日本家政学会誌
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57 巻, 11 号
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報文
  • 福島 正子, 松本 孝
    2006 年 57 巻 11 号 p. 729-735
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/12
    ジャーナル フリー
    著者らはこれまでAl排泄の可能性についてDF画分との結合性の点から検討してきた. その結果, アロエやオクラ, モロヘイヤ, ワカメなどの粘性のある食品から抽出したDF画分に強い金属結合能があることを認めた. そこで, 今回はDFとAl結合能に及ぼすpHとFeおよび金属濃度の影響について検討した. 食品から分画したIDF, SDFでは, ヒジキIDF画分以外の両画分ともにAlよりFeの方が結合しやすかった. さらにゲルろ過法においてもAlとFeが共存した場合, Feの方がアルギン酸と結合しやすいことが確認された. pHを3.5から2.0に下げるとAlおよびFeとも結合量は減少したが, その差はAlの方が大きかった. 共存するAlとFeの濃度を順次増加させても, pH2.7±0.3ではアルギン酸へのAl結合量はわずかに増加しただけだった.
  • 曽我部 夏子, 丸山 里枝子, 五関-曽根 正江
    2006 年 57 巻 11 号 p. 737-742
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/12
    ジャーナル フリー
    アルカリホスファターゼ (ALP) は, アルカリ性 (pH8-10) に至適pHを持つ亜鉛含有酵素で, リン酸エステルを無機リン酸とアルコールに加水分解する反応を触媒する. 小腸アルカリホスファターゼ (ALP) は, 小腸刷子縁膜に高濃度に存在し, 小腸内の無機リン酸の取り込みに深く関与していると考えられているが, 未だ不明な点が多い. 近年の食生活において, リンや食塩の過剰摂取が問題となってきている. そこで, 本研究では, 高リン食摂取, または高食塩食摂取が小腸ALP活性に及ぼす影響について検討を行った. 6週齢SD系雌ラット (33匹) を, AIN-93Mを与えるコントロール群, 飼料重量の1.0%および1.5%のリンを含む飼料を与える高リン食群 (P1.0%およびP1.5%), さらに1.0%の塩化ナトリウムを含む高食塩食群の4群に分けた. 実験食投与開始から56日後に十二指腸, 空腸, 回腸に分けて採取し, それぞれの部位でALP比活性を比較した. 高リン食群 (P1.0%およびP1.5%) では, 小腸ALP比活性において, コントロール群と比べ有意な差は認められなかった. 一方, 興味深いことに, 高食塩食群ではコントロール群に比べ, 十二指腸および空腸で, それぞれ有意な低値を示した (p <0.05, p <0.01). 今回の結果から, 高食塩食摂取が小腸ALPの活性を低下させる作用があることが示唆された. 今後, さらに小腸ALP活性調節メカニズムについて検討を重ねることによって, 小腸ALPの生理的機能の解明に役立つ証拠が得られるであろう.
  • ―若年女子について―
    岡部 和代, 黒川 隆夫
    2006 年 57 巻 11 号 p. 743-751
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/12
    ジャーナル フリー
    ブラジャーは女子の肌に密着するファンデーションとして, 消費者の感性的ニーズをデザインに反映させる必要がある. 消費者の好みや感性をデザインに活かすには, 評価した人の特性を評価し, 類型化することが必要となる.
    そこで, 本研究では日本人若年女子193名にタイプの異なるブラジャー5種を対象として官能評価を行わせ, ブラジャーの特性を明らかにした上で, 判定者の類型化を行った. ブラジャーに共通した因子として, ズレ感, 揺れ感, 圧迫感, 整容感, 背面・脇押え感を抽出した. 特にズレ感や揺れ感の因子は寄与率が高く, また総合的な着心地との相関が高かった. タイプ別に導出した判定者の因子スコアを原データとしてクラスタ分析を行い, 判定者を4クラスタにパターン分類した. クラスタごとに官能評価結果を分析することにより, 評価の深層を浮かび上がらせることが可能になるということが示唆された. さらに評価結果は, 判定者がブラジャーについてどのような感覚が強いか, ひいてはブラジャーに何を要求しているかを表すものと考えることができる. 判定者が多ければ, 判定者のクラスタはそのまま消費者のクラスタと考えられ, 官能評価分析の結果をニーズに基づく商品設計に応用できるはずである. しかし, 官能評価の判定者の反応が多様であることから, 官能評価の方法や商品設計について考えさせられる点が多かった. 本研究では4クラスタに分類したが, ほとんどの項目に中間の評価をするクラスタ1の判定者が多く含まれる官能評価では明瞭な結果が得られない可能性が高くなるし, クラスタ2とクラスタ3のように反応差が大きい判定者が混じっている場合も平均化されて曖昧な結果に終わることが考えられる. 消費者の感性を商品に反映し, 質の向上を図るためにはクラスタごとに官能評価結果を分析して深層を浮かび上がらせることの重要性が示唆された.
  • 佐々野 好継
    2006 年 57 巻 11 号 p. 753-759
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/12
    ジャーナル フリー
    The object of this study is to clarify the construction and historical trends of living space, concentrating on Naisho or inner space found in Goto City, Nagasaki Prefecture, Japan. The investigation was made principally by field study of 158 homes in 7 districts in Goto City. Analysis was made of the floor plan and age of respective homes as well as the names given to rooms by the occupants. How the rooms were used daily as well as on special occasions was also analyzed. Attension was paid particularly to the peculiarities of Goto City with regard to the meaning of the names given to Naisho by the occupants, the relationship to other rooms, and what was found in Naisho. Results: 1. Of the four-room types, which included Naisho, the oldest home was built in 1925 and the latest in 1968, both located in Sakiyama. 2. Naisho in the homes built between 1924 and 1968 were arranged inside Adanoma or outer room. Naisho was arranged as a corridor or passage to Nando or storage space. In other words, Naisho was separated from Zasiki or normal room. It is to be noted that there were the dining and living rooms adjacent to Naisho. 3. It became clear that the homes with Naisho are a feature peculiar to Goto City as they are found in all the seven districts under study. 4. Nai of Naisho means inner or inside as against Ada or Adanoma meaning outer or outside. Naisho also means entrance to the inner space. 5. Prior to 1924 Naisho in Goto City was used as cooking space, and after 1924 it began to be used as dining and living space as well.
  • ―奈良県榛原町における―
    今井 範子, 伊東 理恵
    2006 年 57 巻 11 号 p. 761-774
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/10/12
    ジャーナル フリー
    本研究は, 開発から約30年を経過した遠隔郊外に立地する戸建住宅地を対象に, 居住地の問題を明らかにし, 居住者の家族構成や親子の居住形態の動向を明らかにすることを試みた. その結果を以下にまとめる.
    1) 住宅地内の空地が約10%, 空家が約5%存在すること, 中古住宅の割合が2割に満たないことから住民の入替わりが頻繁に起こらず, 住宅地としての停滞状況が把握できる. このまま流入が停滞すれば, 住宅地として衰退することが予測される. また住宅の改修率が低く, 住宅更新があまり行われておらず, 住宅の老朽化がみられる.
    2) 駅から遠く, 坂の多いこの住宅地において, 居住者は買い物をはじめとして日常生活を車に依存した生活を送っている. 駅から遠いこの住宅地で高齢期を過ごすことへの不安は極めて大きく, 移動に関する交通手段の整備などをはじめとして, 高齢者のための居住地整備が求められる.
    3) 60歳未満において, 女性有職率が極めて低く, 食関連施設の不足, 医療や福祉関連施設が不十分であり, 仕事場が遠い, 駅から遠いことから, 女性が就労することを前提とした住宅地でない.
    4) 昭和40年代前半の都市計画により, 住宅地内の幹線道路沿いは店舗等を想定し中高層の建物が建築可能な用途地域として計画された. しかし分譲開始から現在に至るまでこの道路沿いに店舗は少なく, また3層以上の建物は建築されていない. 存在した店舗の撤退が近年相次いでいる.
    5) 「65歳以上の人がいる」 高齢世帯の割合は4割弱, 60~64歳の人がいる世帯を含めると6割が高齢世帯であり, 今後さらに急激な高齢化が予測される. 遠隔地という立地上, 子は独立して流出し, 戻らない傾向が強く, 今後, 高齢夫婦のみ, 高齢単身世帯が増加すると予測される.
    6) 別居既婚子との居住形態は, 遠居が特徴である. このため, 交流頻度は低く, たとえば買い物などの日常的な家事や通院の付き添いといった, 子からの直接的な支援は実質受けられない状況にある.
    7) 自然環境の良さが永住意識と結びついているが永住したいと考えるのは半数に過ぎず, 永住意識は低い. 住み替え希望があっても地価の下落により転売を困難にしている.
    8) ここ10年ほどの間の転入者のうち, 親世帯や子世帯と近接居住のためにこの住宅地に転入してきた世帯は若干存在し, 近年微増の傾向がみられる. また, 現在他地域に居住している親世帯や子世帯が今後転入し同居, 近居予定のある世帯も一定の割合で存在した. しかしながら全体としてその割合は極めて低く, 血縁による居住の継承の可能性は低い. このため, 今後居住地として持続していくためには, 血縁によらない, 新規流入が必要である.
    9) 徒歩圏内の食関連の店舗, 今後増加する高齢者のための居場所, NPO活動のための空間などの整備が求められる. それらに対し, 空地, 空家の活用等が当面重要である.
    10) 対象遠隔住宅地の問題点を集約すると, つぎのようである. (1) 新規流入が停滞している現況を踏まえると, 団塊世代以上の年齢層の居住者が多く居住し, 高齢化が, 一挙に進展することが予測されること, (2) 親子の居住形態の動向は, 同居は少なく, 別居が主であり今後, 高齢夫婦のみ, 高齢単身世帯が増加すること, (3) 買い物等を車に頼っている現状から, 加齢に伴い車の運転から遠ざかり, 日常生活における移動困難が発生すること, (4) 子との居住形態は遠居であり, 子からの身近な支援は受けにくいこと, (5) 血縁による居住の継承の可能性は低いこと等である.
    11) このような遠隔郊外住宅地の方途として, いくつか考えられる. まずは, どの方途であっても, 高齢期に対応した居住空間と居住環境の整備は急務であることはいうまでもない. 今回の調査から即断することは出来ないが, このまま新規流入が少なく停滞状況となるならば, 必然的に衰退化を招かざるをえないであろう. しかし, 周辺に保有する自然環境と歴史環境を生かし, また空家や空地の発生に伴う居住地の再編を進め, ゆとりのある郊外住宅地として多世代が生活を共有できる持続可能な住宅地にむけた再構築をめざす方途も一つの方向である. 本調査からは, いずれかの方途を具体的に指し示す即断は避け, 遠隔郊外住宅地がかかえる課題を精査し, 今後の方策とそのあり方を考えていきたい.
シリーズ
くらしの最前線 3
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