キュウリは一般に緑色のものであるが、同種でも黄色となり、熟度が緑色キュウリよりも早いものが見られる。これは微量成分の欠乏による黄色化とも異なり、一種の病気に原因するものではないかと考えられる。しかも緑色キュウリ及び黄色キュウリを夫々80%アセトンにて抽出し、抽出液を比色計にて吸光度の測定より葉緑素含有量を比較するに、緑色キュウリには0.22%、黄色キュウリには0.05%の葉緑素が定量され、黄色キュウリには緑色キュウリの約1/4の葉緑素含量となっている事が判った。かくの如き予備実験より、これら黄色キュウリには黄色色素が多量含有されているものと推測されたので、黄色色素の分離を試みた処、紫外線下で黄緑色の螢光を発する黄色色素の一種としてイソクエルシトリンの存在を推定した。
しかるに植物中におけるイソクエルシトリンの存在についてはKulm, Grundmanはトーモロコシの褐色品種の苞より、中村、福地はスギナの間荊より、Perkinはシロバナワタの花色素より、服部ら、川口らはシロツメクサ花より、奥、林屋らは桑葉より配糖体として分離抽出し、加水分解にてクエルセチンとブドー糖を生ずる事を確認した報告が見られるけれども、野菜中での存在は知られていない現状である。
次に第一報における配糖体構成糖検索のための試料溶液についてアミノ酸の検索を試みた処、アルギニンのスポットが濃厚に得られたので、配糖体の一部を構成しているのではないかとの推察のもとに分離抽出を試みた。その結果キュウリよりアルギニン配糖体を単離したのでこれも併せて報告する次第である。キュウリ中に有機塩基としてアルギニンの存在する事は吉村らが報告しており、特にアルギニン配糖体の植物中に存在する事については浜村らが桑葉中より分離しているに過ぎない状態であり、かくの如く野菜中にアミノ酸がグルコシドとして存在する事は、植物生理学上興味深いものと思われる。
(1) 黄色キュウリ中の黄色色素の一種としてクエルセチンとグルコースの結合体、即ちイソクエルシトリンを分離抽出し、その存在を推定した。
(2) 又キュウリよりアルギニンとグルコースが1:1の分子比で結合したアルギニングルコシドを単離した。
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