日本老年療法学会誌
Online ISSN : 2436-908X
1 巻
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巻頭言
総説
  • 島田 裕之
    2022 年 1 巻 p. 1-5
    発行日: 2022/03/01
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    日本老年療法学会は,高齢者の健康増進,障がいの一次,二次,三次予防の効果的な知見を創出するために,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士等の専門職が一体となって議論する場を提供し,知見の共有やイノベーションの創出を目的としている。この目標を達成するためには,研究を通じた生涯学習の促進が必要であり,研究実施の手順を自己の経験を踏まえながら記述した。本学会を通して質の高い研究が広く公表されることを期待している。

  • 土井 剛彦
    2022 年 1 巻 p. 1-6
    発行日: 2022/03/01
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    健康寿命延伸のために,フレイルや認知症の対策が重要であり,理学療法士を含めた専門職が果たす役割に期待が寄せられている。そのような状況において,フレイル,認知症に対して適切に理解することが求められる。フレイルの評価として,身体的な側面だけでなく社会的な側面や認知機能にも着目し,包括的に高齢者の状態を把握することが求められる。認知症については,認知機能評価を行い,状態に応じた対応が求められ,mild cognitive impairment(MCI)は積極的な介入が求められる対象である。フレイルに対する介入としては,運動を中心とした方法が推奨されており,認知機能低下抑制に対しても運動は実施すべき介入方法の一つとして考えられている。高齢者を対象に,運動介入や身体活動促進をおこなうことで身体機能にポジティブな効果がもたらされることは広く知られているところである。また,身体機能や身体活動と認知機能の関連性を明らかにすべく,疫学研究,脳画像研究や介入研究など幅広く検討がなされてきた。これらの内容を適切に理解することで,専門職がフレイル,認知症対策により積極的に関わることにつながると考えられる。

  • ―自分らしい地域生活を継続するためのMeaningful Activity―
    田平 隆行, 池田 由里子, 丸田 道雄, 下木原 俊
    2022 年 1 巻 p. 1-6
    発行日: 2022/03/01
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    Healthy Aging(WHO)や世界的な作業療法の潮流を受け,個人にとって意味のある活動(Meaningful Activity; MA)を基にした作業療法実践が重要視されてきている。MAは「個人,集団,地域にとって個別的意味があり,納得のいく経験を促すために選択され,遂行される作業」と定義されているが,世界的なコンセンサスは得られていない。しかし,地域在住高齢者のMAを発掘し,MAに焦点を当てた実践によってIADLやQOLに効果があることが分かってきた。我々が取り組んでいる地域在住高齢者に対するMA調査においても,MAの満足度と抑うつやアパシーとは有意な関連があり,MAの満足度を高める支援が必要と考える。さらに,身体フレイルを有する高齢者は身体活動を,認知機能障害を有する高齢者は認知活動をそれぞれMAとして選択する割合が有意に低く,フレイルの各側面に応じてMAが影響を受けることも分かった。住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるためにMAに従事し満足できるよう,本人のできることを最大限に活かした作業療法を展開していきたい。

  • 外山 稔, 中西 恵利菜
    2022 年 1 巻 p. 1-7
    発行日: 2022/03/01
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    超高齢社会となった現在,加齢とともに出現する疾患や健康障害が大きな問題として位置づけられ,加齢性難聴と認知症への対策が課題となっている。加齢性難聴は,高齢者の身体に直接的な影響を及ぼすものではないが,コミュニケーション障害の原因となり,社会的孤立やうつを引き起こす要因となり得る。現在,加齢性難聴と認知症の因果関係について,十分な結論には至っていないものの,時間的に先行する難聴は認知症の発症や認知機能低下のリスクを高めることが明らかとなっている。コミュニケーション支援を専門とする言語聴覚士による観察・評価およびリハビリテーションの知識・技術は,難聴の早期発見と介入に役立つと考えられる一方,聴覚領域で働く言語聴覚士はごくわずかである。今後,補聴器装用が認知症の発症リスク軽減に寄与することが明らかにされれば,高齢者の聴覚と認知機能の評価はますます重要となる。オージオメータや専用の機器・装置がなくても実施できる入眠時聴性開眼反応,囁語法聴力検査,指こすり音聴取検査を用いた聴覚スクリーニングは多くの施設で導入可能である。また,有用なコミュニケーション手段の検討やコミュニケーション環境の調整は,言語聴覚士が専門的な臨床経験を有する分野である。加齢性難聴に対する関心が職種を超えて高まり,実現可能な介入方法の検討ならびに地域高齢者への啓発活動につながることが期待される。

  • 松沢 良太
    2022 年 1 巻 p. 1-9
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2022/11/16
    ジャーナル フリー

    本邦において腎代替療法を必要とする末期腎不全患者は年々増え続けている。また,腎臓病の成因および病態の変化や透析療法の長期化に伴い,血液透析患者の深刻な高齢化が報告されている。高齢透析患者には慢性的な低栄養の遷延,透析療法に伴うアミノ酸喪失,慢性炎症,インスリン抵抗性,代謝性アシドーシス,尿毒症,異化亢進/同化抵抗性,度重なる入院イベントおよび多疾患併存といったフレイルにつながる危険因子を数多く有する。定期的な身体機能・身体活動量評価や評価結果に対するフィードバック,さらには評価結果に応じた運動療法指導の実施が行われることは腎不全患者の日常生活動作レベルやquality of lifeの維持・向上につながり,生命予後の改善,さらには腎移植への道も開けるかもしれない。透析医療を含む腎臓病領域において,フレイル管理は未だルーチンケアには含まれていないのが現状であり,これから療法士が参入していく必要性を筆者は強く感じている。

  • ―障害と評価―
    中村 光
    2022 年 1 巻 p. 1-7
    発行日: 2022/11/21
    公開日: 2022/11/23
    ジャーナル フリー

    コミュニケーションとは「意味の共有」と定義される。一方が共有を望んで頭の中の意味を記号化しメッセージとして発信し,他方がそれを受信して記号を解読し頭の中に同じ意味が生じれば,コミュニケーションが成立したことになる。また,コミュニケーションの場には必ずコンテキスト(文脈,状況)があり,同じメッセージであってもコンテキストによって意味は異なってくる。コミュニケーションの問題を引き起こす障害は,大きく4つに類別できる。①記号の入出力の問題が聴覚障害や音声・構音障害であり,②記号の操作の問題が大脳左半球の損傷で生じる失語症である。また,③主にコンテキストの利用の問題として,近年では認知コミュニケーション障害(CCD)という概念が提唱されている。CCDとは,注意・記憶・遂行機能などの認知機能障害を背景にしたコミュニケーション障害で,大脳の右半球損傷,前頭葉損傷,瀰漫性損傷によって生じることがある。さらに,④認知症は意味の問題に加えて②③も併発しているものと捉えることができる。失語症に関して日本では最近まで,機能障害水準の評価尺度がほとんどでコミュニケーション障害(活動制限)水準を直接評価する尺度は乏しかったが,現在は複数のものが開発・発表されつつある。CCDの評価尺度は開発の途上にある。最後に,老化におけるコミュニケーションの問題についても,CCDの研究・臨床で得られる知見が有用であろうと論じた。

  • 石橋 裕
    2022 年 1 巻 p. 1-5
    発行日: 2022/11/28
    公開日: 2022/12/08
    ジャーナル フリー

    生活行為とは人々が毎日行っている活動のことであり,高齢者は疾患や障害,フレイルにより日々できることが少なくなる。また,生活行為の問題は,認知症の生活障害のように,疾患の特徴として報告されることもある。生活行為には様々な方法で評価できるが,それぞれ異なった特徴を有している。具体的には,包括尺度なのか特異的尺度なのか,抽象化された質問か具体的な質問か,可否を問うのか実施状況を問うのかなどである。それらの中には,対象者に生活行為の意味や優先度を尋ねることにより,支援に生かすこともできる評価もある。生活行為の評価方法の違いは,生活行為に対する包括的支援なのか,集中支援なのかといった違いにもつながっている。一方で,最近はプログラム中に生活行為の目標を明確にするなどの取り組みも行われるようになり,双方の利点を生かしたプログラムも開発されるようになった。生活行為の評価と支援のためには専門的な知識が必要ではあるが,今後は広く社会に普及するための評価と支援方法の開発が望まれる。

原著
  • ―傾向スコア・マッチング法を用いた横断研究―
    牧迫 飛雄馬, 赤井田 将真, 立石 麻奈, 松野 孝也, 鈴木 真吾, 平塚 達也, 竹中 俊宏, 窪薗 琢郎, 大石 充
    2022 年 1 巻 p. 1-7
    発行日: 2022/03/01
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住高齢者における軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)に関連する可変因子を探索し,それらの組み合わせによるMCIとの関連性を検討することを目的とした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018および2019)に参加した高齢者のうち,MCI群289名と非MCI群289名(プロペンシティ傾向スコアによる1:1のマッチング)の計578名(平均年齢76.15歳,女性63.7%)のデータを横断的に分析した。決定木分析によりMCIの有無に関連する項目を抽出してグループ化した。【結果】決定木分析の結果,握力低下(男性 28 kg未満,女性 18 kg未満),睡眠の質の低下,社会参加の有無の組み合わせによりグループが形成され,MCIの割合は握力低下なし+睡眠の質の低下なしの群で最も低く(37.7%),握力低下あり+地域行事の参加なしの群で最も高かった(82.0%)。【結論】筋力が維持され,睡眠の質が良好な高齢者では認知機能低下が抑制されている可能性が高く,一方で筋力が低下し,社会参加(地域行事などへの参加)が乏しい高齢者では認知機能の低下が疑われ,MCIを有する割合が高くなることが示唆された。筋力,睡眠,社会参加を良好な状態に維持すること,またはいずれかに低下が認められてもそれ以外の因子を良好な状態を保つことが認知機能低下の抑制に寄与するかもしれない。

  • 赤井田 将真, 中井 雄貴, 富岡 一俊, 谷口 善昭, 立石 麻奈, 田平 隆行, 竹中 俊宏, 窪薗 琢郎, 大石 充, 牧迫 飛雄馬
    2022 年 1 巻 p. 1-6
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住高齢者ドライバーにおける自動車事故歴と転倒歴の関連性を調べることを目的にした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018または2019)に参加した65歳以上の自動車運転をしている高齢者602名(平均年齢72.8±5.6歳,女性50.0%)を対象とし,横断的に解析を行った。自動車事故歴は過去2年間の自動車事故歴の有無を聴取し,「事故歴あり」と「事故歴なし」に分類した。転倒歴は過去1年間における転倒の有無を聴取し,「転倒歴あり」と「転倒歴なし」に分類した。統計解析では,従属変数に事故歴の有無,独立変数を転倒歴の有無,共変量に年齢,性別とした二項ロジスティック回帰分析を行った。【結果】全対象者のうちで自動車事故歴がある者は5.6%,転倒歴がある者は13.0%であった。事故歴ありの者は,事故歴なしの者に比べ転倒歴を有する者の割合が有意に高かった(p=0.003)。二項ロジスティック回帰分析の結果,転倒の経験は自動車事故の経験と有意に関連することが示された(オッズ比:3.12,95%信頼区間:1.42–6.85,p=0.004)。【結論】地域在住高齢者ドライバーにおいて,自動車事故の経験を有することと転倒の経験を有することは関連することが示唆された。

  • 山 健斗, 猿爪 優輝, 山下 真司, 神谷 健太郎
    2022 年 1 巻 p. 1-6
    発行日: 2022/06/22
    公開日: 2022/06/22
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住高齢者を対象に通所介護サービス初回利用時の目標内容を計量テキスト分析にて解析し,サービス開始時の動機付け因子となる要因を明らかにすることとした。【方法】通所介護を利用している事業対象者・要支援者の96名(平均年齢79.4歳,女性59名)を対象とした。目標設定は構造化された枠組みに沿って行われた後,KH coderを用いたテキストマイニング法にて関連のある用語の抽出と共起ネットワークにて関連性を認めた抽出語をクラスタリングし,カテゴリー,サブカテゴリー分けを実施した。分類したカテゴリーと介護度,年齢,日常生活自立度,性別のバブルチャートを作成した。【結果】目標のカテゴリーとして①身体機能の改善,②歩行の耐久性の向上,③生活水準維持に必要最低限の生活空間での自立,④駅までの外出,⑤公共交通機関の利用,⑥社会活動の獲得,⑦運動関連の余暇活動に分類された。また,バブルチャートにて介護度と年齢は目標の生活空間の広さ,日常生活自立度と性別は目標の社会活動のレベルに一定の関連があることを示した。【結論】社会参加に関連した目標だけでなく,生活範囲の維持等を目的とした身体機能や活動面も目標となり,介護予防対象者へ効果的な動機付けの一助を担える可能性が示唆された。

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