安定解析の実務において,CU三軸圧縮試験から求められるccuとφcuは,破壊規準を規定する定数として使用されている。しかし,ccuとφcuは破壊規準を規定する定数ではなく,任意の圧密圧力における非排水せん断強度を求める定数である。本研究ではまず大規模盛土の安全性調査のために実施された8か所の盛土の不攪乱試料を用いた三軸試験結果より,全応力表示のモール円の包絡線から求めたccuとφcuの特性とその工学的な意味について検討した。次に,検討したccuとφcuの工学的意味に基づき,ccu,φcuとUU条件の内部摩擦角φuを用いて盛土の地震時安全率を求める新たな式を提案した。種々の条件において現行の式と提案式による安全率の比較を行った結果,現行の式はφcuが15˚付近で提案式とほぼ一致するが,15˚より大きい場合に安全率を過小評価し,14˚より小さい場合には過大評価していることがわかった。
地山補強土工法では道路分野を中心として法面工の種類や形状に応じて法面工低減係数µを用いて設計されている。しかし,この法面工低減係数µは,提案された当時の「剛な法面工」を対象に検討された値であり,現在の様々な材料や形状を有する法面工に対して,同一観点で評価できるのかが課題である。本研究は,はじめに法面工低減係数µ算出に関する既往実験方法を系統的に整理した。その結果,変位量などの統一的な規定が存在しないことが明らかになった。次に,地山補強土工法の補強効果を確認する際に用いられる天端部からの斜め載荷による実験方式で遠心模型実験を行った。本研究の範囲では,大変形時には補強材の曲げによって法面工低減係数µが過大評価されること,同じ法面工低減係数µでも,斜面安定性に対する法面工の効果は異なることが分かった。
首都圏湾岸部の深度40 m 付近には,七号地層に代表されるN 値が4~8 の中位の粘性土地盤が分布している地域がある。この場合,トンネル標準示方書に則って安全側にセグメントの設計を行うと,土水一体かつ全土被り圧を採用する必要があるため,セグメントの厚さが不合理に厚くなることがある。一方,中位の粘性土地盤でセグメントに作用する土水圧を計測すると,地盤の自立性が高い場合は,セグメントには主に静水圧程度の水圧が作用し,鉛直有効土圧は全土被り圧以下であったとの事例が報告されている。本研究は,中位の粘性土地盤中のセグメントに作用する土水圧の取扱いを明確にすることを目的として,シールド工事現場における土水圧の計測事例を,土水連成の3 次元弾塑性FEM を用いて分析するとともに,トンネル外周地盤の力学的挙動に着目してセグメントに作用する土水圧について検討したものである。
本研究では,補強材を伴った地中内構造物の主働モードでの鉛直土圧や地盤内変状の影響を検討するため,補強材の敷設条件を変化させたトラップドア模型実験を実施し,有限要素解析と比較・検討した。補強材の設置位置がドア部に近いほど,地盤内に発生するせん断帯の発達が補強材により抑止されると伴に,根入れ効果を示す補強材下の空洞面積が増加し,ドア部に作用する鉛直土圧が変化する実験結果を,数値解析により一定程度再現出来た。また,数値解析でのドア部周辺に作用する鉛直土圧分布において,ドア部から補強材までの距離が小さいほど,ドア端部から補強材端部付近での土圧の変化量は大きく,土圧分布形状が複雑になる傾向にあることから,補強材の設置位置が地中内構造物に作用する土圧に大きく影響することが示された。