日本森林学会大会発表データベース
第131回日本森林学会大会
選択された号の論文の872件中1~50を表示しています
学術講演集原稿
  • 赤池 慎吾, 岩佐 光広
    セッションID: A1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    明治末期から昭和中期、全国各地で森林鉄道が整備され、国有林内でも合計1,197路線、総延長8,374kmに及んだ。当初、木材運搬のみを目的として敷設された森林鉄道は、大正3年より「官材運搬の余力を民間の生産物輸送に許可」されたことで、とりわけ奥地山村における交通・運輸の生活インフラとしての役割も担うようになった。

     本報告では、高知県東部の中芸地域一帯に敷設された魚梁瀬森林鉄道(開設1915年〜廃線1963年)を取り上げ、木材搬出のための「林業インフラ」として敷設された森林鉄道が、住民の「生活インフラ」として地域の暮らしのなかに組み込まれていった過程を、魚梁瀬森林鉄道と関わった経験をもつ地域住民や営林署関係者60名(平均年齢81歳)に実施したライフヒストリー・インタビューの知見、特に地域住民による森林鉄道の生活利用の実践(病人の緊急搬送、私的な「便乗」など)の語りに注目しながら考察する。

  • 柴崎 茂光, 奥山 洋一郎, 武田 泉, 八巻 一成
    セッションID: A2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     近代化遺産を保全する動きが活発化し、林業分野においても、2013年度から開始された「林業遺産」選定制度により、林業遺産への関心も少しずつ高まっている。林業用具については、有形民俗文化財として資料館・博物館などで収蔵されてきた。森林鉄道といった近代化遺産に関しても、1996年の改正文化財保護法を契機に、登録文化財として指定する可能性が出てきた。

     しかしながら、林業遺産の保全が十分進んだとは言えない。特に野外に存在する林業遺構については、大半は放置されている状況が続く。とりわけ林業遺産に関しては、奥地に位置するといった地理的条件、一般への知名度の低さといった社会的条件、財政上の支援が乏しいという経済的条件がボトルネックとして存在する。

     財政面については、森林環境譲与税や森林環境税(地方税)を活用した地方公共団体の支援などが考えられる。多面的機能の発揮の為に、林野庁が林業遺産を保全にむけて財政面も含めた支援を行う必要もあるだろう。林業遺産の保全をめぐる関係者が協議を行えるような場の構築といったソフト面での支援も必要である。

     本研究の一部は、JSPS科研16H04940の助成を受けた。

  • 芳賀 和樹
    セッションID: A3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    秋田藩支城の横手城の後背に広がる横手御城付山林の管理と利用について、明治期までを射程に入れて分析した。19世紀前半以降には、藩の役人である山林取立役や御林守、城代戸村家の家来らが同所での植林を進め、一定の成果をあげた。横手御城付山林は、面積こそ小規模であるものの、山林の少なかった当該地域においては重要な存在であった。横手御城付山林では、横手城の建築用材や城下町の土木用材が伐採されるとともに、薪や山菜等も採取された。この横手御城付山林は、明治期になると官林(のち国有林)へ編入された。明治22年(1889)には、旧横手武士らが横手殖林組合を創立し、旧御城付山林への植林を開始した。組長を務めた小田部五郎右衛門家は、旧横手武士のなかでも上級武士の家であった。同35年、横手殖林組合は株式会社横手殖林社として再編されるとともに、旧御城付山林の払い下げを受けた。同社は地域住民へ旧御城付山林の下草等を売却したほか、土地を貸与し、その利益で植林を進めた。同社の株の約半数は、横手町と朝倉村(現・横手市)が取得した。ちなみに同社は令和元年(2019)9月現在まで第三セクターとして存続している。

  • 小林 正紘, 芳賀 大地
    セッションID: A4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    太平洋戦争末期、戦況の悪化により物資や兵器の不足が深刻となり、木材についても統制の体制が強化された。昭和19年の山林局による民有林非常伐採計画樹立要綱では、各都道府県の市町村長または森林組合長による当該地域の民有林の伐採可能林分立木調査や伐採計画編成が定められた。これを受け鳥取県大山町の旧大山村では立木調査や伐採計画編成が行われ、関係書類をまとめた文書が作成された。当文書の中には19~21年度の3ヵ年伐採可能林分調査報告書、19・20年度の伐採計画書と伐採指定書、21年度の用材・薪材・炭材の伐採可能林分調査報告書が記載されている。これらの立木材積、樹種、伐採便否、径級の項目の各データを年度別や段階別に比較して変化を分析し、旧大山村に関する情報を加味して考察した。結果、伐採予定の樹種の大部分はマツであり、19~21年度はそれぞれ搬出が容易な林分から順に伐採が予定されていた。航空機用材や坑木の短期的増産を目的としていたことが背景にあったと推察される。伐採林分数や伐採可能林分材積は年度ごとに大きく変動しており、計画の保続性は低かった。同年度の計画も調査時期によって大きく変化しており、調査の安定性も低かった。

  • 齋藤 暖生
    セッションID: A5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    入会は本来、入会集団による排他的な資源利用秩序として発達してきた。入会集団はこのような性質が付随する林野、すなわち入会林野から生活物資の供給をはじめとして、特に近代以降は生活福利の向上を実現する様々な恩恵(機能)を引き出してきた。これらの恩恵(および随伴する義務)は、地域共同体の中でも原則的に数世代以上現住する住民、つまり入会住民=入会権者に限定されてきたことは、入会権擁護の大前提と捉えられ、特に問題とされることはなかった。しかし、近年になると、新しく移り住んだ住民の権利問題が浮上したり、森林の公益的機能に即して入会住民以外にも開かれた入会林野の管理体制が提唱されたりしている。こうしたことから、入会林野に備わってきた排他性をどのように調整するのかは、入会林野における現代的課題と言える。本報告では、近代以降に入会林野が様々な機能を果たすようになり、また、それらが近代法制下において適合的に振る舞おうとする中でしばしば分解・整理されてきた事実に着目し、入会林野における排他性の調整可能性についての仮説を提示する。

  • 山田 綾音, 立花 敏, 茂木 もも子
    セッションID: A6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    令和元年5月現在、国指定重要文化財建造物は5,033棟でその約8割が木造である。木造建造物の修理を円滑に進めるには修理に用いる木材の安定供給が重要であり、その為の基礎的知見として修理用材の需要の特徴や調達の実態を把握する必要がある。本研究では富山県高岡市の勝興寺を事例とし、まず「構成木材調書」と「補足木材明細書」の分析により修理用材の需要の特徴を把握した。構成部材の化粧材の樹種にはアヒノキアスナロ(アテ)、ケヤキ、アカマツ、スギの順に多く併せて約80%を占め、野物材にはアカマツ、アテ、スギの順に多く併せて90%以上を占めた。アテは石川県を代表とする造林樹種であり、能登半島を中心に造林されている。また、北陸の社寺建築ではアテが多用される傾向があり、勝興寺でも同様であった。勝興寺の保存修理用材の調達の実態は、聞き取り調査に基づくと修理用材は「補足木材明細書」を基に施工業者により愛知県の木材納入業者へ製材品が発注されていた。近年、文化財の保存修理では施工や木材納入において地元企業の協力を重視しており、勝興寺の場合にも木材納入業者はアテ材を扱う地元の製材業者を通してアテ材を入手していた。

  • 土屋 智樹, 山下 詠子, 関岡 東生
    セッションID: A7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    本報告では、木炭商業者の組織化と当時の木炭商業者との関連に注目し、組織化の要因を明らかにすることによって、その意義について若干の考察を試みたい。

    具体的には、大正期後半における東京の木炭商業者に着目する。大正期後半は、第一次世界大戦期までの好況とは反した戦後不況の時期であり、公設市場の設置や副業の推進が図られていた。一方で、木炭業界では木炭価格の上昇もあり好景気下にあった。本研究では、薪炭新報社から発刊された当時の木炭商人らが紹介されている『全国薪炭主要生産地荷主案内誌』(1919年)と『炭業界人物誌』(1921年)を手掛かりとして、当時の状況の整理を行った。

    両文献において紹介されている東京の木炭商業者は309人である。そのうち紹介文付きの人物は60人であり、これは当時の東京の木炭商人の数の約0.7%にあたる。紹介文には、両文献が広告的要素を持っていたことから肯定的な文章であったが、出自や営業姿勢、業績などが記載されていた。また、その紹介文の中から組織結成の主要人物として読み取れるものもあった。これら主要人物の経歴をたどることで、組織結成の背景を読み解いていきたい。

  • 垂水 亜紀
    セッションID: A8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    備長炭を含む白炭の生産量は、平成26年以降、高知県が和歌山県を抜いて全国1位となっている。また、平成29年1月から3カ年の木炭の価格をみると、紀州備長炭(ウバメ小丸)、上土佐備長炭ともに上昇していた。とりわけ、上土佐備長炭の上昇率が高く、6%~21%となっている。

    そこで、高知県の供給地の実態について調査を行った。新たに土佐備長炭の産地となった大月町では、町が豊富に賦存するウバメガシから備長炭を生産するべく、既存の産地であった室戸市から製法を学ぶことによって生産量を伸ばしてきた。これまで伐採と製炭は分業体制であったが、他産地、他産業との資源の競合もあり、今後の資源確保の観点から、自伐を増やし、紀州択伐方式の研修を開始していることが明らかとなった。ウバメガシの資源量が不明であることが最大の課題であり、今後は資源量の明確化と計画的な伐採が重要と考えられた。

  • 知念 良之, 平山 竜彬, 佐藤 宣子
    セッションID: A9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    近年,新たな価値観やライフスタイルを求めて,農山村へ移住する動きがある。2017年7月の九州北部豪雨で「過去最大級の流木被害」が発生した際に,Iターン移住者が自らも被災者でありながら,ボランティアとして流木の再資源化に取り組む事例がみられた。現在,自然災害時の農山村におけるIターン移住者が果たす役割については明らかになっていない。そこで,本研究では,被災前に福岡県朝倉市高木に移住した2名に対面調査を実施した。調査の結果,①阪神大震災等でボランティア活動に携わった経験によって,その後の人生観や価値観が変化したこと,②農山村はボランティアやソーシャルビジネスの展開に必要な知識と経験を生活しながら習得可能な場所だと認識していること,③技術は集落内外の「人のつながり」で習得していること,④被災後は自身の知識や経験,「人のつながり」,SNSを活用して復興支援に取り組んだこと,⑤産業廃棄物扱いで流木が処理されるのは「もったいない」と感じてウッドキャンドルや薪販売による収益化を通じて復興支援を模索したこと,が明らかになった。Iターン移住者の知識や経験,ネットワークが復興に寄与したことが示唆された。

  • 立花 敏, 稲垣 里菜子, 茂木 もも子
    セッションID: A10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    近年、野生鳥獣被害が全国で重要な問題となっている。本研究では、長野県長野市を事例にジビエ利用と農林業被害および地域活性との関係の把握を試みた。長野市は農林水産省の定めるジビエ利用モデル地区に選定され、移動式解体処理車(ジビエカー)の導入やジビエ加工センターの開設等の取り組みを展開している。本研究は2部構成とした。まず、2019年2月、8月、11月に長野県と長野市の担当者、ジビエ加工2施設、猟友会会員1名、ジビエカーメーカー1社等への聞き取り調査と8月~9月にジビエ料理を提供する飲食店9店舗へのアンケート調査を行った。その結果、食肉処理施設は狩猟者に食肉利用に適した捕獲技術を求めていること、狩猟者は狩猟に割く時間が限られているため捕獲後の処理に時間をかけられないこと等を把握した。ジビエ肉を仕入れている飲食店では、価格より品質を重視するが、野生鳥獣であるため品質や仕入れ量に不安があること等の課題も明らかになった。つぎに、農林業被害額に関する相関分析と重回帰分析を行った結果、被害対策事業費や捕獲数の累積、わな・網猟等が被害額を減らす可能性のあることが示唆された。

  • 梶原 理人, 藤掛 一郎
    セッションID: A11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    九州山地に位置する宮崎県北5町村では蜂の子食文化が色濃く残っている。蜂の子採取ではオオスズメバチを対象に「蜂つなぎ」と呼ばれる、蜂に目印をつけて飛ばし巣の場所を探し当てる方法が盛んに行われているが、このような方法がいかにして確立され現在のように楽しまれるようになったのか明らかではない。本研究ではこれを明らかにすべく、5町村の実践者9名に聞き取り調査を行った。その結果、もともと蜂の子採取は地元で夜間に行われていたが、遅くとも1970年代には防護服や双眼鏡を使い昼に蜂つなぎをするようになり、かつその後、自動車交通が発達する中で隣県各地に遠征して1日かけて蜂の巣数個を掘り出すような趣味として確立されるとともに、遠征先では蜂の巣駆除者として受け入れられてきたことが分かった。ただし、最も九州山地の奥にあり遠征に不利な椎葉村では、現在まで遠征はほぼ行われておらず昔ながらの採取の形も残っていた。現在実践者の多くは60〜70歳代で、勤めが忙しいことなどから若者に後継者は少なく、今後活動が縮小していくことはほぼ確実であることも明らかになった。

  • 坂野上 なお, 石原 正恵, 德地 直子
    セッションID: A12
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     京都府南丹市美山町芦生に所在する京都大学芦生研究林は,1921(大正10)年に地元九ヶ村の共有林に地上権を設定することにより発足した。約4,100haの森林のうちおよそ半分は,設定以来人の手が加えられていない天然林である。林内には,渓流沿いにトチノキの群生する通称「トチノキ平」があるほか,源流部に近い原生的な天然林内には多数のトチノキの巨木がみられる。トチノキの実は,数週間にわたるアク抜きのための複数の工程を経て,栃餅などの食用に利用される。地元の芦生集落でも,かつてはトチノミを加工して保存し常食していたものとみられるが,現在トチノミを利用するのは数世帯に限られている。芦生集落におけるトチノミ利用の変遷と衰退の要因,今もなおトチノミ加工を継承している世帯の実態について報告する。またトチノミの供給源として芦生研究林が大きな役割を果たしてきたとみられるが,教育研究のための森林管理と地元住民の伝統的な資源利用とのバランスをとり,さらにはトチノキの将来にわたる保全を目指し,大学と地元住民との協働により,トチノミの採取に関するルール作りのための取り組みを始めたので報告する。

  • 沖田 佳音, 原田 一宏
    セッションID: A13
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    インドネシア、中部ジャワにおけるコラボレーティブマネジメントの事例を示す。当調査地では、長年小規模農家によるカカオ栽培が盛んであったが、不安定で低価格な取引価格に悩まされていた。2016年、複数の外部ステークホルダーの支援を受け、地域住民自らが運営する小規模な製造場所と店舗が設立された。行政や研究機関に加え、村内のコミュニティや青年グループがどのように協働し機能しているのか、そして村人たちにどのような結果をもたらしているのか、質的調査を通じて明らかにする。以前は外部に販売していたカカオのサプライチェーンが村内で完結することにより、カカオの需要が増加し価格が安定、上昇しているようだ。また、女性スタッフの雇用を創出し、新たな収入源となるなど、社会経済的な効果が見られた。しかし、村内の五つのハムレット間で比較すると、結果に差が生じていることが明らかになった。また、その差は、コミュニティと村人の関係性に影響しているようである。コラボレーティブマネジメントの事例が地域に及ぼした結果とその課題を示した上で、今後の課題について議論する。

  • 小池 浩一郎
    セッションID: A14
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     従来高砂族と称されていた台湾原住民族は、その生活基盤として、狩猟、採集的性格が強調されていた。しかし近年日本統治期資料の発掘により、その主たる生活手段は移動耕作によることが明らかになってきた。

     原住民族の土地利用について1895年以前の統治者である清朝は「化外の民」としてその実態について感心を持たなかった。日本の台湾総督府は全島を統治する必要から「旧慣」を幅広く調査することとした。ここで官僚や大学構成員でない「冒険科学者」と呼ばれる一群が出現した。森丑之助や鹿野忠雄などの存在である。かれらは総督府の嘱託などとして原住民の居住する深山に長期踏査をおこなった。総督府直営の調査が出先の資料や通訳を介するものであるのに対し、彼らの調査は直接の聞き取りによるものであり、その価値は非常に高く、近年国際的にもその価値が認められるようになった。

     彼らの耕作法は比較的回帰年の短い叢林休閑に属するものである。また日本やネパールの移動耕作とも共通する、ハンノキを耕作終了後に植栽し回帰年を短縮する技法も有している。原住民族は豊富なlocal knowledge により再生可能な森林の循環利用を行っていたのである。

  • 蒲 馬玲, 百村 帝彦
    セッションID: A15
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    中国は主要な天然ゴム生産国の一つで、2013年以降、世界の天然ゴム生産量の四位に位置づけている。シーサンパンナ・タイ族自治州は中国の天然ゴムの主な生産地で、そのうち国営農場は天然ゴム年間総生産量の半数程度を占めている。

     2010年以降、雲南省の国営農場の属地化改革を契機に、農墾システムの組織構成や農場の請け負い制などが大きく変更され、農場の従業員(職工)に様々な影響を与えている。これらの実態を明らかにするため、シーサンパンナ・タイ族自治州において現地調査を行った。

     その結果、従来の農墾システムに属していた農場の管理権、司法権などの権利は地方政府へ移譲し、農場の位置づけは管理者からサービス提供者へと転換した。また従業員の収入源は改革前の単一所得型(ゴム収入のみ)から多様所得型(果物栽培・出稼ぎ・運転手など)へ転換した。さらに、従来は正式従業員だけしか請け負うことができなかったが、改革後は立場に関係なく、戸籍が農場にあれば誰でも請け負うことができるようになった。

  • 清水 環, 松村 直人
    セッションID: A16
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    日本では2000年前後から「エコシステムマネジメント」や「森林環境ガバナンス」など森林環境をモニタリングしながら重層的に管理する必要性が議論されてきた。その実施主体としてNPOも範疇とされてきたが、全国的なアンケート調査から得られる平均的な団体像ではその役割は極めて担い難い。しかし、1998年のNPO法の成立以来、非営利活動法人として信頼と実績を積んできた団体も少数ではあるが存在してきた。森林率が低くて人口が多く林業が盛んでない三重県北部地域においてそのような実績を積んできたNPO法人を対象として、今後「森林環境ガバナンス」構築の一翼を担えるか考察した。一方で、近年は国内の森林経営管理制度の始まりや地球温暖化に対処する世界全体の取り組みなど、森林ひいては社会全体において大きな変革の時期を迎えている。収益や効率を追ってきた一般法人は持続可能な環境に配慮することなしに自社を存続させることは難しくなり、森林行政も制度と財源を主体的効果的に活用していく体制が望まれている。各ステイクホルダが変化を余儀なくされている時期にあって、それらの変化に呼応しつつNPO法人もまた変化していくだろう。

  • 石 佳凡, 納富 信
    セッションID: A17
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林環境譲与税の配分基準に人口を入れた結果、人口が多く林業が盛んでない都市部に対して相対的に森林環境譲与税が多く配分される見通しである。そのため、都市部が森林環境譲与税で地方部における森林整備費用を支援するのは、一つの活用方策であると考えられる。本稿では、森林管理における都市部と地方部との連携状況を把握するために、公開情報を用いて東京23区と地方部との連携状況を整理した上で、59の都市部自治体に対して地方部との連携状況と可能性に関する調査を実施した。その結果、友好都市、同じ流域内の地方自治体からの連携打診は受け入れやすいことがわかった。また、連携事業による効果は、森林の少ない都市部住民には理解されにくいことが課題として示された。そこから「両地域の関係構築」、「CO2排出量の削減に対するニーズ」、「事業成果のわかりやすい指標」、「事業予算の確保」を連携促進要因と導いた。一方、連携事業の実施予定がない都市部自治体の中の一部は、木材利用の促進、環境体験学習等を通じた森林整備に取り組む意思を持っているが、地方部からの打診が無いことがわかった。地方部と都市部の間に意志疎通の余地があると考える。

  • 山口 広子, 興梠 克久
    セッションID: A18
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    水源涵養機能に着目して管理される森林として、水道事業者によって管理される水源林(以下、水道水源林)が挙げられる。先行研究では、明治期に成立した水道水源林の形成過程についての歴史的実証分析(泉、2004)等があるが、昭和期以降に成立した水道水源林について着目した研究はほとんどみられない。従って本研究では、1978年に発生した大渇水を契機として森林の取得、整備を開始した福岡市水道局における水源林管理の動向について把握することを目的とし、文献調査と聞き取り調査を行った。福岡市水道局では、1980年から現在までで約563haの森林を取得し、取得予定面積の約9割の取得を達成したことがわかった。また、2004年に「福岡市水道水源かん養林整備計画」を作成しており、計画策定の前後で枝打ちの実施に変化があったことが明らかになった。2011年からは搬出間伐を行い、木材を有効活用する動きがみられた。搬出を行うようになった背景としては、国庫補助の要件変更が挙げられ、補助事業が公益的機能を発揮させることを目的とした森林管理における施業内容にも影響を与えていることが示唆された。

  • 竹田 慎二, 中村 幹広
    セッションID: A19
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    緑豊かな広葉樹の活用をテーマに地方創生を進める飛騨市では、市民と行政が一体となり「広葉樹のまちづくり」に取り組んでいる。平成28年、同市は航空レーザ計測データの解析等による市内広葉樹資源量の把握を行ったことを皮切りに、翌年4月には推進母体となる林業振興課を新設し、さらには森林・林業施策に関する戦略会議として、市民を中心に構成される円卓会議を設置した。このほか市民を対象とする各種まちづくりセミナーの開催や、市民有志との国内先進地視察などを定期的に企画してきた。平成29年9月、森林に対する市民意識の把握を目的に市内全戸を対象としたアンケート調査を実施したところ、市民の多くは市内森林の約7割を占める広葉樹の所有価値をある程度は認識しつつも、木材生産を主とする狭義の林業以上に森林の多面的機能の発揮を期待していることが明らかとなった。そこで本研究では、アンケート調査実施以降の「広葉樹のまちづくり」が市民の意識や行動にどのような影響を与えたのかを把握するため、新たに円卓会議のメンバー等を対象にアンケート調査を実施するとともに、前回のアンケート調査と比較した結果について考察する。

  • 勝野 真莉菜
    セッションID: A20
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    山林所有者の経営意思が低下した森林や、採算が合わなくなった人工林を対象に、人手を必要とせず、森林の多面的機能を向上させる針広混交林化が進められている。現在行われている針広混交林化は始まってからの年数が浅いこともあり、成功例はほとんど見られていない。

    この針広混交林化について、東海地方の愛知県、岐阜県、三重県を対象に、現状と課題について聞き取り調査を中心に研究を行った。本研究では、現時点でどの程度の針広混交林化が進んでいるのかを明らかにすることが主な目的であった。しかし、実際には研究段階の事項も多く、今後に期待すべき施策であることが分かった。

    よって、各県の針広混交林化に関する計画や、どういった調査を進め、データを収集しているのかについて明らかにしたうえで、今後の針広混交林化への提言をすることとしたい。

  • 松島 昇
    セッションID: A21
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    全国巨樹・巨木林の会は、今年で32回の全国大会「巨木を語ろう全国フォーラム」の開催を各地で押し進めてきた。本会は、巨樹を地域のシンボルとして、巨樹観察会、植生整備等の幅の広い環境活動を展開する地域グループの会員を主たるメンバーとする。発足の契機は1988年の環境庁(当時)による巨樹・巨木林の全国調査である。同年に第一回全国フォーラムが兵庫県柏原町で開かれ、1993年に全国巨樹・巨木林の会が発足した。

    主な活動が巨樹観察会である。そして地域グループの中には、巨樹の観察から、測定し、調査をまとめ、広報し、情報を次世代に伝えることまで目指しているものまである。全国フォーラムの実施は易しいことではないが、環境意識の高まりから担当する自治体が各地へ受け継がれている。

    生物文化資源である巨樹が地域ごとに多様であるように、地域グループのあり方も、会員の活動内容も様々である。従って当会の課題は、柔軟に対応して、積極的な共催活動を目指して、全国フォーラムで交流し、相互に学びあうことを継続していくことにある。

  • 高橋 卓也, 石橋 弘之, 内田 由紀子, 奥田 昇
    セッションID: A22
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林所有者にとっての森林にかかわる主観的幸福度(森林幸福度)を非所有者との対比に基づいて検討した。滋賀県野洲川上流域を対象として、2018年1月27日(回答到着時点)から4月5日にかけてアンケート調査を実施した。郵送による配布数は6,559セット(1世帯2件のセット)、回収数は1,457件、世帯での回収率は17.2%であった。森林満足度、森林充実感(エウダイモニア)、プラス感情、マイナス感情の森林幸福度の4指標と「地元の山を見た時の幸福感情」の計5指標をそれぞれ被説明変数とし、森林所有の有無、人工林率のそれぞれの指標を説明変数とする多重回帰分析を実施した。この他にコントロール変数として、人口学的要因、生活利便施設等の人工資本、森林率等の自然資本、日常の付き合いに代表される社会関係資本、森林関連活動も説明変数に含めた。森林所有はいくつかの種類の森林幸福度と負の関係を有する。所有林の人工林率が高いほどマイナス感情は緩和される。交互作用についての分析から、ボランティア、財産区役員などの森林関連団体への参加、後継者の存在等が伴う場合は、森林所有が森林幸福度と正の関係をもつ傾向もみられた。

  • 佐藤 宣子, 曽根 理宇, 上垣 嘉寛
    セッションID: A23
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    近年、「山林所有の有無、あるいは所有規模にこだわらずに、森林の経営や管理、施業を自ら(山林所有者や地域)が行う、自立・自営型の林業」(中嶋建造,)とされる自伐型林業が注目されている。2014年にNPO法人「自伐型林業推進協会」が発足し会員数も増加している。報告では、同NPO法人メーリングリスト登録者(会員約700名の他、ML購読者等)1,040人を対象としたメールアンケートを実施し、2019年12月13日~2020年1月10日の期間に有効回答184(17.7%)を得た。30~40歳代が回答者の45%を占め、「すでに取り組んでいる」29.7%、「これから始めたい」57.1%、「自分はやらないが賛同している」13.2%であった。取り組んでいる54名のうち自家山林で実施しているのが73.6%であるのに対して、これから始めるまたは検討中の104名のうち所有山林あり31名、受託や借りる山林を確保しているのが8名で計37.1%であり、山林確保ができていないとしたものが65名(61.9%)であった。一方で、「自家山林で自伐型林業をやってくれる人との繋がりを持ちたい」とする所有者も12名(全体の6.6%)存在した。報告では就業形態やNPOへの期待等について報告し、参入条件について考察する。

  • 宮本 基杖
    セッションID: A24
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動緩和策としても重要なことから、熱帯林減少を解決するための取組が積極的に実施されている。しかし、これらの取組に対して、高コスト、低効果、非持続性、地域経済への負の影響などの懸念も指摘されている。これは、森林減少の根本的な原因が特定されておらず、有効な対策が選択できていないためである。熱帯の森林減少を解決するために有効な対策は何か。熱帯林減少の発生と制御の仕組みはどういうものか。本研究では、これらについて検討するため、著者らが1990~2014年に実施した森林減少に関する実証研究(世界の多国間データ分析、マレーシア調査、インドネシア調査)の結果を用いて、森林減少の発生の仕組みを分析した。その結果、1.高い農業地代(農業の土地収益性)が森林減少の主な直接原因であること、2.貧困が森林減少の主な根本原因であること、3.貧困率が軽減されると農業地代が高くても森林減少が削減されることを実証的に明らかにした。さらに、熱帯林減少の発生と制御の仕組みについて、貧困・農業地代・森林率が主な条件であることを明らかにし、森林減少の解決には貧困削減が有効かつ持続的な対策であることを示した。

  • 福嶋 崇
    セッションID: A25
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、最貧国かつ気候変動の悪影響に脆弱であるとされるアフリカの1カ国であるタンザニアに焦点を当て、同国を事例にREDDプラス政策におけるセーフガードの制度設計の方向性について、主に現地調査を通じ分析・考察することを目的とする。REDDプラスは森林減少・劣化を防止することで排出されるはずだった温室効果ガスを削減する、という取り組みである。国際交渉の結果、2020年以降の温室効果ガス排出削減の枠組みである「パリ協定」の5条2項において実施・支援を推奨するものとして明記され、また6条2項の協力的アプローチにおける一方策としての活用も期待されている。REDDプラスは実施においては途上国ならびに事業者が整備・対応すべき様々な要件があり、その1つが「活動による負の影響や気候変動緩和効果の損失を最小限に抑えるための予防措置」であるセーフガードである。COP16で採択されたカンクン合意において活動の実施において促進・支持すべき項目として7項目が特定されるなど、着実に議論が進展している。当日は、2010年より断続的に行ってきた調査結果に2020年2月に実施する現地調査結果をとりまとめて報告を行う。

  • 柴田 晋吾
    セッションID: A26
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    さまざまな自然の恩恵の市場化などによる革新的な営みとして、「生態系サービス業(ESBE)」や「森林サービス産業(FSI)」を位置づけ、その概念と意義について考察を行う。また、現地調査等に基づき、パドバ大学のスピンオフ組織であるETIFORとEUのSINCEREプロジェクト関連の北イタリアにおける取り組み事例を報告する。ボルゴバルディターロでは、野生キノコについての唯一のEU地理的表示保護(PGI)によるブランディングと年間1億円を越えるキノコ狩り券の売り上げ収入を地区内の森林整備に還流する仕組みを構築している。また、べネト州農業局が開発した余剰流量捕捉による水生産システムである「浸透森林地(FIA)モデル」を適用したボスコリミテは、FSCによる生態系サービスの認証の世界初の適用例であり、農地の森林への転換後のさまざまな生態系サービスに対する支払いが以前の農業収入を凌駕するに至っている。さらに、ポプラ林について同様な生態系サービスの認証を得ているパルコオリョスッドでは、PES(生態系サービスへの支払い)によって公園管理者、生産者、木材工場等のウィンウィンな関係の構築に成功している。

  • Nadezhda Tataurova, 伊藤 幸男, 山本 信次, 滝沢 裕子
    セッションID: A27
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の目的は、沿バイカル国立公園を事例にロシア連邦国立公園の管理実態と課題を明らかにすることである。沿バイカル国立公園は1986年に設立され、1996年にはバイカル湖の一部としてユネスコの世界自然遺産に登録された。文献や現地調査から次のことが明らかとなった。沿バイカル国立公園を管理している連邦予算機関ザポウェドノエ・プリバイカリエは、国立公園の保護・インフラ作り(ゴミ処理施設、トイレ、見学プログラム)・入園許可証の発行・入園観光客の管理・境界標識の設置・地元住民と観光客の教育を行っている。2019年には14ヶ所のトイレ、17の深層ゴミコンテナを整備し、翌2020年には400の看板を設置する予定とされている。主な課題は、連邦政府から配分される予算が十分ではないことである。人件費やパトロールのガソリン代など最低限の予算となっている。一方、入園者は増加傾向にあり、インフラ整備が急務である。その経費は入園料に頼らざるを得ないが、広大な国立公園に対しスタッフは少なく、入園者を十分に管理できていない。入園者の7割が訪れるオリホン島の入園料を値上げしたが、観光客と地元住民の双方から不満の声が上がっている。

  • 山本 伸幸
    セッションID: A28
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     ノルウェーは1920年代から木材生産量は年1千万立米程度で安定する背景には、20世紀初頭の鉱工業による森林過剰開発に対する反省があり、世界初の国家森林資源調査NFI実施はそれを実現するために導入された。また、石油資源を源泉とする90年代以降の豊かな国民経済が、年金基金、森林信託等の制度的枠組みを支える。

     本報告では、ノルウェー農業食糧省が2016年10月に議会に提出した森林白書Meld. St.6 (2016–2017) Melding til Stortinget “Verdier i vekst : Konkurransedyktig skog- og trenæring”(2016年度白書No.6「価値成長:競争的林業・木材産業」)を手掛かりに、スウェーデン、フィンランドといった林業大国とは別の道を歩むノルウェーにおける森林セクターの動向を探りたい。

  • 早舩 真智
    セッションID: A29
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、スウェーデンの森林所有者組合及び森林企業による中小規模森林所有者の森林管理と木材取引の集約化構造を明らかにすることを目的とし、森林所有者組合(Sodra、Mellanskog)への聞取り及び既往文献調査を行った。分析視角では、組織間関係における対境担当者の概念を踏まえ、森林所有者の森林管理や木材取引を集約する森林所有者組合及び森林企業担当者の役割と必要とされる能力に着目した。その結果、主に森林所有者組合ではインスペクター(Skogsinspektor)、森林企業ではバイヤー(Virkesköpare)と呼ばれる担当者が各地域に配置され、森林所有者と直接交渉することで森林管理と木材取引を集約化していることが明らかになった。各組織のインスペクターやバイヤーは地域毎に競合しており、森林所有者は、木材価格の他に、各組織が提供する森林管理方針やその他サービス、地域担当者の能力や人柄によって森林管理の委託(あるいは相談)先や木材販売先を変更していた。地域担当者には所属組織から課される木材調達目標と所有者の森林管理方針、林業事業体の効率的な運用を調整する役割と能力が必要とされていた。尚、本研究はJSPS科研費18H03422の助成により実施した。

  • 堀 靖人
    セッションID: A30
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     欧州では2000年代に入って製材業をはじめとした木材産業の寡占化が急速に進んだ。ドイツでは小規模分散的な森林所有構造のもと少量分散的な木材生産が行われており、この構造を変えることは容易ではなかった。そのため森林所有者の協同組織(森林組合)を設立して、木材販売の共同化が進められてきた。だが、森林組合の規模では急速に寡占化する製材業に十分に対抗できず、単位森林組合を組合員とした林業連合の設立が相次いでいる。こうした林業連合による木材販売量の大口化、販売窓口の一本化が寡占化する製材業に対する対応策であるといえる。

     製材業の寡占化は技術革新とともにさらに進むと考えられ、さらなる対応策を探るためドイツの林業連合および森林組合の実態調査を行った。その結果、中規模以上の森林所有者や市町村有林の林業連合への加入がみられたこと、巨大製材業との価格交渉を有利に進めるために林業連合間の連携などがみられた。また森林組合の下にある地区世話人による組合員の木材販売の支援が行われている実態が明らかになった。日本において木材販売が重要となる中、森林組合系統組織を活用した木材販売共同化の強化も1つの方向性であると考える。

  • 石崎 涼子
    セッションID: A31
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    ドイツの森林官や森林官を養成するための教育システムについては、日本において様々な形で紹介され広く知られるようになっているが、そうした情報の多くは旧西ドイツの情報であり、かつて東ドイツに属していたエリアを主体とする東部ドイツの情報は非常に限られている。そこで、各種文献および現地調査で得られた情報から、東部ドイツにおける森林官と森林管理制度の特徴について整理したい。

    旧東ドイツにおいては、第二次世界大戦後、中央集権的な行政体制が採用されてきたが、1990年のドイツ再統一により旧西ドイツの体制が適用されることとなり、新たに設置された州ごとに州森林法の制定や森林行政組織の再編を行うこととなった。第二次大戦後は専門的な人材が不足し森林官の確保・養成が課題となったが、ドイツ再統一後は逆に人員削減が課題となっている。ドイツ再統一後、統一森林署方式を採用した州は、カルテル問題などを背景として州有林の経営部門と私有林などに対する森林行政部門との分離を進めており、かつて森林官が担ってきた役割を民間のフォレスターにゆだねる動きもみられる。

  • 滝沢 裕子, 伊藤 幸男, 山本 信次, タタウロワ ナデジダ
    セッションID: A32
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の目的は、バーデン・ヴュルテンベルグ州を事例に、ドイツの林業請負事業体の実態を明らかにすることである。請負事業体は次の2つの国際化ないしは標準化する状況への対応が求められていた。1つ目は、森林認証への対応である。ドイツの森林における認証林面積の割合は、PEFC7割、FSC1割と大半を占めるようになったため、多くの事業体では、認証林で作業を行うための事業体認証(DFSZ)を取得する必要が高まっている。DFSZは、請負事業体の分業化を反映し、作業種ごとの認証が特徴である。2つ目は、林業労働力の国際化である。今日ドイツの請負事業体は、国内の林業作業士(Forstwirt)だけでは十分な雇用を確保できず、東ヨーロッパ中心の外国人労働者の雇用が定着している。外国人が伐採作業に従事する際は、研修や資格等による技能認証が必要であり、賃金もドイツ人とほぼ同等であった。技能認証として、ヨーロッパ9ヵ国の統一資格であるECC(European Chainsaw Certificate)がある。2018年に導入された新しいドイツのFSC基準3.0では、作業者のECC取得が必須となったことに加え、2020年からはドイツ全州にて、伐採作業を行う外国人労働者のECC取得が義務化された。

  • 田中 亘, 久保山 裕史, 都築 伸行, 横田 康裕
    セッションID: A33
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    EU加盟国では他の加盟国民に対して原則的に労働市場が開放されており、オーストリアの林業では近年、外国人労働力の導入が進んでいる。本研究では、林業における外国人労働力導入の現状と課題を明らかにするため、ウィーン労働会議所およびシュタイヤーマルク州内の事業体に対して聞き取り調査を実施した。ウィーン労働会議所における調査からは、外国人も労働者としてオーストリア人と同等の権利を持つこと、農業および林業においては主に2004年にEUに加盟した東欧諸国出身の労働者の導入が顕著であること、林業労働者の最低賃金は労働組合と企業との協議で決定され、外国人にも適用されることが明らかになった。一方、林業事業体における調査からは、多くの事業体においてオーストリア人の林業従事者を新規に採用することが近年困難化していること、その結果としてルーマニア人等を主に伐採手として雇用していることが明らかになった。タワーヤーダ等の機械操作に関してはマニュアルの習熟に一定程度のドイツ語読解力を必要とするため、オーストリア人が担当する場合が多く、言葉の理解度によって作業種別に差異が現れることも確認された。

  • 杉山 沙織, 興梠 克久
    セッションID: A34
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     林業従事者に対する人材育成の場として、(1)研修実施機関による集合研修を中心に構成されるOff-JTと(2)林業事業体内の労働組織において取り組まれるOJTの、主に2つに大別される。本研究では、林業従事者の初期教育および中堅熟練教育・啓蒙に着眼し、現場技能・技術の習得や習熟に際し、より効果的なOff-JTやOJTのあり方について考察を行った。事例として、2県、各2〜3事業体における事業体の経営者層および現場の全林業従事者を対象とした調査を行い、技能・技術の習得状況を次に述べる3レベルの因子から分析を行った。林業の現場技能や技術の習得にあたり、林業事業体の規模や事業内容、組織運営体制、職場風土・組織文化等により構成される組織レベルの因子と、従事者の個人属性による個人レベルの因子、それらの中間に位置する小組織(労働組織)レベルの因子が関わり合う。中でも、効果的な人材育成において職場風土・組織文化の果たす役割が大きいと考え、課題を明確化する測定尺度の開発と検証も同時に行った。また、職場内の学習機会により業務課題の認識や職務意識の変化が生じていたことより、初期教育と中堅熟練教育・啓蒙の架橋についての検討を行う。

  • 笹田 敬太郎, 都築 伸行
    セッションID: A35
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     森林組合は地域森林管理の主要な担い手の一つとして期待されている一方、広域合併の進展等によって組合員との関係性の構築が課題となっている。そこで、本研究は森林組合と組合員をつなぐ地域組織(参与委員や連絡員、造林組合等)に注目し、その実態と課題を明らかにすることを目的に、全国の森林組合を対象にアンケート調査を実施し、2002年に行われた地域組織に関する調査結果との比較を含め分析を行った。アンケートの回答組合数は457であり、回収率は74.4%であった。

     地域組織の設置数と設置率は、2002年(361組合,47.7%)から減少しており(2019年:189組合,41.4%)、近年、組織の再編や廃止、新設を行った組合も見られた。地域組織は、広報紙の配布や情報伝達から、集落や団地における意見調整、取りまとめの実施まで、地域や規模によって活動内容や果たす役割は異なっていることが明らかとなった。地域組織が存在する組合の多くは、なり手の不在や世代交代等による組合員の森林への関心の薄れという課題を抱えるものの、地域組織が存在する組合の約6割は「役立つし今後も必要」と回答し、組合と組合員をつなぐパイプ役としての地域組織の必要性が確認された。

  • 弓削 隼, 藤掛 一郎
    セッションID: A36
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    南九州では民有人工林の主伐が伸びる一方、その後再造林が行われない場合も少なくなく、人工林資源基盤が縮小を始めていることが問題となっている。本研究では、再造林の主たる担い手である森林組合を取り上げ、南九州の4組合を調査対象とし、再造林の現状について事業担当者への聞き取りを行うとともに、森林所有者に提示する再造林(地拵えと植栽)事業の見積書や請求書の提供を受け分析を行った。4組合の事例をもとに標準的なケースを設定し試算すると、実際の事業費が切り詰められ、補助金を使うと所有者の実質的な負担は事業費の10%程度に抑えられていた。事業費の中では特に作業班の賃金部分と森林組合が取る間接費とが低く抑えられていた。負担を求めると所有者が再造林意欲を失うことから、森林組合が所有者負担を抑える努力をせざるえないためと考えられた。しかし、その結果、作業班の労賃などは低く抑えざるをえず、全ての組合は造林作業班の確保に苦労し、主伐が増える中で再造林率を改善できない状況に陥っていた。

  • 松下 幸司, 田村 和也, 藤掛 一郎
    セッションID: A37
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    2005年以降の農林業センサスでは、経営体の概要の部分に法人化区分の欄が設けられている。「法人である」「各種団体」の一つに「森林組合」という区分があるが、ここには森林組合と生産森林組合の両方が含まれている。従って、センサスの集計結果では、「森林組合」欄の数値は森林組合と生産森林組合の数値を合算したものである。両者は明らかに異なるタイプの組織であることから、このままではせっかくの集計結果を有効に利用することができない。そこで本研究では、センサス個票の林業経営体の名称欄を検索することにより、法人化区分「森林組合」から生産森林組合を分離することを試みた。そして、分離した生産森林組合のデータセットを用いて、植林・下刈など・間伐・主伐の実施動向、立木・素材・ほだ木用原木・特用林産物の販売動向について分析を行った。本研究は、JSPS科研費17K07845(基盤研究(C)一般)(藤掛一郎代表、「2015年センサス・ミクロデータを用いた構造分析による林業成長産業化の検討」、平成29~31年度)による研究成果である。研究の実施にあたり、農林水産省統計部の協力を得た。厚く御礼申し上げる。

  • 川﨑 章惠, 藤掛 一郎, 田村 和也
    セッションID: A38
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     小規模保有の林業経営では、ある年は自らの保有山林の施業を行い、需要あるいは労働力に余剰があれば保有山林以外の施業を受託し、さらには農業や賃労働と複合的経営されていることは周知のものである。それらは、いわゆる林家や一人親方として分析されてきたが、従来の農林業センサスあるいは現在国家統計として公表されているデータからは二つの性質を併せ持ったものや個人請負人を抽出しての分析は困難である。

     本研究では、2005~2015年の3回の農林業センサスの個票から、限られた設問項目から受託料金収入がある経営体を受託経営体、保有山林で自ら伐採した素材生産量がある経営体を自伐経営体と分類し(ただし、経営者や家族自らまたは雇用労働者のどちらが伐採したのかは判別できない)、分析した。2015年の林業経営体総数87,284経営体のうち、受託かつ自伐経営体は1,186経営体、うち家族経営体は738経営体、非家族経営体は448経営体で、家族経営体のうちいわゆる自伐林家(林家かつ常雇なし)は546経営体であった。受託かつ自伐経営体数は減少傾向にあるものの、2005年1,283経営体から1割程度減少したに過ぎない。

  • 菱田 歩海, 立花 敏, 興梠 克久
    セッションID: A39
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    自然災害の頻発に伴いリスク管理が重要になっている。本研究で取り扱う森林保険は、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林保険センターにより運営され、その保険窓口業務は全国の森林組合系統に委託されている。先行研究には、森林組合系統と森林所有者にアンケート調査を行い、森林保険加入率を左右する要因と保険加入推進手法を検討した林政総研(2001)がある。これを踏まえ、本研究では森林組合系統のうち都道府県森林組合連合会(以下、県森連)の森林保険事業に対する認識や事業運営体制を把握することを目的とした。筆者のこれまでの調査より、森林保険の加入率に地域差があることが分かっており、都道府県単位での特徴をつかむために全県森連を対象とした。アンケート調査・聞き取り調査では各県森連の管轄地域の災害状況や保険加入状況(加入率や保険金額等)、事業運営状況(職員数や保険普及活動の内容)を把握した。更に、森林保険契約データ・森林組合一斉調査等の分析により県森連毎の加入率や加入面積、林業生産活動水準等を明らかにした。本研究を通して、県森連の認識と実際の数字に乖離はないか、加入率と運営体制の特徴に傾向があるかも検討した。

  • 樋熊 悠宇至, 立花 敏, 氏家 清和
    セッションID: A40
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    応用一般均衡モデル(以下、CGEモデル)は、関税や補助金等の貿易障壁の削減が国・地域に与える影響を定量的に把握することにしばしば用いられる。Gan and Ganguli(2003)、Gan(2004)等の研究によって、貿易自由化が林業セクターへ及ぼす影響は明らかになりつつある。他方、貿易障壁が各国の林業セクターへ与える影響について、動学CGEモデルを用いて把握した研究にはOchuodho et al.(2016)があるが、補助金等の非関税障壁と関連づけた研究や日本を主な対象とした研究は極めて少ない。本研究では日本における林業セクターへの関税引き下げの影響を把握しつつ、林業への補助金支出の増加が関税引き下げの影響をどの程度緩和し得るのかを定量的に把握することを目的とした。日本を分析対象とし、段階的関税引き下げおよび林業への補助金支出の増加の影響について、細江ら(2016)を基に構築した逐次動学CGEモデルを用いて推計した。分析期間は2015年から2034年とし、データベースについては、2015年産業連関表基本分類表および2015年国民経済計算年報を基に作成した社会会計行列(SAM)、Hertel and Mensbrugghe(2016)の輸入財と国内財の間の代替弾力性を用いた。

  • 茂木 もも子, 立花 敏
    セッションID: A41
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    多様な機能を期待される森林資源を持続的に管理・利用していく上で、国内の木材流通における各経済主体間での需給情報の未共有部分の解消が課題となっている。本研究では、国産材のうち主要な用途である製材用材に着目し、関東でも有数の林業地である栃木県の高原林業地を対象に、森林所有者から工務店までの用材流通における売り方と買い方の有する情報の非対称性を把握することを目的とした。高原林業地は関東平野北部に位置し、2018年時点で森林面積は1.8万ha、年間素材生産量は約4万㎥である。大規模製材工場が立地し、年間素材消費量は約22万㎥である。事業者数は、素材生産10社、製材24社、特殊用材16社である(栃木県森林環境部環境森林政策課)。手法として用材流通における各事業者間での情報の不足(非対称性)に関する聞き取り調査を行った。その結果、各事業者間では長年の取引や優良材産地であることを背景に品質に関する情報の不足はみられなかった。だが、共販所等の市場取引を介することで、川上側の原木生産情報と川下側の原木需要情報が相互に不足していた。そして、この状況下で大規模製材工場の需要により直接取引が加速していた。

  • 芳賀 大地, 池淵 博之
    セッションID: A42
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    現在、鳥取県では戦後造林地が成熟し皆伐の機運が生じている。しかし、皆伐によって単に生産量が増えた場合、需給が適切に調整されず国民経済的損失が生じる懸念がある。そこで、素材から製材品に至るまでの鳥取県内における木材流通構造を明らかにし、素材生産が拡大した際の課題を明らかにすることを目的に調査を行った。手法は鳥取県内の川上から川下までの事業体に対して郵送法におけるアンケート調査を行った。

    県内製材品需要量に対して、製材用素材生産量は十分であると推計された。しかし、県内製材品生産量は県内需要に満たないと推計された。それでも、素材業から3割、製材業から4割が県外に出荷されていた。建築業においては、県内からの木材調達が多く、プレカットや木材流通業からの入荷が中心と考えられた。製品流通業・プレカット業では調達先の過半が県外であった。建築業、製品流通業からは、鳥取県産材は納期、価格、品質のいずれの点においても課題があると指摘された。県内のB材需要は規模が大きく、県産材の利用拡大意向を有していた。

    A材については製品の質とマッチングが、B材については生産量の確保が課題と考えられる。

  • 大田 伊久雄, 金城 光菜野, 木島 真志
    セッションID: A43
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    沖縄県では戸建て住宅の主流はRC造であり木造は少ない。しかし、木造住宅の着工戸数は2001年の153戸(木造率3.9%)から2017年の1,042戸(同27.7%)へと急増している。そこで本研究では、県内外の建築業者がどのような工法でどれだけの木造住宅を建てているかの実態を調査した。合計44社への聞き取り調査の結果、沖縄県における木造住宅の着工戸数は県内業者と県外業者が同程度の実績となっていることがわかった。ただし、県内業者では年間建築戸数が20戸以下の比較的小規模な業者と20戸以上の中大規模業者が拮抗しているのに対し、県外業者では圧倒的に大規模業者による建築実績が大きいことが判明した。さらに、多くの生産者が2008年以降に木造住宅の建築を開始しており、木造住宅建築に関わる業者数が急激に増加していることもわかった。現状の問題点としては、人材不足、生産者側の取り組み意識の消極性、消費者側の木造住宅に対する不信感などが挙げられる。今後も沖縄県では木造住宅木造着工数の増加が見込まれるが、木造住宅を支える人材の育成や沖縄仕様の家づくりの研究、さらに木造住宅の安全性についての積極的なPR等が必要である。

  • 張 楡晨, 立花 敏
    セッションID: A44
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、中国家具産業を対象とし、文献調査と統計資料を用いて産業集積の特徴と課題を把握し、家具産業の発展状況を分析することを目的とする。具体的には、中国各地域における2007~2017年の家具産業集積数の変化原因を整理すると同時に、その変化について特徴を分析する。中国における家具産業集積とは、家具の生産·販売に携わる企業群が地理的に集積し、いくつかの代表的な家具デザインを持ちながら家具産業構造を形作ることを指す。これまでにWang(2010)、Wu(2012)等の研究によって中国家具産業集積が直面する課題とその改善案が明らかになりつつあるが、家具産業集積の過程及びその理由は十分に解明されていない。近年、中国では家具産業集積が急速に進み、『中国家具年鑑2018』によると2017年12月までに中国の家具産業集積数は49に達し、その内37の集積は自発的に進んだ「特色地域」、12集積は政府主導の「新興産業園」である。華東地区、華南地区、華北地区、華中地区、東北地区、西部地区の生産力指数合計は9割に達する。近年は華東地区が集積数第1位となり、華中地区の増加が際立ち、沿岸地区からは輸出が多い。

  • 林 宇一, 白戸 凌介, 山本 美穂
    セッションID: A45
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、栃木県における大径材需要が増加しない原因として、製材工場の設備が大径材受け入れに不向きになっている点を明らかにした。「不向き」とは、正確には木材価格の低迷や節の多寡が重視されなくなる中で、素早く素材を挽く方向が目指され、結果として高い歩留まりを目指すことは後回しとされる加工体制となっていることを指す。

    具体的には、ツインバンドソーによる一度挽きが中心となり、数度挽きによる有効利用に価値の源を求める大径材は必要とされづらくなっていた。併せてこのような環境の中で製材工場の大型化が進み、製材の量産を重視した機械の導入・生産ラインの構築が進められたことが、より大径材利用を控える動きに拍車をかけていた。

    川中への支援事業が国策として推進される中、栃木県でも森林整備加速化事業以後において本格的に乾燥機の導入があり、それを契機として製材加工体制の刷新が図られ、その刷新は先述のように一度挽きを志向する形で行われた。結果として、現在大径材の需要先は見出しづらく、主伐が推進される中でこの点はより重要なトピックとなったといえる。

  • 大宮 徹, 山下 寿之, 太田 道人, 松久 卓, 城 賀津樹, 荒井 宣仁, 山尾 真生, 祐成 亮一, 桑原 優太
    セッションID: B1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    1971年に全線開通した立山ルートは中部山岳国立公園の国有林内にあり、工事に伴う緑化には現地産の植物種苗のみを用いることとされた。これを受け亜高山帯の道路沿線に発生した50箇所、計約5haの荒廃地はミヤマハンノキを肥料木とする緑化が進められた。施工後半世紀近くが経過し、多くの地点で林床が周囲の植生から侵入したササ類等で被覆されるなど、当初の目標であった初期植生定着の完了が確認され、ミヤマハンノキが亜高山帯での一次緑化植物として十分に機能を果たしたことが分かった。その一方でミヤマハンノキは想定外の樹高に成長し、本来、草原であった景観を変貌させ、車輛運行の安全面でも問題が指摘されるなど、除伐を進める必要性が認められるようになった。そこで関係諸機関の緩やかな連携により緑化地の一つ(約0.1ha)において試験的な除伐を行ったところ、景観、安全面ともに改善が確認された。さらに植生誘導のモニタリングのため固定調査区を設定した。この経験から目標の完了まで長期にわたる管理が必要な亜高山・高山帯における緑化計画にはその地域の管理・運営に関わる諸機関の間での不断の情報共有を担保することが不可欠であることが示された。

  • 藍場 将司, 原田 一宏
    セッションID: B2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    保存樹管理の現状と課題・および管理者の意識と樹木にまつわる伝承との相関の明示を目的とし、名古屋市・静岡市の保存樹管理者(それぞれ全215人・60人)を対象にアンケート調査(有効回答117人・30人)を実施した。その結果保存樹制度の捉え方に関して、樹木の歴史的・文化的価値の保全を求める管理者と、緑地保全事業ととる自治体との間に認識の乖離が見られた。また管理者と近隣住民との関係についても、存在感を示す時機が異なり、両者のすれ違い・対立が生じうる危険性の存在が示された。今後近隣住民を管理者の側に組み込む取り組みを,地域の実情に沿った形で進めることが有効であろう。伝承との関連については,特定の樹木の保全に有効であったと考えられ、伝承が継続的に語り継がれるかという点も含めて追跡が必要となるだろう。

  • 伊藤 太一
    セッションID: B3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    保護地域の分類は1933年のロンドン会議以来と言われるが、管理目的による分類は1972年のダスマン提案をふまえたミラーによる1978年のIUCN保護地域管理カテゴリの導入に始まる。1982年以降国連国立公園・保護地域リストにおいてもこのカテゴリが採用されたが、1994年にはカテゴリIbおよびVIを加え、2008年にはガバナンスによる区分も加わり今日に至っている。このように40年以上にわたる議論をふまえ変更されてきたが、今後も流動的である。その第1の理由としてはMABの提案者でもあるダスマンが指摘したように、広大な保護地域におけるゾーンの扱いが曖昧な点が挙げられる。第2に、保護地域管理カテゴリ導入時にIIとされた国立公園が、それぞれのカテゴリになり得るとして見直されたにもかかわらず、IIの例となっている矛盾が挙げられる。第3に、特に日本の場合は顕著であるが、カテゴリの重複指定の問題が議論されていない点が挙げられる。第5に、保護地域の定義もその管理カテゴリも、学術の場で議論されることなくIUCN内部で適宜変更され、ガイドラインが作成されたことが挙げられる。このため、各国の保護地域担当者の解釈次第でカテゴリが割り振られる余地が大きい。

  • 宮坂 隆文
    セッションID: B4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    近年、乾燥地における砂漠を観光資源として活用する動きが起きている。しかし、砂漠観光が乾燥地の脆弱な社会・生態システムに及ぼす影響については未解明である。本研究は、砂漠観光地として比較的長い歴史を持つモンゴルのフグンタルン国立公園を事例とし、砂漠観光が地域に与える影響を示すことを目的とした。

    地元住民58名、観光客44名、公園のレンジャー1名、地元政府の国立公園担当1名に対し、対象地域での環境変化とその原因に関する聞き取り、及びSemantic Differential法による草原景観の価値認識調査を行った。

    その結果、オーバーツーリズムにより土地劣化が顕在化していることが明らかになった。例えば、観光用に集められたラクダによる樹木の食害と倒壊、観光用燃料のための樹木の伐採、樹木の減少に伴う砂丘の拡大と水場の減少などである。さらに、行政、観光業者、観光業を始めた牧民、通常の牧民、観光客といったステークホルダー間で、問題に対する認識が異なることも明らかになった。また、牧民に比べ観光客の草原に対する価値認識が低いことが確認された。今後、ステークホルダー間の合意形成の場や、地域知に基づく観光客の啓蒙が必要であると考えられた。

  • 土屋 俊幸, 柴崎 茂光, 吉田 正人
    セッションID: B5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    屋久島山岳部は、1964年霧島屋久国立公園指定、1993年世界自然遺産登録を初めとして、国内外の様々な保護地域に指定・登録されてきた。一方、1980年代半ばまで10万人前後で推移していた屋久島への年間入込数は、世界遺産登録によるブームから2007年度には40万人を突破した。この間、山岳部の登山を中心とした観光レクリエーション利用も急速に増大し、特に利用が集中した縄文杉ルートを中心に、過剰な利用による混雑、し尿処理、自然環境に与える影響等が問題視されるようになった。このことから、環境省は2016年度より「屋久島世界自然遺産・国立公園における山岳部利用のあり方検討会」を組織し、山岳部の利用のあり方について、登山道の利用を中心に検討を行ってきた。検討会は4年間が終了し、計14回の本会議と3回の検討部会、現地調査などを実施してきた。現在までに、ROSの考え方に基づく「あるべき利用体験ランク」ごとの管理目標・方針、利用ルートごとのランク、登山道の区間ごとのランク等を検討・確定してきた。発表では、これまでの成果の概要を報告すると共に、合意形成に至る議論の経過、そこでの問題点、そして今後の検討の課題について報告する。

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