【研究の目的】本研究では、昨年度の本大会でポスター発表した
2016年度授業実践研究の成果から、住生活に関わる知識の獲得につ
いてはほぼ達成することができたものの、不十分に終わった「思考
の深まり」を得るために、以下の諸点を改善して改めて取り組んだ
2017年度授業実践の成果について明らかにする。授業の改善点は、
①「問い」の改善、②エキスパート資料の量を削減することと質の
改善、③ジグソー活動における課題の提示とクロストーク時間の確
保、そして④評価方法、ルーブリックの改善である。
【研究の方法】(1) 2017年度授業デザイン 2017年度題材「将来
の住生活について考える」授業プログラムは、以下の指導計画であ
る。第1時は導入・エキスパート活動(資料の読み込み)、第2時は
エキスパート活動(資料の読み込み)、第3,4時ではジグソー活動
(課題:5つの視点で4種の住居を比較)、第5時ではクロストーク
を行うというものである。また、授業プログラムの事前と事後に実
施した「問い」は、「あなたは将来どのような住居に住みたいと思
いますか。(1)将来住みたい住居の特徴を箇条書きでできるだけ多
く挙げなさい。(2) (1)で書いた特徴の中で最も大切にしたいことを
一つ選びなさい。また、その特徴を大切にしたい理由を、将来の自
分のライフスタイル(職業生活、家族像や余暇の過ごし方などをま
とめた生活像)と関連させて具体的に書きなさい」として、20分間
で自由記述による解答を求めた。授業の対象者は静岡県立K高等学
校の1年生3クラス「家庭基礎」受講者計40名であり、授業の実践
時期は2017年11月である。
(2) 授業実践の評価方法 「視点の広がり」については、「問い」
(1)の解答に基づいて、2016年度と同様に行う。「思考の深まり」
については、「問い」(2)の問題文を修正したことに伴い、ルーブ
リックの修正を行った。住生活で最も大切にしたい要素を選んだ理
由について、将来の自分のライフスタイルと関連させて、現実的な
思考を持ち具体的に論述している場合はA評価、現在の自分の住要
求と関連させて論述している場合はB評価、単純な理想に過ぎず、
現実性を持たない住居に関する論述である場合はC評価、記述が無
い場合をD評価とした。
【結果】 まず、生徒の住生活に関する「視点の広がり」(基礎的
な知識の獲得)について述べる。生徒の記述率が有意に上昇した住
生活の視点項目(高等学校の学習内容計22項目中)は、2016年度
では14項目、2017年度では13項目あった。2017年度はクロスト
ークの時間を確保するため、エキスパート資料を量的に2016年度
の半分に削減したが、以上の結果に大きな差異は表れなかった。こ
のことは、本授業実践が、限られた授業時間の中で住生活に関わる
基礎的知識の獲得に効果があることを示すものと考える。次に、
「思考の深まり」については、2017年度、将来の住生活で大切に
したい要素や理由について具体的に記述できる生徒が増え、半数が
A評価に達したことは成果である。この理由としては、ジグソー活
動やクロストークの時間が増えたことと、ジグソー活動中に課題と
した4種の住居・住生活を、新学習指導要領で取り上げられた「各
教科等の特質に応じた見方・考え方」を参考に、5つの視点を設け
て比較・考察させたことが考えられる。一方で、2017年度の「問
い」(2)における課題も明らかとなった。「問い」(2)の内容から、
A評価には「将来の自分のライフスタイルと関連させて」としたが、
本授業の対象である高校1年生という発達段階では、将来の職業や
家族像を、住生活と結び付けて具体的に想定することはまだ難し
く、「将来」ではなく「現在」の自分の住要求と結び付けて記述し
た生徒が少なくなかったと考えられる。すなわち、住生活に関して
具体的に思考できたとしても今回のルーブリックでは十分に評価で
きなかったのではないかと考えられる。本研究は文部科学省科学研
究費助成事業(基盤研究(C)課題番号:17K04767)による。
抄録全体を表示