測した。さらに、これらと異なる60個体(一部地上部のみ)を掘り取り、形状(根元直径、生枝下直径、樹幹長、最大側枝長など)、器官別(根、幹、葉、側枝、果実、花柄)の乾燥重量、および葉面積の計測をおこなった。 マンリョウの光環境に応じた資源配分や個体サイズの変化に応じた器官重量の変化をもとに樹高の制限要因について考察した。

  • 菅原 悠希, 水永 博己, Dokrak Marod
    セッションID: P1-118
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    樹木の葉分布は光環境や風,乾燥ストレス等の影響を受け、個葉一枚からシュート構造,樹冠全体に至るまで様々なスケールにおいてその構造を変化させる.東北タイの落葉フタバガキ林(DDF)は単純な林冠構造をしていながらも立木密度は低いため隣接個体による被陰を受けにくく,林冠木は共通して横から光を受けやすい樹冠構造を持つ傾向がある.本研究では樹冠葉分布及びより小さい葉分布スケールであるシュート構造に着目し,シュート及び樹冠スケールにおける光利用の関係性について解析を行った.タイ・サケラート環境研究ステーション内のDDFにおける主要樹種についてシュートを採取し,その形状をシュート構造を示す変数として測定した.また光シミュレーションを行うため地上レーザースキャナを用いてシュートのポイントクラウドデータを取得した後、これを2mm立方体ボクセルデータに変換した。樹冠構造についてはレーザースキャナを用いて樹木個体のポイントクウドデータを取得し、これを0.5m立方体ボクセルに変換した後ボクセル内部の葉面積密度を推定した.これらのボクセルデータについてSPAR(葉面積に対する投影面積の比)の光入射角に対する反応を解析した。

  • 田邊 智子, 城田 徹央, 岡野 晢郎, 安江 恒, 小林 元
    セッションID: P1-119
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動の影響を受けやすいとされる高標高地域において、分布する樹木の気候応答を知ることは今後の森林動態や樹種の分布変遷を知る上で重要である。本研究では、長野県中部亜高山地帯に生育するオオシラビソを対象に、肥大成長と伸長成長を制限する気候要因を抽出した。本調査は信州大学西駒演習林の標高2000m地点に分布する、林冠の閉鎖していないシラビソ‐オオシラビソ群集にて行った。林冠を構成するサイズの個体から21個体を選木し、幹から年輪のコア資料を採取して過去の肥大成長量を復元した。伸長成長は、自己被陰の影響が少ない樹冠上部から一次枝を各個体3本ずつ採取して、節間成長を計測することで過去の成長量を復元した。幹ではなく枝の伸長成長を使用することで、同一個体から複数の伸長成長量データを得た。解析の結果、肥大成長量は前年10月の降水が多いまたは当年4月の降水が少ない場合に成長量が増大した。一方、枝の伸長成長量は当年5月の降水が多いまたは前年9月と当年8,9,10月の最低気温が高いほど増大した。このように肥大成長と伸長成長は制限する気候要因が異なり、その結果、双方の成長量の経年変化は有意に同調しなかった。

  • 板橋 朋洋, 松下 通也, 森 英樹, 野口 麻穂子, 直江 将司, 中川 弥智子, 岡田 美憲, 太田 和秀, 太田 敬之, 齊藤 哲, ...
    セッションID: P1-120
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     森林において、土壌水分や斜面方位といった水平方向のハビタット異質性は、多種共存を促進すると予測される。一方で、垂直方向に不均一な光環境が光要求性の異なる種の共存を促進するという予測もある。これらは水平方向・垂直方向へのニッチ分割と捉えられるが、両者の効果を分離した研究は少ない。そこで、微地形が豊富な渓畔林(3.2 ha)において、大規模な稚樹の毎木調査を行い、存在する全稚樹(直径1~5 cm : 3575個体)を記録し、そのうち低木種を除いた直径1~2 cmの稚樹について樹高を測定した。L関数を用いた空間分布解析を行った結果、微地形に対して特異的に出現している種が存在したことから、水平方向へのニッチ分割が確認された。一方、樹高−直径関係から、種ごとに光要求性の異なる種群が存在することが示唆されたが、それらは同所的に分布しておらず、垂直方向へのニッチ分割を確認することはできなかった。しかし、点過程モデルを用いた空間解析の結果、微地形と階層構造の不均一性の両方が、観察された稚樹の分布に影響を与えていることを示唆していた。

  • 福永 潮, 石田 仁
    セッションID: P1-121
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     岐阜県飛騨地方の位山演習林において、3m×3mのプロットを20ヵ所設置し、サワラChamaecyparis pisiferaの実生を3週間おきに調査した。出現する実生の生育基質を表層基質(土壌、倒木、蘚苔類)と下層基質(土壌、倒木、岩)にタイプ分けした。各プロットの種子の散布量を調査した。各プロットを1m×1mに区切り相対散乱光、他植物の植生被度、表層基質の割合を調査した。植生被度は下層(地上高10cm以下)と上層(10㎝から60㎝までの被度)に分けた。 GLMの最適モデルから、下層と上層の他植物の植生被度がサワラ実生の出現を妨げていることが分かった。下層の植生被度はサワラ種子の発芽床を減らし、上層の植生被度は光を遮ることで発芽を妨げているのだろう。一方で、生育基質は最適モデルで採択されず、影響は比較的小さいと考える。GLMMの最適モデルから、実生の生存期間は、生育基質に影響を受けていた。表層基質を説明変数、生存期間を応答変数としてモデルを作成すると、土壌が負の値、蘚苔類が正の値をとった。蘚苔類は、抗菌作用や発芽床としての安定性によりサワラ実生の生存に寄与しているのだろう。

  • 山田 和弘, 赤路 康朗, 廣部 宗, 兵藤 不二夫, 宮崎 祐子, 坂本 圭児
    セッションID: P1-122
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    森林林床は光が乏しく樹木実生の成長には光環境が主な制限要因とされるが、土壌環境も制限要因となりうることや実生の齢によって光環境と土壌環境の相対的な影響の強さが変化することが報告されている。本研究では光環境、土壌環境がブナ実生の成長に与える影響を実生の齢の違いも含めて明らかにすることを目的とした。岡山県の若杉ブナ天然林で2年生実生を19個体、4年生実生を11個体採取し、葉数、葉面積、当年枝長、根長、乾燥重量を測定するとともに、実生採取地点付近の光環境(相対光合成光量子束密度)と土壌環境(土壌含水比、純窒素無機化速度、純硝化速度、土壌pH、A0層重量)を測定した。環境条件の主成分分析結果を用いた一般化線形モデル解析により、2年生実生は土壌環境が良好な場所で成長がよく、地上部-地下部重量比が小さくなること、4年生実生では光環境が良好な場所で成長がよいことが分かった。これらから、個体サイズが小さいブナ2年生実生は土壌環境の影響を強く受け、成長の際に物理的支持や水分・養分資源獲得のため地下部の発達を優先させるが、個体サイズが大きい4年生実生では光環境の影響を強く受けることが示唆された。

  • 安藤 早貴子, 飯尾 淳弘
    セッションID: P1-123
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    森林下層部には低木種と高木種の若木があるが、ギャップができてもいずれ低木種は高木種に被陰されるため、光の有効利用期間が限られる。そのため、低木種は生存戦略として、明環境時に資源を稼ぐ短期型と暗環境下で少しずつ獲得する長期型などが考えられるが、今回は後者に注目した。本研究は、低木種と高木種の葉分布構造に注目・比較することで、耐陰性を高める仕組みの解明を目的とする。ブナ林内の様々な光環境で生育する高木種4種の計28本、低木種3種の計30本を調査の対象とした。各サンプル木の葉面積の3次元分布を推定するために、レーザースキャナーで得られた点群データを0.2m四方の立方体(セル)に分割し、レーザー光線の遮断回数と距離・角度からセル内のLAD(葉面積密度)を算出した。推定LADの精度を検証するため、各樹種8セル内の葉を刈り取り、LADを直接測定した。また、各樹種42本については着葉期間も調べた。着葉期間において、低木種は高木種よりも短い着葉期間であった。また、推定LADは実測値より過大であり、今後は別の方法で再度検証を行った上で、モデルから得られた個体の光吸収量より、葉分布と光獲得効率の違いを明らかにする。

  • 日下部 玄, 石田 祐宣, 伊藤 大雄, 石田 清
    セッションID: P1-124
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    東北地方のブナ天然更新施業地ではブナが定着しなかった施業地においてホオノキ・ウワミズザクラなどが再生林を形成することが報告されている。このような再生林では上層構成種の違いが開葉フェノロジーの違いなどを通じて下層環境の多様化をもたらしていると予測される。そこで本研究では、択伐後放棄されたブナ林において択伐の有無及び上層構成種の違いが下層木群集の動態に及ぼす影響を明らかにするとともに、森林の今後の推移を検討する事を目的とした。青森県白神山地において択伐が行われたブナ林を対象に択伐後25~33年目(9年間)に毎木調査を行った。得られた結果から、主要構成種9種について下層木の加入、死亡、成長と伐根の有無及び上層優占種の違いとの関係を分析した。その結果、加入、死亡、成長が伐根の有無により変化する種としない種が見られた。また上層優占種の違いにより成長が増減する種も見られた。この結果は生存と成長に必要な光環境やギャップへの更新の依存性の種間差を示唆していると考えられる。本発表ではさらに上層構成種による下層木群集の違いについて、及び下層木群集の動態の経年変化についても考察したい。

  • 板橋 幸史, 作田 耕太郎, 金谷 整一, 松尾 尚哉
    セッションID: P1-125
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    ブナは日本全国に幅広く存在する冷温帯の標徴種である。世界自然遺産に登録された白神山地のブナの天然林をはじめとして、ブナの生物学的価値は広く認められるようになってきている。しかし、土地開発に伴う伐採や拡大造林計画などによってブナは減少しており、地球温暖化をはじめとする気候変動により今後さらにその分布可能域が減少していくことが予想されている。今後ブナを保全していくためにはその生態を十分に把握しておくことが必要である。ブナの生態学的特徴は本州の山地において分布、サイズ構造、堅果・結実調査、太平洋側と日本海側のブナの相違など広範に研究されているが、九州でのブナの生態の調査報告はあまり多くない。本研究では北部九州のブナの現状を把握することを目的として福岡県宇美町、太宰府市、筑紫野市及び飯塚市にまたがる三郡山系を対象とし、ブナ個体の分布とサイズ構造を調査した。標高500~936mの尾根筋において幅10m以内の範囲にある胸高直径≧5cm,樹高≧4m程度のブナ個体の位置とサイズを記録した。その後、標高別あるいは水平距離当たりの個体数および胸高直径と樹高の頻度分布などより三郡山系のブナの現状を確認した。

  • 依田 浩輝, 星野 大介, 下平 美成, 中川 弥智子
    セッションID: P1-126
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    林床に密生するササ類の一斉開花・枯死は林床の環境を大きく変化させるため、樹木の更新を促す重要な役割を持つと考えられる。そのようなササ類の一つであるスズタケの一斉開花・枯死現象が2016年(前咲き年)から2017年(本開花・枯死)にかけて愛知県設楽郡・段戸山一帯にて確認された。そこで、段戸国有林のモミ・ツガ天然林に設置された0.6ha調査区において、林内環境(ササの繁茂および開花・結実状況・林床の開空度・野鼠密度・リターフォール量)と実生群集の調査を継続的に実施した。2017年、約88%の稈で開花が認められ、約2200個/㎡の種子が生産された。林床の開空度は、調査期間の着葉期間中で増加した。スズタケ種子を餌資源としての増加が予想されていた野鼠密度は、予想に反して減少した。2016年秋の実生群集と比べて、2017年秋では種数・個体数ともにより多くの木本実生が確認されたことにくわえ、スズタケの当年生実生の出現が確認された。スズタケ枯死に伴う光環境の好転により、木本実生の定着が促進されたことが伺えるものの、今後さらに実生群集やスズタケ実生、野鼠密度の推移を注意深く観察する必要がある。

  • 山林 英果, 秦 龍, 松本 哲也, 張 国盛, 王 林和, 廣部 宗, 三木 直子
    セッションID: P1-127
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    中国半乾燥地の毛烏素沙地の自生種で、代表的な緑化植物である匍匐性の常緑針葉樹Juniperus sabinaの被覆が周囲の植物群落構造に与える影響について調査を行った。J. sabinaの被覆中心から被覆外へ向けて11mのベルトトランセクトを計11本設置し、植生調査、土壌環境条件およびJ. sabinaの被覆度等の測定を行った。その結果、土壌含水率や土壌養分量などの環境条件はJ. sabinaの被覆内から被覆外にかけて減少する傾向にあった。また、被覆内外で種数はほとんど変化しないものの、種の構成が異なり、個体数は被覆外で増加する傾向にあった。トランセクト間において、被覆内では種数の変動が大きく、被覆外では個体数の変動が大きかった。これらの結果から、J. sabinaの被覆外では出現頻度の高い種が均質な群落を構成し、被覆内では出現頻度の低い種がさまざまな組み合わせで群落を構成すると考えられた。J. sabinaによる水の再分配や養分の集積等が土壌表層の環境条件に与える影響により、多様な植物群落構造が形成されている可能性がある。

  • 小原 茜, 岩崎 未季, 梅木 清, 平尾 聡秀
    セッションID: P1-128
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    奥秩父山地では、シカの高密度化による森林植生への深刻な影響が発生している。シカが地上植生に多大な影響を与えていることは広く知られているが、近年土壌の改変を通じて間接的にも植生に影響を与えていることが示唆されている。本研究では、シカが天然林の土壌の物理性・化学性・生物性を変えているのか、さらに土壌の変化が樹木実生に影響を与えているのか明らかにすることを目的とした。東京大学秩父演習林の滝川流域に標高(900~1,800 m)に沿って2013年から防鹿柵が15基設置されており、その内外に30 m四方のシカ排除区と対照区を設定した。各調査区に2 m四方の方形区を5ヶ所ずつ設置し、実生の成長・生残・新規加入数を2014年から2017年にかけて調査した。2017年5月下旬~6月上旬に、各方形区付近から20 cm四方のリター、100 ccの土壌を採取した。リターは生重量、含水率を測定した。土壌は容積密度、電気伝導度、pH、CN比、含水率を測定した。また、採取した土壌からゲノムDNAを抽出し、微生物相を調べた。本発表では、これらのデータから構造方程式モデルによる解析を行い、シカが土壌改変を通じて実生動態に及ぼす影響について議論する。

  • 和田 大樹, 長島 啓子, 田中 和博
    セッションID: P1-129
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    京都三山では,ナラ枯れやシカ食害により森林の生物多様性の低下や景観の悪化が発生している。このため京都三山では,ナラ枯れ跡地の防鹿柵内にモミジ等を疎密をつけて補植し,新規侵入を促進させることで多様性の高い森林の回復が目指されている。そこで本研究では,侵入種による植生回復状況を把握し,それらに違いが生じた要因を立地条件との関係から把握することを目的とした。更に,各調査プロットの今後の植生も予測した。植栽後6年経過した4m×4mの方形区を13プロット選定し,0.5m以上の木本について毎木調査(樹種,被度,地際直径,樹高,植被率),草本層の調査(種名,被度,最大高,植被率),立地条件(堆積様式,傾斜,地形,光環境,土壌含水率,孔隙率,土壌硬度)を調査した。そして,各プロットの断面積合計から求めた類似度を用いてクラスター分析を行った結果,クサギ等の先駆種やタマミズキ等の非先駆種が優占する植生群(計6タイプ)に分類された。また,各植生群と立地条件との関係についてDCAを用いて検討した結果,崩積土には先駆種が優占するプロット,残積土には非先駆種が優占するプロットが分布し,堆積様式によって植生が異なっていた。

  • 吉田 羽吹, 長島 啓子, 田中 和博
    セッションID: P1-130
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    近年,航空レーザスキャナによる広域の森林情報の取得よりも,より正確な上部直径や材積が推定できるとして,地上レーザスキャナに期待が集まっている。地上レーザスキャナでは胸高直径や樹形だけでなく,立木位置と地形情報も得ることができ,今までの植生調査に付随した測量に代わり,樹種と地形との関係をより詳細かつ短時間で把握することができると考えられる。樹種の分布と立地条件の関係は樹木の植栽の方針についての知見となり,シカ食害やナラ枯れ,土砂災害による植生の破壊や管理放棄林に対して,劣化した植生の植栽による回復への一助となると考えられる。地上レーザスキャンでは据え置き型のスキャナによる複数回の計測を行うのが一般的であるが,Woodinfo社ではレーザスキャナを背負って林内を巡回しながら3Dデータを取得する背負子型のレーザスキャナ,3Dwalkerを開発している。そこで本研究では,植生と立地条件殿関係把握における地上レーザスキャナの利用可能性を検討することを目的として,奈良県の大杉谷上流部ブナ林の3Dwalkerによる計測を実施した。ブナと地形の関係を解析した。

  • CHEN YI-HUNG, Lin Po-Hsuan, Tomonori Kume
    セッションID: P1-131
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    Recently, wide expansions of bamboo stand have been noticed in Taiwan. For better forest management coping with such expansions, understanding water use characteristics in bamboo stands is necessary. This study aims to clarify water use characteristic of Moso bamboo between different culm ages. Experiments were conducted in Xitou, National Taiwan University Experimental Forest. A pressure chamber was used to measure leaf water potential in 1-, 2-, 3-, 4-, and 5-year old culms. Dye injection was also applied to quantify difference of conductive area in culms with different ages . The results showed that 1-year and 4-year old culms had slightly smaller water potential than other age groups . In dyeing experiment, younger culms had less clogged vessels than old ones . This study will discuss relationship between water potential, culm conductivity, culm ages, and culm age related leaf phenology.

  • 辻 千晃
    セッションID: P1-132
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    乾燥条件下における樹木の水・炭素利用を明らかにすることは、近年の地球温暖化に基づいた環境変化に対して、樹木がどのように生存し炭素吸収源として機能するのかを考察するうえで重要なことである。本研究では、炭素安定同位体である13Cを、植物の光合成を利用して取り込ませる13Cパルスラベリングを用いて、ヒノキを対象に実験を行い、乾燥条件下で最近得た炭素がどのように利用されるのかを調べた。ヒノキ幼木において、ラベリング後、軽度の乾燥ストレスグループ(n=5)と強度の乾燥ストレスグループ(n=5)、それぞれのコントロールグループ(各n=3・n=2)に分け、降雨を遮断することで乾燥ストレスを与えた。伐採後、ラベリングによって獲得された13Cの割合について、それぞれのコントロールグループの各器官と比較した。結果として、ラベリングで得られた13Cの割合は、二つの乾燥ストレスグループとそれぞれのコントロールグループの間で、有意な差は見られなかった。したがって、強度乾燥ストレス下でヒノキが枯死していくのは、炭素欠乏による要因は少なく、水理障害などほかの要因による影響が大きいのではないかと考えられた。

  • 大貫 真孝, 檀浦 正子, Timo Dosmich, 安宅 未央子, Tapani Repo, Leena Finér, 大澤 晃
    セッションID: P1-133
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    北方林において、近年の環境変動は、冬期における積雪量の減少を招き、その結果として冬期の土壌凍結が増加することが懸念されている。それらの環境変化は森林の主要な林床枯死有機物である落葉の分解過程に影響を与える可能性がある。本研究では、温暖化によってもたらされると考えられる擬似的環境を含めた4種類の冬期林床環境(snow,ice,flood,no snow)を人工的に再現し、北方林の代表種である欧州アカマツの当年と前年の落葉を使用したリターバック分解実験を行った。サンプル回収は、冬期初期、雪解け直後、春期の計3回行い、重量減少量、微生物量(SIR量)、分解呼吸量、化学組成(CN比)を測定した。その結果、当年、前年リターそれぞれにおいて、落葉の重量減少量、SIR量、分解呼吸量、CN比は、全ての冬期処理間で同じような傾向であった。また、化学性が異なる当年と前年のリターは、冬期処理に関係なくリターの重量減少量が有意に異なった。従って、リターの化学性の違いはリター分解に影響をあたえるが、1回の冬期の環境変化がそれらの分解プロセスを変化させる可能性は低いと考えられる。

  • 中山 理智, 舘野 隆之輔
    セッションID: P1-134
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    系外への物質の流亡を考える上で細根による養分吸収や土壌酵素による有機物分解特性を理解することは重要である。本研究では、北海道東部のミズナラ天然林で0-50 cm深の土壌層位での細根と土壌酵素活性の違いを明らかにすることを目的とした。調査は土壌10 cmごとに炭素、窒素、リン分解に関わる4つの土壌酵素活性とpHなどの環境要因を測定し、また5 cmごとにミズナラと下層植生のササの細根重量および比根長を測定し、ミズナラについては菌根化率も測定した。窒素分解に関わるNアセチルグルコサミニダーゼ活性は0-10と20-40 cmで高かったが、それ以外は0-10 cmで有意に高く、深くなるにつれ活性が低下した。細根量はミズナラでは深くなるにつれ有意に減少したが、ササでは減少したものの層位ごとで有意な違いは見られず、深い所でも現存量は比較的多かった。比根長はどちらも深度ごとに有意に変化せず、菌根化率も深度ごとに有意な違いは見られなかった。以上より、ミズナラは土壌表層での養分吸収が相対的に重要であるが、ササは深層での吸収も重要であり、特に窒素については、深層で生成されたものも吸収していることが示唆された。

  • 阿部 有希子, 丹下 健, 菅原 泉, 寺本 宗正, 梁 乃申
    セッションID: P1-135
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    土壌有機物は森林生態系における大きな炭素プールであり、易分解性から難分解性までの様々な形態の有機物で構成されていると考えられている。本研究では、有機物供給の停止による土壌有機物量の減少が土壌有機物分解速度に与える影響を明らかにすることを目的とした。東京農業大学奥多摩演習林の2013年3月に皆伐された約50年生のスギ人工林(以下、皆伐区)と林道を挟んで上部に位置する10年以上無間伐のスギ人工林(以下、立木区)において、2012年12月から2017年12月にかけて土壌呼吸速度の測定を行った。皆伐区の測点では植生の進入を排除し、新たな有機物の供給をできる限り抑制した。深さ5cmの地温と土壌呼吸速度は有意な指数曲線で回帰され、いずれの年においても同じ地温の時の土壌呼吸速度は皆伐区の方が立木区よりも低い傾向を示した。推定された年間炭素放出量は皆伐区で5.6~9.4tC ha-1y-1、立木区で9.0~11.5tC ha-1y-1であった。皆伐区の土壌炭素濃度は12.9±2.2%であり、立木区の16.8±5.3%より低かった。皆伐区の地温と土壌呼吸速度の関係は5年間で明瞭な変化は認められず、土壌有機物の減少が微生物呼吸速度に与える影響は小さかった。

  • 堀内 桜, 楢本 正明, 水永 博己
    セッションID: P1-136
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    樹木では、幹や枝といった非同化器官の呼吸で発生したCO2の一部が樹液に溶けて樹液流と共に上部へ輸送される。根においても、呼吸で発生したCO2が地中に放出されずに樹液に溶け上部へ輸送、また微生物呼吸によって発生したCO2も土壌水に溶けて根から吸収、輸送されている可能性がある。しかし、樹体内CO2輸送が土壌中CO2濃度や土壌呼吸に及ぼす影響について定量的な研究はあまり行われていない。本研究では土壌呼吸速度、土壌CO2濃度と同時に樹液流速度を測定し、樹液流に伴う樹体内CO2輸送が土壌呼吸に及ぼす影響について評価することを目的とした。実験は静岡大学構内のビニールハウスで行われ、1/2000aワグネルポットに植栽されたアラカシ苗木(h=0.7m)を2個体用いた。樹液流センサ(桜谷センサ)を用いて樹液流速度を測定した他、土壌中に埋設したCO₂センサ(GMP221)により土壌中のCO₂濃度を深さ5cmと10cmで測定した。また土壌呼吸速度については、閉鎖系測定システムを用いて自動測定を行った。各個体において一方に蒸散(樹液流)を抑制するため地上部を覆う遮蔽処理を行い、もう一方を対照区とし2日間測定を行った後、個体間の処理を入れ替え再び2日間の測定を行った。

  • 河上 智也, 小林 真
    セッションID: P1-137
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    土壌粒子の団粒化は、土壌中に難分解性炭素(R-SOC)を増加させる主要なプロセスである。大型の土壌動物であるミミズは、土壌中に団粒を増加させる。団粒化量やその1つの要因であるミミズの面積あたりの現存量は、土壌の理化学性により変化することが室内実験的にわかっているが、野外の森林土壌では未解明な点が多い。一方、ミミズの現存量とも関係する個体重量は、土壌有機物量が多いほど増加する。さらに、北方林で優占するツリミミズについては、個体重量及び団粒化量は土壌中の交換性カルシウム(Ca)量が多いほど増加することが知られている。本研究では、野外の森林土壌において、Ca量、有機物量、ツリミミズの現存量、さらに団粒化量との関係を明らかにすることを目的とし研究を行った。北海道北部の森林における調査の結果、ツリミミズの現存量は土壌のCa量及び有機物量と有意に関係していた。さらに、ツリミミズの現存量は団粒化量と有意に関係していた。これらの結果は、森林土壌では複数の土壌理化学性がミミズの現存量の増加を介して団粒化量を変化させることで、R-SOCを制御している可能性を示唆する。本発表では、土壌のR-SOC量の結果を踏まえて議論する。

  • 畑中 朋子, 小椋 智世, 水野 直治, 松山 周平, 保原 達
    セッションID: P1-138
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    蛇紋岩とは火成岩の一つであり,重金属であるNiやMgを多く含んでいてこれを母材とする土壌地帯では植物の乏しい崩落地が多く確認される.原因は前記した通りの有害重金属の存在に加え,土壌が非常に貧栄養であることなどがあげられる.しかしながら,同じ蛇紋岩地帯でありながら,低被植である崩落地の他に,森林の存在も確認されている.そこで本研究では,蛇紋岩地帯における異なる植生間の違いを検討するため,蛇紋岩由来の崩落地とその周辺の植生を4つにタイプ分けし,土壌化学特性を比較した.その結果,森林の土壌では,土壌含水率,及び全窒素,全炭素濃度が崩落地と比較し急激に高い値を示した.また,土壌陽イオン中のNiイオンの割合は崩落地で高い値を示し,森林の土壌で低い値となった.さらに,この値は土壌中の全炭素濃度と負の相関がみられた.このことから,蛇紋岩土壌の特徴は有機物の影響を受けて,緩和されていることが考えられる.森林ではNiが有機物に吸着することで固定化し,Niイオンの割合が減少することで植物に対する重金属の影響も軽減されていることが示唆される.発表では,植物体の元素含有量も交えて議論していく.

  • 澤井 一毅, 籠谷 泰行
    セッションID: P1-139
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    近年、里山における竹林の管理放棄の増大と、それにともなう周辺森林などへの竹林拡大が問題となっている。この竹林拡大は、在来の植生に変化をもたらすだけでなく、林内外の無機的環境にも影響する。ところが、この竹林拡大の環境への影響に関して、基本的な炭素や窒素の循環についても研究例は少ない。そこで、本研究では里山での竹林拡大における林内の炭素・窒素の分布・存在量と移動量の変化を明らかにすることを目的とした。調査は滋賀県彦根市の落葉広葉樹二次林とモウソウチク林からなる里山で行った。竹林区、木竹混交区、森林区の計3か所の調査区を設定し、各調査区内で毎木調査、リターフォール量の測定、表層土壌の分析、および土壌でのCO2、CH4、N2Oの発生・吸収速度の測定を行った。植生現存量は竹林区>木竹混交区>森林区となった。表層土壌の炭素含有量は森林区で多かったが、窒素含有量は逆に竹林区で多かった。CO2発生速度は竹林区>木竹混交区>森林区となり、一方CH4吸収速度は森林区でやや高い傾向があった。N2Oの発生はどの区でも観測されなかった。このように、森林へのタケの侵入は、炭素・窒素の存在量・移動量に明らかな変化をもたらしている。

  • 向井 真那, 北山 兼弘
    セッションID: P1-140
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    火山灰土壌はその主成分の二次鉱物の非晶質鉱物類(以下アロフェン)がリンを強く吸着するので、農地などでは作物にリン欠乏を起こすと言われてきた。しかし日本の火山灰土壌に成立する森林では、樹木のリン欠乏の例の報告はない。そこで、火山灰土壌に生育する樹木はアロフェンに吸着したリンを獲得できる、という仮説を立てた。この仮説の検証のため、野外観察と栽培実験を行った。まず、火山灰土壌の特徴が見られる屋久島の森林調査区を用い、優占種のイスノキの細根からの滲出物分泌速度と、根圏・非根圏土壌の化学組成を調べた。樹木細根は有機酸を分泌し、根圏では滲出物の影響を受け、非根圏土壌に比べアロフェンの融解、可給態リンの増加が見られた。次に、同調査区から採取した同種の実生を用い、園芸用鹿沼土(主成分がアロフェン)で栽培実験を行った。100日間栽培した植物は0日目に比べ植物バイオマスは増加したが、植物体中のリン量は変化がなかった。また、植物ありポットでは、土壌アロフェン濃度は減少したが、土壌のリン画分は変化がなかった。今回は栽培実験では樹木のリン獲得の証拠は得られなかったが、今後も栽培を続け仮説を検証する予定である。

  • 小林 高嶺, 佐藤 冬樹, 上浦 達哉, 間宮 春大, 杉本 記史, 堀井 勇司
    セッションID: P1-141
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    溶存有機物(DOM)は様々な物質と相互作用を持ち、水域環境中における生物利用性や物質の反応生に大きな影響を与える。DOMの主要成分である腐植物質と錯体を形成し土壌中を移動することで、流域の物質循環に深く関わっていると考えられている。近年DOMについての詳細な研究が進み、土壌pHや温度などの環境要因によりDOM組成や官能基組成が変化することで、DOMの移動性や反応性に影響を与えると言われている。本研究では、季節によって土壌中のDOM組成が変化し、流域の物質循環に影響を与えていると仮定し、土壌におけるDOMの組成やAl、Feとの反応性が異なると考えられる針葉樹林や広葉樹林の流域おいて、DOMの組成変化が土壌中におけるAl、Feの河川への流出プロセスに与える影響を明らかにすることを目的とし、土壌浸透水をDAX−8樹脂を用いて分画した。土壌への浸透過程でDOC濃度が減少し、主にフルボ酸の画分の濃度低下が顕著に見られ、土壌を移動するに際し高分子のDOMが土壌に吸着されていることが考えられた。また、DOM組成では河川ではフルボ酸がほとんどであったのに対し、すべての地点でO層、B層ともより低分子のDOMが同程度の割合で存在していた。

  • 金指 努, 三浦 覚, 長倉 淳子, 平井 敬三
    セッションID: P1-142
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    福島県およびその隣接県の、放射性セシウムで汚染された地域におけるシイタケ原木林の汚染メカニズム解明のため、福島県田村市都路町にて、コナラ萌芽枝のセシウム137(137Cs)濃度と、土壌化学性との関係を明らかにした。萌芽枝に含まれる非放射性のセシウム133(133Cs)についても、137Cs同様に土壌化学性との関係を明らかにした。福島第一原発事故以降に萌芽が発生した34地点の林分から、休眠期の萌芽当年枝を2016年12月~翌年3月に採取し、137Cs濃度、133Cs濃度及びカリウム(K)濃度を測定した。同期間に表層5cm深までの土壌を採取し、137Cs濃度、交換性133Cs濃度、交換性K濃度及びpH (H2O)を測定した。1N酢酸アンモニウム溶液によって抽出されたK、133Csを交換性とした。当年枝の137Cs濃度と133Cs濃度は、両者の間に両対数軸上で正の相関関係が認められたが、土壌中の137Cs及び交換性133Csとは相関が認められず、pH (H2O) 及び交換性K濃度に対して負の非線形関係が認められた。しかし、当年枝のK濃度は、当年枝の137Cs濃度及び133Cs濃度、土壌の137Cs濃度、133Cs濃度、交換性K 及びpH (H2O) すべてと明確な関係が認められなかった。

  • 橋本 正伸
    セッションID: P1-143
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     きのこ原木林の更新伐施業地における放射性セシウム(Cs-137)の動態の把握は、福島県におけるきのこ原木の生産再開に向けて特に重要な事項である。そのため、福島県田村市及びいわき市の更新伐施業地において、同一切株から時期別(季節別)に萌芽枝(長さ1.5~2.0m程度)を採取し、部位別に分けてCs-137の分布傾向の変化を調査した。採取した萌芽枝は枝及び葉・芽に選別し、枝はさらに4区分(0~30㎝、30~100㎝、100㎝以上、当年枝)した。また、葉は秋期前に萌芽枝全体をネット被覆し、着葉と落葉に細区分した。その結果、各採取時期によらず萌芽枝は当年枝や葉・芽部分のCs-137濃度が高かった。枝については、萌芽枝の根元部より梢端部へ行くほど高い傾向が見られた。萌芽枝全体のCs-137量(濃度×実重量(乾燥重量))の分布割合をみると、当年枝と葉・芽部分のCs-137量が萌芽枝全体の約半分を占めているが、紅葉・落葉が進む秋期(11月)には葉・芽部分の占める割合が減少する傾向が見られ、落葉前にCs-137の一部分が枝部分に戻る可能性が示唆された。

  • 岩澤 勝巳
    セッションID: P1-144
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     福島第一原発事故の影響により、原木シイタケ栽培では原木需給がひっ迫しており、放射性セシウム濃度の低い原木林の再生が急務となっている。そこで、汚染地域にコナラ苗木を植栽して原木林を再生する技術を確立するため、セシウム137濃度が3段階に異なる土壌を入れたポットにコナラ苗木を植栽し、6か月後、1年6か月後、2年6か月後にセシウム137濃度を測定して経年変化を調査した。また、除染資材としてゼオライトと粉炭を施用した場合の効果を検証した。 その結果、セシウム137濃度が9Bq/kg及び89Bq/kgの土壌では、除染資材を施用しなくても、セシウム137濃度の上昇はほとんど認められなかった。このため、このような土壌の低濃度汚染地域では、特に対策をしなくても原木林の再生ができる可能性が高いと考えられた。しかし、1,282Bq/kgの土壌では、除染資材を施用しない場合、コナラ苗木の濃度には上昇傾向が認められた。この土壌にゼオライトを施用した場合は上昇幅が大幅に抑制され、高濃度に汚染された土壌では、ゼオライト施用が放射性セシウム濃度の低いコナラ原木林の育成に有効と考えられた。一方、粉炭の施用効果はゼオライトに比べ限定的であった。

  • 福山 文子, 金指 努, 竹中 千里, 福士 彰久
    セッションID: P1-145
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原子力発電所事故から7年経過したが、現在でも森林内に沈着した放射性セシウムはリター層や表層土壌に多く確認されている。また森林からの流出は少ないことが報告されており、長期にわたり放射性セシウムが森林内に残存すると考えられる。事故後に植栽された樹木への放射性セシウムの移行および樹体内分布については未解明な部分が多い。そこで本研究は放射性セシウムに汚染されていない苗木を植栽し、放射性セシウムの移行について把握した。調査は福島県郡山市の苗畑と伊達郡川俣町の林地で行い、各調査地にコナラ、コシアブラ、アカマツ、スギを植栽した(苗畑;2012~13年植栽、林地;2015~16年植栽)。2016年に苗畑で2017年に林地でサンプル(葉、枝、樹皮、材部)を採取しセシウム137濃度を測定した。また、土壌の化学性と植栽木の移行係数(TFag)の関係を明らかにするために土壌を採取し、分析した。林地の植栽木では苗畑よりも植栽後の経過時間が短いにも関わらず苗畑の植栽木よりも高い移行係数が確認された。これは土壌のK濃度の違いによるものが可能性として考えられた。また、林地の部位別移行係数では材部が葉、枝、樹皮よりも低い傾向にあった。

  • 飯塚 和也, 安田 菜生, 久保田 優美, 大島 潤一, 逢沢 峰昭, 大久保 達弘
    セッションID: P1-146
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    我々は、事故を起こした原発から南西方向に130km離れた栃木県北部の塩谷町で、放射能降下物である137Csの樹木に及ぼす影響を調査している。事故後5年におけるスギとコナラ木部に吸収された137Cs濃度について、スギは心材が辺材より高いが、コナラは辺材の方が高い値を示した。スギは137Csが心材に集積する特徴を示したが、コナラではそのような現象は観察されなかった。コナラ立木について、樹皮の137Cs濃度は2012年12月から2017年12月の間に、500 Bq / kgdw台から200 Bq / kgdw台と半分以下に減少した。しかしながら、木部は心・辺材ともに、この期間中、濃度の大きな変動は観察されなかった。2014年12月に伐採されたコナラの原木を翌年4月にシイタケ種駒の接種後、スギ林の中で露地栽培し、2017年4月に発生した子実体について調査した。樹皮は、栽培の前後で、濃度の平均値に統計的な差は認められなかった。木部は、菌糸が十分蔓延して材全体が白色を呈し、濃度はほぼ均一な値を示した。子実体の濃度は、ほだ木の汚染程度と、相関が高い傾向を示した。

  • 小林 里緒奈, 小林 奈通子, 益守 眞也, 田野井 慶太朗, 丹下 健, 福田 研介, 三浦 覚
    セッションID: P1-147
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウムは、しいたけ原木として利用されるコナラ林を汚染した。再び原木として使用できるコナラを生産するために、コナラのセシウム吸収に関する生理学的特性の解明が求められている。根圏のカリウム濃度を高くすることで、吸収機構の類似しているカリウムとセシウムが競合しセシウム吸収が抑制されるかどうかを、コナラ実生を用いて実験的に調べた。カリウム濃度の異なる水耕液に安定同位体セシウムを添加してコナラ実生を1か月間水耕栽培し、カリウム濃度の違いが実生のセシウム吸収に与える影響を検討した。実生のセシウム含量をICP-MSで測定したところ、高濃度カリウム区のセシウム含量は低濃度カリウム区よりも有意に減少しており、カリウムによるセシウム吸収抑制効果が見られた。また、カリウム濃度の異なる水耕液で実生を1か月間栽培し、その間に発現した根の輸送体がセシウムに対してカリウムをどれだけ選択的に吸収するかを放射性セシウムを用いた吸収実験で調べた。これにより、根圏のカリウム濃度の違いがセシウム吸収に与える影響の解明に輸送体のレベルで迫った。

  • 成松 眞樹
    セッションID: P1-148
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    ホダ場のA0層に含まれる137-Csと134-Cs(Cs)が,ホダ木のCsの放射能濃度(Cs濃度)に及ぼす影響を調査するために,岩手県南部のスギ林の非除染区域3か所へ,2014年から2016年の各年の初夏にホダ木を鎧伏せした。ホダ木は伏せ込み当年に植菌,仮伏せ,Cs濃度測定を行い,伏せ込み時にA0層を採取して,Cs濃度を測定した。ホダ木の採取は,各伏せ込み年の翌年5月以降に2017年まで毎年行い,ホダ木を上部・中部・下部に分割してCs濃度を測定した。ホダ木のCs濃度は伏せ込み後1年間で上昇し,以降は同程度で推移した。伏せ込み1年後の平均Cs濃度は13.8 Bq/kg(含水率12%換算,以下同),伏せ込み3年後の最高値は43.4 Bq/kg(2014年伏せ/2017年採取)であった。伏せ込み後1年間で上昇したCs濃度は2.1~5.4 Bq/kgで,濃度の上昇が高い傾向を示したのは,部位別ではA0層と接する下部,伏せ込み年別では2015年であった。また,2015年のA0層のCs濃度は2調査地で最高値を示した。以上の結果から,A0層からホダ木へCsが移行し,移行の程度はA0層のCs濃度に応じることが示唆される。また,調査地のA0層のCs濃度は低下していることから,ホダ木への移行の程度も減少していると推察する。

feedback
Top