家計消費支出の時系列変動額を所得・物価・その他要因に分析することを試みた.
分析方法は,
(1) 基準年次の消費支出と可処分所得から可処分所得限界性向を算出し, これを実質可処分所得変動額に乗じた数値を “所得要因” とする,
(2) 比較年次の実質支出額と理論的支出額 (基準年次の支出額に上記所得要因を加算した数値) との差を “その他要因” とする,
(3) 名目支出額と実質支出額の差を “物価要因” とする,
(4) 所得・その他・物価要因の名目支出変動額に対する影響度を算出する.
具体例として, 核家族 4 人・有業人員 1 人の標準世帯を対象に, 昭和 46 年次から 57 年次に至る連続年次の6大費目・55 年以降は 11 大費目の支出変動額の分析を試みた.
その結果は,
(1) 物価変動の影響度が全年次・全費目において大きかった,
(2) 所得変動の影響度は, 可処分所得の増加が著しかった47・54・57 年次において, 多費目にわたって大きかったが, 例外として, 可処分所得限界性向のきわめて低かった 54 年次の住居費において小, 可処分所得限界性向が負であった 57 年次の住居費において負の影響であった,
(3) その他要因の影響度は, 本文の消費支出総額のその他要因の解釈で述べたように, 所得要因の影響度が大きい工合は小か負であり, 所得要因の影響度が小か負の場合は逆に大きくなる傾向があったが, 消費習慣の慣性効果が大きい, あるいは自由裁量の余地が乏しい旧分類の雑費・新分類では, 交通通信・教育・教養娯楽・その他の消費支出において, 所得要因とその他要因の相反関係は顕著であった.
ストックがなく代替性に富む食料費については, 所得要因とその他要因の間には相反関係は見いだされなかった. すなわち所得減の年次はその他要因も負であった.
その他要因は, 名目支出額を物価指数で実質化し, これから「理論的消費支出額」を減じて算出した.これによって所得要因は除かれたが, 物価指数で実質化するだけでは厳密には物価の影響を除去しえたことにはならない.除去するためには, 所得・物価を説明変数とする重回帰方程式をもとめねばならない.しかし重回帰方程式では, それぞれの説明変数の目的変数 (この場合は消費支出額) に対する影響度を区別することが, 説明変数間に重共線関係が存在する場合には困難になるので6) 当初から避けた.また消費支出費目によって習慣形成効果の程度も異なるので, その他要因は所得・価格弾力性, 習慣形成効果の強弱の錯綜した結果として算出されることになる.消費支出変動要因の分析は考えれば考えるほど困難な課題である.
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