集団力学
Online ISSN : 2187-2872
ISSN-L : 2187-2872
36 巻
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編集委員・編集方針
日本語論文(英語抄録付)
  • 馬場 健彦
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 36 巻 p. 3-12
    発行日: 2019/12/28
    公開日: 2019/09/12
    ジャーナル フリー

     現在、都市から離れた地方は過疎と産業の衰退に対する危機に直面している。その対策の一つとして、その地に特有な産品を取り上げ、地域名をつけて価値づけを行う「地域ブランド」による産業振興と地域活性化が試みられている。本研究では、価値のある産品が、産地に対する居住希望におよぼす影響について検討した。農業・漁業・大学の立地の、3 種の産業と産品を設定したモデル都市に対して、大学生の都市志向、居住希望を問い、居住希望に関わる要因を調べた。その結果、農業と漁業の産品の魅力は居住希望につながるが、参加者個人の都市居住への志向も大きく影響していることが分かった。また大学が立地することは居住希望と関係がないことが判明した。本研究の結果は、優良な産品を有し、それを地域ブランドとして確立することは、地方の人口を増やす対策として有効である可能性を示唆していた。また地域ブランドを利用した新たな居住者の獲得には、あらかじめ都市居住への志向が少ない消費者に対象を絞った働きかけが効果的で現実的であると考えられた。

  • ある農協と漁協のケース
    馬場 健彦
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 36 巻 p. 14-22
    発行日: 2019/12/28
    公開日: 2019/10/31
    ジャーナル フリー

     我が国では、地域の産品の価値を高めることを目的として、地域ブランドの確立につながる「地域団体商標制度」が施行された。本研究は、生産者団体に調査を行い、同制度に対する団体としての態度や商標についての位置づけや利用方法についての実情を把握し、検討を加えた。農業協同組合(農協(JA))と漁業協同組合(漁協, JF) に対して、地域団体商標を含めた商標・ブランドについての活動や、それらについての姿勢や態度を尋ね、現場を調査した。農協では地域団体商標の取得を目指してはおらず、商標としては従来の商標登録の利用にとどまっていた。地域団体商標を取得した漁協では、知名度の上昇や取引の増加を期待しておらず、集団のアイデンティティを高めるなど集団内の結束力を高めるために地域団体商標を利用していた。これは制度設計者から見れば、目的とは異なる利用方法がなされていることを示している。その結果、本研究で協力に応じた農協・漁協は、い ずれも地域団体商標に過大な期待を寄せず、むしろ冷静に判断する態度を持っていることが示された。

  • ―グループ学習の構造化に着目してー
    藤井 厚紀, 石橋 慶一
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 36 巻 p. 24-43
    発行日: 2019/12/28
    公開日: 2019/12/24
    ジャーナル フリー

     本研究では、学習方法の自己選択を導入したアクティブラーニング型授業における学生のグループ学習の行動と主観的評価の調査を通して、今後の授業改善に向けた検討を行った。グループ学習のメンバー編成方法は、教員の指定による編成と学生の任意による編成の2 種類を設定した。授業を実践した結果、グループ編成方法の選好と成績区分との間には関連性のあることが認められ、成績「可」の学生については、教員による指定編成を選好した者がひとりもいなかったことがわかった。また、それらの学生の一部は、指定編成における他者に対する援助要請の困難に伴って、学習目標への到達が不十分となっていたこともわかった。これらの結果を踏まえ、とりわけ学習に困難を抱える学生に対する学習方法の選択やグループ学習を遂行するための段階的支援のあり方など、アクティブラーニングの促進に向けた今後の実践上の改善点について考察した。

  • --- 教職大学院におけるメディア史・メディア論の援用 ---
    八ッ塚 一郎
    2019 年 36 巻 p. 45-58
    発行日: 2019/12/28
    公開日: 2019/12/26
    ジャーナル フリー

     現場教師の意欲と関心を高め、ネット教育を活性化し児童生徒のよりよいネット利用を促進する、歴史的視座と理論的観点を踏まえた教師教育コンテンツを構想した。

     情報端末の普及が進み、児童生徒によるスマートフォン等の所持率が高まるなかで、ネットいじめやSNSによるトラブル等、子どもの関わる事案も多く報告されるようになっている。

     しかし、ただでさえ多忙な教師にとっては、ネット教育を行う必然性や自分がそれを担うべきだという意識を持ちにくいのが現状である。また情報機器に対する馴染みが薄い場合、ネットをトラブルの根源とみなし、もっぱら危険性を喚起する禁止教育の方向に傾きがちともなる。

     教師自身がネットの問題を身近なものとして意識し、魅力や利便性と、危険や依存性とが表裏一体をなすその特性を的確に理解して、より実効性のあるネット教育を展開できるよう、新たな教師教育のコンテンツを構想した。具体的には、メディア史とメディア論を援用し、現代のネット状況に対する新たな視座を獲得することを企図した。

     メディアの歴史を踏まえるなら、インターネットは必ずしも新奇で理解不能な存在ではない。 それは近代化と軌を一にして発展を続けてきた情報メディア群の正統な嫡子であり、現今のトラブルもまた過去に類似する事例や対応策を様々に見出すことができる。メディア論やその哲学的考察を踏まえることで、児童生徒のネット依存や不適切な行動の背景を理解し、根源的な対応のあり方を考察することも容易となる。

     これらのコンテンツを活用し教職大学院において試行した授業内容は、教師のネット認識と教育姿勢に変革をもたらすものであることが示唆され、今後の研究と実践に向けた新たな課題と方向性を得ることができた。

  • ---岩手県野田村におけるNPO 法人のんのりのだ物語の活動を中心に---
    陳 俐珊, 永田 素彦
    2019 年 36 巻 p. 60-122
    発行日: 2019/12/28
    公開日: 2019/12/28
    ジャーナル フリー

     巨大災害にみまわれたコミュニティの復興と活性化は,住民が地域のリソースを活かし主体的に関わる内発的なものであることが望ましい。本研究は,東日本大震災の被災地である野田村において,一人の若い女性を中心に震災後に設立されたNPO 法人のんのりのだ物語の活動を事例として,被災コミュニティの内発的活性化を促す関係性の特徴を明らかにすることを目的としている。のんのりのだ物語の活動への参与観察,および,関係者へのインタビューを通して,のんのりのだ物語の活動が,地域の内発的な活性化を促したこと,そして,地域住民と外部者のコンサマトリーな交流が,内発的な活性化の鍵であることを見いだした。最後に,一人の若い女性が内発的活性化のリーダーとなったプロセスを,関係性の観点から論じた。

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