1999年に富山県滑川市に海洋深層水を利用した温浴施設がわが国で始めて開設された。自然療法としての海洋療法(タラソテラピー)とは、タラソ(海洋)とテラピー(療法)の合成語であり、古くギリシャ時代から海水や海辺の環境を利用して健康増進に広く利用されてきた。
海洋深層水は、ミネラルを豊富に含み、低温安定性(季節に関係なく低温安定)、清浄性(大腸菌や一般細菌がほとんどなく、陸からの化学物質にさらされる機会もほとんどない)、熟成性(水深300mの約30気圧で長い年月をかけてゆっくり循環している間に熟成される)などの特徴を有する。この深層水を利用して、我々はこの課題に本格的に取り組んできた。
海洋深層水そのものは冷たいのでそのままでは入ることはできないので温める必要がある。温めた水への入浴(温浴)には、ヒトに心理・生理学的な面からさまざまな影響を与えることが明らかにされている。その影響は温水の構成要素によって多様だが、そのうち含有化学成分について分類が整理され、温泉(療養泉)として示されている。海水そのものは、成分からの分類基準をあてはめると強食塩泉(ナトリウム-塩化物泉)に相当する。その効能としては保温作用が上げられる。一般的に保温作用は心身の緊張をほぐし、睡眠の質を高めるとされている。
このような温泉を使った医学的な療法(Balneotherapy)については、最近Nasermoaddeliらによって総説が著されている。また、高木は、「海洋深層水の健康への効用と利用」を報告している。また、イスラエルとヨルダンに接する「死海」では、塩分濃度が高く、うきを使わない浮遊(浮遊浴)による療法が行われ、多くの報告がなされている。我々は、海洋深層水を使ってこのような浮遊浴にも挑戦した。近年、逆浸透膜を用いて海洋深層水を濃縮する技術が開発され、塩分濃度約15%の濃縮水が得られるようになった。この濃縮海洋深層水を用いて、死海で行われているような浮遊浴の実験を行い、浮遊浴が可能なことを実証し、さらに蒸発法で塩分濃度を約30%とした超濃縮水を作製し、その濃縮水による浮遊浴の効果についても検討を行った。
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