シューの製造において、好ましい形状と膨化度をもつ結果を得るためには、従来法では第1加熱直後のペーストの温度が77℃内外でなければならないことを先に報告した。従来法では水と油脂とを高温度まで加熱することがむずかしく、ペーストの温度測定も困難であるため、経験者はかんによってよいシューを作ることができるが、初心者の場合は必ずしも予期した成績を得ることができない。シューがむずかしいとされたのはこの点であろうと思われる。ルーの方法によれば従来法の欠点を解決して確実に加熱の程度が決定されるから熟練によるかんを必要としないで容易に良好なシューを製造することが出来る。すなわち、ルーの温度を作業中に容易に測定することができ、170℃とルーの温度との差を水の温度として用いれば77℃内外のシューペーストが容易に得られる。ルーの温度が70℃から150℃のように広範囲であることもこの方法が失敗を少なくする理由であろう。
成績のよいシューというのはシュー特有の形をもって大きく膨化することと表面の焼き色がよく内部に空洞が大きくあいているものである。それにはペーストがよいエマルジョンの状態であることが肝要なこととされる。本法では小麦粉と油脂が最初によく混合され、これに水が加えられるので、この三成分の混合が水と油脂の混合を前段とする従来法に比べて、より容易に行なわれ、シューの膨化に必須とされる油脂の均等分散が最も望ましい形で行なわれるもののようである。シュー製造の失敗の原因の一つに第2加熱中にペースト中の油脂が分離して流出する場合がある。それを防ぐにはペーストが安定性をもったエマルジョンをなしていることである。シューペーストに使用する卵中の成分も乳化剤としてペーストの安定性にあずかっているものと考えられるが、卵を全く使用しないシューもあるので、此の点は今後研究する必要がある。シュー形成について小麦粉中のグルテンの伸張性もあずかっているものと考えたが、ルーの高温部ではグルテンはすでに活性を失っているのであろうから、シューにおけるグルテンの役割は他にもあるものと考えられる。なお、シューに関する疑問点は少なくないので実験を続けている。
ルーは保存、輸送ともに極めて容易であり、ルーからペーストの工程にも何らの熟練が要求されないので、調理の半加工品としてのシュー・ルーの製品が考えられる。
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