『家政誌』における食文化研究の特徴と課題を探るために, 「人間が自然や社会に対処しながら蓄積し, 蓄積している食に関する行動様式の総体」にかかわる研究が行われたと思われる論文を取り出し, 論文数, 研究の内容, 対象, および手法を検討した.比較のために, 食生活にかかわる研究がなされている他の学会誌として, 『風俗』および『生活学』に掲載された食文化関連論文についても検討した.食文化関連論文として取り出された, 『家政誌』115編 (報文81編, 資料32編, ノート2編), 『生活学』41編, 『風俗』 76編から家政誌のノート2編を省いた230編を分析対象論文とした.その結果, 次のことが明らかとなった.
(1) 『家政誌』は, 『風俗』や『生活学』に比べ, 食文化にかかわる論文の割合が低かった.また, 資料として掲載されている論文の割合が高かった.
(2) 『家政誌』の食文化関連論文は, 『風俗』や『生活学』と同様に, 貯蔵・調理加工・献立作成など, 調製の段階にかかわる食行動が研究されている論文の割合が高いという特徴が明らかとなった.
(3) 『家政誌』の食文化関連論文は, 時代として現代, 地域として国内の都市, 階層として中層に関する食文化が研究されている論文の割合が高いという特徴が明らかとなった.また, 研究対象とされた時代や地域や階層が選定される際, 視角が不明確な傾向にあった.
(4) 『家政誌』は, 他の2誌に比べ, アンケート調査が行われたり, 統計的に処理された論文の割合が高いという特徴が明らかとなった.この傾向は, 特に報文に見出された.このことから, 『家政誌』, 特に報文では, 食文化が質的手法によってでなく, 量的手法によって明らかにされている論文が多い傾向にあることが示唆された.
上記の結果から, 『家政誌』における今後の食文化研究の課題として, 以下の点が示唆されたと言えよう. (1) 時代として前近代や近代, 地域として国外や国内の漁村, および階層として下層など, 食文化の研究対象が拡大されるとともに, 明確な視角で選定されること.
(2) アンケート調査と統計的処理を組み合わせた量的手法だけでなく, 古文書や遺物資料を用いた研究, および聞き取り調査, 観察調査などが用いられた事例的研究による質的手法も取り入れられることによって事例的な研究も導入されること.
(3) それによって, 食文化にかかわる研究が他分野と比肩できるように活性化されること.
本研究は平成7年度日本家政学会第47回大会 (奈良女子大学) で報告した内容をさらに発展させて, 平成8年度日本家政学会食文化研究部会第9回研究大会 (日本女子大学), および平成9年度日本家政学会第49回大会 (共立女子大学) で報告した.
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