心身健康科学
Online ISSN : 1882-689X
Print ISSN : 1882-6881
ISSN-L : 1882-6881
6 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特別講演
第9回日本心身健康科学会学術集会 シンポジウム
原著論文
  • 古川 公宣, 鈴木 はる江, 福田 潤
    2010 年 6 巻 1 号 p. 1_23-1_29
    発行日: 2010/02/10
    公開日: 2010/09/28
    ジャーナル フリー
    1995年にRamachandranらによって報告されたMirror Box法においては,鏡に映る反転像を見ながら手を動かすと,反対側の幻肢痛の寛解や運動麻痺の軽減が起こるとされ,心身の健康回復に大きく寄与している.Mirror Box使用時に起こる脳内の興奮についてはいくつかの研究がなされているが,末梢における神経や筋での変化を調査したものはない.
    そこで今回我々は,Mirror Box使用中の筋活動電位の変化を調べる目的で,健常成人男性(19名)を対象として,Mirror Boxの鏡に映る像を見ながら,A4用紙上に4個の円(直径6.3cm)を利き手で描く円描画課題遂行時の,利き手及び非利き手の手内在筋(第I背側骨間筋部)から筋活動電位を導出した.
    非利き手の筋活動電位は,Mirror Boxを使用しない時には小さかったが,使用した時には著明に増加した.この筋活動電位は,安静時で平均振幅値が約2.1μVに対し,円描画課題遂行時には約5.6μVとなり2倍以上の増加を示し,5倍以上となる高い値を示す被験者も数人いた.また,非利き手の筋活動電位は,円描画課題の進行の時間経過とともに増加した.この増加はMirror Boxを使用しない時にも観察されたが,Mirror Boxを使用した時に特に顕著であった.一方,利き手の筋活動電位は,Mirror Boxの使用時が有意に低く,円描画課題遂行時の時間経過に伴う変化は示さなかった.
    これらの結果から,鏡に映る反転像を見ながら利き手を動かしている時,Mirror Box内で安静を保っているはずの非利き手には,大きな筋活動電位を発生させる興奮が脳から伝達されていると推察された.今回の結果は,運動機能に対する脳の役割,心身健康並びにMirror Box法の治療効果の機序を解明する新しい糸口となると考えられる.
  • 植田 昌治, 久住 武, 大谷 純
    2010 年 6 巻 1 号 p. 1_30-1_38
    発行日: 2010/02/10
    公開日: 2010/09/28
    ジャーナル フリー
    高所不安による立位保持への影響を確認するため,健常成人男性31名を対象に,高さ1mテーブル中央上と,通常時の立位保持60秒間の足圧中心値測定を行った.加えて不安を惹起する原因の所在が異なることによる立位保持への影響の違いを確認するため,高さ1mテーブル上で,対象者の前・後・左・右側がテーブル縁に近くなる位置で足圧中心値測定を行った.また対象者に生じた不安と足圧中心値との相関を確認するため,STAI(状態─特性不安検査)等を用いて不安評価を行った.
    その結果,開眼状態では,テーブル中央時の総合プレート値での総軌跡長などが,通常時に比べて有意な減少を認めた.またテーブル上で立つ位置を変えて実施した足圧中心値測定では,開眼状態では後不安時の左プレート値・右プレート値の前後方向軌跡長などが他の場面に比べて有意な増加を認めたことより,高所不安により足関節底屈筋などに反射的な収縮が生じ,協調的な姿勢保持が阻害されたこと,後方向への転落防止のためには前足部が有効に機能できず不利なこと,転落方向への視覚情報がなく,後方への転落は危険であるとの認識から不安が増大したことなどが関与したものと推測された.
    またSTAI特性不安得点と後不安時の右プレート値の左右方向最大振幅などとの間に有意な負の相関を認めた.特性不安の大きい者ほど右足の側方の動きが減少することより,初めて動作練習を行う不安になりやすい傾向であると認識した患者には,右足の側方への動的な反応を要求する場面を設定し,運動学習を行わせる必要性が示唆された.
  • 松本 幸子, 小岩 信義, 久住 武
    2010 年 6 巻 1 号 p. 1_39-1_45
    発行日: 2010/02/10
    公開日: 2010/09/28
    ジャーナル フリー
    看護学校に在籍する学生(看護学生)が看護教育を受ける中でつまずく要因には,看護学等の基礎学力の問題だけではなく,患者を中心とした周囲の人々の気持ちを理解する等のコミュニケーション能力の低下が存在すると考えられる.そこには知能指数,すなわちIQ(Intelligence Quotient)に加えて,ダニエル・ゴールマンが提唱したEQ(Emotional Intelligence Quotient,感情知能指数)も関係していると考えられる.そこで本研究では看護学生のEQを調査し,看護教育のあり方について検討した.
    EQの調査は,A専門学校の看護学生281名を対象に,高山簡易版EQテストを用いて質問紙によりアンケートを行った.EQを構成する4つの要素(感情の「識別」,「利用」,「理解」,「調整」能力)それぞれの得点(各要素:6~30点)と4つの構成要素の得点を合算したEQ合計得点(24~120点)について検討した.
    EQ合計得点は学年別でみると,新入生がもっとも高く,次いで3年生,1年生と続き,2年生が最も低かった.学年枠をはずして年齢とEQ合計得点との関係を検討したところ,両者の間に関連性は認められなかった.また,EQの4つの構成要素の得点を比較すると,各学年とも「識別」が最大で「利用」が最小値で,「識別」と「利用」の値の間には有意の差を認めた.EQの各構成要素の値の間には強い正の相関関係を認めた (r=0.63~0.83).EQ合計得点と4つの構成要素の関係では,「利用」が最も強い関連性を示した (r=0.89).
    以上のことから,看護学生のEQを高めるには,合計得点が最も低かった2年生への教育,さらに各学年とも低値を示した感情の「利用」を高めるような教育が必要になると考えられる.また,EQの各構成要素間の相関が高いことや,各構成要素とEQ合計得点との間に強い相関を認めたことから,看護学生が自らの得意とする感情の要素を学習することで他のEQの要素と総合的なEQを高めることが可能であると考える.
feedback
Top