食パターン類似率の分析でみたように, 大都市と他の都市階級の食パターンとは, 昭和30年代後半以降, とくに40年代後半以降, 急速に類似性を高めた.これは, 全社会規模での急速な都市化の拡大に促されて, 大都市を典型とする都市的食生活様式が伝播したせいだと考えられる.
では, この食パターンにみる都市化は, 一体, どのような消費者行動を適じてもたらされたのだろうか.昭和39~54年の時系列データを用いて行った動学モデルによる分析結果をみると, 乳卵, パン, 果物, 肉類などいわゆる近代化食品や, 飲料, 菓子, 外食などし好性・レジャー性の強い食品に対する習慣形成が, 五つの都市階級にほぼ共通してみられ, これらの食品を中心に食生活の都市化が進んできたものと考えられる.なかでも, パン, 乳卵, 果物, 菓子は必需財としての性質が強く, わが国の食生活に欠かせぬものになったとみられる.
では, 都市階級間での食生活は, 今後ますます互いに似たものになってゆくのであろうか。ここで, 再び, 動学モデルの分析結果をみると, 都市階級間では, 消費者行動にいくつかの差異のあることが観察される.それらの差異は, ほぼ次の3点に集約される. (1) 種々の食品に対する食習慣の定着の度合いという点からすると, 習慣効果のみとめられる項目の数は大都市で最も少なく, 係数の推定値も比較的小さくて, 規模の大きい都市におけるほど, 消費者は流動的な対応をしていると考えられる. (2) 米類や調味料の消費にみられる伝統的食生活の名残りは, 下位の都市階級になるほど明瞭であり, 上位の都市階級ほど離脱が著しい. (3) 素材的性質の強い食品に対する習慣効果ならびに所得の効果には, 都市階級間で差異があり, 下位の都市階級になるほど弾力性の値が大きくなる.これは, 家事労働社会化に関する都市階級問差異の, ひとつのあらわれと見ることができるのではなかろうか.
しかも, ダミー変数の係数でみるかぎり, この (1) ~ (3) にあげた食料消費行動の都市階級間差異は, 第一次オイル・ショック以降, 大きくなる可能性があると考えられるのである.
最後に, これらの差異の原因として, 居住者の消費生活に直接影響を及ぼすような都市機能の差異が, 消費者の合理的選択の積み重ねを通じて, 食料消費行動のうえに反映されてきたためと考えられる.
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