日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第45回日本家庭科教育学会大会
選択された号の論文の44件中1~44を表示しています
  • 小学校における「みそづくり」単元の構想と実践
    田岡 裕子, 山下 智恵子
    p. 1
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
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    目的と方法
    本研究は, 小学校家庭科における「みそづくり」教材の教材としての可能性や教育的価値を検討することを目的としている。方法として, みそ汁つくりの単元に「みそづくり」を取り入れた授業を構想し, 実践した。授業の文脈の中で子どもをとらえるため, 授業の過程での子どもの発言や行動, ワークシートなどを資料として子どもの学びを捉え, 「みそづくり」教材の教育的価値をとらえようとしたものである。
    単元の構想
    単元は, (1)我が家のみそ調べ, (2)「讃岐みそ」について学ぼう, (3)家族にあったみそづくり, (4)値段付けとラベルづくり, (5)みそ汁, 雑煮, 打ち込みうどんづくりによって構成した。
    「みそづくり」教材の教育的価値
    子どもたちは, それぞれの家庭で使っているみそには多様なものがあること, また, 地域によってみそに違いがあること, 「讃岐みそ」というこの地域独特のみそがあることに気づいた。そして, 地域に昔から伝わってきた材料や作り方でみそを作ることによって, 昔の人の苦労や知恵に気づいた。さらに, 作ったみそに値段をつけ, 売り手から買い手へのメッセージとしての表示やラベルを付ける作業をすることによって子どもたちは売り手の立場を模擬体験することができた。
  • 矢野 由起
    p. 2
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]多種多様な食品があふれ、食生活は豊かで便利になった。その背景には、インスタント食品やレトルトパウチ食品など簡便さを目的とした加工食品や、調理済み·持ち帰り食品などの普及がある。一方、食品イメージは食品の選択や摂取に影響を及ぼす。そこで、本研究では中学生が加工食品に対してどのようなイメージを持っているか、またそのイメージの形成にどのような要因が影響を及ぼしているかを検討する。
    [方法]滋賀県内公立中学校1年生171名、中学校3年生176名の計347名を対象に、2001年9月から12月にかけて質問紙法により調査を行った。回収率は100%、有効回収率は96.5%であった。調査内容は10の加工食品の9イメージについて5段階で評価させた。
    [結果]ハンバーガー、ポテトチップスは「好き」「おいしい」「食べたい」イメージが強く、同時に「やや添加物が心配」「やや身体に悪い」というイメージがもたれていた。フライドチキン、カップラーメンについても同様の傾向がみられた。ヨーグルトは「好き」「おいしい」「食べたい」イメージが強く、10食品の中で最も「身体によい」とイメージされていた。コーラは「好き」「おいしい」「飲みたい」とイメージされている反面、「砂糖が多い」「身体に悪い」というイメージがもたれていた。
  • 高等学校選択家庭科の授業
    中屋 紀子, 江本 光美, 堀江 和子
    p. 3
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的·方法›
    これまで、私たちは一人一人の生徒に同じような調理体験ができるような授業のしくみが必要であると考え、「一人·一品·三まわり」の調理実習を提案してきた。本報告の課題は一人一人の生徒の成長過程を明らかにするものである。
    実際の授業のようすは3台のVTRで記録し、ストップモーション方式で分析した。まず、第1回実習では以下の6点で見た各人の問題点をリストアップした。(1)安全への配慮(2)知識·理解(3)技能(4)作業の見通し·計画性(5)自立(6)連携。第7回実習時の結果を第1回時と比較·検討した。
    ‹研究結果›
    結果は、以下である。(1)生徒一人一人が責任を持って調理した結果、すべての項目で問題点が解消されていた。(2)また、それぞれの問題点が「改善」、「多少改善」、「変化なし」に分けて測定したところ、問題点が改善された生徒は80%以上にのぼった。
    この過程をまとめてみると、(1)この実習での生徒の成長過程は、大きく分けて2段階あった。一人で責任を持って一つの調理を取り組む能力が身につくと、調理に必要な能力がついで身につく。また、(2)生徒の調理能力の伸長には、班構成が大きく影響する。(3)分担意識の行き過ぎから、他の分担への関心がなくなるという問題点もある。
  • 町井 敏子, 吉原 崇恵, 八木 智子
    p. 4
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›住まいをより良くすることについて全てをあきらめて関心を失うことは中学生においても見られることである。社会的経済的制約が背景にあるが、子ども達が現在および将来にわたって住まう空間を作り出す能力の基礎には「どうすればより良くなるのだろうか」という課題に対して、自分でも出来る解決の可能性や有効性を実感することが必要だと考えた。そこで、「学校」を題材にし、子ども達が日頃から不便と感じている点の改造を考え実践する授業を行った。本報告はこの題材の意義を(1)住まいをより良くする可能性や有効性の認識の価値(2)学習の共通基盤としての価値の二点を検証することが目的である。
    ‹方法›住居についての全11回の授業に「学校改造」を位置づける題材構成を行った。検討する資料は、毎時間後の授業感想文、個人別の学習記録、全時間終了後の自由記述式のテストである。
    ‹結果›題材「学校改造」の意義は、学校を生活空間として意識し改善点を発見し実践する楽しさを味わい、友人との学習の共有が出来る点であった。自分のうちの見直しと実践には具体的な改善点に気がつく、また将来への意欲という点に発展した。実際の行動は家具の移動というレベルになることが多いがそのことによって、経済的社会的な条件についての学習準備が出来たと言えよう。
  • —家庭基礎における授業構想—
    岡田 みゆき, 白井 由貴子, 小川 育子
    p. 5
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】2003年に施行される新学習指導要領においては, 高等学校家庭科として, 2単位の「家庭基礎」を履修する高等学校が多くなると予想される。こうした状況の中で住生活領域の授業でも, 限られた授業時数の中で, 生徒の住生活に対する関心を高め, 実践的な態度を身につけることが求められる。本研究では, 生徒自身が主体的に住生活を身近なものとしてとらえ, 健康で安全な住生活を創造する能力と実践的な態度を育成することを目的とし, 題材構成を試みた。具体的には, 年齢や家族構成によって, 住居に対する視点の重要性が異なることを考慮し, 自分の生涯を3つのライフステージ(一人暮らしの生活, 家族との生活, 老後の生活)に分けて学習内容を考えた。
    【方法·結果】授業は, 香川県の高等学校2年生158名を対象に02年1月∼2月に行った。全授業構成は9時間(一人暮らしの生活3時間, 家族との生活3時間, 老後の生活3時間)で構成した。授業を構成するにあたって, 生徒が(1)興味·関心を持つ, (2)知識や考えに気付く, (3)自分なりによく考えることができる, (4)実際の生活に生かしたいと思うという4つの目標を設定した。これらの目標を達成するために, 新学習指導要領で示された住生活における内容を, 各ライフステージの学習内容に取り入れた。さらに多方面から住生活を考えられるように, 家族構成や家族の生活, 経済面, 環境面, 安全面, 余暇の時間などの視点も学習内容に加えた。
  • —授業分析と考察—
    白井 由貴子, 岡田 みゆき, 小川 育子
    p. 6
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本報では, 第1報の「住生活をライフステージからとらえた授業開発」の授業実践を分析し, 考察する。
    【方法】分析は, 生徒に対する事前調査, 各段階ごとの自由記述調査およびアンケート調査, 全授業終了後の自由記述調査およびアンケート調査, さらに学習内容の理解についての確認テストにより行った。
    【結果】生徒の興味·関心については全授業終了後には, 学習に「興味·関心が持てた」が51.9%, 「少し興味·関心が持てた」は44.1%というように, 約96%の生徒が, 興味·関心を示していた。知識·理解については, 事前調査でも住居そのものについての知識は持っていたが, 各ライフステージごとに, 家族構成や家族の生活, 経済面, 環境面, 安全面, 余暇の時間などが異なることに気づき, さらにより広い視野を身につけた。また一人暮らしの生活を授業の生活に取り上げたことで住生活を身近な問題として捉えることができ, 多くの生徒が, 「自分なりによく考えられることができた」, 「実際の生活に生かしたい」という感想をもった。さらに実際の生活に生かしたいと答えた学習内容は, 一人暮らしの生活での「アパートの物件探し」や「一人暮らしの1ヶ月の生活費」, 「住生活の安全面」であった。これらの結果から, 住生活を創造する能力や実践的な態度を育成するためには, 生徒の身近な生活から導入し, 生活全体から住生活を考えることが重要であると考えられる。
  • —生徒の学習評価から—
    佐々木 貴子
    p. 7
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
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    [目的]本研究は、小·中·高等学校家庭科「住生活」に防災視点をとり入れた指導内容の位置づけや教材開発をどうするか追求することを目的に行っている継続研究の一端である。本報では、中学校「選択家庭科」において防災視点をとり入れた授業実践を行い、それに対する生徒の学習評価から効果的な指導内容·方法、および教材のあり方について検討することを目的とした。[方法]防災視点をとり入れた授業案と教材を作成し、これをもとに函館市内の公立中学校第2学年男子13名、女子15名の計28名を対象に、「選択家庭科」で家庭科担当教諭が授業実践した。授業実施期間は平成13年5月∼12月で、週1時間である。防災視点をとり入れた授業案と教材の効果を、毎授業後の生徒の学習評価をもとに分析·検討した。[結果](1)受講した生徒は震度4以上の地震体験がないために、防災に対する興味·関心が低かった。(2)函館市でも今後起こりうる地震を想定して、部屋の危険度チェックや家具の固定方法等を示した視聴覚教材や体験実習授業によって、生徒の興味·関心が高まった。(3)ライフライン断絶の対処法として行った非常炊き出し実習授業を高く評価していた。(4)災害弱者からの情報収集や地域の人々と共に「DIG(災害図上訓練)」をとり入れた授業を行った結果、生徒は災害時の家族や地域の人々との協力体制の必要性に気づき、防災視点から自分の地域に対する理解や関心を深めた。
  • 小川 裕子
    p. 8
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
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    目的:高齢者を取り上げる授業実践研究·報告をみると、高齢者が独自な生活要求を持つことが強調される余り、前提となるべき高齢者も学習者と同様な要求を持つ存在であることが忘れ去られる可能性を強く感じることがある。本研究では、教材に対して高齢者の立場からの見方を加えることによって、その教材に対する理解がさらに深まると同時に、その学習の中で高齢者についての理解も、学習者自身の延長線上のものとして深まると考え、教材開発·授業実践研究を行った。
    方法:題材は住生活の「自分らしい住まい方」とし、学習者にとって近い将来である「大学生の一人住まい」と遠い将来である「高齢者の一人住まい」を取り上げた。授業実践を行ったのは静岡県立高校2年生2クラスである。1998年実施。資料としては、事前調査、各授業(2コマ)後と事後の感想、各小題材への興味·関心、楽しさ、有益性の評価を採取した。
    結果:感想から、「大学生の一人住まい」では、家具や収納の工夫による住み方の違いへの気付き、「高齢者の一人住まい」では、趣味や生きがい、そして人柄や生き方が住み方に反映されていることへの気付きが明らかになり、住まい方についての理解の深まりが明らかになった。高齢者の理解については、生きがいを大切にして楽しんでいる、ただしこれらは寂しさの反映か等の記述があった。しかし、小題材「高齢者の居室」に関する興味·関心や楽しさの評価は最も低い。
  • 福田 典子
    p. 9
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
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    目的
    染色は小·中·高校家庭科の手芸に位置付けられ, 反応染料や酸性染料などの合成染料を用いた絞り染め, ろうけつ染, ステンシルなど, いずれも染色布から製作をする例が多い. 繊維の染色性は繊維の種類に依存する場合が多く, 繊維鑑別の1つとしても重要である. そこで, 本研究では, 従来までの製作活動のみの染色学習ではなく, 繊維理解も含め, かつ製作と関連づけて創造的喜びを与える教材開発をすることを目的とした. さらに, 教材化にあたっては, 県の特産物であるリンゴ剪定枝の植物染料としての可能性も合わせて検討した.
    方法
    (1)繊維学習や染色教材に関する資料収集を行い, その現状や課題について把握した. (2)たまねぎ外皮およびりんご枝抽出液による染色教材開発のための基礎実験を行った. (3)小学校児童を対象とした染色実験教材の開発および授業づくりを行った. (4)小学校5学年児童を対象として, 開発した実験·実習教材を用いた授業実践を行い, その有効性を検証した.
    結果
    (1)小学校家庭科においては, 「繊維の性質」という直接的な扱いはないが, 「小物づくり」「涼しい着方」「衣服の手入れ」学習の中で数種類の繊維とその性質について指導されていた. (2)試験布として表面風合い類似 性の高い毛フェルトとポリエステルフリースを選定し, ペットボトル内で染色する方法を考案した. りんご枝抽出液では, 染着性が低かったが, たまねぎ抽出液では, 繊維間の染着性の差が明瞭に目視判定できることが確認できた. (3)染色実験から得られた結果を生かした染色作品製作の授業を考案した. (4)多くの児童が指導者のねらいを把握し作品製作ができたようであった. 児童の繊維への理解がより深まるものと観察された.
  • —被服に関する教育への示唆として—
    土屋 みさと, 堀内 かおる
    p. 10
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)近年、制服のブランド化など「制服のファッション化」が進む一方、私服を制服のように着こなす高校生も増えている。高校生の服装規範意識の変化に対応し、被服教育も新たな教育的意義が問われている。そこで本研究では、制服や日常着にみられる服装規範と高校生のファッション観を明らかにし、今後の被服教育への示唆を得ることを目的とした。
    (方法)制服や服装規範に関するアンケート調査を2001年6月∼7月及び10月に実施した。対象は首都圏の高校生男女2002名である。有効回収率は88.5%、データはパーソナルコンピュータに入力し、集計ソフトSPSSを用いて分析した。
    (結果と考察)現在の高校生のファッション観の特徴として、(1)今だからこそできる自由な服装への指向、(2)自由さをあえて制限するような「枠」への依拠、の2点が認められた。高校生たちは、「自己主張」の一表現形態としておしやれをとらえながらも、準拠枠となる一定の服装規範を必要としていた。「枠」によって制限され服装が無個性化した中で、あえてその服装をわずかに変えることで個性を表現しようと試行錯誤している姿が見いだされた。したがって今後の被服教育においては 自分らしさを表現する力の育成が重要である。生徒の個性を表現しようとする意欲を尊重し、自らを主張する力の育成を通して、生徒が自己を見つめ直し、ひとりひとりが独自の自己表現力を身につけることが必要だと考える。
  • —大学生による授業後の目標再設定と学びの分析を通して—
    鈴木 明子
    p. 11
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    目的:家庭科における針, 糸および布などを用いる製作活動の今日的教育意義を検討することを目的としている。本報告では, 教師が提示した各授業の目標や教材の意味を学習者がどのようにとらえているのか, その中で何を学んだと認識しているのか明らかにすることを試みた。
    方法:長崎大学教育学部3年次生(平成12, 13年度)28名を対象に, 浴衣を教材とする被服構成実習を行った。12回の実習授業と各授業で指示した課題作業終了後, 各自が改めてとらえ直した同授業の目標と, 実習や作業を通して学んだことを記述させた。それらの内容を分析, 考察した。
    結果:1. 学生は教師がカードを用いて短い文章や語句で提示した授業目標を肯定的にとらえながらも, 各自の目標を具体的に詳細にとらえ直していた。また, 授業や作業の体験を通して, 各自の問題意識や主体性を高め, 和服の構成, 縫い目, 布, 染織, 技能などに多様な方向から向き合おうとする姿勢がみられた。 2. 学んだ内容として, 身体構造と被服構成の関係, 縫製の原理および各種技能など被服製作教材に含まれる実質的な事柄と, 段取りの工夫や危険の回避など生活に必要な力としてとらえられる事柄がみられた。 3. 縫いやくけなどの繰り返し作業と1回のみの難易度の高い作業過程のいずれにおいても, 布, 道具や技能と自分の身体との関係性をみつめる記述や内面的な変化への気づきがみられた。
  • 伊波 富久美
    p. 12
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›
    授業では、主流となる教師、学習者間の会話のみならず、それと同時進行して様々なつぶやきが発せられている。それらを分析することにより、教師の働きかけや学習者相互のかかわりの中で、学習者がどのように学んでいるのか明らかにすることを目的とした。
    ‹方法›
    中学1年生41名(男21、女20)を対象として、1997年に実施·記録した家族関係授業(50分)において発せられた学習者のつぶやきを中心にプロトコール分析した。学習者は8グループに分かれて着席しており、記録にあたっては各班での会話をテープレコーダーで録音し、行動等については教室の前方の左右に配置したビデオカメラで録画した。
    ‹結果›
    「発表」の形で表には現れないものの、各々の班においては、他の班の発表や教師の働きかけを受けて、反論したり、揺らぎが生じたり、自分たちで独自に検討するなど、多様なつぶやきがみられた。一方、教師と学習者の間で認識のズレが起きている場面もみられた。教師の側からは、各学習者固有の家族の問題について触れていないにもかかわらず、学習者は自分の家族の現実についても具体的に語っていた。
  • —保育教育の場合を中心に—
    金田 利子, 村松 マキ
    p. 13
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    中学校技術家庭科の分野において、他者との共生や自らの発達を見つめ直すことが重視され、より人間を中心においた家庭科教育への転換が図られている。そのためには中学校新学習指導要領「B 家族と家庭生活」の中の保育教育は重要視されるものと思われる。そこで共感·共生の力を求める内容Bの評価の方法やそのあり方について考えることが必要とされる。その方法として、1、静岡県東部の公立中学校13校での保育教育における評価·評定の実態の聞き取り調査をする 2、中学校技術家庭科における保育教育の授業内容と保育学とのずれの考察 3、技術·家庭科の授業で幼児との触れ合い体験を行った生徒の感想から生徒の養護性·親性の育成の分析 4、それら1∼3の結果から正しい評価のあり方の検討を行った。その結果から、幼児との触れ合いや遊びが評価の対象になっていないこと、遊びの本質を「おもしろさ」に見るよりも「∼の力を育てる」という主知主義的な捉えをしている実態が見えてきた。また触れ合い体験後の生徒の感想を(1)生徒自身の実体験に見る感想(2)異世代と関わる力の育成に分類することで、生徒の幼児観を探った。以上の結果からコミュニケーション能力に関する学習の評価は当然必要であるが、5段階評定のような一元化された評定は不可能であるし、不要なのではないかと考える。どのように、疑問や気付きを中心に評価していくかについては続けて検討していく。
  • 田中 宏子, 矢野 由起
    p. 14
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】家庭科教育は、生活をよりよくするために主体的に実践する能力と態度を育成することを目指している。本研究は、家庭科の学習内容を日常生活でよく実践する人とあまり実践しない人がいることに注目し、個人差を生じさせる要因を明らかにすることを目的としている。本報告では、個人差に影響を及ぼすと考えられる要因として生活背景や生活観をとりあげ、実践との関わりについて検討を試みた。
    【方法】男女共修となった平成元年の学習指導要領のもとで家庭科を学んだ大学生を対象として、質問紙法により調査を行った。調査期間は2001年10∼11月、有効回収率は95.3%、有効回答数は328(男性139、女性189)である。調査内容は、生活背景や生活観および小·中·高等学校家庭科学習内容として選んだ70項目について、やり方を知っているか、現在行う機会があるか、どの程度実践しているか、生活を営む上で大切であると思うか、どこで学んだかである。
    【結果】70項目のうち6割以上の項目を実践する女性は3割弱、男性は1割に満たない。殆ど実践しない男性は、実践する男性に比べて、家庭生活を快適で豊かな気持ちで過ごしていないと回答した人が多い。また、もっぱら母親が家事·育児を行う家庭に育ち、将来家庭を築いた時家事·育児は主に女性が行うと回答した人が多い。従って、既存のジェンダー枠にとらわれない多様な生活観を学ばせることが重要である。
  • 池崎 喜美恵
    p. 15
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本研究は、在外教育施設の一つである補習授業校で学ぶ児童·生徒の家庭生活の実態や生活環境意識、家庭科に対する意識について明らかにすることを目的とした。
    【方法】 2001年4月∼6月にかけて、世界に点在する補習授業校のうち調査協力が得られた17校の小学部5·6学年及び中学部1·2·3学年、高等部1·2·3学年の児童·生徒、総計406名の回答を分析した。調査の概要は、家族関係、自己及び保護者の現地での同化度、現地の生活環境評価、現地の生活に対する認識、家庭科の学習経験と意識などについてである。
    【結果】 (1) 家族関係では母子密着の傾向や家族の凝集性が表出された。また、食事の準備や片づけ、部屋の掃除を37∼46%が手伝っているのみで、遂行率の低さが示された。
    (2) 現地生活の同化度は母親の方が高く、児童·生徒は受容度が低い傾向がみられた。また、現地生活の悩みを感じている児童·生徒は少ないが、特に言葉の問題や自由に外出できないことを約30∼40%が悩みであると感じていた。
    (3) 自然環境や景観などを約60∼80%が肯定的に評価していた。また、帰国した際には海外で経験した自然や景観に配慮し、物を大切にする生活を心掛けたいと約60%が考えていた。
    (4) 調理実習の楽しさや生活への有用性を認識し、好意的な評価をしていた。以上のことから、彼らの経験を帰国後の家庭科学習に有効に活用できるよう教材開発をする必要がある。
  • —中学校の教科指導—
    阿部 睦子, 深澤 千聡, 三野 直子, 韮塚 節子, 森本 静子, 亀井 佑子
    p. 16
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    目的:中学校の家庭科教育は、2002年4月から新教育課程となった。昨年度までの移行期における生徒の意識を把握して新しい家庭科の充実·発展に役立てることを目的とした。方法:関東地区、1都6県の中学校23校、旧課程による全内容を履修したと考えられる3年生男女を対象として、2000年7月∼9月に質問紙法による調査を実施し、1586名の有効回答数を得た。
    結果:教科に対する興味·関心は高いとはいえないが、「生きる上で役立つ」「生涯にわたって勉強したい」教科としての意識は高い。家庭科を学んで感じたことでも「生活の上で役立つ」という回答が最も多かった。学習方法については、実験実習が際だって多く、グループ学習、パソコン等、活動を伴う学習を好んでいる。学んで良かった内容は「調理実習」「食事作りに関する仕事」「中学生の健康と栄養」等「食」に関する関心意欲、満足度の高いことがわかった。今後の学習への期待については「食」にとどまらず「保育に関する学習」や「環境に関する学習」等、生活全般に広がっており、授業時数についても改訂によって減少したが、前課程の授業数を望む声が多い。さらに「生きる上で役立つ」と回答した者の多くが、授業時数の増加を望んでいる。これらの結果から、家庭科学習の深まりに伴って実践への意欲が高まることが明確になった。
  • —保育体験学習者の意識変容過程の構図化—
    中嶋 明子, 砂上 史子, 日景 弥生, 盛 玲子
    p. 17
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›平成15年度完全実施の高等学校学習指導要領によれば、「…乳幼児や高齢者との触れ合いや交流などの実践的な活動を取り入れるよう努めること」と記載されている。そこで、本研究では、高校家庭科におけるに保育体験学習者の意識変容過程を仮説的に構図化することを目的とした。
    ‹方法›青森県のM高校2年生男子115名、女子194名、計309名を対象に9時間の保育体験学習に関連した事前指導(6時間)、保育体験学習(2時間)、事後指導(1時間)を計画した。各段階ごとにアンケート、感想文等を記入させ、それらを用いて生徒の意識変容過程を総合的に分析した。
    ‹結果›生徒の意識変容過程を感想等より大きく学習前、学習中、学習後の3つの段階でとらえた。学習前の意識は、乳幼児に対する抵抗感の有無の視点から、「抵抗感のある群」と「抵抗感のない群」に分類された。抵抗感のある群の中には、きわめて抵抗感の強い生徒も含まれていた。保育体験学習は、生徒と乳幼児との関係を中心に構成され、それを取り囲む形で教師と保育士が援助をする。この両者の間には教材が媒介として存在しており、教材の違いによって両者の交流の深まりに違いがみられた。保育体験学習に参加した生徒の中には実施困難な生徒もいた。学習後の意識は、「抵抗感が増大する群」、「抵抗感が減少する群」、「抵抗感がない群」の3つに分類された。
  • —保育体験学習者と乳幼児の交流の深まりと教材との関連—
    盛 玲子, 中嶋 明子, 砂上 史子, 日景 弥生
    p. 18
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›第1報では生徒の意識変容過程の構図化について報告した。第2報では、乳幼児と生徒の交流の深まりと両者の交流の媒介となる教材との関連を探ることを目的とした。
    ‹方法›1. 調査対象と時期;第1報と同じ生徒達が、4つの保育施設で体験学習を行った。2. 体験内容(教材);訪問日の天候、対象となった乳幼児や各施設の行事との関係で8クラスが全て異なる教材となったが、びっくり箱の制作のような室内遊びと散歩や追いかけごっこなどの屋外遊びを行った。3. 交流の深まりの分析;生徒が体験学習後に記述した感想文中の教材に関する記述を抽出し分析した。
    ‹結果および考察›1. 室内遊びの教材比較;F施設を訪問した2組と6組は、前者は難度の低い「折り紙を使ったびっくり箱」、後者は比較的難度の高い「空き箱を使った工作」を行った。その結果、前者では相互の交流が深まったが、後者では初対面同士による工作はそれを作り上げることが目的となり、相互の交流の機会を減らしてしまった。これより、教材は交流を図るためのきっかけには必要であるが、それ自体は制作難度の低い物が望ましいことがわかった。2. 室内と屋外遊びの教材比較;S施設を訪問した8組は屋外で散歩や追いかけごっこを行った結果、室内遊びより短時間に交流を深めることができた。これより、体験学習の初期段階では屋外遊びの方が望ましいことがうかがえた。
  • —保育体験学習者の実習後の感想にみる意識変容の詳細—
    砂上 史子, 中嶋 明子, 日景 弥生, 盛 玲子
    p. 19
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›第1報、第2報をふまえ、第3報では、保育体験実習後の生徒の意識変容の具体的内容を探ることを目的とした。
    ‹方法›1. 調査対象と時期;第1報、第2報と同じく、2001年5∼6月、青森県立M高校2年生8クラス309名。2. 方法;調査対象中2クラス(1組、4組、78名)の保育体験学習後に生徒が書いた感想文の内容を分析した。
    ‹結果および考察›1. 乳幼児に対する抵抗感の変容;感想文中に示された保育体験学習実施前の抵抗感の有無とその変化によって、生徒の意識変容過程を、(1)抵抗感あり→抵抗感増大、(2)抵抗感あり→抵抗感減少、(3)抵抗感なし→抵抗感なし、の3タイプに分類できた。2. 意識変容の内容;感想文の内容から、保育体験学習による生徒の意識変容の内容は大きく(1)情意、(2)知識、(3)自己省察に関するものに分類された。「(1)情意」に関するものはさらに「a. 子どもに対する情意」「b. 保育体験学習に対する感想」に分類され、「(2)知識」に関するものはさらに「c. 子どもの特性に関する知識」「d. 保育の仕事に対する感想」「e. クラスメイトへの気づき」に分類され、「(3)自己省察」に関するものはさらに「f. 自分の子ども時代の回想」「g. 自分の将来への言及」に分類された。3. 意識変容の詳細;生徒の感想では、生徒一人一人において複数の意識変容の内容が語られるという重層性と、生徒個々人による視点、感じ方、理解の度合いに幅があるという多様性が示唆された。
  • —幼稚園·保育所側から見た課題—
    岡野 雅子
    p. 20
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中学·高校の『学習指導要領』の保育領域には乳幼児等とのふれあいや交流の機会を持つように努めることが明記され、生徒が幼稚園や保育所で保育体験学習を行う例が増えている。本研究は受け入れ園側から見た課題について検討し、体験学習をより実り多いものにするための示唆を得たい。
    【方法】群馬県T市とM市にある幼稚園48園および保育園(所)79園に調査質問紙を配布し、32幼稚園(公立6, 私立25, 不明1)と64保育園(公立30, 私立34)の計96園(所)より回収した(回収率75.6%)。調査時期は平成13年3月である。
    【結果と考察】(1)93.8%の園は受け入れ経験があり、92.7%は中学生の受け入れ経験がある。体験学習の内容は「一緒に遊ぶ」「世話をする」7-8割、「施設を見学」「一緒に給食を食べる」5割弱等が多い。(2)教育効果として「子どもを好きになる」が最多で「保育の重要性を理解する」「自分自身について考える」「子どもの発達を理解する」と続き、「親の役割を理解する」は相対的に少ない。(3)問題点として「観点やマナーを指導して」「生徒の意識や態度の変化を見て」「協力体制を整える必要」が多く、「迷惑だ」は少ない。(4)生徒は「幼児とのふれあいを楽しんでいる」、幼児は「喜んでいる」が圧倒的に多いが、その程度が強い程「子どもを好きになる」「自分自身について考える」「親の役割を理解する」も高率である。(5)したがって、生徒の幼児に対する親和性の形成は認められるものの、親準備性の獲得に向けては、なお一層の検討すべき余地があるようである。
  • —小·中·高等学校の教室において乳児期一親子と継続的にかかわることを取り入れた授業実践の試みから:小学校—
    湯浅 優子, 伊藤 栄里, 木田 明子, 金田 利子
    p. 21
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    目的:これまで家庭科の保育教育の体験学習においては、生徒が幼·保育園を訪問する方法がほとんどであった。それも、中学校と高等学校においてであり、幼児が対象であった。そこで、本研究では、カナダのメアリ·ゴードン氏の取り組みをヒントに、(1)乳児に、(2)3回以上継続して、(3)親子で、(4)教室へきてもらい、その効果を確かめること、しかも、中·高だけでなく、(5)小学校においても実践し、保育教育の発達過程における関連性を捉えることを目的とした。
    方法:仮説としては、(1)と(2)で、発達理解が深まり、(3)で、親の立場に目が行き、(4)で、クラスに共通の理解と、異文化の来訪による教室の雰囲気の変化と(3)と連携して特定の乳児への愛着の形成、(5)で小学生からの関連性が捉えられることを挙げた。具体的には、2001年9月から12月初旬の間に、小中高とも、約1ヶ月おきに3回(一回約45分から90分)同一クラスに同一乳児(初回が4ヶ月∼7ヶ月)の親子に来室願い、1回「出会い(泣きの意味)」、2回「子どもの発達を見る目」、3回「子どもとかかわる」でカリキュラムを立てて実践し、効果を、子どもの授業中·後の表現等で分析した。
    結果:小学生は、戸惑いながら乳児を観察し、1ヵ月後の発達的変化に驚き、やがて、自らかかわろうとしていくという変容が観察された。このことが、次の自己の発達や生き方と結合する中学段階の前提となるのではないかと示唆された。
  • —乳児期一親子と継続的にかかわることを取り入れた授業実践の試みから:中学校の場合—
    伊藤 栄里, 木田 明子, 湯浅 優子, 金田 利子
    p. 22
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    平成13年10月4日から3週間おきに静岡大学教育学部附属島田中学校において、乳児期一親子と教室でかかわる授業実践を行った。これによって今までの保育所·幼稚園訪問による保育実習では見られにくかった変化が中学生に表れた。まず、成長の速い乳児と継続的にかかわることで、発達を目の当たりにし、発達の確かな知識を身につけることができた。また、親子とかかわることにより、親を客観的に見る機会ができ、育てることの苦労はもちろん、喜びを知り、自分が親になることを考え、また、育てられてきたこと、育てられていることへの感謝の意が表れた。さらに、自分が親に愛されていることを実感する生徒の姿も見られた。そして、中学生特有の変化は、一つは、乳児の一生懸命に生活する姿を知ることから「乳児は何もできない弱いもの」という認識が改まり、乳児への対等性、尊敬の態度が育ち、子どもの立場に立って考える姿勢が身についたことである。もう一つは、人間とは何か、いのちとは何かを深く考え、独自の人間観、生命観を築いたり、現在の自分の生き方や人とかかわる上で大切なことを見直し、これからを生きる意欲が高まったりしたことである。人間観、生命観、人生観の形成は、自分を見つめる時期の中学生特有の表れである。ありのままの姿をさらけ出して生きる乳児に、この時期に出会えたことが、生徒にこのような影響をもたらしたと考える。
  • —教室において乳児期一親子と継続的にかかわることを取り入れた授業実践:高等学校—
    湯浅 優子, 伊藤 栄里, 木田 明子, 金田 利子
    p. 23
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等学校における授業実践においては、乳児期一親子と継続的にかかわることによって、乳児の発達理解における学習効果が高く、乳児への興味·関心の高まりがよく見られ、乳児に対する共感性に根付いた理解が深まった。また、乳児への関心が高まると同時に、親に対しての興味が深くなり、自分が親になるということを想像したり、子育てに対して意識的に考えたりする生徒が多く見られた。さらに、親子のかかわりを見ることによって、自分の昔を振り返ったり、今後の自分のあり方について考えたりする生徒もいた。これらの結果から、高等学校において、「自己受容」「相手への関心」「発達を理解した上での知識や技術」「共感性」が育つという学習効果が得られたのではないかと考えられる。第1∼3報により、小·中·高等学校、各発達段階における学習効果の特徴を並べ、乳児体験学習の適時性を検討した結果、現在は保育分野についてはあまり触れられていないが小学校の段階からの系統性を持った乳児体験学習は、より高い学習効果を得ることができると予想される。将来、親になる·ならないにかかわらず、また、大人か子どもかにもかかわらず、「異世代とかかわる力」をより育めるために、家庭科保育教育において小学校段階からの乳児体験学習をより深めていきたいと考える。
  • 中島 貴志子
    p. 24
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [目的と方法]本研究は、「子育て支援ネットワークと小学校教育の役割—養育者への聞き取り調査研究—」(筆者修士論文 2002年3月)の研究成果の一部を報告するものである。筆者は、上記研究において(1)1990年から2001年に日本政府および地方公共団体が行った子育て支援/少子化政策の推移を明らかにし(2)1990年代に子どもを育てた養育者に対する詳細な聞き取り調査を実施した(20事例)。(3)以上の結果を統合して「子育て支援マップ」を作成し、個別事例ごとに子育て支援の授受の特徴を図示し、分析を行った。本報告では、4事例の子育て支援の特徴について事例報告を行う。
    [結果]4事例の分析から(1)養育者の就労の有無により、子育て支援との繋がり方には明確な違いがみられた。(2)子育て支援の授受の違いにより、繋がり方に多少がみられた。多い人は地縁がある、友人が多い、仕事を通じた人脈に支えられるなどの特徴があった。(3)子育て支援を受けるのみの人や、子育て支援の繋がりが少ない人は、子どもが何をしているのか分からないという不安をもつ点が共通していた。(5)「子育て支援マップ」を活用し、親や子どもが置かれてきた環境、人間関係のあり方などが把握でき、養育者の子育ての問題や悩みを類推することができた。また学校·教師にとって、地域社会での子育て支援の実態を把握することに繋がり、子育ての支援者や地域の子育て資源と連携を図る資料となった。
  • —短期·夏期休暇保育を中心に—
    岡芹 愛子
    p. 25
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的·方法】新学習指導要領により、高等学校家庭科では少子社会に対応した子育て支援策を取り上げることが求められている。そのため、中央教育審議会答申や新エンゼルプランに見られるように、保育施設における多様な保育サービスの提供についても検討していく必要があると言える。この点に関し、先の日本家政学会第54回大会における口頭発表の通り、パリ大学区所管の公立母親学校(école maternelle)では休日保育(centres de loisirs)が実施されている。そこで本研究では、今後の日本の子育て支援の在り方を考える一試行として、母親学校の休日保育の中で、短期休暇(petites vacances)計4種(ハロウィーン·クリスマス·冬期·春期休暇)及び夏期休暇(vacances d’été)に行われる2000/2001年度の制度を分析する。【結果】(1)パリ大学区内の全公立母親学校において、3∼5歳児を対象に全4種の短期休暇中の月∼金曜日に休日保育が実施されている。(2)各区の一部の公立母親学校では、3∼5歳児を対象に夏期休暇中の月∼金曜日に保育が実施されている。他校の夏期休暇保育の利用も可能である。(3)保育時間は8:20-18:30である。(4)休日保育の1日当りの保育料は、所得税額により決定される。給食付コースは無償∼46Fの5段階、給食なしコースは無償∼23Fの5段階にそれぞれ分類されている。(5)休日保育は「保育に欠ける」か否かに関係なく利用できる。
  • 鈴木 昌代
    p. 26
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 高校生の犯罪が多発している現代では、家庭におけるコミュニケーション不足や家族のきずなの低下が理由になっている可能性が高い。そこでこれらを回復させるため、まず家事に注目し、今月行われた日本家政学会で報告した。次に本研究では、高校生に家族新聞を作成させ、その効果を家事労働の結果と比較検討した。
    [方法] 富山県立富山西高等学校普通科の生徒(男子81名、女子69名)を対象に、冬休みの課題として家族新聞を作らせた。さらに、作成後のきずなの深さや会話の程度等についてアンケート調査を行い、家族新聞の家庭生活に及ぼす影響を調べた。
    [結果] 「家族新聞を作ってよかったことは何か」という質問に対して、「家族の生活が把握できた」と答えた生徒は「家族との会話が増えた」と回答した生徒の約3倍であった。さらに、会話の増加とほぼ同数の生徒が「家族と一緒に過ごす時間が増えた」と答えていた。また、「家族新聞を作成するためにどのようなことをしたか」という質問に対し、「積極的に会話をした」と答えた生徒よりも「家族のそれぞれの様子をよく観察した」という回答の方が上回っていた。一方、全体の6割以上の生徒は家族新聞を作成することにより、家族のきずなが深まったと答えていた。
    [考察] これまで会話を増やせば、同時に家族のきずなが深まると考えられてきた。しかしながら、今回のアンケート調査では、きずなの形成には会話の増加よりも積極的に家族の生活を観察したり、家族のことに関心をいだくことの方が重要であることがわかった。この結果は、第1報の結果、すなわち、「家事体験により家族との会話が増えたと回答したのは全体の3割であったが、7割の生徒が家族のきずなが深まった」と一致していた。したがって、現代の高校生は、家族に対して無関心なことから会話が減少し、それに伴ってきずなが低下すると考えられる。これらは家族新聞の作成や家事体験のように、積極的に家族及び家庭に関心をもつことにより、回復できると思われる。
  • 岩崎 香織
    p. 27
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究では、青年期の(1)自己理解(2)自己表現(3)自分探しを支援する授業を“青年期の「自分つくり」を支援する授業”と呼ぶこととし、家庭科の授業を通して以上の3項目を支援する方法について、検討することを目的とした。
    【方法】1)先行研究の授業効果および問題点を参考に、高等学校家庭科保育領域における青年期の「自分つくり」支援の授業案を作成した。2)作成した授業案を元に授業を実施し、A:授業後の生徒の感想(自由記述、記名式)、B:質問紙調査(調査(1)(2)、無記名自記式)の結果から授業効果の検討を行なった。対象者は、東京都内の中·高一貫の私立女子高校に通う、高校2年生109名。授業の実施および質問紙調査は、調査者本人が、対象校の授業時間を活用して行なった。授業実施期間は、平成12年11月∼平成13年1月である。
    【結果と考察】考案·実施した授業の青年期の「自分つくり」への効果が部分的に確かめられた。A:授業後の生徒の感想、全ての授業内容において生徒の「自分つくり」に効果の見られた記述が25%以上を占めた。「長所をクラスメイトに書いてもらうワーク」と「自分の生き方をテーマとする本作り」の授業は、6割以上の生徒の「自分つくり」に効果が見られ、授業の有効性が示唆された。B:質問紙調査の結果、“自己理解”に関して「自分には自慢できるところがあまりない」という項目で、授業後に有意に自尊感情が高まった。“自己表現”に関して「趣味としていること」「知的な関心事」「人生における仕事の位置づけ」の3項目で、授業後有意に家庭科の授業における話やすさが高まった。実施した授業に対して「家庭料で学んでよかった」と答えた生徒は68.4%、「個人的な事柄なので学校でやらない方がよいと思う」と答えた生徒は約1割であった。より生徒のプライバシーに考慮した授業の考案が、今後の課題としてあげられた。
  • —「人の一生」と自立·共生を視点として—
    吉川 智子, 荒井 紀子
    p. 28
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›1999年改訂の高等学校学習指導要領では、新たな学習項目として「人の一生と家族·福祉(家庭)」が設けられ、「人の一生」を生涯発達の視点で捉えることが求められている。本研究では、生活の主体者としての生徒の意識の低さや学習意欲の弱さは、青年期の視点からの「学び」が十分でないことが関連していると捉え、青年期の“自立”をテーマに生徒が「人の一生」を見通しながら、主体的に大人になることをめざす授業を試みた。‹方法›研究の進め方としては「アクション·リサーチ」による2つの側面—(1)実践者の問題意識からはじめ内容や実践をつくりあげる視点(2)実践者と研究者が授業を意識的·体系的に観察して軌道修正する視点—を取り入れ2回の授業実践を行った。高校1年生を対象に、1回目は2001年4月∼6月に行い、分析をもとに再構成し直し、2回目は2001年9月∼11月に行った。‹結果›(1)授業を肯定的に受け止めている生徒たちの割合が1回目の約7割から、2回目では約9割に増加したことから、青年期から「人の一生」につながる視点で授業を構成することの有効性が認められた。(2)生徒の自由記述から“深い授業”という言葉がみられ、生徒が自分を発見し考える授業を求めていることがうかがわれた。(3)実践者と研究者が対等な関係で授業の方向性を見極め授業を体系的に分析し再度現場に戻すアクション·リサーチについても授業開発の方法論としての重要性が認識できた。
  • —高等学校家庭科教員の調査から—
    志村 結美, 佐藤 文子
    p. 29
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 高校生の自己実現をめざした経済的自立及び職業生活を始めるための準備意識、すなわち職業レディネスに関する認識と行動を向上させるために、高等学校家庭科教育において求められる教育内容を追究することを目的とする。前報において、高校生は自己実現に対する意欲や経済的自立志向等を持っている一方、具体的な経済観念や家計管理行動、及び具体的な職業認識について低い傾向にある等の現状が認められた。本報では自己実現、経済的自立及び職業レディネスにおける高等学校家庭科教員の認識と授業の実態を明らかにする。
    【方法】 調査対象は東京都高等学校全家庭科教員であり、自己実現、経済的自立及び職業レディネスに関する家庭科教員の認識、及び授業の実態について郵送法によるアンケート調査を実施した。
    【結果】
    高等学校家庭科教員は概ね、本研究に関する教育内容を重視していることが認められた。授業においては主として生活設計や家庭経済等の教育内容分野で行われているが、自己実現と経済的自立、及び職業レディネスを関連づけて授業を行っている現状は認められなかった。
  • —「家族と法律」の授業実践から
    小高 さほみ
    p. 30
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    〔目的と方法〕授業における生徒の学習経験を明らかにするために、授業前後の質問紙調査などによる量的研究がある。だが、この方法では授業を通じて何をどう学んだのかは間接的にしか明らかにできない。学習経験をより直接的に把握するためには、授業での生徒の発話やジャーナル(生徒の記述)を対象とした質的研究法が有効である。そこで本研究は、「家族」に関する学習における生徒のジャーナルに着目し、その授業での生徒の学習経験の一端を質的方法の基礎であるカテゴリー化の作業結果に基づいて解明する。分析対象は、高校1年の「家族と法律」の授業実践—「夫婦別姓」をテーマとしたロールプレイ·ディベート学習における生徒のジャーナルである。
    〔結果〕夫婦別姓の賛否を問われた際の理由付けをカテゴリー化した結果、そこには「『家』制度の残滓、結婚改姓の矛盾·不合理、男女不平等、性別役割分業」といった、教科書やメディアの言説に支配的なカテゴリーは少なく、むしろ「子ども·夫婦·家族との関わりや結婚に対する考え」への言及が多いことがわかった。またジャーナル執筆の際の生徒の書き方には(1)自分の問題として語る、(2)社会の一般的な問題として語る、(3)自分の問題として、かつ社会の一般的な問題として語る、という3タイプに分かれること、及びタイプにより登場するカテゴリーに偏りがあることも分かった。
  • —高校生の感想文調査から—
    宍戸 加奈子, 佐々木 貴子
    p. 31
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]わが国は高齢社会を迎え、家庭科教育においては高齢者に対する理解を深める授業展開が求められている。吉原1)は児童文学書『ヨーンじいちゃん』を教材にするならば、高齢者について多くのことを学び、多方面に発展することができるだろうと述べている。本研究では、『ヨーンじいちゃん』の高齢者理解を深める教材として効果を検証することを目的とした。
    [方法]北海道立K高等学校3年生男子75名、女子44名の計119名を対象として、平成13年4月∼7月に『ヨーンじいちゃん』の感想文調査を実施した。感想文の文章を書き上げ、KJ法を用いて記述内容をカテゴリーに分類した。これをもとに高齢者理解の教材としての効果を分析·検討した。
    [結果](1)物語自体のおもしろさに興味を持つ者が多かった。(2)高齢者の性格や行動については読書前に有していたマイナスイメージがプラスに変容し、日常生活の仕方についても認識を改めていた。(3)高齢者の恋愛については好意的で、老いや死については悲しいことだが仕方ないことと受け止めていた。(4)祖父母に自分がどう接しているかの振り返りがみられた。(5)登場人物の家族を自分の家族に置き換え、祖父母の介護や接し方について考えられていた。(6)約6割の生徒が本を読んだことは高齢者を理解する上で「役だった」と回答しており、高齢者理解を深める教材として効果的であることがわかった。1)『家庭科教育』臨時増刊66巻14号(1992)
  • 吹山 八重子, 得丸 定子
    p. 32
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】子ども達の「いのち」の捉え方が憂慮される現在、日本における「いのち教育」の必要性が指摘されつつある。しかし、我が国においても半世紀前までは自然発生的な「いのち教育」が行なわれており、その一つとして家庭や地域における死に関わる慣習行事·儀礼が挙げられる。本研究では、死に関わる慣習行事·儀礼に対する子ども達の生活と意識の実態に関するアンケート調査を行ない、現在の子どもたちへの「いのち教育」に取り組む手立てを検討した。
    【方法】自記式アンケート調査を行なった。期間は2001年1月から3月。調査対象者は小学校5年生から高等学校2年生までの児童·生徒1183名。有効回答率は99.7%であった。
    【結果】悲嘆を伴う死別経験があると回答した子どもは60.4%であった。死に関わる慣習行事·儀礼の知識·参加度合及び家庭内の宗教的な場所の設置率の回答は、小·中·高校と年齢に比例して上昇する傾向であった。また、女子の方が男子よりも悲嘆を伴う死別を有意に多く経験しており、死に関わる慣習行事·儀礼の知識の回答でも、女子の方が男子よりも知っているという結果であった。一方、拡大家族は、核家族よりも仏壇等の宗教的な場所の設置率が高く、さらに拡大家族の子ども及びその家族員は、核家族よりも有意に多く、仏様や神様へお供えをする習慣があるという結果が得られた。以上より、死や悲嘆に対する年齢や男女による意識の差異への配慮や学校段階に応じた取り組み、拡大家族の長所の見直し等による「いのち教育」の取り組みが要望される。
  • ∼自殺予防教育∼
    加藤 祐子, 得丸 定子
    p. 33
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自殺者数が3万人を越す昨今、青少年の自殺は壮年や高齢者の自殺と並び深刻な問題である。しかし、我が国の学校教育では、自殺予防の必要性を感じている教師は存在する反面、自殺のタブー視により生じる戸惑いや偏見、恐怖があるために、「自殺予防教育」はほとんど展開されていない。そこで、「自殺予防教育」を試みようとする教師が授業をするための一つの教材として、初歩的段階における「自殺予防教育」に関する教材の開発を試みた。
    【方法】マイクロソフト社のパワーポイント2000を用い、アニメーション効果やインターネット上でのフリー素材を利用して、プレゼンテーション形式に作成した。さらに、本教材を用い、小学校6年生を対象に授業実践を行った。
    【結果】本教材はタイトルを『大切な人を自殺から守るために』とし、自殺に関する誤解や自殺願望を打ち明けられた場合の対処法のポイントなどを紹介した。具体的には青少年の自殺の事例を掲載した「事例」や実践的な内容を多く含んだ「大切な人を自殺から守るためにきみにできること」などがある。特に後者は、クイズ形式の問題や意見交換活動などを含み、単なる知識的な教材ではない工夫をした。本テーマにおける授業実践では、強いタブー視があり、微妙で難しい授業であるにも関わらず、自殺について考えるきっかけ作りになったと考察される。
  • ∼中学生とその保護者との比較について∼
    得丸 定子
    p. 34
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】テレビにおける暴力殺人シーンは、子どもたちへの「死」の意識に与える影響が危惧されるが、テレビ視聴と「死」に関してはわが国では未調査である。本学会第44回大会において中学生を対象としたテレビ視聴と「死」に関する報告を行った。今回はその発展的研究として先の調査対象者の保護者を対象とし、比較検討することにより、今後の「いのち教育」の実践の手がかりを得ることを目的とした。
    【方法】2000年2月∼3月、富山県と新潟県の中学生の保護者347名を対象とした自宅自記式による調査である。内容はテレビ視聴と「死」に関する全15項目で構成されている。
    【結果】保護者は子どものテレビ視聴時間を正確に把握していないこと、テレビでの「死」の場面を見て子どもと異なり、理性的で前向きな捕らえ方をしている傾向があること、それらの場面を見て子どもより有意に多く影響を受けていると自覚していること、「死」に関する会話は子どもより有意に多く友人、近隣者、家族と行っていること、「いのちや死について考えること」は子どもより多いこと等の結果が得られた。ゆえに、子どもに「死」に関する授業を行う場合、子どもは大人と異なり「死」に関して情緒的に捉える傾向があること、「死」について考え、会話する機会が大人より少ないことを考慮し、過剰な恐怖心を与えない様配慮する必要があることが示された。
  • —測定項目の作成を中心に—
    日景 弥生, 山田 桂子
    p. 35
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›近年、学校教育でもジェンダーフリーあるいはジェンダーセンシティブな教育を行うことが重要である言われるようになった。そこで、中学生とその保護者を対象にジェンダーに対する意識(以下、ジェンダー観とする)を把握するために、その測定項目を作成することを目的とした。
    ‹方法›1. 測定項目;東京女性財団のジェンダーチェックを参考に5つのカテゴリーごとに5項目を設定し、計25項目を作成した。調査項目はなるべく身近な内容の方が意識を把握できると考え、中学生向けと保護者向けのアンケート項目は若干異なる項目になった。2. 調査時期と対象;2000年5∼6月に中学生426名、保護者808名を対象に調査を行い、中学生353名、保護者483名の有効回答が得られた。
    ‹結果および考察›1. ジェンダー観測定項目;第2報との関連から、25項目全てに回答したアンケートを有効回答として集計した結果、中学生は32∼59点に、保護者は26∼58点の間に分布した。これらのうち、点数の低い者(フリー群)と高い者(バイアス群)をそれぞれ20%抽出し、リッカートの簡略法により測定項目を決定した。その結果、中学生23項目、保護者24項目がえられ、これらをジェンダー観測定項目とした。2. 中学生とその保護者のジェンダー観;アンケートの結果から、保護者の方が中学生より、また、両者とも女性の方がジェンダーフリー傾向にあることがわかった。
  • —父親·母親と中学生の意識の関連—
    山田 桂子, 日景 弥生
    p. 36
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›第1報で報告した測定項目をもとに、中学生とその保護者のジェンダー観を比較し、両者の意識の関連を検討することを目的とした。
    ‹方法›1. 調査対象と時期;第1報と同様である。2. ジェンダー観の比較;中学生とその保護者、それぞれのアンケート項目で近似した項目を比較した。さらに、中学生と保護者を男女に分け、それぞれ得点の高い者(以下バイアス群)と低い者(以下フリー群)から順に約20%を抽出し、各群を詳細に分析した。
    ‹結果および考察›1. 両者のジェンダー観の比較;アンケートの近似項目では中学生およびその保護者ともほぼ同じ傾向を示した。しかし、「運動会の応援団長はいつも男子がやる方がよい」では保護者の方がフリー傾向を示したが、近似項目である「PTA会長は男性の方が活動しやすいと思う」ではバイアス傾向となり、この傾向は母親の方が父親より顕著にみられた。これより、保護者が自分自身に直接的に関わるものとそうでないものとでは無意識のうちに違う判断をしていることがうかがえた。2. 両者のジェンダー観の関連;両親がフリー群の場合は中学生もフリー群が、両親がバイアス群の場合は中学生もバイアス群が多くなった。これより、父親と母親のジェンダー観が似ている場合、その子どもである中学生も両親と同じ傾向となることが示唆された。
  • 田結庄 順子, 福原 美江
    p. 37
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›男女平等社会を担う次世代の課題として, ジェンダー·エクィティの認識形成が必要である。学校もまた「ジェンダー·バイアスを再生産する場」といわれてきたが, 学校がSBCDの視点で教育課程の編成を行うとともに, ジェンダー·エクィティの視点での教育内容の編み直しが必要だ。新教育課程実施前の全国の小学校, 中学校, 高等学校の家庭科カリキュラム開発の実態を家庭科教師の意識実態調査で明らかにすることにより, 今後の方向を探る。
    ‹方法›2001年11月∼12月にかけて全国3,250校を対象に「学校におけるカリキュラム開発とジェンダー教育に関する調査」2本を郵送調査法で実施した。回収サンプルは1,312校, 有効回収率は40.4%であった。集計は教務主任と家庭科主任に分けて行い, 教務主任は1,277票, 家庭科主任は1,264票の合計2,541票を分析対象とする。今回は家庭科主任(家庭科担当者)の結果を主に考察する。
    ‹結果›1. 2002年度へ向けての家庭科カリキュラム編成準備状況は「編成終了」が小学校2.8%, 中学校4.9%, 高校6.3%であった。高校では履修させることになった科目は「家庭総合」が32.8%で最も多く, 単位数は2単位までが80校 29.7%, 3単位以上が174校 64.7%であった。2. 家庭科カリキュラム編成で考慮したことは「学習指導要領の項目」が59.2%と過半数を占め, 「発展的な学習内容等を追加」は33.9%であった。3. カリキュラムづくりの困難点は79.3%の教師が感じており, 中学校では80.6%と最も多かった。4. 家庭科教師のジェンダー·フリー度は6割がさらなる努力必要。
  • 福原 美江, 田結庄 順子
    p. 38
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›第1報と同様である。特に, 第2報では, 家庭科の授業に関わる諸問題について焦点化し, 日常の家庭科授業で子どもの意見を生かしているかどうか, 日常の授業の評価, 指導要録観点別学習状況および2002年度以降実施の評価基準·評価方法(中間整理)等への家庭科主任(家庭科担当者)への意識実態調査で得られた結果より考察する。
    ‹方法›第1報と同様である。
    ‹結果›1. 「開かれた学校づくりの推進と子どもの参加」に関して「肯定」する家庭科教師が67.2%, 「否定」は13.9%であった。2. 家庭科の授業等で子どもの意見を生かしている場面は「実習や実験の計画」が82.0%, 「教材·教具の選定」は53.3%, 「授業計画」は20.0%であった。「通信簿などの教育評価」は4.9%, 「教育課程」は3.2%であった。学校ごとではこれらの項目で, 差がみられた。3. 日頃の家庭科の評価に関し, 指導要録観点別学習状況の4観点に対する意識をみた。小学校では「生活を創意工夫する能力」が「評価しにくい」は61.1%の教師が感じており, 中学校では58.5%であった。高校で評価しにくいは, 「思考·判断」の観点で39.6%であった。4. 2002年度より実施される評価基準·評価方法(中間整理)における「基礎·基本」について4段階でその重要度をみると, 「生活の技能」の「重要度強」は小学校で35.3%, 中学校で42.3%であった。第1報, 第2報とも平成13年度科学研究費 基盤研究一般(C)(1)(課題番号13680308)により実施したものである。
  • 鈴木 泰子, 長澤 由喜子
    p. 39
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›本研究は、高等学校におけるジェンダー·フリー教育に関する授業実践の基礎的資料を得ることを目的とし、高校生のジェンダー観の構造的分析を通して、ジェンダー·バイアスを解くための授業の切り口を模索しようとするものである。
    ‹方法›(1)ジェンダー観の全体的傾向を把握するため、自記式質問紙調査を実施した。対象は高等学校2年生計820名(男子448名女子372名)、時期は2001年7月∼8月である。(2)ジェンダー観の個人内態度構造を把握するため、PAC(Personal Attitude Construct)分析を実施した。対象は(1)の対象者から選定した生徒計12名(男女各6名)、時期は2001年11月∼12月である。
    ‹結果›分析により得られた研究知見は以下の通りである。(1)性差別への気づきと性差観には高い関連性が認められたが、男女共学校では気づきの有無と個人の持つ性差感がストレートに結びつきにくい特徴がみられ、個人内の本音と建前の存在がうかがわれた。(2)性差観スケールではバイアスが低いグループに分類される被験者の中にも、個人内態度構造においては高バイアスの被験者と類似する項目が多く出現し、この意味で「隠れ高バイアス」ともいうべき被験者が存在した。この矛盾に対する自覚の有無という点で、男女で対照的な被験者が存在した。ジェンダー·バイアスの程度については、個人内態度構造のイメージ一般化のレベルとの関連性が見受けられた。今後は、授業実践校独自のジェンダー·バイアスを是正するための学習方法を模索していきたい。
  • 柴 静子
    p. 40
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]占領下日本の高等学校家庭科教育政策を検証するとき, 文部省指定のホームプロジェクト実験学校, 東京都立南多摩高校を舞台としたCIE教育映画「明るい家庭生活」の検討を欠かすことができない。既にこの映画の制作過程及び脚本内容(雑誌『家庭科教育』25巻5号, 1952年掲載)については, 『教育学研究紀要』第41巻(1996)において報告したが, この度, 映画の企画に拘わるアメリカ側文書(GHQ/SCAP, CIE, CAS Records)並びに英語版の映像を発見したので, 既に入手している日本語版の映像に加えて, これらを検討し, 占領教育政策としての「明るい家庭生活」の実際と意義を明らかにしたい。
    [方法]CIE·CAS文書及び日本側文書, 映画『明るい家庭生活』及び『For A Bright Home Life』を使用した実証的研究。
    [結果]1. 映像と対照したところ, 『家庭科教育』に掲載された「明るい家庭生活」の脚本は, 表現が正確でない部分を含んでいた。2. この映画の制作を企画したのはCIEのM.ウィリアムソンであり, 日本の台所の改善を高校生のホームプロジェクトを通して実現したいという思いがその背景にあった。3. 英語版『For A Bright Home Life』には, 制作及び提供がGHQ/SCAP, CIEであることが明記されていた。4. 映画は, 二人の女子高生がHPによって農村及び小都市の台所を改善して行く過程をリアルに描いたもので, 日本の生活課題の把握と新教育の方法の理解という両面で啓蒙的役割を果たした。
  • —大学教育との関わりにおいて—
    近藤 清華, 佐藤 文子
    p. 41
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大学教育における家庭科教員養成課程に必要な内容を追究するため、現在、家庭科教育指導上、教育現場において求められている必要不可欠な教育内容、知識·技術等を把握し、家庭科教員養成カリキュラム構築のための基礎的知見を得ることを目的とする。本報では、現職高等学校家庭科教員の認識·実態の現状を明らかにする。
    【方法】
    調査対象:全国高等学校家庭科教員206名
    調査時期:2001年10月∼2002年2月
    調査方法:高等学校家庭科を指導するために必要な「知識·技術」「考え方」「姿勢·態度」の各内容について郵送法によるアンケート調査
    【結果】
    「知識や技術」において先生方が指導する際に得意であると考えている分野は食生活分野であり、また、得意ではないと考えているのは住生活分野であることが明らかとなった。知識や技術を身につけた、または身につけたい機関としては大学の専門科目が多く、消費者教育や高齢者福祉に関するものは、都道府県市町村等における研修や社会教育に期待していることが明らかとなった。
  • 池田 まどか, 古川 恭子, 鈴木 明子, 赤崎 眞弓
    p. 42
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    目的:昨年の報告において、保育実習の効果的な指導の工夫として、母親も同席した授業環境での乳幼児とのふれあい学習を提案した。本研究では、提案した保育実習における高校生の学びを人との関わり方および学習した内容の分析から明らかにするとともに、ふれあい学習の成果を検証することを目的とする。
    方法:分析対象は長崎県立N高等学校の乳幼児ふれあい学習に参加した生徒302名が反省や感想を自由に記入したプリントである。人との関わり、学習した内容を示した語句や文章を抽出·分類し、「子ども理解」「将来親となる」などの視点で分析した。参加した母親の感想も考察の参考にした。
    結果:(1)提案したふれあい学習における生徒の学びには、「子どもと遊ぶ」「子どもを観察する」「育児体験をする」「子育て体験談を聞く」の4つがみられ、単独型の生徒と複合型の生徒が存在する。 (2)生徒の学習した内容は、育児の大変さ、子育てへの夫の協力の必要性、母親の偉大さ、乳幼児の心身の発達の様子や子どもの個人差や個性である。 (3)生徒の学びは子ども理解や子育て体験にとどまらず、自分と親との関係、将来親となる自分の姿を考えるという学びの広がりと、これまでの保育に関わる学習の内容を再確認し、乳幼児の心身の成長·発達の様子を実感するという学びの深まりとがみられる。
  • —家庭科と公民科の比較から—
    藤尾 知子, 荒井 紀子
    p. 43
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    ‹目的›家庭科と公民科におけるジェンダーに関わる教育の実態や教師の意識を明らかにし、教科による違いや教師の意識と授業実態の関連を検討することを目的とする。
    ‹方法›福井県、長野県、京都府、神奈川県の高等学校の家庭科及び公民科教師に意識調査を実施し、ジェンダー·エクイティに関わる授業(以下ジェンダーの授業)についての考えや実施状況などを尋ねた。調査は自記式質問紙による無記名回答で実施した。計893名に実施し、計357名の回答を得た。‹結果›全体の8割以上の教師はジェンダーの授業に関心を示し、家庭科教師の関心は公民科教師を上回っていた。また、教科に関わらず女性教師がジェンダーの授業により強い関心を示す傾向がみられた。ジェンダーの問題に関して授業で扱うテーマのうち、8割以上の教師が実施していたものは、家庭科で「育児介護休業制度」「少子化」「夫婦別姓」「性別役割分業」、公民科では「男女の就業格差」のみであった。このことから家庭科はジェンダーに関して幅広い内容を扱っていることがわかる。学習方法に関しては、家庭科は公民科に比べ視聴覚教材の活用が多く、教科による違いが認められた。その他、教科により、ジェンダーの授業を実施した動機、授業を実施する際の困難点、生徒につけたい力、教科間の協力への意識に違いがみられた。また、教師のジェンダー観がジェンダーの授業実践度等と関連していた。
  • —生活に関する考察—
    河村 美穂
    p. 44
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/04/02
    会議録・要旨集 フリー
    [研究の目的]近年、家庭科教育において福祉教育の取り組みが盛んである。来年度から施行予定の高等学校家庭科新学習指導要領においても、家庭介護実習が盛り込まれるなど、高齢社会に対する課題解決が急務として取り組まれつつある。戦後の福祉教育においては、社会福祉に関する問題への取り組みを通して、主体者形成をその目標として掲げてきた。一方、家庭科教育では、生活主体者の形成を教科教育の目標の一つと考えてきた。そこで、本研究においては家庭科教育における福祉教育の理念を検討するために、福祉教育において生活というものがどのように捉えられてきたかを概観し、家庭科教育における生活と対比させて考察することを目的とする。
    [研究方法]近年の福祉教育に関する理論研究をレビューし、生活をどのように捉えているかを考察する。さらに、福祉に関する諸領域においても生活に関する論述を概観し、家庭科教育においての生活に関する理論との比較検討を行ない、家庭科教育における福祉教育の可能性を検討する。
    [研究結果]福祉教育においては生活に焦点化した理論がないことがあきらかになった。しかし、福祉の諸領域のうち、生活福祉、自立生活運動、在宅ケアに関する理論では生活がその中心になっている。すなわち社会福祉の問題解決においては生活が論じられるが、福祉教育においては生活が論じられていないのである。家庭科教育においては身近な問題の解決をはかる上で, 生活の中に題材をもとめる実践が蓄積されているが、生活の視点から社会福祉問題に取り組むことが家庭科教育における福祉教育の独自性につながるものと考えられる。
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