本研究では, 余暇時間に行う活動によって高齢者が獲得している能力や価値などを把握することを目的として, アンケート調査を行い, 当該効果の性別, 年齢別, 職業の有無別の違いについて把握した.
高齢期の余暇活動の効果を表す23の項目別に平均点を比較した結果, 最大の効果は, 仲間との交流であることがわかった. また, 性別では女性の方が余暇活動を通して疲れが取れる, 元気になったと思う人が多いことが明らかとなった. 年齢別 (前期高齢者・後期高齢者) では, 後期高齢者の方が他者との交流や活動へのやりがいを実感していた. 一方, 職業の有無別による有意差は認められなかった.
さらに, 余暇活動の効果23項目についての因子分析の結果, 「身体健康因子」, 「交流因子」, 「学び因子」, 「やりがい因子」の4つが抽出され, これらの因子が高齢期における余暇活動の効果に関与していることがわかった. 性別, 年齢別, 職業の有無別に4つの因子得点を比較すると, 「身体健康因子」は女性の方が, 「交流因子」は後期高齢者の方が, 有意に高かった. 「やりがい因子」については, 後期高齢者の方が, また無職の方が有意に高く, 相対的に年齢の高い無職の高齢者ほど, 余暇にやりがいを見出す傾向が強いことが推察された. この結果は, 高齢期においてどのように余暇を過ごせばよいのか, また自己の能力を開発することのできる余暇活動をどのように生活に取り入れればよいのかを再考する際の一助となり得ることを示している.
本研究では, 中国浙江省における高学歴の子どものいない既婚若年女性の児童虐待の認識を検討することを目的とし, その背後にある子ども観を考察する. 研究方法として, 高学歴の子どもがいない既婚若年女性10名を対象に半構造化インタビューを実施した.
その結果, 調査対象者は子どもに故意に危害を与える暴力・放置を児童虐待と認識した. しかし≪しつけ目的≫と≪脅し目的≫の理由付けで軽度の身体的暴力を正当化した. 彼女たちでは子どもを尊重する意識が現れたが, 中国の伝統的な子ども観も反映されていると考えられる. その他に, 児童虐待に対して低意識の者は, 子どもをネガティブな側面のみから捉えていた一方, 高意識の者は, より多側面から子どもを捉えていた. 以上から, 子どものいない既婚若年女性には, 子どもを独立した個体を尊重し, 子どもの多側面を理解するような子ども観の啓蒙が求められている.
我々は中年男性を対象としたJapan Diet教育介入パイロットスタディの結果, 心血管疾患発症マーカーとされるマロンジアルデヒド修飾低密度リポ蛋白 (MDA-LDL) が低下したことを報告した. 本論文では, 同研究における野菜および果実の摂取量と血清カロテノイド濃度ならびにMDA-LDLとの関連を検討した. 緑黄色野菜を含む野菜総摂取量は介入後 (6週間後) に300 g程度にしかならなかったが増加し, αカロテンとβカロテン摂取量も増加した (p=0.009, p<0.001). また, 血清αカロテンとβカロテン濃度も上昇したが (p=0.001, p<0.001), いずれもMDA-LDLとは関連を示さなかった. 一方で, 介入後に緑黄色野菜摂取量はわずか100 gであったもののMDA- LDLと負相関傾向を示した (p=0.051). 果実摂取量とβクリプトキサンチン摂取量はいずれも介入前後で変化しなかった. 以上の結果から, Japan Dietにおける食品の組み合わせとともに緑黄色野菜の摂取がMDA-LDLを低下させる可能性が示唆された. LDLの酸化にJapan Dietが与える影響ならびに適切な野菜・果実摂取量についてさらなる研究が必要である.
現在, 日本各地にて採取された山野草ノビル (Allium macrostemon Bunge) を遺伝資源として活用し, 農作物化を目指した研究が進められている. 本研究の目的は, 日本で古来より食されてきたノビルについて, 食材としての有用性を評価するためにその嗜好性と機能性を明らかにすることである. 嗜好特性について, 味覚センサーの解析において, ノビル鱗茎はタマネギと比べ渋味, 旨味, 塩味といった先味の味強度が高い値がみられた (p<0.01). また, 3分間茹でたノビル鱗茎は, 未加熱と比べ, 渋味先味・後味, 苦味先味・後味が低く, 旨味先味・後味が高い値がみられた (p<0.01). 大学生を対象とした官能評価において, 茹で時間が長い鱗茎の総合的な好ましさの順位が高く, この順位が高いほど辛味及び匂いの強さが低く評価された (p<0.05). よって, 茹でたノビル鱗茎を単体で食する場合は, 風味が抑えられた状態が好まれることが明らかとなった. 官能評価にてノビル全草の豚肉団子への添加により, 豚肉の臭みが抑制される可能性が示唆され, 香味野菜のように他の食材と組み合わせる活用も期待できた. 一方, 機能性としては, 抗酸化効果の指標としてラジカル消去活性を測定したところ, 80%エタノール抽出物において, 3分間茹でた鱗茎は未加熱のものと比べラジカル消去活性の低下が確認された (p<0.05).
加熱香気成分として知られるピラジン類は納豆中に存在し, その生成には納豆菌が関わっていると思われるが, 生成機構は不明である. ここでは納豆の主要なピラジン類である2,5-ジメチルピラジン (2,5-DMP) 及びトリメチルピラジン (T3MP) について, その生成に納豆菌が関与することを示した. まず加熱殺菌した市販納豆に新たに納豆を接種後37℃で培養したところ, 2,5-DMP及びT3MP量は有意に増加した. 次に蒸煮大豆に4種の納豆菌をそれぞれ接種し培養したところ, 市販納豆と同程度のピラジン類が生成された. ピラジン類は24~48時間培養後に検出され始め, 72時間後もその量は増加する傾向にあり, 菌の増殖が定常期に達した後に生成された. 次に最少培地にペプトン, イーストエキスのようなエキス類, ビタミン類, 糖及びジカルボニル類 (メイラード反応の中間生成物), アミノ酸など様々な成分を添加し, 納豆菌によるピラジン類生成に影響を与える要因について検討した. その結果, スレオニン添加でのみ両ピラジンが顕著に検出され, それ以外ではほとんど検出されなかった. また, きな粉や分離大豆タンパク質を添加した培地でもピラジン類が生成した. 納豆における2,5-DMP及びT3MPの生成は二次代謝産物的であり, 枯草菌と同様にスレオニンを代謝することでピラジン類が生成されることが示唆された.