日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第47回日本家庭科教育学会大会
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第47回大会口頭発表
  • 堀口 美智子
    p. 1
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>本稿では、母親が就業することが子どもの発達に及ぼす積極的な効果を吟味することを目的とする。子どもが自立していく上で最も基本的、かつ重要な側面である「衣食住に関する生活技術能力」の習得の実態に焦点を当て、母親の就業との関連を探ることにする。
    <方法>2001年9月1~30日に日本家庭科教育学会により実施された「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票データの二次分析を行う。分析対象は、小学校4年(2,555名)、6年(2,611名)、中学2年(2,983名)、高校2年(2,993名)の計11,142名(男子5,429名、女子5,713名)である。独立変数は「母親の就業状態」とし、就業状態別に?フルタイム就業(23.6%)、?パート就業(26.8%)、?無職(19.9%)の3つに分けた。従属変数は「子どもの衣食住に関する生活技能」である。この18項目のデータを因子分析して複数の次元に弁別し、各因子を従属変数に用いて、母親の就業状態と関連するものを特定していく。
    <結果>因子分析の結果、第1因子は「お年寄りや体の不自由な人に声をかけたり手助けをする」「子どもの遊び相手をする」「近所の人にあいさつをする」「電気や水を使いすぎないように注意やくふうをする」「包装や入れ物がゴミになりにくい物を選んで買う」「家族に頼まれた買い物をする」「ゴミを決められた方法で出す」の7項目からなった。主に対人関係・家庭管理・消費生活に関する技能であり、まとめて〈人との関係づくり技能〉因子とした。
    第2因子は、「フライパンやなべを使って料理する」「ほうちょうで食べ物を切る」「家族の夕食を作る」の4項目からなり、〈食事づくり技能〉因子とした。
    第3因子は「せんたくものをたたむ」「せんたく機で衣服のせんたくをする」「食器を洗う」「ボタンのとれた時にボタンをつける」の4項目で、〈洗濯・食器洗い・ボタンつけ等の技能〉因子とした。
    第4因子として抽出されたのは、「すごしやすくなるように部屋の温度や空気を調節する」「季節や気候にあった服装を自分できめる」「へやをそうじしてきれいにする」の3項目であったが、家事としての内容や質、行う頻度の点で各項目の共通性が低いことから、今回の分析から省くことにした。次に、各因子の合成得点を従属変数とし、母親の就業との関連を見た。独立変数を「母親の就業状態」、従属変数を「3因子得点」とした一元配置分散分析の結果、子どもの生活技能に関する3因子全てにおいて、母親の就業は有意な関連をもつことがわかった。さらに、子どもの性別により効果に違いがあるか否かを確かめるため、多元配置分散分析を行ったところ、母親の就業形態と子どもの性別との交互作用は見られなかった。
    つまり、男子においても女子においても、母親の就業は有意な効果をもっているといえる。
    さて、本研究の目的は、母親の就業が子どもの発達の自立的側面にどのような影響を与えるかを明らかにすることであった。母親の就業状態別に分析を行った結果、フルタイム就業の母親をもつ子どもは、パート就業や無職の母親の子どもよりも、〈食事づくり技能〉と〈洗濯・食器洗い・ボタンつけ等の技能〉の2側面で高い値を示した。母親が外で働き、かつフルタイム勤務であると、子どもは、食事づくりや片付け・洗濯など、毎日の家庭生活の運営に不可欠な家事に多く参加しており、身辺の自立に関する技能が高いことが明らかになった。
    一方、「母親が無職」の子ども(男女)と「母親が自営」の男子は、他の子どもよりも〈人との関係づくり技能〉が優れ、地域とのつながりやボランティア、環境問題に関心が高いことがわかった。これらの技能は、教育的な働きかけによって促されると考えられ、母親が地域と密着した生活をしていたり、学校などで学んだ知識を家庭で実際に体験する機会があることなどが、効果をもつと推測される。先行研究では、母親の就業継続が「子どもの独立心」にポジティブな影響をもたらすことが明らかになっている(末盛2002)。
    本稿では、母親が「一日勤めに出ている」と認識している子どもと、「仕事はしていない」と認識している子どもとでは、生活技能に違いがあることを見い出した。本データは、就業継続については尋ねていないことと、子どもによる回答であるという点で、先行研究の結果と簡単に比較することはできないものの、母親の就業が子どもの身辺の自立を促すという積極的な効果を示した点で、「母親の就業と子どもの発達」を扱った研究に、一定の貢献が果たせたと考える。
  • 蟹江 教子
    p. 2
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    <目的>既婚女性の社会進出に伴い、家庭内における夫と妻の役割分業についての関心が高まっている。家事分担・遂行については、既にイデオロギー、資源A時間の利用可能性などによって説明されることが、明らかであるが、家庭内における性別役割分業の再生産という視点から、近年、父親の家事参加と子どものそれとの関連についての関心も高まっている。欧米における先行研究では、Modeling仮説、Competition仮説のいずれを支持する研究も示されているが、わが国では、Modeling仮説を支持する研究がみられるものの、研究蓄積が少なく、子どもの発達段階を考慮した研究は乏しい。 そこで、本研究では、児童kの家事参加度が発達により変化するかどうかを明らかにした上で、父親の家事参加の影響との関連について検討する。
    <方法>データ:日本家庭科教育学会が、2001年9月に実施した「家庭生活についての全国調査」を用いた。分析対象:本研究では、上記調査対象者のうち、?両親と一緒に暮らしていること、?該当項目に回答していること、の2条件を満たす児童・生徒8,657名(小4男子965名、小4女子913名、小6男子946名、小6女子911名、中2男子1,138名、中2女子1,100名、高2男子1,009名、高2女子1,383名)を分析の対象とした。分析に用いた変数:衣食住の技能の実態(18項目について「いつもする」「ときどきする」「あまりしない」「しない」の4段階で回答)を因子分析した結果から、一般的な家事を示す2因子(「食事づくり」(3項目)、「食器と衣服の手入れ」(4項目)を、児童kの家事参加度とした。父親については、「家族の食事の準備」(「毎日する」「どきどきする」「たまにする」「全くしない」の4段階で回答)を用いた。 なお、子どもの家事参加は、家族や家庭の状況に影響されると考えられるため、「家族形態」「兄姉の有無」「弟妹の有無」「母親の就労の有無」を制御変数として用いた。
    <結果>se性別、学年別に児童kの家事参加度をみると、男子よりも女子のほうが高い。また、男子では、「食事づくり」「食器と衣類の手入れ」ともに、高校2年生になると、低下を示している。女子では、「食事づくり」は、学年によって大きな違いはみられないが、「食器と衣類の手入れ」は、学年が高いほど、行うようになる。児童・生徒の家事参加度と父親の家事参加度との関連を、「家族形態」「兄姉の有無」「弟妹の有無」「母親の就労の有無」を制御した偏相関係数でみてみると、学年に関係なく、男子、女子ともに正の相関が認められた。また、その値は、女子よりも男子のほうが高く、男子のほうが父親の家事参加の影響を、より強く受けていることが明らかになった。なお、(2次分析)にあたり、日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票データの提供を受けました。
  • 宇津野 花陽
    p. 3
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>学習指導要領における家庭科の領域は、家政学の学問領域でもあった食物、被服、住居、保育、家庭経営、家庭生活などの、生活の対象の視点から構成され、領域ごとに学習目標が設けられてきた。 ところが、私たちの生活行動には連続性があり、日常生活のなかで様々な行動は並行して行われている。だとすれば、生活における技能の実態を分類し、家庭科で育成すべき技能として編成することによって、より効果的な学習が行われる可能性もあると考えられる。 そこで、本研究では、児童・生徒の生活の実態から生活技能の分類を試み、家庭科の学習に関する考察を行うことを目的とする。
    <方法>日本家庭科教育学会によって2001年9月に実施された調査「家庭生活についての全国調査」のうち、生活技術の実態についてたずねた問4‐1について、因子分析をおこなう。小学4年生2,555人、小学6年生2,611人、中学2年生2,983人、高校2年生2,993人 合計11,142人を分析対象とする。
    <結果>「パソコンを使って暮らしの情報を集める」は因子に分かれなかったが、残り17項目は、大きく4つの因子に分かれた。第1因子は、「家族にたのまれた買い物をする」、「ゴミを決められた方法で出す」、「電気や水を使いすぎないように、注意や工夫をする」、「包装や入れ物がゴミになりにくい物を選んで買う」、「近所の人にあいさつをする」、「お年寄りや体の不自由な人に声をかけたり、手助けをする」、「子どもの遊び相手をする」の7項目から構成された。人との関係を認識し、関係をつくることに関する技能であるので、「人との関係づくり」因子と命名した。第2因子は、「ほうちょうで食べ物を切る」、「フライパンやなべを使って料理する」、「家族の夕食を作る」の3項目から構成された。これらは、「食事づくり」因子と命名した。 第3因子は、「食器を洗う」、「せんたく機で衣服の洗濯をする」、「せんたくものをたたむ」、「ボタンのとれた時に、ボタンをつける」の4項目から構成された。「食器と衣服の手入れ」因子と命名した。 第4因子は、「季節や気候にあった服装を自分できめる」、「へやをそうじしてきれいにする」、「すごしやすくなるように、へやの温度や空気を調節する」の3項目が分類された。ここでは、対象は衣服と住居で異なるが、快適な環境をつくるという意味で共通した項目がまとまった。そこで、「快適な環境づくり」因子と命名した。日本家庭科教育学会では、領域編成に関してこれまでに多くの議論が積み重ねられており、『家庭科の21世紀プラン』1)における教育内容の構想案では、学習指導要領等の領域を、主体としての人間の視点から統合・総合化し、家庭生活逞謫凾搓?驕u個人及び家族の発達と福祉」、衣HZ領域を統合する「生活資源と暮らしの知識・技術」、家庭経営領域等を統合する「消費生活の営みと生活環境・文化」、「総合」の4領域に編成する提案がされた。本研究の結果からは、さらに、「個人および家族の発達と福祉」領域と「消費生活の営みと生活環境・文化」領域を「人との関係づくり」技能を育てるという視点で密接に関連させて学習すると効果的である可能性が、また、「生活資源と暮らしの知識・技術」領域は、「食事づくり」、「食器と衣服の手入れ」、「快適な環境づくり」という技能ごとの関連も意識して学習すると効果的である可能性が示唆された。なお、[二次分析]に当たり、日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票データの提供を受けた。
    1)日本家庭科教育学会編著 1997『家庭科の21世紀プラン』家政教育社
  • -生活向上意欲、家庭科学習効果の認知と問題解決意欲-
    黒川 衣代, 中屋 紀子, 渡瀬 典子, 日景 弥生, 高木 直, 長澤 由喜子, 砂上 史子, 浜島 京子
    p. 4
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>日本家庭科教育学会が2001年に実施した「家庭生活についての調査」について、東北地区では、地区の特徴を明確にし、今後の家庭科教育に生かすことを目的としてデータを分析してきた(第4報までは口頭発表済み)。本報では、家庭科学習の到達目標の一つとされる「問12(問題解決への意欲)」に「問4-2・問4-4(生活向上意欲)」と「問11(家庭科学習効果の認知)」が関連していると考え、それを検証することを目的とする。
    <方法>東北地区データの内、家庭科を学習していない小4を除く3,411名を分析対象とした(小6-1,063名、中2-992名、高2-1,356名)。<分析の手続き>問4-2-1~9(「もっとじょうずにできるようになりたいと思うこと」)と、問4-4-1~9(「もっとすすんでできるようになりたいと思うこと」)を合わせた18項目のうち、○をつけた項目の数を「生活向上意欲」とする。問11-ア~エの4項目(「家庭科で学習してできる・わかる・気づく・考えるようになったこと」)、問12-ア~ケの9項目(「これからの生活で有効な問題解決手段の大切にしたい程度」)については、それぞれを因子分析したところ、1因子構造であると判明したため、それぞれ全項目から成り立つ加算尺度として使用することとした。得点化は各項目ごとに、選択肢に応じて1点~4点を与え、数値が大きくなるほど認知度や意欲が高くなるようにし、質問内容から総得点は「家庭科学習効果の認知」、「問題解決への意欲」を表すとした。「家庭科学習効果の認知」、「問題解決への意欲」それぞれのクロンバッハのα係数は、0.85、0.80であった。
    <結果>1.「生活向上意欲」「家庭科学習効果の認知」「問題解決への意欲」の学年×性別による比較学年×性別による6グループの平均点比較のために、一元配置の分散分析、多重比較を行った結果、
    (1)「生活向上意欲」は、高-男子・中-男子<高-女子・中-女子<小-男子<小-女子、
    (2)「家庭科学習効果の認知」は、高-男子・中-男子<小-男子・中-女子・高-女子<小-女子、
    (3)「問題解決への意欲」は、中-男子・小-男子<中-女子<高-男子・小-女子<高-女子であった。学年差、性差が認められ、「生活向上意欲」「家庭科学習効果の認知」は概ね、学年が低いほど、また男子よりは女子の方が高しかし、「問題解決への意欲」は男女とも中学段階で低くなっている。
  • 岩崎 香織
    p. 5
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」の結果、『平成14年度報告書』(2003)からは、家庭科の学習効果が『生活自立』『社会的自立』『経済的自立』『社会的自立(共生)』などのl「価値観」の形成と関連があり、以上の「価値観」の高さが生徒の「生活技術」、「生活技能習得意欲」の高さに結びついていたことが明らかにされた(第4章)。特に『社会的自立(共生)』として分類されるl「他の二歩とに役に立つように働くこと」と「人の助けを借りること」の影響力が大きく、「他の人の役に立つように働くこと」は全般的にどの設問とも正の関連が見られたが、「人の助けを借りること」は非常に大きな正の関連と弱い負の関連をもつ場合の2つの場合が見られた(第3章)。そこで、「人の助けを借りること」を重視することの効果については、「他の人の役に立つように働くこと」とのバランスから検討していく必要があると考えられた。本研究では、「家庭生活についての全国調査」の二次分析として「他の人の役に立つように働くこと」と「人の助けを借りること」のバランスの取り方に着目し、特に成人への移行という観点から重要度が高い高校生段階の『社会的自立(共生)』観のバランスに影響を与える家庭生活の実態と家庭科の学習経験の要因について明らかにすることを目的とする。
    <方法>分析するデータは、日本家庭科教育学会が2001年9月に実施した「家庭生活についての全国調査」。対象者は、高校2年生2993名。分析方法は、『社会的自立(共生)』のl「価値意識」として設定されている問12ク)「他の人の役に立つように働くこと」、エ)「人の助けを借りること」の2項目を利用して、対象者を4群に分類し、生徒の家庭状況の実態と家庭科の学習効果との関連を検討した。
    <結果>
    1、『社会的自立(共生)』観の分類方法について
    問12ク) 、エ)の2項目について、「とても大切にしたい」「大切にしたい」を0点として分類を行った。2項目とも重視しているのが「相互支援重視」群、他の3群(x「他者支援のみ重視」群、「非重視」群は、いずれも相互作用の観点からバランスの欠けた群と捉えた。結果、「相互支援重視」群53.7%、「他者支援のみ重視」28.9%、「他者依存のみ重視」6.2%、「非重視」11.2%と、全体の半数の生徒はバランスの取れた『社会的自立(共生)』観を持っていた。
    2、家庭生活の実態と家庭科の学習経験の影響について
    家庭生活の実態として問13[「家族員数・きょうだい数」、「父母の職業」、「父・母の食事の用意度」、問2「起床の自立度A」、「朝食だれと食べるか」、問4-1「生活技能の実践度」、家庭科の学習経験は、問11を利用し、『社会的自立(共生)』観との関連を検討した。
    結果、「きょうだい数」、「父母の職業」について各群に差は見られなかった。「起床のの自立度」は「非重視」群に高く、「他者依存のみ重視」群で低かった。「朝食・夕食」の共食、「生活技能の実践度」、「家庭科の学習効果」は「相互支援重視」群と「他者支援のみ重視」群に高かった。「他者支援のみ重視」群は、相互支援という観点からはバランスが欠けているが、家庭生活の実態と家庭科の学習経験においては、ほとんど「相互支援重視」群と同様の傾向を示した。唯一、差が見られた点は、「家族員数」、「父の食事の用意度」が、「相互支援重視」群において低い傾向が見られたことである。家事を分担する父や祖父母など大人の家族員の存在、生活技能の実践度、家庭科の学習効果の高さが、高校生のバランスの取れた『社会的自立(共生)』観に影響を与えていることが示唆された。
    なお、[二次分析]にあたり、日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票データの提供を受けました。
  • 鈴木 敏子
    p. 6
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>長らく女子のみ必修であった高等学校の家庭科は、1994年度入学生からすべての生徒の必履修教科に、いわゆる男女共修(共学)とされ、それは、「男女共同参画社会の推進を考慮」することが家庭科の改善の基本方針の一つにあげられた2003年度入学生から適用の教育課程へと引き継がれた。つまり高校の家庭科が男女共修となって10年たち(それは中学校の技術・家庭科の履修形態の改訂とも連動している)、高校生などにはもはやそれは当然とみなされている。とはいえ、家庭科とは、家庭で母親や主婦がやるような家事や育児のやり方を学習するものといった一面的な考え方やとらえ方も存在している。中等教育の家庭科が男女共修になった前後の大学生の家庭科の学習状況の比較によって、今後の課題を探る。
    <方法>横浜国立大学の教員養成系の学部・課程の学生を対象に、1996年度以来、教職免許状取得のための必修の科目の授業で、一斉自記式記入法で「家庭科に関するアンケート」を実施してきた。そのうち、高等学校で家庭科が、女子のみ必修だった学生(全日制の高校卒業年が1996年3月以前で、中学校の技術・家庭科はいわゆる領域の相互乗り入れで履修した世代。A群とする)と、すべての生徒に必修になった学生(高校卒業年が1997年3月で、技術・家庭科は履修の範囲が「男女同一の取扱いとする」と改訂された中学校学習指導要領の移行措置がとられ、3年生次に実施された世代。B群とする)とを含む1997年度の調査を比較、分析する。分析数はA群が男子112、女子108、B群が男子78、女子106である。
    <結果>出身高校の属性〉回答者が卒業した高校の所在地は神奈川県が64(16%)ともっとも多いが、北海道から沖縄県までほぼ全国の都道府県に分布している。設置者は公立84%、私立15%で、共学校が82%、男子校が9%、女子校が8%である。〈家庭科の学習率の比較〉?小学校では、両群の傾向に大きな違いはないので、総数で領域別にみると、食物は85%、被服は83%、住居は20%、家族は16%が学習したとしている。?中等教育で、「家庭科は学習しなかった」という男子は、A群は中学校で34%、高校では94%にのぼるが、B群になると中学校、高校ともわずか2人(3)%となる。「覚えていない」という男子もA群は中学校で21%、高校で13%いるが、B群は中学校で13%、高校で3%に低下する。男子が学習した記憶のある領域は、中学校では、A群は食物45%、被服16%、住居7%、保育3%、家族2%、B群は食物78%、被服71%、住居37%、保育31%、家族30%である。高校のB群は、食物90%、被服78%、住居41%、保育39%、家族47%である。女子はA群、B群とも、中学校でも高校でも、80%から90%以上が食物と被服を学習したといっている。保育はA群が中、高とも40%台、住居は30%台、家族は中で24%、高で41%であったが、B群になると保育は中、高とも60%台、住居は40%台、家族は中で41%、高で60%に、それぞれ上がる。?以上のように、初等・中等教育を通して、家庭科では圧倒的に食物と被服の内容が学習されているが、中等教育では、共修になることによって、その他の保育、家族、住居などについて学習したというものが多くなる。〈学習した内容〉各領域で学習した内容は、学校段階、比較群や性別に関わらず、食物では調理実習、被服の小ではエプロン作りなど、中ではパジャマ作り、エプロン作りなど、高ではスカート作り、エプロン作りなど、画一的な傾向がみられる。〈まとめと課題〉女子の方が男子より、どの学校段階でも家庭科で学習したことを記憶している、家庭科を学習してよかったと思うものも女子の方が男子より多い、など、家庭科の学習に対する学生の意識には性別による差がみられる。女子教育的であった伝統的な家庭科の性格をどうとらえ、どう再構築していくか、課題である。
  • 上杉 良子, 甲斐 純子
    p. 7
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>本研究は、人類共通の重要課題である環境教育の中心となり得る家庭科を中核に据え、他教科等との関連を図った小学校カリキュラムを開発していくことを目的とする。
    <方法>文部省「環境教育指導資料(小学校編)」、文部科学省「小学校学習指導要領」(各教科、道徳、特別活動)、北九州市教育委員会「小学校教育課程編成資料」等の関係資料をもとに、家庭科と他教科等との関連性を図ったカリキュラムの試案を作成した。さらに、それをもとに検証授業を行い、子どもの思考の広がりと態度変容への有効性を確かめた。
    <結果>家庭科の教育内容と、社会科「住みよい暮らしと環境」、体育科保健領域「病気の予防」、心のノート「生きているんだね 自然とともに」等を有機的に関連づけてカリキュラム編成を行うことによって、教育効果が一層高まると考えた。そこで、関連的カリキュラム群と家庭科単独カリキュラム群において、同一題材の授業を行い、比較分析した。その結果、関連的カリキュラム群のほうが、環境や衛生に配慮した実践的な態度や物に対する価値観の変容において有効性が認められた。これは、横断的関連的なカリキュラムによる多面的な指導によって、多様な見方・考え方、即ち、「知の総合化」が図られ、価値観の転換や望ましい行動の誘発へとつながっていったと考えられる。【今後の課題】今後の課題として、国や行政に対して、横断的・関連的な環境教育カリキュラムモデルの提示や、環境教育を推進するにあたっての施設設備等、ハード面の充実、さらには、推進役である教師の研修の機会の保障などが挙げられる。学校や学校教育に対する課題としては、地域との連携を図り、地域の特性を生かした各学校におけるカリキュラム編成が望まれる。自分自身の課題として、一単位時間内における他教科等との有効な関わらせ方に関する方法論的研究を今後していく必要があると考えている。
  • 小島 章子, 平山 素子, 大澤 清二
    p. 8
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>生活の自立を目指す食生活分野では、栄養や食品及び安全や衛生面に関わる知識と共に調理を実践する技術の修得も必須である。授業における調理技術の実践及び体験的な学習活動は授業内において、調理実習という形式で行われており、諸種の条件からグループで行われることが多い。グループでの学習は協力して仕事を進めるという重要性を持つが、生徒側は実習を一種のイベントとして捉えたり、作業の不平等が生じる可能性も否定出来ない。また、基礎的な調理技術の習得は一朝一夕に習得することは難しく、生徒が実生活において調理に関わる機会も多いとは言えない状況であることに加え、通常家庭での調理は一人で行うことがほとんどである。そこで、授業内で行う調理実習に加えて、各家庭において自由献立による調理実習の機会を設け、彼らがどの程度の調理技術を身に付けているのか、一連の作業に対してどう考え・感じたかを調査し、それらの結果に食に関する知識や食に関する習慣がどのように作用しているのか検討を行った。
    <方法>1)対象:東京都内A区の区立中学校2校より431名、私立B女子中学校281名、国立大附属C中学校362名、いずれも1~3年生。2)方法:レポートによる記名式自由回答法及び質問紙を用いた記名式による集団調査法。調査期間は2000年4月~2002年3月。3)内容:「家族の夕食作り」という題目で課題を設定し、生徒が献立作成、材料・用具の準備、調理、食事、片付け等を自ら行いその結果をレポートとして報告させた。レポートの調理実習の工程から実際に作った調理品目数及び調理にかかった時間を中心に検討を行った。また、食の知識の指標として三色食品群の認知度、食習慣として家庭での食に関する習慣も合わせて調査した。
    <結果>1)自由献立による調理実習:調理品目数と調理時間の間に相関関係が認められた。調理品目数が少ないほど調理に要する時間が短く、反対に調理品目数が多くなるほど調理時間が長くなる傾向が見られた。しかし、一品目あたりの調理に要する時間は調理品目数が多くなるほど短くなり、調理品目数の多い者は調理の手際が良くなる傾向が見られた。調理品目数及び調理時間について男子と女子の間に差は認められなかった。2)三色食品群認知度:食品と栄養に関する知識の指標としては平成12年に日本体育・学校保健センターで行われた全国調査「児童生徒の食生活調査等実態調査」の「食品の知識と働きを知る」項で用いられた質問項目と同様のものを使用した。黄色の食品群・赤色の食品群・緑色の食品群の各10問で1問正解を1点として合計30問30点中で得点を求め、食の知識とした。小学校で修得している内容であるにも関わらず高いとは言えない解答率であった。三色食品群と調理品目数の関係では、調理品目数が少ない者の点数は低く、調理品目数が多くなるに伴なって得点が高くなる傾向が見られた。調理品目数を多く作った者は調理品目数が少ない者に比べて三色食品群の認知度が高いことが示唆された。三色食品群の認知度について男子と女子の間に差は認められなかった。3)まとめ:調理品目数を多く作った者ほど食の知識が高く、食習慣も比較的安定している傾向にあると考えられた。これは、調理品目数を多く作った者が授業にまじめに取り組んでおり、そのために食の知識も高く、課題としての実習も真剣に行った結果と考えることができ、生徒自身の前向きな姿勢と「食事」に対する熱心な家庭環境の相互作用からこの結果が得られたとも考えられる。課題に対する感想として、多くの生徒が食事作りの大変さを身をもって体験したこと、日常の食事作りを行っている家族への感謝と労いが表現されていた。また、献立を考えることは勿論、材料を切る、量るといった技術の未熟さを感じている者が多いことも明らかになり、今後の学習指導への新たな展開が示唆された。
  • 古島 そのえ, 金子 佳代子
    p. 9
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>食生活をを取り巻く社会環境等が大きく変化し、個々人の食行動の多様化が進んでいる中で、子どもたちの食生活が、身体・心の両面からいろいろな問題を抱えていることが指摘されている。これらの問題を解決するために、食生活の認識やその改善のための教育、すなわち食教育の必要性が注目されている。しかし、食教育の目的や内容は、その対象となる子どもたちの状態や提起している問題点、それが生まれてくる背景によって異なってくると考えられる。食教育の今日的課題について考察するためには、子どもたちの状態や食の問題点がどのように変化してきたのかを明らかにすることが大切である。また、食教育についてはこれまで様々な場面で「食育」「食教育」「栄養教育」等という言葉が使われているが、その目的や内容は対象や対象のもつ問題点により違いが見られる。そこで、子どもたちの状況と食の問題点の変化を明らかにし、「食育」「食教育」「栄養教育」等の言葉の使われ方やその目的・内容について整理し分析する。
    <方法>1980年から2004年までの食教育についての各省庁のホームページからの資料や主な市販書籍等を収集し、子どもの食生活の問題点という視点で強調されていることがら、および「食育」「食教育」「栄養教育」等の言葉の使われ方やその目的・内容について整理し分析した
    <結果>1980年代は、清涼飲料水やスナック菓子などの過剰摂取や咀嚼の問題などに焦点が当てられていた。とくに子どもの肥満が原因となる小児ガン・動脈硬化・糖尿病などの病気が増えていることが指摘され、食教育の目的や内容も、身体の健康についてが中心となり、栄養過剰を防ぐために「なに」を「どれだけ」食べるかという栄養的な面が強調されていた。また子どもの一人食べと心の問題についても注目され始めた。そして1990年前後より、生活習慣病の予防に加えて、子どもの食欲の問題に焦点が当てられ、食卓のあり方と心の問題についての指摘が増えた。食教育の目的や内容も栄養的な面に加えて、人間関係能力を育てることを意識したものになってきた。しかし、ここではまだ家庭の問題として、家族の食卓での心のふれあいを中心にとらえられていることが多い。2000年前後より、栄養面や食卓のあり方に加え、子どもの食生活と問題行動との結びつきが「キレる」などの言葉が用いられ指摘されるようになってきた。食べることが、家庭だけではなく学校、地域等様々な環境との関わりの中で行う営みであるという視点が加わり、「なにを」「どれだけ」食べるかということとともに、「いつ」「どこで」「誰と」「どのように」食べるか、ということの大切さが注目されている。食教育の目的や内容も体の健康や心の育成に加えて、それを支援するための環境づくりまで含まれるようになってきている。それとともに「食育」「食教育」「栄養教育」「食に関する指導」「食を通じた子どもの健全育成」などの言葉が様々な場面で使われてきた。「食育」については2003年に閣議決定した「骨太の方針」第3弾にも盛り込まれ、文部科学省、厚生労働省、農林水産省でもそれぞれの取り組みがなされている。市販書籍等でもその目的や内容は対象や焦点とする食の問題点により違いが見られている。
  • 藤田 智子
    p. 10
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>過剰な痩身願望を持つことは、特に青年期の女性にみられる現象とされ、その影響としての摂食障害の増加も問題視されている。摂食障害の患者の低年齢化、男性における発症なども指摘されている。一方、平成10年度の国民栄養調査では、10代~30代の女性で「やせ」が増加しているのに対し、30~60代の男性の「肥満」が増加していることが指摘されている。 「太る」ことを避ける意識として、痩身願望からなるものと、肥満による疾病を避けるためのものの二側面が考えられる。この二つは全く異なる性質を持つものであり、区別して捉える必要があるのではないだろうか。日本家庭科教育学会が行った「家庭生活についての全国調査」(2002)において、食の意思決定に関する項目に、「太りにくいこと」を気にするかどうかという設問がある。これは、健康に関する意識が高いと評価すべきであろうか。それとも、過剰な痩身願望の表れであると評価すべきであろうか。 本研究では、食に関する意思決定としての「太りにくいこと」への意識が、性別と発達段階によってどのように異なるかを明らかにする。更に、その違いが、痩身願望と肥満回避の二つの側面から構成されていることを検討する。
    <方法>日本家庭科教育学会が2001年9月に行った「家庭生活についての全国調査」で得られたデータのうち、食に関する意思決定についてたずねた問5中の6項目(「太りにくいこと」「添加物が少ないこと」「肉がたくさん食べられること」「野菜がたくさん食べられること」「米がたくさん食べられること」を用いて、分析を行った。
    <結果>(1)「太りにくいこと」への意識 「太りにくいこと」を「気にする」と回答した生徒の割合を、学年×性別の8つのグループ毎にクロス集計を行った。その結果、「気にする」と回答した者の割合が、50%を超えていたのは高2女子だけであった。(2)食に関する意思決定における「太りにくいこと」という項目の位置づけ 8つのグループごとに、閧vと各項目のクロス集計を行った。その結果、小4は男女とも全ての項目が10%台であった。小6・中2の男子は、全ての項目が10%前後であった。高2男子もほぼ同様であったが「おなかがいっぱいになること」が17.6%であった。小6女子は、「おなかがいっぱいになること」が18.9%、「野菜がたくさん食べられること」が15.0%と、他の項目が10%前後であるのに対し、若干高い値を示した。中2女子では、「おなかがいっぱいになること」が26.0%、「野菜がたくさん食べられること」18.2%、高2女子では、「おなかがいっぱいになること」が39.9%、「野菜がたくさん食べられること」26.9%と更に高い値を示した。【考察】「太りにくいこと」を気にしながらも、「おなかいっぱいになること」も重視するという一見矛盾した女子の姿が見えてくる。その際、お腹をいっぱいにするために、「野菜を食べる」のであろう。高2女子で特に顕著であり、痩せたければ野菜だけを食べることが良いというアンバランスな認識があると考えられる。女子は、学年が進むに連れ、痩身願望に基づく「太りにくいこと」を志向する意識が強まると考えられる。肥満による疾患を予防するための食事の抑制と、過剰な痩身願望を満たすための抑制は異なることを明確に認識できるようになることが必要ではないだろうか。「太りにくいこと」といった時、二側面があることを常に意識し、捉える必要があると言えるだろう。 なお、分析に当たり、日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票データの提供を受けた。
  • 伊藤 敦美
    p. 11
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>デューイの行った研究の教育史的意義は、アメリカはもちろん日本でも広く認められているものの、研究資料上の制限から、近年まで、デューイ実験学校の授業実践についての十分な分析はなされていなかった。1990年代に入って、カッチ(J.A.Katch)やタナー(L.N.Tanner)が、シカゴ大学の「大学広報(University Record)」や実験学校の教員による「実験学校ワークリポート(Laboratory Schools Work Report)」を用いて検討を始めたことを契機に、我国においても若干の研究者によって、デューイ実験学における授業実践の詳しい分析が行われるようになった。報告者は、昨年度の本学会の大会において「デューイ実験学校における『食』実践の検討」というテーマの下に、デューイ自身の構想した授業計画(1895)、実験学校の教員による授業実践(1898-1899)、デューイによる授業実践の解釈(1900)を一連の授業実践として捉える方法で、デューイ実験学校における「食」実践について研究発表を行った。本報告では、この「食」というテーマが、授業計画においてデューによってどのように位置づけられ、授業実践において実験学校の教員によってどのように扱われ、それをデューイがどのように解釈したのかを検討することから、デューイ実験学校における「食」実践の位置づけを明らかにすること目的とする。
    <方法>デューイによる授業計画である「大学附属初等学校の組織案」(Dewey,1895)、実験学校の諸教員による「実験学校ワークリポート」(1898-1899)、デューイによる授業実践の解釈である『学校と社会』(Dewey,1900)を、授業の計画、実践、解釈の一連の授業実践として捉えて、デューイ実験学校における「食」実践の位置づけについて検討を行なう。これは、デューイ実験学校において実際に授業を行っていたのは教員たちであり、その教員による報告という性質上「実験学校ワークリポート」のみからデューイが授業をいかなるものとして捉えていたのかを明確にすることは不可能であり、デューイの諸著作のみから理論を分析することでは、実験学校における授業実践を正確に把握することは困難であるからである。検討には、カリキュラム系統図を作成する方法を用いる。
    <結果>本報告では、デューイ実験学校における「食」実践の位置づけを明らかにすることを試みた。「大学附属初等学校の組織案」においては、「家事」、「木工」、HA滷についての授業計画が示されており、デューイはこれら4つを並列で記述していたが、それぞれの授業計画のカリキュラム系統図を作成し対照した結果、「家事」は、「木工」、HA滷を包括するように計画されていたことが明らかになった。ここでは、「食」は、「家事」に包括される人間の基本的な諸活動の1つとして位置づけられていた。授業実践においては、「食」として計画された内容は、「調理」としてだけではなく、「歴史」、「科学」、「植物」、「作業(制作活動)」としても報告された。これは、「食」という1つのテーマが様々な要素を含んでいることを示している。同時に、「食」実践が、デューイ実験学校のカリキュラムにおいて中心的な役割を担うものの1つであったことを示している。さらに、授業実践の解釈においても、デューイは、HHについて調理と外部の世界とをつなげることの重要性を強調しており、授業実践を通して、「食」のテーマが持つ働きの重要性を再認識したことを論証できた。
  • -小学校段階で取り上げる1食分の食事について-
    中村 喜久江, 西 敦子
    p. 12
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>子どもを取り巻く食環境が著しく変化する中,子ども自らの判断で栄養的バランスの取れた食事を選択できる能力を育成することは,ますます重要となっている。一方,食事の準備にほとんど携わることのない子どもの現状を踏まえ,授業の設計を行う必要がある。そのためには,子どもがどのように食品や料理の栄養的特徴と栄養的バランスの取れた食事を認知するのか,それらを手がかりに1食分の食事をどのように思考し組み立てるのかを把握することは極めて重要である。本報告では,栄養的バランスを判断する手がかりとなる料理カードを用い,1食分の食事を考える思考の方法を学習する授業を設計し,子どもの思考の筋道を探ることを目的とする。
    <方法>対象は,H大学附属小学校5学年 36名(女子19,男子17)である。授業は,2003年 1月~3月に行った。授業の流れは,まず,食品に含まれる栄養素とその働きについて学習した。その後,料理カードのシールの数(赤,黄,緑の食品群別摂取量の目安に対する充足率で表示)を予想する活動を通して,料理の栄養的特徴を認知させた。次に,料理カードを用いて給食の栄養価を確認し,栄養的バランスの取れた食事モデルとして給食を認知させた。さらに,栄養的バランスの取れた食事を考える手がかりとして料理カードを使い,1食分の食事を考える思考の方法を学習した。料理の栄養的特徴の認知,考えた1食分の食事の栄養的バランスについては,充足率を表すシールの数で評価した。思考の道筋に関しては,料理を組み合わせた「理由」等の自由記述を,川喜田二郎によるKJ法を用いて解析した。
    <結果>日常生活での昼食を考えさせた結果,料理を組み合わせる視点として,価値,習慣,感覚に関する記述と栄養的側面に関する記述が認められた。プレテストでは,前者として?嗜好・欲求,?味・香り・テクスチャー・温度,?料理の相性,?日常生活における習慣や現状,?献立のスタイル,後者として?栄養がある,?色々な食品を食べる必要がある,また,?なんとなく,にまとめられる記述があった。ポストテストでは,?,?,?,?,?,後者として?料理や食品に含まれる栄養素を考えて,?献立の栄養バランスを考えて,?量を考えて,にまとめられる記述があった。ポストテストでは,?は全く認められなかった。そして,?,?については「好きだから。おいしいから。バランスも考えた中で。」といった記述があり,栄養的側面と嗜好面を繋げて思考していることが推測された。
  • 鈴木 洋子
    p. 13
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>論者は、生活科や総合的な学習の時間への調理実習の導入を高く評価する一方、調理実習が通り一遍の表層だけの体験に終止していないかと疑問を抱いている。学校教育で扱う体験学習は単なる活動にとどまることなく、体験の中で生まれる知的な気付きを通して意欲的に学習や生活に取り組む姿勢を育成することがねらいである。生活科における「生活上必要な技能」は遊びを中心とする活動を対象としており、家庭生活上必要な技能としては捉えてはいない。しかし、体験学習の目標に家庭生活に必要な基礎的な技能を習得する初期段階の役割を付加することで、現代の子どもたちの手指の巧緻性の遅れの問題解決の糸口になるのではないかと考えている。特に、調理技能は健康に直結する食生活の営みに必要であることから、生活科や総合的な学習の時間に扱う調理実習の目標に技能の習得を据えるべきであると考える。現行の家庭科において扱われているきゅうりのうす切りやキャベツのせん切り、じゃがいもの皮むきは生活体験不足の現代の児童にとっては高度な技能である。生活科や総合的な学習の時間に扱う調理実習に調理技能の習得を付加し、家庭での実践を促すことにより、家庭科における技能習得の効果が上がるのではないかと考える。そのためには、低学年における生活科と中学年における総合的な学習の時間に扱う調理実習の題材(料理)を、技能の難易度に配慮して選定し配列する必要がある。本研究においては生活科、総合的な学習の時間に特別活動を加え、これらの学習における調理実習の現状を実習において扱われている調理操作を中心に検討した。
    <方法>調査は平成14年11月に奈良県下の公立小学校106校を対象に行った。有効回収数は67件(63.2%)である。奈良県の小学校家庭科教育研究会の協力を得て調査用紙を手渡し、郵送による回収を行った。調査用紙への学校名の記載は任意とした。主な調査項目は、生活科、総合的な学習の時間、特別活動等において調理実習が取り入れられた学習の実施学年、題材名、料理名・食材、調理操作(切断の有無、加熱の有無、調味の有無)である。
    <結果>・「生活科」については52%、「総合的な学習の時間」については49%、「特別活動」については67%の学校で調理実習を実施している。・生活科において実習されている料理を材料の視点からみると、新設当時に多かったミニトマトに代わり、さつまいもを使った料理が多い。調理操作の視点からみると切断(切砕)を行わない料理が多い。・総合的な学習の時間に扱われている料理名からは、発達段階に適した調理操作の配列や家庭科との連携がみられない。・特別活動における調理実習は第5学年の「宿泊学習」や「野外活動」でのカレーライス作りが多い。・低学年の第1学年から中学年の第4学年までを通して調理実習を取り入れている学校は少ないが、実施校では豊富なメニューを取り入れて実践を行っている様子が伺える。・生活科、総合的な学習の時間、特別活動において実習されている料理名と調理操作の分析結果をみる限りでは、調理操作の難易度に対し十分な配慮がさなれているとは言い難い。
  • 魚の調理から始める循環型社会を志向する授業
    野田 知子, 管野 久美子, 出井 玲子, 石川 勝江, 伊深 祥子, 阿部 睦子, 鶴田 敦子
    p. 14
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>評価を生徒の評価にとどめず、教師の授業やカリキュラム改善につながる教育評価にするための方法を、具体的な授業づくりと授業分析、評価方法の検討などをとおして、実践的に研究する。
    <方法>(1)研究方法の概要生徒たちにどんな力をつけることをねらいにしているのか(目標)、評価基準をどのようにするか等を、授業づくりと関連づけて研究した。授業案を検討し、授業をおこない、さらに実際の授業を検討して改善授業案の作成し、再度授業をおこなうということを、集団での討議をしながら、繰り返しおこなった。(2)「魚の調理から始める循環型社会を志向する授業」の概要魚丸ごと一尾の調理実習では、生徒たちは切り身魚の調理では見られない関心・興味を持ち、食べ物のいのちに関する会話や感想が聞かれる。そこで、生徒の実感から出発して、食べ物のいのちの循環を学ぶ授業を次のようにおこなった。?魚丸ごと一尾を調理した感想を書き発表する。?魚になって調理される気持ちを書き発表する。?一部分記入済みの食べ物の循環図を提示し、矢印、絵、言葉を書き加え、図を完成させる。わかったことを書き発表する。?図に名前をつけ発表する(改善授業で加えた)。授業目標は「食べ物のいのちのつながりがわかる」とした。なお、理科の物質循環のひとつとしての食物連鎖の学習は、人間の食べ物と結びつく学びにはなっていないが、家庭科の学びでは、食べ物の調理における体験を基に食べ物のいのちの循環を考える授業をおこなうことで、循環型社会を志向する学びをつくることができると考える。
    <結果>(1)評価を授業づくり・授業改善に生かすことができた。例1)生徒の書いた文の評価から授業の作り直しへ循環図に書き込む授業後に、わかったことを書かせ、評価をした。Aをつけることができたのは一人だけだった。これは生徒のできが悪いのではなく、授業の構成が悪いのではないか、わかりにくい図だったのではないか、と反省した。そこで、生徒の書いた文章をヒントに検討し、改善した授業を後期におこなった。自分たちが実習で使ったイワシからスタートし、食べ物の廃棄物や糞尿などが、微生物の働きにより土に帰ることを実感させるために、給食室でEM菌を使って残飯から作った土と、微生物の入った袋を教室に持ち込んで見せた。その結果、図に「食物連鎖」「すべて土に帰る」「大地に戻る」などのタイトルをつけ、「わかったこと」の記述も、ほとんどの生徒がAもしくはBをつけるこののできる内容であった。例2)生徒のつぶやきから環境問題への発展へ(今後の課題)循環図を書いた後、「実際はこうなっていない」という生徒のつぶやきがあった。現代社会では循環が断ち切られて環境問題が発生する。つぶやきを環境問題の学びに発展させることができる。また、食糧問題・迂回生産の問題などについての授業に発展させることも課題として検討する予定である。(2)評価活動をとおして、家庭科でどのような学力をつけるか、を問い直すことができた。循環のひとつひとつの要素についての知識・理解を評価するのか、それとも考え方が理解できたらよいのか、考え方を形成する知識は必要だが、それをどのように評価するのか等、家庭科でつける学力とは何かをを問い直すことができた。(3)評価を授業改善などに結びつけるためには、複数で授業を検討する会を持つことが有効であることがわかった。
  • -大学生を対象とした授業実践を通して-
    福田 典子
    p. 15
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>生活用水の使用量は年々増加傾向にある。この用水は排水として、下水に流されるが、わが国の約半数といわれる下水道の完備されていない地域においては、直接河川に排出されている。一般に河川には微生物等の力で、汚濁物質を分解する能力があるが、短期間に多量の物質が流入し、水中の汚濁物質が高濃度になり、微生物の分解能力を超えると、水棲生物などへの影響が生じる場合も予想される。生活用水は様々な生活場面で不可欠であり、その家族構成やライフスタイルにより異なるが、使用量の多いものから、調理・入浴洗面・洗濯となることが知られる。これまでに、洗濯排水に関しては界面活性剤やリン酸塩などが問題視され、生産者サイドでは様々な対策が講じられてきた。行政サイドには、下水道の充実や汚水処理施設の充実を一層望む。生活者サイドの役割について日常生活での行動から考えると、生活における用水の使用状況を見直し、節水やカスケード利用の方法を実践的に指導し、定着を図ることが何よりも優先されよう。第ニに、汚れと基質(汚れが付着しているもの)の性質に応じた洗剤の種類や濃度の選択についての正しい知識を有し、実践力を身につけさせることが不可欠であろう。そこで、家庭科教育において家庭や学校における指導を徹底し、生活者一人一人の行動変容を期待したい。そこで、本研究では、日常生活において最も身近であり、実践し易い行動の1つである「衣料用洗剤を適正量使用すること」に注目した。洗剤の使用量と汚れ落ちの関係を実物の観察によって実感させ、児童・生徒が洗剤濃度に関心を持ち、自らの洗剤の使い方に意識を高め、正しい利用ができることをねらいとした実験教材を開発した。大学生を対象とした授業実践を通して、その教材の有用性と課題等について指導方法を含めて考察することを目的とした。
    <方法>研究授業は2003年1月、国立大学構内調理実習室において、45分の1回で実施した。授業対象は大学生女子20名であった。当日の水温は11℃、天気は雪のち晴れであった。実験教材の試料は綿スムース(綿100%白ニット)10cm角、モデル汚染物質は希釈用コーヒー飲料、モデル洗剤は市販洗濯用合成洗剤であった。汚染布は室温にて、授業日の1日から3日前に直接浸漬処理して作成し、風乾させて用いた。同一濃度に均一に汚染させるよう配慮した。実験教材の洗浄方法は、1リットルのペットボトル内に1リットルの水道水を入れ、キャップをして、50回手で上下に振ったのち、水道水で軽くすすいだ。授業の流れを以下に示した。まず導入部では、コンサートに出掛けるために服を選ぼうとして、洋服に染みがついていたという劇を見せ、着用後の手入れの重要性を意識化させた。展開部で着用後の衣類は実際にどのようにしているか学習者自身の日常生活を振り返らせ、手入れの中でも主要な洗濯という日常の衣類管理上不可欠な行為に目を向けるように配慮した。次に、10cm角のTシャツ生地にコーヒーの染みがついてしまったら、1リットルの水で洗うとしたら、洗剤はどのくらいの量が必要だろうか。という発問を投げかけ、洗剤量を予想させた。そこで、8条件の実験で用いる洗剤グラム数を提示し、予想させた。実験は4班に分かれて、班ごとに、2つの濃度の違う洗剤液を作成させ、それを用いて洗濯を行い、汚れ落ちの具合を観察比較させた。実際に洗浄後の汚染布の状態は師範台の上に並べた8枚の様子を洗剤濃度とともに示した。洗浄後の布をビデオカメラで接写し、プロジェクターで投影し、拡大して、8枚の汚れ落ちの程度を並べて学習者に観察しやすいように工夫した。終結部では、洗濯機の中に洗剤を多く入れても、汚れ落ちは変わらず、排水中の洗剤濃度を高めるだけであることを知らせ、洗剤の適正量を守ることの重要性を伝えた。
    【結果】実験後記述された学習カードの分析より、学習者が洗剤は多く入れれば入れるほど、汚れが良く落ちるわけではないことを実感し、洗剤には水の量(洗濯物の量)に応じて、適正量があることに気付いている様子が伺えた。また、環境に負荷の少ない洗濯方法を実践しようとする態度が形成されることが期待できた。衣服を着用すると、手入れが必要であり、適切な手入れをすることは、環境に負荷が少ないだけでなく、経済的であることにも気付かせることが可能であることがわかった。実験の際には、予想をさせる段階で、どのような内容(情報)をどのような方法で学習者に対して与えるかについて、一層検討すべきであることがわかった。また、本実験教材では、汚れ落ちの観察方法の説明において、汚染布と洗浄布を比べて、洗剤濃度によって、どのくらい汚れ落ちの程度が違うのかを比較するということをしっかりと明瞭に指示する必要があることがわかった。
  • 福澤 素子, 水原 美咲
    p. 16
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>今日の衣生活は個性と美観を表現するという装飾審美上の目的が強くなっており、中学校学習指導要領においても個性を生かす着用について指導するよう示されている。個性を生かす着用をするためには、被服の色や形、デザインなどに工夫が必要となる。そこで本研究では、被服における色彩を生徒にわかりやすく指導するために、自分の衣服の色彩や配色を見直すことのできる「コーディネート分析シート」を作成した。さらに、その「コーディネート分析シート」を用いて五ヵ月半にわたり毎日の衣服の色彩と配色の調査・分析を行った。
    <方法>1.着用服の記録 平成14年6月16日から同年11月30日までの168日間にわたり、被服着用時の全身像をデジタルカメラで撮影した。また、撮影した画像は画像加工ソフトAdobe Photoshop 5.0 Limited Editionを使用し、被写体だけになるように加工した。さらに、Microsoft Wordを使用して、毎日の着用服の記録(画像データ)を1ヶ月ごとにカレンダー形式にまとめた表(ファッションダイアリー)を作成した。2.着用服の色の調査 衣服の色と配色の調査には「日本色研配色体系(PCCS)」を使用した。今回の調査では、着用服の色を有彩色はPCCS24色相×トーン12種の288色に、無彩色は黒から白まで9段階に分割した9色を加え、計297色に分類した。3.着用服の色の組み合わせ(配色)の調査 調査した着用服の色の組み合わせ(配色)を、(1)色相配色:同一色相配色、隣接色相配色、類似色相配色、中差色相配色、対照色相配色、補色色相配色(2)トーン配色:同一トーン配色、類似トーン配色、対照トーン配色(3)効果配色:アクセント・カラー、セパレーション、グラデーション(4)色相とトーンの両方にかかわる配色:色相とトーンを統一する共通性の調和パターン、色相とトーンを変化させる対比の調和パターン、色相のみ統一するパターン、トーンのみ統一するパターンの4つの観点から調べた。4.コーディネート分析シートの作成 調査した色名や色相、トーン、配色など、その日の画像とともに1つの表にまとめた「コーディネート分析シート」をMicrosoft Wordで作成した。「コーディネート分析シート」には(1)日付(2)使用色(3)色相(4)トーン(5)画像(6)着用服の色の100分比を示す帯びグラフ(7)解説の7つの項目を示した。
    <結果>「コーディネート分析シート」を作成し、それを用いて衣服の色彩と配色を調査することで、1日に使用された色の数や多使用色、色相配色、トーン配色、アクセント・カラーなどの配色効果、色相とトーンにかかわる配色など、自分の衣服の色彩や配色の特徴を知ることができた。筆者の場合、PCCS色相共通の調和に19日(11.3%)、トーン共通の調和に17日(10.1%)、色相対照の調和に36日(21.4%)、トーン対照の調和に40日(23.8%)、色相とトーンを統一する共通性の調和に4日(2.4%)、色相とトーンを変化させる対比の調和に7日(4.2%)、色相のみ統一するパターンに3日(1.8%)、トーンのみ統一するパターンに6日(3.6%)当てはまり、当てはまらない配色がなされた日が77日(45.8%)あった。1日に使用されている色の数が多くなるにつれてPCCS色相環表とPCCSトーン表が複雑になり、調和を見つけることが難しくなったため、1日に使用された色の数が多くなっても理解しやすい表を作成することが今後の課題である。また、今回の調査ではどんなに面積の狭い色であっても集計したが、集計する範囲をより制限した方が理解しやすい分析になると考える。
  • -学習前の児童の意識調査より-
    板井 知美, 池崎 喜美恵
    p. 17
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>手縫いに対する児童の意識調査や手縫いの実技テストの結果より、児童の多くは手縫い学習の技能習得の際に、技能の手順を理解できないまま学習が進み、手縫いに対する嫌悪感や否定的意識を抱いてしまうことが示された。そして、このマイナスイメージが、その後の家庭科の学習意欲に大きく関与していることが明らかとなった。そこで、本研究は、手縫い学習の授業分析にあたり、まず、手縫い学習前の児童の意識を探ることを目的として調査を実施した。
    <方法> 調査対象はT大学教育学部附属小学校5年生全4クラス、男子78名、女子77名、総計155名である。手縫い学習に配当する時間(総計9時間)のうち、第1回目の授業(配当時間2時間)の導入に、学習前の意識調査を実施した。調査項目として、「今までの生活経験」「家庭環境について」「道具の使用や製作に対する好感度」「家庭科の学習意欲」を設定した。
    <結果>(1)学習前の生活経験では、手縫いに関する項目について男女間に大差がみられた。この生活経験の差の要因として、女子では家庭科の手縫い学習前にクラブ活動や夏休みの自由課題などで、すでに手縫いを経験している児童がいることが考えられる。また、手縫いの経験をしている児童の多くは、手縫いの一連の動作を経験しており、「布を縫う」経験のある児童は、「手縫いで小物を作る」ことまでを経験している。しかし、衣服の補修については、多くの児童は家庭科の手縫い学習で初めてボタン付けを経験している。(2)学習前の家庭環境について、「家の人が縫い物をしているところを見ること」が「よく・時々ある」と回答した児童は、全体の82.7%、「家の人が縫って作ったものを使う」ことが「よく・時々ある」と回答した児童は全体の73.1%と高い割合であり、男女間に有意差は認められなかった。しかし、「家の人から縫い物を教わること」では、女子の63%が「よくある・時々ある」と回答しているのに対し、男子では32.8%と男女間に有意差が認められた。また、「よくある・時々ある」と回答した児童に、その行為者を自由記述により回答を求めた結果、いずれも母親の割合が高く、次いで祖母・姉であった。(3)道具の使用や技能に対する好感度については、男女間に有意差が認められた。男子の好感度が低くなった結果の要因として、学習前の生活経験の少なさによると推測できる。また、「児童の今までの生活経験」の項目と、「道具の使用や製作に対する好感度」との項目間にかなりの相関がみられたことから、学習前に手縫いに関する生活経験がある児童は、道具の使用や製作に対する好感度が高いと考えられる。(4)学習意欲の全項目に対し80~90%以上の児童が「とてもやりたい・少しやりたい」と回答しており、手縫い学習前の学習意欲が非常に高いといえる。このことは、児童が手縫い学習を楽しみにしており、手縫い学習への期待感の表れとも解釈できる。(5)以上のことから、児童が学習意欲を持続し、意欲的に且つ楽しみながら手縫い学習に取り組むには、手縫いの基礎的な技能を習得する際の教材や指導方法を検討する必要がある。そこで授業実践により得られた効果的な指導の工夫例を提案する。
  • 鄭 如伶, 陳 鴻助
    p. 18
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的:本研究の主旨は、身体障害者の服装着用の実用性、機能性及び衣服の購買の便利さ等の問題が解決できるとの設計を通じて、個人の微力でありながら身体障害者にお役に立ちたいと希望している。更にこの設計考案を通じて、身体障害者の着用の機能性と購買の便利性を高めようとも考えている。近年、国外内もこの関連する技術開発は、既に多く研究機構により精力的、かつ相当な時間を投入し、研究を重ねてきた。本文は、国内における身体障害者の服装の設計、その技術の応用及びインタネット通信販売に対し、研究を重ねた上、この種の服装設計の技術の改善を研究することによって、身体障害者は簡単に自分の好きな服装のスタイルの選択が出来ることを促進し、また、身体障害者には、自由にインタネット通信販売を通じて、多元化の機能性服装の購入することが出来る。
    2、研究方法:本研究は主に身体障害者に対し、中華民国の専売公報270285等の半/全開式の患者衣服の設計製作標準を参照した上で、様々な機能性を持つ服装スタイルを設計している。並びに現有の服装設計のソフトを利用し、服装スタイル資料表を作成することによって、検索及び更新するなどの機能を持てるようになり、且つ、お互いの関連性を持たせる。
    3、研究結果:この研究の結果で本文が利用した幾つか違う服装設計ソフトを相互に結合し、及び各種幾つか違う服装スタイルの設計をネット上に構築することによって、インターネットを通じて、より多くの情報の入手が出来る。そうすることによって、身体障害者の服装の購入の不便な所を改善することが出来るし、且つ身体障害者の服装着用の機能性と購入の問題を解決することも出来る。更に、服装製品の選択には、業界と特定な顧客に最適な情報とサービスを提供することも出来ることを発見した。
  • ―教科書分析より
    川口 惠子, 財津 庸子
    p. 19
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】1990年代以降、社会構造は成長社会から成熟社会へと転換した。なかでも金融改革に代表される経済社会の激変は、個人の生活の様々な場面で重大な影響を及ぼしてきている。家計は、これまでの間接金融を前提としたものだけでなく、直接金融への対応をも求められてきつつある。一方で、金銭をめぐる消費者問題は一層深刻化し、複合的な社会問題の様相を呈してきている。各地の消費者相談窓口は、サラ金・クレジット等に関する消費者相談への対応に追われている。しかしながら、これまでの学校教育では、金銭教育はあっても金銭管理教育への取り組みは十分ではなかったように見受けられる。このような社会の変化と現状に、新指導要領における家庭科の学習内容は、どのように対応しているのであろうか。家庭科の学習では、ほとんどの場合、モノやサービスの購入に伴う選択が起点となってくるため、最終的には選択と金銭の問題に収斂されてくるともいえよう。このため、金銭管理教育の充実は家庭科教育においても急務の課題と考える。本研究においては、家庭科教育における金銭管理教育を展開していくための基礎資料を得ることを目的とする。そこで第一に、家庭科で扱うべき金銭管理教育の内容を明確にするため、おもに高等学校家庭科の新旧教科書の内容分析からその動向を明らかにする。第二に、金銭をめぐる消費者問題の現状等も踏まえながら、これからの金銭管理教育の課題について検討する。その上で第三に、高等学校卒業段階までに習得すべきと思われる金銭管理教育の内容についての検討を試みる。
    【方法】分析対象教科書:前回の検定済教科書「家庭一般」13冊、平成14年検定済教科書「家庭総合」8冊、対象とした教科書を「家庭一般」と「家庭総合」としたのは、普通教科の内容として4単位履修する場合が、多くの内容を含んでおり、一般社会人としての教養的内容になっているのではないかと考えたからである。分析方法:金銭管理に関するキーワードを学習指導要領および教科書の見出し等より抽出し、その内容により11項目(「収入と支出」「生活設計」「家計管理」「販売方法」「悪質商法」「購入時の注意」「支払い方法」「消費者信用」「意思決定」「金融理解等」「貯蓄と投資」)に分類した。この枠組みについて記述のみられるページ数とその全体に占める割合をみた。さらに、そのキーワードを含むあるいは説明している文・図表の数をカウントし、量的把握を試みた。文については長短にかかわらず1文を1とし、図表についても大きさにかかわらず1とした。
    【結果および考察】(1)ページ数の変化:旧教科書においても新教科書においてもどちらも金銭管理教育内容が全体に占める割合は、10%前後であったが、新教科書の方が若干減少していた。消費生活の分野として資源と環境の内容があらたに入ってきた影響とも考えられる。?項目別にみた結果、変化のみられたおもな項目について示す。「販売方法」については中学校教科書との重複内容については削除されている傾向があり、新しい販売方法であるインターネット取引等に関するトラブルについての記述がみられるようになった。「「悪質商法」については警告し続けているにもかかわらず、被害が減少せず、あらたな商法も続出しているためか、記述は増加傾向にあった。「支払い方法」についてはカードの多機能化やキャッシュレス化の現状より記述は増加していた。「消費者信用」については、多重債務問題は深刻化しているにもかかわらず、記述は減少傾向にあった。「意思決定」については具体的に扱われる傾向にあったが、「金融理解等」「貯蓄と投資」についてはほとんど記述がみられなかった。金融ビッグバン等の影響もあり金融商品は多様化し、消費者には自己責任がつきつけられる現状においてより具体的な金銭管理教育が必要ではないかと考える。今後は「家庭基礎」小・中学校の教科書および実践の分析もふまえて、家庭科教育における一貫性のある金銭管理教育の内容を検討していきたい。
  • ~都立高校生に対する調査の分析を通して~
    坪内 恭子, 大竹 美登利
    p. 20
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高校生が将来、経済的基盤を確かなものにし経済的自立を獲得するためには、具体的・現実的な近未来の職業選択を中心とした生活設計を思い描き、その実現に向けて一歩を踏み出すことが重要である。しかしながら、家庭科の学習において生徒の多くが具体的な生活設計を描けないでいる。その原因の一つとして、高校生の経済的自立の基盤としての職業が見えにくくなっていることがあげられる。
    このような現実を踏まえ、本研究では生活設計の学習の基礎に職業の選択ができることが重要であると考え、どのような要素がそれに関係しているのかを明らかにするために調査を行うこととした。具体的には高校生の「生活実態の認識」「職業観」「就労経験」「経済的自立意識」が、職業を中心とした生活設計の具体性にどのように影響を及ぼしているのか、そして、これらは「性別」によってどのように異なっているのかを検証した。
    【方法】調査方法としては、2003年7月、東京都立高校11校の第2学年生685名を対象に調査を行い、アンケートの配布と回収は各学校の家庭科担当教諭に依頼した。
    【結果】その集計結果を分析した結果、「学卒後の職業」の設計の明確さと「中年期の生活費」および「中年期の職業」の設計の明確さは非常に相関が高いという結果が得られた。このことから、近未来の生活設計の明確さは、20年後の生活設計の明確さに連動しているといえる。「生活実態の認識」の高さは「中年期の生活費」の設計の明確さと関係しており、「学卒後の職業」や「中年期の職業」の設計の明確さには限定的に関係している。積極的な「職業観」と「経済的自立意識」の高さは、「学卒後の職業」「中年期の生活費」および「中年期の職業」の設計の明確さに影響している。「就労経験」の有無と「生活設計」の明確さについては、有意差は見られなかった。しかし、条件を絞って検討すると、男子の進学率上位校で「学卒後の職業」に、進路多様校と専門学科高校の「中年期の職業」にプラスに働き、「進学率上位校」の女子には、「中年期の生活費」と「中年期の職業」の設計の明確さにおいてマイナスに働いている。「性別」に関しては、積極的な「職業観」「経済的自立意識」は男子の方が高く、「生活実態の認識」においては、項目によって男女差が出た。「就労経験」については、女子の方が経験率が高いという結果が得られた。また、「学卒後の職業」の設計の明確さは「女子」のほうが高いのに対し、「中年期の生活費」を「自分で」まかなうという意識は男子のほうが高い。しかし、「中年期の職業」においては、男女間に差が見られなかった。その理由としては、「学卒後の職業」においては、女子が「目標明確」な者が多かったにもかかわらず、「中年期の職業」では、男女差がほとんどなくなっていることから、女子の中には「学卒後の職業」を腰掛けと考えている者が存在すると考えられる。また、この傾向は「中年期の生活費」を「他人任せ」にするとした者に特徴的に見られることから、専業主婦志向がこの要因であると考えられる。これらの結果を踏まえ、高等学校家庭科の授業へ「生活実態の認識」を高める授業内容の導入及び積極的な「職業観」と「経済的自立意識」の育成が必要であること述べる。また、「就労経験」については、現実に高校生が体験している「就労経験」は、「アルバイトの経験」が大部分であることから、高校生に対しもっと質の高い「就労経験」の機会提供の必要性を提案する。
  • 立山 ちづ子
    p. 21
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的
    消費生活センターなどへの消費者からの相談件数が昭和45年度に比べ平成14年度は18倍に増加し、約1,048,000件となった。近年は販売方法、契約・解約に関する相談が70~80%を占め、また20歳代未満と70歳代以上がふえている。とりわけ、子どもの相談が平成8年度は10,010件であったが、平成14年度は34,046件に増加している。なかでも15~17歳の高校生期で平成13年度以降急増している。熊本県は自己破産率が毎年全国5位以内に位置し多重債務者が多い県といわれる。本研究ではこの原因を探り、さらに多重債務を防止するために、高等学校家庭科「消費と環境」での学習重点事項を明らかにすることを目的とする。
    方法 1 熊本県における多重債務者の原因の特徴を関係機関で調べた。2 「家庭経済」に関するアンケート調査を家庭科授業時間に配布し回収する方法で行った。調査期間は平成15年11月~平成16年1月。調査は熊本県、東京都、山形県の高等学校の普通科〈進学が多い学校と少ない学校〉、工業科、農業科、商業科の1~2学年、女837人、男745人、合計1,582人。
    結果と考察
    ? 多重債務の原因は「熊本クレ・サラ・日掛け被害をなくす会」の相談者からの調べでは(1)生活費の不足による負債の発生、(2)ギャンブル・浪費による負担の発生、(3)悪徳商法の被害による負債の発生によるものが多い。職業別でみると1位パート・アルバイト28%、2位会社員24%、3位自営業15%で多い。多重債務家庭の子どもへの直接的な影響は1位債権者からの執拗な電話〈82%〉であり、その結果として子どもは学習意欲を消失〈80%〉、親を信頼できなくなる〈58%〉、などの事態が出ている。「やみ金」と立ち向かうためには、法律的知識学習が必要であるとされている。
    ? アンケート調査結果と考察:1 高校生の収入は毎月定額の場合、3都県ともに5,000円が最多である。定額を家族からもらう者は3都県比較で山形県が多く、熊本県が最も少ない。2 携帯電話の1ヶ月の支払額は5,000円が3都県ともに最も多い。その支払い者は熊本・山形では「家族」が70%を超え、東京が58%で少なく、「私」が支払う割合は東京が27%で多い。3 小遣い帳の記入者が多いのは東京・男で9%、少ないのは山形・男で2%である。3都県ともに少ない。4 わが家のことを知る者が多いのは東京・男で、収入について38%、支出について22%であり、支出について知る者が少ないのは熊本・男で15%である。家計の収支を高校生はあまり知らない(知らされていない)、とりわけ熊本・男で少ない。5 クレジットカードの貸し借りを「してはいけない」の回答率が高いのは東京・女54%。「してもよい」の回答率は熊本・男6.3%が最多であり、熊本・女は2.4%で少ない。6 年利29.2%の1年後返済金(概算)の正解率は東京・男73%、最小は山形・女42%である。3都県ともに利息計算力をつける必要がある。7 身近に多重債務者を知る者の最多は熊本・女35%、最小の山形・男18%である。その原因の第1位は3都県女男で「サラ金利用」で、続いて連帯保証人、ギャンブル、やみ金利用、リストラ、生活費の不足である。8 借金返済不能の場合の相談相手は、1位「家族」で最多の熊本・女で70%、最小の東京・男で46%である。熊本では家族で解決しようとする傾向が強いようである。2位に「消費生活センター」、3位に「弁護士」で熊本・男8%、東京・男7%であり、法律を活用する意識が3都県ともに低い。 9 結婚式は3都県ともに1位は「シンプルで祝儀金で間に合う程度」で46%〈東京・男〉~35%〈熊本・女〉、2位に熊本の女・男ともに「豪華に、自分の貯金と祝儀金で」26%で多い。熊本県は派手にする傾向が強い。10 18歳の契約の回答は3都県ともに三分され、契約の権利と責任の理解が不十分である。11 連帯保証人は債務者が「支払えない場合には支払う」の回答が3都県ともに最多で、熊本・女88%~山形・男58%であり、正解の「貸し手の請求で支払う」は山形・男で18%~東京・女で6%と少ない。連帯保証人の役割の認識がとても低い。多重債務を防止するための学習重点事項として、(1)本人・わが家の家計の実態把握と記録の習慣化(2)地域の生活慣行のふり返り(3)関連の相談機関の活用方法(4)契約やクレジット、連帯保証人については具体的な事例を通しての理解が重要であることなどが示唆された。
  • -高校生に対するFlour Baby Projectの実践と検討-
    三浦 聖子, 佐藤 ゆかり, 佐藤 園
    p. 22
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    1.目的
    本継続研究の目的は、保育学習において、全ての生徒が乳幼児との関わりを経験する中で自分が親になるということを考え、自己理解を図る家庭科授業の開発にある。第1報では、米国のミドルスクールとわが国の大学生に実践された“Flour Baby Project”(以下、FBPと記す)に着目し、わが国の中学校においてFBPの実践を行った。その結果、中学生は・lour Baby(以下、FBと記す)に対する愛着A「世話の大変さ」、「自分の親に対する思い」、「現在の自分には子育てをすることは無理である」という「現在の自分」と、「将来は子どもを育てたい」という「将来の自分」に関する5つの認識を獲得していた。これからFBは生徒が強い興味・関心をもてる教材であり、FBPを通して、生徒が自分の成長と家族との関わりを考えることができることがわかった。しかし、大学生の結果と比較すると、中学生は、子育てに対する自己の責任を実感するまでには至っておらず、これは、家庭科の授業時間内でのFBの世話に留まらざるを得なかったFBPの内容に起因すると考えられた。本発表では、以下の方法で、この問題の解決と高等学校におけるFBP実践の意義及び家庭科授業としてのFBP実施の可能性を検討することを目的とした。
    2.方法(1)FBを養育する経験を通して生徒に考えさせるべきベイビージャーナル(以下、BJと記す)の問いの設定:先行研究及び中学校での実践結果から・Bと出会った時点での気持ち問、・Bと共に活動して感じたこと6問、・Bと別れる時の気持ち問、vロジェクト終了後の生活問とR記述問の計42問を設定した。 (2)実践の概要:新潟県立長岡大手高等学校の特別編成授業Cコース・BP囂C生(第3学年女子28名、男子3名、計31名)を対象に、2003年12月12日(金)から16日(火)に、同校家庭科担当教諭が次の実践を行った。・FBP実施前:教師が生徒と保護者に手紙によりFBPの主旨説明・12日(金)5・6時間目:1)BJの配布、2)概要と注意事項の説明、3)FBの作成、4)記念写真撮影、5)BJの記入、6)学校終了後各自家にFBを連れて帰り世話・13日(土)、14日(日):1)FBの世話、2)BJの記入・15日(月)~16日(火)4時間目:1)FBの世話(学校で終始FBを抱き、学校終了後各自家に連れて帰り世話)、2)BJの記入・16日(火)5・6時間目:1)ディスカッション、2)BJの完成、3)FBとのお別れの写真撮影(3)実践結果の検討:実践記録に基づき、高等学校におけるFBPの意義と家庭科授業としてのFBP実施の可能性を検討した。
    3.結果(1)中学生と高校生の実践結果を比較すると、中学生が獲得した1)eBに対する愛着A2)「自分の親に対する思い」に加えて、高校生は3)「世話に伴う様々な大変さ」、4)「子育ての責任」を感じ、?「子どもを育てる環境」、?「家族や他人の必要性」、?「子どもが育つ環境としての家族」、?「子どもを持つことの楽しさ」を考えていた。このうち???は、5日間連続してFBの世話をし、多様な経験をしたことで、さらに、その中で自分とFBとの関わりのみならず、FBを介して第三者との関わりを持つことで??が獲得されていたと考えられた。?は、5日間の世話の中で子育ての大変さを強く感じた生徒が、ディスカッションを通して友人や教師の異なった見方・考え方を聞いた結果、新たな認識を持ったためであると考えられた。(2)以上から、40人学級でFBPを実施することにより、家庭科の学習指導要領に記述されているeの役割・保育責任Aqどもを生み育てることの意義竭閧w習することが可能になると考えられた。しかし、多くの生徒がFBを抱いて学校・家庭外で活動することに恥ずかしさを感じていたことから、学校・家庭のみならず、FBP実践の意義を地域社会にも周知し、協力を得る必要があることが今後の課題として把握された。
  • -大学生の実態と生活者との比較による考察-
    妹尾 理子, 小林 文香
    p. 23
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    【背景および目的】
    近年、住まいを巡っては多くの問題や社会的課題の広がりがみられる。具体的には、シックハウス問題、欠陥住宅問題、環境との共生、高齢者対応、省エネルギー、防犯・防災対策等があげられる。さらに、例えば2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」など、住まいに関する法整備も進み、良質な住まいを入手するためにはひとりひとりの消費者・生活者がその内容を理解し、主体性をもってかかわることが重要になっている。そのためには学習は不可欠である。住まいに関する学習には、学校での学習と教育と成人後の社会における自主的な学習の両方が考えられる。そこで、筆者らは先行研究として、2000年に生活者の住まいに関する意識と学習の実態調査を行った。その結果得られた問題点は、学習経験の少なさであった。特に、小学校をはじめとして、中学校、高等学校の家庭科教育において学習しているはずである家庭科における住まい学習の経験が無い(あるいは記憶に無い)という回答が非常に多かったことは想像以上であり、これまでにもしばしば指摘されてきた家庭科における住分野の学習軽視の実態が裏付けられる結果であった。しかし、現行の家庭科教科書や近年の研究論文をみると、住まい関連学習は量的にも質的にも広がりをもち、家庭科学習において不可欠で重要な学習の一要素となっていると考えられる。そこで、本研究では、最近の住まい学習の実態を探るために、高等学校を卒業して間もない大学生に対し、住まいに対する意識と住学習経験の調査を実施した。そして、調査結果を先の生活者調査の結果と比較し、考察を加えることで、住まい関連学習の今後の可能性と方向性を探ることを目的とする。
    【調査の概要】 先行調査は、首都圏の生活者(生活協同組合加入者)を対象に、2002年9~10月に実施した。本調査は、首都圏の2大学の大学生に対し、2003年1月に実施した。調査方法は質問紙法である。 質問内容は、以下の項目である。?現在の住まいについての認識および住まい観 ?学習経験の有無、学習の場、その他の情報源 ?印象に残った学習内容 ?学習の役立ち感 ?今後の住まい学習に対する意欲
    【結果及び考察】30代から40代の女性が8割という生協組合員を対象にした調査では、住まいに関する学習経験があるとする回答はごくわずかであったが、大学生に対する調査結果を見ると、大部分の学生が、小・中・高いずれかの段階での住まい関連の学習経験があると回答していた。これは、記憶が新しいという理由と共に、近年、家庭科における住まい学習が、取り組みやすくなったことが考えられる。それは、高等学校家庭科が男女必修になったこと、教科書や資料集の記述内容が充実し、高齢者対応(バリアフリー)等の新たな社会的課題に対する認識が広がり、実践に取り組みやすくなったこと等が考えられる。それは、印象に残った学習内容についての記述からも感じられた。その一方で、学習経験の個人差は大きく、役立ち感もまだ不十分で、今後の学習の方向性等、検討・改善の余地は大きいといえる。環境問題や防災、シックハウス問題の学習等、新たな社会的課題への取り組みも含め、住分野の学習教材や授業づくりを再検討することが今後の課題といえる。
  • 財津 庸子, 諏訪 友美
    p. 24
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】現行の中学校・高等学校の家庭科教科書において「自分らしさ」という言葉が多く見られるようになった。家庭科教育における「自分らしさ」には、「自立」と「共生」の視点が不可欠であると考える。小学校では、中学校・高等学校で目指している「自分らしさ」の基礎としてどのような内容が具体的に必要であろうか。小学校において「自分らしさ」の学習内容につながる内容を具体的に授業として構想したいと考えている。よって、本研究では、「自分らしさ」として「自立」と「共生」の視点をふまえた小学校高学年の自立尺度の作成をすることにより、自立度の実態を把握し、授業研究の基礎資料を得ることを目的とする。
    【方法】 尺度の作成にあたり、心理学領域と家庭科教育領域の先行研究を踏まえて「自立」の定義の整理を行った。それにより、「自分のことは自分で行う(独立性)」や「他者とのかかわり(共生)」は共通であったが、家庭科教育領域の「自立」には、「家庭生活における知識、技術、能力」が含まれていることが見出された。よって、先行研究より尺度の領域を内藤、中間の分類を参考に「生活の科学的認識」「生活の価値意識」「生活技能」、心理学領域の分類により、「独立性」領域と「共生」領域の計5領域に分けた。「生活の科学的認識」領域においては、学習に関する知識・理解の把握のため、認知テストを実施することとした。よって今回の自立尺度では、他の4領域の調査を行った。他の4領域において、先行研究より、共通項目を抜き出し、現行の学習指導要領と教科書とを参照し、最終的に計38項目を仮尺度として設定した。各項目において、4段階による得点を与え、得点が高いほど自立度が高いことを示すようにした。また、兼信が自立の構成要素として「必要感」「行動意欲」「できる行動」の3つを挙げていることから、「必要感」は、「生活の価値意識」での中で、他の3領域については、「できる行動」と「意欲」をあわせて問うこととした。「意欲」に関しては、2段階による得点を与えた。尺度の有効性を確かめるための調査を行った。調査対象者は、大分県内の小学5年生117名、6年生109名、合計226名で、調査時期は2004年3月である。リッカート法を用いて検定を行い、尺度の有効性を確かめた。
    【結果】リッカート法による検定の結果、全項目において上位群と下位群の有意差が認められ、尺度の有効性が確かめられ、削除すべき項目はなかった。各項目における平均点と男女による有意差を中心に結果を示す。
    (1)「生活の価値意識」:平均点では「物の選び方・買い方」など消費生活に関する項目が最も高く(3.39点)、「整理整頓、掃除」が最も低かった(2.96点)。「生活の価値意識」は、男女で有意差がある項目が11項目中8項目と最も多かった。女子が関心度の高い項目が多いが、「食べること」においては、男子が高かった。
    (2)「生活技能」:「できる行動」は、「針や裁ちばさみなどを安全に使う」が最も高く(3.36点)、「ボタンを付ける」が最も低かった(2.03点)。「意欲」は、「資源をむだにしないようにする」が最も高く(1.28点)、「買い物をする時に調べる」が低かった(1.11点)。男女による有意差が見られた項目すべてにおいて女子のほうが「実践」「意欲」ともに高かった。
    (3)「独立性」:「できる行動」は、「家の仕事や勉強をできるだけ一人でする」が最も高く(3.41点)、「我慢ができる」が最も低かった(2.86点)。「意欲」は、「問題解決のための努力」が最も高く(1.22点)、「自分の将来について考える」が最も低かった(1.15点)。男女の有意差は見られなかった。
    (4)「共生」:「できる行動」は、「人や他の生き物の命を大切にする」が最も高く(3.28点)、「思いやりがある」が最も低い(2.35点)。「意欲」は、「思いやりがある」が最も高く(1.24点)u人や他の生き物の命を大切にする」が最も低かった(1.16点)。男女差が見られた項目は、女子が「実践」「意欲」ともに高いが、「思いやりがある」においては男子が高かった。
  • 大島 真理子, 荒井 紀子
    p. 25
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、いじめや暴力、非行の低年齢化、不登校、学級崩壊などが深刻化し、子どもの行動が社会問題になっている。このような子どもの一連の問題状況の裏側には、「こころ」の一側面であるの低さが関係しているのではないかと考えられる。このような自尊感情の低い子どもたちに対して、自尊感情を育む機会を教育の中で積極的に取り入れる必要がある。そこで本研究では、子どもの生活と自尊感情との関連に関する先行研究を分析し、子どもの自尊感情に影響を与える要因を検討し、子どもの自尊感情を育む要素を明確にする。そして学校教育の中でも特に家庭科における自尊感情の捉え方を整理し、自尊感情を育むための視点を検討する。なお、本研究では『自尊感情』を驍oすると同時に、自分に価値を見出したり、自分自身を尊重する感情闍`した。
    【方法】(1)心理学・教育学関連の研究論文の中から1990年以降のをテーマとした先行研究を検索し、子どもの生活と関連する調査論文5点について詳細に検討した。(2)小学校から高等学校までの現行の学習指導要領にがどう記載されているか、自尊感情に関連がある記述を分析した。(3)自尊感情を育む家庭科の学習のあり方を検討するため、1993年から2003年までの月刊誌・・、・逎と関連する学会誌等の中から自尊感情を育む要素が含まれると思われる4つの高等学校家庭科授業実践を選び、これらを、授業の構想(ねらい・構造)、授業実践(内容・生徒の感想)、自尊感情の視点から分析した。
    【結果】(1) 子どもの自尊感情を育む諸要素
    先行研究より自尊感情を育む諸要素として以下の点が析出された。?子どもの自尊感情は、子ども自身が家庭や学校、地域社会と関係する中で、家族や教師、友人といった他者からの情緒的受容、共感的理解、個別性の受容などを通して形成される。?自らが主体的・能動的に行動を起こすことを通して味わう満足感や役立ち感、達成感、自信は自尊感情を育んでいくことにつながる。?自尊感情は自己概念の下位概念であり、自己を見つめ自己を形成・確立することはより内面的な主体性に結びつき自尊感情を育む。
    (2) 現行学習指導要領における自尊感情の捉え方
    全体を通してと言う用語自体の記載はみられず、学習指導要領に自尊感情を育む視点が位置づけられているとは言い難い。ここでは自尊感情を育む要素として先行研究から抽出した7項目(主体的・能動的な表現、自己概念の形成、青年期の課題、人間尊重、他者との関係性、個別性の尊重、集団の一員としての自覚)を分析視点として設定した。教科の中で、各項目についての記載がみられたのは、社会科・地理歴史・公民科、生活科、家庭・技術家庭科、体育・保健体育科で、さらに要素ごとに分類すると教科の特徴がみられた。
    (3) 家庭科における自尊感情を育む学習
    4つの実践(黷轤рWェンダー999n域を結ぶ世代間交流学習001w保育教育』を通して“子どもの権利条約”を学ぶ994黷轤・ゥ立と共生を視点として~001)を分析した結果、それらには子どもの自尊感情を育む上での共通する3つの視点‐mり、自己を見つめ直し、これからの生き方あり方を考えることへつなげている点・他者との関係性を築くことを促す点・蜻I・能動的な活動を学習に取り入れる点]がみられた。子どもたちにとって自尊感情は、学習への意欲に結びつき、課題を達成する上での重要な精神的基盤であると考えられる。また家庭科は、学習目標・内容及び教科の特性から、自尊感情そのものを学習の中で育むことが可能な教科であると考えられる。
  • 田中 宏子
    p. 26
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自分の能力や可能性を信じられず、ささいなきっかけで挫折してしまう子ども達が増えているという。国際比較調査でも「自信のない日本の子ども」「自己否定感の強い日本の子ども」が浮き彫りになっている。一方、家庭科は、健康で文化的な生活を視座に据え、日々の生活実践にいどむ意欲的な人間の育成を目標としている。そこで、小・中・高等学校家庭科で学ぶ内容を日々の生活の中で実践することは、自分を積極的に評価することにつながるのではないか、また、実践することは精神的な安定と関連があるのではないかという仮説を立て、家庭科学習内容の実践と自己肯定感、イライラ感との関連を検討した。また、これまでの研究1)より、家庭科学習内容を実践している大学生は、小学生の頃の体験として、家庭の仕事をする以上に、人と協力をしたり、人に役立っていることを感じるなど人との関わりの機会を多く持っていた。このことより、家庭科学習内容の実践と他者への共感性との関連についても検討した。
    【調査方法】関西地区にある大学の学生を対象として、2003年10月に質問紙法により調査を行った。有効回収率は86.7%、有効回答数は364(男子121、女子243)であった。主な調査内容は、家庭科学習内容の日常生活における実践、自己肯定感、イライラ感、他者への共感性、性別役割分業意識とした。
    【結果及び考察】
    1.大学生の家庭科学習内容の実践の実態 実践には男女差があり、女子に比べて、男子が実践していなかった。男女とも、地域のことはあまり実践しておらず、特に男子は、環境への配慮はあまり実践していなかった。
    2.家庭科学習内容の実践と自己肯定感との関連 先行研究2)により、性別役割分業意識が家庭科学習内容の実践に影響していることが明らかになっているため、性別役割分業意識別に家庭科学習内容の実践と自己肯定感との関連について検討した。その結果、男女とも男女平等意識が高いと、実践群の方が自己肯定感の得点が有意に高かった。しかし、性別役割分業意識が高いと、自己肯定感の得点は実践群と非実践群で差は認められなかった。
    3.家庭科学習内容の実践とイライラ感との関連 男子は実践群より、非実践群の方が「日常的にイライラすることがよくある」と答える人が有意に多かった。勉強に対する自己評価が低い男子は、その傾向が顕著にあらわれていた。女子は、家庭科学習内容の実践とイライラ感との関連は認められなかった。
    4.家庭科学習内容の実践と他者への共感性との関連 男女とも実践群の方が、他者への共感性の得点が有意に高かった。以上、性別役割分業意識が根強く残っている日本においては、男子は女子に比べて家庭科学習内容を実践することは自分を積極的に評価することにつながりにくい。このことが実践の男女差を生み出す原因の1つであると考える。しかし、世界的な趨勢として男女平等へと進んでいる。また、自信のなさという国際社会における日本の子ども達の状況を考えると、家庭科は、子ども達がもっと元気に自信を取り戻すことに大きく貢献する教科になりつつあるのではないかと考える。また、家庭科で学習する内容の多くは、実践という観点からみると、他者への共感性との関連が大きい。今後、家庭科学習内容の実践の個人差に関わる背景要因の1つとして、他者への共感性について更なる解明が必要である。
    1)田中宏子家庭科学習内容の日常生活における実践と親の実践、養育態度、小学生の頃の生活体験との関連、日本家庭科教育学会第46回大会研究発表要旨集p.100-101,2003.
    2)田中宏子大学生の家庭科学習内容の日常生活における実践と家庭生活に対する意識との関連、家政学研究Vol.50,No.1,p.29-38,2003
  • 授業への支援体制の検討
    伊藤 圭子, 福田 公子
    p. 27
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的2003年3月に,特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議がまとめた『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』が提出され。ここ数年のうちに教育現場は大きく様相の変化を求められるであろう。しかし、現在「障害児学級と通常学級の子どもが共に学ぶ」家庭科授業(以下、共に学ぶ家庭科授業という)においては,家庭科担当教師の模索が続いており、担当教師は大きな不安と負担を抱えているのが現状である。それに対して,共に学ぶ家庭科授業における問題状況およびそれを解決する方途を示した研究や報告が乏しい状況である。そこで、共に学ぶ家庭科の現状を把握することにより,より充実した家庭科授業および家庭科担当教師への支援体制のあり方を探求することを目的として調査を実施した。
    方法 全国の小・中学校において、共に学ぶ家庭科授業を現在または過去に担当経験がある家庭科担当教師(一部担当未経験教師も含む)360名に対して,2003年11月から2004年1月にかけて調査を郵送法によって実施した。有効回収率は71.4%(小学校136名、中学校121名)であった。調査内容としては,共に学ぶ家庭科授業の実施状況および授業実施時の困難状況と有効な対処方法,家庭科担当教師への支援に対する考えなどについてであった。 これらの結果を集計・分析し,検討を行なった。
    結果および考察 共に学ぶ家庭科授業に対する考えを対象者に訊ねた結果,「条件が整備されれば,推進すべきだi61.9%)と考えている者が多く、上記のような家庭科担当教師への支援に対する要望が実現したならば,「今後も推進すべきだ。i29.2%)を合わせて約9割の者が障害児と健常児が共に学ぶ家庭科授業を今後も推進すべきであると考えていることが理解された。家庭科の授業を実施する際に、具体的にどのような支援を求めているかを自由記述で訊ねた。その結果、教育機関への要望として,都道府県市の教育委員会に求める支援内容の中で,「複数教員での指導体制の確立」が約9割を占めていた。都道府県市の教育センターに対しては,共に学ぶ授業に関する「研究会,研修会の設定41.7%),「実践例などの情報提供」(37.4%)などを求める記述が多く挙げられていた。障害児関連のセンターに対しては,「障害児に対する理解が深まる情報提供」(35.6%),「障害児に対する支援方法の紹介」(30.8%)を特に多く求めていた。教員養成大学への要望としては,大学でのwぶ授業や障害児に対する理解を深める授業科目の設置」(49.4%),「教育実習における共に学ぶ授業経験の必要」(32.6%)が多く挙げられており,大学教育におけるカリキュラムへの課題が提起された。勤務校への要望としては,「複数教員での指導体制の確立」(41.0%),「校内外での共に学ぶ授業に関する研修の機会の確保」(35.1%),「教員間の協力・支援体制の確立」(26.9%)などが挙げられていた。家庭科担当教師間の研究会に対する要望としては,「共に学ぶ授業における授業実践例や教材開発に関する研究や情報交換」が64.8%を占めており,授業にすぐ使える教材や授業実践の提供を求めていることが理解された。特別支援教育の実施を目前に控えている現在,家庭科授業における方法論および協力・支援体制の構築が急務の課題であると考える。
  • -小学校時代の生活記録との比較検討-
    吉川 はる奈
    p. 28
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【問題と目的】相手の立場にたつこと、相手の気持ちを理解することなど、人間関係の力が未熟な子どもたち、児童生徒の問題が保育、教育現場で指摘されている。背景となる原因は1つに特定することはできず、人との付き合いかたが下手な子どもが目立つこと、友達関係を豊に経験していないこと、兄弟も少なく異年齢の関係を経験していないこと、さらには育児を行う親の悩みも深刻なことなどさまざまなことが影響しているといわれている。家庭の育児力、教育力の低下も指摘され、学校教育において、長期的視野で多角的に、対人関係能力を育成していくことが求められている。最近では、体験的学習を通じて、児童が幼児と実際に触れ合う試みなどが少しずつ行われるようになってきている。また高等学校、家庭科における保育学習では、乳幼児と触れ合う体験学習として、幼稚園、保育園での保育体験学習が実施されるようになってきている。しかし「体験的に保育の場で学ぶ」という、形の方が先行し、学習する児童の具体的な保育観の実態やその発達が把握されておらず、今後の検討を要する課題となっている。このような状況のなか教員志望学生においても、乳児、幼児も含め子どもには関心があるものの、具体的子どもイメージがもてない実態が目立つ。小さな子どもと遊んだ経験がなく子どもとつきあう自信がない学生も目立ち、保育体験学習の重要性も指摘されている。本論ではまず大学生のもつ子どもイメージの実態を明らかにする。また彼らの小学校時代の生活記録から、人間関係に関わるエピソードを抽出し、検討する。これらを明らかにすることで幼児期から青年期までを視野に入れた保育観、育児観の育成への示唆を得ることを目的とする。
    【方法】(1)教職関係科目を受講している学生111名に対して子どもイメージついてたずねる質問紙調査を実施した(自由記述含)。(2)彼らの小学校時代の生活記録から、友達関係、教師関係など人間関係に関する記述を抽出し、特徴を整理した。
    【結果】
    (1) 大学生のもつ子どもイメージの実態 質問紙111部のうち、未記入部分があるものなどを除いた100部を検討対象にした。・子どもには関心がある、子どもが好きである一方で、子どもと遊ぶ、触れ合う自信がない学生が半数を超えて見られた。その理由として何を考えているのかわからないから、何を話しているかわからないから、どう接してよいかわからないからという記述が目立った。
    (2)小学校時代の生活記録からみる人間関系 ・小学校の学年ごとにうれしかったことや、がんばったこと、つらかったことなどへの自由記載のほか、友達関係の様子も記述してもらった。うれしかったことにおいても、つらかったことにおいても、人間関係に関するエピソードが多く、学校生活が友達関係、教師との関係など人間関係の質に大きく依存していることが明らかになった。・友達関係ではクラス、クラス以外、近所、習い事などのなかでクラスの友達が多くを占めており、あらためて異年齢の関係の少なさが明らかになった。
  • ―家庭科を学ぶ男性に着目して―
    佐藤 誠紀, 堀内 かおる
    p. 29
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.研究目的高校家庭科が男女必修の教科となり、小学校から高校まですべての児童生徒がこの教科を学ぶようになってから、10年が過ぎようとしている。そこで本研究では、90年代初頭から新たにスタートした中学・高校の家庭科教育を〈新しい家庭科〉と位置づけ、この時代の家庭科をめぐる言説について考察する。その際、特に〈新しい家庭科〉への新参入者である家庭科を学ぶ男性に着目し、当時の家庭科像を探ることにする。
    2.研究の方法 
    ?男性家庭科専攻者に対するインタビュー2000年から2003年にかけて、首都圏の大学の教育学部に入学した家庭科専攻の男子学生8名にインタビューを行った。
    ?1990年代の家庭科に関する新聞記事の分析『切り抜き速報 生活と科学版』(ニホン~ック社発行)の学校教育欄に掲載されているすべての記事から、家庭科教育に関連する話題が書かれている1990年1月から2002年12月までの記事を集め分析した。取り上げた記事数は1136件であった。
    3.結果及び考察
    ?男性家庭科専攻者に対するインタビュー彼らのほとんどは、1994年度~2000年度の期間に高校時代を過ごしている。つまり〈新しい家庭科〉がスタートした時に、彼らはその学習の当事者であった。彼らは家庭科を学ぶという個人的な行為が社会的に意味のあるものだと認識していた。なぜならそれは、彼ら自身が〈新しい家庭科〉の体現者であると自認していたからであった。一方で彼らは、自分の能力の不足を感じて家庭科教師になろうとはしないことがわかった。
    ?1990年代の家庭科に関する新聞記事の分析家庭科を学ぶ男子生徒に関する新聞記事は、1994年度にピークを迎え、その後減少傾向にある。記事では、家庭科を学ぶ男子生徒は、固定的な性別役割分業観を変える教育を受ける生徒として取り上げられていた。家庭科が男女共修になり男子も女子も家庭科を学ぶ姿が自然になると、〈新しい家庭科〉はもはやその「新しさ」を失うことになり、新聞記事として社会的な注目を集めることは少なくなってしまった。
  • -授業実践,教員養成,およびカリキュラム基準改訂-
    表 真美
    p. 30
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的 フィンランドの基礎教育は7歳入学,9年制の総合学校で行われる。具体的なカリキュラム作成の留意点,履修すべき教科の種類や最低授業時間数,評価方法,および各教科の教育指標などは『総合学校カリキュラム基準』として国家教育委員会が定めている。総合学校の後期課程(第7~9学年)に必修教科として「家庭」が組みこまれ,「家庭」とは別に,前期課程(第1~6学年)に「手工」が,後期課程には「手工,技術および織物」が必修教科として設けられている。「家庭」の時間数は週最低3時間と定められ,学年配当は各地域,学校の裁量にゆだねられているが,第7学年において週3時間,第8~9学年において選択教科として家庭科が教えられることが一般的である。家庭科教員養成は主にヘルシンキ大学,ヨアンスー大学教育学部の2大学で行われ,現在1994年より実施されている『総合学校カリキュラム基準』を改定中であることを報告した(日本家庭科教育学会誌第47巻2号掲載予定)。
    本報告ではフィンランド総合学校における家庭科の授業実践,教員養成の実際と家庭科にかかわるカリキュラム基準の新しい動向について明らかにすることを目的とする。
    方法 2004年3月12日フィンランド教育省,3月15日にヘルシンキ大学教育学部家政およびクラフト学科に赴き,資料収集および教員への聞き取り調査を行った。3月16日にマンテュ二エミ総合学校にて第9学年の家庭科授業の見学,および家庭科教師への聞き取り調査を行った。また3月18日にヨアンスー大学教育学部教員養成学科家庭科学・織物・被服専攻において,教員養成の実態を視察,翌19日に,プンカハリ総合学校の第7学年対象の家庭科授業の見学,家庭科教師への聞き取り調査,およびティーチャートレーニングスクール(教育学部付属総合学校)の視察を行った。
    結果 得られた知見は以下の3点に要約できる。1) プンカハリ総合学校の第7学年対象の家庭科授業,マンテュ二エミ総合学校での第9学年の家庭科授業ともに調理実習であった。プンカハリ総合学校においては,家庭科教科書の中から教師が選んだフィンランド料理の献立を,またマンテュ二エミ総合学校では,グループごとに生徒が選んだエスニック料理を作成していた。フィンランド家庭科教科書は,家族・家庭・人間関係,食生活,洗濯と掃除,消費生活,環境問題を含むが,圧倒的に食生活領域の内容が多く,とくにさまざまな料理の調理方法が豊富である。プンカハリ総合学校の生徒は教科書に掲載されている調理方法を見ながら実習を行っていた。
    年間の授業計画は各学校の教師が作成するが,第7学年においては多くの学校でほぼ毎週調理実習が行われ,調理実習と統合して他の領域が学習されていることが明らかとなった。
    2) フィンランドの「家庭」および「手工,技術および織物」の教員養成は主に前述の2大学の同じ学科,あるいは専攻で行われているが,両者の教員資格は別であり,総合学校には「家庭」担当教員,「手工,技術および織物」担当教員がそれぞれ配属されている。教員資格は学士レベル,修士レベルの資格があり,近年は修士を終了した教師が多い。教育実習は1年生から各学年毎年行われている。
    3) 1994年から実施されている『総合学校カリキュラム基準』が現在改定途中である。2003年度から2004年度にかけては新しい基準を約20の総合学校が試験校として実施しており,今年の4月には新カリキュラム基準が完成して正式に公表される予定である。大きな変化としては,総合学校後期課程の必修教科に新しく「健康教育」が加えられ,その内容には家族教育も含まれることである。10年間で「健康教育」教員養成システムを整えるまでは,「家庭」「体育」「生物学」の教員が「健康教育」を担当していくことが決定されている。
  • 小川 裕子, 吉原 崇恵
    p. 31
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的:今日の教育課題に対処できる家庭科教員の養成のために、実践参加型の授業を含めてどのようなカリキュラムを用意したらいいのかについて検討するために、既存の授業科目に実践参加型を取り入れて実践してみることにした。方法:既存の中・高等学校家庭科教員養成の授業科目の内、?「保育学実習」(1年生・前期1単位・必修科目、金田先生担当)の最後に、学童保育所での実習を加える。?「家庭科教育特講」(2~4年生・後期2単位・選択科目、従来は元附属教諭による集中講義)において、まず、2003年10~12月の間、毎週1回(2時間程度)、計8回を目途に、大学周辺の小・中学校の家庭科の授業時間に、教諭の補助役として参加・観察を行う。毎回の実習後、一週間以内に報告書を小川まで提出する。その後、実習のまとめとして、2004年1月に、従来から本講義を担当してもらっていた元附属教諭による講義を受講する。
    本報告では、?における、毎回の実習報告と全実習終了後のアンケート結果、元附属教諭による集中講義後の小レポートを資料として、実践参加型授業による学生達の変容の姿とともに、2003年度の取り組みの課題等を明らかにした。
    結果:?の受講希望学生の大学の講義の空き時間と、受け入れ小中学校の家庭科の授業時間を調整した結果、2年生を中心とする計20名が、4小学校、2中学校の計6校に通うことになった。10,11月中、毎週1回の参加ということで、平均8回の実習経験ができると考えていたが、現実には4~7回の訪問という結果となった。また、参加した授業の内容は、被服製作と調理実習がほとんどである。
    1.毎回の実習報告から:?子どもの見方が具体的になり、関わり方まで考えて行動する。?子どもとの関わり方について、迷いながらも積極的になり、新たな問題意識や自分の勉強不足を自覚し課題意識をもつようになる。?子どもを見て、関わり方を迷う中で教師の仕事に目を向け、理解する。さらに自分ならどうするかを考える。?自己有用感の喜びと教育学部生として教科専門や教職専門の学び方を考える、といった変容が認められた。
    2.全実習終了時のアンケート調査結果から:?この度の参加実習において学んだことについての自由記述から、受講学生の学年とともに、参加したのが小学校か中学校かによって「学んだこと」の内容に、若干の違いがあった。2年生では「子どもの様子」だけの記述に留まる者がある、3年生で「家庭科の実習の設備や準備の大切さ」について書いている者がいる、中学校参加の場合に、家庭科の授業時間の少なさについての記述がある等である。?教育実習(実習?は2年生後期に1週間、実習?、?は3年生前期で計5週間)との違いについては、附属の子どもや雰囲気との違い、2ヶ月という期間があったので子どもの成長を感じたり、一つの課題の完成まで見届けることができたこと、子どもや教師の様子をよく観察できたこと等を挙げていた。?本授業のような、大学の授業の一環で小・中学校の授業に参加する機会については、「もっとある方がよい」とする者が20名中17名を占めた。残る3名は「大学の講義の合間に通うので、通うのが難しい」と記述し、「ない方がよい」とする者は皆無であった。
    3.集中講義後の小レポートから:2年生(計12名)では、3名が、入学後、教職に就くことへの迷いがあったことを明確に記述した上で、今後の大学生活で家庭科の魅力について探す、教職もまたいいと、教職への志向が前向きに変化していることを述べていた。また、多くの学生が、授業をするために子どもの実態、一人ひとりの性格や得手不得手、関心や意欲等を知ることの重要性を記述していた。
  • -ホームプロジェクトの振興に果たす役割-
    柴 静子
    p. 32
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    [研究目的と方法]発表者はここ10年,占領下日本における高等学校家庭科教育の成立過程について研究する一方で,広島大学附属中・高等学校と共同で,「生活の文化」に焦点をあてた授業構築に取り組んできた。その際に,明治以降,日本人がどのように家庭生活を改善しようと努めてきたのかという視点を生徒にもたせるために,戦前の教育映画である「臺所の改善」や「農村住宅改善」そして戦後の CIE教育映画驍・哀といった,その時代の生活の姿をリアルに表現している映像を取り入れてきた。とりわけ1950(昭和25)年に制作された「明るい家庭生活」は占領期家庭科教育研究の過程で発見されたものであり,GHQのCIE(民間情報教育局)の家庭科教育政策を表現した貴重な映像史料といえる。その内容は次のとおりである。
    戦後日本国憲法や新民法の制定によって女性は解放されたとはいえ,非能率的で重い家事労働は依然女性の肩にかかっていた、明るい家庭生活」は,母の家事労働を軽減するために東京の都市部と農村部に住む2人の女子高校生が,家庭科で学んだ知識や技能を生かして家族と協力して台所改善のホームプロジェクトを実行するというものであり,当時の社会的な課題を新しい教育方法を通して解決することがねらいとされていた。
    この映画は,戦後の不便で非衛生的な台所をホームプロジェクトを通して改善するという実際的方法を見事に描いていること,さらにはカマドの改善に代表される当時の生活改善の方法がケニヤなどの途上国援助に現実として生かされていることなどから,単なる歴史所産に留まらず,生徒に日本人の生活史並びにホームプロジェクトの方法とその有効性を示す現代的な教材になり得ると思われた。
    この考えを検証するために,?広島大学附属中・高等学校の生徒,?昭和30年代にホームプロジェクト・学校家庭クラブ活動として台所改善に取り組み,成果を上げた静岡県立磐田北高等学校並びに広島県立竹原高等学校の生徒,?現職の家庭科教師に「明るい家庭生活」を視聴してもらい,アンケート調査を実施して教材としての性格を把握した。更に広島大学附属福山中・高等学校において,「明るい家庭生活」に描かれた戦後日本の生活を把握させたうえでホームプロジェクトを実施させ,発展途上国の生活改善支援にまで考えを及ぼす実験授業を試みた。研究期間は2003年4月~11月であった。
    [結果]
    (1) 広島大学附属福山中・高等学校の高校1年生 154人を対象としたアンケート調査によると,「明るい家庭生活」を視聴して?家庭生活の改善のためにはホームプロジェクトが必要と考えるようになった生徒は全体の64%,?ホームプロジェクトの実施方法が分かった者は62%,?ホームプロジェクトによって家族関係がよくなると思った者は63%,?戦後日本においては台所改善が大きな課題であったことを理解した者は92%,?主婦の家事労働が非能率的であったことを理解した者が93%という数字が示された。これは「明るい家庭生活」がホームプロジェクトの意義を生徒に理解させることに寄与したことを示している。
    (2) 家庭科教師の[明るい家庭製生活」視聴後の反応は,ホームプロジェクトの方法を明確に描いたもので面白いが,何分古いから,生徒が視聴して興味をもつかどうかは分からないというものであった。
    (3) 「明るい家庭生活」を視聴した後にホームプロジェクトを実施した広島大学附属福山中・高等学校の生徒の71%は実施してよかったと答え,また81%は生活改善について考えるよい機会になったと答えた。さらに71%はこの映画に描かれたホームプロジェクトは途上国の生活改善に貢献すると見なした。
    このように調査と実験授業を通して同映画は現代のホームプロジェクトの振興に寄与するという意義をもつことが明らかになった。
  • 青木 香保里
    p. 33
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的:戦前の民間教育研究運動において「生活主義」と「科学主義」を掲げ、「科学的教授の方法」を問題とした城戸幡太郎が編者となり、刊行された中学校職業・家庭科教科書『わたしたちの生活設計(家庭生活中心)』(1954-1956、日本書籍)に着目し、その検討を試みる。なお、本研究報告は、2003年に開催された第46回大会で報告をした同名の続報である。
    方法:文献研究による。対象とする家庭科教科書は、城戸幡太郎編『わたしたちの生活設計』(1954-1956、日本書籍)。このほか戦前および戦後初期の雑誌『教育』、ならびに戦前・戦後初期の教育科学研究会(以下、教科研と記す)関係者の論稿などを資料として用いる。
    結果:1.『わたしたちの生活設計』執筆者にみる「生活」「家庭生活」論『わたしたちの生活設計』は、城戸の「生活科学論」、篭山の「生活構造論」「生活教育論」を適用した家庭科構想の具体化である。その源流は、具体的な家庭生活の現実に基づきながら哀を「労働力の再生産」の視点を基軸として把握を試みた戦前の教育科学研究会生活教育部会の研究成果にある。
    「生活構造論」に依拠することにより、「労働力の再生産」の概念を「労働」「休養」「余暇」と現実生活との関係から構造的に捉える科学的な認識の形成が目指される。また「生活科学論」に依拠することにより、科学的な認識を現実社会において社会的に実践していくこと、すなわち、実践的技術としての「具体的な綜合の方法」である「生活」によって認識と技能の形成が目指される。「生活」が目的となり手段となることは、生活の合理化を分析する方法になるといえ、「生活の現実」を把握することに結びつくといえる。
    2.『わたしたちの生活設計』における各学年の単元構造と学年間の関連図1を基礎単位としながら、各学年の単元が構造化されており、学年進行に伴い基本構造は連結し、3年間の家庭科学習が構造化されている。また、学年進行に伴い、前学年で学習したことを深化し発展させる単元構成となっている。その際、基本構造を構成する「家庭」は社会との関係が絶えず意識される。すなわち、学年進行に従い「家庭と社会」の関係について、各単元で「労働力の再生産」を中核としながら分析と総合が繰り返され、単元の全体が構成されていることを意味する。さらに、単元構成の構造をなす基本構造の連結についてみると、基本構造がそれ自体において循環する構造にあるのではなく、基本構造が螺旋状に繰り返されていく構造にある。
    3.『わたしたちの生活設計』にみる概念1)「生産」「消費」概念
    城戸は、「生産は消費を目的とするのであって、たゞ生産することそのことに経済的価値があるのではない。生産されたものがどのように消費されるかによって生産の経済的価値が評価されるのである」(1951)と述べる。*発表では榎折易課部について検討を述べる。
    2)生活の「合理化・社会化・計画化・共同化・民主化」である。
    「生産と消費」における不可分性を「合理化・社会化・計画化・共同化・民主化」することにより生活の「合理化・社会化・計画化・共同化・民主化」が実現する。これらが統合した「労働力の再生産」の自己実現と社会の発展の土台となり「生活の科学化」を図る基盤となる。
    生活構造図1基本構造(篭山京『戦後日本における貧困層の創出過程』1976、東京大学出版会。原著は縦書)
第47回大会ポスター発表
  • ―新聞づくりを通して食生活の課題を考える―
    齋藤 美保子
    p. 34
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】食物領域は生徒にとって要求度が大変高い領域である。それは調理実習という、作って食べるという人間の基本的欲求を満たしてくれるものだからである。しかも調理・加工という調理の方法や手順、すなわち技術・技能を学ぶという生活文化の伝承としての役割もみのがせない。しかし、調理実習-都立A商業では和・洋・中華、パンづくり-のみでよいのだろうか。他に「栄養素の学習」にあてられ、なぜ和・洋・中華の実習なのかは不明である。さらに調理実習を行う上での生徒の実情と乖離していることである。例えば調味量や材料の長さがはかれないばかりか、半クラス2~3人は包丁を使えないという実態である。方法を説明しても私語が多く、話を聞かず、実習中何度もたずねてくる。これは都立A商業高校以外でも多く見られる生徒の有様である。そこで調理実習を含めた食物領域を生徒にとっての学習要求と現代の食生活の課題とを結びつける学習が必要と考え、「新聞づくり」に着目した。本発表は、この「新聞づくり」の方法が食物の課題学習において有効であることを目的とする。
    【題材設定の理由・方法】食生活の課題を追求することは都立A高校では、2年前まで「調べ物学習」として位置づけられていた。その方法は個人レポートを作成することで、3年3学期4~6時間の予定であった。しかし教員の異動もあり、今回は非常勤の私がそれを引き継いだだけである。今回も教師側から、3つの大きな課題の中から生徒に選択させ、「新聞」という方法を使って表現させ、食べることと食生活の現実認識を統一させることを目的とした。3つの課題の内訳は次の通りである。?食べものそのものについて調べる。[例:米について(無洗米、栄養・流通も含む)?現代の食生活の問題点[例:狂牛病、遺伝子組み換え食品、健康、ダイエットなど]?世界の食文化と食物自給[例:○○国の食べ物事情農業のゆくえなど]対象の生徒は文章力が弱く、就職時の志望動機もなかなか書けない。家庭科での感想文を書いたときも3~5行くらいしか書けず、「よかった」「つまらない」という一語文から、3年生になってようやくB4・1枚のわら半紙に書けるようになる。今回は個人レポート課題とせず、グループで行う「新聞づくり」とした。グループで行うため、
    (1)テーマ設定や書き方など生徒間のかかわ)りあい、話し合いができる。
    (2)新聞とは何かを認識し、どのように新聞を書けばよいかがわかる。
    (3)発表活動・新聞作りの方法も体験実習であることがわかる。
    (4)グループ内外の生徒が考える多様な「新聞」を認識できる。という理由から題材設定と方法を考えた。対象生徒を3~4名くらいのグループ(個人も可)にわけ、A3用紙にカラーペン・色鉛筆、イラストを入れた新聞づくりを行った。
    【対象となる生徒の実態と実施期間】対象は都立A商業高校である。3年生3クラス女子33名男子15名の合計48名である。実施期間は2004年1月から末の4時間である。都立A商業高校は下町に位置し、4年前から班別学習(一クラスを半分にわけ、少人数学習)を行っている。就職するという目的があるため、服装と遅刻指導は徹底的に指導される。しかし、朝食の欠食、昼食の廊下での車座やごみの大量さ、授業中の飲食、携帯メール、プリクラのノートへの添付、盗みなどで教室移動は必ず施錠する、いわゆる「教育困難」校である。教師への暴言や陰口・悪口など陰湿な面が多い反面、人なつっこく、気に入るととことん協力的で集中力に富み、夢中になる面がある。
    【結果】合計20枚の新聞ができあがった。生徒の作品を見てみると「健康やダイエット」に関するものが9、H品の事件u添加物」などが5、「栄養素」などが3、「ごみの行方」「世界の食文化」などが各々1となり、カラーペンで着色のほか、イラストも豊富であった。
  • 岡本 文子, 池崎 喜美恵
    p. 35
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】食生活を取り巻く環境やライフスタイルの変化から、生活習慣病の罹患率が上昇し、社会問題になっている。そのため、生活習慣病の一次予防が叫ばれており、生活習慣の確立される時期の教育が見直されてきている。そこで、本研究では、高等学校家庭科における食教育を生活習慣病の一次予防の観点から検討するために、食教育の現状と課題について調査した。
    【方法】平成15年11月、関東地区の公立高等学校から無作為に抽出した198校の家庭科担当教諭に郵送による調査を実施した。調査の概要は、高校生の食生活の問題について、食物領域の授業について、食生活と健康との関連について、高校生の食生活に対するアンケート結果について、栄養教諭についてなどである。
    【結果】1.生徒の食生活の問題点を複数回答により求めた結果、「欠食」(69.1%)、「食事のマナーが身についていない」(66.7%)、「買い食いや間食が多い」(63.0%)、「調理技術の低下」(56.8%)、「食事時間が不規則」(54.3%)、「食べ物に対する感謝の気持ちがない」、「孤食や個食」(50.6%)などを半数以上の教師が問題点としてあげていた。また、教職経験年数により生徒の食生活の現状に対する意識に差が認められた。
    2.食に関する14項目の学習内容を設定し、5段階で回答を求めた結果、すべての項目を重点的に扱う傾向がみられた。しかし、「献立作成」や「栄養価計算」は、授業時間数の関係で扱われない傾向にあった。
    3.食生活と健康との関連や生活習慣病については、大半の教師が指導していた。食生活と健康について指導する際に、7割の教師が「食品添加物」「骨粗鬆症」「貧血」「食中毒」「ダイエット」「加工食品」「肥満」を取り上げていた。しかし、生徒の意識や行動の改善まで至らない現状や小・中学校における学習の継続性、家庭教育における食教育の必要性などを課題としてあげていた。
    4.生徒の栄養に関する習得状況を5段階により評価を求めた結果、「五大栄養素の種類と働き」「食品に含まれる主な栄養素」の理解に対する評価が高かった。これらは、小学校からの学習の成果として、高校生ではある程度の定着が認められていると考えられていた。一方、「栄養所要量」「栄養価計算」に対する生徒の理解度の評価が低かった。授業時間数が削減されていく中で、いかに習得させるかが課題として示された。
    5.高校生に実施した調査結果の数値に対する見解は多様であった。生活習慣病の具体的事例を提示し、食生活の問題が生活習慣病につながることを理解させ、生活習慣病を自己の問題として受け止めることができるようにしていきたいという意見が多かった。
    6.栄養教諭の創設について「知っていた」6割、「知らなかった」4割であった。その賛否については、「賛成」3割、「反対」2割、「どちらでもない」5割であっ た。さらに、賛否の理由を自由回答により求めた結果、栄養教諭の創設に対する認識と賛否の意識との関連では、多様な教師の意見が表明された。
    7.食は生きる基本であり、その重要性は多くの教師が認めていた。しかし、教師の食生活や授業に対する価値観および教職経験年数により、授業が変わることが示された。また、時間数の削減や非受験科目による軽視から、教師の指導観にジレンマが表明された。
  • 杉村 桃子, 綿引 伴子
    p. 36
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】1946年から1993年までの衣生活教育の授業実践については,田結庄順子他により分析されている1). 1950年代以降,衣生活教育の中心は「ものづくり」を主とする檮\成,縫い閨C実践全体の3~5割を占めていた.2002年,2003年施行の現行学習指導要領より小・高校の家庭科の授業時間数は減少している.家庭科が網羅している各領域の学習を授業内で学習することはかなり困難であると思われる.これまで多くの時間を費やしてきた被服製作のあり方についても変化せざるを得ないと考えられる.そこで,本研究では,家庭科教育関係雑誌に掲載されている授業実践を対象に,衣生活教育実践の実態から変化及び特徴を把握し,これからの家庭科教育に必要とされる衣生活教育のあり方について,どのような教材や授業実践が必要とされているかを探ることを目的とする.
    【方法】[調査の方法及び調査対象] 家庭科教育に関係する主要な雑誌である「家庭科教育」(家政教育社)と「家庭科研究」(家庭科教育研究者連盟編・芽ばえ社)の,1990年1月から2003年12月までに収録された衣生活領域における授業実践を抽出する.それらを対象に教育内容の課題分類や衣生活領域のキーワード,「被服構成,縫い」のキーワードによる分析を行う.特に先行の1946年から1993年の実践分析結果と比較しながら90年代以降の動向を分析する.[調査対象の属性] 抽出された授業実践記録は,「家庭科教育」98編,「家庭科研究」147編であり,全体で245編であった.
    【結果と考察】[教育内容における課題分類] 小・中学校では,1990年代は「ものづくり」の中心である「被服構成,縫い」が約5割以上を占めている実情は戦後から依然として変わらず,被服教育の根幹を成していた.しかし,2000年以降「被服構成,縫い」が大きく減少し,それにかわって「衣生活,被服心理」や「被服材料(繊維,織り,布)」「その他」が増加傾向にあり,学習内容の多様な広がりがみられた.
    70年代以降変化の兆しが見えながら,被服製作中心の衣生活教育はなかなか崩れずに現在に至ったが,2000年に入り大きく変化してきた.[衣生活領域のキーワード] 全体的にみると,被服製作物以外では小・高校いずれにおいても,着装や下着を含む「着方」が頻出していた.「着方」以外では,小学校では「洗濯」「糸紡ぎ,布作り」,中学校では「糸紡ぎ,布作り」「服飾史」「生活排水」「洗剤」,高校では「衣服デザイン」「服飾史」「繊維鑑別実験」「洗剤」「水環境」「布作り」がみられた.小・高となるにつれ,多様な題材が取り上げられている.
    「糸紡ぎ,布作り」,中学校については,綿花の栽培や羊の飼育,糸紡ぎ,織物つくりといった一連の過程を,総合的に学ぶ実践がみられるようになった.小・中・高校に関連するキーワードに,洗濯,洗剤,生活排水,水環境があり,発展的・総合的に学習できる題材であると考えられる.[「被服構成,縫い」のキーワード] 教科書製作題材と独自製作題材は合計で104件あり,そのうち,教科書製作題材は29件(27.9%),独自製作題材は75件(72.1%)で,独自製作題材が圧倒的に多かった.いずれの学校においても,被服製作時間の短時間化の影響がみられ,ふくろや帽子といった小物作り,道具なしでも簡単に授業で行うことができる指編みを利用したマフラーやアクリルたわしなどが多く取り上げられている.1946年~1993年の実践分析結果と比較すると,これらを取り上げた実践報告が多くなっていることから,被服製題材の小物化が進んでいることがわかる.この傾向は今後一層進むものと予想される.
  • 小松 恵美子, 森田 みゆき
    p. 37
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】現行の小学校学習指導要領では,日常着の手入れとして自分で洗濯ができることが求められている。洗濯の目的は被洗物に付いた汚れを落とすことであるが,「布への汚れの付着・脱落」と「布の染色・退色」は物理化学的な現象としては同じである。したがって,洗濯学習に引き続いて染色についても学び,汚れ・色・着色現象・洗浄現象などを総合的に認識することが,中学・高校で学習する洗濯・染色理論の理解につなげるためには重要であり,児童にとっても望ましい。
    だがしかし,学習指導要領では「洗剤の働きに深入りしないこと」という記述があるように,家事技術の習得に重きが置かれ,科学的な視点からの学習が軽視されているきらいがある。洗濯に限らず,家事の大部分は物理的・化学的な諸現象の組み合わせで成り立っている。家事技術の根本である自然科学的な現象を理解していなければ,実生活の多様な場面で自ら考え判断して技術を応用し,発展させる力ははぐくまれないと考えられる。文部科学省が総合的な学習の時間のねらいとしているのは,まさにこの力をはぐくむことである。
    したがって総合的な学習の時間で,家庭科の学習成果を科学的な視点からさらに発展させる教材が必要と言える。本研究では,洗濯の学習を核に染色の学習まで発展させることを目的として,小学校の総合的な学習の時間の実践教材の検討を行った。
    【方法】平成15年12月26日付で文部科学省から出された通知「小学校,中学校,高等学校等の学習指導要領の一部改正等について」では,学習指導要領に示していない内容を加えて指導することができることや,上記の洗剤学習の規制のような「内容の範囲と程度」の事項についても,必要があれば縛られなくとも良い趣旨が述べられている。これを踏まえて,家庭科で着色現象と関連付けてどのように洗浄現象を学習させるか,そのための実験・実習教材を含めて検討した。また,総合的な学習の時間で行う具体的な染色教材は,地域の特色を生かしやすいものに留意して検討を行った。
    【結果】検討の結果,家庭科での学習成果を発展させた,総合的な学習の時間の染色実践教材を以下のように提案した。まず家庭科で「衣服の働きと素材・洗濯」で衣服の機能と素材,手入れの必要性と洗濯の目的を学習し,靴下の手洗いを実習教材とした。
    体育の授業等で着用し汚れた自分の白い靴下を観察して,色や臭い,汗をかいたかなどから,汚れと洗濯する理由を考えさせる。次に水でもみ洗いをし,水と機械力だけで落ちる汚れを観察させる。ここで,汚れた水を替えなければ洗濯物に汚れ(泥などの有色物)が戻ってしまう現象も観察させ,布への着脱色現象が水を介して生じやすいことに注目させて,染色学習への足がかりをつくっておく。さらに洗剤を加えて洗い,観察して洗剤の働きについて学習する流れとした。また一方で,「手縫い・ミシンによる製作」で雑巾作り(手縫い)とアームカバー作り(ミシン縫い)を学習しておく。
    総合的な学習の時間では,現在開発中である土顔料による布の染色教材(1,2)と,植物染めを行った残浴から顔料を生成し回収する教材(3)を取り入れ,水溶性色素と不溶性顔料による染色へと発展させた。作成した染色布の利用は,地域社会への還元も視野に入れて,習得した縫製の技術を使った実生活で利用する物の製作へと発展させた。
  • -指導の方策のために-
    小澤 裕代, 吉原 崇恵
    p. 38
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】小澤は10数年にわたって中学校の家庭科教育に携わってきたが、生徒達の家庭生活や保育領域の学習に限らず、食物や被服の学習においてもジェンダーバイヤスにとらわれた言動に直面し、それが家庭科学習の阻害要因であることを痛感していた。それは現実の家庭生活や学校生活において意図的、無意図的に性による固定的な役割分業意識や生き方に影響を与えてきたことによるものであり、多くの研究で指摘されていることである。家庭科教育の分野では、これまで高校生を対象にした報告が見られた。今回は中学生を対象にジェンダー意識の実態と指導の方策を考察する。とくに、ジェンダーに関する用語はその意味や制度を含めて理解し考えていく内容を持つものであるが、中学生には学ぶ機会が少ないのではないかと思われる。公民を含めてジェンダーに関する知識の有無がジェンダー意識に関係しているかどうかを明らかにする。またジェンダーバイヤスを克服するための方策を考えるために中学生の意識の事例を通して背景や要因の例を明らかにする。
    【方法】(1)自記式質問紙調査 対象は静岡県内公立中学校3年生、4校。配布数377、有効回答数377(男子195、女子182)であった。調査時期 2002年7月。(2)質問紙調査の回答者から10名を抽出した。抽出の要件はジェンダー観(男女平等観、性別役割分業観、性差観)の項目を賛成、反対の尺度で計り平均値を用いた。もう一つはジェンダーに関する用語の知識(ジェンダー、夫婦別姓、性別役割分業、育児休業制度、男女共同参画社会、3歳児神話、子育て支援)の有無の二点である。ジェンダーバイヤスの傾向がある者(男子4名、女子3名)、ジェンダーフリーの傾向がある者(男子1名、女子2名)を抽出した。
    【結果】
    (1)ジェンダーに関する用語とジェンダー意識 用語を聞いたことがあり意味を知っていると解答した者が比較的多かったのは「夫婦別姓、男女共同参画社会、育児休業制度」であった。それに対して「子育て支援、性別役割分業、ジェンダー、3歳児神話」は5%~15%未満であった。性別役割分業の用語は家庭科の全般に関わる用語であると思われるが始めて聞いたと言う者が59.9%に及んでいた。父親の育児参加や仕事と家事育児の両立に賛成のジェンダーフリーの傾向を持つ者は用語の知識を持っている方に多く見られた。とくに「夫婦別姓、性別役割分業、育児休業制度、男女共同参画社会」の用語との関連が見られた。それに対して「子育て支援、3歳児神話」では関連が見られなかった。また、用語の知識は持っていても「家事・育児は女性の仕事」とする性別役割分業、「女子は仕事を持っても家事育児はきちんとすべき」の責任感においてジェンダーバイヤスの意識が顕著であった。
    (2)インタビューは2003年3月対象者の通う中学校の応接室で小澤が行った。生徒のジェンダー意識は、父母の生活や意識を肯定している場合、否定している場合があった。自分の母親を見て「女性の仕事は家事・育児と両立できるパートがよい。男子はフルタイムで働いて家計を支えるのであり、男性のパートは受け入れられない」と考え、自分の将来像も同様に描いているタイプがあった。父親が仕事をしていないように思える場合にもそれを否定し、このタイプになる事例があった。ジェンダーフリーになる生徒の意識の背景は、共働きの父母の影響とともに、家庭科で保育園実習をして幼児と関わることの楽しさを知ったこと、自分の将来像としても会社の制度や地域の施設を利用していきたいことをあげていた。育児休暇制度のことを知り、不十分な点は変えていかなければならないと考えている場合もあった。このような生徒達は情報や意見を交換し、制度を学び知識を共有する学び方が可能であることがわかった。
  • ―高校生におけるジェンダー観の実態―
    佐々木 多津子, 日景 弥生
    p. 39
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】家庭科で高校生にジェンダーに気づく授業を実践するときに、高校生のジェンダー観を数値としてつかむことが必要であると考える。高校生のジェンダー観に関する調査はいくつかあるが、それらは高校生の意識を中心とした調査(例えば、「~だと思いますか。」)であり、行動を含む実態調査の報告はあまりない。そこで、ジェンダーに気づく授業を実践するにあたり、高校生のジェンダー観を把握することを目的とした。
    【方法 】(1)調査対象者及び方法
    2002年5月下旬~6月上旬に、青森県内の高等学校3校(合計384名;内訳は男子158名、女子226名)で実施した。質問紙法により各学校の家庭科の授業時間に実施したため回収率は100%だったが、データ分析の関係から回答中に「無回答」があった生徒は調査対象から外し、有効回答率は94.1%であった。(2)調査項目
    アンケート項目は(財)東京女性財団が作成した「ジェンダーチェック学校生活編」「ジェンダーチェック家族・家庭生活編」を参考にし「意識」・「行動」・「感情」に分けて各12項目作成した。(3)集計方法
    各項目においてジェンダーフリーまたはジェンダーセンシティブと回答した者の割合をジェンダーフリー度(以下フリー度とする)とし、それらの選択肢に対して1点の得点を与え、それ以外は0点とした。このようにして得られた合計点は高い方がジェンダーフリーを示すようにした。
    【結果および考察】(1)高校生のジェンダーフリー度
    検定の結果、学校間の有意差はみられなかった。男女別にみると、3校とも女子の方が男子よりも点数が高くフリーとなり、この結果は他の調査とも一致した。各カテゴリー(「意識」「行動」「感情」)におけるフリー度の平均から、「意識」(71.0%)>「行動」(38.0%)>「感情」(31.9%)の順となった。このことから、高校生は「意識」は全般に高いが、「行動」や「感情」ではあまり高くないことが明らかとなった。(2)高校生の実態調査
    各項目ごとの男女の有意差を検定により調べた結果、36項目のうち16項目で有意差がみられ、男女の有意差についても「意識」より「行動」「感情」で多くみられた。これらの結果より、女子は「男は仕事、女は家庭」という性別役割を多くの面で否定しつつも「仕事を持つ」という意識が低く、結婚したら仕事を辞め、養ってもらいたいと思っている実態も明らかとなった。(3)実態調査から考えるジェンダー学習
    以上のことから、ジェンダー学習に必要な授業について、次の2つのことが得られた。1つ目は高校生は「意識」ではフリーであることから自分に置き換え、フィードバックして気づくことのできる授業が必要である。2つ目は、内容として「働くことは両性に必要である」「生活的自立も両性に必要である」ことを実感できることが必要である。
  • ―授業実践から考えるジェンダー学習―
    佐々木 多津子, 日景 弥生
    p. 40
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究では、第1報での高校生の実態調査をもとに「ジェンダーに気づく」授業を立案し、異なる授業形態で実践・分析し、これらの結果からジェンダー学習に必要な要素について検証するとともにジェンダー学習の階層化を行うことを目的とした。
    【異なる授業形態にみる“ジェンダーに気づく”授業実践】(1)実践方法
    青森県立C高等学校2年生に「家事及び職業労働について」の授業実践を行った。一斉学習は2002年10月25日にA組39名(男19名、女20名)を対象にし、グループ学習は2002年10月16日にB組40名(男20名、女20名)を対象に筆者が授業を行った。なお、生徒が始めにもっていた家事及び職業労働観を『職業観(前)』、授業後の家事及び職業労働観を『職業観(後)』、および授業後約2か月後の家事及び職業労働観を『職業観2か月後』とし、ジェンダー観を分析した。
    (2)結果および考察
    1)“ジェンダーに気づく授業”に有効な授業形態
    2つのクラスにおける授業後のバイアスからフリーへの変化の割合(一斉学習では56.3%(9名)、グループ学習では42.8%(3名)、事後アンケートにおける生徒の学習評価、および生徒の感想などを比較すると、全てにおいて一斉学習の方が学習効果が高くなった。これは一斉学習では筆者が意図した「生徒自身が考えることのできる授業」ができたためと考える。一方グループ学習では、学校の中での固定された人間関係の中で生徒が自分自身の考えを話し合い、かつ学び合うことの難しさも明らかになった。
    2)ジェンダー観の変化
    『職業観(前)』から『職業観(後)』へのフリーの割合は、一斉学習、グループ学習とも増加した。しかし、『職業観2か月後』では、『職業観(後)』に比べて一斉学習では12.4累課Aグループ学習では14.8累課黷鼬Bつまり、授業によってフリーに変化しそのままフリーに定着した生徒(7名)もいたが、バイアスのジェンダー観にもどった生徒(5名)もみられた。
    3)ジェンダーに気づく授業に必要な要素の検証
    授業の感想の中に、教材について記入のあった人数と生徒の気持ちに『揺らぎ』のあった人数を比較することにより、「生徒の持っている規範とは反対あるいは異なるものを提示」できたかどうかを検証した。グループ学習を行ったクラスでは、「グループ学習」と記述のあった生徒は9名と多かったが、『職業観(前)』で生徒の82.1%がフリーだったことから、グループの中に自分と違う考えの生徒がいないという理由などから感想の中に『揺らぎ』がみられた生徒は少なく、グループ学習での討議は「生徒の持っている規範とは反対あるいは異なるもの」の提示にはならなかったことが明らかとなった。その結果『揺らぎ』のみられた生徒は、一斉学習では10名、グループ学習では2名となった。これより、「生徒の持っている規範と反対あるいは異なるもの」を提示することは生徒の気持ちの『揺らぎ』につながり、ジェンダーに気づく授業に有効であることが検証された。
    4)ジェンダー学習の階層化
    次に生徒の感想に書かれている言葉等を分析し、5つのカテゴリー、つまり、「体験としての快さ」、「自分へのフィードバック」、「概念・知識の獲得」、「自己規範の形成」、「行動への意欲」に分類し、ジェンダー学習に関する階層化を試みた。さらに、これらに生徒の感想を当てはめたところ、一斉学習の方が上位のカテゴリーの人数が多くみられ、この結果はこれまでの分析結果と一致した。
  • 山田 桂子, 日景 弥生
    p. 41
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高等学校家庭科は1989年改訂の学習指導要領で男女必修が実現し、現行指導要領でも「男女共同参画社会の推進」が明記され、すでに男女平等教育は達成されたという見方もある。しかし、実際の学校生活の中ではまだ性にしばられた言動がみられる。本研究では、事前調査としてジェンダー学習前後の小・中・高校生の意識変化を調査した。その結果から、最も変化がみられなかった高校生を対象に複数回のジェンダー学習を行い、事前調査で1回のジェンダー学習を実施した高校生の結果とを比較し、複数回の授業効果を明らかにすることを目的とした。
    【方法】1.対象;事前調査のA高校生33名(男子16名、女子17名)発表者が勤務していたB高校生8名(男子5名、女子3名)。2.調査時期;ジェンダー学習はA高校では2001年11月、B高校では2002年7月に行い、意識調査は学習の直前と学習1詞繧sった。3.調査項目;A高校生は(財)東京女性財団作成のジェンダー・チェックをもとに作成した20項目の意識調査と学習後の感想文を分析した。B高校生はA高校生と同じ意識調査と、学習中に生徒が記入した学習プリントと学習後のインタビューを分析した。4.ジェンダー学習の内容;結婚などの学習を通してジェンダーに気づかせることを目的とした。
    【結果および考察】1.ジェンダーへの気づき;授業を1回実施したA高校では、「気づき」があった生徒は17人(52.7%)、「気づき」がみられなかった生徒は13人(39.3%)、「その他」(不明)3人(9%)だった。また、「気づき」のあった生徒はフリー化した割合が高い(58.8%)が、「気づき」がみられなかった生徒はバイアス化した割合が高く(69.2%)なった。一方、B高校では、「気づき」があった生徒は6人(75%)、「気づき」がみられなかった生徒は1人(12.5%)、「その他」(不明)1人(12.5%)だった。B高校でもA高校と同様となったことから、「ジェンダーに気づく」ことはジェンダー観がフリーになることに関連することが示唆された。2.複数回のジェンダー学習と1回のジェンダー学習との比較;学習中や学習後の手応えからジェンダーに気づくためにはいくつかのステップ、つまり「知識の獲得」「気づきの有無」「意識の変化」「行動への意欲」であり、それらを経て「ジェンダー観」が形成されると考えた。また、「気づき」は「自分」の生活への振り返りが見られる気づきと「一般」的な事象に対する気づきの2つに分類した。その仮説に基づいて2つの高校生が記述した感想文等を分類した。A高校では、授業後に「知識の獲得」が観察されたのは33人中22人であった。「気づき」が観察された生徒は17人で、そのすべてが「一般的」事象に気づいていたが、「自分」の生活を振り返る「気づき」があったのは3人であった。また、「意識の変化」が観察されたのは8人で、全員に「気づき」が観察された。しかし、「行動への意欲」は1人しか確認できなかった。これより、1回の学習ではジェンダー観をフリーにすることは難しいことが伺えた。一方、B高校では授業後に「知識の獲得」が見られた者は6人で、全員に「一般的」な事象への「気づき」があり、このうち3人は「自分」の生活を振り返る「気づき」が観察された。「意識の変化」がみられた2人は、この「自分」への気づきが観察された生徒であった。しかし「行動への意欲」についての記述は見られなかった。ジェンダーチェックからジェンダー観がフリー方向に動いた者は3人、変わらなかった者は1人、バイアス方向に動いた者は4人であったが、いずれの変化も小さくジェンダー観の変化を判断するのは難しかった。そこで、B高校生一人一人にインタビューを行い意識の変化を詳細に分析した。その結果、<意識の変化>や<行動への意欲>を詳細に把握することができ、7人(87.5%)の生徒がフリー化したことがわかった。これより、ジェンダーに気づくためには複数回の授業実施が効果的であることがわかった。
  • 鈴木 昌代
    p. 42
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】最近、青少年のマナーや規範意識の低下が社会的問題になっている。また青少年の犯罪が低年齢化し、かつ増加傾向にあることからも、それぞれの家庭における教育のあり方が問われる状況にある。若者には夢や目標を抱きにくいとする風潮があり、青少年を育成する地域力の低下も拍車をかけている。このような状況下にある青少年は、将来同じ家庭生活を再生産させる危険性が高く、よりよい家庭生活を築けるとは言い難い。したがって、青年期には将来のライフプランを多様な角度からしっかり考えさせる教育が必要であり、それは家庭科教育に求められると考える。以前鈴木らは、小学生を対象に家庭生活に関する認識の変化を10年ごとに比較した。その結果、小学校の段階では親子の関係が密接であり、さらにコミュニケーションの割合も高いことがわかった。そこで本研究では、青少年の意識の中に上記のような家庭に依存する意識が薄れ、親子の関係がいつ頃から希薄になっているのかを調べるため、中・高校生に家庭生活に関する意識調査を行った。その結果から問題点を明らかにし、それを改善させるために、どのような実践的教育課題が有効であるのかを考察した。
    【方法】高校生の家庭生活の過ごし方と、その意識を把握するためにアンケート調査を行った。さらにこれらを中学生と比較した。調査対象校は、富山市の南西部に隣接する婦負郡婦中町の高等学校1校とそこに隣接する中学校1校を選定した。発達段階の差が顕著になるように、それぞれ2・3年生を対象にした。調査方法は、2001年9月に日本家庭科教育学会が全国規模で実施した調査「現代の子どもたちは家庭生活をどう見ているか」を参考にした。さらに、祖父母の存在が家庭教育に影響を与える可能性も高いと考えられるため、高校生をとりまく家庭環境についても調査した。調査時期は2002年5月、クラスごとの集団質問紙法によって行った。なお、これらはSPSSで集計し、χ2検定により有意差検定を行った。
    【結果】アンケート調査の結果、次のことが明らかになった。(1)休日の過ごし方は、中学生に比べて、高校生は家族と過ごす時間が少なく、約10%しかいない。(2)休日一緒にいたい人は高校生で「友人」を望む者が80%にのぼる。「母親」を望む者は高2で7.3%、高3では4.2%と低い。(3)一緒にいて安らぐ人や悩み事を相談する相手は、中・高校生共に「友人」である。特に高3ではその割合が高く72.3%であった。(4)自分の身の回りのことについては、中学生も高校生も70%以上の生徒が自分の部屋の掃除をよく行っていた。(5)家庭生活に望むことは、「十分な休息」と「好きなことをしたい」と回答した生徒が多く、高校生ではその合計が80%以上だった。以上のことから、家族と孤立する時期は高校に入ってからであり、家族からの教育や価値観を受け入れることができない状態にある。しかし将来理想とする家庭像については、親子とのふれあいが多く、何でも分かり合える親子関係等の希望を挙げていた。すなわちそれは、現在の生活の形とは違う家庭を望む高校生が多く、40%以上を占めていた。そこで家庭科教育として?の結果を基に家族と積極的に関わる課題を与えることが必要であると思われる。実際に授業で自分以外の家族の状況を知り、家族・家庭のあり方を模索する機会を与えることが重要である。家事労働等の実践的課題を通して会話を増やすことは家族との信頼関係を深めるのみでなく、自立支援をしながら将来の家庭を創造する過程で最も近道であると考える。
  • 荒井 紀子, 神川 康子, 鈴木 真由子, 得丸 定子, 松岡 英子, 綿引 伴子
    p. 43
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】北陸地区家庭科カリキュラム研究会では、2000年4月以降3年間にわたる研究成果を『生活主体を育む家庭科カリキュラムの理論と実践』としてまとめ、報告書として発行した(2003年6月)。その第1部で述べているように、研究の総括的な目的は「生活のさまざまな問題に主体的に取り組む子どもの自立力や問題解決力を育む家庭科カリキュラムについて、理論的な枠組みを構想、提示するとともに、枠組みに沿った授業開発を行い、理論と実践をつなげた包括的なカリキュラム研究を試みる」ことである。具体的には、カリキュラムに関する先行理論研究や授業実践の問題点を抽出したのち、北陸地区独自のカリキュラム構想の理論的整理を行った。さらに、そのカリキュラム構想に沿った授業プランの作成、授業の実践、授業の振り返りを実施し、カリキュラムの整合性を検討した。研究会では、理論の実践化とともに、実践の理論化、すなわち実際に行った授業そのものを対象化し、学習課題との関係等についても検討した。本報告では実践した授業を分析し、その理論的な意味付けを試みることを目的とする。
    【研究方法】(1)分析対象 分析の対象は、「?個人・家族の発達と福祉」に関わる11実践(小学校2実践、中学校3実践、高等学校6実践)と、「?生活資源と暮らしの営み」に関わる8実践(小学校1実践、中学校5実践、高等学校2実践)の、合計19実践である。2)分析の視点 分析の視点は、?学習課題、?育てたい能力、?学習の視野と深まりの方向性の3点である。設定した学習課題は、「A生活を自立的に営む」「B生活に主体的に関わる」「C平等な関係を築きともに生きる」「D生活を楽しみ・味わい・つくる」の4つのコンセプトで、何を重視したのか整理した。育てたい能力は、「技術・技能」「認知」「情意」の3項目について、授業前の計画段階における想定と授業後の結果を比較した。また、学習の視野を縦軸に、学習の深まりを横軸に学びの構造図を作成し、授業の方向性を確認した。
    【研究結果】学習課題については、「?個人・家族の発達と福祉」に関わる実践はA・Cを、「?生活資源と暮らしの営み」に関わる実践はA・Bをメインに設定する傾向にあった。育てたい能力については、“話し合い”や“インタビュー”のように、授業方法に採り入れたスキルとの関連で「技術・技能(コミュニケーション力)」を捉える実践が多かった。また、?ではすべての実践で「情意」が重視されていたが、?では、その傾向はみられなかった。「認知(理論的思考力)」の育成は、?では収集した情報や話し合いの結果を応用した力として、?では消費者教育的内容として重視されていた。授業前後を比較すると、?に関わる実践は相対的に変化する傾向がみられた。中でも、「情意」を重視した実践における変化が目立った。自己理解や他者への関心・受容といった「情意」の育成を目指した実践では、児童・生徒の実態を捉えながら柔軟に授業をつくりかえている様子がうかがえた。学習の視野は、「自分自身や日常のくらし」から「他の人・地域・社会的問題」へ、もしくは両者を往復させる方向で展開する例が多かった。
  • -自己評価の効果の探索的検討を通して-
    内藤 利枝子, 鎌野 育代, 伊藤 葉子
    p. 44
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    目的
    本研究はすでに平成13年5月~14年3月に実践したアクションリサーチの続編にあたる。前回のアクションリサーチでは、教師の目標や評価基準を提示した上で生徒の自己評価活動を進めていくことの効果が示されたと同時に、問題点も明らかにされた。そこで、今回は生徒個々が目標をもって自己評価活動を展開していくような様式を用いることとした。本研究では、前回から今回のアクションリサーチの実践へと発展していく過程や、今回の自己評価様式への取り組みにおける教師の省察過程を報告することによって、アクションリサーチを通しての教師の学びの過程を明らかにすることを目的とする。また、この目的を果たすために、継続して取り組んできた生徒の能動的・自律的な学びにおける自己評価の効果についての探索的検討から得られた知見も示していく。
    方法
    前回のアクションリサーチでは、1年間の保育学習において3人の教師がそれぞれの自己評価様式を用いた後、数回の研究会を設け、問題点を確認した。
    今回は、そのうちの2人の教師と研究者によって共通の自己評価様式を開発し、生徒の学びの過程に関する資料の収集方法を決定し実践した。対象とした授業は、衣生活に関する授業のなかのアームカバー製作(中1対象・全7時間)と保育に関する授業のなかの絵本製作(中3対象・全12時間)である。生徒は、それぞれ最初の授業で個々の目標をたて、製作に取り組んでいった。製作過程における形成的自己評価や教師・仲間からの評価、生徒個々のたてた目標に対する最終的な自己評価が記録として残るような様式の自己評価表を用いた。教師が生徒の学びをもとに研究会で話し合ったり、省察していくための資料を得るために、この自己評価表のほかに、授業前後に質問紙調査・面接調査(自己評価表や質問紙調査結果をもとに、自己評価の効果が高いと捉えられる生徒を対象)、を実施した。
    結果
    前回のアクションリサーチによって明らかにされた自己評価の問題点は、教師が目標や評価基準を提示していくことによって、その評価基準の枠内に教師と生徒の学びがとどめられてしまうことであった。その問題点について話し合い、今回の自己評価様式を開発していくなかで、教師が目標とする学力をどのように保障していくのか、生徒個々の能動的・自律的な学びをどのように展開していくのかが焦点化された。二人の教師は言語化することを通して、自分自身の学力観や授業観についてあらためて自覚し、結果的には別々の題材を選ぶことになった。そして、クラスの全生徒が同じアームカバーをつくるという題材と個々の生徒が自分らしさを生かしながら絵本をつくるという題材のそれぞれにおいて共通の自己評価様式を用いることにより、生徒の学びを比較しながら二人の教師が互いに意見交換していった。
    つまり、アクションリサーチの実践を通して、互いの教師が学びを共有することと、教師の個性を尊重した上で固有の学びを発展させることの両方が備わることによって省察が深まることが示された。
    一方、自己評価の効果については、生徒自身が自分の目標をもつことにより、能動的に自律的に製作していくという自覚をもてること、製作過程における自己評価と教師や仲間からの評価との相互作用が製作品を完成させる動機づけになること、自己評価活動の効果が高いと捉えられる生徒の自己評価過程には共通の傾向が示唆されることが明らかになった。
2004年例会口頭発表
  • -家庭科教育学会全国調査から今後のあり方を考える-
    表 真美
    p. 45
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    目的
    「家族は食の分配集団」(石毛直道1982年)と言われ,ホームドラマや挿絵でよく目にする家族団らんの食卓風景は健全な家族の象徴となっている。しかし,近代日本における日常の家族の食事は,銘々膳を用いた個人的な営みであった。戸主や時間のあるものから行われ,会話が禁止される食事から,家族の会話のある食事への転換は,第2次世界大戦後に見られる。それから半世紀を経た現在は,単独世帯の増加,家族生活の個別化により家族の食事が減少し,孤食の時代といわれている。『心のノート』などのように,食卓での家族団らんを強く推奨する例がある一方,家庭科教科書において70年代から80年代にかけて強調されていた食卓での家族団らんは,現行では大きく取り上げられなくなっている。さらに,「かつて団らんがあったかのごとく思いこもうとする社会心理,あるいは,これからも団らんし続けなければならぬと思いこむ強迫神経症的な社会心理」を「団らん信仰」を呼び,食卓での家族団らんを批判する声もある。家制度にかわって家族の絆を結ぶものとして登場した食卓での家族の団らんは,なくなってしまうのか。それともこれからも家族をつなぎとめるものとして,残していくべきなのか。
    本報告では,家庭科教育学会全国調査のデータを用いて,1)家族の食事の共有が子どもの生活態度の及ぼす影響,2)家族の食事の共有に影響を及ぼす要因について明らかにし,今後の食卓での家族団らんに関する教育のあり方についての示唆を得ることを目的とする。
    方法 日本家庭科教育学会全国調査「家庭生活についての調査」(2001)を用いて2次分析を行った。全国の小学校4・6年生,中学校2年生,高等学校2年生合計11,142名すべてを分析対象とした。
    結果 分析により得られた知見は以下の3点にまとめることが出来る。
    1)家族の食事の共有と人間関係の能力との関連を知るために,「朝食を誰と食べるか」「夕食を誰と食べるか」を独立変数に,人間関係関連4項目を従属変数として一元配置分散分析を行った結果,すべてに有意差が見られ,いずれも家族と一緒に食事をしているほうが,人間関係に関する実践の頻度が高かった。
    2) 「朝食を誰と食べるか」「夕食を誰と食べるか」を独立変数に,生活態度として,家事頻度,「もっと上手にできるようになりたいこと」,「もっとすすんでするようにしたいこと」,「帰ったときの気持」,「家庭生活を楽しくするための一番大切なこと」,家庭科の学習,および「これからの生活でどのくらい大切にしたいか」を従属変数に,χ二乗検定法によるクロス検定集計を行った結果,いずれも有意差がみられ,現在の生活態度はおおむね家族と一緒に食べている子どものほうが積極的な態度を示していた。
    3)どのような家族・どのような子どもが食事を家族と一緒に食べているのか明らかにするために,「家族みんなと一緒に食べる」を1,それ以外を0として2項ロジスティック分析を行った結果,低学年・男子・朝出かけるまでの時間が長い・母が食事作りをよくする・父が食事作りをよくする・夕食を家族みんなと一緒に食べるこどもが朝食を家族みんなと一緒に食べていた。また,女子・家族の人数が多い・母が食事作りをよくする・父が食事作りをよくする・父の仕事の拘束程度が低い・朝食を家族みんなと一緒に食べる子どもが夕食を家族みんなと一緒に食べていた。家族みんなで食事を食べる子どもは,人間関係に関する家事の頻度が高いこと,また,積極的な生活態度をとっていること,さらに,朝食を一緒に食べる家族は,夕食も一緒に食べていること,父親・母親が食事作りをよくする家族が,家族一緒に食事をしていることが明らかとなった。食事を大切にする意識をもつことにより,食事以外の生活も積極的な態度で臨む結果につながっていると考える。この結果を見る限り,食は家族をつなぎとめるために有効に働く可能性があるといえる。
  • ―ダイエットに関する記述より―
    藤田 智子
    p. 46
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    【研究の目的・背景】
    「食育」という言葉の流行や栄養教諭の設置など、栄養の知識を身につけることが重要視されている。さらに、自己の食生活に対して意識的に行為できる力、すなわち意思決定能力を身につけることも必要とされている。高校生では、自己と食生活の関わりにおいて、自分自身に直接関係することに価値をおく傾向が高く、学習したい内容として「ウェイトコントロール」が挙げられることが明らかにされている(佐藤・山中 1994)。家庭科教育の中で自己の「食生活をみつめる」際に効果的な方法を考察するため、女子高校生がどのように「ダイエット」を認識しているのか、高校1年生で食物を学んだ後のレポートを分析する。
    【研究の方法】
    対象は東京都内の私立女子高校に通う高校1年生122名である。家庭総合の食物分野を教科書(実教出版『家庭総合』)にそって授業を行った(2003年10月~2004年3月)。授業の最後に、「食生活」に関する新聞記事を読ませ、「特に自分が関心をもった点を記述した上で、自分の食生活を振り返ること」を課題とするレポートを提出させた(有効回収数91件)。そのレポートをKJ法によって分析した。配布した新聞記事:「食大全 第六部 ダイエットしますか?」?~?(?「理想体形」という幻想20代女性2割が低体重 ?やせすぎは「慢性飢餓状態」・健康には「普通体重」 ?人口甘味料の落とし穴ノンカロリー「ゼロ」ではない ?断食やめれば元に戻る・自分の体と向き合う機会 ?必ず起こるリバウンド」・生命維持機能活動の証拠 ?エステで本当にやせる?・効果は「施術」より日常生活 ?アミノ酸に大きな誤解・飲むだけで脂肪は燃えない ?問題多い「効果食品」・無理な制限、健康障害も ?増え続ける小学生の肥満・食生活の変化も一因)産経新聞朝刊 2003年10月1日~9日。「怖い思春期の過激ダイエット 骨粗しょう症の危険性も」東京新聞朝刊 2003年11月7日
    【研究の結果】
    レポートの内容のうち、ダイエットに関する記述をKJ法により分類した結果、以下の7つのカテゴリーに分かれた(なお複数のカテゴリーわたる内容のレポートは重複してカウントしている)。〈ダイエットに関係する商品表示やマスメディア情報〉(52名) 商品の表示やマスメディアからの情報を誤信していたことに気づいたという記述が中心(33名)であるが、情報リテラシーが必要(17名)、表示改正が必要(2名)という記述もあった。〈「良い」ダイエットと「悪い」ダイエット〉(25名)摂食障害など心身の健康を害する「悪い」ダイエットに対し、「良い」ダイエットとは「健康的」に「努力と自己管理」であり、「良い」ダイエットをすべきであるという記述である。〈心身の健康とダイエット〉(25名)ダイエットよりも「体が健康であること」「内面の美しさ」の方がより重要だだという記述である。〈痩身願望の肯定と否定〉(36名)「女性」「思春期」「流行・時代」を理由に痩身願望を抱くことは当然である、痩せている方がやはり良いという「痩身願望を肯定」する記述である(28名)。一方、現代のダイエットブームや過剰な痩身志向への疑問も述べられていた(8名)。〈自己のダイエット経験と評価〉(13名)自己のダイエット経験、ダイエットへの強い興味に関する記述である。〈友人のダイエット経験と評価〉(2名)友人が過剰なダイエットをしてぼろぼろになるのをみた経験があるという記述である。〈自己理解とダイエットの必要性の判断〉(5名)「自分のことをもっと知ればダイエットが必要か判断できる」「今は必要ない」「痩せることが幸せにつながるわけではない」といった、ダイエットをすることと自己理解を関連付けた記述である。
    【考察】ダイエットに関係する商品表示やマスメディア情報に関する記述が最も多かった。情報の誤信に気づいたことから、情報リテラシーの必要性を考えた者もいた。体を壊すような「悪い」ダイエットではなく、「健康的」なダイエットを行うべきである、心身の健康のほうがダイエットより重要であるといった、比較的教科書の内容に近い記述もかなり多かった。だが、なぜダイエットが必要なのかは考えられていなかった。心身の健康が重要であると考える者は、痩身願望に対して否定的であった。一方で、痩身願望を肯定する意見を持つ者は、ダイエットの危険性をあまり考慮していなかった。自己のダイエット経験からは痩身願望を肯定する意見と否定する意見に分かれたが、友人の経験を目にした者は、否定的な意見であった。自己を理解することによって{当に自分にとってダイエットが必要なのかlえた生徒は、その前段階に、商品表示やマスメディア情報に関する記述を誤信していたという気づきがあり、誤信に気づいたことが自己理解の必要性へとつながっていた。
  • 河村 美穂
    p. 47
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    <目的>調理実習は、家庭科教育の食生活領域の中で多く実践され、児童・生徒が「楽しい」と感じる学習である。また、調理実習は友人と協力してつくることの楽しさのみならず、自分でつくることができたという自己肯定感や、その後の調理に対する意欲・関心を育むことができる体験である1。
    一方で家庭科教育の長い歴史においては、調理技能の定着は重要な目標とされてきており、調理実習において習得した技能はそのまま日常生活で有用な技能とされてきた。しかし現状では調理実習での技能の定着は目指されながらも困難な状況にあり2)、「総合的な学習の時間」で多く取り入れられている「つくってたべる」学習との違いも明確にはされていない。そこで、本研究では家庭科教育において調理実習がどのように位置づけられているかをあきらかにし、学校教育の教科教育の中で調理実習を行う意味について考察する。なかでも、新学力観が提唱されて以降、技能を習得することよりも単なる楽しい体験として学習者に捉えられることの多い調理実習について再考を試み、さらに近年の栄養教育との関連からもその意義を再検討することを試みる。
    <方法>主に1989年以降に日本家庭科教育学会誌に掲載された調理実習に関連する研究論文を概観し、調理実習が家庭科の中でどのように位置づけられているかを考察する。なかでも、調理実習における技能の習得について、その目的とともにどのように論じられているのかを検討する。また、近年の栄養教育において、調理がどのように捉えられているのかを代表的な著書を中心に検討し、食に関する多くの課題がみられる現状において、調理を学ぶということがどのような意味を持つのかを考察する。
    <結果>新学力観が提唱されるようになって以来、子どもたちの「関心・意欲・態度」をどのように育むか、その評価をどうするかという問題が家庭科教育においても争点になってきた。それは、学力の捉えなおしが論議されるなか、家庭科教育で育成する力(学力)とはなにかがあきらかにされないままになっているからである。この状況は調理実習に関する研究においても同様であり、調理実習で身につけるべき力(学力)は明確にされていない。このことは、家庭科教育における調理実習に関する研究において「技能」があいまいに定義されたままであることや、一方で「包丁をつかって切る・むくことができる」「野菜サラダをつくることができる」というように、「技能」が具体的・限定的に捉えられていることからもあきらかである。また、調理に関する技能の定着を目的とした場合、多くの研究では学習の効果をできる―できないという二極で捉えているが、時間数が限られた家庭科の授業で一定の技能が「できる」ようになることは困難であることは多くの教師が実感する現実であり、そのような現状に即して「技能」を捉え直す必要がある。
    さらに、近年の栄養教育においては栄養に関する知識の定着とスキルの習得は目標とされているが、調理に関する技能についてはほとんど言及されていないことがわかった。
    1 河村他「調理実習における問題解決的な取り組みに関する実践的研究」日本家庭科教育学会誌第46巻3号p253
    2) 川嶋他「調理実習における学習目標に対する教師の意識」日本家庭科教育学会誌第46巻第3号p220-222
  • 雙田 珠己, 鳴海 多恵子
    p. 48
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    【目的】著者らは今までに、肢体不自由がある人の衣生活についての研究を行い、障害の重さは、衣服や衣生活に対する意識構造には影響しないことを明らかにしてきた。そして、肢体不自由がある人の衣生活観の違いを生み出す要因として、子どもの頃から家庭や学校で、衣生活に関する教育を受ける機会に恵まれたかどうかが影響していると考えた。そこで、本研究では、肢体不自由養護学校における衣生活教育の授業のあり方を検討することとし、養護学校における家庭科教育の現状を調査によって把握した上で、授業計画の作成を試みた。
    【方法】都立肢体不自由養護学校14校の中から2校に協力を求め、小学部、中学部、高等部に在籍する児童・生徒(2校合計237名)の衣生活観と衣生活教育の授業実施状況の調査を行った。調査は質問紙による留置き法(自記式)で行い、教員が自分の受け持つ児童・生徒全員について、調査票を回答した。調査期間は2002年12月~2003年1月中旬、対象者である児童・生徒数は107名(男子71名66.4%、女子36名33.6%)であった。調査結果を参考に、肢体不自由養護学校における衣生活教育の授業計画を作成した。
    【結果と考察】
    1)肢体不自由がある子ども達の衣服への関心対象者の半数は、着脱時に全面的な介助を必要とする状態にあり、着脱が自立している人は、全体の13%であった。多くの対象者は衣服の快適性、衣服の選択、色の合わせ方に関心と理解をもっていたが、他者の服装への関心は低く、整容に対する意識もあまり高くない結果であった。衣服への関心は、健常者の同年齢の子ども達に比べ低い傾向がみられた。
    (2)肢体不自由養護学校における衣生活教育の現状肢体不自由養護学校では、衣生活に関する学習を自立活動の授業と家庭科の授業で行なっていた。自立活動の授業内容には着脱の練習などがあり、機能訓練の一つとして扱われていた。家庭科の授業内容では、染物や手芸を中心とした製作学習が発達段階と関係なく重視される傾向にあり、装い方(着装)や衣服購入に関する内容はほとんど扱われていなかった。
    (3)衣生活教育の授業計画の作成現状では着装や衣服の購入に関する学習はほとんど行われていなかったが、その必要性を認める教員は多く、生徒の衣生活の質を向上させるためには、障害の重さに関係なく、全ての生徒が自分の意思で衣服を選択できる力を身につけることが重要と考えられていた。そこで、中学校家庭科「日常着の活用」を対象単元とし、衣服の選択や購入の際に自己決定する力を養うことを目的とした10時間の授業計画を作成した。本授業計画の学習内容は現行の学習指導要領に基づいて、T.P.O.の理解、衣服の色や形の調和と着方によって人に与える印象が異なることへの理解、自分らしさを生かす着装の工夫などを取り上げた。また、日常着の計画的活用では、衣服の購入体験学習を取り入れ、日常生活での実践につながることを図った。今回、対象者の特徴を考慮した学習目標として、「着脱における動作的特徴を理解する」、「身体的特徴と衣服の適切な関係を理解する」、「自分の身体に合わせて衣服を修正する方法を考える」を独自に設定した。これは、生徒に障害と衣服の関係を理解させる新しい視点であり、生徒の衣生活の「質」を向上させるために必要な内容と考えた。
  • 吉井 美也子
    p. 49
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
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    【目的】今日の大学生は、多様化する生活環境の中で、自立できていない状況にあると指摘されている。家庭科教育は、自立の力を養うことを重要な目標の一つとしており、関連する研究もこれまで多数行われてきた。 一方謐s研究によれば、依存心が強いほど自尊心が低い傾向にあり、自尊心が低いほど孤独を感じやすい傾向にあると言われている。これらの結果と自立度とは何らかの関連があると推測されるが自立と、依存心、自尊心、孤独感の関係性は明確に捉えられていない。そこで、本研究では大学生の自立の実態を把握するとともに、自尊心Sや孤独感との関わりについて明らかにすることを目的とする。本報では、回答者の基本属性と実態調査の基礎的な結果について報告する。
    【方法】北海道、甲信越、北陸、関東、中国地方に存在する5大学を選び、教員養成系学部に在籍する大学生に対して、質問紙法による自記式アンケート調査を実施した。調査期間は平成16年7月から8月であり、各大学に委託した調査票600票のうち、469票回収できた。そのうち、有効サンプルは455票で有効回収率は75.8%であった。分析に用いた主な調査項目は、基本属性のほか、?自立の実態、?依存心、?自尊心、?孤独感、?意思決定スキルで、計90項目について「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「ややあてはまらない」「あてはまらない」の5段階で回答を求めた。その他、?家庭科における関連内容の学習経験等についてもたずねた。なお、解析用統計プログラムSPSSを使用した。
    【結果】 回答者の年齢は、18歳から30歳(平均19.8歳)の455名で、男性188名(41.3%)、女性267名(58.7%)であった。居住形態は、下宿・アパートが6割弱を占め、寮及び自宅はそれぞれ約2割であった。また、携帯電話の所持率はほぼ100%であった。
    ?経済的、生活的・性的自立について毎月の携帯電話料金を全額親が支払っている割合が7割を越え、全額自分で支払っている割合の3倍以上であった。また、1ヶ月に必要な生活費は、およそ2/3の学生しか認識しておらず、「お金を計画的に使う」と回答した学生は半分以下にとどまった。家事の実施率(衣類の整理、食事作り、自室の掃除)はそれぞれ86.1%、68.1%、36.0%で、最も実施率が高かったのは衣類の整理であった。また、性交渉の経験がある学生のうち、積極的に避妊を行っている学生は8割強であった。
    ?依存心について アルコールやタバコ、薬への依存は1割弱であったが、携帯電話に関しては1/4の学生が「外出時に携帯を忘れると不安である」と回答しており、携帯電話への依存は相対的に高いと考えられた。また、約6割の学生は買い物への衝動的な欲求を示した。 家族や友人への依存に関しては、それぞれ6割弱の学生が依存意識を持っていた。
    ?自尊心について 自尊心に関するどの項目も、肯定的な回答が多く、自尊意識は全体的に高い傾向がみられた。「もっと自分を尊敬したい」に関しては、相対的に低かった。
    ?孤独感について全体の過半数の学生が驍鬟と回答し、最も多い場面は「友人に対しての劣等感」であった。また、「他の人たちから孤立している」、「自分をよく知っている人は誰もいない」、「社会的なつながりは上辺だけのものである」と感じている学生も、1割弱ではあるが見受けられた。
    ?意思決定スキルについて 意思決定スキルの自己評価は、全体的に5割~6割程度が肯定的な回答であった。特に、「自分が決めたことに責任を持つ」に関しては7割を越えた。反対に、「どこに問題があるか見つけることが出来る」に関しては3割程度にとどまった。
    ?家庭科における学習経験について アイデンティティ、自立、意思決定、家族や友達との付き合い方に関する学習経験は、いずれも過半数を超えた。特に、自立に関しては7割以上の学生が家庭科で学習経験をもっていた。アイデンティティに関しては、1割弱の学生が他教科(特に倫理)で学習経験があると回答した。今後は、東海、近畿、四国、九州地方の学生に対して実施した調査データを追加し、詳細な分析を行う予定である。
  • -中・高等学校家庭科におけるFlour Baby Projectの実践と検討-
    三浦 聖子, 原田 省吾, 佐藤 ゆかり, 佐藤 園
    p. 50
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的 本継続研究の目的は、保育学習において、全ての生徒が乳幼児との関わりを経験する中で自分が親になるということを考え、自己理解を図る家庭科授業の開発にある。その教材として、米国のミドルスクールとわが国の大学生に実践された“Flour Baby Project”(以下、FBPと記す)に着目し、第1報ではわが国の中学校、第2報では高等学校においてFBPの実践を行い、Flour Baby(以下、FBと記す)の教材としての有効性とFBP実践の意義を検討した。
    その結果、FBは生徒が強い興味・関心を持つことができる教材であり、FBPを通して、生徒が自分の成長と家族との関わりを考えることができることがわかった。本発表では、FBPを中・高等学校家庭科の保育学習に投げ入れ単元として位置付け実践し、その有効性を検討することを目的とした。
    2.方法
    (1)実践の概要岡山大学教育学部附属中学校の選択教科「技術・家庭(家庭)」の履修生(第3学年女子16名)と、新潟県立長岡大手高等学校の専門科目Bと保育囂C生(第2学年女子40名)を対象に、各教科・科目の最初にFBPを位置付け、それぞれ家庭科担当教諭が以下の実践を行った。
    (2)実践結果の検討:実践記録に基づき、中・高等学校家庭科の保育学習におけるFBPの投げ入れ単元教材としての有効性を検討した。
    3.結果(1)BJ記述結果から、中・高校生は「世話に伴う様々な大変さ」、「FBに対する愛着」を共通して獲得し、もしFBが本当の赤ちゃんだったとしたら、どのように養育するべきであったかという「養育態度の反省」を記述していた。それに加えて中学生は「将来の自分」に関する認識、前回(第1報)の実践では獲得できていなかった「家族の協力の必要性」を、高校生は「家族や他の人の協力の必要性」、「子どもが育つ環境としての家族」、「親に対する思い」を獲得していた。中学生は家庭科授業時間内でしかFBの世話をすることができず、家庭で世話をした日数も短かったため、高校生のように、友人や他教科の教師、地域の人などの第三者との関わりはなく、その協力の必要性を感じるまでには至っていなかった。そのため、家族を単に子どもを預かってくれる存在としか捉えていなかった。
    (2)以上から、家庭科の授業でFBPを実践することで、eの役割・保育責任Aqどもを生み育てることの意義l得することが可能であり、それを保育学習の最初に位置付けることで、保育学習を自分の問題として捉えていくことができると考えられた。しかし、それには、米国のミドルスクールで実践されていたFBPのように、数日間連続してFBの世話をし、ディスカッションを行うことが不可欠な条件となることが把握された。
    (3)今回は、選択教科、専門科目での実践であり、対象者が女子のみであった。今後の課題として、中学校の必修教科、高等学校の普通科目にFBPを位置付け実践した場合の有効性と男子に対する実践結果の検討をしていくことが必要となる。
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