日本森林学会大会発表データベース
第130回日本森林学会大会
選択された号の論文の811件中101~150を表示しています
学術講演集原稿
  • 酒井 敦, 米田 令仁, 稲澤 るみ, 冨田 忠雄, 原 哲郎
    セッションID: E8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    針葉樹人工林から天然下種更新によって針広混交林に誘導する手法を検討するため、25年前に設定された帯状伐採試験地において、高木種(亜高木種含む)の成立本数とサイズを調査した。嶺北森林管理署管内の86年生ヒノキ人工林で1993年から1994年にかけて幅20m程度の帯状伐採を等高線沿いに数カ所実施した。帯状伐採の前に稚樹の発生を促すため予備伐(間伐)を行った。伐採時には一部の区域で地拵えを行い、2007年にはヒノキとスギ以外を刈り払いした。2018年9月に幅2mのベルトトランセクトを帯状伐採区内に3本(尾根部に1本、斜面に2本)設定して、樹高1.5m以上の高木種について本数と胸高直径、樹高を測定した。地拵えを行った尾根部ではヒノキが高密度(13,729本/ha)に成立しており、高木種全体の本数密度は17,627本/haだった。緩い尾根と谷を含む斜面部では高木種の本数密度が4,900~6,985本/haで、ヒノキ、スギ、ヤマザクラ、ヤマウルシ、リョウブなど多くの高木種が成立していたが、樹種構成は伐採区または地形によって異なっていた。当地では予備伐と地拵えの効果により、高木種が十分な密度で成立しており、針広混交林に誘導できる可能性が高いと考えられた。

  • 山岸 極, 伊藤 哲
    セッションID: E9
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    【目的】人工林においては木材生産のみだけでなく他の公益的機能に配慮した管理を行うことが求められている。人工林における林床植生は表層土壌保全機能や生物多様性を高める上で重要である。我々はこれまで、表土保全の面から低木層を保残した間伐の有効性を明らかとし、一方で短期的な評価から林床植生の発達が抑制されることを示した。本研究では7年目の林床植生調査データを加え、林床植生の種組成に対する中長期的な評価を行うことを目的とした。【方法】間伐及び下層刈払いの有無で4パターンの処理区を設定しているヒノキ人工林で調査を行った。伐採後2、3、7年目に、各処理区に設けた1m×1mの定点観察用プロット内で地上50cm以下の維管束植物の種名、被度を計測した。【結果】2、3年目の時点で下層を保残した間伐区よりも下層刈り払いを伴う間伐区で林床植生被覆および種数が高くなった。また、各間伐区における経年変化に増減がみられなかったため、7年目においては処理間の違いは同様に下層刈り払いを伴う間伐区で高くなった。これらの結果から、下層保残間伐による植生発達および種数の増加は中長期的にも期待できないことが明らかとなった。

  • 江島 淳
    セッションID: E10
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     佐賀県では、家具産地が県内にあることから、広葉樹材を単伐期で収穫できる樹種が望まれている。しかしながら、広葉樹造林は、樹種ごとに植栽適地が異なることや、育林過程における病虫害、通直な材の確保が難しいなど、樹種の選定だけではなく育林過程においても課題が多い。 そこで、広葉樹造林地の現況を詳細に把握するため、2008~2013年にかけて環境保全目的に複数樹種を混交して植栽した広葉樹造林地16箇所(23樹種、1,112個体)の各個体を対象に、樹高、胸高直径、樹冠幅、病虫による被害、枯死について2013年から5年間追跡調査した。 調査結果をもとに、樹種別・立地区分別に成長量(樹高・胸高直径・樹冠幅)や枯死率について解析し、樹種特性を明確にするとともに、樹木配置とあわせて林分の発達過程を明らかにし、早生樹として期待できる樹種の特徴や複数樹種を混植することの効果について考察する。

  • 正木 隆, 中岡 茂, 大木 雅俊, 青木 理佳, 朝倉 嘉勇, 五十嵐 徹也, 星野 大介
    セッションID: E11
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    巨大なクロマツが生育する神奈川県真鶴町の森林、通称「お林」で調査を行い、クロマツの成長と生存を予測するモデルを作成した。約50haのお林に面積400m2の円形プロットを約100m間隔で43箇所設置し、2015~2018年にプロット内の全個体の胸高周囲長を測定した。また、クロマツの樹高と枝下高を2017~2018年に測定した。Matsushitaら(2015)のモデルを基本に、クロマツの年直径成長量を応答変数とし、自身の直径と樹冠長率、プロット内の他個体BA、個体差を固定効果として定式化しパラメータを推定した結果、高精度の成長モデルが得られた(r=0.92)。クロマツの枯死確率については、2015~2016年の直径と直径成長量を固定効果に2017年(通常年)と2018年(稀な巨大台風が直撃)の生存・枯死を定式化し、パラメータを推定した。その結果、通常年の枯死率は直径成長量のみに左右されるが、巨大台風直撃年にはさらに直径の影響も加わり、巨大かつ低成長の個体が枯死しやすい傾向が見られた。以上から、直径、樹冠長率、周囲の広葉樹BAを計測することで成長量の推定が可能であり、それにより通常年および巨大台風が来襲した際の枯死リスクも事前に個体ごとに見積もることができる。

  • 杉田 久志, 高橋 利彦, 猪内 次郎, 田口 春孝
    セッションID: E12
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    地掻き処理を行って落葉・腐植層を攪乱することは、ウダイカンバなどの種子休眠性をもつ樹種の実生更新を促進する(梅木 2003;杉田ら2015)一方で、伐根や前生稚樹に著しい損傷を及ぼして前生個体による森林再生にマイナスの効果を及ぼすだろう。そのため、どのような地掻き強度が更新に最適なのか検討する必要がある。そこで岩手県小岩井農場山林のカラマツ人工林皆伐地において3段階の強度(A:A層まで攪拌、B:L・F層を掻く、C:無処理)で地掻きを実施し、2つの林床型(ササ密、ササ欠)について伐採15年後の更新状況のちがいを解析した。ウダイカンバ稚樹の発生はC区ではほとんどなかったが、A区、B区ではともに多かった。ほとんどあるいはすべて単幹個体である樹種(単幹樹種)では、ウダイカンバ、カラマツのように地掻き強度が大きいほど伐採15年後の幹密度・胸高断面積が高いものが多くみられた。複幹個体が多くみられる樹種(複幹樹種)では、ホオノキ、ウワミズザクラのように逆の傾向を示すものがみられ、とくにA区での低下が顕著だった。以上のように地掻き処理は単幹樹種の新規加入をもたらすが、強すぎる処理は複幹樹種の再生を阻害することが示された。

  • 沼宮内 信之, 白旗 学
    セッションID: E13
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    コナラ二次林の伐採21年後の林分構成を調べた。1996年4月に伐採し,小型掘削機で土壌表面を剥ぎ取ったPlot A,草刈り機で刈払ったPlot Bを設定し,その後,母樹から種子が落下した。1996年秋の種子落下量は,近傍のコナラ二次林で200個/m2の落下であった。2017年,コナラ更新木は母樹の周辺に集中する傾向が見られ,Plot Aでは219本/ha,Plot Bでは195本/haが生育していた。平均胸高直径はPlot Aでは2.5cm,Plot Bでは4.8cmであった。平均樹高はPlot Aでは4.2m,Plot Bでは6.6mであった。試験地で確認された全樹種数は49種類であり,Plot Aでは35種類,Plot Bでは47種類であった。全樹種の生育本数はPlot Aでは3158本/ha,Plot Bでは4835本/haであった。胸高断面積合計はPlot Aでは17m2/ha,Plot Bでは32m2/haであった。ホオノキ,ミズキ,キタコブシ,ハクウンボク,ウワミズザクラが広範囲に分布した一方,クリ,コナラは集中して分布していた。母樹保残法によるコナラの天然下種更新は,更新面に約200個/m2以上の種子落下があること,丁寧な地床処理によって発生実生数を増加させることで可能と考えた。

  • 佐藤 保, 北岡 晢
    セッションID: E14
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     かつて薪炭林として利用されていたコジイの萌芽林はかつてないほどに高齢化、大径木化している。大径木化したコジイは、萌芽能力が著しく低下することが指摘されている。このような林分(放棄された薪炭林由来の高齢化した二次林)はどのようにして更新するのか不明な点が多く、今後の施業を考える上で造林学的及び生態学的な基礎データの集積が必要である。長崎森林管理署藤の平国有林管内にかつて設定されていた薪炭林樹種改良試験地は、1ヘクタール規模の試験地であるが、択伐等の異なる施業による萌芽更新の動態を長期間にわたり調査した貴重な林分である。前回(1971年)の調査から43年後の2014年に、皆伐区、弱度間伐区、強度間伐区、保存区(2反復)の5つの区画で標準地を設定して、胸高直径5cm以上の樹木個体を対象に毎木調査を実施した。おおまかな傾向として、いずれの区画も本数は減少するものの、材積が増加しており、コジイの優占化が進行かつ維持されることが示された。一方でコジイの一部個体では、根返りや絹皮病による幹折れなどの折損、枯損被害が発生しており、今後のコジイ優占の度合いに変化が生じる可能性があることが示唆された。

  • 高橋 輝昌
    セッションID: E15
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     有用樹種であるクロモジは通常、林内に点在している。また、用途によって求められる樹形やサイズが異なる。クロモジの効率的な生産方法について検討するため、日照条件の異なるところにクロモジの苗木を植栽し、生育量や樹形の変化を調査した。千葉県袖ヶ浦市の樹林地(樹冠下区)と樹林の伐採跡地(日向区)に2017年3月から5月にかけて、クロモジの苗木を植栽し、調査区とした。2017年5月から2018年11月にかけて、各調査区のクロモジ苗木の幹長と地際直径を測定した。2017年には、クロモジ苗木の成長量に調査区による違いが見られなかった。2018年には日向区で樹冠下区よりも成長量が大きかった。苗木の枯死率は樹冠下区よりも日向区で高く推移した。クロモジ苗木の中には、萌芽を発生させるものがみられた。苗木1本あたりの平均萌芽数は、日向区で樹冠下区の約2倍であった。萌芽を発生させる苗木個体のサイズは、発生させない個体よりも小さい傾向にあった。日当たりの良いところでは、クロモジの枯死率が高くなるものの、生存個体の生育量が大きく萌芽が発生しやすい。一方、日当たりの悪いところでは、枯死率が低く、萌芽を発生させにくい。

  • 山浦 悠一, David Lindenmayer, 山田 祐亮, Hao Gong, 松浦 俊也, 光田 靖, 正木 隆
    セッションID: E16
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    人工林に生育する在来樹木の量は人工林の生物多様性の保全価値の指標になる可能性がある。本研究では、階層モデルの枠組みと森林生態系多様性基礎調査(national forestry inventory「NFI」)の毎木データを用いることにより、日本の針葉樹人工林内に生育する広葉樹の胸高断面積合計(BA)をモデル化した。広葉樹BAの林齢に伴う増加速度を、植栽樹種、植栽木の密度、気候、地形、景観の共変量の関数とした。その結果、植栽樹種は大きな影響を有しており、スギとヒノキは広葉樹の増加速度が低かった。他の樹種(アカマツ、カラマツ、トドマツ、アカエゾマツ)では20年生程度からBAが増加し始め、50年生程度になると天然老齢林のBAの10-20%のBAを有していた。植栽樹の密度が少ないほど広葉樹BAの増加速度は高く、そのほかの共変量を含めて、概して影響は非線形だった。植栽樹種と植栽木の密度の影響が特に大きかったことから、これに関連する施業は人工林の生物多様性保全上の価値に大きく影響するだろう。在来樹木は人工林でも条件によっては生育しうるため、施業の際に保持することは、保全上有意義だと考えられる。

  • 福井 翔宇
    セッションID: E17
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    静岡県では、全国に先駆け森林情報のオープンデータ化に取り組んでおり森林簿や森林計画図の他、CS立体図や5mメッシュの樹高データをオープンデータとして配布している。この樹高データは点密度1点/m2程度の航空レーザ計測データから作成しており、低密度ではあるが樹高に関する信頼性は高い。地位指数曲線の作成には、現地調査により取得した樹高と森林簿の林齢とを対応させる場合が一般的であると想定されるが、樹高情報を航空レーザ計測データから作成することにより、より簡便かつ均質的なデータ、手法により地位指数曲線を作成することが可能であると考えられる。本研究では静岡県の天竜計画区において航空レーザ計測データによる樹高情報と、森林簿の林齢情報とを成長曲線式に当てはめ、スギおよびヒノキについて地位指数曲線を作成した。また同じくオープンデータである基盤地図情報から航空レーザ由来の5mメッシュの標高データを使用し、地位指数と地形の関係解析を実施し、DEM(数値標高モデル)に基づく地位指数の推定における課題について検討した。

  • 水永 博己
    セッションID: E18
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     全国的に皆伐更新作業が促進され、100ヘクタールを超える皆伐地も少なくなくなった。皆伐更新は施業対象場所の林分構造を均質化し単純化させる一方で、発達段階の異なる粗いパッチ構造を創出できる可能性があり、景観構造の複雑性に関わっている。伐採更新作業を空間構造からとらえる立場に立てば、その作業がもたらす林分構造と景観構造の複雑性への影響を明らかにすることと、生態系サービスや突発イベントへの頑健性に及ぼす林分構造・景観構造の複雑性の役割を整理しておくことは重要であると考える。本研究では単木択伐(現実可能な作業として現在ほとんど選択されていない)から大面積皆伐(最近行われ始めた)までの様々な伐採形態が形成する林冠構造について、その複雑性の役割を生産力・植生の発達・ストームへの耐性の点から考察する。さらに皆伐の実行上、伐採パッチや保残区をどのように配置するのか、伐採パッチの広がりはどこまでの面積が対象地域において許されるのかは重要な課題である。そこで景観スケールでのパッチ構造のきめの粗さの役割についての研究も紹介したい。

  • 紙谷 智彦, 箕口 秀夫, 村上 拓彦, 塚原 雅美
    セッションID: E19
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    成長を続ける旧薪炭林で用材生産が可能になれば、人工林率が低い豪雪地域でも広葉樹林業を展開できる可能性がある。一般に、広葉樹は製材歩留まりが低く、板挽き後の形質も一定では無い。収益性を考慮して広葉樹を活用していくためには、立木から丸太、挽板にいたる過程で、的確な歩留まりと形質の評価が求められる。本研究は新潟県魚沼市大白川地区において、立木位置・投影図と毎木データが完備した約2haの80~90年生ブナ林で行った。収穫にあたって、原生林型のモザイク構造への誘導を前提とした伐採方法を採用した。2018年10月に小面積のギャップを単位とした5区画で伐採を行った。区画伐採で得られたDBH20~80cmのブナ117本の約半数を1200枚の板に挽き、材積の歩留りと板材の形質を評価した。その結果、歩留りは、立木から丸太では80%を越え、過去の間伐効果を反映していた。これらの丸太からの挽板では、約6割でクワカミキリ由来の穿孔、約4割で木材腐朽菌由来の偽心材が出現した。これらダメージ材であっても、新潟駅新幹線待合室などのベンチ、テーブル、椅子などに使われ始めていることから、持続的なブナ林業の可能性がみえてきた。

  • 加藤 朱音, 湯本 景将, 今井 亮介, 齊藤 陽子, 津田 吉晃
    セッションID: F1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    種の現在の遺伝構造から推定できる過去の気候変動に伴う分布変遷、集団動態に関する情報は森林の温暖化影響予測の上で非常に重要である。そこで本研究では森林限界付近にまで分布する先駆種で、温暖化に伴う分布移動などの影響評価を行うのに適しているカバノキ科カバノキ属ダケカンバ(Betula ermanii)に着目し、国内では四国以東に自生する44集団489個体を対象に母性遺伝する葉緑体DNAのCpSSRを用いて遺伝構造を調べ、本種の分布変遷を評価した。その結果、主要ハプロタイプ1は関東地方北部周辺をおおよその堺にその北に分布し、もう1つの主要ハプロタイプ2はその南に分布するパターンがみられた。但し、これらハプロタイプの分布は完全には南北で分化しておらず、集団分化程度を示すFSTは0.725 であり、高いとはいえ近縁種のウダイカンバなどはよりは低い値であった。これについてはダケカンバはその強い耐寒性のために最終氷期最盛期などの氷期の間も他樹種ほどは分布縮小せず、より連続的に分布できたためと考えられる。さらに独立峰である鳥海山や、栗駒山、四国などの隔離集団からは固有なハプロタイプが検出され、過去の局所的な逃避地の存在が示唆された。

  • 北村 系子, 津田 吉晃, 今井 亮介, 松尾 歩, 陶山 佳久
    セッションID: F2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    ブナ天然林の分布北限は北海道渡島半島北部にあり、現在分布を北に拡大していると考えられる。既知の北限ラインから北へ12km離れた地点に新たに北進最前線と考えられるブナの小集団が発見された。当該集団は数十個体の成熟木と若木、稚樹からなり、実生繁殖も行われている。周辺にはブナ集団あるいはブナの個体は発見されていないことから、既知の北限集団から種子が運ばれて定着した創始者集団だと考えられる。この集団を構成するブナはどの集団に由来するかを探るために、既知の北限ラインに位置する隔離小集団、北限地帯の比較的大面積の集団とともに、核マイクロサテライト、EST-SSR、MIGseqデータによる解析を行った。いずれの集団についても過去の集団減少パターンがみられたが、その減少強度や時期は集団によって異なっていた。ブナは北限に近づくほど遺伝的多様性が低くなることが知られているとおり、新たに発見された北進最前線集団の遺伝的多様性は低く、有効な集団サイズも小さかった。また、この集団への遺伝子流動も小さいことことが示唆された。これらの時間スケールの評価について現在解析を進めている。

  • 中西 敦史, 永光 輝義, 内山 憲太郎, 清水 一
    セッションID: F3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     北海道におけるカシワ集団北限以南の海岸林では前縁にカシワ、後背にミズナラが生育する。一方で、さらに北の、カシワが非常に少ない道北海岸林では、前縁にもミズナラが生育し、カシワに似た形態をもつ。これまでの研究により、道北海岸林のミズナラは浸透交雑によりカシワから耐塩性形質に関連した遺伝子を獲得している可能性が示唆された。一方、最近、ヨーロッパのコナラ属において、全12染色体上の96%の塩基配列が公開された。本研究では、このデータベースを基に、カシワからミズナラへの適応的浸透交雑遺伝子座の検出を試みた。その結果、54遺伝子座において、中立的な浸透交雑と異なる遺伝子浸透パターンが示された。それらの遺伝子座では、カシワからミズナラへの適応的浸透交雑だけではなく、ミズナラからカシワへの適応的浸透交雑や、ゲノム背景に依存した浸透交雑も示された。また、カシワからミズナラへの適応的浸透交雑遺伝子座の中で、海岸ストレスの影響を受ける遺伝子座も検出された。さらに、適応的浸透交雑遺伝子座の57.4%が、タンパク質コーディングと関連する遺伝領域に位置することが明らかになった。

  • 伊津野 彩子, 小野田 雄介, 甘田 岳, 井鷺 裕司, 清水 健太郎
    セッションID: F4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    ハワイ諸島の多様な環境に生育するハワイフトモモには、葉トリコーム (毛) 量に著しい種内多型が見られる。本研究では、樹木における形質進化の遺伝的機構を理解するために、ハワイフトモモの葉トリコーム形成に寄与する遺伝子を探索した。ハワイ島マウナロアの亜高山帯において、優占して生育する有毛型個体の遺伝子発現パターンを、低頻度に生育する無毛型個体と比較したところ、741遺伝子の発現が増加し、553遺伝子の発現が減少していた。有毛型個体において発現が増加していた遺伝子群には、TBL (Trichome birefringence-like protein)、FLA (Fasciclin-like arabinogalactan protein) などが含まれ、これらは本種の葉トリコーム形成に関わると考えられる。一方、無毛型においては、エチレン応答性の転写因子ERF (Ethylene-responsive transcription factor) や、気孔形成を制御するFAMAなどの発現が増加していた。このことから、無毛型は、有毛型よりも強いストレスを受けている可能性や、より多くの気孔を発達させることによりガス交換効率を増加させている可能性が示唆された。

  • 後藤 晋, 種子田 春彦, 久本 洋子, 伊原 徳子, 平尾 聡秀
    セッションID: F5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    急速な地球温暖化は森林生態系に大きな影響を与えることが予測されている。しかし可塑性が高い樹木の場合、ある程度の気候変動には対応できる可能性がある。樹木実生の温暖地への移植実験は、現在や将来の温暖化が生存、成長、生理に及ぼす影響を考える上で有用な知見を与えてくれる。本研究では、日本の北方林に自生するトドマツ、アカエゾマツ、エゾマツの3種の実生を、自生地である富良野、温暖地である秩父と千葉に植栽し、3年にわたり生存と成長、生理形質を調べた。トドマツはいずれの植栽地でも高い生存率を示したが、エゾマツは温暖地で生存率が有意に低下した。成長については、いずれの樹種も自生地に比べて、温暖地で有意に低くなった。温暖地で成長低下が起こる要因としては、光合成効率、シュートの形態、葉の窒素濃度が考えられた。また、光合成効率やSLAなどは、2年目と3年目で傾向が異なり、わずかな年数で変化する可能性が示唆された。

  • 那須 仁弥
    セッションID: F6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    アカマツは本州から屋久島にかけて広く分布し,成長等の地理的変異が報告されている。この地理変異は遺伝変異と環境応答によるものと考えられ,環境応答は遺伝子型と環境の交互作用(GE交互作用)とも表される。アカマツのGE交互作用について理解を深めることはアカマツの保全および育種に重要である。本報告ではアカマツ次代検定林の成長記録を使用してGE交互作用の検出とその交互作用に影響を与える気候条件について検討を行った。青森,岩手,宮城に設定された12カ所の次代検定林の15年次と20年次の成長記録から材積の相対成長速度(RGR)を求め,家系と検定林を要因とする分散分析を行った。家系と検定林の交互作用の分散は家系の分散より大きくGE交互作用が検出された。GE交互作用に影響を与える気象条件の検索には材積のRGRについて家系と検定林を要因とするFA model(Cullis et al.2014)で交互作用の因子から検定林のメッシュ気候値との相関を求めた。因子と8月の日照に関する気候値が負の相関が見られた。発表では各検定林の調査当時の気象データを加えて報告する。

  • 池田 武文, 中川 拓真, 河合 慶恵, 三浦 真弘, 久保田 正裕, 笹島 芳信, 林田 修
    セッションID: F7
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    はじめに:スギの水不足に対する適応能力の遺伝的差異に着目し、土壌水分の多少に対する苗木段階の水分生理特性が成木段階の成長の指標となり、優良個体の早期選抜に役立つか検討した。材料と方法:林木育種センター関西育種場保有のスギ精英樹原種園から、成長の良い3系統と劣る3系統より採穂してさし木苗を作出した。温室内の大型苗床で育成した一年生さし木苗を2段階の土壌水分(灌水区、水ストレス区)下におき、水分生理特性、クロロフィル蛍光特性、苗のT/R比を測定した。結果と考察:成長の良いスギ系統は劣る系統よりも浸透調節能力に優れ、水不足下で針葉の水ポテンシャルが低下しても水を獲得できる、乾燥への高い適応性が特徴であり、膨圧消失時の水ポテンシャルΨw,tlp、飽水時の浸透ポテンシャルΨs,satは成長の優劣を判断する指標となりうると考えた。このΨw,tlp、Ψs,satと細胞の体積弾性率の最大値εmaxの3つのパラメータとT/R比との関係より、これらのパラメータは密接に関わりあって変化することがわかった。細胞のεmaxの上昇は、水ポテンシャルの低下による原形質分離の危険性が少ないときにのみに行なう水不足への対応であることがわかった。

  • Hirofumi Sato
    セッションID: F8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     特定母樹は,国が指定する成長性に優れた雄花着生の少ない樹木で,得られた種苗には下刈り省略等造林コストの削減や花粉発生源の抑制が期待される。このため,秋田県では,特定母樹と同等の形質を持つスギの選抜に取り組んでいる。講演では,その挿し木苗育成の過程で得た知見を報告する。県選抜木28系統,林木育種センター東北育種場より配布された特定母樹8系統及び精英樹(従来の種苗生産木)34系統を用いた。これらの1~2年生苗を2017年10月に300ccマルチキャビティコンテナに移植し,ヤシ殻粉砕物を主体とする培地で育苗した。苗木はガラス温室で越冬後,翌年4月から屋外で懸架育苗した。1系統当たり8本の苗木について,4,6,10月に苗高を調べたところ,特定母樹と選抜木の苗高は,6月の時点で精英樹より高い傾向がみられた。また,7月中旬に選抜木と一部の精英樹の各苗にジベレリン100 ppm水溶液を葉面散布し,11月から雄花着生量の調査を行った。その結果,精英樹では少花粉品種で雄花量が少ない傾向にあったことから,選抜木では本調査を現地調査と並行して実施することで,特定母樹の1要件である雄花着生の少ない形質を早期に検出できることが示唆された。

  • 宮本 尚子, 飯野 貴美子, 井城 泰一, 井上 晃, 小川 健一, 笹島 芳信, 竹田 宣明, 那須 仁弥, 湯浅 真, 米澤 実
    セッションID: F9
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    現在、東北地方において一般的なスギコンテナ苗の山出しまでには播種から最短でも2年以上かかっている。播種から2年かからず出荷することができれば、コンテナ苗の冬越し費用が不要になり、資材や土地を再生産に回せるため、コンテナ苗生産の低コスト化ができると考えられる。そこで、スギコンテナ苗の育苗期間の短縮を目指し、育種種苗の系統による苗高の変異幅と、植物の光合成プロセスの促進が期待できるとして近年注目されているグルタチオンの利用について検討した。育種種苗25系統について2017年春に露地に播種し、2018年春からの一成長期間をコンテナで育苗したものについて、成長休止後に苗高調査を行った。その結果、苗高の系統間には有意差があり、またグルタチオンの施肥にも有意な正の効果があった。苗高が最大のものでは岩手県の山出し苗の規格である35cmに達するものがあった。成長の良い系統の使用と、グルタチオン施用による成長促進を通して、2年かからず山出しできる苗木の割合を高めることにより生産の低コスト化に寄与できると考えられた。本研究は生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の支援を受けて行った。

  • 齋藤 央嗣
    セッションID: F10
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    無花粉スギはメンデルの法則で劣性遺伝するため、劣性ホモの無花粉スギにヘテロの個体の花粉を交配することにより、種子による苗木生産が可能であるが、1/2は可稔となるため苗木の検定が必要になる。苗畑で雄花を潰す簡易な検定法を開発し実用化しているが、その効率化が課題になっている。そこで無花粉スギ検定に要する労力を軽減のため目視による無花粉スギの判定とコンテナ苗による効果を試した。県内の苗木生産者3軒で2016年春に播種した無花粉スギ実生苗に7月にGA3(50ppm)を散布し雄花の着花促進を行った14,934本の苗木の無花粉検定を行なった。雄花の着花率は90%と高率であったが、30年春は雌花のみ着花した個体や、秋に開花した個体が多く観察され(9.7%)、一部では検定が実施できなかった。検定の結果、無花粉個体の出現率は41.6%で、期待値(50%)を下回っていたが、目標の5,000本を上回る5,614本の無花粉スギを生産した。秋の高温と1月の低温等の気候条件の影響で、目視による検定は判定が困難であった。一方、生分解性コンテナ苗によるコンテナ苗の検定効率は46.7本/h/人となり、路地苗(37.8本/h/人)に比べ2割以上の効率アップが確認された。

  • 梅林 利弘, 山岸 松平, 内海 泰弘, 佐野 雄三
    セッションID: G1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    苗木の掘り取り後に起きる葉の萎れを水輸送の観点から理解する目的で、カラマツとウダイカンバを対象に根切り3日後における樹幹の水輸送量を定量的に評価した。苗畑に植栽されている苗木を対象に、晩夏に根を全て切除した個体(根切り区)と掘り取りを行わなかった個体(対照区)を用いて、地際から約5cm上部と約30cm上部の樹幹の透水コンダクタンスをそれぞれ測定した。対照区の30cm上部における透水コンダクタンスを比較した結果、ウダイカンバはカラマツよりも約4.5倍高かった。計測時には根切りによる葉の萎れはウダイカンバで認められたが、カラマツでは認められなかった。カラマツの根切り区では透水コンダクタンスの減少はほとんど認められなかったが、ウダイカンバの根切り区では30cm上部で35%、5cm上部で86%減少していた。本試験結果から、幹の透水コンダクタンスの高い樹種は、根切りによる幹全体の脱水が生じる前に葉の萎れが起きることが示唆された。

  • 三木 直子, 粟飯原 友, 小笠 真由美
    セッションID: G2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    変動する土壌水分条件下で木部通水機能を維持する上で重要な通水機能の回復性は、空洞化した道管が再び水で満たされること(再充填)によって起こると考えられている。道管の再充填による回復性は種によって様々であるが、種特有のどのような生理的特性が種間差に影響するのかについては明らかにされていない。再充填は隣接する生細胞から空洞化した道管への糖輸送に基づく浸透勾配が引き金となり起こると考えられていることを踏まえると、再充填による回復性の種間差には、糖の輸送に関わる生理特性が影響することが予想される。本研究では、回復性の異なる落葉広葉樹6種のポット苗を用いて、糖の輸送に関わる樹体の生理特性(最大光合成速度、幹の可溶性糖含量、葉の膨圧を失うときの水ポテンシャル、木部の構造的特性など)を求め、これらと通水機能の回復性との関係性を評価した。その結果、回復性の種間差には湿潤下での光合成能力の高さや幹の可溶性糖含量の高さが関与していると考えられた。さらに、乾燥下で葉の膨圧を維持し活性を維持できるかどうかが、葉から幹への糖の転流や、空洞化した道管への糖の輸送へ寄与している可能性が考えられた。

  • 工藤 佳世, 内海 泰弘, 黒田 克史, 山岸 祐介, 半 智史, 鍋嶋 絵里, 細尾 佳宏, 安江 恒, 高田 克彦, 船田 良
    セッションID: G3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    落葉広葉樹環孔材は、当年に形成された孔圏道管が主な通水経路であるが、その年の秋から冬にキャビテーションを起こし通水機能を失う。従って、毎年春に孔圏道管が形成されることは環孔材の成長に必要不可欠である。本研究では、春先の孔圏道管の形成過程と葉のフェノロジーとの関連性を解明することを目的とした。コナラの成木を用いて、地上高別に孔圏道管の形成過程を光学顕微鏡を用いて解析し、葉のフェノロジーと比較した。その結果、開芽前に、すでに樹幹全体で孔圏道管の形成が開始していた。開芽時には、せん孔が形成された孔圏道管が樹幹の上部では認められたが、同一樹幹の中部および下部では認められなかった。また、低温走査電子顕微鏡を用いて苗木樹幹の水分布を細胞レベルで観察したところ、芽の伸長時に樹幹上部においてのみ当年孔圏道管の内腔が水で満たされていた。この時、観察したすべての高さにおいて前年孔圏外道管は水で満たされており通水可能なネットワークが存在していた。従って、コナラにおいて開芽時には通水可能な当年孔圏道管ネットワークは樹幹全体で完成しておらず、前年孔圏外部のネットワークを通した通水が開芽に寄与しているといえる。

  • 矢崎 健一, 木村 芙久, 佐橋 憲生, 秋庭 満輝, 張 春花, 小嶋 美紀子, 竹林 裕美子, 榊原 均, 才木 真太朗, 石田 厚, ...
    セッションID: G4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    南根腐病は熱帯地域の多犯性の樹病で、担子菌の(Pyrrhoderma noxium)が樹木の根に感染することで罹病し、根の枯損や葉の萎凅が生じて枯死に至る。しかしながら、本病による枯死の生理的な要因はこれまで不明であった。そこで実験的に実生を本病に罹病させ、菌糸の侵入の程度と葉および根の生理活性低下との関係を評価した。供試木としてシャリンバイ(Rhaphiolepis umbellata)とアカギ(Bischofia javanica)の実生を本病に感染させたものを用いた。定期的に気孔コンダクタンス(gs)、クロロフィル蛍光およびA/Ci曲線を測定し、採取後に幹の水ポテンシャル(ψ)および根の透水コンダクタンス(Kr)を測定した。また、採取した葉の非構造性炭水化物量(NSC)とアブシシン酸濃度[ABA]を測定した。根の切片の蛍光観察により菌糸の侵入を指標化し、各種生理特性との関係を調べた。その結果、両樹種とも菌糸の侵入に伴い、Krの低下よりも、gs、各種光合成機能およびNSCの低下を顕著に引き起こしていた。またアカギでは[ABA]が増加していた。一方、両樹種ともψは高いままであった。従って本病による枯死の要因は、通水阻害よりむしろ光合成の機能不全である可能性が示された。

  • 谷口 真吾, 上原 文, 松本 一穂
    セッションID: G5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    【研究目的】リュウキュウコクタン(Diospyros ferrea)の繁殖枝に環状剥皮と摘葉を施し、繁殖資源の配分を繁殖モジュール単位で検証した。【方法】供試木は樹高5.0m、胸高直径18cmの40年生雌株2個体である。開花期である2018年5月中旬に繁殖枝の無剥皮区と剥皮区に摘葉処理する(摘葉しない0%摘葉区、葉数の50%摘葉区、葉面積の50%摘葉区、100%摘葉区)の8処理区を設けた。幼果実のステージである同年6月下旬、繁殖枝を覆うチャンバーの中で安定同位体である13CO2を無剥皮区と剥皮区の0%摘葉区にそれぞれ同時に発生させ、トレーサー実験法により光合成産物の転流を追跡した。さらにトレーサー実験後から果実の成熟段階(7月上旬、7月下旬、8月下旬)に応じて繁殖枝をサンプリングし、処理区ごとに葉、枝、果実の可溶性全糖を定量した。【結果と考察】果実の高さは無剥皮区、剥皮区とも0%摘葉区が最も高く、100%摘葉区は最も小さかった。13Cは無剥皮区の100%摘葉区における果実と枝に高濃度に検出された。この結果、無剥皮区では0%摘葉区から100%摘葉区への光合成産物の転流が認められた。この転流現象とともに、定量した可溶性糖の動態と果実サイズの変動を考察する。

  • 吉村 謙一, Citra Gilang Qur'ani, 近藤 裕貴
    セッションID: G6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    常緑広葉樹は一般に温暖な地域で生育するが、寒冷地であっても多雪地の林床面でしばしばみられる。この理由は雪の保温効果により説明されることが多い。つまり、気温は氷点下になっても雪中温は氷点下にならないため、雪の中では保温されて生育できるというものだ。一方で、雪の中は暗いため光合成ができない恐れがあり、雪中環境は植物にとってメリットがあるとは言い切れない。そこで、積雪が常緑広葉樹実生の生理機能に及ぼす効果およびその生死に与える影響を明らかにするために積雪・非積雪の条件下で光合成・呼吸の変化を調べることにした。山形大学農学部苗畑にてシラカシ、ウバメガシの当年生実生を準備して、1月に積雪および非積雪処理をおこなう。なお、この時期に積もった雪は春まで融けることなく維持される。その後、定期的に実生苗をサンプリングし、個体レベルおよび各器官の光合成、呼吸速度を測定する。各器官の現存量および呼吸速度から各器官の活性を定量化し、もし積雪・非積雪処理が常緑広葉樹の生死に影響を及ぼすならば、どの器官から活性が低下するのか明らかになると考えられる。

  • 田原 恒, 西口 満, 宮澤 真一, 深山 貴文, Juliane Mittasch, Carsten Milkowski
    セッションID: G7
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    演者らは、Eucalyptus camaldulensis(ユーカリ)の加水分解性タンニンにアルミニウム無毒化という新しい機能があることを見出している。本研究は、シキミ酸経路から加水分解性タンニン生合成経路への分岐に位置する没食子酸合成を触媒するシキミ酸脱水素酵素(shikimate dehydrogenase, SDH)をユーカリで同定することを目的とした。ユーカリの根から目的酵素の候補cDNAを4種類単離し(EcSDH1-2-3-4)、N末端にGSTタグを融合した組換えタンパク質として大腸菌で異種発現させた。EcSDH1と-2、-3の組換えタンパク質は、可逆的なSDH活性とともに、NADP+を補因子として3-デヒドロシキミ酸の酸化により没食子酸を合成する活性を示した。一方、EcSDH4は、これらの活性を示さなかった。また、EcSDH1と-2、-3の遺伝子は、ユーカリの葉、茎、根のいずれでも発現しており、没食子酸の含有とも一致した。これらの結果から、ユーカリでは、EcSDH1と-2、-3が加水分解性タンニン生合成経路における没食子酸合成に関わっていると考えられた。

  • 斎藤 秀之
    セッションID: G8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    ゲノム情報に基づく樹木のストレス診断技術の開発にむけて、診断指標となる遺伝子の発現パターンの評価に取り組んでいる。リボソームは様々な遺伝子の翻訳に携わることから、リボソームに関連する遺伝子の発現パターンは、供試する組織や器官の活力を包括的に評価できる指標として期待される。本研究はブナの葉を対象にリボソームに関連する遺伝子の発現パターンについて、全国25ヶ所のブナ林における健全木と衰退木の比較、壮齢木と過熟木の比較、硫酸・硝酸・過酸化水素などの酸化ストレス操作実験により影響を調べた。またエピジェネティック制御機構のひとつであるDNAメチル化を定量的に調べ、転写量との関係からエピジェネティック制御の可能性について検討した。さらに、開葉前の環境ストレスと夏季の機能発現についてエピジェネティック制御の観点から検討した。これらの結果から、リボソームに関連した遺伝子群の診断指標としての有効性について考察したところ、リボソームRNAの16S/18S比がストレス診断指標として有望であること考えられた。

  • 西口 満, 二村 典宏, 大宮 泰徳, 遠藤 真咲, 三上 雅史, 土岐 精一, 小長谷 賢一, 七里 吉彦, 谷口 亨, 丸山 E. 毅
    セッションID: G9
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    スギ(Cryptomeria japonica)花粉症は、日本国民の約3割に広がっているとの報告もあり、深刻な社会問題となっている。花粉症対策の一つとして、花粉の形成機構を解明し阻害することができれば、花粉の飛散量を減らすことが可能となる。本研究では、ゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9法を用いて、スギの花粉形成に関わる遺伝子に変異を導入し、花粉形成への影響を調べた。スギの花粉形成関連遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9ベクターを構築し、アグロバクテリウム法により遺伝子組換えスギを作出した。遺伝子組換えスギのゲノムDNA中の標的遺伝子には欠失変異が見つかり、スギでもゲノム編集による遺伝子変異が生じることが分かった。夏季にジベレリンを散布し、遺伝子組換えスギの花芽形成を誘導した。標的遺伝子の両対立遺伝子に欠失変異が生じた遺伝子組換えスギでは雄花中に花粉が検出されなかったが、非組換えスギでは花粉が作られていた。従って、スギの花粉形成関連遺伝子に変異が起こることにより、無花粉になることが示された。本研究は、内閣府SIP次世代農林水産業創造技術により実施されました。

  • 和田 直也, 清野 達之, Khatancharoen Chulabush, 露木 聡, 杉浦 幸之助, Bryanin Semyon V. ...
    セッションID: H1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    ロシアは莫大な森林面積を有し、豊富な森林資源に恵まれているが、一方で違法伐採や森林火災が森林資源を衰退させ様々な生態系サービスを劣化させる要因として懸念されている。自然保護区の設定は、このような要因を制御することにより、立木密度を適正に保つと同時に生態系機能を健全に維持する上で有効な施策と考えられる。しかしながら、人為起源と自然起源の両方によって誘発される森林火災に対して、抑制効果があるのか否か、その結果、立木密度や生物多様性にどのような影響を及ぼしているのか等、その効果を検証した研究は十分には行われていない。我々の研究グループは、森林火災が近年多発しているロシア極東地域・アムール州北部のゼーヤ自然保護区を調査対象に、保護区の設定による森林攪乱の抑制効果を検証する研究を実施している。本発表では、この一環として自然保護区内外における林冠木や林床植物に着目し、その種構成や種多様性に及ぼす要因を検討した結果を報告する。解析の結果、本調査地の林床植生は、林冠優占木の種類、標高や幹線道路からの距離、攪乱の有無、攪乱発生時からの年数、コケモモや蘚苔類の優占度等による影響を受けていることが分かった。

  • 佐藤 永
    セッションID: H2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    In eastern Siberia, larches (Larix spp.) often exist in pure stands, constructing the world's largest coniferous forest, of which changes can significantly affect the earth's albedo and the global carbon balance. My previous studies tried to simulate this vegetation, aiming to forecast its structures and functions under changing climate. These simulations were conducted at 0.5 × 0.5 degree resolution, and topographical heterogeneities within each grid cell are just ignored. However, in Siberian larch-dominating-area, which is located on the environmental edge of existence of forest ecosystem, abundance of larch trees largely depends on topographic condition at the scale of tens to hundreds meters. I, therefore, refined the hydrological sub-model of our dynamic vegetation model SEIB-DGVM, and validated whether the modified model can reconstruct topographic controls on the abundance of larch forest.

  • 春木 雅寛, 東 三郎
    セッションID: H3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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     札幌市の中央区に位置する円山(225m)は、古く200万年前にできた溶岩の山といわれる。カツラの美林や豊富な植物で傍らの藻岩山とともに原始林と呼ばれ、大正10年(1921年)に国の天然記念物に指定された。円山は60年前に生物総合調査が行われているが、この森林の成立や推移の仕方はよくわかっていない。 そこで、著者らは現在の林相および林床の調査を行い、樹林系現象の起点と推移を考察した。林床は散策路沿い各所でみられた根返り木や法面の土壌粗粒を水洗し、デジタル顕微鏡でテフラの有無や性状を調べた。林相やササ相の変化は、現在の林相図、ササ分布図を作り、変化の要因を検討した。考察により、①表層土壌粗粒の分析から、円山の樹林は3万年余り前の支笏湖形成時に、地下マグマの噴出で飛散し1m前後堆積した軽石、火山灰などの遠隔テフラ上に直にタネが飛散定着してできたと考えられた。60年前以降の大きな変化としては②常緑針葉樹林を形成していたトドマツの衰退、③代わってミズナラ、シナノキ、ハリギリなど鳥獣が種子を散布することによる動物散布種の増加、④ササの増加による林床の安定化、が顕著であった。

  • 光安 啓二, 久米 篤, 清水 邦義, Moein Faranahklangroudi
    セッションID: H4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は土壌の撥水性に着目し、森林において撥水性土壌が形成されるメカニズムの解明を目的とした。隣接して植林されたスギ林及びヒノキ林土壌の撥水性について調査を行った。土壌試料の撥水性は、試料表面に滴下したエタノール溶液の浸透時間の違いで撥水性を評価するMED試験を用いて評価した。測定した結果、ヒノキ林土壌の撥水性強度はスギ林土壌よりも有意に高い値を示した。また粒径別にふるい分けした土壌試料の撥水性に有意な差は確認されなかったが、粉砕した土壌は撥水性が有意に低下した。土壌に含まれる成分と撥水性の関係について調査するために、抽出操作にて分離された抽出物の撥水性を測定した。土壌中の成分は有機溶媒を用いた振とう抽出で分離した。抽出液を石英砂に添加した後、乾燥させた試料をMED試験に供した結果、撥水性を示すことが確認された。以上の結果から植林樹種の違いが土壌の撥水性に影響を与えることや、有機溶媒によって抽出される成分が撥水性の原因物質である可能性が示唆された。

  • 小河 澄香, 山中 高史, 赤間 慶子, 長倉 淳子, 山路 恵子
    セッションID: I1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    アカマツのセシウム(Cs)吸収に及ぼす菌根菌接種の影響を調べるため、菌根菌ツチグリを接種したアカマツ実生苗を育てた。カリウム(K)添加の影響を評価するため、肥料として加えたホーグランド氏液は、無Kの組成のものも用意した。菌を接種した1箇月後にポット当り212 µMの塩化セシウム水溶液を20 ml添加した。その3箇月後、処理毎に8本のアカマツ苗を掘り取り、菌根形成を観察し、樹体の成長量とCs量を測定した。植物体全体の成長量は、菌根菌の感染により有意に増加した。このとき、CsやKの添加によるアカマツ苗の成長量の違いは認められなかった。アカマツ苗のCs含量は、菌根菌の感染によって有意に増加した。菌根菌を接種しない場合、K施肥によるアカマツ苗のCs含量の変化は認められなかったが、菌根菌を接種した場合は、K施肥によってアカマツ苗のCs含量は有意に減少した。一方、アカマツ苗のK含量は菌根菌の接種により有意に減少した。菌根菌の感染やK添加によるアカマツ苗のCsやK吸収の傾向は経時的に変化することも考えられるため、今後も調査を続ける必要がある。

  • 寺本 宗正, 梁 乃申, 楢本 正明, 曾 継業, 趙 昕, 冨松 元
    セッションID: I2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    土壌呼吸は、光合成に次いで陸域で2番目に大きな炭素フラックスであり、微生物呼吸と根呼吸から成る。土壌呼吸の7割を占めるとも考えられる微生物呼吸は、温度の上昇に対して指数関数的に上昇する性質をもつ。そのため、地球温暖化によって、土壌から排出される二酸化炭素の量が増加し、温暖化を一層加速させるという正のフィードバックが懸念されている。それを検証するためには、温暖化を想定した、野外での長期的な土壌温暖化操作実験が不可欠であるが、その様な観測は非常に限られているのが現状である。特に、多様な生態系や気候を有するアジアモンスーン地域において、観測例は絶対的に不足している。そこで本研究では、微生物呼吸の温暖化に対する長期的な応答を把握するため、苗場山(標高900 m)のブナ林に、国立環境研究所が独自に開発した自動開閉チャンバーシステムと、土壌に対する温暖化操作のための赤外線ヒーターを設置した。本講演では、2008年から2014年までの観測期間における、微生物呼吸の温暖化に対する量的な応答を示し、その変動因子に関して議論する。

  • 福山 文子, 小野 賢二
    セッションID: I3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    福島県の津波被災海岸防災林の復旧では山砂を主な資材として生育基盤が造成されているが、復旧対象が広大なためその資材不足が懸念される。そこで、生育基盤造成に利用可能な資材検討のため、2013年に、クリンカアッシュ(ク)、津波が運び込んだ土砂(津土)、山砂の3資材を用い、それらで盛土して生育基盤を造ったクロマツ植栽試験区を設定し、2018年に、ク・津土・山砂各区における5成長期後のクロマツ成長(樹高、バイオマス量等)・根系発達状況と、土壌の理化学特性(透水性、孔隙量、pH、EC等)を調査した。クロマツ垂下根の最大到達深(cm)はク区で139±7(平均±SD)で、山砂区(135±17)と同等で、津土区(88±8)が最も低かった。一方、クロマツの全バイオマス(g/木)は、ク区で371±162であり、山砂区(3434±751)や津土区(1946±480)と比べ大幅に低かった。土壌の物理性はどの区も問題は見受けられなかった。化学性については、ク区では10cm以深の土壌pH(H2O)が7.5超、ECが0.1(dS/m)以下を示したことから、土壌養分の不足が懸念され、クリンカアッシュを利用する際には他資材の併用に加え肥料や石灰等の施用が必要と考えられた。

  • 稲垣 善之, 中西 麻美, 宮本 和樹, 奥田 史郎, 深田 英久, 柴田 昌三
    セッションID: I4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    ヒノキ林において、窒素は生産力を規制する重要な土壌養分である。樹木の窒素特性の指標には様々なものがある。生葉の窒素濃度は土壌からの窒素吸収を示し、落葉前には引き戻しが起こるため、落葉の窒素濃度は低下する。また、葉の寿命が長いほど樹冠に窒素を長く保持することができる。これらの要因は、土壌の窒素特性だけでなく年平均気温によっても変化することが予想されるが実態は明らかでない。本研究では、茨城、京都、高知県のヒノキ21林分を対象として樹冠の窒素利用特性を評価した。窒素循環に関わる性質としては、生葉窒素濃度、落葉窒素濃度、窒素引き戻し率、樹冠葉量、落葉量、葉寿命、樹冠窒素量、落葉窒素量、窒素滞留時間を求めた。年平均気温と9つの性質には有意な関係は認められなかった。土壌のCN比が高いほど、生葉窒素濃度、樹冠窒素量、落葉窒素濃度、落葉量、落葉窒素量が小さく、窒素引き戻し率、葉寿命、窒素滞留時間が大きかった。以上の結果より、土壌の窒素資源が乏しい環境において、ヒノキの窒素吸収量は少なく、落葉前の引き戻しが大きいこと、落葉量が減少し葉寿命が長いために窒素の滞留時間が長くなることが示唆された。

  • 谷川 東子, 松田 陽介, 平野 恭弘, 溝口 岳男, 藤井 佐織, 眞家 永光
    セッションID: I5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     樹木はリターを介して土壌を変化させる力があることが知られている。しかし、土壌環境に直接影響を与える「分解途中で発生する溶存成分」については、情報が少なく、細根リターについては皆無に等しい。植物が稼ぐ光合成産物の行く先はターンオーバーが速い葉と細根に集中するため、リターとして重要性が高い植物器官は葉と細根である。そして細根リターの生産量は環境によって変動するので、葉リターに対して細根リターが多くなることがどのような影響を土壌に与えるのかを明らかにする必要がある。これまで我々は、スギ・ヒノキの葉と細根を2年半の培養実験に供し、定期的に降らせた人工雨を解析することによって、溶脱する炭素成分の器官差と時間変化を解析し、溶存有機炭素は葉より細根のほうが多いことを見出した。本研究では、溶脱液中の有機態窒素、無機態窒素、有機態リン、無機態リンの濃度変化(放出量)について、連続流れ分析装置(BL tec, SWAAT)を用いて測定した。その結果、葉ではその分解過程において窒素は取り込み傾向が、細根では放出傾向がみられた。リンではそのような器官差が見られなかった。発表では各種成分の変動原因を議論する。

  • 田沼 美雪, 梅木 清, 平尾 聡秀
    セッションID: I6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    森林土壌における落葉分解は、森林が生態系機能を発揮する上での基本的なプロセスの1つである。本研究では、奥秩父山地の標高の異なる天然林において、落葉形質や環境要因が落葉分解速度にどのような影響を与えるかを検討した。落葉0.5gを入れたリターバッグを8樹種それぞれについて90個作成し、各樹種1つずつのリターバック8個を1セットとした。調査地6地点に埋設箇所を5ヶ所ずつ設け、それぞれの埋設箇所に3セットのリターバッグを埋設した(2016年6月)。埋設の約4ヶ月後に、各埋設箇所から1セットのリターバックを回収し(1回目)、乾燥させ絶乾重量を測定した。また、埋設後の落葉の形質としてC/N比を測定した。埋設の約1年後に別の1セットを回収し(2回目)、同様の測定を行なった。埋設前のサンプルと分解後のサンプルの絶乾重量から分解速度定数を算出した。分解前のC/N比が小さい種ほど分解速度定数が大きく、分解後の窒素の割合が増加していた。分解速度定数を応答変数、環境要因を説明変数とした重回帰分析の結果、土壌含水率・開空度・斜面傾斜の3つが、多くの樹種において負の影響を与えていることが明らかになった。

  • 堀田 紀文, 長岡 岳, 田中 延亮
    セッションID: J1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    土壌浸食モデルを用いた流域の長期的な土砂動態の予測を可能にするために,まずはその適用性を検討することを目的に,主要な土壌浸食モデルの一つであるGeoWEPP(Geospatial interface for the Water Erosion Prediction Project)を山地流域に適用した.対象地は東京大学生態水文学研究所の白坂流域(面積:88.5 ha,標高:295­-629 m,地質:風化花崗岩,年降水量:約1900 mm)である.70年に及ぶ長期の水文・土砂流出量の観測データを有し,禿山からの回復に伴って植生も大きく変化している点で,本研究の目的に合致するサイトである.GeoWEPPは多くのモデル・変数から構成されるが,モデルの大部分は物理モデルであり,したがって変数のほとんどは実測可能である.可能な限りの実測データを反映して計算を実施したところ,GeoWEPPはデータの存在する1950年代以降の観測結果を,降雨-流出関係と土砂流出量ともに良好に再現した.感度分析の結果から,禿山主体の時期には斜面の透水係数などの表面浸食に関わる要因の影響を大きく受け,森林が回復してからは渓流の堆積土砂量の影響が相対的に大きくなることが明らかになった.

  • 篠原 慶規, 市野瀬 桐香, 森本 麻友美, 久保田 哲也, 南光 一樹
    セッションID: J2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    下層植生やリターの見られないヒノキ人工林では、深刻な土壌侵食が報告されている。本研究では、ヒノキ人工林において雨滴エネルギーを決定する要因を解明することを目的とした。雨滴エネルギーの計測には、スプラッシュカップを用いた。まず、自然降雨下において、スプラッシュカップから飛散する砂の量(砂の減少量)と、雨滴エネルギーには強い相関があることを明らかにした。次に、樹冠構造が異なるヒノキ人工林の7プロットに12~16個のスプラッシュカップを設置し、砂の減少量を計測した。すべてのプロットで樹冠通過雨量と砂の減少量には高い相関があり、その関係性は、樹高が小さい1プロットを除いては、ほぼ同じだった。樹高が小さい1プロットでは、砂の減少量は、樹冠通過雨量の他に、カップ直上の一番近い枝までの距離と相関があった。このことから、樹高の大きい林では樹冠通過雨が雨滴エネルギーを決める最大の要因であるが、樹冠の小さい林では、併せて枝下高も考慮する必要があると考えられる。

  • 經隆 悠, 堀田 紀文, 今泉 文寿, 早川 裕弌, 増井 健志, 横田 優至
    セッションID: J3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    流域源頭部では,土砂の風化等による生産と豪雨による土石流形態での流出が長期間継続する場合がある。土石流は,しばしば谷出口の扇状地の侵食による発達によって,大量の土砂や流木を運搬し,下流での被害を引き起こす。しかしながら,そのような扇状地の侵食を伴う土砂流出の発生条件は明らかになっていない。本研究では,静岡県大谷崩一の沢において,2年間で発生した8つの土石流イベントについて,UAVによる扇状地の地形測量と扇頂での土石流の流入波形の計測を行い,扇状地における侵食の発生条件を調べた。前半4つのイベントでは,全ての段波が扇状地中央に位置する既存の流路内で堆積したが,その後の2つのイベントでは段波の流下方向の変化に伴う顕著な侵食が発生し,それぞれ左岸または右岸側に幅10 m程度の新たな流路が形成された。これらの侵食の発生前には,段波の流下距離の低下によって,扇頂付近の急勾配化が生じていた。また,侵食を引き起こした土石流イベントでは,段波の継続時間と流動深が比較的高かった。これらは,源頭部からの土砂流出が,発生域での土石流の規模だけでなく,扇状地の扇頂付近の地形条件の影響を受けることを示唆する。

  • 鈴木 拓郎, 浅野 志穂, 經隆 悠, 劒持 嵩之
    セッションID: J4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は,土石流の構成則に基づいた粒子法モデルに流木要素を導入した計算手法を用いて,流木混じり土石流の流下・捕捉過程のシミュレーションを行ったものである。まず不透過堰堤における流木の堆積機構について検討を行った。現地調査では,支川の合流点の直下に治山堰堤が設置されている場合,支川から流木混じり土石流が流下すると,合流点で減勢すると同時に堰堤で捕捉されるため,流木が効率よく捕捉されていることを確認した。そこで,堰堤の設置位置を変化させて粒子法による数値実験を実施したところ,支川の合流点直下に設置した方が流木捕捉率が大きくなり,現地調査結果と同様の結果が得られた。次に扇状地における流木混じり土石流の堆積過程の検討を行った。流木には,丸棒と枝の2種類を用いて実験を行ったところ,摩擦の大きい枝の方が土砂に取り込まれて堆積しやすいことが明らかとなった。そこで摩擦係数を変化させて数値実験を実施したところ,実験結果と同様の結果が得られた。以上より,本研究の計算モデルを用いることで,流木混じり土石流の流下・捕捉過程を精度よく再現可能であることが示された。

  • 田中 賢治, 木村 佳嗣, 前田 修
    セッションID: J5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】300年前の富士山の噴火によってスコリア(岩滓)が厚く(深さで10m)堆積した静岡県小山町の森林では,2010年の台風9号の異常な集中豪雨によって,森林内に堆積しているスコリア層に介在する粘性を持った粒子の細かい火山灰層が流亡して急激に粘着力が低下した。この粘着力の低下によって勾配の緩急に関係なく,スコリアの流出が始まり,人家,国道,ゴルフ場が埋まるなどの被害が発生している。被害区域については,須走地区の森林周辺の1千ヘクタールに及んでおり,町では緊急雇用による木柵やスコリアを利用した土嚢の設置などの流出対策を試験的に講じている。【報告内容】今回の事例では,地域の住民参加によって厚く堆積したスコリア(岩滓)の移動によって根系の緊縛力が弱っている林分に対して,立木の土砂を補足する機能を補強する目的で高強度ネットを利用することによって,土砂流出(スコリア)の流出を抑え,災害に強い林分となるように森林の公益的機能を拡充する防災対策を行った事例について報告する。

  • 柳井 清治, 古市 剛久, 小山内 信智
    セッションID: J6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    2018年9月6日北海道胆振地方東部を震源として、M6.7、最大震度7を記録する「平成30年北海道胆振東部地震」が発生した。この地震により北海道勇払郡厚真町を中心に山腹斜面崩壊が多数発生し、土砂の流下・埋没により多くの家屋や人命が失われる甚大な被害となった。崩壊タイプは基盤上に堆積した浅い表土層が崩落する表層崩壊であり、この表土層(層厚2~3m)は主として過去に樽前山から噴出した軽石や火山灰層(テフラ)から構成される。とくに、厚真町周辺では、斜面上の厚い風化軽石層(Ta-d層、約9000年前に噴出)の下位にある粘土層を境界として崩落したものが多かった。また崩壊発生点は遷急線下部の35°以上の急斜面だけでなく、遷急線上部の緩やかな斜面(10~30°)にも多く発生していた。斜面の森林はカラマツ人工林や広葉樹二次林から構成されていたが、その根系は厚いテフラの内部には到達しておらず、上位の埋没腐植層に密に発達していた。そして地震による振動により、盤状になった根系ごと斜面下部に滑動しているのが多く観察された。講演では大規模な崩壊を引き起こしたメカニズム、とくに斜面を広く覆うテフラ層の構造と斜面崩壊との関係について考察する。

  • 小杉 賢一朗, 正岡 直也, 柴田 俊, 加藤 直樹
    セッションID: J7
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    京都府綾部市上杉町では,平成30年7月7日早朝に斜面崩壊が発生した。斜面はおよそ40°の急勾配を呈し,過去のヒノキの造林地に広葉樹とタケが侵入した植生を持つ。崩壊深は2~3 m以上と推定された。根系は土層上部において高密度で発達するものの,滑り面付近では僅に見られる程度であった。また,基岩やパイプからの湧水は発見されなかった。さらに,基岩は著しく風化し粘土化していた。以上の調査結果から,崩壊発生メカニズムとして以下が推察された。まず,崩壊斜面では基岩の風化により厚い土層が形成されていた。土層の下部は粘土を多く含み透水性が低い状態にあったが,上部は森林土壌化により透水性が向上していた。さらに土層全体において細粒成分が多く,保水力に富む特徴を有していた。この様な斜面に3日間で合計約170 mmの雨水が供給され,土層が多量の水を含んだ状況となった。その直後に,強度約30~50 mm/hの豪雨が降り土層内の地下水位が大きく上昇した結果,根系の伸長が僅かな土層下部と基岩の境界面を滑り面とする崩壊が発生したものと推察される。その際,厚い風化土層を有していたために,一般的な表層崩壊に比べて規模が大きくなったことが考えられる。

  • 浅野 志穂, Do Ngoc Ha, Huynh Thanh Binh, 瀧本 圭介
    セッションID: J8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     近年経済発展の著しい東南アジア地域では都市間を結ぶ山間地の交通インフラが重要であり、これらに大きな被害を及ぼす山間地の崩壊・地すべり対策が求められている。この中で熱帯モンスーン地域に位置するベトナムでは雨期や台風などにより山間地で地すべりが多発している。このため本研究ではベトナムにおける地すべりの早期警戒技術の開発のため、電力供給や通信環境の不十分な地域でも可能となる危険斜面のモニタリングシステムを開発し、ベトナム中部の山間地に設置して観測を行った。観測は降雨や地下水、斜面変位について実施した。斜面変位については、GNSSを用いた標柱移動観測、自動追尾型トータルステーションを用いた移動杭観測、長距離区間の測定を行う長スパン伸縮計、通常タイプの伸縮計などを組み合わせて測定を行った。これらの地表変位の測定結果を比較し、手法毎の特徴を整理した。また降雨や地下水の変化との関係についても検討を行い、雨期末期に高い地下水位の雨に応じて変位が発生するなど、地すべり危険斜面における変位発生の特徴について明らかにした。

  • 山川 陽祐, Gomez Christopher, 正岡 直也, 小杉 賢一朗
    セッションID: J9
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    深層崩壊の主要な発生場である大起伏の付加体堆積岩山地において,断層や基岩風化などの地質構造および地下水滞の構造を含めた崩壊発生の素因としての地盤構造を効果的に探査する手法として「自然電位法」の適用性の検証を試みた。本試験サイトである滋賀県安曇川上流の斜面は,これまでの種々の調査(地質踏査,ボーリング,斜面上の湧水量,比抵抗探査)および詳細な数値地形情報に基づき,多数の重力変形と斜面に高角の断層粘土帯の分布によって特徴づけられること,また,それらの構造によって部分的に分断された複数の地下水滞が存在することが指摘されている。本斜面上に縦断方向に約400m(斜距離)の測線を設定し,二本の電極の間隔を5mの一定として2mずつずらして自然電位を測定した。測線とほぼ直角に交わると推定される断層付近において特に顕著な電位差(斜面下方から上方への電位上昇)が測定された。また,この他にも電位差分布における複数の小ピークが認められた。これらの自然電位データが上述の地盤構造に規制された地下水流動機構を少なくとも部分的には効果的に捉えていることが示唆された。

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