日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第51回大会・2008例会
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日本家庭科教育学会第51回大会
口頭発表
  • 増渕 哲子
    セッションID: A1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
     研究目的

     1994年に高等学校家庭科の男女必修が実現し、長く続いた“女子用教科”としての家庭科の性格付けは、表向きは払拭されたと言えるだろう。女性差別撤廃条約第10条にある「男女の役割についての定型化された概念の撤廃」に資する教科の筆頭に、こんにちの家庭科はあげられるはずである。では男女が性別にとらわれず共に生活を担うために、家庭科の教師教育において留意すべきはどのような点であろうか。
     大学の教師教育カリキュラムにおける教科の指導法に関わる科目では、文字通りの方法論としての学習指導法を取り上げるばかりではなく、どのような教師であるかに注目させる必要があると考えるが、本報告では、教師教育の受け手である教員養成大学生の性役割意識の特徴を明らかにしながら、求められる家庭科教師教育について考察していく。

     調査方法

     H大学おいて2005、2006、2007年度後期に開講した「小学校家庭科教育法」(2単位)の受講学生を対象として、講義開始時に女性の就労と子育てに関連した性役割意識を問う自記式質問紙調査を実施した。各年度の調査対象者数は次の通りである。なお受講学生の学年は、いずれも2年生以上である。
     2005年度調査(2005.10.3実施) 206名(男82名、女124名)
     2006年度調査(2006.10.2実施) 157名(男61名、女 96名)
     2007年度調査(2007.10.1実施) 222名(男87名、女135名)

     主に次の点について質問項目を設定した。
    ・女性の就労についての考え方(職業の継続についての考え方、中断する場合の理由、再就職時の就労形態等)
    ・母親と子育てについての考え方(3歳児神話の知識の有無と共感度等)
    ・幼稚園と保育所の捉え方(乳児、幼児を預けることについての考え方等)

     調査結果

     3回の調査結果の全体的傾向は次の通りである。
    1.女性の就労についての考え方では、子育て後の「再就職」を望む回答が最も多かった。この場合の就労中断理由は、「母親は子どものそばにいるべき」という子育てをめぐる母親役割と強く結びついていた。また再就職理由については、男子学生に経済的理由をあげる者が多く、これに対して女子学生は生きがいや職業への希求をあげ、再就職時の就労形態も正規雇用を望む者が多かった。
    2.母親と子育てについての考え方では、「小学校入学前の母親は子育てを優先すべき」に共感する者が多かった。また「3歳児神話」については、これに共感する者、共感しない者がほぼ同数であった。
    3.約7割の学生が幼稚園への通園経験者であり、保育所経験者は約2割であった。幼稚園と保育所の捉え方に関して、特に幼稚園は「子どもの発達に良い影響を及ぼすのでぜひ預けたい」と回答する者が多かった。
  • 10年間をたどって
    堀内 かおる
    セッションID: A1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】1994年の新1年生から高等学校家庭科がすべての生徒に必修となり、すでに14年目を迎えた。この間、制度上は家庭科を男女生徒が共に学ぶのが当然のこととなり、男女共同参画基本計画に「家庭科教育の充実」が記された。家庭科を学ぶ生徒の意識からは、男女で家庭科を学ぶ違和感は概ね払拭されている。しかしながら、家庭科を教える教師の側に目を向ければ、家庭科担当者は圧倒的に女性である。文部科学省「学校教員統計調査報告書」(平成16年度)によると、高等学校で家庭科を担当する男性教師の占める割合は、男性教師全体の0.1%に過ぎず、この割合は同調査で平成10年度0.2%、平成13年度0.1%と推移してきており、男性の家庭科担当者はむしろ減少傾向にある。大学の教員養成課程で学ぶ学生の中で家庭科を専攻する男子学生の数も、皆無ではないが依然として極めて少数である。「男女で学ぶ家庭科」が浸透しても、「男女で教える家庭科」には程遠い現状である。
     1990年代の「男性家庭科教師」に関する新聞報道を分析した佐藤(2004)によると、1990年代の男性家庭科教師は、「新しい家庭科」の象徴的存在であった。男女共同参画の担い手としての役割を期待された、新しい男性像であった「男性家庭科教師」という存在は、その後、普及しないまま現在に至っている。
     そこで本研究では、約10年間、高校で「男性家庭科教師」としてのキャリアを蓄積してきた一人の男性教師に着目する。そして、この男性教師の10年間の家庭科教師としての歩みから、教師としての自己形成のプロセスを明らかにし、高等学校における「男性家庭科教師」の存在について意味づけることを本研究の目的とする。
    【方法】一人の「男性家庭科教師」(2008年現在30代)に対する、半構造化されたインタビューをこれまで5年ごとに3回、実施してきた。この教師の匿名性保持の理由から、調査実施年を初回199X年(22歳)、第2回200Y年(27歳)、第3回200Z年(32歳)とする。インタビューの時間は1時間から1時間40分、初回は家庭科教師を目指す大学生の時であった。この男性の「家庭科教師」としての歩みをインタビューから把握し、現在に至るまでの意識や立場の変容について分析・考察した。
    【結果及び考察】高等学校で家庭科を履修していないこの男性教師は、なぜ家庭科教師を目指すのかというと「やっていないことに対するあこがれなのかもしれない」と述べた。大学で初めて家庭科関連の専門科目を学び、その面白さに目が開かれたことが、家庭科教師を目指そうと思った動機だった。また、当時の大学の教師から、「男性の家庭科教師、いいじゃないですか。これから増えると思いますよ」と言われたことが、進路を決めるきっかけになったと後日語っている。実際に教師として家庭科を教えるようになってから、当初は家庭科指導よりも部活動の指導に重点を置き、校務分掌で広報部配属となり、「男性家庭科教師」という肩書で学校の広報・宣伝に一役担うことが期待されたと自覚していた。10年目になって初めて、「家庭科」という教科と正面から向き合うようになり、時代の流れに即した家庭科の在り方を志向するようになった。時間数減を嘆くのではなく、限られた時間の中で、今生徒に伝えるべきことは何か考え、生徒自身が「自分だったらどう考えるか」を問い直す授業を行いたいと思っていた。
     また、学級担任をするようになり、生徒に対して以前よりも多くの選択肢を提示し、経験を踏まえた助言ができるようになったと述べた。10年を経てこの教師自身が自分のこれまでの家庭科教師としてのキャリアを省察し、自分の人生として「論理的」に述べられるようになっていた。そして、男性家庭科教師が増えていない現状について、「社会がそうさせてないところもあるかもしれない」と指摘し、潜在化するジェンダー秩序が示唆された。
  • 向谷地 愛子, 佐藤 文子
    セッションID: A1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    1.研究目的
     男女共同参画社会をめざす中で、女性の社会進出が一層進み、その働き方も多様化してきた。このように、女性の存在が社会で認められる一方で、子育てと仕事の両立の問題、非婚化・晩婚化等がクローズアップされてきた。そのため、男女共に職業を決める時に、仕事の内容だけでなく、育児などを視野に入れて考える必要性がある。また、職業選択時に影響を及ぼす要因の中で主要なものとして、親又は親に代わる者の存在が挙げられる。(尚、これ以降、親又は親に代わる者を親として記述する。)そこで、親の養育態度と職業意識や育児観の形成との関連性を追究し、親になる教育について追究することを本研究の目的とした。 2.研究方法
     アンケート調査は質問紙留置法、調査対象は国立大学生の男女240名、調査期間は2007年7~11月であった。
     調査内容は親の養育態度が民主的な項目、支配的な項目、保護的な項目、冷淡・拒否的な項目、未成熟な項目、その他子育てに関する項目、自立意識に関する項目、食事に関する項目、仕事に関する項目等計108項目、記述項目4項目を設定した。
    3.結果と考察
    (1)属性による比較
     性別による比較において、男子より女子の方が子育て意識、食事を大切にしたいという意識が高いことが明らかになった。また、女子は子育てのことも考えた上で将来的展望を持っており、男子は自分が家族を養いたいという意識が高い傾向が認められた。
     学年、専攻、出身地、きょうだいの有無の別による子育て意識や食事に対する意識との関連性は認められなかった。
    (2)親の養育態度の類型別の比較
     親の職業意識を参考にするか否かにおいて、参考にする割合は、親の養育態度の類型のうち、保護的が突出して高く、順に支配的、民主的のみ、民主的、冷淡拒否的、未成熟と続いている。これより、保護的、支配的は子どもに干渉し、自分の子どもに進むべき道を示すために参考にする割合が高いと考えられる。また、民主的な親の子どもは親の働く姿や考え方等の職業意識を継承する割合が比較的高く、冷淡・拒否的、未成熟、その他の親の子どもは継承する割合が低いことが認められた。以上のように、養育態度の類型によって、職業意識の継承の有無は異なることが明らかになった。
     親の養育態度を参考するか否かにおいて、民主的の親が突出して高く順に支配的、未成熟、保護的、冷淡拒否的、その他と続いている。これより、民主的な親は95%以上から育て方を支持されており、その他の養育態度の親を持つ大学生は育て方に満足している者は民主的に比べ非常に少ないことが認められた。以上のように、養育態度の類型によって、養育態度の継承の有無は異なることが明らかになった。
    (3)親になる教育
     小学校においては、まずは家族を振り返り、家庭の仕事を認識することを通して、潜在的に親の存在を考えさせておくことが重要である。また、家事など日常生活に必要なことを自分でする楽しさを覚えさせ、男女共に家事を分担する必要性を認識させる授業展開が必要だと考えられる。
     中学校においては、自分のことは自分でできるように生活に必要な知識・技術を身に付け、親から自立することが求められ、親になる教育をする前段階ととらえられている。中学生段階の自分を見つめることに加え、将来的展望の中で家族を考えることにおいて親の存在を見つめる学習が可能となろう。
     高校生は、生涯の生活設計を通して、職業選択の学習をする機会をもっており、その際、まず最も身近な親の姿を参考にすると思われる。そこで、家庭科の授業において実際に親をはじめ身近な人達から仕事と家庭のあり方の話等を聞く機会を設けたり、親の在り方を理論的・具体的に学ばせる必要がある。
    4.今後の課題
     本研究で得られた大学生の職業意識や育児観と親の養育態度との関連性の実態を踏まえて、親のあり方や職業について子どもと親が共に考える授業の展開をさらに追究していきたい。
     また、本研究では子どもの側からの実態把握のみであるので、今後、親自身の養育に対する考え等の実態を把握した上で、子どもの捉え方との相違を追究していきたい。
  • 大畑 順子, 得丸 定子
    セッションID: A1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】平成元年告示の「中学校学習指導要領」を受けて、家庭科男女必修が本格的に始まった。それらの教育を受けた世代が成人式を迎える年になり、家庭科男女必修の教育が家庭観・社会観にどのような変化を及ぼしたのかという情報を得ることを本研究の目的とした。日本家庭科教育学会は男女必修世代に関する教育成果について膨大で詳細な調査を行い、2002・2003年にそれらの結果を発表している。それらは児童生徒の家庭生活に関することや、価値観形成への影響を調査したもので、非常に貴重な資料である。しかし、それらの調査項目には、家庭観や社会観に関する項目は含まれていないため、本研究で取り組んだ。
    【方法】『心理尺度ファイル-人間と社会を測る-』に記載されている社会観・家庭観・宗教観の各尺度を改変引用し、本研究における『家庭観に関するアンケート』を作成後、調査を行った。質問項目は、宗教観10項目、社会観25項目、家庭観15項目等、計55項目5件法(属性を除く)で構成した。実施日は2007年5月~10月で、調査対象は10代~70代の新潟J大学生、大阪府・岡山県を中心とする成人男女である。有効回答率は88%(711人)。統計処理にはSPSS12.0等を用いて因子分析、分散分析等を行った。
    【結果】回答者の年齢層は、10代25%、20代42%、30代6%、40代8%、50代以上18%であった。
    宗教観は人生観に影響を与えると考えられるが、日本人は明確な宗派・宗教を持っている人は少ない。しかし、何らかの宗教的な考えは持っているため、「宗教観」尺度で人生観の基盤を探った。その項目は「信仰を持つことで、安らぎや幸せを感じることができる」、「毎日の生活の中で、自分を磨くことができる」、「心のより所や生きがいとなる」等で構成されている。結果として、詳細な各項目結果では多少多様性が見受けられたが、概して、年代が高くなるにつれて、宗教観が高くなる傾向を示した。
     社会観については因子分析を行い、その結果、5因子抽出され、第1因子「感性・娯楽重視傾向」、第2因子「個人主義・革新傾向」、第3因子「伝統重視傾向」、第4因子「社会的革新傾向」、第4因子「福祉重視傾向」と命名した。第1因子と第2因子では、概して若い世代になるにつれ有意に高い結果を示した。しかし、第2因子の「結婚してもうまくいかないことがあったら、ためらわずに離婚した方がよい」と「夫婦は子どものためではなく、夫婦自身のために生きるべきだ」の2項目については、全年代間での有意な差は全く見られなかった。第3因子では全ての項目について、50才以上の世代がそれ以下の世代に比して有意に高い結果が示された。
     家庭観では、因子分析結果で3因子抽出され、第1因子「性別役割傾向」、第2因子「個人主義傾向」、第3因子「共同関係傾向」と命名した。第1因子では概して年齢が上がるにつれて有意に高い結果を示したが、その項目中で「夫が妻を養うのは当然である」については全世代間で有意差はなく、この問いに賛成する傾向であった。第2因子では「近隣の付き合いは面倒である」「例え家族内の問題でも、みんなで力を合わせて解決することは難しい」の2項目で、世代が下がるにつれて有意に高い結果を示し、「自分の家族のことは、他人には言わない方がよい」については40代以降の世代が有意に高い結果を示した。第3因子では、「家庭内の仕事分担は時間のある人がやるべきである」については全世代間で有意な差はなく、「家庭が病院・福祉施設などと協力・共同関係をつくることはよいこと」については、10代が20代と30代に比べて有意に高い結果を示した。
     紙面の都合上、詳細な結果と考察については、当日、会場で発表を行う。
  • -高等学校家庭科教科書の分析に基づく考察-
    藤田 昌子
    セッションID: A1-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】
    わが国では、1979年に国連で採択された女子差別撤廃条約の批准に向けて、中学校・高等学校の家庭科男女共修の実現へ本格的に取り組み始めた。その結果、学習指導要領改訂(1989年告示)により、1993年から中学校で、1994年から高等学校において、家庭科の男女共修が全面的に実施されることとなった。また、1995年の第4回世界女性会議では、「平等、開発及び平和のための行動」をスローガンに北京宣言・行動綱領が採択され、この行動綱領は、各国政府に1996年末までに国内行動計画を整備することを求め、わが国は男女共同参画2000年プランを策定した。そのなかで、男女共同参画社会の実現には総合的な推進体制の整備・強化が必要であり、そのための基本法の必要が指摘されてきた。これを受け、1999年6月にはあらゆる分野において男女共同参画社会の形成のための施策を総合的・計画的に推進する男女共同参画社会基本法が制定された。2000年には男女共同参画社会基本法に基づいた男女共同参画基本計画が策定され、この基本計画の10項目めのなかで、「家庭科教育の充実」を図ることが具体的施策としてあげられた。こうした男女共同参画社会への実現に向けた政策的な動向は、1998年の教育課程審議会の答申、ならびにそれを踏まえた家庭科学習指導要領改訂にも反映され、家庭科教育が男女共同参画社会の実現のために男女平等の理念を推進する教育として位置づけられたことが明確となった。世界的にも男女共同参画社会の実現に取り組んでいる潮流のなかで、主たる教材である教科書における男女共同参画社会に関する学習内容を整理し、男女共同参画社会を推進するための課題に対応できる教科として、今後の家庭科教育の課題を明らかにすることは重要である。よって、本研究では高等学校家庭科教科書において、男女共同参画社会に関する学習内容の取り扱いを整理し、その現状と課題を明らかにすることを目的としている。
    【方法】
    2007年度現在使われている各出版社の高等学校家庭科教科書「家庭総合」7社10冊において、男女共同参画社会に関連する学習の記述内容の分析を行った上で、今後の男女共同参画社会の実現へ向けての家庭科教育における学習内容の課題を考察した。
    【結果】
    (1)男女共同参画社会、ならびにこの男女共同参画社会を実現するための基本となる男女共同参画社会基本法については、すべての教科書において記述がみられた。しかし、その記述量には差がみられ、男女共同参画社会基本法において、男女共同参画社会の実現を21世紀のわが国の最重要課題と位置付けているのにもかかわらず、このことに触れているのは2冊しかなかった。
    (2)固定的な性別役割分業意識(の見直し)に関してはすべての教科書において取り上げられ、ジェンダーについても9冊の教科書で取り扱われていた。しかし、ワーク・ライフ・バランス社会についての記述は1冊のみであった。
    (3)男女共同参画社会の実現と生活設計との関連からみると、家庭生活と職業生活のバランスを考えて生活設計を立てる学習内容はみられたが、自分の現在の生活を振り返り、今後の生活のなかで自分の生活課題に取り組んでいくという学習内容はほとんどみられなかった。
    今後は、男女共同参画社会の実現への取り組みが自分にとっても社会にとっても重大な課題であることを認識し、高校生が自分自身の身近な課題として取り組むことができるような学習内容にしていくことが望まれる。そして、「男女共同参画社会の推進」は「少子高齢化対策」とも連動しており、これらの対応を図る家庭科教育において、例えばワーク・ライフ・バランスの観点からライフスタイルを考え直し、ジェンダーにとらわれることなく、自己実現に向けて自分らしい生き方をしていくために、一人の自立した生活者として生活設計を立案していく学習内容が求められる。
  • 湯尾 啓子, 湯尾 愼一
    セッションID: A1-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    [研究の目的]
    家庭科教育の目的は男女が共に支え合って日常生活を生き抜く力をつけることであり、そこから生ずる複雑かつ多面的問題に対処できる能力を育てることである。衣食住やものづくりに関する実践的・啓発的な体験活動を通して、家族の人間関係や家庭の機能を理解し、生活に必要な知識・技術の習得や生活を工夫し創造する能力を育成するとともに、生活をよりよくしようとする意欲と実践的な態度を育成することである。基本的生活習慣が身につき、生活技術が獲得できている生徒は、日常の生活体験が豊かである。基本的生活習慣が確立され、生活技術が身に付いている生徒は、将来の生活設計を早い段階で考えることができるのではないだろうと考える。基本的生活習慣・生活技術の獲得と将来の生活設計の関連性について考察する。
    [研究の方法]
    高校生を対象にして、基本的生活習慣・生活技術が獲得できているか、将来の生活設計をアンケート調査する。一、基本的生活習慣である、睡眠・食事・着脱衣・清潔・排泄などは身についているかを調査する。睡眠では、決まった時間に就寝・起床できているか。食事では、3食をバランスよく、食べているのか。体を清潔に保つことができているのか。生活技術として、自分の身の回りのことが自分でできるか。衣生活では、自分で洗濯する、洗濯物をたたむ、アイロンがけをする、ボタンつけを行うなどができているか。食生活では、食物の購入、食事の準備・後片付け、調理の体験や包丁の扱い方などができているか。栄養のバランスや摂取の仕方の知識があるか。住生活では、掃除・整理整頓などができているか、ゴミの分別など環境に配慮した生活ができているか、などである。二、学校生活や社会生活ができているか。学校生活では、遅刻せず、登校することができ、掃除当番や校則など決まった約束事を守ることができるか。社会生活では、交通信号を守ることができ、駅や公共の場所で、マナーや順番を守ることができているか。お年寄りや体の不自由な人に声をかけたり、子どもの相手ができるか。初対面の人と自然に会話ができ、人に自分の意見を説明できる力があるか、などについて調査する。三、将来の生活設計では、就きたい職業はあるのか、働き方や収入を考えているのか。将来の家庭生活について考えているのか、などを調査する。
    [結果]
    男子では、一と三の間の相関係数は、0.6609(f=12.40979)であり、a=0.540716であるので、正の相関がある。二と三の間の相関係数は、0.7044(f=15.75875)であり、a=0.84875であるので、正の相関がある。女子では、一と三の間の相関係数は、0.4120(f=19.01013)であり、a=0.27534であるので、正の相関がある。二と三の間の相関係数は、0.4672(f=25.96575)であり、a=0.508637であるので、正の相関がある。したがって、基本的生活習慣が確立され、生活技術が身に付いている生徒は、将来の人生設計や生活設計を具体的に考えていることが把握できたのである。高校時代は、自立して生活を営めるようになるため、人生や生活を切り開いていくために、さまざまな選択肢を、自分の意思と責任で決定する自己決定能力を形成する時期である。日常生活の啓発的な経験を通して自分に適する職業、希望職種を見つけることができるのである。それにより、将来のキャリア設計を考えることができ、社会的自立や経済的自立ができると考えられる。「なりたい自分」を思い描き、目標に近づく努力をする時期である。将来の生活設計を立てることにより、高校時代に「なすべきこと」がわかる。その目標に向かって生活しているので、基本的生活習慣が確立されていると考えられる。
  • 大泉 伊奈美, 松岡 英子
    セッションID: A1-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    <目的>
     日本家庭科教育学会編『家庭科で育つ子どもたちの力』(2004年)では、家庭科学習と子どもたちの家庭での仕事の実践度との関係を分析し、家庭科学習の重要性を指摘している。家庭の仕事の実践度には、家庭科教育の他に、家族関係や家族の構造など家族に関する要因や生活に関する価値観なども影響すると推察される。そこで、子どもたちの家庭の仕事の実践度に家族とのかかわりや家庭生活に関する価値観がどのような影響を及ぼすのかを家庭科学習の影響をも含めて明らかにすることを目的とする。

    <方法>
     家庭科教育学会が2001年9月に実施した「家庭生活についての全国調査」のうち、小学4年生を除く小学6年生2611名、中学2年生2983名、高校2年生2993名を本研究の分析対象とした。分析は家庭の仕事の実践度を従属変数として、基本属性、家族要因、生活価値要因、家庭科学習効果要因の4要因をそれぞれ独立変数とする階層的重回帰分析を行った。サンプル全体の分析と小・中・高校生別の分析を行い、その結果を比較検討した。

    <結果>
     従属変数である家庭の仕事の実践度は衣食住に関する家事的要素の強い13項目を選択し、点数が高い方が実践度が高いことを示す加算尺度(α=0.82)として用いた。独立変数には、基本属性2変数(学年・性別)、家族要因9変数(ひとり親か否か・家族員数・きょうだい数・母親の仕事の有無、朝食時のおとなの有無・家族での夕食の有無・父親の家事参加状況・家族へ望むこと・家族への思い)、生活価値要因1変数、家庭科学習効果要因1変数を用いた。生活価値要因は「目標を立てる」「時間の使い方」「お金の使い方」など9項目について、点数が高い方が大切にしたいと思っていることを示す加算尺度(α=0.81)として用いた。家庭科学習効果要因は、日常生活について「できるようになったこと」「わかるようになったこと」「気づくようになったこと」「考えるようになったこと」の4つの側面がどのくらいあるかについて、点数が高い方が学習効果が高いことを示す加算尺度(α=0.85)として用いた。 家庭の仕事の実践度を従属変数として、全サンプルについて階層的重回帰分析を行った結果は次の通りである。ステップ1で、制御変数として基本属性である学年と性別を投入したところ、2変数との間に有意な関連が認められた。特に、性別の影響が大きいことが確認され、男子より女子に実践度が高かった。ステップ2で、家族要因として設定した9変数を投入したところ、家族へ望むことの1変数のみ有意な関連が見られなかったが、その他の8変数に有意な関連が認められた。家族要因の中では家族への思いの影響力が大きく、家族への思いがある子どもの実践度が高かった。ただし、R2変化量はそれほど大きくはなかった。ステップ3で生活価値要因、ステップ4で家庭科学習効果要因を投入したところ、いずれも有意な関連が認められた。全ての変数のうち最も影響力が大きいのは基本属性の性別であり、次いで家庭科学習効果要因、生活価値要因であるが、きょうだい数、父親の家事参加状況、ひとり親か否かなど家族要因の影響も明らかになった。家庭の仕事の実践度に性別や家庭科学習効果、生活価値要因だけではなく、家族要因の影響も見逃すことができないといえる。家族要因の影響を学年別に比較すると、中学生に対する家族要因の影響が小学生や高校生より大きいことが明らかになった。また、いずれの学年においても、父親の家事参加状況が子どもの家庭の仕事の実践度に大きく影響していた。
  • 渡瀬 典子
    セッションID: A1-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】アメリカの家庭科教育(Family and Consumer Sciences)におけるナショナルスタンダードが今年度改訂され、学校家庭クラブ(FCCLA=Family, Career and Community Leaders of America)とのカリキュラム連携が加えられる。FCCLAはその名が示すように、「個人の成長とリーダーシップの発達を家庭科教育から促進する」ことをミッションとし、生徒が活動を通してリーダーシップを育成することが目的のひとつとなっている。  日本でも、アメリカの学校家庭クラブ(旧称:FHA=Future Homemakers of America)に倣い、第二次大戦後に学校家庭クラブ活動が導入され、高等学校学習指導要領にも「内容」の中に名を連ねている。このように、日米ともに「実際の生活場面の中で、家庭科で学んだことを実践する」学習スタイルの重視という傾向が見て取れる。しかし、学校家庭クラブ活動の中にある、「ホームプロジェクト」と「スクールプロジェクト(=学校家庭クラブ活動)」のうち、「ホームプロジェクト」は家庭科の教科活動と結びつけてカリキュラムを構想しやすいのに対して、学校家庭クラブ活動には加盟、運営、家庭科のカリキュラムとの連携等において多くの工夫が必要となってくる。 そこで、本報告では日米ともに加盟校数が多かった1960年代半ばまでの状況を現在の状況との比較対象とし、1.概要の比較(_丸1_加盟率の傾向、_丸2_1950-60年代の学校家庭クラブ活動の内容と最近の活動内容の傾向)、2.アメリカの学校家庭クラブ活動におけるリーダーシップ育成の特徴、3.1950-60年代の学校家庭クラブ活動実践における課題、について明らかにする。 【方法】日米の学校家庭クラブが発行している機関誌及び文献資料をもとに検討する。日本の学校家庭クラブ活動については、『全国指導者養成講座研究集録』(1960-2002年、2006年)、『FHJ』誌を用いる。「全国指導者養成講座」は1960(昭和35)年以降、各都道府県の学校家庭クラブ連盟から顧問教師と生徒、指導主事を交え、開催されている。アメリカの学校家庭クラブ活動については、同団体の機関誌である『Teen Times』(1950-70年)、『Chapter Handbook(1965)』、FCCLAの『Chapter Handbook(2000)』を用いる。 【結果】1.アメリカの学校家庭クラブは、1950年代から南部地域を中心に、加盟会員数が多い傾向にあるが、1966年のNHA(New Homemakers of America)の合併をピークに会員数は減少した。しかし、今世紀に入ってから一部地域では会員数の増加傾向が見られる。統一プログラムであるナショナルプログラムは、1950年代から存在するものも多いが、現在では評価の方法に報酬主義的な手法が取り入れられている。また、家庭科のカリキュラムとの連携を視座に入れることで、より多くの生徒が学校家庭クラブのナショナルプログラムに関われるような提案が見られる。2.アメリカの学校家庭クラブ活動では、「リーダーシップ」を(複数人の)共通目標を達成するための最良の手段、人間関係をとるためのプロセスとして捉えている。また、アメリカの家庭科教科書でも、集団の目標達成において最良の選択をするために、「リーダーシップ」には多様なスタイルがあることが言及されており、学校家庭クラブ活動はその実践の場としての機能が期待されている。3.1960年代後半以降、アメリカの学校家庭クラブは加盟率が低下していく。その理由として「準備のための計画や時間不足で無駄なミーティングがある」「支部の活動を充実するような加盟促進活動の欠如」「全員の生徒が平等に関われないタイプの活動」等が原因に挙げられた。日本の学校家庭クラブ活動でも1970年代後半までに加盟校数が微減したが、同時期に開催された「全国指導者養成講座」では、「指導担当の教員の不足、予算不足、クラブ役員の過重負担、活動内容の硬直化」等が課題とされた。
  • 貴志 倫子
    セッションID: A1-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【研究背景と目的】
    人やものに関わる力を高める教育実践の要求から,ケアリングが注目されている。ケアリングの学校教育での議論は,教師-学習者間のケアリングを育む学習環境への配慮と,学習者がケアリングをいかに育むかの人間形成の二つに整理され,それぞれ「教育学的ケアリング」,「ケアリング教育」と区別される。日本では、学校教育におけるケアリングの中心性を説き、道徳教育に言及したネル・ノディングスの紹介によって研究が行われている。家事労働や保育, 介護など生活に欠かせないケアを学習対象とする家庭科教育は,子どもにケアリングを育む重要な機会を提供していると考えられる。英語の概念であるケアリングは,日本のいくつかの文献において「思いやり」と訳されている。「思いやり」はケアリングの属性の一つではあるが,すべてではない。ケアリングの豊かな意味を見落とすことなく,家庭科教育の意義をケアリングの概念によって評価し,理論化することが必要である。
     そこで本研究では,1998年に開発された米国「家族と消費科学」のナショナルスタンダードでケアリング関係を説明することが示されたことに着目し,1998年以降に出版された「家族と消費科学」の教科書において,ケアリング関係を育むためにどのような内容が取り入れられているのかを明らかにし,家庭科におけるケアリング教育の可能性と日本の家庭科教育への示唆を得ることを目的とした。
    【方法】
     いずれも2000年に米国で出版された中・高校生向けの「家族と消費科学」の教科書3冊「Young Living(以下YLと略記)」,「Today’s Teen(以下TTと略記)」,「Skills for Life(以下,SLと略記)」を分析対象とした。教科書選定の理由は,上記3冊はいずれも,家庭科の家族,衣食住生活,消費・環境など多様な分野を含み,日本の普通教育家庭科の構成に比較的近いと判断したからである。学習項目,学習目標,記述内容を中心に分析を行った。
    【結果】
    (1)目次に出現する単語としてのケアリング(caring)は,子どもの世話(caring for children)や衣服の手入れ(caring for clothes)の表現が3冊とも共通にみられた。それぞれの章の内容は,しかしながら,ナショナルスタンダードの「ケアリング関係」に関する内容というよりも,ケアの具体的な方法や知識を与えるものであった。ケアリングを育むことに関連する内容は,YLでは「個の発達」や「関係性」,TTでは「関係性スキルの形成」,「あなたの友人と家族」,「子どもとの関わり」,SLでは「関係性」,「子どもと親性」の章にみられた。
    (2)SLでは,教科書の各章に「ケアリングの方法(Ways of Caring)」としてケアリングを高めるための具体的な課題が設けられていた。課題内容から94の活動がみいだされた。ノディングズのケアの6領域に沿って活動を分類したところ,人へのケアが83件,もの・環境へのケアが11件であった。人へのケアの内訳は,「自己」に関するものが21件,「身近な人」に関するケアが49件,「見知らぬ人・遠い他者」へのケアが10件であり,他者との関わりが中心的課題となっていた。
  • 家庭基礎と現代社会の相違
    楠木 伊津美, 坪田 由香子, 高瀬 淳
    セッションID: A2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】 同じ学習題材・テーマが、いくつかの教科において取り上げられることがある。それは、特に家庭科に関しては、社会科、理科および保健科との重複が多く見受けられる。これは、家庭科が「人間の健全な発達と生活の営み」といった人間生活全般を範囲(scope)とすることに加え、それらを「総合的に」捉える教育方法上の特色を有している教科であるためと考えられる。 言い換えると家庭科の学習内容の範囲は、他教科を学習することによって代替できるという可能性を含んでいる。しかし、家庭科は教育方法上の特色-すなわち教科の目標を反映した学習内容の総合性と系統性(sequence)に独自の意義が認められる教科である点に留意する必要があると指摘できる。したがって、学習題材・テーマが同じであっても、教科が異なれば、生徒が到達する学習成果はおのずから違うはずであるといえる。 こうした認識に基づき、本発表は、高等学校の家庭科(家庭基礎)と公民科(現代社会)で共通に扱われる「介護保険制度」を学習題材に取り上げた。この内容は、1997年中央教育審議会答申では、子どもにとって長い人生をどう生きていくかを学ぶことは、非常に重要であり、高齢者に対する感謝や尊敬の気持ちを育むことが大切であるとの認識を示すとともに、高齢者問題に関しては学校教育においても効果的な指導方法の工夫や教材開発が必要であるとした。 したがって、これらの総合性と系統性を具体的に検討することを通じて、家庭科のあり方に示唆を得ることを目的とする。 【方法】  家庭科(家庭基礎)を公民科(現代社会)の目標および内容の取り扱いを学習指導要領から比較し、その相違点を明らかにする。その上で、「介護保険制度」に関する学習指導案の例を作成し、両教科の総合性と系統性に着目しながら考察する。 【結論】  「介護保険制度」に関する学習指導案では、それぞれの教科の目標を反映し、家庭科については高齢者の生活理解が図られ、公民科については現代社会の主体的な理解が図られるよう作成した。このことから次の2点が明らかとなった。  第一に両者の学習指導案が、同様の学習内容(題材)を含みながらも、ほぼ逆の順序に配列されて成り立つ点である。つまり、家庭科の系統性は、公民科の系統性と明らかに異なるものであり、同じ学習題材・テーマであっても、教科の目標を踏まえた授業展開を行う必要があるといえる。また、同様の学習内容を異なる系統性によって学習することにより、社会の問題を自らの課題として主体的に理解できる生活者または公民としての資質を育むことが可能になると指摘される。  第二に両者の学習指導案においては、同じ学習題材・テーマ(介護保険制度)が、それぞれ家庭生活と社会生活の課題に結び付けられている。総合性の問題を考えるにあたっては、学習内容を「何と」「どのように」結びつけるかということに留意しなければならない。したがって、同じ学習題材・テーマであってもそれを結びつけるのは、それぞれの教科に設定された学習内容の範囲において行われる必要があると指摘できる。別な言い方をすれば、目指されるべき児童生徒の学習成果は、教科の目標によって異なることから、家庭科に設定された学習内容を他領域(他教科、特別活動、総合的な学習の時間など)と結びつけることは慎重でなければならないといえる。
  • ~生活を総合的に捉える立場からの学習指導案例~
    飯村 しのぶ, 田中 宏実, 岡崎 由佳子, 高橋 カツ子
    セッションID: A2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】  普通教科「家庭」における「高齢者の生活と福祉」内容に含まれている介護保険制度に関する学習の目標は、社会的制度に関する基礎知識を獲得するだけではなく、この制度の利用により高齢者の生活がどのように支えられるのか、高齢者の生活要求に介護保険制度がどのように対応しているのかを高齢者のQOLの向上にむけて考えられるようになることである。さらにそれらの学習をとおして高齢者を尊重する態度を身につけることにもなると考える。こうした学習目標を実現させるためには、要介護高齢者のケア・プラン作成をとおして高齢者の生活を総合的に捉えた学習の展開が必要である。 以上のような認識のもと、「家庭基礎」における介護保険制度に関する題材を設定し指導案を作成した。 【方法】  現行高等学校「家庭基礎」教科書および学習指導要領等を資料として、家庭科における「高齢者の生活と福祉」に関わると考えられる学習内容を各分野からプロットし、これらから介護保険制度と高齢者の生活の諸領域とを結びつける学習指導案を組み立てた。 【結果】 家庭科における介護保険制度の学習は、高齢者のQOLの維持・向上とその権利尊重を前提とした社会福祉制度の在り方として理解することが大切である。そのためには高齢者の生活状況を総合的に捉え、それが高齢者の生活実態や日常的生活要求に対応しているかについて配慮する必要がある。 とくに家庭科では、介護保険制度(地域福祉サービスも含め)がどのように高齢者やその家族の生活要求に結びつき、支援が可能なのかを高齢者の生活に密着させて理解し、問題解決的に取り組む学習が可能であろう。すなわち生活の営みに必要な金銭、時間、家族・地域の人間関係といった生活資源、及び衣食住などの生活活動に関わる事柄を総合的に捉え、それらを介護保険制度の利用に結び付けて理解することができよう。そうした学びをとおして社会制度が家庭生活をどのように支えていかなければならないかに気づかせることもできる。 本報告では、介護保険制度や地域福祉サービスの利用により要介護高齢者の生活がどのように支えられるかを理解するために「梅子おばあさん」の事例を作成し学習展開を組み立てた。本題材の学習目標としては、1.高齢者に接する機会の減少している高校生が、高齢者の生活を家族や地域関係、時間や経済等の生活資源及び衣食住生活活動から総合的に捉えられるようになること、2.要介護高齢者の生活を介護保制度がどのように支えていくことができるか理解すること、3.高校生が高齢期を肯定的に捉え、高齢者にとってQOLの向上を図っていくことが大切であることを理解し、高齢者を尊重する態度を身につけることである。 今回作成した指導案をもとに、今後は高等学校において授業実践し、生徒の反応や理解度等を把握して反省を加えていきたい。
  • 社会的・政策的動向との関連
    三田 夏希, 花岡 美紀, 鈴木 敏子
    セッションID: A2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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      目的
     2006年に改正された教育基本法の下での学習指導要領が、小学校と中学校について改訂され、2008年3月末に告示された。高等学校学習指導要領も追って改訂、告示されることになっている。この学習指導要領の改善の方針を示した中央教育審議会答申(08年1月)では、家庭科の改善の基本方針に、「少子高齢化」という「社会の変化に対応」して「・・・・高齢者との交流を重視する」とあり、特に高等学校家庭科の改善の具体的事項では「・・・・高齢者の肯定的な理解・・・・など少子高齢社会への対応・・・・に関わる内容を重視する」とされた。では、「高齢者の肯定的な理解」とはどういうことであろうか。
     一方、2008年4月1日から始まる「後期高齢者医療制度」をめぐって、そこに潜む高齢者観について疑問が呈されている状況がある。
     このような状況において、家庭科で高齢社会や高齢者などについてどのようにとらえられてきたかを、社会的・政策的動向と関連させて明らかにし、さらに、家庭科で高齢者について授業実践を進めていく際の課題を探ることを目的とする。
      方法
     これまで出されてきた学習指導要領の家庭科、およびその解説(指導書)における高齢化、高齢者等の概念や扱われ方について分析する。
     家庭科の教科書における高齢化、高齢者等の概念や扱われ方について分析する。
     高齢化をめぐる社会的動向と高齢社会対策の推移を辿り、家庭科への反映の仕方について分析する。
     現代社会における高齢者観を浮き彫りにする手がかりとして、高校生に「高齢者」と「老人」のイメージを調査した。調査対象は、神奈川県立K高等学校3年生3クラス・120人、調査時期と方法は、2007年11月に、「家庭総合」の「高齢者の生活と福祉」の内容の授業を進めるにあたって、記載を求めた。
      結果
     政策的動向の流れを辿ると、1963年に老人福祉法が制定され、1970年に高齢化率が7%を超えて高齢化社会を迎えたことによって、1973年に当時の総理府に老人対策室が設置され、老人対策、長寿社会対策、高齢社会対策、少子・高齢化対策へと変遷してきた。
     高齢社会対策基本法が制定されたのは、高齢化率が14%を超えた1995年である。老人という用語を残しながら、高齢者という用語へ移ってきている。
     学習指導要領においては、中学校の女子向きの技術・家庭や、高等学校の女子のみ必修の「家庭一般」のころは、食物領域で老人の食事が取りあげられており、時には老人の介護にもふれられていた。
     社会の変化の一つとして「高齢化」をあげた1987年の教育課程審議会答申を受けて1989年に改訂された高等学校学習指導要領では、男女ともに必修となった家庭科の必修選択3科目のいずれにも、「高齢者の生活と福祉」という指導事項が設定され、教科書の記述へと反映された。
     生徒の「老人」と「高齢者」のイメージを分析すると、外観からの印象、年齢的な面、身体的な面、行動面、精神的・内面的な面、生活面、経済面、それぞれにおいてプラスのイメージ、マイナスのイメージがあげられた。
     高齢社会および高齢者をとらえるには、エイジズムの観点を必要としている。
  • 鈴木 民子, 大竹 美登利
    セッションID: A2-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    [目的]
    高等学校「家庭総合」では高齢者理解の学習が組み込まれている。しかし現在の高校生は、核家族化の進行のなかで高齢者と同居している人はごくわずかで、高齢者と身近に交流する機会が少なく、高齢期や高齢者を遠い存在としてとらえがちである。そこで、高齢者との交流活動を取り入れて、生徒が高齢者を身近に感じ、高齢者を理解する学習を取り入れることは重要であると考えた。
    高齢者との交流活動として、高齢者施設への訪問を取り入れている実践も多い。しかし、施設で暮らす高齢者は、高齢者の生活の課題を高校生に与え高齢者のマイナスイメージを増幅させ、高齢者への親近感をなくす傾向にあるとの報告もある。報告者の高校では、地域交流を学校の取り組みの重点目標として掲げ、様々な学習活動の中での可能性を図ってきた。そこで、高齢者を学校へ招き、異世代間交流を行う形態の実践を「家庭総合」で行うこととした。学校へ訪問してくれる高齢者は比較的元気で積極的であることから、高齢者をプラスイメージで捉え、高齢者を身近に感ずることが出来るようになると考えた。
    そこで、高齢者との交流授業を実施し事前事後で、高齢者イメージや交流意欲などを問うアンケートを行って、生徒の高齢者イメージなどの変化から、交流授業が、高校生の高齢者理解に与える影響を捉えることを、本研究の目的とした。
    [授業内容]
    学校近隣の地域で活動をしている高齢者を授業に招き、生徒7~8名の班に1~2名参加していただき、グループディスカッションを行った。高齢者との会話を進めていくために、前の時間に各班で、生活を知るための質問項目を準備し、質問の順番をあらかじめ決めておいた。質問項目を作成するために、高齢者の生活を想像し、高齢者の関心事が何かなどを考慮した。この質問項目の作成過程も、高齢者理解の一つになっている。100分の授業の中で、各班は、始めに自己紹介を行い、その後、生徒の司会により、あらかじめ用意した質問をもとに会話を進めていった。
    [方法]
    高等学校1学年284名(男子106名、女子178名)を対象に地域の高齢者との交流会の事前、事後に高齢者との交流活動に関する質問紙による意識調査を実施した。質問紙の内容は、交流してみたい世代、日常会話の有無、交流授業での気づきなどである。
    [結果]
    高齢者のイメージであてはまるものに○を付けてもらった結果、事前調査では「知識が豊富で学ぶことが多い」(55.5%)、「忘れっぽい」(48.1%)、「物を大切にする」(47.0%)が多くなっていた。事後調査では、「知識が豊富で学ぶことが多い」と回答した生徒が73.3%に増加しており、有意な差があった。また、「たくさん話をしてくれる」(72.5%)、「元気、健康的」(68.6%)という肯定的イメージの項目の回答割合が有意に高くなっていた。肯定的なイメージに関する13項目全てにおいて、事後の調査では20.0%以上の回答あり、事前より増加する傾向にあった。否定的なイメージについては12項目全てにおいて有意に減少しており、「話が長い」34.0%以外は10.0%以下に減少した。すなわち、交流授業に参加することにより、高齢者を肯定的に捉えるようになっている。また、高齢者との同居別居で分けてみると、高齢者と同居している生徒の方が、事前のイメージにおいて「融通がきかない」「考え方が違う」「図々しい」「おせっかい」等否定的なイメージを挙げる割合が多かった。その他、性別や兄弟の有無等により、高齢者観が相違することがわかった。この実践のように、授業に高齢者を招き、コミュニケーションを通して高齢者との交流の機会を持つことが、高齢者イメージを変化させ、高齢者交流に積極的に参加する傾向へと変化させることがわかった。
  • 中村 純子, 夫馬 佳代子
    セッションID: A2-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】中学校技術・家庭科における「家庭と家族関係」で取り上げられるロールプレイングの活動は,演技することへの照れや抵抗感から,活動が成立しにくい問題点があるが,他者の立場になることを通して,人とのかかわりを学ぶことのできるよさもある。そこで,生徒が現在の家族や家庭生活についてみつめるだけでなく,これからの生活への展望を抱くことのできるロールプレイングの在り方について究明すべく,本研究を実施した。
    【方法】1.ロールプレイングを演じた際のシナリオにみられる発言の分析 2.既習生徒,家庭分野担当教員への意識調査 3.題材の開発 4.授業実践 5.授業後の生徒,保護者への意識調査
    【結果】1.中学生が作成する「ロールプレイング」のシナリオには,中学生の家族観をとらえることができ,普段の生活と等身大の中学生役を演じる場合には,自分からみた家族の捉え方が,自分ではない家族を演じる場合には,家族からみた自分への捉え方がはたらく。(生涯発達の面で2つ)また,それぞれは,他者とのかかわりよりも自分を中心とする考え方と,他者とのかかわりを大切にした考え方の2つに類別される。(人間関係の面で2つ)よってロールプレイングのシナリオにみられる中学生の家族観には,生涯発達と人間関係の両方で,4つに類別される見方があると考えた。どの場面においても,親子の言い合いに始まり,子への説諭や認め,励ましがあり子の変容に至るという展開となるが,場面によって4つの表れ方に違いがみられた。2.意識調査から次の点が明らかとなった。ロールプレイングを「意味がある」とする生徒の割合は,選択場面によって違いがみられ,他者とのかかわりを自覚し,自分自身の変容につながる発言が多くみられる場面ほど高く71%であった。その発言が少ない程,学習に意味を感じない生徒の割合が増える傾向にあった。学習に対して「意味がない」と感じている生徒が挙げた理由で最も多いものは「交流会」(他の班の発表を見ても,家族や家庭生活に対する考えを深めたり広めたりできなかったから)と「演技」(それぞれ役割を決めて演じても,家族一人ひとりの思いを理解することはできないと思ったから)であった。この理由は,学習に対して「意味がある」と感じている生徒が挙げた理由で最も多かったものと重なる。つまり,学習に否定的な捉えの生徒は,「ロールプレイング」の活動の本来の目的を十分に実感できていないことが伺われる。3.指導者が感じている「ロールプレイング」の課題や問題点であった「演じることへの抵抗感」の軽減を図り,ロールプレイングの有効性を実感するためのウォーミング・アップ活動,家族の一人一人の置かれている状況を捉えやすくする物語形式の場面設定を取り入れた題材を開発し実践した。その結果,シナリオには,どの場面においても,他者とのかかわりを自覚し自分自身の変容につながる発言が多くみられるようになった。学習を「意味がある」と感じる生徒の割合は,場面による差が小さくなり,最も高い場面で75%,次いで68%,67%であった。学習に対して「意味がない」と感じている生徒が挙げた理由で最も多いものは,「シナリオ」(作成時に,班での話し合いがなかなか進まなかったり練習の時にふざける人がいて困ったから)と「照れ」(役割を決めて演じることが照れくさかったり恥ずかしかったりしたから)であった。また,学習に対して意味があると感じている生徒が挙げた理由で最も多かったものは,改善前と同様,「演技」「交流会」であった。また,設定場面に,今日的な課題を取り入れることに対して,取り入れるべきであると答えた生徒の割合は,78%,保護者の割合は81%であった。「ロールプレイング」の活動を取り上げるとよいと答えた保護者の割合は94%と,この活動の取り入れに対して保護者は肯定的であり,今日的課題の扱いへの願いも高いことがわかった。
  • 柳 昌子
    セッションID: A2-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    「目的」
     絵画化された教材(イメージ情報)に対する受け止め方の多様性について考察する。文字情報による説明的な家族の授業から、学習者の共通認識のを得るためにスライド、映画、ビデオ、絵画などイメージ情報が頻繁に導入されるようになったのは80年代に入ってからである注1)。90年度の技術・家庭科研究集会(九州地区)で公開された「育つ自分と家族を考える『保育』の学習」では、教材に15タイプの家族や暮らし方のイラストについての無記名の感想文が用いられ、この方法はその後家族授業の一つのモデルになった。当初イメージ情報の限界について指摘したが注2)、その後それに対する反応を見ることはできていない。今回改めてこの教材価値について検討するのは、保育士養成のための授業改善を試みるためである。周知のように保育士の仕事の一つとして家族への支援・援助がありその実践的な能力の習得が課せられている。授業内容としての家族は、個人が体験していると言う意味で極めて具体的であり、一方教材としては抽象的である。両者を関わらせながら多面的に実践的に理解させる学習の方法を探る。
    「方法」
     2007年10月、上記15タイプの家族や暮らし方注3)のコピーを配布し、各イラストに50字以内の感想を書かせた。それをカテゴリー化して分析した。  また家族観の形成に関わったと思われる情報源として、学校における家族の学習機会、小説、映画、テレビなどの内容を調べた。
    「結果」
     主な結果は以下の通りである。
    (1)家族の学習機会を学校段階でみると、小学校(79.4%)、中学校(81.0%)、高校(54.0%)であった。教科では家庭科(69.4%)、社会(19.4%)、道徳(12.9%)と家庭科が多かった。いずれも複数回答である。
    (2)学校以外の情報源として、家族を想起させた小説の1位は「1リットルの涙」、映画では「ALWAYS 3丁目の夕日」、テレビアニメでは「サザエさん」を筆頭に「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」「ドラえもん」の4つが多かった。
    (3)イラストによるイメージ情報は家族の年齢、性別、人数などが具体的であるため、共通理解が容易になされた。
    (4)イラストの「家族の表情や活動」に影響を受け易い型と受け難い型があった。後者の型の中にはジェンダーの影響が推測されるのが含まれている。
    (5)個人の特定の経験はイメージ情報の影響を受けにくいことが分かった。
     以上の結果から、家族の学習には、イメージ情報による対象の共通理解が得易いという特徴を生かしながらも、それに対する感じ方 や受け止め方の多様性を認め、個人の具体的な経験を対象化させる授業の工夫が必要であると考える。
     注1 田結庄順子編著「戦後家庭科教育実践研究」pp.409-416、梓出版社 (1996)
     注2 大学家庭科研究会編「男女共学家庭科研究の展開」pp.167-183、法律文化社(1993)
     注3 小形桜子・三井富美代・江崎泰子、おかべりか絵「こころとからだ知りたいこと事典」pp.14-15、ポプラ社(1984)より
  • 赤塚 美鈴
    セッションID: A2-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    研究の背景・目的
     報告者は、高等学校家庭科の授業において学習意欲の向上を図るため、「自由度を持った課題」、「意見交流学習」、「プレゼンテーション」の3つをキーワードに学習者参加型授業に取り組んできた。本報告ではその中の「意見交流学習」に焦点を当て、ツールとして用いた「ありがとうカード」の有効性を検討しようとしたものである。授業の流れの中で生徒による意見交流を促すために「ありがとうカード」と称する用紙を用い、相手の良いところに着目して意見を交換することを試みた。これは、報告者が2005年度実施したアンケート調査から、学習意欲の向上につながる言葉とその発信者について、「ほめる言葉」と「友だち」がもっとも有効であったことに着目したものである。
    研究方法
    1.「ありがとうカード」を用いた授業実践
      「家庭基礎」において「家族・家庭」、「衣生活と環境」の単元で本カードを用いた授業を行っている。
    (1)授業実践1.「新聞を使用したプレゼンテーション」
     家庭生活に関連のある新聞記事に着目し、「意見交流学習」によって個人の考え方をグループ学習へと発展させ、それをプレゼンテーションするものである。本カードは、プレゼンテーション時にコメントとして記入するもので、班ごとに取り組んできた内容やプレゼンテーションの方法などを振り返るために用いた。
    (2)授業実践2.「リフォームによるかばんの製作」
     本カードは、「かばん」の完成後、生徒同士の作品鑑賞時に用いた。カードには「かばん」を見せてもらったことに対する感謝の意を込めて作品の良さに着目して記入し、得られたコメントを活かしてスライド作成とプレゼンテーションを実施する。また、カードの内容は他者からの評価として各自の振り返りに役立てた。
    2. 授業後のアンケート調査の実施とその考察
     以上の「ありがとうカード」、「意見交流学習」に関する生徒の感想から授業成果を考察した。
    研究結果と考察
     「ありがとうカード」を媒介とする「意見交流学習」は、以下のような効果があると考える。
    1.「ありがとうカード」を用いることに関しては、「楽しい」、「意味がある」などの肯定的な回答が顕著にみられた。また、約80%の生徒が本カードの内容を自分に役立つ言葉として捉えていた。強く肯定している割合が高いことから、このカードの背景となる「ほめられること」の嬉しさが明らかとなった。これは学習への動機付けにつながっていく可能性があると考えられる。
    2.「プレゼンテーション」では、生徒自身がどれだけの内容で話すことができるかが懸念される。「ありがとうカード」から得られた言葉は、自分への自信に代わり、具体性が加わり、プレゼンテーションで話す言葉を膨らませることに生かされた。
    3.生徒間の相互評価では、班や個人で取り組んだ内容を教師がそのまま評価するのではなく、生徒間で内容の良さを評価し合うことによって、家庭科の授業への達成感を高めることができた。
    4.「意見交流学習」は、一連の授業をとおしてクラスの仲間との交流に役だった。
     本研究では、「ありがとうカード」を用いた授業実践によって、授業への参加意識の有効性を確認できた。今後は本カードの特色となる「ほめる言葉」を生かした授業の継続と、さらに励ます言葉に着目した「アドバイスカード」を併用させながら、その成果の検証を図っていきたい。
    付記:本研究の一部は平成19年度文部科学省科学研究費補助金・奨励研究(課題番号:19907031)によるものである。
    謝辞:本研究は三重大学教育学部下村勉教授にご指導いただきました。ここに厚く感謝申し上げます。
  • ~中学校における授業実践とその検討~
    金子 京子, 妹尾 理子
    セッションID: A2-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    <研究の背景と目的>
     現代社会においては、少子高齢化が進展するなかで家族規模が縮小し、プライバシー優先志向もあって、人間関係は希薄になる一方である。しかし、少子高齢社会であるからこそ、地域社会を含めて家族や家庭の「かかわり」や「つながり」について考える学びは、子どもたちが自分自身の生き方やライフスタイルを模索するうえでも重要である。これは、家庭科で重視すべき「自立」と「共生」を学ぶことでもある。本報では、近年教科書においても積極的にとりあげられているコレクティブハウジングなどの事例を活用しながら、「家族」分野と「住生活」分野を関連させた中学校における授業および教材を開発し、その可能性を検討することを目的とする。
    <研究方法>
     前報で述べた課題を踏まえ、中学3年の3学期に「家族」分野と「住生活」分野を関連させて7時間の授業計画を立て、授業を実践した。その5・6時間目で、コレクティブハウジングをとりあげ、その教材化の意義を検討した。一連の授業について、子どもたちの記述の分析から、授業および教材の有効性を検討する。
    <結果および考察>
    1 授業実践全体について
     授業は、以下のような全7時間で計画した。(1)広告から自分の買いたい家を探す、(2)間取り図から家族の生活を読み取る a.サザエさんの家の間取り図に、家族を配置してみる b.現代の3LDKの間取り図に、架空の3家族を配置してみる、(3)それぞれの家族員の気持ちになってコメントを考える、(4)子どもの行動に悩んでいる一人の母親の悩みにアドバイスする、(5)「共生」の住まいについて考える a.コレクティブハウジングとはどんな住まい・住まい方か? b.入居者はなぜそこに住む選択をしたのか c.インタビューから考察する、(6)これからの暮らし方・住み方を考える
       授業のねらいは、「共に生きる(共生の)価値観形成」と、コミュニケーション能力向上を含む「生きる力の育成」とした。全体を通して、家族の生活を住空間を媒体に考えさせていくスタイルを中心にしたところ、中学3年ということもあり、よく考え、意見交換を行うことができた。
    2 コレクティブハウスの教材化の可能性と課題
     授業の後半に、「共生」の住まい方の事例として、コレクティブハウス「かんかん森」を紹介し、平面図の読み取りを行った。その際、発表者らが企画・編集にかかわったDVD教材(注)を視聴し、共生の住まい方への関心と理解を深めたうえで、人々がなぜそこに入居することを選んだのかを考えさせた。さらに、入居者のインタビューとその内容を文字化したものを丁寧に読み取らせた上で考察を深め、クラス内で意見交流を行った。
     コレクティブハウジングについては、理解が難しいことが予想されたが、平面図の読み取り(色を塗ることで理解を容易にする)と、映像の併用が効果的であった。また、居住者の考えの理解は、1回のDVD視聴では難しいことから、活字化されたインタビュー結果を丁寧に読み取らせる工夫を行ったことで、より思考を深めることにつながった。
    <まとめ>
     授業実施時期は中学3年の3学期だったために授業時間は限られていたが、生徒の思考力も高まっており、読解力の鍛えにつながる充実した学びとなった。間取り図を読み取る、という子どもにとって抵抗感の少ない方法で家族関係や家族問題を考えさせることは有効であった。コレクティブハウジングを教材として用いることは、「かかわり」や「つながり」の意義を考える学習として効果的であることも明らかになった。今後は、住生活分野の学習要素を精選して取り入れ、より充実した授業をつくっていくことが課題である。
    (注)ニチブン「AVANCE~HDD家庭科教育実践講座~」動画DVD
  • 荒井 紀子, 浅野 尚美
    セッションID: A2-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】
     生活の問題が複雑な因果関係の中で発生し、それに関する情報もあふれるほどに錯綜する今日、そのなかから価値ある情報をつかみ取り、自らクリティカルに考え冷静に判断し、問題を解決する思考力を鍛えることはますます重要になってきている。
     本研究では、児童の問題解決能力やクリティカル(批判的)な思考力を育むための学習の構造を検討し、モデル授業を計画するとともに、実際の授業実践を通してその有効性を検討することを目的とする。
    【方法】
     小学校家庭科の住居領域の学習において、児童が問題解決のステップを確実に踏んで考え発想する学習を計画し実践した。具体的には、児童が学校空間の中で新たに創りたい場所や改良したい箇所について、現場の状態を調べたり利用者のインタビュウをしたり外部の情報を取り入れながら問題点を見つけ、それを解決する方法を各自で考え、その一連の過程を企画書にまとめ、提案発表する、という学習である。その際、学部の依頼者「クライアントX(エックス)」を設定し、その依頼者に各人が企画書を提出するという学習の流れにした。授業名は「学校にこんな場所があったらいいな―附属小学校大改造計画」(全10時間)、福井大学附属小学校5年生2クラスの児童を対象として2007年10月から11月にかけて実施した。
     授業計画にあたっては、米国の実践理論プロセスを参考にしながら、特に以下の4点に配慮した。
    ○批判的思考を促すための10のステップを授業に取り入れる(_丸1_問題への着目 _丸2_現状把握 _丸3_情報収集 _丸4_情報の価値と信頼性の検討 _丸5_解くべき課題の設定 _丸6_課題解決のための方法や案の工夫 _丸7_案の多角的な評価検討と練り直し _丸8_実行する計画の決定 _丸9_実行 _丸10_結果の振り返りと省察)
    ○児童の思考を深めるための教師の発問を工夫する
    ○他者からの多角的な評価検討の場面を設定する
    ○個人学習とグループ学習の有機的なつながりを工夫する
    毎時間の授業は参与観察とともにビデオ録画し、授業後の振り返りを行って、児童の反応をみながら内容を修正しつつ進めるアクションリサーチの方法を取り入れた。
    【結果と考察】
    1.毎時間の参与観察やビデオ録画、児童の感想や提出物(企画書)の分析等から総合的に判断して、大方の児童が学習を楽しみ積極的に取り組む様子が確認された。
    2.授業前後の児童のアンケートの分析から以下の結果が得られた。
    (1)学習の10のステップのうち、児童の興味関心が最も高かったのは「課題解決のためのアイデアや工夫を考える」と「企画書の作成」であった。同時に児童は、これらの学習を「じっくり考えることができる」学習と捉えていた。すなわち、児童は、じっくり考え工夫する学習を「おもしろい」「楽しい」と感じていることがうかがわれた。
    (2)アイデアを発表し仲間から意見をもらう学習のステップを、児童は「知識を得てためになった」と評価しており、他者とのやりとりから刺激や手ごたえを得た様子がうかがわれた。
    (3)授業の前後を比較すると、「考えることやアイデアを工夫すること」「自分の考えを発表すること」「人の意見を聞いて話し合うこと」に対する肯定的評価は、いずれも授業後に増加がみられた。
    (4)授業後、この学習で自信をつけた児童の一部が、児童会の行事の企画に積極的にかかわる様子が観察された。
     以上から、本授業の構成、すなわち児童自らが問題を設定し、現状を把握し、それに基づいて問題解決を図るという授業の構成は、児童が問題解決力やクリティカルな思考力を育むうえで有効であることが示唆された。
  • 〇一色 玲子, 鈴木 明子
    セッションID: A2-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    目的 家庭科の布を用いた製作実習の学びは,持続的にモノと対峙する学習者の活動の個別性に特徴づけられている(一色・鈴木,2006)。従って,学習者個々の特性に応じた指導方法を工夫することによりさらなる学びの個性化を目指すことが可能となる。
     本研究では,学習の個性化をはかる上で,個人差を学習スタイルという観点からとらえる。そもそも,学習に関する個人差とは学習者特性の差であり,その要素は知的能力,パーソナリティ,学習方法,学習への興味・関心,学習に関わる信念・価値観,学習への感情・動機づけ等がある(三宮,2000)。学習スタイルは,これら学習者特性の一つの見方として「学習の際に好んで用いられる認知活動,学習活動の様式・方法(辰野,1997)」と定義されている。中でも,個々の学習志向性と学習環境下の活動による変容の型を学習スタイルとするKolb,D.A.(1984)の研究は,製作実習に関する好みとしての学習スタイルの評価に示唆を与えるものである。
     そこで本研究では,製作実習と学習方法の好みに関する意識調査をおこない,その実態を把握することを目的とする。さらに,製作実習に関する学習スタイル評価法を検討するための示唆を得ることを目的とする。
    方法 広島県の公立小学校3校(いずれも1学年3~4クラス)の6年生を対象に質問紙調査をおこなった。有効回答率は73.9%(273名:男子128名,女子145名)であった。調査時期は,2008年3月中旬であった。いずれも学級担任に依頼し,授業時間を利用して調査をおこなった。調査内容は,堀内ら(1991)が用いた製作実習に関する意識調査50項目,およびKolbの学習スタイル目録(LSI:Learning Style Inventory;2006)を参考に試験的に設定した学習方法の好み4要素24項目であり,いずれも5件法により回答を求めた。統計処理は統計解析ソフトSPSS11.0Jを用いた。
    結果 (1)製作実習に関する意識について各項目の平均値を検討した結果,製作実習に対する有用性の意識は4.47と高く,製作への自信は2.64と低い傾向がみられた。男女間で比較したところ,「手縫いで小物を作ることはおもしろい」,「もっとうまく縫えるようになりたい」といった学習意欲や「いろいろな縫い方を覚えておくと役にたつ」,「裁縫道具の使い方を覚えておくと役にたつ」といった有用性の項目において女子の平均値が高く,有意な差がみられた(p<.001)。また,「女の子は縫うことができないと困る」といった性別役割分業意識は,男女間に有意な差はみられなかった。
    (2)4つの学習スタイルの要素の平均値および標準偏差は,具体的経験要素3.51(.69),抽象的概念要素3.21(.74),熟考的観察要素3.33(.65),能動的実験要素3.33(.59)であった。また,具体的経験要素の「手を使ったり体を動かして勉強することが好き」「何かを決めるとき,自分の気持ちを優先する」等の項目において,男子の平均値が高く,有意な差がみられた(p <.001)。
    (3)製作実習に関する意識調査について,主因子法を用い,バリマックス回転をおこなった結果,5因子が抽出された。因子名は第1因子「製作意欲(α=.91)」,第2因子「製作技術(α=.87)」,第3因子「否定的意識(α=.84)」,第4因子「製作価値(α=.78)」,第5因子「性別役割分業意識(α=.77)」とした。さらに,(2)の結果から学習スタイルの4要素それぞれについて平均値+SD×1.5より大きい値を高群,平均値-SD×1.5より小さい値を低群として抽出し,因子ごとの2群の平均値を検討した。「製作意欲」の低群は4要素全てにおいて有意に学習の好みが低かった。「製作技術」の低群は能動的実験と熟考的観察の要素において有意に学習の好みが低かった。
  • 棚村 かおり
    セッションID: A3-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】 近年、子どもたちの食生活の乱れは、社会問題として認識され、家庭科教育においても様々な実践が行われてきた。しかし、その効果は実際の生活の中で生きて働くという意味では十分ではない。そこで、本研究では、具体的な生活場面で働くための知として林が提唱した「生活実践知」に依拠して、実生活での活用を目指す家庭科の食教育を提案することを目的とする。 【方法】 _丸1_実態調査:授業実践研究の対象である埼玉県F市立K小学校5・6年生288人に、家庭科の食教育及び給食について質問紙調査を行い(2006年12月)、児童の食生活の実態を明らかにした。 _丸2_授業研究:_丸1_の結果を踏まえ「生活実践知」における自分と他者の関係性を重視して、小学校家庭科の食教育実践カリキュラムを創った。2007年5月~6月にK小学校6学年D組33名を対象とて実践し検証した。 【結果と考察】 児童の実態調査から、家庭科が好きで自分の生活に役立つと考えているが、実生活で活かすまでには至っていないこと、嫌いな食べ物を食べる動機としては、栄養の知識を身につけることよりも作り手を意識することが効果的であることがわかった。特に調理実習では、作った友人に対する気持ちから食べようとする傾向が明らかになった。 本研究では、「生活実践知」が「家族を始めとした自分を取り巻く人や物との関わりにおいて生活を理解する力である」という点に注目した。そこで、小学校家庭科の食教育では調理実習を活用し、他者との関わりを意識させることが児童自身の食生活をみつめる機会になると考えた。小学校段階では、児童が自分の食について正しく理解し、より良く食べたいと主体的になることが必要であることから「A食生活において自己を見つめること」「B食べることを意識化すること」「C他者との関係から食生活を考えること」の3点をねらいとしたカリキュラムを創り実践した。カリキュラムは「自分の食事を見直そう」という全8時間の授業(_丸1_~_丸8_)で以下のような構成とした。_丸1_自分自身の食の思考を問い直す_丸2_食べ物を知る_丸3_食べ物の調理の特性を知る_丸4_自分の食課題を立て課題野菜を知る_丸5_食の課題に向け調理計画を立てる_丸6__丸7_課題野菜の調理実習を行い友だちと試食する_丸8_発展調理計画を立てる。3つのねらいのうちA自己を見つめることは、_丸1_と_丸4_で自分の嗜好と向き合わせることによって行った。さらにBの食べることを意識化することは、_丸2_の野菜の試食_丸3_と_丸6__丸7_の野菜調理後の試食という食べる体験を通して行った。Cの他者との関わりは_丸1_の友だちや教師など自分以外の人の嗜好に気づく_丸2_の農家の人と触れ合う_丸6__丸7_の友だちとかかわる調理試食により意識させた。 以上の授業における授業者の記録、授業の録画、毎時間の児童の授業記録全てを資料として本カリキュラムを検証したところ、児童の思考の起点は自分であることがわかった。多くの児童は自分を見つめるだけで精一杯であるが、自分を見つめ直し他者との関係を考えながら思考を広げて「生活実践知」を育む者もあり、自分から他者との関係、社会へと思考を広げて生活を見つめ直すことの重要性が再認識された。本カリキュラムでは、人との関わりや自分を見つめる機会を意図的に設定することで児童が自分に向き合うことが可能になったと考える。また、調理を人と見合う・食べ合うという視点から捉え直すことが可能になった。
  • -帰国生との比較から-
    山崎 真澄, 池? 喜美惠
    セッションID: A3-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     一般生と帰国生の混合クラスで食生活領域の買い物の授業をした時、食品購入に対する生徒の意識や購入実態に問題点を感じた。
     そこで本研究では中学生の食生活領域の授業を取り上げ、授業の導入前と授業の単元が全て終わった後で食生活に対する理解がどのように変化したかを調査した。そして、一般生と帰国生の在籍するクラスでどのような授業実践をしたら効果があるかを検討することを目的とした。
    【方法】
     東京都の私立K学園中学2年生(一般生67名、帰国生33名)総計100名を対象に、食生活に関する知識について問う項目(50点満点)を授業単元の最初と最後、及び授業が終わった3ヶ月後に実施した。
     実施期間は、平成19年9月~平成20年3月である。
    調査内容
     栄養素、調理器具、切り方、食品マーク、献立、加工食品についての知識を問う内容と食品摂取の仕方や体調について問う食生活意識のアンケートを実施した。
    授業計画
     実習4回、講義5回の50分授業2コマ続きの全9回を実施した。
     家庭科の授業は、国際クラスにいる帰国生は一般生と共に学習するため、実習を多く取り入れながら、理解を促すカリキュラムになっている。
    【結果及び考察】
     知識に関して
     プレテストでは帰国生平均23点、一般生平均27点、ポストテストでは帰国生平均31点、一般生平均37点であった。プレテストでは、帰国生が海外で食物に関する内容の授業を受けてきていない為、一般生より点数が低い結果が現れたと考えられる。また、ポストテストの結果も同様であり、その理由として日本語を理解できない生徒が多いことが考えられる。そのため、実物を用いたり、資料や模型を多く取り扱うことで、理解を促すことが可能であると思われる。定着度テストでは帰国生平均29点、一般生平均28点であった。帰国生も一般生も共に調理器具や切り方などの調理に関する知識が定着していた。
     食生活の意識に関して
     一般生と帰国生との間に大きな差は認められなかった。「1日3食、規則正しい食事を意識する」(帰国生90.6%,一般生82.3%以下同様)や「家族と一緒に食べるようにしている」(87.9%,79.7%)「好き嫌いをしないように心がける」(75.8%,71.4%)「糖分、塩分、脂質を取り過ぎないように気をつけている」(63.6%,60.9%)「食べ過ぎに気をつけている」(63.6%,59.4%)に関しては、帰国生の方が意識する傾向がみられた。海外での家庭科の学習経験が食生活領域(調理)のみという国が多く、栄養についての知識が乏しい生徒が多かった。
     今回の授業を行うことで、「家庭で調理をするようになった」や「栄養が不足していると感じたときは、野菜や牛乳を口にするように意識している」「食生活の改善だけで体の調子を整えることを理解することができた」など、授業に対する好意的な回答がみられた。
     知識としての理解度の向上と栄養を考えた食生活をすることは意識できたが、行動に移すことが出来ないという生徒の実態が明白になった。行動を変化させるためにはどのような授業展開をしたら効果があがるのか今後の課題である。
  • 江見 直子, 亀井 佑子, 川村 めぐみ, 佐藤 麻子, 佐藤 真紀子, 高橋 礼子, 三野 直子, 吉澤 亜希子, 金子 佳代子
    セッションID: A3-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    1.研究の目的
     食生活が多様化している中で、家庭科の食生活領域で指導した内容がどの程度生徒に定着しているのか、教えたい内容と生徒が知りたい内容の間に差があるのではないか等、教員が日ごろ不安に思っていることがある。そこで、(1)生徒の食生活に関する「ニーズ」の掘り起こし、(2)生徒の実態に合った食生活領域のカリキュラムの再構築、(3)食教育の定着を目的として、本研究を実施することとした。この内、生徒へのアンケート調査の結果とそれに基づく「ニーズ」の掘り起こしについては日本家庭科教育学会第50回大会において、教員へのアンケート結果とそれに基づく家庭科の食生活領域の指導実態については2007年度日本家庭科教育学会例会において発表した。本報では教員と生徒のアンケート調査結果を併せた分析について報告する。

    2.調査方法と内容
     調査対象は関東近県一都七県の全日制高等学校41校、生徒3233名と、各校教諭41名で、質問紙の留め置き法による調査を2005年度の各校の食生活領域終了時期に合わせて実施した。
     調査内容は(1)家庭科全般について【必修科目名、単位数、各領域の授業時数と形式】、(2)食生活領域について【調理実習の回数と内容及び目的、生徒の食生活で気になる点、食生活領域内の授業時数と形式および学習効果】などである。

    3.調査結果
     第一報の生徒アンケート結果と第二報の教員アンケート結果の項目をクロスさせたところ、以下のような関連性が見られた。

    (1)調理実習の回数と生徒の実習後の理解の変化について
     「調理実習の回数」と「実習後にわかったこと」の選択肢とに相関性がみられた。
    (2)食生活領域内の内容別時間のかけ方と生徒の実習後の理解について
     第一報において生徒の調理実習後にわかったことは、「調理手順」・「調理技術」・「作る楽しさ」・「手作りの良さ」が上位であったが、学習時間のかけ方によっては、それ以外の「年齢・性別による栄養・献立について」「食事マナー」等において相関性がみられた。
    (3)食生活領域内の内容別時間のかけ方と生徒の授業評価について
     「五大栄養素」「食品特性」に時間をかけた方が、学習して良かった、もっと学習したいと生徒が答えた項目が多く、教員の時間のかけ方と生徒の評価が一致していた。「献立作成」「生活習慣病」「現代の食生活」「食文化」等の内容は時間をかけても生徒の学習して良かった、もっと学習したいの選択は増えなかった。
     この他、データを分析中である。

    4.まとめ
     第一報、第二報では献立作成等の授業時間が取りにくい現状から、調理実習の目的をより明確にし、教師側が重要と考える学習分野を調理実習に盛り込む工夫が求められていると考察したが、本報では「献立作成」「生活習慣病」「現代の食生活」「食文化」等において教員の時間のかけ方と生徒の評価が必ずしも一致しないことが分かった。これらの単元を生徒が学習して良かったと実感できるようなカリキュラムや授業方法を考えていきたい。
  • ―食分野と他分野との関連をふまえた学習指導案の作成―
    水上 香苗
    セッションID: A3-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  近年、大学の教員養成において教員の資質向上は緊急の課題となっている。教員の資質向上にむけて、教科指導をおこなう能力の育成は重要であり、家庭科教育の目的である「生活を総合的にとらえること」を具体化した授業を構成する力の養成が求められる。「生活を総合的にとらえる」には、衣食住、保育など各分野を系統的に学ぶことを前提としながらも、他分野の既習内容が関連する授業においては、その既習内容を生かす必要がある。そこで本研究では、家庭科教員養成において、諸分野間の関連を学生に理解してもらうため、調理実習と学習指導案作成を含む講義(7時間)を行なった。この講義のなかでは、食分野(とりわけ調理実習)の知見を他分野の学習に関連させる授業を構想し、それを学習指導案として具体化することを学生に要求した。学生の作成した学習指導案と講義に対する感想文を分析することで、この講義の教育効果を明らかにすることが本研究の目的である。
    【方法】 2007年度、F大学の後期開講科目「教育実習_I_B」において、本報告者が90分1コマの講義を7回にわたり実施した。具体的な講義内容としては、1)2種類の調理実習の体験をする(1~3時間目)2)食分野と他分野との関連性を考える(4時間目)3)学習指導案作成に向けた説明、学習指導案作成(5~7時間目)となる。本講義の実践を通して、授業感想レポートの記述(4時間目に提出)と、学生が提出した学習指導案から本講義の教育効果と改善点を明らかにする。調査対象は、次年度に家庭科での教育実習を控えた3年次生女子29名であり、対象となる授業感想レポートは27枚(欠席した2名を除く)、学習指導案は29枚となる。
    【結果】 (1)2種類の調理実習の体験と、食分野と他分野との関連性についての講義を終えた学生に、授業の感想を提出させた。その結果、食分野の内容である調理実習を他分野で関連させることは、学生の多くが理解を示していた。また、学生のなかには、家庭経済、保育等の分野における具体的な学習内容を記述して、調理実習との関連性をみいだしていた。 (2)学習指導案作成にあたっては、1)食分野(とりわけ調理実習)との関連を図る範囲としては、生活主体となる分野(家族・家庭、高齢者福祉、保育)のなかから、作成したい指導案の学習分野を選択して単元を設定し、本講義で体験した調理実習を位置づけて指導案を作成する。2)1時間分の授業の指導計画を立てる際、調理実習を対象とした時間ではなく、調理実習の知見を最も生かせる授業を対象として計画をする。以上2点を考慮した学習指導案を提出させた。評価としては、全ての学生が体験した調理実習の知見を入れて、授業を構成することができた。ただし、調理実習の知見を他分野に入れることによって、授業への理解がより深まるような学習指導案を作成できた学生は少なかった。そこで、多くの学生が効果的に関連づけた学習指導案を作成できるように本講義を改善していくことが課題となる。
  • 矢野 由起
    セッションID: A3-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     現在の日本の食生活は、ライフスタイルの多様化などにより、簡便化志向の高まりや、食の外部化、朝食の欠食増加など、食生活の乱れが指摘されている。このような不規則な食事や栄養バランスの偏りによって生活習慣病や肥満の増加など様々な問題が引き起こされているが、これらを防止し、生涯にわたって健康的な生活を送っていくためには、まず栄養のバランスを考えて食事を選択し摂取していくことが大切である。そのためには日常生活において、料理や食事をみたときに、何が不足し何が摂りすぎであるかを大まかに判断できる力が大切であると思われる。
     そこで本研究では、大学生が食事や料理の栄養バランスをどのように評価しているかを調査することにした。また、男女や居住形態、普段の食に対する意識、家庭科で学んできたことなどの要因によって評価に差があるのかを探る。
    【方法】
     調査は、大学生を対象とし、質問紙法により平成18年10月下旬から12月上旬にかけて行った。有効回収率は91.6%で、有効回答数は、326名(男子137名、女子189名)であった。
     調査内容は、食事および料理に対する評価調査である。調査対象の食事は、小学校および中学校の家庭科の教科書を参考にし、身近で一般的な食事を考え、最終的に6食事を対象とした。調査対象の食事は、肉料理、魚料理、朝食、軽食、インスタント、ファーストフードに大別することができる。また、食事に対する評価と料理に対する評価とを比較するため、6食事の中から主な料理7品を抽出し、調査対象とした。食事および料理の評価は、エネルギー、たんぱく質、脂質、カルシウム、ビタミンC、カロテン(ビタミンA)について5段階で測定した。併せて、食事に対する意識などの調査項目を設定し、それらが食事や料理に対する評価に影響を与えているかどうかを考察した。
    【結果】
     食事の評価調査の結果、食事2(ごはん・あじの塩焼き他)および食事3(サンドイッチ・サラダ・牛乳)は、エネルギー、たんぱく質、脂質、カルシウム、ビタミンC、カロテン(ビタミンA)の全ての項目において「ちょうどよい」と評価されていた。また、食事1(かつどん・肉やさいいため)および食事6(ハンバーガー・フライドポテト・コーラ)については、エネルギー・たんぱく質・脂質が「多い」、カルシウム・ビタミンC・カロテン(ビタミンA)が「少ない」と評価されていた。食事4(おにぎり・あさりのみそ汁)は、エネルギー・たんぱく質・脂質・カルシウム・ビタミンC・カロテン(ビタミンA)の全ての項目において「少ない」と評価されていた。要因別に食事評価をみたところ、他の要因に比べ「性別」の評価に及ぼす影響が大きかった。
     料理の評価調査の結果、料理1(かつどん)および料理7(ハンバーガー)は、エネルギー・たんぱく質・脂質が「多い」、カルシウム・ビタミンC・カロテン(ビタミンA)が「少ない」と評価されていた。料理2(肉やさいいため)は、エネルギー・たんぱく質・脂質・ビタミンC・カロテン(ビタミンA)が「ちょうどよい」、カルシウムが「やや少ない」と評価されていた。要因別に料理の評価をみたところ、食事と同様に、他の要因に比べ「性別」の評価に及ぼす影響が大きかった。
     食事や料理に対する評価と実際の含有量との関係をみたところ、たんぱく質やビタミン類については比較的実際に近い評価がなされていた。
  • 小田 真弓, 志村 結美
    セッションID: A3-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、健康志向、ダイエット志向、グルメ志向などに基づいた食への関心が強く、食に関する情報がテレビや雑誌等のマスメディアから溢れている一方で、朝食欠食率や偏食の増加など、食事の内容や食べ方の乱れといった食に関する問題状況が認められる。また、食品のもつ特定の生体調節機能のみが強調される情報が氾濫している傾向もみられる。 そこで本研究では、高等学校までの家庭科教育を履修し終えた国立Y大学の学生を対象に、食べものに対する健康認識をはじめ、食生活や生活の実態、食に関する知識及び人間力に関する実態ついてのアンケート調査を行い、食べものに対する健康認識を明らかにすると同時に、先行研究の少ない食生活と人間力の関連性を検討し、今後の家庭科教育のあり方を考える一助とすることを目的とする。
    【方法】 2007年の7月中旬から10月上旬に男性195名、女性168名、計363名を対象にアンケート調査を行った。調査内容は、食べものに対する健康認識、食生活や生活の実態、食に関する知識、人間力に関する実態について設定した。
    【結果及び考察】 食べものに対する健康認識において、「身体に良い」食べもの972品、「身体に悪い」食べもの827品、総数1799品挙げられた。これらを五訂日本食品標準成分表の分類を参考に19種類の食品群に分類した。その結果、「身体に良い」食べものは、野菜類、豆類、「身体に悪い」食べものは、菓子類、穀類、複合が多く拠出され、理由を検討した結果、本研究の大学生は、食べものに含まれている栄養素名や成分名およびエネルギーに関する知識を持っていたが、その回答の多くは、栄養素名や成分名のみの単純な回答であり、認識不足であると推察された。また、漠然とした回答も多く、理由があいまいなまま食べものに対して「身体に良い・悪い」といった認識がされている傾向が伺えた。また、食べものと理由との関係において、「身体に良い」食べものでは、牛乳はカルシウム、ほうれん草やレバーは鉄分といった限定された理由が多く拠出され、「身体に悪い」食べものでは、どの理由においてもカップラーメンやポテトチップス等の加工食品、菓子類、ファーストフードが拠出された。食べものに対する健康認識の情報源において、「テレビ」63.4%、「なんとなく」63.3%という結果となり、本研究における大学生は、「テレビ」から多くの健康認識に関する情報を得ていると同時に、情報源をはっきりと認識していないことも明らかとなった。一方、「家庭科の授業」は29.2%であることから、家庭科教育から得る知識は、日常の生活場面で十分に活用されているとはいえないことが推察される。 食生活や生活の実態において、朝食の摂取状況で、朝食を食べない大学生は全体の27.9%、学年においては3、4年生、住まい方においては一人暮らしの学生の朝食欠食率が有意に高いことが認められた。 人間力に関する実態においては、「社会志向性」を問う項目で肯定的な回答が84.8%と最も多く、一方「規律性」、「能動的実践態度」を問う項目では47.7%、48.7%と少ないことが認められた。また、他の項目との関連性を検討した結果、食生活や生活の実態及び食に関する知識において、特に「規律性」との関連性が高いことが明らかとなった。 本調査結果より家庭科教育における提言として、以下の3点の必要性があげられる。1.多様な食の情報に惑わされない科学的知識や批判的思考を持ち、実際の食生活に反映させる能力を身に付けさせる必要性 2.食品の成分・栄養的特質や安全性に関する科学的知識を十分に認識させると同時に、食べものの多様な役割を認識させ、栄養や食事のバランスがとれた食生活の実践を促す必要性 3.食べものに対する適切な健康認識を高め、豊かな食生活のあり方を考えさせるためには、栄養や食の知識といったものだけではなく、児童・生徒の人間力を総合的に高めていく内容に発展させる必要性
  • 磯部 由香, 湯川 夏子, 久保 加織
    セッションID: A3-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、食生活に起因する様々な問題の増加から、日本では、国をあげて食育が推進されている。われわれは、これまでに幼少期の食生活のあり方が人間性の形成に関連していることを明らかにした。そこで、今回は、過去、特に幼少期の食生活が現在の食生活に及ぼす影響について検討を行った。配布473部、回収407部、有効数330部でした。
    【方法】三重、大阪および滋賀の幼稚園、保育園、小学校(1~3年)に通う子を持つ保護者(調理担当者)を対象に、2007年10~11月に質問紙調査を行った。473部を配布し、407部を回収(回収率86%)、有効部数は330部(70%)であった。食生活を測る指標は「食に関する指導の手引き(文部科学省 平成19年3月)」に示されている健全な食生活を実践するための指導目標の6つの観点「食事の重要性」「感謝の心」「社会性」「食文化」「心身の健康」「食品を選択する能力」を元にし、できるだけ具体的な質問項目を設けた。幼少期の食生活については「心身の健康」「食品を選択する能力」を除く4つの観点について調査し、現在の食生活については、上記6観点のほかに、「料理の調達状況」「前日の摂取食品状況」および「栄養学的知識」についても調査した。「幼少期の食生活」と「現在の食生活」の結果について相関関係、因果関係を検討した。
    【結果】幼少期の食生活に関する25の質問項目について主因子法により因子分析した結果、5因子が得られ、それぞれ「充実した食事内容」因子、「家族との安らぎある食事」因子、「食べ残し否定」因子、「特産物理解」因子、「食事のお手伝い」因子とした。また、現在の食生活についてのみ調査した「心身の健康」「食品を選択する能力」を示す10の質問項目について同様に因子分析した結果、2因子が得られ、「食品を選択する能力」因子、「心身の健康」因子とした。
    まず、相関関係を検討した。各因子の総和である『幼少期の食生活』と『現在の食生活』との間に正の有意な相関がみられた(p<.01)。さらに『幼少期の食生活』は、現在の食生活を示す7因子すべてと正の有意な相関関係にあった。特に、現在の食生活の「充実した食事内容」と高い相関にあった(p<.01)。一方、幼少期の食生活を示す5因子は『現在の食生活』と有意な相関関係にあり、特に幼少期の「特産物理解」との間で高い値を示していた(p<.01)。それぞれの因子についてみると、幼少期の「特産物理解」と現在の「特産物理解」、幼少期の「家族との安らぎある食事」と現在の「家族との安らぎある食事」、幼少期の「充実した食事内容」と現在の「充実した食事内容」などが高い値を示した(p<.01)。以上の結果から、幼少期と現在において同じ内容の因子間で、特に高い正の相関がみられたといえる。なお、一部の因子間では無相関な結果もみられたが、多くの因子で正の有意な相関がみられたことから、幼少期における食生活と現在における食生活は互いに深い関連性があることが明らかとなった。
    次に、幼少期の食生活の5つの因子が『現在の食生活』に与える影響を検討するために、幼少期の食生活に関する5因子を独立変数、現在における食生活を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、幼少期の「特産物理解」、「食事のお手伝い」から現在の食生活への標準偏回帰係数が有意に大きく(p<.01)、特にこの2つの因子の影響度が大きいことが明らかとなった。
    以上の結果より、幼少期に豊かな食生活を営むという経験は、現在の食生活を営む上で大きな意味を持つことが明らかとなった。今回、幼少期の食生活の質問項目として取り上げた4つの観点は「食事教育」に含まれる内容であり、今後、食育を推進するにあたっては栄養的な知識や技術を習得する「栄養教育」と合わせて「食事教育」の要素を組み入れていく必要性があることが示唆された。
  • 上田 梨愛, 宮瀬 美津子, 桑畑 美沙子
    セッションID: A3-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】自然環境の汚染,気候変動,貧困などの地球的な諸問題を解決するためには,教育によって持続可能な社会の実現を目指す人材の育成が必要かつ重要である.国連もその重要性を認め,2002年に「持続可能な開発のための教育(以下,ESD)」を採択している.家庭科教育においても,環境に配慮し,他者との共生と連携を大切にする生活観を育むことが目指されている.またそのような理念だけではなく,主体的に実践する生活者の育成を目指すことから,ESDとかかわるところは大である.したがってこれからの家庭科教育において,持続可能な社会の実現という観点で教育内容を提案することは非常に重要であると考えられる.そこで,持続可能な社会の実現(以下,持続可能性)という観点を導入した家庭科教育を実現するために,家庭科の教科書の食分野を分析し,教科書で持続可能性がどう扱われているか明らかにする. 【方法】分析対象とした教科書は高等学校「家庭総合」の2002年の検定本1冊(1社)と2006年の検定本9冊(6社),計10冊(7社)である.持続可能な社会の実現を目指すためには,主体的に参画することが重要である.そのためには現状を知り,参画のための方法を学ぶ必要があると考え,分析の視点を次の4つに定めた. 視点1:持続可能な暮らしを妨げる生活課題についての記述があるか.視点2:個人レベルの持続可能な暮らし方についての記述があるか.視点3:持続可能な暮らしを妨げる生活課題を社会的に解決しようとする動きや取り組みについての記述があるか.視点4:持続可能な暮らしを妨げる生活課題の社会的な解決に向けて、子ども自身の主体的な参画を促す記述があるか. まず各教科書について持続可能な社会の実現に関する記述の有無を検討し,見出された記述を前掲の視点1~4に分類した.図表や写真についても同様にした.次に,記述内容を表すキーワードを定め,教科書ごとにデータベースを作成した.最後に,それらのキーワードをいくつかの大項目に類型化してデータベースを完成させ,見出された視点を集計し分析した. 【結果と考察】高等学校「家庭総合」の教科書10冊を分析した結果,以下のことが明らかとなった. 1. 持続可能性に関して45のキーワードが見出された.持続可能性に関する記述の多くは視点1や視点2であり,視点3や視点4は少なかった. 2. 持続可能性に関する45のキーワードを,『食文化』,『生産・流通』,『調理』,『食行為』,『廃棄』の5つに分類した結果,『生産・流通』が最も多く,次に『廃棄』が多く,『食文化』や『食行為』は少なかった. 3. 教科書によって持続可能性の取り扱いに差があり,持続可能性に関してキーワードが多いものが4冊,少ないものが6冊であった.また視点1,視点2,視点3の記述は全ての教科書に見出されたが,各視点の記述数は教科書によって差があり,視点4の記述は7冊の教科書では皆無であった. 4. 例えば「旬」のように,教科書によって視点が見出される記述と見出されない記述があったり,「食品の選択」のように見出される視点が異なる記述があったので,記述を工夫することで,記述内容がより良いものに改善される可能性が示唆された. 5. 持続可能性に関する記述がいつから出現し,どのように記述されてきたのかを明らかにするために,過去の教科書にさかのぼって分析することが今後の課題である. なお,本研究は平成18-21年度文部科学省科学研究費補助基金基盤研究(C)課題番号18500579【代表者:福原美江】によって行われた研究の一部である.
  • -親子調査の分析を通して-
    田村 愛架, 池? 喜美惠
    セッションID: A3-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【研究の意義と目的】
    小学校家庭科において,消費に関わる意思決定能力を育成することは,増加する子どもの消費者被害を回避することや,消費を通して自分の生活を創造できる人を育てるという意味において重要である。意思決定能力の育成を推進するために,本研究では,子どもの消費に関わる意思決定能力の実態と,親の意思決定能力,親の子どもに対する消費者教育との関連を明らかにすることを目的とした。

    【研究の方法】
    5・6年生の子どもとその親を対象として,質問紙法により調査を行った。調査時期は,2007年9~10月,有効回答数は383ペア,有効回収率は74.2%である。調査の主な内容は,子どもと親の消費に関わる意思決定能力,親の子どもに対する消費者教育等である。

    【研究結果と考察】
    1.子どもは,消費に関わる意思決定能力のうち,情報選択(平均値3.08,以下括弧内は5点満点中の平均値)と情報の信用度のチェック(3.01)の項目で測定した情報の価値を評価する能力が低く,また,確かめてから買う(3.07)と,CMを信じてしまう(2.92,※反転項目)の項目で測定した批判的思考力が低かった。さらに,一番低かったのは,消費の社会への影響を洞察する能力(2.70)で,多くの子どもが,買うという行為による消費者の1票が,企業のあり方を決定するという経済的投票の考え方を理解していなかった。従って,家庭科においては,特にこれらの能力を育成することが課題であると考えられた。
    2.親は,消費に関わる意思決定能力のうち,消費の社会への影響を洞察する能力(3.28)が低く,多くの親が経済的投票の考え方をはっきりとは理解していなかった。従って,この能力に関しては,親からの教育は期待できないため,特に家庭科で育成することを意識して授業を構成する必要があると考えた。
    3.親は子どもに対して,物を大切にすること(4.05)や,欲しくても我慢すること(3.81),お金の使い方(3.74),衣食住の安全性(3.63),物の選び方(3.61),ごみを減らすこと(3.60)については,比較的多くの人が教えていたが,消費者問題のニュース(3.35)や家族の収入(2.71),支出(2.62)については話す人が少なかった。従って,家庭科の授業では,消費者問題のニュースに触れることや商品の具体的な金額を提示することなどが求められた。
    4.子どもに対して消費者教育を行っている親を持つ子どものほうが,消費に関わる意思決定能力のうち,自然環境や社会的なシステムの問題を発見する能力などが高い傾向にあったため,本研究の項目の,ごみを減らすことについて話すなどを家庭科で行うことにより,子どもの意思決定能力を育成することができるといえた。
    また,子どもの意思決定能力のうち,自分の持つ資源を調整・配分する能力,情報収集能力,批判的思考力,消費の社会への影響を洞察する能力は,親の子どもに対する消費者教育と関連が見られなかったので,これらの能力は親の消費者教育によって育成することが困難であると考えられたため,家庭科で育成することを意識して授業を構成する必要があるといえた。

    【今後の課題】
    今後は,あまり理解されていない経済的投票の考え方について研究することや,本研究で明らかになった知見をもとに,教材などの教授方法について研究を深めることが課題である。
  • 志村 結美
    セッションID: A3-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】
       家庭科教育では、自己実現をめざした主体的な生活者を育成することが主要な目標である。主体的な生活を創造するためには、経済的自立とそれを支える職業生活の充実が欠かせず、さらには、職業と生活の調和、すなわち「ワーク・ライフ・バランス」を含めた生活設計を主体的・具体的に考えさせることが必要である。
     しかし、現代の若者は、自己実現を目指すための生活設計を抽象的にしか捉えられず、将来的展望が希薄であると指摘されている。それらは、若者の無業者層や早期離職者の増加、経済的・精神的な自立の遅れ等として表出し、深刻な社会問題となっている。
     このような現状を踏まえ、自立や社会参加を含めた広い意味でのキャリア教育が求められている。従来、重点が置かれてきた進路決定の指導や職業教育としての専門的な知識・技能の習得をさせるだけではなく、働くことには生計の維持、自己実現の喜びと共に、社会に参画し社会を支えるという意義があることを理解し、自己と他者や社会との適切な関係を構築する力を育て、将来の精神的・経済的自立を促すための意識の涵養と豊かな人間性を育成することが求められているのである。
     家庭科教育において育成を目指す能力である人間関係形成能力、将来設計能力、意思決定能力等はキャリア発達を促す際にも重要である。経済的自立を生活の中で現実的かつ実現可能なものとして捉えさせ、ワーク・ライフ・バランスを考えた生活設計、自立と共生、シティズンシップの視点等をも含んだ実践的・体験的な家庭科教育におけるキャリア教育が必要とされているのである。
     そこで、本研究は、自己実現をめざして将来的展望を持ち、自立 して生きる人間形成を期待し、家庭科教育において求められるキャリア教育の教育内容を明らかにし、カリキュラム構想への提言を行うこととする。本報では、前報までの調査の分析・検討から求められた教育内容をもとに高等学校家庭科におけるキャリア教育の授業を実践し、評価・分析を行い、その課題を検討することを目的とする。

    【方法】
     授業対象者は東京都公立高等学校2年生5クラス計75名であり、授業実践期間は2004年11月~2005年3月である。授業分析は全体の総合的な分析とともに、5名の生徒を抽出し、その生徒の変容を分析することとした。なお、5名の生徒は、授業実践前に実施した認識と実態調査の各項目の平均値によって、上位群から1名、中位群から2名、下位群から2名を抽出した。

    【結果】
       本授業は高校生と家庭科教員の調査分析・検討から、高等学校家庭科において求められる教育内容をもとに、授業設計を構築している。題材を設定する際の順序性として、キャリア発達において重要である自分自身を見つめ直し、分析することを授業の導入とした。自己分析をすることにより自己理解を高め、家庭科教育の独自性である身近な家庭生活における視点で授業を展開した。その後、高校生の発達段階に即した市民社会の一員としての視点に発展させるよう意図した。社会の変化に対応したデータを活用することにより、身近な家庭生活から社会へとつながりを持たせ、ワーク・ライフ・バランスのとれた個人的自己実現とともに社会的自己実現を育成をめざした。結果、本授業設計・実践は総合的に効果が認められたが、5名の抽出生徒のうち、下位群に属している一人の生徒には、大きな変容が認められず、今後の課題が明らかになった。
  • 佐藤 雅子, 石井 克枝
    セッションID: B1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】
     近年,食に関する様々な問題が生じており,学習指導要領改訂でも食教育の重要性が指摘されている。「味覚教育」について注目され,先行研究1)より,味覚と食意識の向上,食行動の関係が示されている。そこで本研究では「味覚教育」を小学校の家庭科学習に位置づけることにより視点を明確にした調理技能習得の授業づくりを目的とした。
    【方法】
     千葉県公立小学校6年生の児童63名を対象に,2007年6月から11月にかけて,家庭科授業と「総合的な学習の時間(以下,『総合』と記入)」において実施した。その内容は, 家庭科の題材「朝食にあうおかずを作ろう」7時間,「楽しい食事をくふうしよう」11時間,『総合』の題材「地域の文化を知ろう」9時間(17時間のうち)の計27時間である。事前と事後で「1.『おいしさ』,調理に関する意識調査」「2.家庭における調理の実践の程度」「3.ウエビングマップによる語彙の変化」について質問紙にて調査し,それらを分析の資料とした。
    【結果】
    1.「味覚教育」を取り入れる意義
     「味わう」ことを意識させるために,糖分が同じヨーグルトに色,香りを添加した3種の味を比較する活動を初回の授業に位置づけた。児童は糖分が同じヨーグルトを「イチゴの香料と赤色をつけたものが一番甘い」と感じた。視覚と嗅覚が味に変化を及ぼすことに驚き,味わうときには五感を活用していることに気付き,おいしさを意識するようになった。
    2.「味覚体験」を活用した調理学習
     五感の活用を「ゆでる・いためる」調理学習に位置づけた。すなわち,調理の前に加熱の仕方をかえた食材を食べ比べ,五感を活用して「硬さ」に着目させることで,好みの硬さに調理するのに加熱時間という目的を持った調理学習とした。児童は,五感を活用することで,調理による食材の変化に気付き,温度や時間を意識した調理を行った。また,この学習では調理操作を一人ひとりが行うことで,個人が視点を意識し,技能習得に効果的であった。
    3.1食分の献立作成と調理
     五感の活用を「1食分の献立作成」の学習にも位置づけた。児童は「献立には栄養バランス以外にも味や色,温度等の組み合わせがある」ことに気付いて個々に献立を作成した。ここでは,地域の方や栄養士の協力を得て,地域食材の「味」を組み合わせた献立作成とした。そして,個人で作成した献立を班で紹介しあい,グループでの調理実習用に作成し直した。調理は1学期に学習した「ゆでる」「いためる」調理の応用として,一人1品を担当とし,グループで1食分の献立となるようにした。このことにより,「1.責任をもった調理を行うことによる技能の向上」「2.作り手が食べる側の評価を気にすることに気付く」「3.一緒に食べる楽しさを実感する」等,調理にかかわる技能と食意識の向上に効果的であることが明らかとなった。
    4.『総合』とのリンク
     地域食材であるどらまめ(黒大豆)を教材として取り入れ,栽培して献立作成や調理に活用した。栽培でも五感の活用を促すことで,実感を伴った多様な表現活動がみられた。また児童作成の献立が地域のイベントの弁当に採用され,地域に発信する活動を行った。児童が弁当販売を行い,生産者,調理する人,消費者等多くの人の心情にふれ,人との交流を楽しむ児童や地域と自分の関わりに存在に気付いた児童も増加した。
    5.まとめ
     「味覚教育」を取り入れ五感を意識させたことで,児童は調理による食材の変化を捉え,調理の視点を明確に持つことができた。そして視点を意識した調理を行うことが,調理技能習得に効果的であることがわかった。また,五感を活用することで,語彙を増やして表現力が豊かになり,他人の心情を共感しあえる効果もあることが明らかとなった。
    1)鈴木智子,得丸定子「中学生の味覚と食意識・食行動の関係性」日本家庭科教育学会誌第50巻第2号
  • ―オリジナルレシピ集を使った自立型実習の実践―
    林田 秩子, 筒井 佐和子, 植山 敦子
    セッションID: B1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  2003年度から「家庭総合」4単位、「家庭基礎」2単位が選択できるよう になり、現在福岡県では約8割の高校が「家庭基礎」を選択必履修している。子ども達の食の乱れや調理技術の低下、生活体験の不足などが指摘されるにもかかわらず、「家庭基礎」では食教育の基本となる調理実習の時間を充分に確保できない現状がある。  自分の健康を考えた食生活を送るためには、一汁二菜の基本献立を自分で料理する力、つまり、主体的に献立や調理の段取りを考え、進んで行動する力を持つことは重要である。そこで、調理の基礎的な力を身につけさせ、限られた授業時数の中で効果的に食生活の自立を促す指導法として、[自立型実習]の研究に取り組んだ。 【方法】 1[教師主導型実習]から[自立型実習]へ  これまで調理実習では2品の料理を2時間連続で作り、教師が段階ごとに指示をしながら、実習を引っ張っていく[教師主導型実習]によるグループ実習を行ってきた。しかし、調理実習に関する先行研究やメンバーによるこれまでの実践から、生徒の現状や実習時間が取れないなどの課題を解決するためには、[自立型実習]が効果的であり、生徒の意欲を引き出すことがわかった。そこで、一汁二菜の基本献立を習得させるための[自立型実習]の指導法とそれをサポートする副教材の開発を行った。  各学校によって調理実習の形態は一様ではないが、いずれにしても学校の実習だけでは調理技術や知識を定着させることは難しい。これからの高校の家庭科では、生徒達の将来の食生活をいかにして支援するかを考えることも必要なことである。 2 オリジナルレシピ集「ワンプレートのカフェごはん」の作成と実践  レシピ集は(1)一汁二菜の献立を(2)写真を見ながら段取りよく作ることができ、(3)手順や味付け、盛り付けがシンプルであることを目標にした。そのため一汁二菜という配膳を基本としながら、ワンプレートの盛りつけで片付けも楽にできるように考えたのが「ワンプレートのカフェごはん」である。  筒井は勤務校の2学年5クラス(1クラス40名)でオリジナルレシピ集を使い、2007年度より実習を行っている。実習では50分で、一汁二菜(魚のホイル焼き、肉じゃが、麻婆豆腐、雑煮)の調理と試食、片付けまでを行った。短時間の実習では、生徒一人ひとりのモチベーションアップが実習のでき映えや実習を時間内に終了させることに大きく影響する。そのため事前に、パワーポイントを用いて調理手順を提示したり、レシピ集の写真で実習の到達目標を確認させるなどして、実習に取り組ませた。  短時間の実習であるため、教師側が行う材料準備等の事前準備は入念に行うが、当然、生徒の実習中の活動は慌ただしくなる。しかし、設定された時間内で全てを行うことで、生徒は自信を持ち、調理に対する苦手意識を払拭し、「家でも作ってみよう」という意欲喚起につながっている。 【結果】  実習後の生徒の満足感を調査した結果、オリジナルレシピ集を使うことにより生徒の満足感が高くなる。これは、「おいしかった」という満足感と「自分で作った」という達成感によるものであることがアンケートの記述からも読み取れる。  今回、オリジナルレシピ集を使った[自立型実習]を報告したが、生徒の状況や実習形態などに合わせた様々な[自立型実習]が可能であり、多くの学校で効果的な実践が行われることを期待している。
  • - 授業 「なぜひとりでたべるの」 -
    伊深 祥子, 石川 勝江, 菅野 久実子, 野田 知子
    セッションID: B1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    子どもの食生活の現状からどう学びをつくるのか ― 授業 「なぜひとりで食べるの」― ○伊深祥子   さいたま市立与野西中学校 石川勝江    北区立十条富士見中学校 菅野久実子      北区立岩淵中学校 野田知子         東京福祉大学 はじめに 社会や家族の変化による食生活の変化が課題とされ、平成17年に食育基本法が制定された。食育の推進に向けて、さまざまな取り組みが展開されている。しかし、生活から隔たった学びは、子どもたちの生活を変化させることはできないであろう。本研究では、家庭科の授業において子どもたちの食生活の現状から授業をはじめ、そこからどのよう子どもたちの声を聞き、学びを深めることができるのかを検証した。 授業展開 足立巳幸が実施した調査を参考に、子どもたちに夕食の風景を描いてもらうことから授業をはじめた。食卓の風景の絵には、誰と何時ごろ何を食べたか、そのときどんな話をしたのか、どんな気持ちだったかを記入した。さらに、「NHK特集 知っていますか子どもたちの食卓」(1999年)を視聴し、家族がそろって食べる人が少ないこと、TVを見ながら食べる家が多いこと、遅い時間に食べる人が、同じ教室にいることをあきらかにしていった。授業のまとめとして、「なぜひとりで食事をする子どもが増えているのだろう。」理由を考え、「ひとりで食べることをどう思うか」というテーマで自分の考えを記述した。 * 食べることがこんなに大切なことだなんてはじめて知った。 * 社会を変えるのは無理。自分は、ひとりで静かに食べたい。 * ひとりで食べるのは、今の時代にはもうしょうがない。 * しょうがないと思ったらだめ、家族で話しながら食べるために努力が必要。 生徒の記述を読みながら、生徒の書いたものをさらに深めたい、教師である私が面白いと思って終わるのではなく、子どもたちとこの面白さを共有し、新たな声を聞きたい。「いろいろな感想があったね。」で授業を終わらせたくない。子どもたちのさらなる声を聞くためにはどうしたらよいのだろうか。 まず、友だちの意見を注意深く読むことが必要であるだろう。他者の意見を理解し、批判することで、自分の考えを深めることができるのではないか。そこで、友達の意見の中で共感できるものと、批判的に思えたものをそれぞれ3つ選んで、その理由を書くという作業を取り入れた。なぜ自分はその意見に共感できたのか、なぜ批判的に思ったのか、理由を考えることで思考を深めることになるのではないか。発表の中で、理由を追求し、問い返すこともおこなった。「食事以外にも家族のコミュニケーションをとる方法はあるという指摘ですが、例えばどんなことですか。」「塾をなくせばいいという意見ですが、塾のせいなのでしょうか。みんなはどう思いますか。」   つぎに、4人のグループを9グループつくり、「ひとりで食べる子どもをなくすためにはどうしたらよいのか」というテーマで討議の場を設けた。討議では、他者と考えをすり合わせ、自分の考えを深めることを目的とした。グループの発表が続く中で、一人の生徒がつぶやいた。「こんなこと話し合っても、何にも変わらないんじゃないの?こんな話し合いは意味ないよ。」 研究の結果と課題 自分の食生活の現状を見つめること、教室の中の他者の食生活の現状や問題点を知ることから授業を始めた。個人として意見をまとめた後に、他者の意見に対して批判的な思考を導入すること、グループ討議で他者との考えをすりあわせることの3つの方法で授業を展開した。その中で、「先生の意見も違うと思う。」「社会なんか変わらない、誰が変えるんだよ。」「こんなことを話し合っても意味がないよ。」という子どもの声が聞こえてきた。さらに、「社会は変わらないのか、変えるためにはどんな方法があるのか。」「こんなこと話し合ってもしょうがないのだろうか。」という新たな課題が、浮かびあがってきた。自分ができることは何か、社会に働きかけることは何か、自分の生活を変える行動を起こすにはどうしたらよいのだろうか。家庭科の授業をきっかけに学びが広がる必要がある。
  • -日常食の調理技術向上のために-
    片渕 結子, 秋永 優子
    セッションID: B1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    _I_ 目的
     現代、食の乱れが著しく、調理技術の低下についても指摘されている。家庭で生徒に調理技術を身につけさせることは難しいと考えられる。そのため、学校教育で調理実習を行い、生徒に日常食の調理技術を身につけさせることは大変意義深い。
     本研究では、生徒の日常食の調理技術向上のために、地域人材を実習補助として招く調理実習に注目した。地域人材を調理実習に招いた事例では、専門的技術を持った講師や郷土料理の講師として招かれている事例が多い。また、地域人材を講師として招いていない事例では、生徒の日常食の調理技術向上を目的とはしていない。さらに、生徒に食事作りができるように支援する調理実習の事例はあっても、継続的に実施されていない。このように地域人材を調理実習に招く事例はあるが、日常食の調理技術を生徒に身につけさせることを目的とし、継続的に行われた事例は見られない。そこで、地域人材を調理実習補助として招き、生徒の調理技術を向上させる上で有効であるか検討した。
    _II_ 実施した授業内容
     福岡県内の公立中学校1校で2007年5月~9月に授業を選択家庭科の時間に12回実施した。対象者は3年女子24名であった。12回の授業の中で調理実習を6回実施し、4回の調理実習で地域人材を実習補助として招いた。地域人材を招かずに実施した調理実習では調理技術のテストと地域人材へのお礼のための会食を実施した。地域人材は、調理実習補助として4回、郷土料理の講師として1回、会食への招待者として1回の計6回招いた。補助の際には各調理台に1名の地域人材が入るようにした。生徒は2人で1班とした。献立は和食とし、授業ごとのテーマに沿って生徒が考えた献立を調理した。
    _III_ 調理技術向上の測定方法
     調理技術の向上は次の方法で測定した。地域人材への生徒の調理技術などの事後アンケート。生徒への調理技術などの事後アンケート。5回目の調理実習で生徒1人で1回目の調理実習と同じ献立を作らせ、教師が評価を行う調理技術のテスト。
    _IV_ 結果および考察
     地域人材への事後アンケートでは、地域人材が生徒は授業を受けて調理技術が向上したと感じていた。特に、「包丁を使って野菜を料理に適した同じ大きさに切ることができる」では100%の生徒が授業を受けてできるようになったと地域人材は感じていた。生徒への事後アンケートでは、生徒自身も調理が出来るようになったと感じていた。生徒に調理ができるという自信を付けさせることで生徒のセルフエスティームを高めることにつながると考えられる。調理技術のテストでは、1回目の調理実習時よりも短時間で調理が出来るようになっていた。また、切り方や盛り付け、手際が向上した。以上のことより本授業を通じて、生徒の調理技術を向上させることができたと言える。さらに、生徒は事後アンケートや学習プリントの中に、「お礼をきちんとして終わりたい」、「作った人に対して感謝の気持ちを持つことが大事。」などの記述をしていた。生徒に地域人材や食生活に対して感謝の気持ちを育てる効果もあった。しかし、調理テストの際に味付けの評価でAをつけることができた生徒は、23名中8名であった。生徒が自分で考える前に地域人材に質問をして調理をしたり、生徒が考える前に地域人材が助言をしていたりしていたことが原因であったと考えられる。地域人材を招いたことで、生徒自身が考える機会が減り、生徒の調理技術向上を妨げていた面もあった。
     日常食の調理実習を中心とした授業に地域人材を実習補助として招いた授業を実施することは生徒の調理技術を向上させること上で有効であった。さらに、調理技術以外の学びを生徒が得ることも明らかになった。
  • 熊本県の場合
    立山 ちづ子
    セッションID: B1-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    目的
      熊本県農政部管轄の食育推進事業に参加して、「食育」活動に取り組む熊本県高等学校教育研究会家庭部会(以下「県家庭部会」と表記)の過去5年間の活動を考察し、熊本県の高校における「食育」活動の成果と課題を明らかにする。 方法
      熊本県家庭部会が発行した『高校生への食育活動』の平成15年度から19年度までの報告書5冊(_I_~_V_)を資料とする。県家庭部会の一組織である家庭科研究委員会が研修や調査活動、報告書編集を担っているが、筆者はその中核的位置にいる。報告書の「食育ボランティア」登録校における料理教室開催の実施内容を分析し高校における5年間の「食育」活動を考察する。 結果
    【1】県家庭部会の「食育」活動は、熊本県農政部と県庁各部、県教育委員会の連携体制で推進される「食育ボランティア活動」に平成15年度から参加して平成19年度まで継続して取り組まれた。この事業は平成13年度に2団体で始まった。平成15年度には、_丸1_食の安全・安心、_丸2_食生活指針、_丸3_地産地消活動についての普及・実践活動を基本目標に、県民全体への草の根的なボランティア活動として、健康福祉(県食生活改善推進連絡協議会、県栄養士会)、教育(県学校栄養士会、県家庭部会)、農業(くまもとふるさと食の名人、県内JA生活指導員等)の3関係部門、6団体で組織的に展開された。平成16年度には県保育協議会も参加し た。
    【2】県家庭部会の「食育ボランティア」は、高校の家庭科教員が自主的に登録し、その活動は各登録校で独自に企画・運営された。この活動は主に料理教室の開催であり、以下の結果が得られた。 (1)「食育ボランティア」登録校は平成15年度は13校(公私立94校中。14%)で、平成19年度は20校(21%)になり、5年間に微増した。活動を5年間継続した学校と1年間のみの学校があった。(2)専門学科での開催が多いため、実施学年は3学年が多い。(3)料理教室は外部講師が多く、講師を種別すると「ふるさと食の名人」(農漁業関係者)が最多で、次いで食生活改善推進員、行政関係者(栄養士ほか)、職人等であった。(4)料理教室の主題は「地域の伝統食・郷土食」が多く、次いで「地域の農産物利用」であった。(5)このほか講話や小中学生などとの交流、生産体験なども実施された。(6)「食育ボランティア」登録校では、以下の結果が得られた。_丸1_地域の先達者が講師をつとめたことで、高校生は地域食材の活用法と、地域の食文化を伝承し続ける人の活動の大切さを学んだ。_丸2_家庭科における食教育の視点からは、従来の内容に「地域の食文化」の導入を進めることになった。_丸3_家庭科におけるこの取組が学校における食育推進の核として位置づいた。_丸4_地域社会での学校と地域の連携活動の進展に寄与した。(7)活動の成果を高校生の感想文(項目を設定)でみると、多少の学校差はあるものの各登録校に共通して多かった点は、「料理技術の習得」「料理意欲の高揚」、「地域の人とつながる楽しさ」や「食卓をともにする楽しさ」などが記載され、さらに「地域農産物や旬」の理解、「地元農産物への愛着」の高まりなどもあり、「食生活指針」と「地産地消活動」に対する理解の深まりでは一定の成果が得られたといえる。
    【3】今後の課題は、感想文での記載が少なかった「農業についての理解」や「自給率アップの必要性」についての関心、また「安全な食べ物の選び方」や「無駄のない食べ物の利用」への理解を進めることであろう。
  • 検定取得途上の在校生の技術検定役立ち感について
    亀井 佑子, 佐藤 文子
    セッションID: B1-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    1 研究目的
    現行の学習指導要領によれば、生活に必要な知識・技術の習得は普通教科「家庭科」の目標の中でも主要な1つとなっている。 そこで、現在、家庭に関する学科、総合学科等を中心に実施されている財団法人「全国高等学校家庭科教育振興会」主催の高等学校家庭科技術検定に着目し、この検定における技術の習得と役立ち感の実態把握を試みた。そして、望ましい技術検定のあり方を追究し、高等学校家庭科カリキュラムの中での位置づけとそのあり方を技術の視点から研究した。この検定には、文部科学省後援の被服製作、食物調理、保育技術検定と3種類あるが、本研究では、被服製作、食物調理検定に限定した。卒業生については、2007年6月大会で報告したので、今回は在校生の役立ち感について発表する。
    2 研究方法
    研究仮説「主体的な生活を自信を持って創造するためには、基本的な知識とともに生活技術の習得が必要である。」を設定し検証を試みた。  調査対象は、検定取得途上の在校生3校、合計225名、調査時期は、2007年6月~9月であった。調査内容は、「進路決定、学校生活、家庭生活、地域社会での生活の役立ち感」、「被服と調理の評価項目ごとの詳細な役立ち感」を中心に量的、質的調査を行った。
    3 研究結果と考察
    1)進路決定や学校生活における役立ち感
     在校生は、現実の成績や進路決定の際の条件に反映されることに役立ち感を持っているが、「自信がついて前向きに取り組むようになる」36.0%とも答えている。被服検定についての役立ち感は、卒業生に比較して高い値であり、調理検定の役立ち感については、「調理法」「材料の扱い方」「盛りつけ・配膳の仕方」「できばえのよさ」がともに69.5%であった。
    2)家庭生活における役立ち感
     「自信がついて前向きに取り組む」44.0%、「技術が定着し現在の家事労働に役立つ」36.4%、「家庭生活の向上に役立つ」34.2%であった。在校生は、家事労働をあまりしていないため、卒業生と比較して低い結果となったと推察される。被服検定における役立ち感は、「縫い方」82.7%、「全体のできばえのよさ」81.2%であった。調理検定における役立ち感は、「包丁の使い方」、「調理法」、「調味」がともに76.0%で最も高い結果となった。  多いものとして、「自信がついて地域の仕事に前向きに取り組む」が24.9%で、全体的に低値であり、地域社会においては役立てる機会が少ないと思われる。   自由記述においても、「技術のレベルアップ」を筆頭に、「自信がついた」があった。在校生は、検定取得途上であり上級取得が進めば、役立ち感は増すと考えられる。  以上より、研究仮説「主体的な生活を自信を持って創造するためには、基本的な知識とともに生活技術の習得が必要である。」は、概ね検証されたといえる。  以上の結果をふまえて、指導者が検定を導入しやすいこと、在校生が参加しやすいことの両面から検討を加え、家庭科の必修科目の中で、被服、調理とも基礎的な内容の定着を図る技術検定4級程度の内容の取得を位置づけることを提案したい。
    4 今後の課題
     今後は、在校生についてさらなるインタビュー調査を実施して、より明確かつ具体的な知見を得ることを試みたい。また、今回不十分であった高等学校家庭科カリキュラムの中での位置づけとそのあり方を追究していきたい。
  • 初めて自分の裁縫箱を持った小学校5年生の一例
    三野 たまき, 小口 博子
    セッションID: B1-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】
    小学校の家庭科教育は,衣食住などに関する実践的・体験的な活動を通して,家庭生活への関心を高めるとともに日常生活に必要な基礎的な知識と技能を身につけ,家族の一員として生活を工夫しようとする実践的な態度を育てることを目標としている.ところが,昨今の児童・生徒達の生活体験不足から,素地能力の低下が指摘されている.このような現状の中で児童自らが学び,自ら考える力を育成させるためには,教師はいつ,何を,どんな場面で教え,児童自らに考え・工夫させるべきかを明らかにさせる必要があると考えた.そこで,これらの観点を踏まえた上で2つの授業実践を試み,比較検討したのでここに報告する.
    【方法】
    小学校家庭科の被服領域の指針から,小学校5年生で初めて自分の裁縫箱を持つ児童に対して「一枚の布で作りたい私の小物」の単元(12時間)を考えた.授業対象は,N市のS小学校5年生の男子20名・女子20名,計40名ずつの2クラス(以後A組,B組とよぶ)であった.また,本授業は5~7月にかけて実践されたが,両クラスとも4月に新たにクラス編成をなされた児童達であった.被服実習の開始にあたり,ほとんどの児童が裁縫箱を初めて購入していた.また,布や糸,布を使った作品をこれまでに作製した経験の有無を尋ねたところ,約半数以下の児童(A組:47.5%,B組:40%)には全く経験がなかった.これらの児童に対し,布端の始末がされている布(市販のハンカチ:綿100%,35~40cm×35~40cm)を一人一枚ずつわたし,彼らが生活に役立つような小物を自由に計画させ,製作させることにした.
     第1時間目に糸通しを使わずに,どうやったら針に糸が通るかを体験した児童に対し,I:A組は一枚の布を手わたして「作品の計画」を考えさせ,B組は「基礎縫い」の学習を終了させた後にこの時間を設けた.また,II:「基礎縫い」で最初に学習する「玉留めと玉結び」に着目し,教示して教えた(B組)か,教示せずに布を糸で縫わせて糸が抜けるのを経験させ,どうしたらよいかを考え工夫させた(A組)かの2点が大きく異なった.
    【結果および考察】
    実習の終了後,教師が基礎縫いを実演し,それを回答させる小テストを行った.するとA組の正答率は77.9%,B組のそれは95.0%であった.つまり,玉留め・玉結びを教示したクラスの方が,より確かな知識の定着が確認された.また,児童の作品に対するアンケート調査(性別,縫い方,テ゛サ゛イン,使い心地,満足度)から,作品に対する満足度を目的変数として重回帰分析したところ,A組は満足度=0.284性別+0.363縫い方+0.392テ゛サ゛イン(R2=0.562)となり,B組は満足度=0.458使い心地+0.330テ゛サ゛イン(R2=0.527)となった.このことから,両クラス共に作品のテ゛サ゛インに対する関心が高いことがわかったが,A組では縫い方や性別,B組では使い心地に関する評価が大きく関係することが分かった.すなわち,A組では技能の定着が不十分なために,満足度の判定基準として,縫い方の善し悪しや形が気に入るか否かの因子が抽出されたが,B組では縫い方の善し悪しの段階をすでに越え,児童の関心は「使い心地」にまで発展し,さらに一歩進んだ学習材の評価に深まったと考えられる.すなわち,経験の少ない現代の児童は考える手だてとしての基礎的な知識や技能が不足しており,基礎縫いのような基本的な技能や知識は児童に考え工夫させるよりも,むしろ考える手だてとして学習のはじめに教示すべきと思われた.また,A組で性別が抽出されたのは,家庭科クラブ(両クラスともに女子5~6名)の児童がいたことが原因と考えられる.A組では家庭科クラブの活動が影響し,B組ではそれがなかった.このように基礎知識や経験の不足が,その後の児童の学びへの深まりに影響することが明らかとなったので,授業中にそれを補うべきと考えられる.
  • 寳達 佑美, 鳴海 多恵子
    セッションID: B1-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】  中学生になると、おしゃれ願望が目覚め、生徒が日中の大半着用している制服で自分らしさを表現したいと思うようになる。中学生にとっては制服を個性的に、自分らしさを表現するために工夫することは「着こなし」の1つであるが、大人はそれを否定的に「着崩し」として捉えがちである。「着崩し」ていると考える教師側から、「着こなし」ていると考える生徒に対して、ただ着方を注意し、規範的な制服の着方へと直させようとすることでは、生徒が制服の着方を見直すことにはつながりにくい。生徒の制服に対する意識を教師が理解することが必要である。
    現在、家庭科の衣生活領域において「制服」を着方教材として扱うことが広くなされている。制服を教材として扱う上で生徒がどのような制服着装を行い、どのような意識や価値観を持っているのかを把握することは、制服を教材とした学習をより効果的に行う上で重要であると考え、本研究は中学生の制服着装における意識と実態を明らかにすることを目的とした。
    【方法】  東京都内の中学校2校の男女1から3学年(A校491名、B校173名、計664名)を対象に、観察調査と質問紙調査を行った。質問紙による調査では、「あなたの制服の着方はどれに近いと思いますか」「あなたはどのような着方をしてみたいと思いますか」といった着装の実態や願望に関する質問に対し、ズボン・スカート、リボン・ネクタイ、シャツ、セーターをそれぞれa(最も校則に沿った規範的な着方)、b(aとcの中間にあたる着方)、c(自分流の着こなしを行っている着方)の3段階で評価させるために、A校、B校の制服の着装観察結果から得た実態を絵で表し、最も自分に近いものを選ばせた。
    「制服に対する意識」についての質問では、制服の着方は何の影響を受けているのか、校則への価値観についてなど、17項目の質問を行い4段階で回答させた。
    「先生からの注意に対する生徒の意識」についての質問では、先生からの注意を受けた経験、内容、および注意を受けたこと、受けたことがないことに対する意識を調査した。
    【結果】  観察調査では、A校は学年があがるごとに、ネクタイをゆるめる、ズボンを腰の位置まで下げてはく、シャツをウエストから出す、裾の長いベストやセーターを着るといった自分流の「着こなし」がみられたが、B校は学年によらず校則に沿った制服の着方をしている生徒が多く、生徒が互いに制服の着方に対して注意をし合っていると観察された。しかし、質問紙調査の結果には双方の差がみられなかった。ズボン・スカート、リボン・ネクタイ等の着方はaを1点、bを2点、cを3点として平均値を求めたところ、学年が上がるごとに高くなり、「着こなし」の傾向がみられたが、3年生でもc(3点)に達することはなかった。
    17項目の意識調査では、三学年を通して「校則に合う着装を心がけている、校則を守らない着方はだらしがない、校則を守って着るべきである」と考え、着方は「先輩の影響を受け、親や雑誌の影響を受けることは少ない」また、「自分の好きなように着たい、異性に魅力的にみられるような制服の着方をしたいとは思わない」さらに「制服が好き」で「学校生活に適している着方ができている」と考えている事が示された。しかし、この回答は学年によって差がみられ、1年生はより学校の校則への意識が高く、先輩の影響を受けており、2年生は校則に対して最も否定的で、先輩の着方に影響を受けているとは考えていない。3年生は制服に対する好感が高く、より学校生活に適した着方ができていると自己評価している。
    先生からの注意に対しては、1年生は「注意を受けたことで制服の着方を直す事ができてよかった」と、注意を肯定的に受け止める生徒が多いが、2年生になると「もっと制服を自由に着こなしたい」と注意を否定的に受けとめる生徒が増え、3年生になると「注意を受けたことで、制服の着方を直すことができてよかった」「制服はもっと自由にきこなしたい」と注意を肯定的に受け止める生徒と、否定的に受けとめる生徒とにわかれた。
  • 福田 典子
    セッションID: B1-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】 近年,地球規模で環境に配慮した行動の必要性が示されている。特に先進国において,事業者はもちろん生活者一人一人が環境負荷の少ない行動に対して意識を高め,行動変容を進める方策について注目されている。この視点は,これまで家庭科学習において基本的な学習目標の一つとして位置付けられた合理的・能率的・科学的な視点から生活事象や生活財を捉えなおす力をつけることと密接に関わっている。衣生活の分野において,衣類という生活に不可欠な財を管理運用し,個々の生活に有効に活用していく力は,環境に配慮した実践的な行動力と関係が深いものと考える。家庭生活においても,大量消費が美徳であった時代は反省され,いずれの資源にも限りがあることを生活者一人一人が意識することの重要性が指摘されている。また,簡便さや迅速さによって失われがちな安全性や恒久性(持続可能)を今一度確認し,生活者の消費のあり方が問われている。衣生活分野では,小中高校のいずれの段階においても,手入れの領域が重要な指導内容となり,その指導の充実が求められている。手入れ領域では小中高を通して,子どもたちに衣服手入れの必要性を理解させ,衣服材料の特性に応じた手入れ法の選択力を身につけることに重点がおかれている。 ところで,教師の指導力要素には様々なものが存在し,子どもとの関係において,相互に作用しつつ子どもの学びを導くものとなり,具現化される。子どもにより豊かな学びを実感させるためには教師として,指導内容についての広く深い理解が必須であるが,子どもの指導内容に対する意識や認識の実態を詳細に把握することも,効果的な指導のあり方を検討する上で不可欠である。  そこで,本研究では,手入れ指導の充実・改善を目的として,中学生のドライクリーニング(D.C)に関する認識の実態を明らかにし,基礎的資料を得ることを目的とした。これまでに,家庭での洗濯(お手伝い)・子どもの着用や購入実態等についての報告は多くみられるが,手入れ学習指導の立場よりD.Cに対する子どもの認識実態について報告されたものは十分とはいえない。【方法】長野市内の公立中学校,大・中・小規模校各1校計3校の第1学年男女(12歳~13歳),365名を対象とし配票調査を行なった。有効回答数は308部であり,回収率は83.8%であった。調査票の配票および回収は家庭科教員または学級担任教員によってなされた。調査は2000年秋季に,各中学校構内において,技術・家庭科またはHRの時間内に実施した。主な調査項目はドライクリーニング(D.C)に関する認識その他についてであった。分析は単純集計およびクロス集計を行い,それらの結果をもとに考察を行なった。【結果】「クリーニング店」に行ったことがあると回答した生徒は74.8%であり,「ドライクリーニング」の言葉を聞いたことがあると回答した生徒は59.8%であった。このことから,全体の6割の生徒はドライクリーニングの言葉を聞いたことがあるが,残り4割は聞いたことがないことがわかった。既製服に付与されている取り扱い絵表示のうち「ドライマーク」を見たことがあると回答した生徒は75.5%であり,「ドライマーク」の意味を知っていると回答した生徒は4.6%であり,知らないと回答した生徒は95.1%であった。さらに,衣類の中には家庭で水洗いしない方がよいものがあることを知っていると回答した生徒は71.9%であり,知らないと回答した生徒は28.1%であった。しかし,現在,水洗いしない方が良い衣類を持っているかの問いに対して,わからないと回答した生徒が全体の71.6%であったことから,その判別方法や判別根拠については理解していないことが明らかとなった。D・Cの洗い方について,誤答率は76.1%であり,生徒の7割以上がその洗浄原理を理解していないことがわかった。また,誤答内容として,最も多かったのは,水と特別の洗剤で洗うと回答したものであった。D.Cで落ちる汚れについて,誤答率は73.6%であり,生徒の7割以上がその対象汚れを理解していないことがわかった。また,誤答内容として,最も多かったのは,がんこなしみ汚れであり,しみぬきと混同されて認識されている傾向がうかがえた。D.Cに関する認識総合得点とD.C向き衣類の所有の有無認識には関係性がみられ,D.Cに関する認識総合得点の高い生徒ほど,D.C向き衣類の所有の有無認識を有している傾向が認めれた。以上の結果より,中学校技術・家庭科および高等学校家庭基礎等の科目において,すべての生徒にD.Cに対する基礎的な理解を深め,その処理に関して正しい知識を身に付けさせ,適切な処理法の判別能力を高めさせることは大変に重要であることが明らかとなり,家庭科における学習の意義を明確にすることができた。さらに,その指導方法の検討を行なうための基礎資料を得ることができた。
  • -中学校家庭科-
    今村 律子, 北又 寿美, 赤松 純子
    セッションID: B1-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    目的 近年、食品の賞味期限や生産地などの偽装、マンション等の耐震偽造などの問題が相次ぎ、生活における「安全・安心」が社会問題になってきた。また、2004年に改正された消費者基本法により、生活全般において消費者自身が「安全・安心」に目を向け、自立することが要求されるようになった。中学校家庭科においても、1989年の学習指導要領改訂により新設された「家庭生活」領域において「消費者としての自覚を持つこと」と言及され、1998年には「生活の自立と衣食住」となり、生活者、消費者の視点がさらに重要になった。日本家庭科教育学会では、消費生活の視点だけでなく生活全般において家庭科の中で「安全・安心」を取り上げるべきであるとし、学会編の著書の中で「消費生活」、「食生活」、「住生活」、「子ども・高齢者・障害者」の安全・安心な暮らしについて論述しているが、被服製作時の機器類の扱い方に関する記述だけで「衣生活」の安全・安心に関する視点は見あたらない。日本家政学会誌の32回(1999~2004年)の「暮らしと安全」シリーズでは、衣生活についても安全・安心にかかわる講座を5回取り上げ、衣服圧や厚底靴などヒトの健康に関すること、抗菌や難燃性など繊維素材や加工に関すること、そして交通安全と衣服の色について言及されている。本研究では、中学校「技術・家庭」の家庭分野における衣生活の「安全・安心」の視点に基づき、まず被服学の専門領域と生活実態の関わりから、学習指導要領及び教科書を見直し分析した。
    方法 安全・安心に関わる先行文献から、その概念整理を行い、衣生活の「安全・安心」に関わる内容を学問的・科学的に整理した。その視点から、教科書及び学習指導要領の衣生活の「安全・安心」に関連する記述を抽出した。
    結果および考察 「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書(2004、文部科学省)を中心とした先行文献における安全・安心を脅かす要因から、用具・機器類の取り扱い方以外の衣生活の「安全・安心」には、多岐にわたる内容があることがわかった。すなわち、(1) 繊維材料・加工などから発生する皮膚アレルギーなどの健康問題や着衣着火などの災害・事故、(2) 衣服や靴のデザインから起こりうる性犯罪や、衣服の巻き込み、転倒などの事故、さらに衣服による圧迫から発生する健康被害、(3) 寒暖やTPOに適した着方と関連する健康問題、地球環境問題そして社会生活上の問題、(4) 被服製作実習の裁断間違いや衣服の手入れの間違いから資源の無駄を生じさせることにより起こりうる経済問題、環境問題である。学習指導要領における衣生活の安全・安心に関わる直接的表現は、仕事を安全に進める(1951年)、生活に必要な基礎的技術についての学習経験を通して、協同と責任と安全を重んじる態度を養う(1958年)、裁断用具や縫製用具の使い方、手入れおよび安全な取り扱い(1969年)などに見られるように、被服製作や実習を「安全」に進めるための用具・機器類の使い方と手入れおよび安全な取り扱いに終始している。1998年改訂の学習指導要領「A生活の自立と衣食住」では、食生活と住生活では安全に関わる表現が認められたが、衣生活の安全に関する表現はなかった。現在の中学校家庭教科書における安全・安心に関する記載は、学習指導要領と同様に、用具・機器類の使い方にほぼ偏っていたが、T社教科書では、幼児服を安全から言及し、洗剤や柔軟仕上げ剤などによる湿疹、金具やひもによる引っかかり、サイズの合わない衣服は動きを妨げるという記述があった。衣生活の「安全・安心」に関する内容は多岐にわたっており、意識的に取り扱う必要がある。独自単元として扱うのではなく、現行の単元に「安全・安心」の視点を含め、それぞれの小単元において、反復して学習させることが重要である。続報で、具体的な授業実践例をもとに示す。
  • 実践事例その2
    島袋 麻美, 富士栄 登美子
    セッションID: B1-11
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】高等学校学習指導要領では、「衣食住にかかわる生活文化の背景について理解させるとともに、生活文化に関心をもたせ、それを伝承し創造しようとする意欲をもたせる。」と示されている(文部省 2000)。 土地の風土や生活そして人間の暮らしの中から文化は生まれる。文化は美への惜しみない追求である。沖縄は独自の染織文化を創り上げ、染織の美学を実現してきた(富士栄 2006)。 沖縄県には数多くの染織工芸品がある。その中で、紅型は1984年に国の伝統的工芸品として経済産業大臣の指定を受け、県工芸産業の一翼を担う重要な位置を占めている。紅型を地域教材として取り上げる授業展開が考えられる。 1997~2007年の地域教材として紅型を生かした授業実践について『日本家庭科教育学会誌』、『家庭科研究』で調べた結果、実践例は見られなかった。また、『家庭科の授業-実習ガイドブック-』(家庭科教育研究者連盟 2006)において、“紅型風”型染めでコースターを作成する授業実践の紹介があった。そこでは、紅型で用いる顔料とは異なるステンシル用絵の具を使っている。 生活の中で使って生かすのが工芸である。今、美術品になりつつある紅型を生活の中に取り入れることで身近に感じ、生活を楽しいものにしたい。  本研究では、家庭科教育の中で地域教材を生かした授業実践を試み、紅型を地域教材として活用する。家庭科教育において、紅型を地域教材として取り上げることで、沖縄の文化に誇りをもたせ、紅型を身近に感じ、生活文化を伝承し創造しようとする意欲をもたせ、実践へとつなげる。 以上のことを踏まえ、地域教材(紅型)を生かした授業実践の教育的効果を生徒の授業後の感想及び授業前後のSD法にあらわれるイメージの変化として捉えることを目的とする。 【方法】地域教材として琉球紅型染を取り入れた授業実践を以下のように行った。 1.知る体験(琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要第15号2008年3月 地域教材(紅型)を生かした高等学校家庭科教育の授業実践研究-実践事例その1-) 2.つくる体験 地域教材(紅型)を生かした高等学校家庭科教育の授業実践研究-実践事例その2- 場所:西原高等学校一般選択家庭科「生活教養」3年生1~8組(20名) 日時:2007年12月4日(火)18日(火)25日(火)5・6校時 計3回 指導目標:沖縄の伝統工芸に紅型がある。紅型のデザインに西原高校が所在する西原町の町花木である「さわふじ」を取り上げた。「知る体験」を通した学習を深めることで、沖縄の文化に誇りをもたせ、それを伝承し創造しようとする意欲をもたせる。さらに、家庭科教育における「つくる体験」へとつなげることを目標としている。 指導計画:(1)紅型の文化的背景(6時間) (2)さわふじをデザインした紅型-実習を通して(6時間) (3)ボトル入れ・ティッシュボックスカバー製作(2時間) (全14時間)…本研究7~14/14 【結果】SD法による分析、生徒のつぶやき、授業後の感想等から、地域教材を生かした授業実践に於て、「知る体験」と「つくる体験」の授業を行うことが、生徒間や生徒と教師間との心理的距離を親密にさせることがわかる。このことは、授業を理解する上で,教育的効果に影響するといえる。「つくる体験」の授業で、紅型とさわふじについて体験的に学習し、その美しさや知識・理解が深まったことから、より自分のこととして身近に感じられるようになった。紅型を「知る体験」と「つくる体験」から、沖縄の文化に誇りをもち、紅型を伝承し創造しようとする意欲をもてたとみられ,生活の中で紅型染を楽しむことを生徒たちへ伝えられた。今後は,教材としてオリジナルの紅型染シャツ(かりゆしウェア)を取り上げた授業実践を予定している。紅型の特徴を崩すことなく、生徒たちの若く膨らむ感性で、沖縄県の伝統工芸である紅型を暮らしの中で使える生活スタイルを考えている。 尚、本研究は、科学研究費補助金(2005~2007年度、課題番号175005009、研究代表者:富士栄登美子)を受けていることを申し添えます。
  • 木村 久美子
    セッションID: B2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    目的 男女共同参画社会基本法制定をはさんで11年間、地域の雄と言われる男子校に勤務した。平成6年度からの家庭科男女4単位必修で全国の高校家庭科は沸きかえり、調理設備やミシンの業者はうれしい悲鳴を上げていた。本校でも家庭科実習棟建設のための「建設委員会」が持たれ、新築が進んだ。前任者はそのメンバーとして配置された。それまで女性教員がいなっかった男子校に女性の家庭科教員が入る場合は、人権養護の立場から他教科の女性教員も抱き合わせて配置された。もちろん男性の家庭科教員の養成も進み、本県でも数名が採用された。 私は家庭科棟が完成してまもなく設備、備品がすべてそろった男子校に赴任した。国公立大学への進学希望者がほとんどの生徒達にどのように家庭科に興味を持たせるか、モノづくりはどのように動機付けすればよいか、等の課題を抱えながらの着任だった。そして4年後、「新課程」に移行することとなり家庭科必修は2単位のみとなってしまった。まず教員の持ち時間が減り定員削減が進んだ。少子化の波がさらに拍車をかけた。この変化にどう対応し、家庭科の定着を試みたか。研究実践結果を紹介する。 研究方法 1.必修4単位時代・・・いかに家庭科に興味関心、意欲を持たせるかが課題であった。以下の7項目に焦点を当て、研究・実践に取り組んだ。 (1)向上心を満たすことのできる実験、実習の工夫 (2)調理の基礎技術の定着 (3)調理の応用力へのアプローチ(弁当づくり等) (4)被服製作への意欲の喚起 (5)ホームプロジェクトの実施とプレゼンテーション (6)「考えさせる家庭科」の工夫 (7)評価法の研究 2.必修2単位時代・・・最小限に削減された家庭科時数の中で、学ばせるべき内容を網羅するため、総合的学習の時間とのタイアップを図る工夫をした。焦点を当てたのは以下の点である。 (1)調理の基礎技術の定着 (2)実習時間を確保し、知識・技能を定着させるための実習ノートの工夫 (3)被服製作のない被服分野の実習の工夫 (4)見える家庭科への方策(校外学習の実施・クラス担任への協力依頼) (5)小論文のテーマとして消費生活、家族生活を考えさせる工夫 (6)評価法の研究 3.結果と考察 必修4単位時代はほとんどの生徒が家庭科に興味を示し熱心に取り組んだ。特に、難関国立大に入った生徒が下級生に送る「合格体験記」の中で、家庭科を大切にしたことに触れてくれていたことは印象的である。必修2単位時代は生徒の気持ちにも余裕のなさが感じられ、時数が減ったことは最も大きい理由となろうが生徒の取り組み姿勢に積極性が感じられない部分も多かった。しかしクラス担任の協力も得ることができ、年度末授業アンケート結果からも「生徒を動かす家庭科」には成功したと考えている。
  • 台湾の初等教育内容の特徴及び日・台児童の食認識等について
    浜島 京子
    セッションID: B2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】 筆者は約15年前から台湾の初等教育における「健康教育」に関心をもち、児童の学びや生活実態について日本の「家庭科」との比較研究を行ってきた。その後、台湾では2回の教育課程の改訂が行われたが、特に現行の2003年版では従来の学習指導要領に相当する「課程標準」が九年一貫の「課程綱要」に変わり、また「教科」が「学習領域」に変わるなど大きな改革が行われた。これに伴い、それまで「健康教育」の中で主に扱われていた家庭生活に関する学習についても、その内容や扱い方に変化がみられた。  そこで、本研究では、〈調査1〉として台湾の2003年版「課程綱要」及びそれに基づいて作成された教科書を基に家庭生活関連学習の内容を調査し、台湾の特徴を見出した上で、〈調査2〉として日・台児童対象の生活認識及び実態に関する比較調査を行い、それらをふまえて家庭生活学習の在り方について検討することを目的とする。(研究の手順はパワーポイント参照)なお、本報告では、台湾の初等教育における家庭生活関連学習の特徴及び日・台児童の食認識等の結果を中心に述べる。 【方法】 〈調査1〉は以下の資料等を基に調査した。〔1〕台湾教育部2003「国民中小九年一貫課程綱要」、〔2〕家庭生活関連の内容が記載されている4つの学習領域等の教科書(36冊)― ○「生活」1~2年上下(4冊)、○「総合活動」1~6年上下(12冊)、○「健康と体育」1~6年上下(12冊)、○「芸術と人文」3~6年上下(8冊)―(出版社は南一書局、康軒文教事業、翰林出版、2005~2007年)、〔3〕山ノ口寿幸(国立台湾師範大学スポーツレジャー研究所)「台湾の教育改革と九年一貫課程綱要の誕生―スタンダードからガイドラインへ―」(日本カリキュラム学会発表資料、2007.7.7) 〈調査2〉は、〈調査1〉の結果をふまえて設定した6つの仮説を基に児童の生活認識・実態等に関する設問項目を作成し、日本は4校258人、台湾は2校262人の小学6年生を対象に2007年9月~11月に郵送法により質問紙調査を実施。 【結果】 1.〈調査1〉に関して、家庭生活関連学習の内容を「衣生活」、「食生活」、「住生活」、「家族、人間関係、生命、成長・発達、生活習慣」、「家庭・地域生活、環境」の5つに分類し、日本との比較により台湾の特徴を見出した。紙幅の都合上、食生活学習の特徴を以下に記す。台湾の食生活学習は1年前期から、「健康と体育」領域を中心に「生活」課程、「総合活動」領域など複数の領域等で取り上げられている。注目される点は、・6つの食品群が1年後期から、・6つの食品群の一日に必要な量及び5つの主な栄養素が4年後期から、・6年前期に乳児期~老年期の各栄養摂取の特徴が、・カルシューム、リン、鉄の摂取の必要性について3年前期で扱われていることなどである。 2. 〈調査1〉で見出された台湾の特徴をふまえて、日・台児童対象の調査を実施するに際し、次の6つの仮説を設定した。―台湾の児童は日本の児童に比べ、〔1〕住生活を中心とした家事の認知度及び実践率が高い。〔2〕食に対する幅広い知識・認識等を有している。〔3〕家族の一員としての意識が高い。〔4〕環境を考慮した生活への意識、認識等が高い。〔5〕健康及び自律的な生活への意識が高い。一方、日本の児童は台湾に比べ、〔6〕衣(基礎縫い、ボタン付け等)、食(料理作り等)の自立度(できる割合)は高い。 3. 上記の仮説を基に実施した調査において、仮説〔2〕に関連する結果は、(1)卵、野菜、牛乳、砂糖の一日に必要な量、主な栄養素とその働きの計12項目において、台湾の児童は2項目で有意、2項目で有意な傾向、日本の児童は6項目で有意であった。(2)朝食の大切さについての自由記述及びTさんの朝食に対する問題認識と改善案の記述状況では、いずれも日本の児童が優れていた。(3)毎日の食事で気を付けていることは日・台で有意差は認められなかった。以上の結果、仮説〔2〕は成立しなかった。
  • ~出会いが生徒の学びに与える影響を中心にして~
    吉岡 良江
    セッションID: B2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  近年生徒を取り巻く生活環境は、以前とは異なる様相を示すようになってきている。生きる上で目指すべき方向性を見出さないままに生き暮らす若者の増加や、家庭生活の社会化により、それまで一般家庭において日常的であった生老病死が実感を伴うものではなくなる等、その変化は多岐に渡る。  中学校家庭科「家族と家庭生活」の指導においては、自分の成長と家族や家庭生活とのかかわりについて考えさせることをねらいの一つに据え、そこに実践的・体験的な学習活動や問題解決的な学習を取り入れることで、指導の充実をはかるものとして設定されている。  このような状況の中で、筆者は、学びの方向性を「生徒自らが自分の生活を見つめ直し、そこからこれからの人生をより自分らしく、主体性のあるものにする」とし、自己と向き合う場・自己の考えを深める場として、自分史作りやディスカッション、様々な立場にある方々による講演会等の体験活動を取り入れている。  そこで、本研究では、生徒の感想を基にして、自己認識や他者理解を深めるための、またこれからの生き方やいのちの尊さについて考えさせるための手だてとして設定した地域の高齢者との交流会の学習効果をはかることを目的とした。 【方法】  津市の公立中学校3年生60名(男子22名女子38名)を対象とした。交流会前(2007年5月)第1回交流会後(2007年7月)第2回交流会後(2007年12月)に、自由記述式に質問紙調査を行った。  交流会はいずれも中学校で開催し、地域の漁協女性部の方との交流事業とした。第1回交流会は、地域の郷土料理を教えて頂くというもので、キスのフライとあさりご飯を調理し、共に食するというスタイルのものとした。また第2回交流会は、地域の特産物を用いたお菓子作りの交流会ということで、生徒のアイデアによる梨を用いたさまざまなお菓子を、第1回目と同じく、地域の漁協女性部の方々を招いて調理し、共に食するというスタイルのものとした。 【結果】  第1回目の交流会を経ての感想には、本実践のねらいの一つである高齢者理解に繋がるコメントが多く挙げられた。いずれも高齢者の優れた点に注目したものである。また自己理解に繋がるコメントも挙げられている。一方、これからの生き方に関するものやいのちの尊さに関するコメントは、極わずかとなった。  第2回目の交流会を経ての感想には、第1回目の交流会には明らかとされなかった新たな高齢者理解に繋がるコメントが挙げられた。  2度に渡る交流会はいずれも共に調理実習であったことから、調理そのものに関する感想が多く挙げられた。
  • 鎌野 育代, 真田 知恵子, 古重 奈央, 伊藤 葉子
    セッションID: B2-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    家庭科での学びは、学習したことを実生活の中に生かし、発達段階に応じた生活における自立を育むことである。また、その学習対象である生活もさまざまな要素が複雑に絡み合った状態で存在し、単に生活における技能や知識の習得だけで自立を捉えるのではなく、生活の中におけるさまざまな人との「関係性」という視点からの発達過程を踏まえた上で、自立を支援することが重要であると考える。子どもを含めた家族もまた成長、発達する存在であり、常に変化を続けるものである。子どもの「個」としての発達とともに、家族や身近な人との「関係性」の発達を明確に捉えていくことで、さらに子どもの生活現実に沿った家庭科の学びを展望できるものと考える。
     そこで、本研究では子どもの生活の中における「関係性」として、家族や友人、また地域との関わり方といったものを具体的に探ることで、生活における「関係性」の発達過程を明らかにし、発達段階に応じた家庭科の学びを提案することを目的とする。
    【方法】
    本研究では、まず、関係性の発達過程を調べるために、小・中・高・大学生を対象に質問紙調査を実施した。質問項目作成にあたっては、以下の3つの視点を設けた。
     1 家族との言葉を介しての関係性を捉える4項目
     2 家庭での行事への取り組みから関係性を捉える4項目
     3 子どもと親・友人・地域の人との関係性を捉える以下の項目
    ・お父さんはあなたのことをわかってくれていると思いますか
    ・お母さんは、あなたのことをわかってくれていると思いますか
    ・あなたは、自分からすすんで家族のためになることを行うことについてどう思いますか
    ・あなたは、悩みがある時に、相談できる友達はいますか
    ・あなたは、昨年から今までの一年間、近所の人に挨拶をしましたか
     調査対象は、小学4年生423名・6年生468名、中学生387名、高校生500名、大学生351名であり、回答方法については4件法とした。調査時期は、2007年2~3月である。
    次に質問紙調査という量的方法だけではなく、質問項目をもとにした面接調査も実施した。これは、子どもたちの視線から捉えた「関係性」を捉えるためである。
    【結果】
    調査結果から、各発達段階に応じた変化として明らかとなったこととして、まず「言葉を介しての関係性」については、父親に対しても母親に対しても小学生から中学生にかけて徐々に言葉を発しない傾向が強くなり、高校生から大学生にかけて徐々に回復がみられること、家庭での行事への取り組みについては、小学生が一番高く、年齢が上がるほど、取り組まなくなるという傾向が示された。また、家族との関係性として、子どもが家族から承認されているという認識をもっているかについては、小学生から高校生にかけて徐々に低くなるものの、大学生になると回復がみられること、友達との関係性については、小学生から高校生まであまり大きな変化はみられないものの、大学生で深まることが明らかとなった。しかし、地域の人への挨拶については、発達の傾向として、家族や地域の人々との関係性が希薄となる中学生の時期を終えてもなお、大きな回復はみられなかった。
    以上の調査結果に面接調査の分析を加え、子どもたちの「関係性」の発達過程に応じた家庭科の学びとして、特に家族学習のカリキュラム作成時に必要な視点について提示する。
  • 小・中・高一貫<筑波モデル>の成果と課題
    木村 範子, 勝田 映子, 小林 美礼, 工藤 悦子
    セッションID: B2-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】
    本研究は、筑波大学附属学校における小・中・高一貫のカリキュラム開発研究の一環として取り組んだ、家庭科教育の指導法の開発のための附属小・中・高の「交流授業」の<筑波モデル>の昨年発表の第1~2報に続き、平成19年度の成果と課題を中心に報告するものである。
     これまで本研究では、児童・生徒の発達は、個に閉じたものでもなく、授業を通して周りとの関係とつながりにより「開発されるもの」であり、発達は「促されるもの」である構成主義的発達観の観点から、男子女子異年齢の相互交流・相互学習による「交流授業」の研究を<筑波モデル>として、家庭科教育の基盤である実践力向上に結びつく豊かな「交流」が生み出される学習方法の開発のための基礎的研究として実験授業を行い、小中高一貫教育における指導法の開発につなげることを目的とした。それに19年度には、「実践力を高め合う」ことの意味を加味し、「実践力」を「段取り力+技能+コミュニケーション力」ととらえ、「高め合う」ことの意味を「意欲と相関する技能・関係の中で協働する」というようにとらえ、実験授業を行ってきた。
    【研究方法】
    平成19年度の実験授業
    _丸1_実験授業1-学習展開による比較-
     学習集団の編成方法と授業の進め方は、以下の3パターンに分け、比較を行った。(全て小6、中2、高2の混成班)
    ・学習集団A<小・中・高の混成班:教室移動なし、授業の進め方:自己紹介→実習>
    ・学習集団B<小・
    ・高の混成班:教室移動あり、授業の進め方:実習→反省>
    ・学習集団C<小・中・高の混成班:教室移動あり、授業の進め方:計画→実習>
    ・授業日時: 2007年10月26日 第1.2校時
    ・場所:下記2カ所に分かれて、同時展開の実験授業を開催した。
    _丸1_附属中学校 調理室 (小・中・高の混成班A)
    _丸2_附属高校  調理室 (小・中・高の混成班BCの実習)
    _丸3_附属高校  被服室 (小・中・高の混成班BCの講義)
    ・指導内容:「簡単卵どん」「とうふのすまし汁」(昨年度の実習の発展的な題材)
    _丸2_実験授業2-小・中のみの交流-
    小・中の異年齢間、作業班内の「交流」実態を観察し、実験授業1と比較する。
    ・日時:2007年11月10日 11:20~12:10
    ・場所:_丸1_附属中学校 調理室 (小6・中2の混成班)
    ・指導案・配慮事項は、前回と同じ。
    【成果と課題】
     昨年までの「小・中・高の学習形態による差」に加え、19年度には「小・中・高の学習展開による差」、「小・中のみの交流」の比較実験を行うことができたことは研究上も大きな意義があった。
     「学習展開による差」が認められ、小・中では、小・中・高ほどに学習が深まらなかった。
     年齢の近接性、カリキュラム上の効果的な位置づけ等は、今後の課題である。
  • 小・中・高の学習展開による差と小・中の実験授業を通して-
    勝田 映子, 木村 範子, 小林 美礼, 工藤 悦子
    セッションID: B2-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【研究目的】
     本発表では、第三報をうけて、実施した小・中・高の学習展開と小・中の実験授業の実際を報告するものである。
    【研究方法】
     全ての学習集団において校種と男女の組み合わせが同数となるように構成し、交流状況の観察及びアンケート法による児童・生徒の学習への満足度や今後の学習への意欲等についての調査とを行うこととした。
    _丸1_指導内容:「簡単卵どん」「とうふのすまし汁」(昨年度の実習の発展的な題材)
    _丸2_指導方法:事前に各校でプリントで説明、当日は簡単な説明にとどめ、児童生徒の自主的活動を見守る。 
    _丸3_学習支援:調理の完成見本・一人分の分量・切り方の実物提示、小学生に分かりやすくイラストなどを加えたプリント
    _丸4_班編制:男女混合班。調理技能と人と関わる力の二点を考慮し、小中高の教師間で連絡を取り合い、バランスを重視して教師側であらかじめ班編制を行った。
    【結果及び考察】
     実験授業1では、授業後に行った自己評価では、小・中・高ともかかわりに対する満足感が高かった。
     また、実験授業1との比較のために行った実験授業2では、授業で、年齢差が近いためか自己紹介時からお互いを伺う遠慮気味な様子が見られた。
     今回の試みを技能、段取り力、コミュニケーション力育成の視点から考察した。教師の観察、児童の自己評価ともに小・中学生の混合班活動よりも高校生も加えた小・中・高混合の方が、効果、満足度共に高いことが分かった。
     その中でもAグループの効果が高かったことから、学習展開の方法としては、まずはじめに自己紹介と簡単な計画で作業を始めてしまい、作業分担や役割分担を固定しない方が、良いことが分かった。これは役割の固定が無い方が、少し手応えのある課題にチャレンジできたり、互いに助け合ってがんばろうとする意欲が喚起されるためだと思われる。
     また題材については、今回開発した調理は、小学生にも無理が無く、中・高校生には会話に気を配るゆとりをもたせられたことから、有効な題材であったことが確認できた。
  • 学びを促進させるおもちゃの意義
    阿部 睦子, 倉持 清美, 望月 一枝, 妹尾 理子, 金子 京子
    セッションID: B2-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    研究の目的
     少子高齢化を迎えた社会に対応し、中学校家庭科の内容は変化してきているが、中学生の幼児とのふれ合い体験の重要性は現行の学習指導要領において、又、今年3月に告示され平成24年度施行の学習指導要領においても家庭科の指導内容の中心的なものとして押さえられている。ふれ合い体験では生徒が作成したおもちゃを持って行って遊ぶなど、おもちゃと組み合わせた実践が行われることが少なくない。しかし、おもちゃの取り入れ方とふれ合い体験の学びの関連については十分に検討されているとはいえない。
     本研究グループでは、ふれ合い体験を実施するに当たって中学生と年少者の交流を深めるかかわり方に焦点を当てて研究を進めてきた。本研究では、ふれ合い体験の中でかかわりをを促進させるおもちゃとはどのようなものか探ることを目的とした。
    <研究の方法>
    1.対象の概要
    対象中学生:大学附属中学校の中学3年生(4クラス)
    対象児:大学附属幼稚園の4歳児・5歳児(各1クラス)
    分析資料:自己評価・感想・ナラティブ等、教師による観察を分析対象とした。
    2.授業計画
     中学生が幼児とふれあう交流学習を、幼児を中学校に招く形式をとり、「たけはやスタンプラリー」と題して実践する。「たけはやスタンプラリー」では、生徒が幼児が喜びそうなおもちゃをグループであらかじめ調べて相談して作成する。当日は、幼児がグループごとに周り、スタンプを生徒が押す。交流当日は、準備・片づけ・反省を含めて2時間とるが、事前学習に2~3時間要する。幼児との交流に向けて、中学生の意識が高まっていくよう、事前学習の時間にかかわり方を工夫することを班毎に話し合わせた。
     本研究では、生徒が用意したおもちゃと幼児との交流から、どのようなおもちゃが幼児との関わりを促進し、ふれあい体験の学びを深めるかを検討する。
    <研究結果と考察>
    1.交流を促進させるおもちゃ
     生徒達は、ホ゛ーリンク゛などのケ゛ーム形式を用意することが多いが、そのような遊びは「遊んであげる」的であると保育者から指摘されたこともあった。今回の交流の中で、「仮面作り」の場が幼児と生徒の関わりを促進するアーティファクト(媒体としての人工物)となり、中学生は幼児の身体の特徴や技能を理解していることが明らかになった。活動の内容は、中学生が準備した仮面にその場で幼児が絵を描き、幼児の耳に掛けやすいようにコ゛ムの位置を調節して幼児にフ゜レセ゛ントするという流れであった。コミュニケーションを取りながら一つのものを一緒に作っていく過程で、交流の前に抱いた中学生の様々な不安が、解消されていくことが教師による観察や、ナラティフ゛の記述から読み取ることができた。また、完成したおもちゃより、交流の場で、中学生と幼児が共に作り上げていくような完成までの過程を共に見届けることができるモノに満足感が高いことが明らかになった。
    2.まとめおよび考察
     各班毎に交流の中学生のかかわり方の経験は異なり、それに伴って幼児理解の仕方は異なる。中学生ひとりひとりの反応や幼児理解について、授業記録やアンケート結果をもとに分析した結果、交流の場で幼児とかかわる工夫ができる媒体としてのおもちゃが交流の意義を深めることが分かった。
  • 読売新聞「人生案内」を利用した実践
    矢代 哲子, 小川 裕子
    セッションID: B2-8
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    目的】 高校生が高齢者に関する授業で学びたいことの1つに「高齢者への接し方」があった(2004年アンケート実施)。高校生は日頃、同世代とのコミュニケーションが多く、家族や学校関係者以外の異世代と関わる機会はあまりない。1999(平成11)年版の学習指導要領では、「家庭総合」において「高齢者の生活と福祉」は1つの章として位置づけられ、高齢者を肯定的に捉え、生涯発達の視点を取り入れること、また、具体的に「高齢者との触れ合いや交流などの実践的な学習活動を取り入れるようにする。」とある。そこで本研究では「高齢者交流実習」と題し、高齢者から人生を学ぶという視点で、事前学習・指導、交流実習を設定し、その効果を明らかにすることを目的とした。
    方法】 2008年1~2月、S高校2年生6クラス(235名)の授業を対象とした。A集団(3クラス)は高齢者に関する学習を行った後に交流実習を行った。B集団(3クラス)は先に交流実習を行い、後に高齢者に関する学習を行った。A・B集団の生徒は性別、学力等が均質になるようにクラス分けされている。また、AとBでは指導者が異なるために使用するプリントは同一ではないことから高齢者に関する学習内容において理解のバラツキがあると考えられた。A集団の学習内容(7時間)は「1.高齢者の心身の特徴、2.高齢者に接するときのポイント、3.公的介護保険やゴールドプラン21等介護の必要な人々への支援、<宿題>インターネットで読売新聞「人生案内」のサイトから、自分にとって興味があり、高齢者に相談したい内容を探し出してくる、4.高校生を相手に「人生案内」相談のシミュレーション、5.交流実習、6.DVD視聴(「100歳ハ゛ンサ゛イ」「死への心情」)、7.交流実習レポート・事後調査票記入」である。B集団の学習内容(7時間)は、「1.シニアの全体像・実習へ行く前に、2.交流実習、3.DVD視聴(Aと同様)、4.シニアの経済生活、5.シニアの心身の特徴、6.シニアの心身の生活に対応した住まいの例・「寝たきりゼロへの10ヵ条」、7.交流実習レポート・事後調査票記入」である。いずれの集団でも7.で事後調査を行った。また、交流実習の1~1.5ヶ月後に「高齢者に対する接し方」をたずねた。これらのことから、交流実習の授業内の位置づけとコミュニケーションに関する事前指導内容の差異による目的達成効果を比較分析し、考察することにした。
    結果】 「高齢者と世間話ができましたか」は「よくできた・ややできた」がA集団69.5%、B集団71.4%で大差なかったが、「あまりできなかった・まったくできなかった」がA15.2%、B5.7%となった。「実習に行ってどうでしたか」には「行ってよかった」がA65.3%、B78.1%で、また、「行かなければよかった」がB0.0%に対し、A2.5%(3名)で、具体的な理由には、「質問と全く違う答えを返されて話がはずまなくて気まずいまま終わったから」などがあった。これらのことから、A集団は課題を用意して実習に臨んだため、その達成感の度合いが実習を終えての感想に影響を及ぼしていると考えられた。また、「高齢者に対する接し方」については「尊敬・敬意をもって、人生の先輩と思って」と答えたのがA11.9%(14名)、B1.0%(1名)だった。これは事前指導の差異によるものと思われた。また、「高齢者と世間話をしていて困ったこと・戸惑ったこと」という問いには、「ネガティブな発言をされると対応に困った」「知らない話をされた時に質問ができなかった」というように、人生案内という話題を効果的に使えないと同時に、会話のつなぎ方や相手を受け入れる態度などコミュニケーション能力が不足している実態が明らかになった。今後、コミュニケーションスキルを学ぶ時間を授業に導入することや異世代とかかわる機会を確保する必要性を感じ、それが生徒の生きる力を育てることにつながると思われた。
  • 荒井 きよみ
    セッションID: B2-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
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    【目的】家庭科教育の目標の一つは生活者としての自立の育成と考えられる。修論においては従来の枠組みに頼らず、質的な研究によって若者の生活認識形成のプロセスについて現実の文脈に沿った分析を行った。その結果、若者は〈生活の可視化〉から始め、〈新しい枠組みを重ねていく〉自分に気づき、〈未来がみえたとき前進する〉という、生活認識のプロセスが析出され、3段階からなることがわかった。また、〈他者との境界線を差し替えていく〉ことや〈社会的役割においての評価〉を受けることが、〈新しい枠組みを重ねていく〉という認識の第2段階を深めていた。そして、この生活認識形成プロセスの進行の度合いは、生活者の自立に関する認知的な側面の程度の指標となると考えられる。 さらに、この生活認識プロセスを牽引していくものを「生活創発性」と定義した。すなわち、「生活創発性」は生活者の自立に関する実践力も含まれると考えられ、家庭科教育で育むべき資質として提案した。 一方、少子高齢化、失業問題など地域社会をめぐる環境は急速に悪化している。そこで、生活と社会をつなぐ行動という観点から生活認識形成プロセスと生活創発性の関係を明らかにすることで、若者の自立を促進する教育を提案することができると考えている。生活の多様化から生じる問題解決に向けて、家庭科を基地とした教育カリキュラムを開発し、学校現場でその効果を検討・検証する。 以上のことから、本研究の目的は、若者が生活認識を形成していくプロセスにおいて、どのような要因が生活創発性を高め影響を及ぼすのかを明らかにすることである。 【方法】都立高校1校と国立大学1校において計153名に64項目の質問紙調査を行った。なお17~25歳の学生を対象者に選んだ理由は、家庭科を履修した後であり、生活者として自立の入り口に立つ時期であると考えたためである。主な調査項目は基本属性、生活認識、生活創発性についてである。 対象:高校3年生84名(男子32名・女子52名)     大学生69名(男子27名・女子42名) 実施時期:2008年1月 【結果】質問項目の信頼性を検討した結果、生活認識を「生活スタイルの更新」「他者への信頼」「就業への意欲」、生活創発性を「生活スキルの活用」「社会的活動への参加」「環境への配慮」から捉えた。 また、〈社会的役割としての評価〉を、資格取得などの「スキルアップ」・高収入などの「ステイタス重視」・人の役に立つ仕事がしたいという「献身性」から捉えた。また、〈他者との境界線を差し替えていく〉を、隣近所のつきあいなどの「ネットワーク」・会話や団らんなどの「家族とのふれあい」から捉えた。 その結果、〈社会的役割としての評価〉は生活認識と、〈他者との境界線を差し替えていく〉は生活創発性と関連していることがわかった。 生活者の自立を捉えるうえで、自分自身の生活のなかに社会問題を取り込んでいるかどうかということは不可欠な点である。したがって、生活認識形成プロセスと生活創発性を社会参加の観点から検討する必要があり、「社会的活動への参加」と〈社会的役割としての評価〉はそのための中心的な要因と考えられる。そこで、「社会的活動への参加」と〈社会的役割としての評価〉の関連を焦点化してみると、直接の関連は認められなかったものの、「生活スタイルの更新」「生活スキルの活用」「環境への配慮」を通して間接的に相互に影響している関係がみられた。              今後は教育的要因として取り上げられるべき因子を抽出し、導き出された仮説を調査および授業実践で検証していきたい。
  • 高校生の福祉意識調査を通して
    加藤 聖子
    セッションID: B2-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、高齢社会の進展に加え、ノーマライゼーション思想の普及により、福祉を支える地域づくりへの関心が非常に高まってきており、地域福祉を推進するための施策および住民参加による地域づくりが重要な課題になっている。このような地域社会を形成していく上で「共生」の思想を学ぶ福祉教育の必要性が強調されるようになってきた。とりわけ次世代を担う青少年への期待は大きく、精神的な成長発達の著しい時期に、学校教育の中で福祉に関する教育を実践することが求められ重要な役割を担っている。そこで本研究では、社会的に自立する前段の高校生を対象に、高齢者・障害者に対する意識や、援助志向、共生感を把握することを目的として、福祉意識に関する実状を把握するためのアンケート調査を実施し、分析を試みた。さらに、学校教育場面での福祉に関する教育の一翼を担う家庭科教育に着目し、高等学校家庭科教育における福祉教育実践の今後の方向性を検討するべく、高等学校学習指導要領の内容の検討および教科書の記述内容の分析と検討を試みた。 【方法】北海道内の6市町より、調査への協力が得られた高等学校、計7校(計1781名)の生徒を対象にアンケート調査を実施した。調査票は選択肢法で、回答者属性と福祉への関わりや認知症へのイメージに関する質問12問を作成し、平成18年8月~平成19年3月に実施した。 さらに、高等学校学習指導要領の内容の検討および高等学校家庭科教科書の記述内容の分析と検討を試みる為、平成19年度版「家庭総合」7種類(5社)、「家庭基礎」7種類(4社)計14種類の家庭科教科書で扱われている「福祉」にかかわるキーワードの使用頻度順を調査した。 【結果】高校生の福祉意識調査結果から、高齢者、障害者との接触機会が多いことや、実際に高齢者、障害者への援助が必要な場面に遭遇した場合に援助行為に積極的な考えを持つ生徒が多かった。また、ボランティア活動の参加に対して積極的な考えをもち、認知症の方へは在宅志向が強く、家族や周囲の理解が大切であると考える生徒が多い結果となったが、他方それぞれの選択肢への回答に男女差、学校差が認められ、また、積極的に援助したい気持ちはあっても実際に援助行為にうつすとなるとためらいを感じてしまう回答や、認知症の方のへの理解を示す一方で専門的なケアを受けられる福祉施設を望むという回答も決して少なくない。また、本研究において家庭科教科書における福祉に関するキーワードの使用頻度を調査したところ、その学習対象が高齢者福祉、児童・家族福祉に偏っている傾向がある。 【考察】高校生の福祉意識調査結果から、福祉意識のばらつきを解消するためにも、幅広く福祉の知識を身に付けさせることや、様々な状況に応じることを可能にする技術的なサポートの必要性があり、福祉教育の実践には学校教育が重要な役割をもつと考える。しかし、高齢者、障害者のことを知る機会として約3割の生徒しか「学校の授業や先生から」に回答しておらず、学校からの提示が少ない現状がうかがえる。援助に積極的な考えをもつ生徒が、実際の場面で行為につなげるためにも、福祉教育の実践は重要であり、現行の学習指導要領に福祉に関わる学習が盛り込まれている家庭科教育において、単に表面的な知識を得るためのものでなく、高齢者・障害者への深い理解と援助行為につなげさせていく福祉教育を積極的に展開していくことが求められる。
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